◆ 報 告
久留米大学病院における詳細な診療行為の分析と その病院管理・病院経営への活用について
佐藤 敏信1・桑木光太郎2・梶原 晃3
1.はじめに
我が国においては、近年、医療費の増加が問題となっているが、その要因の一つは人口 構造の変化・高齢化であり、もう一つは医学・医療の高度化・進歩である。両者を合わせ ると、平均で毎年3%ずつの増加となっている。増え続ける医療を支える健康保険財政も、
我が国の経済が低迷する中で、保険料収入の伸びは期待できず、税収の伸びも同様である。
そうなると、将来に向けて医療の提供に必要な財源が確保できるのかということが、大き な不安要素となってくる。そうした中で、財務省、厚生労働省は、医療費の適正化と称し て「節約」的な施策を続けている。
この「節約」的な施策の一つとして、ここ数年は、急性期対応と言われる病院の「入 院」に焦点を当てた施策に重点がおかれ、平均在院日数の短縮の推進や「重症度、医療・
看護必要度」の要件の強化が打ち出されている。
その結果、当大学病院(以下、「本院」という。)においても経営に大きな影響が表れ始 めており、その対応が急務となっている。
そこですぐに思いつくのは、急性期病棟本来の医療の提供が終了した患者さんに早期に 退院してもらい、新規の患者さんを受け入れる、すなわち患者さんの入退院の「回転」を 良くするということである。しかし、実際には、早期の退院ができたとしても、すぐに新 規の患者さんの受け入れにはつながらず、しばしば病床の利用率は低下し、一方で患者の 重症度等の要件は強化されているので、病棟業務の煩雑さを生むことになる。
つまり、利益なき繁忙のような状態に追い込まれる可能性がある。加えて、本院の存在
こうした枠組み・体制の構築に当たって、一般の企業の事例から学ぶとすれば、財務、
税務、労務に加えて、個々の「商品」、すなわち診療行為の損益を詳細に分析して対応す るところだが、医療と言うサービスの場合、そのサービスは極めて複雑で多岐にわたるた め、詳細を把握して分析することは簡単ではない。収入の部分は、診療報酬請求の仕組み があるため比較的容易だが、支出については、大部分を占める人件費等の固定費の部分の 按分が難しく、しかも薬剤や機器の「仕入れ」にかかるコストや、さらにその「差益」の 把握も簡単ではない。
そこで、筆者らは、まず、ある程度個別に把握することが容易な収入の部分に着目し、
利益を生んでいる「診療行為」が何かを分析し、明らかにすることとした。これによって、
今後力点を置くべき診療行為が明確になるだけでなく、高度化・細分化したプロフェッ ショナル集団に対して客観的なデータを示して、自主的な改善・改革を促すことも可能に なると考えた。また、その際、単に利益を生むか否かではなく、労務環境を大きく変化さ せずに済むような診療行為についても着目することにした。
2.分析に当たっての考え方・方向等
我が国では、現在ほぼ全ての病院において、レセプトと呼ばれる健康保険法に基づく支 払基金等への償還の請求書が電子化されている。このレセプトは、個々の医療機関ごとに、
患者ごと、月ごとに請求されるものである。その中身は、厚生労働省の決定した診療報酬 点数表と呼ばれる細かな診療行為ごとの点数の集合体となっている。これらのレセプト データは、病院から支払基金等への請求と同時に厚生労働省へも報告されることになるが、
その原本に相当するものは電子的に病院内にも保存されている。従って、その内容を子細 に分析すれば、個々の診療ごとに収入やコストの構造が明らかにできると考えた。
図1
(厚生労働省の公表資料をもとに著者作成)
そこで、筆者らは、このレセプトデータのうち、まずは入院にかかる個々の診療行為 別のデータであるDPC/PDPS4(以下「DPC」と言う。)を使用することとした。これに よって、個々の医療現場における細分化されたDPC病名別の収入(以下「稼働額」と言 う)、さらにはここからコストの一部である特定材料費及び薬剤費を減じたおおよその収 支(以下「粗利額」と言う。)を明らかにすることができる。
参考として図2に従来の出来高方式(いわゆる単価積み上げ方式)による診療報酬の支 払いとDPCによる支払いの差異を示す。
