ラオスにおける村落共有林のガバナンスと 社会関係資本の関係性
森 朋 也
ラオスでは,村落の住民が共同で利用できる,村落共有林の利用権が法的に認可されて いる。本稿は,この村落共有林をコモンズとして捉え,そのガバナンスの持続性について 考察する。既存のコモンズ研究から明らかにされているように,コモンズのガバナンスが機 能するためには,コミュニティ内に形成された社会関係資本がフリーライダーの発生を抑制 するように働いていなければならない。そこで,本研究では,ビエンチャン特別市サントン 郡の三村落を対象に,アンケート調査から,社会関係資本と住民の参加の関係性を明らか にした。その結果,村落ごとに差異はあるものの,村落内の社会関係資本(信頼とネットワ ーク)が住民の管理活動への参加を促す要因として機能していることが明らかになった。
は じ め に
ラオス人民民主共和国(以下,ラオスと呼称)では,村落の住民が共同で利用できる森林
(以下,村落共有林と呼称)の利用権が法的に認可されている。この施策には,ラオス政府 による近代的な所有権の概念に基づいた土地森林政策と地域での慣習的な土地利用との軋轢 という背景があった。土地森林政策によって,政府と住民,住民同士で軋轢が生まれる,ま たは,社会経済的に弱い住民がますます貧しくなる,などの様々な問題が生じたために,
NGO の支援によって,コモンズとしての森林づくりが進められてきたのである。
この村落共有林の管理は,村落に委任されており,村落には住民主体の組織づくりやルー ルの設計などの住民参加型の森林管理のガバナンスを形成することが求められる。しかし,
そのガバナンスは,ハーディンの「コモンズの悲劇」やオルソンの「集合行為論」などの社 会的なジレンマの視点に立てば,フリーライダーの問題に直面するために少なくとも理論的 には十分に機能することが期待できない。この点について,これまでのコモンズの研究では,
地域コミュニティ内に形成されている関係,社会関係資本がフリーライダーの発生を抑制す ることを明らかにしている。従来のラオスにおける村落共有林の研究では,法律や慣習など の制度のみでなく,内部の人間関係に焦点が当てられるものの,定性的な議論のみで実証的
な研究がほとんどされてこなかった。そこで,本研究では,アンケートデータを用いて社会 関係資本と共同管理の関係を定量的に明らかにする。
本稿の構成は,第 1 節で,ラオスにおける土地森林政策の変遷と村落共有林事業の概要を 整理する。第 2 節では,まず,本研究の視座となるコモンズ論について説明する。とりわけ,
コモンズのガバナンスにおける社会関係資本の役割に着目する。つぎに,森(2014a;
2014b;2015a;2015b)の研究成果とともに,ラオスの村落共有林をコモンズ論の視点から 課題を示す。第 3 節では,ビエンチャン特別市サントン郡の 3 村落を対象に住民の村落共有 林管理への参加と社会関係資本の関係について重回帰分析を用いて明らかにする。
1 .ラオスにおける土地森林政策と村落共有林
1-1.ラオスの森林と土地森林配分事業ラオスの森林を取り巻く環境は,1950年代から70年代にかけての内戦期,戦後の経済復興 と80年代における市場経済の導入期(「チンタナカーン・マイ(新思考)」政策)を経て,大 きく変化を余儀なくされた。とりわけ,戦争後に国内資源需要が増加したことに加え,市場 が開放されたことで商業用地や農地などの土地転換が進んだことで,他の東南アジアの国と 比べれば高い森林被覆率を保ってはいるものの森林面積は減少していった。
ラオス政府は,これを受けて,1989年に第 1 回森林会議を開催して土地と森林の管理に関 する方針を打ち出し,これ以降,具体的な土地森林政策を進めていった1)。まず,1991年に 制定された憲法において,土地の所有権は国家にあると定める一方で,その利用権を個人や 組織・団体に配分することで民間での経済活動が認められた。ただし,利用権を獲得した個 人や組織・団体は,その利用,そこから得られた収益を獲得することができると同時に,個 人や組織・団体は利用権を認められた土地を持続可能に利用する義務も負っている(名村,
2008)。また,1993年には,国内の豊かな自然環境と希少な動植物を保全・保護するために,
全国に18ヵ所の「生物多様性保全地域」を設立した。現在では,20ヵ所となり,その大きさ は国土面積のおよそ14%に値する。
ただし,森林政策の具体的な中身を規定したのは,1996年に制定された森林法によってで あった(河野,2008;百村,2001)。1996年の森林法において,管理・利用目的ごとに森林 を保安林・保護林・生産林・荒廃林・再生林の 5 つに分類されるなど,具体的な森林の定義
1) 河野(2008)によれば,今日のラオス政府の森林政策は,フランス植民地政府時代とほぼ同様の 戦略に基づいている。フランスは,森林保護区と地域住民居住区を設定することで住民の森林への アクセスを制限し,法制度の整備を行い,ラオスの森林管理体制を整備した。ただし,同じインド シナ植民地であるベトナムとカンボジアほど精力的ではなく,地域住民の土地や森林との関わりを 大きく変えるほどのものではなかった(河野,2008)。
196 中央大学経済研究所年報 第52号
がなされた。その後,2007年に森林法の改訂で荒廃林と再生林は廃止され,それ以降は保安 林・保護林・生産林の 3 つに分類されることとなる2)。
その後,1996年に「土地と森林配分に関する農林令」が公布され,政策の具体的な実施プ ロセスが規定された。この農林令の下で実施された事業のことを「土地森林配分事業」と呼 ぶ。この事業では,対象地域の土地と森林を森林法と土地法の分類に基づいて定義づけ,土 地の利用区分や行政村の境界線を決定して管理主体を明確化にし,その上で地域住民にその 利用権を配分する。
ラオスにおける一連の森林政策は,利用権を民間に委譲することで自由な経済活動を認可 するという点で市場ベースの政策である一方,利用区分を明確にすることで住民の土地・資 源へのアクセスを制限するという中央集権的な政策ともいえる(河野,2008)。ただし,土 地森林配分事業では,基本的には村落単位で土地のゾーニングや配分が行われ,村落の住民 と協議されながら実施され,そして,現地の村落がその管理の担い手として位置づけられる こととなる。この意味で,土地森林配分事業は,住民参加型の森林管理が制度的に認められ ている画期的な政策であるといえる(名村,2008)。
この住民参加型の森林政策は,2007年の「国家土地管理局法令(第564号)」と2008年「首 相法令(第88号)」によって,さらに大きく進展することとなる。この 2 つの法令により,
住民が共同で利用できる村落共有林の利用権が村落に付与されることが認められることとな った。これは,もともと,NGO が土地森林配分事業による土地の配分の際に,村落の住民 にとって共有の森林,村落共有林をつくることを支援してきた背景にあった。この 2 つの法 令によって,村落共有林の土地区分が法的に認められることとなった。この利用権の獲得の ためには,村落には,コモンズとしての森林を管理するための組織の設立やルールの策定な どのガバナンスを設計することが求められる。
