―学生教育の視点から―
太田優子*,大井ミツ**,岡田玲子*
A Trial of Summer Camp Meeting for Diabetic Children and
Their Mothers in Nutrition Education Program (Part 3)From the Standpoint of Students
Yuko Ota, Mitsu Oi, Reiko Okada
1.はじめに
小児糖尿病患児にとって生涯にわたる治療は,現時 点では必要不可欠である。心身の成長期であるがゆえ に,患児自ら自己管理を行い合併症予防鋤に積極的に 関わるためには,その動機づけの揚として,サマーキャ
ソプの役割に期すところが大きい3,−fi)。『糖尿病は教育
の病気である。』ηという言葉に示されるように,栄養 教育の効果に関する検証も試みられ8},チーム医療の 必要性が高まる中でs}1°},栄養士の専門性が問われて きている11}。栄養士養成の揚に対しても,そのニーズは 高まる一方である。また,栄養教育を包含する健康教 育の分野においても,QOLiZ)を高めるためのセルフ
ケア教育の重要性が唱えられ13),保健・医療従事者の教
育における役割が明確になってぎたZ4)15,。本学食物栄養専攻学生とともにボラソティア・ス タッフとして,栄養教育に携わらせていただいている 新潟小児糖尿病キャソプ16)17〕は,今年度で15回目を迎 えた.参加学生も年々増えていく中で,スタ・フ教育 の充実を図ることが,直接・間接的により望ましい栄 養教育の展開に結びつくという思いを強くしてきた。
今年度のスタ・フの一員であった本学餌勿栄養専攻学 生に対して,今後のス〃フ教育・栄養教育のあ妨 を検討するために,アソケート調査を試みた。
II.方 法
第15回新潟小児糖尿病キャソブ(1996年7月29日
一一
@8月2日,於新潟県中頸城郡妙高村)に,患児の食 事療法の学習を援助する栄養教育スタッフとして参加
した本学学生33名〔生活科学科食物栄養専攻(以下学 科と略)1年11名・同2年11名,専攻科食物栄養専攻
(以下専攻科と略)1年5名・同2年6名〕を対象に,
1996年9月中旬にアンケート調査(自記式,面接によ る確認実施,有効回答率ユOO.0%)を試みた。調査項目 は,以下の通りである。
Lキャソブ中の患児の実態把握について:患児を担 当した学科1・2年のみ回答
工)患児とのコミュ;ケーションについて 2)食事療法に対する理解・態度・行動の変化 3) 食事指導の成果
2.学生自身の率直な感想について 1) キャソプに参加して得た充実感 2)事前準備の必要性とその負担
3)患児への食事指導に対する関心の変化 4) 栄養士という職業に対する関心の変化 5) キャソブ参加後の学習意欲の変化
6) キャソプ参加後の自分自身に対する課題認識の 変化
3.栄養士として必要と思う知識と技術について 1) キャソブに参加した体験から必要と思う知識 2) キャソプに参加した体験から必要と思う技術
*生活科学科食物栄養専攻,躰本学非常勤講師
県立新潟女子短期大学研究紀要 第34集 1997
これらについて7段階尺度で得られた成績を集計し,
解析を試みた。
また,本キャソブにおける栄養教育の概要は,以下 の通りである。
A.患児の食事記録結果の還付
食事記録(7月上旬突施,郵送法)をもとに,食生 活の突態把握と食事療法昏の動機づけを試みた。箸諸 の一人が,個人面撞により還付した。
B.食事指瀞(食事の単位数の把握を中心に)
事前準備の段階で献立の確認を行い,作成した献立 表をもとに担当患児の摂取可能な食事猛を打ち合わせ した。キャソプ中は朝・タバイキソグ形式で,各料理 侮の実物標本(単位数明記)を掲示し,スタッフと担 当患児との確認後,同席で食事を摂った。主食の秤量,
主菜・副菜の盛りつけ等をできるだけ短時間で患児が 行うために,夜の学習時間・自由時間に単位数と食事 鑓の確認を,糖尿病食事療法のための食品交換表ゆ,
フードモデル等を用いて,集団指導および個入指i導で
