弘 前 医 学
4 4: 1 07‑11 3,1 9 92
一過性全健忘 の発症状況 につ いて
田 崎 博 一1, 福 島 裕1, 大 山 博 兵 2,
渡 辺 俊 二 2) 北 候 敬3)
抄録 一過性全健忘 の自験27例 を対象 に,年齢,発症 の時刻 と持続時間,発症 の時期,発症時の状況,合併症, 脳波所見等 について検討 した.5
0
歳か ら6 9
歳 の間に19
例( 7 0. 4%)が分布 し,加齢が発症 の要因のひ とつをなす
と考 えられた.夜間の睡眠中を除 いて どの時間帯で も発症 し,持続時間 は1.5
時間か ら9
時間の間に分布,時期 は 冬期( 1 2
月〜 2月)か ら春期 (3
月〜 5月)に23例( 85. 2%)
が集中 し季節的要因が認 め られた.高血圧症 の合併 が9
例( 3 3. 3%)にみられ, また,脳波 は1 6
例 に異常所見 を認 め,側頭部の徐波が11例 に出現 した.発症時の状 況 は前夜の飲酒,除雪作業,入浴な どが多 く,冬期間に発症が多い ことと併せ,脳循環の恒常性維持機能 の障害 を背景 として,末梢血管 の急激 な拡張や, それに伴 う血流動態の変化が発症 の要因 となっている可能性が示唆 さ れた.弘前医学
4 4: 1 07‑11 3,1 99 2 Keywords:t rans i entgl obalamnes i a et i ol ogy
pr eci pi t at i ngevent vasor egul at i on agl ng
PRECI PI TATI NGEVENTSOFTRANSI ENTGLOBALAMNESI A
HI ROI CHITAS AKI ,YUTAKA FUKUSHI MA,HI ROFUMIOYAMA
,SHUNZOW ATANABEandKEI HoJ O
Abs t r ac t Tr ans i e ntgl obalamne s i a ( TGA)i sc har ac t e r i z e dbyas ud de nons e tofs e ve r eant e r o gr a de amne s i aandt r ans i e nti nabi l i t yt or e t ai nne wi nf o m at i on, a c c o mpa ni e dbyr e pe t i t i veque s t i o ni ng.I ns pi t e ofnume r ousc as er e por t sande xpe r i e nc e s , t hee t i ol o gyo fTGAr e mai nsunknown.I nt hi ss t udy, t hec l i ni c al 丘ndi ngsf r om 2 7 pat i e nt swi t hTGAwe r ee val ua t e dt oi nve s t i gat e也ee t i ol o gyofTG
A.Theme ana gewa s 56. 5 ye ar swi t har angeof 38 t o 7 0 ye ar s .
Itwa ss e l dom pos s i bl et oknow t hee xa c tt i meo fons e tor t e m i nat i onofa ne pi s ode , S ot ha tt hel e ngt hoft hee pi s odeus ual l yr e pr e s e nt e danappr oxi mat i on.Anal ys ュ s o ft he 27 e pi s ode sr e s ul t e di nade t e m i nat i onof 5. 1 hour sf orave r a gel e ngt h. Four t e e npa t i e nt s ( 51 . 9%) ha de pi s ode si nwi nt e randni ne ( 3 3. 3%) hadi ns pr i ng.
Itwa ss u gge s t e dt hatTGAt e nde dt ode ve l o pi n c ol ds e as on.I nf om at i onwa sa vai l a bl ec onc e mi n gt hec i r c ums t anc e sofal le pi s ode s .Si xpat i e nt sdr ank muc hal c o holt hepr e vi ousni gh
t.Fourpa t i e nt se nt e r e dt he i rs pe l l saf t e rc l e ar i ngaways no w, t hr e edur i ng bat hi ng. Somec i r c ums t a nc e ss uc ha sdr i nki ng,bat hi ngo rcl e ar i ngaways no w mayl e adt os udde n al t e r at i o ni nva s or e gul at i o n. Hype r t e ns i onwaspr e s e nti n 3 3. 3% oft hepa t i e nt s . Agi n g,Orr i s kf ac t o r s f orva s cul ardi s e as es uc hashype r t e ns i onma yal t e rt hef unc t i onofve s s e l ss oast omaket he m mor e s us c e pt i bl et odys r e gul at i on.
