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雑誌名 応用言語学研究論集

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(1)

日本語と中国語における名詞述語文の使用率に関す る数値的統計の試み: 日中対訳コーパスの応用例と して

著者 王 亜新

雑誌名 応用言語学研究論集

巻 5

ページ 1‑15

発行年 2012‑03‑01

URL http://hdl.handle.net/2297/32053

(2)

日本語と中国語における名詞述語文の使用率に 関する数値的統計の試み

――日中対訳コーパスの応用例として――

王亜新(東洋大学)

0.はじめに

日本語を学習・研究している中国人学習者や研究者の間で、中国語と 比べて日本語では「名詞述語文」が多用されている、という感触を持っ ている人がかなりいる。しかし、明確な数値的統計による裏づけがある わけではないので、実際の使用状況はどうであるかは不明である。

本稿は、日本語と中国語から一定量のデータを集めて調査し、名詞述 語文及び他の構文形態の使用率に関する数値的統計を試みたいと思う。

構文形態の使用に関する統計は複雑で、まず調査の対象素材を文単位 で厳密に区切ること自体も難しい作業である。また、相当規模のデータ を調査しないと全体像を明らかにすることができないので、限られた資 料に関する統計では説得力が欠けていることを十分承知している。しか し人的及び物的な制限により、大規模な調査作業できない以上、限られ たデータに関する統計でも日本語と中国語のそれぞれの構文形態の使用 状況に対してある程度の答えを出すことは可能だと考えている。

今回の統計は、主に小説を調査の対象素材としている。本来なら新聞 や会話などの素材も取り入れるべきであるが、種々の制限で今回はでき なかった。 従って本調査による統計結果はあくまで参考レベルのもので、

より大規模で正確な調査は今後の機会に委ねたいと思う。

1.調査統計の対象素材

日本語の素材は、夏目漱石「こころ」など比較的古い小説が含まれて いるが、中国語の素材は、主に 1980 年代以降の小説を対象としている。

扱っている素材は、主として金沢大学・大瀧幸子教授監修の『日中対訳

(3)

コーパス(GPS.ver.1) 』と、北京日本研究センター監修『日中対訳コー パス(ver.1) 』に依拠しているが、それ以外の作品も一部採用している。

今後、対訳に関する分析も可能にするために、できるだけ双方の言語に 翻訳された作品を中心に集めたが、まだ中国語訳されていない日本語作 品(向田邦子など)も一部含まれている。

◆日本語素材(約 676,000 字規模)

1.夏目漱石『こころ(抜粋) (約 14,200 字) 』

2.芥川龍之介「蜘蛛の糸(約 2,900 字) 」 、 「アグニの神(約 6,800 字) 」 、

「トロッコ(約 4,000 字) 」

3.川端康成『雪国』 (約 73,000 字)

4.立原正秋『冬の旅』 (約 314,000 字)

5.安部公房『砂の女』 (約 133,000 字)

6.松本清張『点と線』 (約 107,000 字)

7.向田邦子『父のわび状』 (内 4 篇、 「あだ桜(約 5,500 字) 」 、 「お辞

儀(約 5,200 字) 」 、 「細長い海(約 5,500 字) 」 、 「子供たち夜(約

4,850 字) 」 )

◆中国語素材: (約 322,000 字規模)

1.冯骥才《高女人和他的矮丈夫》 (約 7,000 字)

2.张贤亮《男人的一半是女人》 (約 140,000 字)

3.池 莉《烦恼人生》 (約 30,000 字)

4.莫 言《红高粱》 (約 50,000 字)

5.余 华《十八岁出门远行》 (約 5,000 字)

6.铁 凝《第十二夜》 (約 7,000 字)

7.苏 童《妻妾成群》 (約 37,000 字)

8.从维熙《牵骆驼的人》 (約 12,000 字)

9.刘震云《一地鸡毛》 (約 32,000 字)