これにより、従来の管理会計的な分析をはるかに超え、部門別収支分析の場合の数百倍 の精度の、細分化された稼働額・粗利額を算出し、こうした一連の作業を病院における新 たな経営分析の基礎となる手法として確立することができると考えた。つまり、ち密で的 確な経営方針・経営計画を立てることができるのである。また、その結果を個々の医療の 現場、職業人に還元すれば、現場レベルでの自主的な改革・改善を促すとともに、職業人 としてのモラールの向上への効果も期待できるのである。
図2
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(厚生労働省の公表資料をもとに著者作成)
3.具体的な分析
⑴ 診療行為別(MDC)で見た時の稼働額の大きさとその伸び
まず、およその傾向を知るためにDPCコード6桁(MDC)による分析を進めた。稼働 額の多いものとその年次推移は図3に示す通りである。弁膜症と頻脈性不整脈の稼働額の 大きさと、ここ数年の伸びが目立つ。(以下の図はいずれも著者作成。事情により、個々 の診療行為名を伏せている。)
図3
平成24年度の値を1としたときのものを図4に示す。
図4
⑵ 詳細な診療行為別(DPC14桁)で見た時の稼働額の大きさ
MDC6桁の結果を元に、DPCコード14桁による詳細な分析を進めた。稼働額の多いも のは次の通り。
図5
次に、稼働額上位100の行為について、1件当たりの稼働額と稼働総額との関係を見た。
頻脈性不整脈・経皮的カテーテル心筋焼灼術と弁膜症・弁置換術が突出しているのがわか る。
図6
突出した1〜5位までを除いて、それ以外の診療行為を明確にしたものが図7である。
図7
さらに総稼働額と総粗利益額(稼働額から高額の薬剤や機器の寄与を減じた金額)との 関係を見たのが図8である。
図8
⑶ 周辺病院との比較
一連の分析で、本院の診療のおおよその傾向がわかったため、本院周辺(2次医療圏)
の他院との比較を行うことにした5。表1として、MDC(6桁コード)別に、一月の症例 数が多い順に、占有率、病床数、手術数を見た。
表1
これをグラフ化したものが図9である。X軸が月当たりの症例数、Y軸が2次医療圏内 の占有率である。たとえば、本院の肺の悪性腫瘍は、月当たりの症例数は多いが、2次医 療圏内の占有率は50%程度である。逆に頭頸部悪性腫瘍は、月当たりの症例数は多くない が、2次医療圏内の占有率は高い。これらの関係を、さらに手術の有り無しで見ることも できる。
5 ここで示した以下の表は、国立がん研究センターの石川光一氏作成のサイトにアクセスし筆者がオンライン作 表したものである。https://public.tableau.com/profi le/kbishikawa#!/
図9
前述のように、本院では、頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術及び弁膜 症の弁置換術の総稼働額・総粗利益額が高いので、循環器疾患全体で他院との比較をした。
図9同様、X軸が月当たりの症例数、Y軸が2次医療圏内の占有率である。
図10
さらに、頻脈性不整脈に絞り込んで見てみたのが図11である。ここでは福岡県全体の中 での各病院の位置を見ている。図ではわかりにくいが、本院は、この疾患の症例数や病床 数、入院日数に関しては九州大学病院とほぼ同位置にいることがわかる。
図11
今度はY軸に2次医療圏内における占有率を取って見てみた。手術のあるなしで見ると、
本院は圧倒的に手術実施の割合が大きい。
図12
頻脈性不整脈に対する各種治療について、福岡県内の大学病院間で、実施数を比較した。
本院は九州大学とほぼ同様の水準にあり、増加している。
図13
050070 頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術(焼灼術、PM移植・交換含むすべて)
(福岡県内4大学 H24 27年度比較)
福岡大学病院 久留米大学病院 産業医科大学病院 九州大学病院
頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術に絞り込んで比較した。本院は、こ こでも九州大学とほぼ同様の傾向を示し、順調に増加している。
図14