突施した。C.喰事療法ゲーム
食事療法を楽しみながら学習するために,個人対抗 の○×クイズおよび班(担当患児・スタヅフ合同)対 抗の運動ゲームを実施した(約90分)。
III.結果および考察
1.キャンプ中の患児の実態把握について 1) 患児とのコミュニケーショソについて
患児とのコミュ=ケーショソについて,実際に患児 を担当した学科1・2年のみに回答を依頼した。コミ・ユ
=ケーショソ状況は,1・2年全体で「かなりある」
(40.9%),「ややある」(36.4%)の順に多く,「非常 にある」(18.2%)を含めると95.5%に及んだ。患児の 食事療法へのコソプライアソズ9}を高める点から,良 好な結果であった。
2)患児の食事療法に対する理解・態度・行動の変 化
担当した学生が観察した患児の食瑛療法に対する理 解の変化は,「ややある」が学科1年(45.5%)・同2 年(54.5%)ともに最も多く,全体の半数を占めた。
次いでドどちらともいえない」(31.8%)が続いた。同 様に愚児の食事療法に対する態度の変化は,「どちらと もいえない」(45,5%)が最も多く,「ややある」
(27.3%),「かなりある」(13.6%)を合わせ40.9%で
あった。また,同様に患児の食事療法に対する行動の
変イヒは,学{併1年(54.5%)・岡2年(63.6%)とも}こ
「どちらともいえない」が最も多く,全体では59.1%
に及んだ。次いで「ややある」が,27.3%であった。
『担当のお姉さんの言う通りに行動するだけだった が,自分から質問したり行動したりするようになった。
(食到τ療法)ゲームの前日に(糖尿病食慕療法のため の食品)交換}12 S)を見f勉強してy・た・9〔自由記述原 文,1皓粧)以下同様璃例も服けられたが・ di般 曲には,行動の変容2°)を目標とする健康教育21)の視点 から,具体的な改善策を早急に求めるべきであろう。
また評価22)23〕に対するXタッフ教育を充実させること も必要であろう。
3) 患児に対する食寡指導の成果
患児に対する食事措灘の成果を,担当した学科1・
2年が観察した結果は,全体に回答の分散がみられ,
「どちらともいえない」(36.4%)が最も多く,「やや
ある」(22.7%)・「かなりある」(9.1%)を合わせ31.8%であった。自由記述(13回答)では,具体的にプラス の成果が『食品の選び方が変わった。」など,7例認め
られた。
1),2),3)およびキャソプ中の著者の観察から,
学生と担当患児との闘わり方が,食事療法に対する動 機づけに直撞,影響するように見受けられた。キャソ ブ前の担当患児との関わり方に対するナリ:+ソテー ションをさらに強化することで,より教育効果が高ま るであろう。
2.学生自身の率直な感想について 1) キャソプに参加して得た充実感
キャソプに参加して得た充実感(表1)は,「かなり ある」(36.4%)が最も多く,次いで「ややある」
(33.3%),「非常にある」(27.3%)の1頂で,三者合わ
せて97.0%を占めた。『とても楽しく充実した5日間で
表1.キャンプに参加して得た充実感
人数(:1;ltr%)
一140一
表2,事前準備の負担
人鼓(t 「ifpo
表4.栄養±という職業に対する関心の変化
人歌(囁告96)
した。参加できて良かったと思います。』という記述の ように,殆どの学生が多少なりとも,充実感を味わう ことができた。
2) 事前準備の必要性とその負担
事前準備の必要性は,「ややある」(36.4%)が最も 多く,次いで「非常にある」(27,3%),「かなりある」
(242%)と続いていたe事前準備の負担(表2)は,
「ややある」(39.4%)と「どちらともいえない」
(36.4%)がほぼ拮抗していた。およそ9割弱の学生 が事前準備の必要性を程度の差はあるものの認めては いるが,5割強の学生がその負担を何らか感じている
ことになる。最初の参加希望を募る説明会でのアブ ローチの方法,および学生に対する事前の準備内容の 改善を検討する必要性が示唆される。