1-2.ラオスの森林政策についての先行研究
ラオスの森林政策の評価として,従来の研究では,政府による上からの法整備や土地森林 配分事業と現地の慣習的な土地利用の間の軋轢について議論されてきた(淺野,2015;名村,
2008;東,2009;2016;百村,2001など)。東(2016)は,ラオス北部ウドムサイ県の焼畑 民と自然の共生関係が政策によって壊されていると述べている。たびたび,焼畑は,環境破
2) 生産林は,植林活動や林産物の採取などの経済活動,さらに焼畑を除く慣習的な土地利用が認め られた森林である。ただし,いくらでも伐採できるというわけではなく,伐採許可量枠が定められ ている。保安林は,保安林が水源や土壌の環境サービスの保護を目的とした森林であり,木材の伐 採は禁止されているが動植物の採取は希少種ではない限り認められている。最後に,保護林は生物 多様性の保護を目的とした森林であり,原則,木材と動植物のすべての採取が禁止されている。
壊の原因としてやり玉にあげられるが,本来,慣習的な焼畑は,循環的な土地利用であり,人々 の営みと環境が共生可能なものである。住民は,いくつかの土地をローテーションで利用し て焼畑を行い,一度焼畑を行った土地は,十年程度か,それ以上は休閑させ,土地が十分に 回復してから再び火入れを行う。住民は,休閑させている土地や回復して二次林となった土 地から,生活資材あるいはタケノコや昆虫などの食糧など様々な産物を採集する。しかし,
利用目的ごとで土地を区分けされることで,「農地」と「森林」が分けられてしまい,住民 の森林へのアクセスが制限されてしまう。その結果,住民は森林から採取できる産物が制限 され,また,これまでよりも狭い「農地」で短期的に焼畑を行わざるを得なくなった。短期 的な焼畑は,土地に十分な休閑が取れないままに火入れをしなければならず,土地を劣化さ せる。このような焼畑は,もはや持続可能な農法ではない。焼畑に限らず,住民による土地 利用は,「農地」と「森林」を明確に分けることが難しい。現地の事情を考慮せずに,上意 下達式の政策は,本来の目的とは裏腹に環境にも住民にも持続可能なものではない。
淺野(2015)は,ラオス南部チャンパサック県において,土地森林配分事業によって,自 然と共生していた慣習的な土地利用が廃れ,代わりにプランテーション企業と契約した住民 の私有林の形成が進んでいると指摘している。淺野(2015)によれば,この私有林の開発に よって,住民,とりわけ,「立場の弱い農村や村落内での社会的な弱者は,自給用の農地の 利用権を失い,プランテーション企業に雇用されるなど,自立的な生業」から引き離され,
収奪されている(淺野,2015:72)。確かに,商業目的の森林のプランテーションが増える ことで,国内の被覆率は回復するかもしれない一方で,そこにはラオス本来の森林と地域住 民の営みの豊かさは失われている。
このような,政府による土地森林政策に対する批判が指摘されている中で,名村(2008)
では,土地森林配分事業を利用した「住民主体の村落共有林づくり」が紹介されている。名 村(2008)によれば,土地森林配分事業では,地域住民の参加が認められているというもの の,実際の政策試行段階では政策と地域住民との間には乖離があり,十分に地域の事情を配 慮することに困難があった。そこで,この乖離を埋めるために,日本国際ボランティアセン ター(JVC)が第三者として事業と地域の間に入り,村落内に住民が共同で利用できる「村 落共有林」を策定した。このプロジェクトは,「村の領域での森林の利用とその森林を管理 する権利を法的に認めさせ,村人の生活基盤を確保することを考え」られたものであり,さ らに,プロジェクトでは,住民が主体的に村落共有林を運営できるように,村落内部に管理 のための組織づくりも支援した(名村,2008:212)。
JVC のプロジェクトが開始された時点では,村落共有林の利用を認めるだけで,共有地 として利用権を発行するには至らなかった。前述したように,ラオスでは,2007年と2008年 の法令により,村落共有林の利用権を村落に付与できるようになった。ビエンチャン特別市
198 中央大学経済研究所年報 第52号
サントン郡では,オランダの NGO である SNV(Stichting Nederlandse Vrijwilligers:英語 訳では Foundation of Netherlands Volunteers)の支援の下,2011年に村落共有林の利用権 を獲得している3)。
ラオスの村落共有林のガバナンスについての研究は,例えば,名村(2008),東(2009)
Boutthavong et al.(2016),などがある。これらの研究は,村落共有林を管理組織やルール の策定,また,地域の抱える課題について詳しく分析されている一方で,何かしらの理論的 な視座から分析されたものでもなく,定量的な分析も試みられていない。そこで,本研究で は,村落共有林をコモンズ論の視座から理論的な考察を行い,そこから得られた仮説につい て統計手法を用いて定量的に実証していく。
2 .コモンズとしての村落共有林のガバナンス
2-1.コモンズの持続可能性とガバナンス
コモンズに関する命題として,生物学者のハーディンが提唱した「コモンズの悲劇」があ る。Hardin(1968)は,誰しもが利用可能な牧草地では,各牧夫は,利益がある限り放牧す る一方で,牧草地の草は有限であるために,最終的に,牧草地は裸地となるという事例を用 いてコモンズの持続性について問いかけた。この悲劇では,牧草地の資源問題だけではなく,
一人一人の牧夫が何も経済的な利益を得ることができない点にも留意する必要がある。
Hardin(1968)は,コモンズの悲劇を回避するためには,コモンズを分割・私有地化するこ とで市場による解決を図るか,国家によって中央集権的に管理するかの政策を提言している。
その一方で,政治学者のオストロムは,コモンズを利用する地域コミュニティによる共的 な第 3 の解決策を提示している4)。Ostrom(1990)は,現実には,「コモンズの悲劇」に直面 せず,地域コミュニティによって持続的に管理されているコモンズが存在していることに着 目した。そして,管理に成功している事例と失敗している事例を比較することで,長期的に 運営されているコモンズに共通した制度的条件を明らかにしている。その条件は,⑴ 資源 の境界線と利用者の範囲が明確に規定されていること,⑵ 資源の利用と管理のルールが地 域的条件と調和していること,⑶ 利用・管理する構成員が集団的な決め事に参加すること ができること,⑷ ルールの遵守について監視されていること,⑸ 違反者に対して段階的な 制裁措置が備わっていること,⑹ 廉価な紛争解決のメカニズムが備わっていること,⑺ 運
3) フォレスト パートナーシップ・プラットフォームのホームページを参照。
4) このようなハーディンの「コモンズの悲劇」モデルに対する批判として,オストロムをはじめと する北米のコモンズ研究者だけではなく,日本のエントロピー学派や入会林野の研究もある(高村,
2012)。コモンズ研究の見取り図としては,高村(2012),三俣ら(2008),三俣ら(2010)などが 詳しくサーベイされているので参照されたい。