050070xx010xx 頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術(経皮的カテーテル焼灼術、処置2なし)
(福岡県内4大学 H24 27年度比較)
福岡大学病院 久留米大学病院 産業医科大学病院 九州大学病院
これを近隣の医療圏で比較した。本院はここでは飛び抜けた位置にある。
図15
050070 頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術(焼灼術、PM移植・交換含むすべて)
(筑後地区 H24‑27年度比較、年間10例以上のみ)
同様に、経皮的カテーテル心筋焼灼術に限って比較した。
図16
050070xx010xx 頻脈性不整脈に対する経皮的カテーテル心筋焼灼術(経皮的カテーテル焼灼術、処置2なし)
(筑後地区 H24‑27年度比較、年間10例以上のみ)
⑷ 悪性新生物の稼働額の大きさとその伸び
大学病院においては、その使命を考えても悪性新生物の診療が重要である。DPCデータ を用いれば、当然のことながら悪性新生物の分析もできるが、診療報酬点数表上の手術行 為の分類であるKコードと国際疾病分類ICDコードとを組み合わせることで、さらに詳細 な検討が可能になる。ここでは28年度のデータについてKコードでソートしてみた。X軸 に件数を、Y軸に粗利額をとっている。
図17
1位から4位までとそれ以下との間に差があるため、5位〜200位を抜き出した。
図18
次に同じデータを用いてICDコードでソートした。X軸に件数を、Y軸に粗利額をとっ ている。
図19
1位から4位までとそれ以下との間に相当の差があるため、5位〜200位を抜き出した。
図20
⑸ 肺がん、周辺病院との比較
本院においては、悪性新生物の中でも肺がんの占める割合が大きい。
表2
MDC別 平成24年度〜28年度稼働額上位
表3
DPC別 平成28年度稼働額上位
表4
DPC別 平成28年度件数上位
次の図は、2次医療圏における、各がんの今後20年の入院患者の動向予測である。上段 は、一日入院患者数、下段は2015年を1としたときの変化率を示している。一見して肺が んの割合が高いことがわかる。
図21
福岡県全体の中での各病院の位置を見ている。図ではわかりにくいが、本院は、肺がん
の症例数、入院日数に関して、九州大学病院とほぼ同位置にいることがわかる。
図22
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各病院の症例数、病床数、相対入院日数
福岡県内における、症例数とそれぞれの2次医療圏ごとの占有率(シェア)を見たもの。
本院の症例数は多いが、シェアはそれほどではない。
図23
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各病院の症例数、2次医療圏内のシェア
福岡県全体での各病院の症例数と病床数、相対入院日数を見たもの。本院の症例数は多 いが、病床数はそれほどでもない。また相対入院日数が短いことから、比較的効率よく入 院患者を回転させていることが推測される。
図24
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各病院の症例数、病床数、相対入院日数
福岡県内の各大学病院について、症例数(全数)の年次推移を見た。当院は症例数も多 く、増加傾向にある。
図25
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各大学病院の症例数(全数)の年次推移
手術症例数(胸腔鏡下、気管支鏡下含む)の年次推移を見た。当院の症例数はそれほど 多くはないが、増加傾向にある。
図26
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各大学病院の手術症例数(胸腔鏡下、気管支鏡下含む)の年次推移
手術なし症例数(化学療法、放射線療法)の年次推移を見た。当院は症例数が多く、増 加傾向にある。
図27
肺の悪性腫瘍 福岡県内の各大学病院の手術なし症例数(化学療法、放射線療法)の年次推移
手術なし症例数(化学療法、放射線療法)の年次推移を周辺の病院と比較した。当院は 症例数が圧倒的に多い。
図28
肺の悪性腫瘍 周辺の病院の手術なし症例数(化学療法、放射線療法)の年次推移