Hi r os akiMe d.J .4 4: 1 07 ‑11 3,1 9 92
1)弘前大 学 医学部 神 経精 神 医学 講 座 (主 任 福 島 1)
De par t me ntofNe ur ops yc hi a t
ry,Hi r os akiUni ‑
裕教授)2)弘前変成会病院
3)青森労災病院神経科 平成
4
年4
月22日受付ve r s i t ySc hoolo fMe di c i ne( Di r e c t or:Pr of . Y.
FuKUS HI MA) ,Hi r o s aki ,J apa n
2)
Hi r os akiAi s e i kaiHos pi t al
3)
De par t me ntofNe ur ol o gy,Aomor iRos aiHos pi ‑ t al
Re c e i ve df orpubl i c at i on,Apr i l 2 2,1 9 92
1 0 8
田 崎,他は じ め に
1 )
1 9 5 6
年,BENDE
Rは特徴 ある健忘発作 を示 す症候群 について" Syndr ome ofi s ol a t e d e pi s odeofconf us i onwi t hamne s i a"
と呼 ん2 )
で報告 した. その後,
FI S HER
とADAMS
は 全 く同 じ症候群 を" Tr ans i e ntgl o balamne‑
s i a"
として報告 し,以後 この名称が一般的に 定 着 して い る.一 過 性 全 健 忘( Tr ans i e nt gl obalamne s i a
,以下TGA
と略す) は,突 然 に起 こる数時間のエ ピソー ドで,エ ピソー ド中 は記銘力障害 と数時間か ら数 日,時 に数 年間 に及ぶ逆向性健忘 を呈 し, しばしば同 じ 質問を何度 も繰 り返す" conf us i on"
の状態 と なる. この間,時間 に関す る見当識 は障害 さ れ るものの,言語機能や知的機能,意識 の障 害お よび神経学的異常 は認 めない.エ ピソー ド後 は, その間の出来事 に対す る健忘 と時 に ェ ピソー ド前一定期間の逆向性健忘 を残す.病因 について は現在 の ところなお明 らかで は な く,い くつかの要因 を背景 とした症候群 と 考 えられている.われわれ は
1 9 7 9
年か ら1 9 91
年 の1
3年 間 に2 7
例 のTGA
の症例 を経験 し た.発症状況 を中心 にその臨床像 について報 告 し,病因 に関す る考察 を行 った.対 象
対象 とした症例 は,
① 突然 に発症 す る記銘 力 障害 のエ ピソー ド,
②数時間か ら数 日以 内に完全 に回復 し,エ ピソー ド中の健忘お よび一定期間の逆 向 性健忘以外 に症状 を残 さない,
③ エ ピソー ド中 は記憶障害以外 に神経症状 や高次脳機能障害 を認 めない,
④頭部外傷,てんかん,精神障害 の関与が 否定 され る,
とい う基準で
TGA
と診断 された,男1 3
例, 女1 4
例,計27
例 である.Jul y,1 99 2 Hi r os akiMe d.∫.4 4( 1 ‑ 2)
結 果
1. 年齢 (表 1)
年齢 は
3 8
歳か ら7 0
歳 の間に分布 し,平均 は5 6. 5
歳 である.2.
発症 の時刻 と持続時間図 1にエ ピソー ドの始 まった時刻 と持続時 間 を示 した.