営する組織の権利が尊重されていること,⑻ (比較的に大きなシステムの一部の共有資源に ついて)運営組織が入れ子状に構成されていること,である5)。
オストロムの研究6)から,コモンズは,単に共有されている資源としてのみではなく,コ モンズの利用と管理に係る制度も含めて捉えられる必要があることを示している。井上(2001)
も,「自然資源の共同管理制度,および共同管理の対象である資源そのもの」と定義している。
また,三俣ら(2008:19)は,「①共有・共用する天然資源,②それらをめぐって生成する 共同的管理・利用制度」と定義している。本稿においても同様に,地域社会で共有されてい る自然資源に加え,その共同利用・管理に関する制度の総体(ガバナンス)をコモンズとし て捉えていく。
ただし,コモンズの悲劇を回避するような制度が必要である一方で,その制度を集団で運 営する行為は,Olson(1965)のいう集合行為であり,集団に協力せずに恩恵だけを得るフ リーライダーの問題に直面する。この問題の厄介な所は,フリーライダーを抑制するような 制度を作っても,新たな制度を運用するための行為自体も集合行為であり,また新たなフリ ーライダーを生むという高次のジレンマに陥る点にある。
Ostrom(1990)では,コモンズが持続的に運営されるためには,コミュニティ内に醸成 されている人間関係,社会関係資本が重要な役割を果たすと指摘している。コミュニティ内 部の人的交流(ネットワーク)や信頼関係が形成されていることで,フリーライダーのよう な逸脱的な行為は抑制される。もし,逸脱的な行為をした場合,今後,コミュニティの他の メンバーから協力を得られない,あるいは,評判を落とすなどの負の予想が形成される場合,
逸脱的な行為をとることはメリットよりもデメリットの方が大きい。
すなわち,持続的に維持されているコモンズには,コモンズの悲劇を回避するように制度 設計がされており,その制度が持続的に運営されるためには,コミュニティ内部の社会関係 資本の形成が不可欠である。ただし,制度は明文化されていれば観察可能である一方で,社 会関係資本は観察することが難しい。そこで,研究の対象であるコモンズのガバナンスを分 析するためには,この社会関係資本がコモンズの管理に影響を持っているかどうかを定量的 に評価しなければならない。
5) この 8 つの制度的条件については,Ostrom(1990:90)の原著のみでなく,高村(2012:40),
薮田(2004:20)の和訳も参照して整理した。
6) 例えば,彼女の一連の研究をまとめたものとして,Ostrom(1990),Ostrom et al.(1994)がある。
その研究は,ゲーム理論を用いた定性的な研究,その理論の実証として実験室調査,そして,フィ ールド調査など多岐にわたる分析から考察されている。
200 中央大学経済研究所年報 第52号
2-2.コモンズ論の視点に立った村落共有林の研究
これまで,コモンズ論の視点から,ラオスの村落共有林を分析した研究としては,筆者の 一連の研究以外にはほとんどない(森,2014a;2014b;2015a;2015b)。森(2014a;2014b;
2015a;2015b)は,サントン郡で村落共有林プロジェクトを実施している村落を対象に,そ の運営のガバナンスについて分析している。
森(2014a)では,村落共有林が誰にでも利用可能で,利用に関する取り決めが特にない 資源である場合には,静学的には非効率的な利用となり,動学的には持続可能性と社会的に 最適な厚生水準の両方を満たすことが困難であることを理論的に明らかにした。さらに,森
(2014a)は,Ostrom(1990)の制度的条件を用いて,村落内で村落共有林の利用に関する 制度が適切かどうかを分析している。その結果,村落ごとに制度の厳しさには差があるもの の,おおむね,Ostrom(1990)で示されている制度と同様に設計されていることが明らか になった。
森(2015a)は,村落共有林の利用者が協力して管理活動を行う場合,その内部の社会関 係資本がその管理活動への貢献をせずに村落共有林を利用するフリーライダーを抑制するこ とで,持続的に村落共有林が管理されることをモデルから定性的に示した。加えて,そのモ デルからの示唆に基づいて,現地における村落共有林の管理においてフリーライダーが生じ ないようにどのような工夫が行われているかを考察した。その結果,逸脱的な行為をしたも のに対しては,金銭的な処罰を科すだけではなく,村落会議において他の住民に対して違反 行為について説明させるなど,村落内の評判を下げる,あるいは信頼を喪失させることを予 想させる社会的な処罰も設けられていることを明らかにした。つまり,社会関係資本の要素 としてあげられる信頼やネットワークが逸脱行為の社会的な費用を引き上げていることで逸 脱行為を抑制させている。
森(2014b;2015b)では,住民に対して,日常生活で相互扶助を行う相手と仕事上で協力 する相手を回答してもらい,その回答をもとに,ソシオメトリー法を用いて,村落内の協力 関係のネットワークを明らかにした。そして,そのネットワークから,村落内の構造,ネッ トワークの中心的なメンバーおよびネットワーク間の媒介となるメンバーの役割を明らかに した上で,村落共有林の管理における組織について分析を行っている。その結果,村落ごと にネットワークの構造は異なっている一方,村長などのリーダー的なメンバーがネットワー クの中心に存在し,ネットワーク間の媒介者になっていることが明らかになった。
森(2014a;2014b;2015a;2015b)の研究は,他の先行研究による制度分析だけではなく,
理論モデルやソシオメトリー法を用いた分析を行っている点で示唆に富むものである。一連 の研究成果を整理すれば,調査対象の地域では,村落共有林はオストロムが示した制度的条 件に類似した制度の下で運営されており,さらに,その運営にタダ乗りするフリーライダー
を抑制するように,社会関係資本が機能していることが期待できる。
その一方で,これらの研究は,村落共有林管理への参加を促す要因を定量的に明らかにす るものではない。コモンズである村落共有林が村落というコミュニティによって十分に管理 されているかどうかを分析するためには,これまで理論的に示してきたことを定量的に実証 する必要がある。そこで,本研究では,森(2014a;2014b;2015a;2015b)の研究をもとに,
村落共有林管理への参加を促す要因として社会関係資本が機能しているかどうかを定量的に 示すこととする。具体的には,アンケート調査から得られたデータを用いて,社会関係資本 の要素であるネットワークと信頼関係と村落共有林管理の参加の関係性を定量的に明らかに する。
3 .社会関係資本と村落共有林管理の参加の関連性
3-1.調査地の概要と調査方法
本研究は,ビエンチャン特別市サントン郡7)の村落共有林事業を実施している 3 村落を対 象に,2012年から研究を開始した。2013年11月,2014年 3 月に国立大学林学部の協力の下,