3)患児への食事指導に対する関 らの変化
参加後の自らの患児への食事指導に対する関心の変 化(表3)は,「かなりある」(42.4%)が最も多く,
「ややある」(27.3%),「非常にある」(21.2%)と続
き,程度の差こそあれ「あるiと答えた者は・全体の 90.9%に及んだ。自由記述(29回答)では,『食事指滋 の大変さ,食事指導力の必要さがとても身にしみて・
以前より関心が高まった。単に食事(栄養)の知識だ けでなく,それをどう指導していくか(うまく指導で きるか)がとても大切であると思うようになった。」な どの声が寄せられた。
4)栄義士という職業に対する関心の変化 栄養士という職業に対する関心の変化(表4)は,
「ややある」(39.4%)が最も多くt次いで「どちらと もいえない」(3G.3%)であり,学年が進むにつれ「非 常にある」・「かなりある」の回答割合の減少傾向が認 められた。この傾向は,学年が進むにつれ,栄養士と いう職業を選択する意志が,一確固たるものになること の反映ではないかと思われるe 従って;栄養士就業の 意志の固まらない早期に本キャγブベ参加することに より,その関心を高める効果を期待することができよ
う。 一一 一一一 5) ギャソブ参加後の学習意欲の変化
参加後の学習意欲の変化(表5)は,「ややある」
(36.4%),FかなりあるJ(33.3%)と続き,「非常に ある」(12.1%)を含めると,程度の差こそあれ「ある」
と答えた者は,全体のSl.8%に至った。自由認述25例 中には,『実践を通しての学習がとても身に入ると実感
表3.患児への食事指導に対する関心の変化
人t・t{常{1yδ}
表5.キャンプ参加後の学習意欲の肇化
一二入致(鞭古9毒)
県立新潟女子短期大学研究紀要 第34集 1997
表6.キャンプ参加後の自分自身に対する 課題認識の変化
人世(割音%)
した。』,『栄i耐旨導を行うためには,幅広い知識が必要 であるので,積極的に学んでいく姿勢をとりたいと思
う。』など,学習意欲の高まりを感ずる事例が見受けら れた。
6) キャソプ参加後の自分自身に対する課題認識の 変化
自分自身に対する課題認識の変化(表6)は,参加 後「かなりある」(42.4%)が最も多く,次いで「非常 にある」(212%),「ややある」(18.2%)の順で,全 体の81,8%が,程度の差こそあれ「ある」と答えた。
自由記述(28回答)では,『人に…わかりやすく教えら れるようにより深く,食物の勉強を自分なりにしてい こうと思った。」,『あと半年で栄養士として社会へ出て も恥ずかしくないような人物になりたい。そのために,
1つの価値観で物事を判断するのではなく、いろいろ fことを経験し,さまざまな人とコミュニケーショソ を大事にしていきたいと思いますeS,『理論を実践に生 かせるような能力を身に付けていきたいと思う。』など の声が寄せられた。
以上の学生自身の率直な感想から,キャソプに参加 したことにより,学生として期待されるブラスの変化,
変容の一端が窺い知れた。直接・聞接的に患児を指尋 させていただく機会から得られた,気づき(Self Awar・
eness)・指導者として必要な能力の開発など,学生 個々の問題意識を啓発することができれば,教育する 立場からの喜びは非常に大きい。
3.栄養士として必要と思う知識と技術について 1) キャソブに参加した体験から必要と思う知識 学生がキャγブに参加した体験から必要と思う知識
(図1)は,全体では,「臨床栄義学」(81.8%),「栄 養教育論」(66.7%),r栄養学総論」(51.5%)の順に
行動科学 人問闘係学 結食腎理諭 責品衛生学 食品材r料学 栄装教Yf論 栄獲生化学 臨康栄装学 調理学 栄i邊学紐脇 栄養学各論 医学概論 臨床検査 統計学 解剖生理学 食品学総諭 心理学 巡動生理学 食品加工学 公衆衛生学 食生活諭 モの他
o 50 leo(%)
学科1・2年 □ 鼾U科1・2年■
図1.キャンプに参加した体験から栄養士 として必要と思う知識