TGA
のエ ピソー ド,すなわち記 銘障害 を伴 うconf us i on
の始 ま りと終わ りを 正確 に同定す ることは実際の ところ容易で は な く, た とえばェ ピソー ドか ら回復 しない ま ま睡眠 に入 り,覚醒時 には回復 していた とい った症例で は,持続時間の同定 は不可能であ る. このような症例 は入眠 までの時間 をもっ て持続時間 とした.夜間の睡眠中を除いて ど の時間帯で も発症 してお り,時間帯 による差 はみ られ なか った.持続 時間 は1. 5
時間か ら9. 5
時間の間に分布 し,平均 は5∴
L時間,エ ピ ソー ドが半 日を越 える症例 はみ られ なか っ た.
3.
発症 の時期 (表2)
発症 の時期 を季節毎 に集計 してみると,冬 期
( 1 2
月〜 2
月)に1 4
例( 51. 9%)
,春期 (3
月〜 5
月)に9
例( 3 3. 3%)
とこの時期 に8 5. 2
%が集中 していた.逆 に
6
月か ら1
1月の夏 ・ 秋期間の発症 は4
例 のみであ り,季節 によ り 発症率 に差 のあることが うかが えた.4.
発症時の状況エ ピソー ドの起 こる直前 に何 を してい た か, あるい は普段 の生活 と異なる状況があっ たか とい う点 について検討 し,表
3
にまとめ た.前夜 の飲酒が6
例,除雪作業が4
例,入 浴が3
例,起床時か ら発症 していたのが3
例 といった ところが 目立 った.飲酒 は,普段 に 比べ明 らかに多量 であった場合 のみを評価 し た.「その他」は,食事中,歩行 中,宗教 の集 会がそれぞれ 1例 である.5.
合併症受診時,薬物投与等 の治療 を受 けている合 併症 の有無 について調べてみる と,高血圧症 が
9
例( 3 3. 3%)
, その他,表4
に示す ような平成
4
年7
月 弘前医学4 4
巻1・2
号●一一一一一●
● 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ●
● 一 ・ ・ . 一 ・
一●●
●
ll一.一・.一●一 ● ● 一 一 一 一 一 一 ・ ・ ● ・ 一 ・.‑ ・
.‑ ● ●
●
●
・.一●
・・‑一一
一●一 一 一 → 一 ‑ ●
一過性全健忘 の発症状況 につ いて
1 0 9
壬 e
● 一 一 一 一 →
● 一 ・ ● ● ・ ● ● . 一 一 一 l 一 ・ ・ ・ l 一 一 ・ ・ . ● . 一 ‑一. ・ . → 一 ・
一. 一 ・ 一 → 一 一 一 一 一 ・ ・ 一 ・ ‑ ・ ・ 一 ● ●
●一一一一一●
0: 0 0
6:001 2: 0 0
18:00 24:00Time 図 1Ti meofons e tandt e m i nat i on
表 l
Mai nc har ac t e r i s t i c sofTGA pat i e nt s i ncl ude di nt hi ss t udy
Pat i e nt s No. %
Ageatons e t ,ye ar s me an±SD r ange Me n 1 3 4 8. 1 5 4. 5 8±8. 8 1 3 8 ‑ 6 6 Wome n 1 4 5 1 . 9 5 7. 9 3±6. 9 9 4 8 ‑ 7 0 Tot a1 2 7 1 0 0 5 6. 5 0±7. 9 8 3 8 ‑ 7 0
表
3 Pr e c i pi t at i nge ve nt sofTGA Pat i e nt s No. % Pr e ci pi t at i nge ve nt
Dr i n k i n ga l c o h o l( p r e v i o u sn i g h t ) Cl e araways now
Taki ngabat h Ge t t i ngup Wor ki ng Doi nghous e wor k Me di c at i on De f e c at i on Ot he r s
643322223
2 8 1 1 4 4 4 4 1 2 4 1 1 7 7 7 7 1 2 1 1 1 1
Tot al
表
2 Se as onatTGA e pi s ode Pat ei nt s No. % Spr i ng( Mar . 〜May)
Summe r( J un. 〜Aug. ) Aut umn( Se p. 〜Nov. ) Wi nt e r( De c. 〜Fe b. )
3
17 9 3
13 1 3
15
9
314日Hi 4 As s oc i at e di l l ne s s Pat i ent s As s oc i at e di l l ne s s
Hype r t e ns i on Chr oni che adac he Ar t e r i os c 】 e r os i s Hype r t hyr oi di s m Ce r e br alaneur ys m
92111
1 1 0
田 崎,他表
5 EEG丘ndi ngsaf t e rTGA e pi s ode Pat i e nt s No. % EEG丘ndi ng
Abnom al
t e mpor als l ow wave s 1 o c ci pi t als l ow wave s s mal ls har ps pi ke s di f fus eal pha Nor mal
l
「⊥3
11 6 5 9. 3
1 1 4 0. 7 Tot a1 2 7 1 0 0
ものがあった.