アンケート調査を実施して,337世帯中335世帯から回収することができた。具体的なアンケ ート調査の方法としては,村落内の小集団(ヌアイ)8)ごとで各世帯主を招集してアンケー トの回答をお願いした。なお,H 村と K 村は,国立大学林学部に委託して実施した。世帯 主が参加できない場合は,妻子や親などの代理人に回答をお願いした。
調査対象である 3 村落の基本情報は,表 1 に整理されている。 3 村落ともに,小規模では あるが,村落共有林を利用している。N 村と K 村は,前述した,SNV によるプロジェクト によって,村落共有林の利用権を獲得している。
このプロジェクトは,もともと,SNV,ラオスの市民団体であるジェンダー開発グループ,
および国際自然保護団体である世界自然基金(WWF)による持続可能な開発事業が基礎に あった。それらの支援団体は,竹林の持続可能な利用と竹細工生産による収入向上を目指し
7) ビエンチャン特別市サントン郡は,ビエンチャン市内から国道11号線をメコン河に沿って西に約 60km いったところに位置する。
8) ヌアイとは,村落内において,地理的に隣接した世帯でまとめられた小規模な集団である。ただ し,住民は,親類同士や同じ民族同士で近くに居住する傾向があるので,無作為で決められた集団 というわけではない。ヌアイには,リーダーが存在しており,そのリーダーは,村長と副村長が行 き届かない人間関係の調整や決め事の伝達などの役割を担っている。例えば,ヌアイ内での揉め事 は,まずヌアイのリーダーが仲介に入り解決に努めることになっている。また,住民は,農作業の 労働力の貸し合いなどの日常の相互扶助も同じヌアイに所属する住民間で行われることが多い。さ らに,N 村と H 村では,村落会議の前に,村長と副村長,そしてヌアイのリーダー内で話し合いの 場が持たれており,村落運営にも少なからず関与している。
202 中央大学経済研究所年報 第52号
て,2007年にサントン郡竹細工生産者グループを設立させている。SNV は,そのプロジェ クトを持続可能にするために,竹林を含む森林を村落共有林として登録させたのである。
図 1 は,アンケート調査の回答者の居住背景,移住歴,民族構成を 3 村落ごとで示してい る。住民全員ではなく,世帯主のみなので,完全に村落の社会構成を示したものではないが,
その特徴をある程度読み取ることができる。N 村と H 村は,比較的に,移住してきた住民 が多く,K 村では,そこで生まれ育った住民が多いことがわかる。また,村落ごとに差異は あるが,2000年代以降に移住してきた住民が多い。民族構成については,K 村は, 2 村落と 比べて,ラオスの主要民族であるラオ族が大きな割合を占めている。
表 1 3 村落の基本情報
調査村 基本情報
人口(人) 世帯数(世帯) ヌアイ 面積(ha) 村落共有林面積(ha)
N 村 476 97 10 2,591 50.94ha
H 村 577 111 8 3,000以上 約70ha
K 村 660 142 13 6,035 135ha
(出所)森(2015b)の表 6 を引用
図 1-1 在住の経緯・移住歴・民族構成(2013年)N 村
村落で生まれた 招かれて移住 自主的に移住 その他
村落で生まれた 要請があって移住 招かれて移住 自主的に移住
村落で生まれた 自主的に移住
28%
67%
1%4%
ラオ族 74%
ラオ族 78%
ラオ族 89%
モン族4%
カム族21%
カム族21%
無回答9%
無回答4%
ブーノイ族 1%
プーノイ族 1%
モン族1%
カム族 2%
プーノイ族 3%
タイダム族 3%
13%
85%
42%
58%
1%
1%
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 4 5 10 23 20
3 0
n=65 n=97
n=97
N村
移住歴(N村) 各世帯の在住の経緯(N村)
各世帯の居住経緯(H村)
各世帯の居住経緯(K村)
移住者数
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 7 2
11 27
51
8 0
n=106 n=111
n=111
N村 移住歴(H村)
移住者数
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 0 7 12 17 18
1 0
n=55 n=135
n=137
N村 移住歴(K村)
移住者数
(出所)筆者の現地調査に基づいて集計
図 1-2 在住の経緯・移住歴・民族構成(2013年)H 村
図 1-3 在住の経緯・移住歴・民族構成(2013年)K 村
村落で生まれた 招かれて移住 自主的に移住 その他
村落で生まれた 要請があって移住 招かれて移住 自主的に移住
村落で生まれた 自主的に移住
28%
67%
1%4%
ラオ族 74%
ラオ族 78%
ラオ族 89%
モン族4%
カム族21%
カム族21%
無回答9%
無回答4%
ブーノイ族 1%
プーノイ族 1%
モン族1%
カム族 2%
プーノイ族 3%
タイダム族 3%
13%
85%
42%
58%
1%
1%
0 1020 30 4050 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 4 5 10 23 20
3 0
n=65 n=97
n=97
N村
移住歴(N村) 各世帯の在住の経緯(N村)
各世帯の居住経緯(H村)
各世帯の居住経緯(K村)
移住者数
0 1020 3040 5060
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 7 2
11 27
51
8 0
n=106 n=111
n=111
N村 移住歴(H村)
移住者数
100 20 3040 5060
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 0 7 12 17 18
1 0
n=55 n=135
n=137
N村 移住歴(K村)
移住者数
村落で生まれた 招かれて移住 自主的に移住 その他
村落で生まれた 要請があって移住 招かれて移住 自主的に移住
村落で生まれた 自主的に移住
28%
67%
1%4%
ラオ族 74%
ラオ族 78%
ラオ族 89%
モン族4%
カム族21%
カム族21%
無回答9%
無回答4%
ブーノイ族 1%
プーノイ族 1%
モン族1%
カム族 2%
プーノイ族 3%
タイダム族 3%
13%
85%
42%
58%
1%
1%
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 4 5 10 23 20
3 0
n=65 n=97
n=97
N村
移住歴(N村) 各世帯の在住の経緯(N村)
各世帯の居住経緯(H村)
各世帯の居住経緯(K村)
移住者数
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 7 2
11 27
51
8 0
n=106 n=111
n=111
N村 移住歴(H村)
移住者数
0 10 20 30 40 50 60
1970 1980 1990 2000 2010 2015 次の級 0 7 12 17 18