2.調査項目と統計方法

構文類型の選別は複雑な作業で、基準の決め方によって結果が異なっ

てくるだけでなく、同じ基準を全面的に貫くことも難しい場合がある。

(4)

そのため、いくつか判別不能な文例も現れたが、全体の 0.5%未満なの で今回は統計対象から除外している。

本統計では、主に次の調査基準に基づいている。

1)文を単位とするのではなく、述語句(述語フレーズ)を単位とし ている。例えば、

(1)当時の女にしては長身で、やせぎすの顔立ちの美しい人であっ たが、姿形にも性格にもおよそ丸みというものがなく、固くとが っていた。 (向田邦子『父のわび状』 )

述語句に該当する下線部を 1 フレーズとし、例( 1)では合計「4 フレ ーズ」として計算されている。その内訳は、

名詞述語: (長身で、美しい人であった)=2、

形容詞述語:(ものがなく)=1

動詞述語: (固くとがっていた)=1

2)述語形態は、基本的に動詞述語、形容詞述語、名詞述語の3つを 基本とし、 「 1 語文(独立語文) 」を統計の対象としていない。ただし、

いわゆる「名詞止め」などの形態を名詞述語として計算されている。例 えば、

(2)駒子は声を張りあげて、「あんた、繭倉あ?」

内訳は、

動詞述語: (声を張り上げて)=1

名詞述語: (繭倉あ)=1

ただし、波線の「あんた」は算入されていない。

3)並列文や条件複文など複文の場合は、条件節中の述語句も統計の 対象としている。 ただし、 連体修飾語中の述語句は計算の対象としない。

例えば、

(3)食べ終ると、私は祖母が仏壇の小抽斗から出してくれる桃の形

をした小さい扇で、灯明を消し、ギイと戸をきしませて仏壇の戸

をしめて、祖母と私の一日が終るのである。 (向田邦子『あだ桜』 )

内訳は、

(5)

動詞述語: (食べ終わる、灯明を消し、戸をきしませて、戸をしめて、

1 日が終わる)=5

ただし、波線の連体修飾語にあたる部分(仏壇の小抽斗から出してく れる)は計算されていない。

4)引用内容に当たる部分は計算の対象としている。例えば、

(4)ベソをかく私を見かねた祖母は、当時小学校一年の弟に、 「お姉 ちゃんに貸しておやり。お前はじかにズボンをはけばいいじゃな いか」と言ってきかせるのだが……

引用内容にあたる「……」の部分も地の文と同じように述語を計算し ている。例(4)内訳は、

動詞述語: (貸しておやり、ズボンをはけばいい、言ってきかせる)

=3

5)文末に形式名詞を伴う助動詞が用いられる場合は、述語句の中心 となる品詞に基づいて判断し、文末形式の「形式名詞+だ」などは述語 とは別に計算する。例えば、

(5)蜜柑畑へ来る頃には、あたりは暗くなる一方だった。 (芥川龍之 介『トロッコ』 )

動詞述語: (暗くなる)=1

下線部の「暗くなる」を動詞述語と計算し、波線の「一方だった」を 文末形式として計算する。

2.1.調査項目

今回の調査は、名詞述語文および他の構文形態の使用割合を明らかに することが目的なので、なるべく調査の項目数を減らし、調査量を増や すように勉めた。

調査の項目は、主として以下のものに限定されている。

「ズボンをはけばいい」の場合、「ズボンをはく」を動詞述語とし、「…けばいい」

と「…じゃないか」を文末形式として計算されている。

(6)

日本語の場合

述語形態 文末形式

動詞 述語

形容詞 述語

名詞

述語 のだ 形式名 詞+だ

から/せい

/ため+だ べきだ ようだ その他

形式名詞には「わけ、こと、もの、はず、つもり、ところ、ばかり、

だけ、まま、ほど」などが含まれる。

中国語の場合

述語形態 関連形式

動詞 形容詞 是構文 名詞謂語 四字成語 非述語”是” 是…的 その他

中国語では、日本語の名詞述語文に相当する形態として「是構文」の ほかに「名詞謂語句」という構文形態がある。 「名詞謂語句」は、その意 味関係や構文機能などの点では基本的に「是構文」に類似しているが、