⑹ 救急医療等が病院経営に及ぼす影響
入院の形態、とりわけ時間外、救急車による来院等についても分析してみた。本院の経 営の改善を考えるに当たって、まずは患者さんに来ていただくこと、つまり集患・増患が 重要である。通常は、外来時間を延長したり、救急車の受け入れ台数を増やしたりして対 応するが、そうした一般的な対応が可能かどうか分析してみた。DPCでは入院の手段が記 録されているので、これを見ればいい。
その内訳は次の通り。本院は比較的予定入院の割合が大きいと言える。大学病院の性格 を考えれば、当然ともいえる。
図29
また、外来のレセプトについても、DPC同様電子化されているので、外来において診療 報酬点数表上の「休日・深夜・時間外加算」を算定し、その結果、実際に入院に繋がった 診療行為を拾い出し、さらにその総粗利額を見た。その上位50と加算の内訳は次の通りで ある。
図30
これを百分比にしたもの。個々の診療行為ごとに、どの時間帯の外来患者を増やせば、
入院に繋がるかがわかる。
図31
診療時間を拡大しての集患・増患を考える上での参考となる。
図32
⑺ 重症度、医療・看護必要度が病院経営に及ぼす影響
看護必要度は、「入院患者へ提供されるべき看護の必要量」を測る指標として、厚生労 働省により開発が進められたものである。診療報酬上の算定要件として、平成14年度か ら、特定集中治療室管理料を算定する治療室に初めて導入され、さらに平成20年度からは、
7:1入院基本料(一般の急性期病棟で看護配置が手厚い病棟)に拡大した。平成26年度 からは、名称が「重症度、医療・看護必要度」と改められるとともに、評価項目が改定さ れた。
重症度、医療・看護必要度の導入は、病院経営上大きな意味を持つ。冒頭にも述べたが、
従来、空床があれば、たとえ粗利益が低くとも、集患するか、平均在院日数の基準を超え ない範囲で現に入院している患者さんの入院日数をコントロールしてベッドを埋めればよ かった。同時に看護師を募集して、高度急性期の入院基本料の基準を満たせばよかった。
しかしこれからは、単に看護師数を充足させるだけで高い入院基本料を算定することは困 難になり、一定以上の重症度の患者さんが一定程度入院しているということが条件になる。
そこで、DPC12桁の診療行為と粗利額、それに重症度、医療・看護必要度との関係を見 ることにした。
分析に当たっての考え方
・ 平成30年度診療報酬改定からは、特定機能病院における看護配置7対1での急性期 一般入院基本料(これまでの一般病棟入院基本料)の算定のためには、重症度、医 療・看護必要度(以下、看護必要度)は28%以上が求められる。
・ 今後、この課題に対応するためには、各診療科での現状、とりわけ詳細な診療行為
単位で分析することが重要である。そこで、診療科毎、DPCコード別の看護必要度 を算出し、粗利との相関を分析し、今後の診療の方向性の参考とすることとした。
・ 具体的には、現状でも看護必要度が高く、総粗利額が大きなDPCコードについては より一層の充実をはかり、看護必要度が高くない、あるいは総粗利額が高くない等 の課題があるDPCコードについては、診療科や病棟でさらに検討・分析を行うこと で改善につなげることができると考えられる。
① 消化器内科の場合
診療科の例として、「消化器内科」を示す。X軸にDPCコード別の看護必要度、Y軸に 総粗利額をとっている。総粗利額では、「肝・肝内胆管の悪性腫瘍 その他の手術」に関す る項目が多いのがわかる。以降は、看護必要度と総粗利額の大小で4つの象限に分けて分 析している。
図33‑1
消化器内科における看護必要度と総粗利額との相関
140
120
100
80
60
40
前の図で第1象限に相当する診療行為、すなわち総粗利額が1千万円以上かつ看護必要 度が25%以上のDPCコード(診療行為)を抽出した。これらのDPCコードは、病院経営と いう観点からは言わば「優等生」とも呼べるものである。
図33‑2
消化器内科における看護必要度25%以上かつ総粗利額一千万円以上のDPCコード
同様に第2象限に相当する診療行為、すなわち総粗利額が1千万円以上であるが、看護 必要度が25%以下のDPCコードを抽出した。これらのDPCコードは、看護必要度の中身を 検討することで「優等生」となる可能性がある。