1 0
n=55 n=135
n=137
N村 移住歴(K村)
移住者数
204 中央大学経済研究所年報 第52号
筆者は,現地でのアンケート調査で,村落共有林を活用した経験があるかについて,目的 ごとに回答を求めた。その結果, 3 村落ともに 8 割以上の村民が村落共有林を利用している ことがわかった。表 2 は,その村落共有林の活用に関するクロス集計を村落ごとに整理した ものである。 3 村落ともに,薪木を目的とした利用が多いことがわかる。一方で,程度に違 いはあるが,建設材や手工芸品の資材など,様々な目的で利用されていることがわかる。
森(2014a)では,インタビュー調査から,前述した Ostrom(1990)の制度条件に含まれ ている,利用,監視,処罰に関するルールを詳しく明らかにしている。その結果を整理した ものが表 3 ,表 4 ,表 5 である。 3 村落ともに,村落共有林の持続性を保つために,その利 用を制限し,そのルールが守られているかどうかを監視し,逸脱する(フリーライダーにな る)ことのコストを引き上げるようにルールが設定されていることがわかる。
ただし,第 2 節で述べたように,フリーライダー対策として監視と処罰のルールを設計し ても,高次のジレンマに直面する。このジレンマを回避するためには,社会関係資本の形成 が必要である。
表 2 村落共有林(CF)の活用についてのクロス集計表(複数回答可)
村落 合計
N 村 H 村 K 村
CF の活用目的
薪木の採取 73 85 99 257
建設材の採取 62 80 47 189
食糧の採取 67 29 5 101
冠婚葬祭のための利用 4 11 6 21
生活資材の採取 7 1 0 8
工芸品の資材の採取 33 11 1 45
その他 1 0 0 1
回答人数 92 107 134 333
(出所)筆者が実施したアンケート調査に基づいて集計
表 3 利用に関するルール
項目 調査村
N 村 K 村 H 村
利用の申請
・ 胸高直径20cm 以上の樹木 の伐採は村長に利用を申請 (20cm は1本につき100,000kip,
30cm以上は,120,000kipを払う)
・ 胸高直径20cm 以下は5本ま で無許可で伐採可能
特になし ・ 胸高直径20cm 以上の樹木 の伐採は村長に利用を申請 (20cm は1本につき100,000kip,
30cm以上は,120,000kipを払う)
・ 胸高直径20cm 以下は,5本 まで無許可で伐採可能 用途の限定 自家消費に限定
販売目的の採取は罰金
自家消費に限定 販売目的の採取は罰金
自家消費に限定 販売目的の採取は罰金
採取場の 制限
持続性が低い箇所での採取は 制限
* 判断は SNV が行っていた が,将来的には森林担当が 務めたいと検討中
* 採取不可の箇所には目印と して境界として木にバツ印 をつけて村民にわかるよう にしている
・ SNV のプロジェクト が実施されている部 分では,竹の利用は 制限,樹木の伐採は 禁止。それ以外は特 に制限は無し
持続性が低下している箇所の 採取は制限
* 判断は村長が行い,村落会 議で合意をとる
運搬の制限 人力に限定 トラックによる搬出も認
可
人力に限定
禁止器具 人力に限定 人力に限定 人力に限定
(出所)森(2014a)の表10を一部修正して引用
表 4 監視に関するルール 内 容 森林組合の
構成員数(人) 監視班 監視の頻度
N 村 2
自警団,防衛団,森林組合
* 問題があれば土地管理担当も参加する
* 自警団と防衛団はそれぞれローテーション を決めて参加する
2ヵ月に1回
*季節によって頻度が異なる
*雨季は少なく,乾季は多い
K 村 3
自警団,防衛団,土地管理担当,森林組合
* 自警団から2人,防衛団と土地管理担当か ら1人ずつ参加する
* たまに副村長(経済担当)も参加。また問 題があれば村長も参加する
1ヵ月に1回
*季節によって頻度が異なる
*雨季は少なく,乾季は多い
H 村 2
自警団,防衛団,森林組合,村長
* 問題があれば土地管理担当も参加する
* 自警団と防衛団はそれぞれローテーション を決めて参加する
1ヵ月に2回
*季節によって頻度が異なる
*雨季は少なく,乾季は多い
(出所)森(2014a)の表11を一部修正して引用
206 中央大学経済研究所年報 第52号
3-2.モデルと変数の設定
本稿では,重回帰分析を用いて,社会関係資本の形成が村落共有林の管理への参加を促す かどうかを検討する。モデルとしては,村落共有林の管理への参加を被説明変数として,説 明変数には,社会関係資本の要素,村落住民の社会属性,および,村落共有林の利用目的を 設定した。社会関係資本の要素としては,ネットワークと信頼関係を変数として取り入れる。
⑴ 社会関係資本に関する変数
パットナム(2001)は,社会関係資本を,信頼関係,ネットワークの他に互恵性も含めて 定義している。しかし,互恵性の定義については,多くの議論があり9),本稿では,信頼関係,
ネットワークのみを社会関係資本の変数として採用することとした。
ネットワークの変数は,村落全体のネットワークとして村落活動への関与と村民間の交流,
親戚間のネットワークとして冠婚葬祭への関与と親族間での交流,身近な人々とのネットワ ークとして相互扶助の関与と友人との交流,居住希望,をネットワークの変数として採用す る。村落内の活動への関与の頻度と人的交流は,ネットワークの規模を表す変数として設定 した。また,ネットワークの質にも考慮して,村落全体の関わりと身近な存在である友人と 親族のネットワークを踏まえた。居住希望の変数は,今後も現在の村落に居住し続けたいか という,ネットワークの強さを表している。
信頼の変数は,村落住民への信頼(内部への信頼)と村落住民以外の人々への信頼(外部
9) 互恵性の概念については,Bowles and Gintis(2011) により詳しく整理されているので参照され たい。
表 5 処罰に関するルール 処罰の内容
N 村
・ 胸高直径20cm の違法伐採は 1 本につき2,000,000kip,30cm は3,000,000kip の罰金
・ 一年期の竹を伐採する場合, 1 本につき5,000kip の罰金
・ 自家消費以外の筍の採取した場合, 1 本につき5,000kip の罰金
* 違反者は,会議に呼び出され尋問を受ける
K 村
・ SNV のプロジェクトサイトで 1 年期の竹を採取した場合,1本につき1,000kip の罰金
・ SNV のプロジェクトサイトでの伐採も禁止(ただし,過去に例がなく金額は定まってない その場合は,村落会議で議論し金額を決める)
H 村
・ 樹木の伐採は禁止されているが,非林産物は採取自由
・ 胸高直径20cm の違法伐採は2,000,000kip/tree,30cm は3,000,000kip/tree の罰金
・ 一年期の竹を伐採する場合, 1 本につき5,000kip の罰金
・ 自家消費以外の筍の採取した場合, 1 本につき5,000kip の罰金
(出所)森(2014a)の表12を一部修正して引用
への信頼),村長への信頼(リーダーへの信頼)を設計した。社会心理学者の山岸俊男は,