多かった。2年制栄養士養成カリ』キュラムに該当する 学科1・2年では,「臨床栄養学」(72.7%),「栄養教 育論」(68.2%),「栄養学総論」(54、5%)の順であっ た。また4年制栄養士養成カリキュラムに該当する専 攻科1・2年では,「臨床栄養学」(90.9%),「栄養教 育論」(63.6%),「心理学」(54.5%)の順であった。
2年間のカリキュラムの25%も履修していない学科1 年では,基礎科目を選択する割合のやや高い傾向が窺
えた。栄養土と同一施設の管理者および学識経験者を 対象}こ行われた栄養士制度に関する調査(1984年)24}と 比較すると,栄養士に必要な知識の上位2位(「栄養学 総論」,「臨床栄養学」)までが,学科1・2年ゐそれと 重複傾向にあった。専攻科1・2年で特徴的な第3位 の「心理学」は,松隅らが報告した糖尿病教育スペシャ
リストの持つべき能力2s)と一致する点で,非常に興味 深い。また「行動科学」を専攻科2年1名のみ選択回 答したことも,特筆すべき点である。行動科学のアプ ローチがイソスリソ依存型糖尿病で有効である2e)こと
一142一
o 統計解釈披術 一教育披術の評価 臨原倹旋値の解読 教育指諒技術 食品分析技術 統計処理技衛 コγピュータ技術 献立の評価披術 調査技術
償1、嘆[肋f牲酎己握融
¢t?lr療蟄技術
大最調理技術 献立作成拉術 その他
5e
100(%)図2.キャンプに参加した体験から栄養士 として必要と思う技術
口騒
から,その萌芽を大切にしていきkv・。
2) キャソプに参加した体験から必要と思う技術 学生がキャンプに参加した体験から必要と思う技術
(図2)は,「食事療法技術」(84.8%)が全体で最も 多く,次にr臨床検査値の解読」(72.7%),「教育指導 技術」(63.6%)が続いた。学科1・2年では「食事療 法技術」(86.4%),「臨床検査値の解読」・「教育指導技 術」・「コソピュータ技術」(ともに63、6%)の順であっ
た。専攻科1・2年では,「臨床検査値の解読」(90.9%),「食事療法技術j(81.8%),r個人・集団の食生活把握 技術」(72.7%)の順であった。学年が進むにっれ,管 理栄養士に必要度の高い技術(栄養士制度に関する調 査)24}を選択する傾向が,やや高くなるように見受けら れた。
1V.おわりに
栄養士養成の2年制・4年制カリキュラムの進捗状 況に応じて,吝学年毎のキャソプへのcaa・り方の特徴 が窺い知れた。アソケート調査を試みたことによって・
学生教育の視点から,理論を実践の中で・体験を通し て学び合うことの重要性を再確認できた。今後さらに スタッフ教育システムの充実を図ることにより,直 接・間接的にいっそう,栄養教育の充実を期していき たい。QOLを高める健康教育の一一環として,糖尿病 患者教育のあ妨を視座において,チーム医療の中で
栄養士の役割を積極的に果たすためには,栄義士養 成・卒後教育等さまざまな支援が必要であろう。糖尿 病教育に限定した中でも,栄養士をとり巻く状況は,
糖尿病療養指導士27}あるいは臨床栄養師資格認定2S)$il 度案の作成にみられるように,さらなる研鍛を促して いるといえよう。このようなことを踏まえて,教育の 標準化がひいては医療の標準化29)をも招来しうる期待 も含めて,足元の新潟小児糖尿病キャソプという フィールド30)から,今後も謙虚に多くのことを学んで
いきたい。新潟小児糖尿病キ+ソプ事務局の労をお執り下さい ました斬潟大学医学部小児科学教室橋本尚士先生なら びに菊池透先生に深謝申し上げます。また,本学学生 にご指導を賜りました本学元非常勤講師高橋那智子先 生に感謝申し上げます。そして第15回新潟小児糖尿病 キャソブに参加され,本調査にご協力下さいました本 学生活科学科食物栄養専攻ならびに専攻科食物栄養専 攻の33名の皆様に,厚くお礼申し上げます。
本研究の一部は,第1回新潟栄養改善研究発表会
(1996年11月,於新潟市)において発表した。
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一一