6.
脳波所見全例 に脳波検査 を施行 している.27例中11 例 は正常範囲の所見
,1 6
例 は表5
に示す ような異常所見 を示 した.11例 で側頭部 の徐波が 認 め られた.
7.
その他1 0
例 でCT
スキャンを施行 したが,異常所 見 は認 められなかった. また,27例中3
例 は 今回のエ ピソー ド以前 に同様 のエ ピソー ドの 既往が認 め られた.考 察
1.性差 と年齢
3
)CAPLA
N は,一定の基準 を満たす文献報告 例4 8 5
例 を集計 し臨床的検討 を行 った.それに よれば,4 8 5
例中,男性2 5 5
例( 5 2. 5 %)
,女性2 3 0
例( 4 7. 5 %)
と,明 らかな性差 は認 められ ず,年齢 は1 3
歳 か ら6 9
歳 まで分 布 し,平 均6 0. 1 4
歳,7 5 %
が5 0
歳 か ら6 9
歳 であった.われ われの症例 も性別 の片寄 りはな く,年齢構成 もCAPLAN
の集計 とほぼ同様 で,5 0
歳 か ら6 9
歳 の間 に1 9
例( 7 0. 4 %)
が分布 していた.加 齢が発症 の要因のひ とつ となっている と考 えられ る.
2.
エ ピソー ドの持続時間前述 したように,エ ピソー ドの開始 と終蔦 を正 確 に同定 す る こ とは困難 で あ る.
CA‑
pLAN
の集計 で は3 6 0
のエ ピソー ドの持 続 時 間の平均 は7. 4
時間で,最短 の症例 は1 5
分,最 長 は7日間であった とい う.2 4
時間 を越 えるJ ul y,1 9 9 2 Hi r os akiMe d.J.4 4( 1 ‑ 2)
エ ピソー ドが1 9
例(5
%)認 められたが,わ れわれの症例で は最長で9. 5
時間であった.拷 続時間の短 い症例 はてんかん発作 との鑑別が 必要であることが指摘 されている.3.
エ ピソー ドの再発本研究で は
TGA
のエ ピソー ド後,当科で 何 らかの治療 を続 けている症例 を除いては事 後調査 を行 っていないので,再発 について論 ずべ き根拠 はもたないが,27例 中3
例( l l. 1
%)で以前 に同様 のエ ピソー ドの既往が認 め られた.つま り,今回のエ ピソー ドが再発で あった とい うことになる.
TGA
4) の再発 の問 題 に関 しては,NAUSI EDA
らが3 2
例 について の平均4 6
カ月の経過観察で5)4
例( 1 2. 5 %)
に,SHUPI NG
らが3 3
例,平均6 0. 3
カ月間の観察で6
例( 1 8 %)
に再発 をみた と報告 し, ほ とん どの症例 は1
回限 りのエ ピソー ドであった こ 6) とを強調 してい る.最近 のGANDOLFO
らに よる1 0 2
例,平均8 2. 2
カ月間の追跡調査で も1 9
例( 1 8. 6 3 %)
と前記 の報告 とほぼ同様 の結果 であった. これ らを総合す る と,再発率 は概 ね1 0 %
台 と考 えられ る.4.
脳波所見 についてわれわれの症例 で は
27
例 中1 6
例 に異常所見 を認 め,内容 は側頭部 の徐波が11例 にみ られ 脳循環系の何 らかの障害 を示唆す る所見 と考えられた.