自身が所属しているコミュニティ内のメンバーを頼りにすることは,自身に降りかかる社会 的不確実性を減らすための保証のような行為であり,信頼というよりは,安心(assurance)
であることに対して,面識のないコミュニティ外部の人々を信用することこそ,一般的信頼 を意味すると述べている(山岸,1998)。山岸(1998:3-4)は,「仲間うちで安心していら れることと,仲間うちを超えた他者一般ないし人間性一般に対する信頼を持つこと」を分け て議論し,後者の意味での信頼の役割として,人々を固定的で閉ざされた関係から,新しい 相手と自発的に交流を持とうとする開かれた関係へ向かわせる側面に注目した。この信頼の 視点をコモンズの議論に当てはめてみれば,伝統的に管理されてきたコモンズを研究する場 合は,内部への信頼が重要な要因となる一方で,村落共有林プロジェクトのようなコミュニ ティ開発事業においては,外部の人々との信頼関係の構築も重要な要因となるといえる。
また,本研究では,リーダーである村長への信頼も変数として用いている。リーダーへの 信頼の度合いが,住民が外部からもたらされたプロジェクトに協力するかどうかに関係して いると想定できる。内部への信頼が水平的な意味での信頼関係であるならば,リーダーへの 信頼は,垂直的な意味での信頼といえよう。
⑵ 社会関係資本以外の変数
社会関係資本の変数のほかに,本推計では,性別ダミー(男性= 1 ,女性= 0 ),居住背 景ダミー(村落内で生まれ育った= 1 ,それ以外= 0 ),民族ダミー(主要民族のラオ族= 1 , ラオ族以外= 0 ),居住年数,家族の人数,年齢,村落共有林の利用目的として薪木ダミー(村 落共有林で薪木を採集したことがある= 1 ,ない= 0 )と食糧ダミー(村落共有林で食糧を 採集したことがある= 1 ,ない= 0 ),村落ダミー(H 村を基準として N 村ダミーと K 村ダ ミーを設定)を設定した。
薪木ダミーと食糧ダミーは,利用目的ごとに異なる住民の認識の違いとして設定した。表 2 で示したように,村落共有林の利用には,日々の生活で必要な物資を採集する目的だけで はなく,金銭獲得を目的とした工芸品の資材の採集や,冠婚葬祭や建設材の採集などの非日 常的な利用も含まれている。
コモンズとの関わり方は住民ごとに様々であり,その関わり方ごとにコモンズへの認識の 仕方も異なっている可能性がある。薪木や食糧の獲得を目的としている住民にとっては,コ モンズである村落共有林は,昔から,日々,当たり前に利用している存在であり,その保全 への意識も低いかもしれない。工芸品の資材として利用する場合は,資源が枯渇すると利益 を得ることができなくなってしまうために,その保全への意識は高いかもしれないし,建設 材を採集する目的の場合は,竹などと比べると希少性の高い大木の保全への意識も高いかも しれない。
208 中央大学経済研究所年報 第52号
表 6 は,推計に用いた変数の基本統計量をまとめたものである。社会関係資本を表す変数 は,それぞれ, 6 件法(そう思う・ややそう思う・どちらともいえない・あまりそう思わな い・まったくそう思う)で回答を求めて測定された。年齢,家族の人数は,単位が異なるた めに,z 値に基準化している。
ここで,前項で示したように, 3 村落ごとで社会的な属性や制度に差異があった。例えば,
相対的に移住者が少なく,ラオ族の占める割合の大きい K 村では,N 村と H 村よりは,比 較的に緩く利用と処罰のルールが設定されていた。ここから, 3 村落ごとで社会関係資本が 果たしている役割に差異が生じることが予想される。そこで,次項では,全体のサンプルと,
表 6 基本統計量
全体 N 村 H 村 K 村
Avg SD Avg SD Avg SD Avg SD CF の管理への参加 3.33 0.923 3.16 1.133 3.18 0.583 3.52 0.897 村落活動への関与 3.26 1.197 2.86 1.584 3.37 0.977 3.46 0.896 相互扶助への関与 3.86 0.971 4.15 1.170 3.92 0.797 3.60 0.826 冠婚葬祭への関与 3.71 0.926 3.77 1.003 3.80 0.795 3.61 0.960 村民間の交流 3.40 0.870 4.22 1.077 3.49 0.732 3.26 0.845 友人間の交流 4.01 0.940 4.43 0.932 4.08 0.907 3.69 0.840 親戚間の交流 4.37 0.870 4.77 0.582 4.43 0.770 4.06 0.965 内部への信頼 3.75 0.663 3.88 0.675 3.85 0.475 3.62 0.717 外部への信頼 3.31 0.705 3.42 0.656 3.68 0.503 3.02 0.710 リーダー信頼 3.78 0.752 3.91 0.866 3.80 0.642 3.67 0.707 村落の居住希望 4.32 1.007 4.52 0.909 4.32 1.062 4.15 1.028 性別ダミー 0.82 0.388 0.7045 0.45886 0.8923 0.31240 0.8468 0.36167 居住背景ダミー 0.31 0.464 0.2386 0.42869 0.0462 0.21145 0.5081 0.50196 民族ダミー 0.87 0.341 0.7159 0.45356 0.9385 0.24219 1.7258 8.80995 年齢 - 0.01 1.01 0.04 1.03 0.05 0.95 (0.02) 1.01 居住年数 0.05 1.01 - 0.02 1.00 0.07 1.13 - 0.02 0.99 家族の人数 - 0.01 0.97 0.02 1.00 - 0.05 0.88 -0.002 1.01 CF の活用(薪木) 0.74 0.439 0.73 0.448 0.82 0.391 0.71 0.456 CF の活用(食糧) 0.32 0.468 0.67 0.473 0.37 0.486 0.04 0.198
N 村ダミー 0.32 0.466 ― ― ― ― ― ―
K 村ダミー 0.45 0.498 ― ― ― ― ― ―
(出所)筆者が作成
村落ごとのサンプルのそれぞれで,推計を行うこととする。
3-3.重回帰分析による推計結果
表 7 は,重回帰分析の推計結果を示している。本稿は,SPSS ver.26を使用して推計を行 った。なお,SPSS では,多重共線性が懸念される場合には該当する変数が除去されるよう に設定されるが,多重共線性発生の確認の指標となる VIF.(Variance of Inflation Factor)
を確認した。その結果,VIF. が10を超えるものはなく,深刻な多重共線性の問題は生じて いないと判断した。
以下では,推計結果から,社会関係資本を表すネットワークと信頼の要因,社会属性,お よび村落共有林の利用目的が,それぞれ,村落共有林の管理への参加に与える影響を考察す る。また,各変数の推計結果から,各村落のガバナンスの持つ課題を示すとともに,外部ア クターにより村落共有林事業の支援のあり方にも示唆を与える。
⑴ 個別の集落ごとの推計結果