構文の分類上、 「名詞謂語句」を「是構文」内に統合すべきかは、まだ議 論が残っているところである。そのため、今回は「名詞謂語句」と「是 構文」を別々の項目として設けることにしている。

また、中国語の特徴を反映して「四字成語(四字熟語) 」が述語句とな る文例も多く見られる。品詞上の扱いが難しいので、独立した項目とし て設けることにしている。例えば、

(6)这种‘自以为善’,也是不合于你们东方观念的‘圣人之道’的。

“是的,是的……”我恍然大悟

1

,豁然开朗

2

。“大师,请您继续说下 去。”(张贤亮《男人的一半是女人》 )

(7)进院时我们稍显那么点蹑手蹑脚3

,我们都觉出我们内心的不太光 明,……(铁凝《第 12 夜》 )

例(6)の波線 1 と波線 2 のように、それぞれ動詞と形容詞の働きを

していると判別が可能な場合もあるが、例( 7)の波線 3 のように、動

詞か形容詞か判別が難しい場合も多くあるので、 「四字成語」が述語句と

(7)

なったものをすべて別項目として設けることにしている。

2.2.調査作業者

今回は日本語資料から 7 作家の作品、中国語資料から 9 作家の作品を 選び、日本人大学生 2 人と中国人大学院生 2 人を調査作業者にして分析 作業を依頼した。作業者には事前に調査の基準や項目を説明した上で、

原文を文単位に刻み、それを作業者が直接読んで判断する、という手順 で作業を進めていた。作業者が判断できない場合は文例を保留し、本稿 の筆者によって最終判断を出すことにしている。

3.述語形態に関する統計 3.1.日本語の場合

表 1.日本語構文形態に関する統計

作品名 動詞述語 形容詞述語 名詞述語 小 計

芥川龍之介作品 3 篇 488 51 29 568

85.9% 9.0% 5.1% 100%

向田邦子『父のわび状』(内4篇) 708 162 71 941

75.2% 17.2% 7.6% 100%

夏目漱石『こころ(抜粋)』 547 59 46 652

83.9% 9.0% 7.1% 100%

川端康成『雪国』 2941 328 345 3,614

81.4% 9.1% 9.5% 100%

松本清張『点と線』 3,224 531 335 4,090

78.8% 13.0% 8.2% 100%

立原正秋『冬の旅』 9,363 1,627 1,118 12,108

77.3% 13.4% 9.2% 100%

安部公房『砂の女』 3,993 1,074 236 5,303

75.3% 20.3% 4.5% 100%

合 計 21,264 3,832 2,180 27,276

78.0% 14.0% 8.0% 100%

(8)

表 1 からは、構文形態の使用において著者によって差がかなりあるこ とがわかる。ただし、各著者から採取した作品のデータ量(文字数)が 異なっているので、それによって客観的な数値が示されたとは断定でき ない。