図33‑3
消化器内科における総粗利額一千万円以上で看護必要度25%以下のDPCコード
② 整形外科の場合
同様の分析を「整形外科」についても行った。
図34‑1
整形外科における看護必要度と総粗利益額の相関
120
100
80
60
40
20
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
「整形外科」の場合、DPCコード14桁では複雑多岐にわたり、本院整形外科の特徴と して「脊柱管狭窄」に関するコードが多くなっていた。そこで、「脊柱管狭窄」を除いた MDC6桁で、ある程度まとめた形で分析を行った。
図34‑2
整形外科で脊柱管狭窄を除いた看護必要度と総粗利額の相関(MDC6桁)
消化器内科に倣い、第1象限に相当する診療行為、すなわち総粗利額が1千万円以上か つ看護必要度が25%以上のものを抽出した。ここでは「脊柱管狭窄」は除いている。ここ にあげた診療行為については、一層の充実が求められる。
図34‑3
整形外科で看護必要度25%以上かつ総粗利額一千万円以上のDPCコード(MDC6桁)
次に、第1象限に相当する診療行為、すなわち看護必要度25%以上ではあるが、総粗利 額1千万円以下のDPCコードを示した。これらの診療行為については、看護必要度が比較 的高いが粗利が低いため、利益なき繁忙につながる恐れがあり、今後の検討と対応が求め られる。
図34‑4
整形外科で看護必要度25%以上かつ総粗利額一千万円以下のDPCコード(MDC6桁)
③ 看護必要度と病床を埋める力
そこで、これまでの検討の総括として、X軸にDPCコード別の看護必要度(%)、Y軸 にDPCコード別の延べ患者をとり、さらに総粗利額をバブルの大きさとして反映させたグ ラフを作成した。このうちの、延べ患者は、DPCコード別の「人数×在院日数」で表され る。言い換えれば、これは「病床を埋める力(=集患力)」を意味する。
これにより、DPCコード別の課題や改善の方向性、とりわけ対応の優先順位が見えてく る。例えば、総粗利額は高いが、看護必要度が25%前後のDPCコード(消化器内科の場合、
肝・肝内胆管の悪性腫瘍 その他の手術等)について見直しを行う方が、総粗利額も看護 必要度も低いDPCコードについて見直しを行うよりは経営改善に及ぼす効果が高いといえ る。
また、「整形外科」の場合、同じ悪性腫瘍でも「軟部の悪性腫瘍」と「骨の悪性腫瘍」
では、ともに総粗利額は高いものの、看護必要度が前者は低く、後者は高い。いずれもバ ブルが大きいので、丁寧に検証することで経営改善の効果がでやすいと考えられる。
図35
消化器内科におけるDPC別看護必要度と延べ患者および総粗利額との相関
※バブルの大きさは行為ごとの総粗利額の大きさを表す。
図36
整形外科におけるMDC別看護必要度と延べ患者および総粗利額との相関(脊柱管狭窄除く)
※バブルの大きさは行為ごとの総粗利額の大きさを表す。
今後、このような分析を診療科ごとに行うことで、どのDPCコード・診療行為について 重点的な見直しが必要か、より効果的かといった助言が行える。
ここまでの一連の分析を図示すると次の通りである。
図37
DCP・EFファイルによる経営分析
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(著者作成)
4.今後の発展
⑴ 上述の結果を元に、診療科ごとに分析を進める。
⑵ マクロプログラムを組むなどして、一部自動化し、各診療科に迅速にかつ詳細に提 供する。
⑶ MDCデータ(DPC6桁)を用いて、全国の同規模の他院との比較をする。
⑷ 分析結果の評価に際しては、従来は、客観的なデータの提示にとどまり、その判断 は各自・各診療科に任されていたが、さらに医師等の専門家を加えた主観も入れた複 合的な判断を行う。すなわち、個々の診療行為の緊急的な対応の必要性、侵襲性の程 度、常時監視の必要性の程度等の視点からの評価を加えることで、単なる粗利益額の 多寡だけでなく、実際の労働の密度、困難性等をも加味した分析・評価を行う。
⑸ さらにその先
① (DPCデータ等のレセプトデータ上に存在しない)カルテ等の記述的データにつ