はじめに,個別の集落ごとの結果について述べていきたい。その結果は大きく 5 つにまと められる。
1 つ目に,村落内の集団行動への関与の度合いが村落共有林の管理の参加に与える影響で ある。N 村と K 村では,村落全体での活動に関与している住民ほど,H 村では,冠婚葬祭 に参加している住民ほど村落共有林の管理活動にも関与している傾向にあることが示された。
つまり,村落共有林の管理については,N 村と K 村では,村落全体の関わりが,H 村では,
身近な住民との関わりが重要であるといえる。
2 つ目に,村落内の交流(ネットワーク)については,N 村と K 村では,どの交流の頻 度も有意な結果は得られず,H 村において,親戚内での交流のみが村落共有林の参加を促す 要因であった。H 村では,移住してきた住民が多く,前述したように冠婚葬祭も影響力を持 っていたことから,親戚内での人間関係が強い可能性がある。親戚は身近な存在であるため に,逸脱的な行為が抑制されやすい環境にあるのかもしれない。
3 つ目に,信頼については, 3 つの村でそれぞれ異なる結果が得られた。H 村では,内部 の住民への信頼と外部の人々への信頼が村落共有林の管理への参加を規定しており,K 村で は外部への信頼のみ有意な結果が得られた。
H 村と K 村で,外部への信頼が有意な影響を持っていたことは何を意味しているのだろ うか。ラオスでは伝統的に資源を共同で利用していた慣習があったとはいえ,村落共有林プ ロジェクトは外部から導入されたものである。外部のアクターを信頼できることで,住民が 積極的に参加をする傾向にあるという結果は,村落共有林が「開かれた」コモンズとして管 理されていると考えられる。ただし,外部の人々を信頼できる基盤があったからこそ,プロ
210 中央大学経済研究所年報 第52号
表7 推定結果 全体N 村H村K村 係数t 値SD係数t 値SD係数t 値SD係数t 値SD (定数)0.6921.3620.5081.1620.8311.3990.5180.5410.9571.3632.2200.614 村落活動の関与
0.304
***5.3110.0440.363
***3.2470.080-0.117-0.7690.0910.199
**2.2980.087 相互扶助の関与0.0350.5500.061-0.010-0.0840.114-0.111-0.6220.1310.0870.8920.106 冠婚葬祭の関与0.109
*1.8540.0580.1261.0950.1300.418
***2.7130.1130.1141.2990.082 村民間の交流-0.043-0.7560.0600.0280.2690.108-0.050-0.2930.135-0.046-0.5350.092 友人間の交流0.0100.1380.0690.1080.9610.137-0.067-0.4420.098-0.073-0.7320.107 親戚間の交流0.0841.1770.076-0.046-0.4010.2220.0600.3990.1150.201
*1.8370.102 内部への信頼0.0671.0730.0870.1311.1050.2000.582
***4.1100.174-0.099-1.0070.123 外部への信頼0.0911.4370.0830.0740.6120.2090.327
**2.1420.1770.155
*1.6970.115 リーダー信頼0.139
**2.3240.0730.0260.2420.139-0.305
*-1.8400.1510.1401.4070.126 村落の居住希望-0.059-1.0330.053-0.045-0.4480.1240.0840.5560.083-0.027-0.2510.093 CF利用(薪木)-0.039-0.6910.118-0.008-0.0750.258- 0.725
***-4.1590.260-0.038-0.4720.159 CF利用(食糧)-0.197
***-2.8660.136- 0.188
*-1.8690.242-0.130-1.0410.150- 0.391
***-5.0400.353 性別ダミー-0.078-1.4330.130- 0.224
**-2.1530.257-0.262
*-1.6870.2900.0080.1030.201 民族ダミー0.0520.9230.153-0.001-0.0090.246-0.026-0.1850.273- 0.162
**-2.0160.183 居住背景ダミー-0.017-0.2290.1460.0100.0680.3850.1090.9670.395-0.136-1.3280.187 年齢0.0340.5480.0560.0760.6450.1310.1230.9440.080-0.154-1.5380.089 居住年数0.163
**2.0340.0730.2061.3480.172-0.158-1.0660.0990.1831.6490.098 家族の人数0.0100.1820.0520.0410.3800.1210.0490.3550.0720.1591.9080.075 N村ダミー0.0560.7200.154――― K村ダミー0.1181.4090.154――― F 値6.179***3.27***3.183***4.252*** 調整済みR20.2730.3200.3800.322 (注)*** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.10. 係数は,定数項以外は,すべて標準化された値である。 (出所)筆者が作成ジェクトが導入された可能性もある。あるいは,村落共有林のプロジェクトが実施されたこ とで,外部への信頼が強まったという逆の因果の関係が成立している可能性もある。どちら にせよ,事業を支援する行政や援助機関は,その信頼性を高めることに努める必要があると いえる。
また,仮説と異なり,H 村では,リーダーである村長への信頼と村落共有林管理の間に負 の関係があることが示された。 1 つの可能性ではあるが,H 村では,リーダーである村長へ の信頼が強い住民ほど,村落共有林の管理は村長に任せており,一個人が積極的に参加しな くてもよいという意識が形成されていると解釈できる。
一方で,N 村では,どの信頼の要因も村落共有林の管理への参加とは関連を持っていなか った。N 村は,前述したように,他の 2 つの村落と比べて,利用,監視,処罰に関して細か な制度を設計しており,社会関係資本が機能しなくても,つまり,高次のジレンマが生じる ことなく,ガバナンスが機能しているとも解釈できる。
ただし,本研究では,ネットワークの構造を十分に捉えられていない可能性がある。森
(2015a)の研究では,当該の 3 村落において,日々の生活での相互扶助と仕事上の協働関係
(ネットワーク)について,それぞれ,ソシオメトリー法を用いて分析している。分析の結果,