表 1 から分かるように、日本語では構文形態として使用率が最も高い のが動詞述語であり、次は形容詞述語、名詞述語の順である。

動詞述語の使用割合を見ると、最小の 75.2%(向田邦子)と最大の

83.9%(芥川龍之介)との間に 8.7%の開きが見られる。また、形容詞

述語の使用割合は、最小の 9%(芥川龍之介、夏目漱石)から最大 20.3%

(安部公房)までの間に、11.3%もの開きが見られる。それに対して、

名詞述語の使用率が最も低く、最小の 4.5%(安部公房)から最大の 9.2%

(立原正秋)までの間に 4.7%の差が示されている。

7作家合計の平均は、動詞述語は 78.0%、形容詞述語は 14.0%、名詞

述語は 8.0%、という数値となっている。つまり、日本語では名詞述語

の使用率は3つの構文形態のうち最も低いということが示されている。

3.2.中国語の場合

中国語の場合、データ量が最も長いのが張賢亮《男人的一半是女人》

で、それ以外はみな比較的短い作品である。

表 2 中国語構文形態に関する統計

作品名 動詞 形容詞 是構文 名詞謂語 四字成语 小計

刘震云《一地鸡毛》

3,646 391 198 61 45 4,341

84.0% 9.0% 4.6% 1.4% 1.0% 100%

从维熙《牵骆驼的人》

648 54 63 34 23 822

78.8% 6.6% 7.7% 4.1% 2.8% 100%

冯骥才《高女人和她 的矮丈夫》

488 70 17 14 11 600

81.3% 11.7% 2.8% 2.3% 1.8% 100%

(9)

苏童《妻妾成群》

4,046 339 263 113 68 4,829

83.8% 7.0% 5.4% 2.3% 1.4% 100%

张贤亮《男人的一半 是女人》

10,178 1,124 1,090 375 221 12,988

78.4% 8.7% 8.4% 2.9% 1.7% 100%

铁凝《第12夜》

451 37 36 16 14 554

81.4% 6.7% 6.5% 2.9% 2.5% 100%

池莉《烦恼人生》

2,463 183 144 113 60 2,963

83.1% 6.2% 4.9% 3.8% 2.0% 100%

余华《十八岁出门远 行》

470 32 27 5 6 540

87.0% 5.9% 5.0% 0.9% 1.1% 100%

莫言《红高粱》

4,705 360 135 41 258 5,499

85.6% 6.5% 2.5% 0.7% 4.7% 100%

合 計 27,095 2,590 1,973 772 706 33,136

(%) 81.8% 7.8% 6.0% 2.3% 2.1% 100%

表 2 からは、中国語も日本語の場合と同じく、動詞述語の使用率が最 も高いことがわかる。最小の 78.4%(张贤亮)から最大の 87.0%

(余华)

の間に 8.6%の差があるが、作品のデータ量の違いなどの要素を考えれ

ば比較的小さな差と考えられる。不完全な統計であるが、表2からは中 国語では動詞述語の使用率が日本語よりかなり高いということが示され ている。

中国語における形容詞述語の使用でも作者間にかなりの開きがあり、

最小 5.9%(余华 )と最大 11.7%

(冯骥才)

の間に 5.8%の差が見られる。

形容詞述語全体の使用率が低いことを考えられば 5.8%の差は比較的大

(10)

きいものと考えられる。

一方、 「是構文」の使用率はかなり低い。最小の 2.5%(莫言)と最大

の 8.4%の間に 5.9%の開きが見られる。ただし、差が大きいのはいずれ

も文字数の少ない作品であり、それぞれの作品の題材によって生じた品 詞の偏りも推測されるので、より正確な統計を出すためにはさらにデー タ量を増やして調査する必要があるようである。

中国語では、 「是構文」と「名詞謂語句」の合計が日本語の名詞述語文 に相当するので、両者を合わせて得た 8.2%という数値は、日本語の名

詞述語の 8%にほぼ見合った割合となるので、表 1 と表 2 を見る限り、

中国語に比べて日本語で名詞述語文の使用率が高いという結論が得られ ないのである。

一方、日本語と比べて、中国語の形容詞述語が使用率が比較的低いと いう現象が見られる。日本語については、以前から「形容詞述語文の使 用率が低い」という議論があるが、中国語ではそれよりも低いという数 値が示されたことは興味深いところである。

表 3. 日本語と中国語の対照状況

動詞述 語文

(78%)

形容詞 述語文

14%)

名詞述 語文

8%)

日本語

動詞述 語文

82% 形容詞

述語文

(8%)

是構文

(6%)

名詞謂 語句

(2%)

四字成 語(2%)

中国語

4.文末など関連形式に関する統計 4.1.日本語の場合

述語句の品詞性は、構文形態を決める決定的な要素であるが、文末形

式の品詞形態も構文形態の判断に大きな影響をあたえているようである。

(11)