いては、自然言語分析ができないか検討する。その結果が出ればレセプトデータ と関連づけて高度な分析を行う。
② 機器薬剤等の物品管理等のデータについて、記録コード等の統一を図る。それら とDPCデータとを紐づけして分析する。
③ 入院におけるデータであるDPCデータの分析で一定の成果が得られれば、外来に おける診療の電子レセプトデータについても検討する。その際、(外来診療にお ける)診療名の標準化・ルール化を目指す。その上でDPCデータと紐づけして分 析する。具体的には、患者がどういう経緯で来院し、どういうDPC病名が付き、
どういう転機をたどるか、そしてその収支はどうかを明らかにする。
④ さらに院内がん登録データ、今は各診療科が独自に行っている予後調査などと紐 付けし、一連の診療行為の差異が、患者の予後(アウトカム)にどういう違いを 生むかという科学的な証明にも結び付ける。
5.期待される効果と活用
⑴ 技術系職員のモチベーションの向上
高度な専門職である医師等の職員に対して、従来は「組織学習」的な取り組みが中心で あったが、近年の医療の高度化・細分化によって業務範囲の細分化が急速に進む中で、こ うした旧来の手法では到底対応できなくなっている。本研究で提案するように、大ぐくり の収支報告でなく、ピンポイントで結果を提示することで、それぞれのチームが自分たち の問題として捉え、それを自発的な改善や工夫に繋げていくことが期待できる。したがっ て高度な専門職のモチベーションの高揚・喚起のモデル的な手法ともなる。
⑵ 病院経営・病院管理の専門家の育成(人材開発)
従来の、財務、税務、労務の知識とともに、こうした一連の分析とその解釈の方法を伝 達することで、病院経営・病院管理の専門家の育成を目指す。
本研究及びその成果まで含めた全体像を俯瞰すると、図38の通りである。現在は楕円の 網掛けの部分を中心に進めているが、今後は、その右にある「DPCセミナーによる人材開 発」、その下にある「臨床研究等への応用」を進め、最終的には、「地域における医療経
図38
DPC・EFファイルを用いた本分析の検討の流れ
出典:松田晋哉教授「DPC開発の目的」『病院』75巻2号 2016年2月を元に、一部改編
6.補 足
表5
これまでの検討実施状況一覧
日 時 概 要
2017/3/30 第1回病院の将来を考える勉強会
15時〜 病院本館東棟第3会議室
2017/4/21 第2回病院の将来を考える勉強会
10時〜 病院本館東棟第3会議室
2017/5/12 第3回病院の将来を考える勉強会
15時〜 大学本館3階第3会議室
2017/6/23 第4回病院の将来を考える勉強会 15時〜 大学本館3階第3会議室 2017/8/10 第5回病院の将来を考える勉強会
13時30分〜
2017/9/20 第6回病院の将来を考える勉強会 13時30分〜 情報企画支援室会議室 2017/10/20 地域医療構想に関する研修会
17時〜 病院本館第4会議室 2017/11/1 科学研究費補助金応募
2017/12/27 第7回病院の将来を考える勉強会 13時30分〜 病院本館東棟第2会議室 2018/3/1 本中間報告書とりまとめ開始
2018/3/29 本中間報告書とりまとめ完了 2018/3/31 本中間報告書公刊
(著者作成)
7.人権の保護及び法令等の遵守への対応
本分析に際しては、まず「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を踏まえて個
齢に変換した。また、実際の分析に必要な項目だけに限定して処理を行った。筆者らへの 提供はこれらの一連の処理の後であった。
したがって、本研究で取り扱うDPCデータには、患者個人を特定する情報が一切含まれ ない。また、DPCデータには、患者の個人情報だけなく、医師を一意に特定する医師コー ドが含まれるが、本分析では使用しないため、提供自体を受けなかった。
このように、研究担当者、分担者は誰の個人情報であるかを特定できず、しかも項目も 必要最小限であったために、個人情報は確実に保護された。
また、各診療行為にかかる各種のデータ・結果の視覚化とその掲載に際しては細心の注 意を払った。特に、公表されていないデータに基づく図等については、無用の誤解や批判 を招かないよう、意識的に不明瞭に修正したうえで掲載した。