N 村は,他の 2 村落と比べて,大きなネットワークがいくつか存在しており,そのネットワ ークは,老人団,女性団,自警団などの役割を持った集団のメンバーで形成されていたこと がわかった。さらに,そのネットワークごとを結び付ける媒介となるメンバーが多数存在す ることが明らかにされている。つまり,N 村では,中心となる人物を経由して,様々な人物 とネットワークがつながっており,村落全体としては,巨大なネットワークが形成されてい る。見方を変えれば,ある人物の行為がネットワークを経由して集落全体に周知されやすい ために,逸脱的な行為が抑制されているとも解釈できる。
4 つ目に,村落共有林の利用目的については,薪や食糧の採取する目的で村落共有林を利 用する住民ほど,村落共有林の管理には積極的ではないことが示された。前述したように,
地域住民は,昔から日々の生活に必要な資源を森林から採取しており,村落で協力して森林 を管理するという意識が薄いのかもしれない。野山に火入れをする焼畑については,様々な 制限の下で,慣習的に行われる一方で,薪木や食糧などの採集については,他の東南アジア よりも人口密度の低いラオスでは緩やかであった可能性はある。
ただし,今後,ラオス経済のマクロ的な成長とともに,当該地域においても,貨幣経済の 浸透や村落内の人口増加などの変化が生じる可能性はある。このような変化が村落共有林の 利用・管理に影響を与えることは想像できる。そのため,村落共有林の日常的な利用でさえ,
村落住民の意識を変える必要があるだろう。
5 つ目に,回答者の属性ごとでの,村落共有林管理への参加頻度の差異について述べる。
212 中央大学経済研究所年報 第52号
性別については,N 村と H 村では,男性よりも女性の方が村落共有林管理の参加に積極的 であることが示された。この結果は,男性よりも女性の方が家事に携わっていることから,
村落共有林の資源が保全されていることに関心が高いと解釈できる。また,この地域では,
竹資源を用いた工芸品の生産を支援するプロジェクトが実施されており,多くの女性が参加 していることが関係している可能性がある。このことは,今後とも,「政府」や援助機関に よる女性への支援を進めることで,女性の社会的地位の向上のみならず,村落共有林の持続 可能性にも正の影響を及ぼすことが期待できることを示唆している。
また,H 村では,ラオ民族よりも少数民族の方(主にカム族)が管理に積極的であること が明らかになった。H 村では,少数民族の方が村落共有林への依存が強いのかもしれない。
鈴木・安井(2002)によれば,もともと山岳地域に住み焼き畑を生業としていたモン族が平 地に移住してきても,水田をするのに十分な土地が配分されず,また,山岳地域の焼畑農民 に帰ってしまう世帯もあるという。この研究を参照すれば,H 村でも少数民族の方が利用可 能な土地だけでは生活に必要な資源を欠いており,村落共有林に頼らなければならないのか もしれない。ただし,鈴木・安井(2002)の研究は,別の地域であり,H 村には存在しない モン族の事例なので,本研究の結果にそのまま当てはまるわけではない点は留意しなければ ならない。
⑵ 全体の推定結果
つぎに,全体の推定結果においては,村落全体の活動への関与,冠婚葬祭への関与,リー ダーへの信頼,居住年数が正の影響を持ち,食糧の採取目的の村落共有林の利用が負の影響 を持っていることが有意に示された。この結果から,地域全体としては,村落内全体での集 団行動や親族間での冠婚葬祭の頻度が盛んであるほど,リーダーの信頼が強いほど,また長 く村落で居住している世帯ほど,村落共有林管理に積極的であるといえる。また,全体とし ても,日々の生活に必要な食糧を利用している世帯ほど,村落共有林の管理には消極的な傾 向にある。この理由は前述したものと同様なものであろう。
全体の結果から,地域全体への支援としては,村長のリーダーシップを強化するような研 修や村落共有林内の資源の有限性や希少性を住民一人一人に理解してもらうような啓蒙活動 が求められる。
お わ り に
ラオスでは,村落の住民が共同で利用できる村落共有林づくりが進められてきた。本稿で は,この村落共有林をコモンズとして捉え,村落内の社会関係資本(信頼とネットワーク)
と住民の管理活動への参加の関係性を明らかにした。本研究の分析結果は,従来のコモンズ 研究と同様に, 3 村落の住民による「共的」なガバナンスは,フリーライダーを抑制しなが
らも,コモンズである村落共有林を維持することができることを示している。また,外部ア クターとの信頼関係も有意な影響を持っていたことから,政府や援助機関の役割も重要であ ることも明らかになった。
その一方,参加を促す社会関係資本の要因は村落ごとに異なっていた。村落ごとに,コミ ュニティの構成や歴史的な背景が違うことで内部で形成される社会関係資本にも差異が生じ,
村落共有林の参加を促す要因にも違いがある可能性がある。本研究では,ある一時点の姿し か描写できていないので,この点については十分な考察をすることができない。また,コモ ンズは,動的な存在でもあり,経過とともにその必要性や管理のあり方の認識も変化してい く可能性が高い。今後,対象の 3 村落で,どのようにコモンズである村落共有林とそのガバ ナンスを世代間で継承しているかについて注視する必要がある。これらの課題は別稿に譲り たい。
謝辞 本稿は,JSPS 科研費19K20525の助成を受けた成果の一部である。また,本研究にご協力いた だいた,ラオス国立大学林学部にこの場を借りてお礼を申し上げる。
参 考 文 献
淺野悟史(2015)『ラオスの森はなぜ豊かにならないのか:地域情報の抽出と分析』農林統計出版 井上真(2001)「自然官吏の共同管理としてのコモンズ」井上真・宮内泰介編『コモンズの社会学:森・
川・海の資源共同利用を考える』新曜社,1-27頁
河野泰之(2008)「動かない森,変転する森:ラオスの森林の100年誌」秋道智彌・市川昌広編『東南ア ジアの森に何が起こっているのか:熱帯雨林とモンスーン林からの報告』人文書院,23-44頁 鈴木基義・安井清子(2002)「ラオス・モン族の食糧問題と移住」『東南アジア研究』第40巻第 1 号,23-
41
高村学人(2012)『コモンズからの都市再生:地域共同管理と法の新たな役割』ミネルヴァ書房 名村隆行(2008)「土地森林配分事業をめぐる問題」,横山智・落合雪野編,『ラオス農村地域研究』,め
こん,203-231頁
パットナム,ロバート・D(2001)『哲学する民主主義:伝統と改革の市民的構造』NTT 出版
東智美(2009)「森と農地を分断する『はかり』」『「はかる」ことがくらしに与える影響:東南アジア農 村部を脅かす影の力』メコン・ウォッチ,29-64頁
東智美(2016)『ラオスの焼畑民の暮らしと土地政策:「森」と「農地」は分けられるのか』風響社 百村帝彦(2001)「ラオスにおける保護地域管理政策の課題:地域における実態を反映した実効性のあ
る政策に向けて」『林業経済』第51巻第12号,22-33頁
三俣学・菅豊・井上真編(2010)『ローカル・コモンズの可能性:自治と環境の新たな関係』ミネルヴ ァ書房
三俣学・森元早苗・室田武編(2008)『コモンズ研究のフロンティア:山野海川の共的世界』東京大学 出版会
森朋也(2014a)「ラオス平地部におけるコモンプールの過剰利用と村落共有林事業:ビエンチャン都サ
214 中央大学経済研究所年報 第52号