日本語では、述語部の品詞とは別に、文末形式で「名詞+だ」という形 をとる場合が多いので、それが名詞述語の多用という印象をあたえる一 因とも考えられる。その典型例として、まず「のだ」の使用があげられ る。

「のだ」は、現代日本語では「助動詞」と見なされているので、 「のだ」

を伴う構文をそのまま名詞述語文と計算されないが、形態だけを見れば 文は「~だ」の形をとっているので、中国語学習者に名詞述語文に準じ た構文形態という感覚をあたえる原因の一つとも考えられる。

「のだ」のほかに、 「わけ、はず、こと、もの、ところ、まま、ぐらい、

つもり、ばかり、だけ」及び「からだ、せいだ、ためだ、べきだ、よう だ」などの助動詞や准助動詞グループがあるが、それらが文末に用いら れた場合も、形態的に「名詞句+だ」となっている。例えば、

(8)いや、電車の中ではないのです。そのときの電車は二両連結で、

私は後部に乗っていました。乗客は少なかったですから、後部に いれば目についていたわけです。 きっと前部に乗っていたに違い ありません

。 (松本清張『点と線』 )

2重下線部の「のです、わけです」などはいずれも名詞系文末形式とし て用いられている。

今回の調査ではこれらの名詞系文末形式も対象としている。統計の結 果は次のとおりである。

表 4.日本語の名詞系文末形式に関する統計

作品名

述語形態 文末形式

動詞 述語

形容詞 述語

名詞

述語 小計① のだ 形式 名詞

から/せ い/ため

/べきだ

ようだ 小計②

芥川龍之介 作品3篇

488 51 29 568 56 10 3 8 77

85.9% 9.0% 5.1% 100% 9.9% 1.8% 0.5% 1.4% 13.6%

向田邦子『父 のわび状』

708 162 71 941 132 22 8 4 166

75.2% 17.2% 7.6% 100% 14.0% 2.3% 0.9% 0.4% 17.6%

「…に違いない」など非名詞系の文末形式は今回統計対象から除外されている。

(12)

夏目漱石『こ ころ(抜粋)』

547 59 46 652 138 31 6 9 184

83.9% 9.0% 7.1% 100% 21.2% 4.8% 0.9% 1.4% 28.2%

川端康成

『雪国』

2,941 328 345 3,614 324 22 5 73 420

81.4% 9.1% 9.5% 100% 9.0% 0.6% 0.0% 2.0% 11.6%

松本清張

『点と線』

3,224 531 335 4,090 384 106 6 34 526

78.8% 13.0% 8.2% 100% 9.4% 2.6% 0.0% 0.8% 12.9%

立原正秋

『冬の旅』

9,363 1,627 1,118 12,108 1,047 208 66 15 1,336 77.3% 13.4% 9.2% 100% 8.6% 1.7% 0.5% 0.1% 11.0%

安部公房

『砂の女』

3,993 1,074 236 5,303 300 121 45 37 503

75.3% 20.3% 4.5% 100% 5.7% 2.3% 0.8% 0.7% 9.5%

合 計 21,264 3,832 2,180 27,276 2,381 520 131 180 3,212

(%) 78% 14% 8% 100% 8.7% 1.9% 0.5% 0.7% 11.8%

表4の「文末形式」欄に「のだ」及び「形式名詞+だ」などの使用頻 度と使用率が示されているが。その使用率は「述語形態」に対しての割 合を示している。

表 4 でわかるように、日本語では「のだ」の使用率が高く、最小の 5.7%

(安部公房)から、最大の 21.2%(夏目漱石)までの間に大きな開きが あるものの、全体的にはかなり高い使用率を示している。また「形式名 詞+だ」の使用率も高く、さらに「からだ、ためだ、せいだ、べきだ」

及び「ようだ」などの形態を加えたら、最小でも 9.5%(安部公房) 、最

大では 28.2%(夏目漱石)というきわめて高い使用率を示している。

「のだ」を含む名詞系の文末形式を伴う率は全体で 11.8%で、名詞述 語の使用率よりも高いという数値となっている。名詞述語と名詞系文末 形式を合わせれば、構文全体の 20%に相当するという、きわめて高い率 を示している。これが日本語では「名詞述語文が多用される」という印 象が与えられる原因の一つと推測される。

4.2.中国語の場合

中国語でも「是構文」のほかに、非述語用法の“是”が用いられる場

合も多くある。特に「確認」や「強調」を表す“是”と、過去の行為に

(13)

関する焦点説明を表す“是…的(1) ” 、および話し手の断定的態度を表 す“是…的(2) ”などが頻繁に用いられている。例えば、

(9) 幸好这时有人敲门,大家便都不吱声了。 老婆赶紧去抹脸上的眼泪,

小林也压抑住自己的怒气。保姆把门打开,原来是查水表的老头来 了。 ( 刘震云《一地鸡毛》 )

(10)但这事老头子怎么会知道?是谁汇报的?小林和小林老婆都不约 而同想到了对门。 (刘震云《一地鸡毛 》 )

(11)下边放个水桶接着;滴水水表不转,桶里的水不成偷的了?这样 下去是不行的。 (刘震云《 一地鸡毛》 )

例( 9) “ 查水表的老头来了”は動詞述語であるが、その前の“原来是

…”は、日本語の「実は…である」に類似した役割を果たしている。ま た、例(10)は過去の行為に関わる時間、場所、主体、方法などを明ら かにする“是…的”用法で、日本語の「のだ」に近い機能を果たすもの とされている。また、例(11)の“是…的”は話し手の断定的な態度を 表すもので、日本語の「のだ、ものだ、ことだ」などに近い役割を果た しているとされている。

それらに関する統計結果は、以下のとおりである

表 5 中国語のムードを表す“是”及び“是…的”に関する統計

作品名

述語形態 関連形式

動詞 形容詞 是構文 名詞 謂語

四字

成語 小計① 是 是…的 小計② 刘震云

《一地鸡毛》

3,646 391 198 61 45 4,341 136 43 179

84.0% 9.0% 4.6% 1.4% 1.0% 3.1% 1.0% 4.1%

从维熙《牵骆 驼的人》

648 54 63 34 23 822 34 1 35

78.8% 6.6% 7.7% 4.1% 2.8% 4.1% 0.1% 4.3%

冯骥才《高女 人和…

488 70 17 14 11 600 31 2 33

81.3% 11.7% 2.8% 2.3% 1.8% 5.2% 0.3% 5.5%

苏童 4,046 339 263 113 68 4,829 111 48 159

例(10)の“是…的(1)”と例(11)“是…的(2)”は異なった意味機能を果たしているが、今 回は形態に基づき“是…的”を一つとして処理している。

(14)

《妻妾成群》 83.8% 7.0% 5.4% 2.3% 1.4% 2.3% 1.0% 3.3%

张贤亮《男人 的一半是…

10,178 1,124 1,090 375 221 12,988 335 201 536

78.4% 8.7% 8.4% 2.9% 1.7% 2.6% 1.5% 4.1%

铁凝

《第12夜》

451 37 36 16 14 554 41 3 44

81.4% 6.7% 6.5% 2.9% 2.5% 7.4% 0.5% 7.9%

池莉

《烦恼人生》

2,463 183 144 113 60 2,963 69 71 140

83.1% 6.2% 4.9% 3.8% 2.0% 2.3% 2.4% 4.7%

余华《十八岁 出门…

470 32 27 5 6 540 31 5 36

87.0% 5.9% 5.0% 0.9% 1.1% 5.7% 0.9% 6.7%

莫言

《红高粱》

4,705 360 135 41 258 5,499 23 14 37

85.6% 6.5% 2.5% 0.7% 4.7% 0.4% 0.3% 0.7%

合 計 27,095 2,590 1,973 772 706 33,136 811 388 1,199

81.8% 7.8% 6.0% 2.3% 2.1% 2.4% 1.2% 3.6%

表5の「関連形式」欄に非述語用法の“是”および“是…的”の使用 回数と使用率が示されている。使用率は「述語形態」の合計( 「小計①」 ) に対する割合で算出している。

表 5 からわかるように、中国語では非述語用法の“是”と“是…的”

の使用率は、日本語の名詞系文末形式より遙かに低く、全体でわずか 3.6%である。それが「是構文」と「名詞謂語句」と合わさっても全体の

12%で、日本語の 20%よりかなり少ないことがわかる。

5.まとめ

以上は日本語と中国語の作品から一定量の素材を選んで名詞述語文お よび他の構文形態について調査・統計した結果である。調査の規模が小 さく、素材の選択も小説に偏っているので、日本語または中国語の全体 像を明らかにしているとは言えないが、それでも構文形態の使用割合に 関する疑問に対してある程度の答えを出していると考えられる。

構文形態はそれぞれ典型的意味関係を反映した文法的標識の一つであ

る。言語の普遍性を考えれば、言語間において構文形態使用上の割合が

極端に異なっているとは考えられないが、それでもそれぞれの言語の特

(15)

徴を反映して何らかの違いを持っているのが自然なことである。

今回の調査統計で、日本語では動詞述語が最も多く用いられ、名詞述 語が形容詞述語に次いで最も使用率が低い構文形態であることがわかっ たが、一方、 「のだ」など名詞系の文末形式が多用されるので、形態の上 で「…だ」という形で文を終わらせるという特徴が見られる。それが中 国人学習者に、日本語の名詞述語文の使用率が高いという錯覚をあたえ た大きな原因と推測される。

一方、中国語では、是構文、名詞謂語句、形容詞述語文、動詞述語文 などの構文形態のうち、動詞述語の使用率が断然高いという現象が観察 されている。それが、中国語では名詞述語文の使用率が相対的に低いと いう印象をあたえた原因の一つとも考えられる。

また、今回の調査から、日本語ではトータル 670,000 字で 27,276 のフ レーズが使用されているのに対して、中国語では 320,000 字で 33,136 の フレーズが使用されているという現象が示されている。 その原因として、

1)日本語のセンテンスが相対的に長く、中国語のセンテンスが相対 的に短い。

2)日本語でも述語の並列構造が多用されているが、中国語では並列 構造のほか、いわゆる「連動文」などのような連述構造も多用され ているので、多くの述語句が計数されることになる。

3)日本語では連体修飾語が多用されているのに対して、中国語では 長い連体修飾語(定語)が相対的に少ない。日本語の連体修飾語に あたる内容が複数の文に分断されて表現されている場合が多い。今 回の統計では、連体修飾語に含まれるフレーズを統計対象から除外 しているので、日本語のほうが少なく計数されている。

などに関連していると思われる。

今回の統計は、構文形態の分布や使用率に関する初歩的な調査である

が、貴重なデータが蓄積できたので、今後これを生かした多角的な分析

を可能にしている。また、今回の調査をきっかけに今後より大規模の調

査を行うためにデータと経験を蓄積することができたと考えられる。

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参考文献

鈴木重幸 1972 『日本語文法・形態論』むぎ書房

鈴木康之 1989『概説・日本語文法』 (日本語文法研究会)桜楓社 寺村秀夫 1982 『日本語のシンタクスと意味・Ⅰ』くろしお出版

―――― 1984 『日本語のシンタクスと意味・Ⅱ』くろしお出版 朱 徳煕 1980 《現代漢語語法研究》商務印書館

呂 叔湘 1980 《現代漢語八百詞》商務印書館

劉月華ほか 1983《実用現代漢語語法》外語教学与研究出版社

李 臨定 1986 《現代漢語句型》商務印書館

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