TGA
エ ピソー ド後 の脳波所見 に関 して,7)FI SHER
らは検査 を行 った1 3
例 中5
例 に軽度 の律動異常 を指摘 している. その後 も,脳波8.9)
異常 を指摘す る報告が散見 され, その内容 は 側頭部 の徐波,あるいは発作波が多い.一方,
1 0
)BENDER
は 「異常のない こと」 をその特徴 の ひ とつ として挙 げ,頭皮上脳波で捉 えに くい 深 い部分の障害 を推測 している.BENDER
のll) 12)
4 )
他,PosER
ら,JAFFE
ら,NAUSI EDA
らは症 例 のほ とん どが正常脳波であった ことを報告 している. これ らの報告 を総合す ると,エ ピ ソー ド間歓期 の脳波 は正常, もし くは非特異 的異常 を示す ものが ほ とん どで,TGA
の病 因 に結 びつ くような特異的な所見,あるいは平成
4
年7
月 弘前医学4 4
巻1・2
号局在 を示 す ような所見 は少 ない と言 えよう.
このよ うにTGAは通常 の頭皮上 の脳 波で は 捉 えに くい病態 を背景 としてい る と考 え られ
13)
るが,RowANらは,7例 のTGA患者 に対 す るエ ピソー ド間歓期 にお ける鼻咽頭電極 に よる記録法 で
5
例 にme s i a lt e mpo r als pi ke
を認 め,側頭葉深部 の一過性 虚血 を推測 して い る.TGAが,エ ピソー ドか らの回復後 は健忘 以外 の異常 を示 さない機能的障害であ る こと か ら,脳波 において もエ ピソー ド中の記録 が 重 要であ る と考 え られ る. エ ピソー ド中の脳12) 波 について
,JAFFE
らは左右差 のある両側側1 4
) 頭部徐波 の群発, T H A R
Pは両側 中側頭部 の突 発性鋭波 (回復後 の脳 波で は正常化) を報告 してい る.エ ピソー ド中の異常脳波が回復後15) 正 常 化 す る こ と は,16) STEINMETZ17) ら, GREENEらも指摘 している.矢幅 は,発作間 軟期 の低振幅徐波が発作 中 には高電位 アル フ ァ波 になった と報告 し,機能的循環不全 との 関連 か ら考察 してい る.5.
合併症TGA の合併症 として最 も多 く報告 さ8‑l
れて
l) , 1 5 )
いるのが偏頭痛 お よび繰 り返 す頭痛 である.
われわれの症例 で も2例 が慢性 の頭痛 を合併 していた. また,われわれの症例 で は高血圧 症 の合併 が
9
例( 33. 3%)にみ られた ことが
特徴的であった.CAPLANの集計 で は,278例 中117
例 に脳 卒 中 に対 す る何 らか の危 険 因子 が認 め られ, その内容 は高血圧症 が25%,冠 動脈疾 患が10%,脳血管障害が
5) 3
%,糖尿病 が2.5%であった.
SHUPINGらの報告 で も高 血圧症合併 の多い ことが指摘 されてお り,高 血圧症 に伴 う脳 の病態がTGA発症 の要因 を なす可能性があ る.一方, 同年齢 の対照群 に 比較 して,健康状 態 はむ しろ良好 で ある とい23)う報告 もある.
6.
病 因 についてTGAの病 因 は前述 した ように現在 なお不 明で はある.従来 の報告 の中で は,後大脳動 脈領域 の一過性脳虚血発作類似 の血管障害 に
一過性全健 忘 の発症状 況 につ いて
1 1 1
5,8,1(1,18,20)病因 を求 め る ものが多 い. しか し,椎骨 ・脳 底動脈領域 の梗塞で は記憶障害以外 に視覚障 害,知覚異常 な どの高次脳機能障害 を伴 うこ とが一般的でTGAのみ を臨床症状 とす るよ うな症例 が実際 には稀 であ ること,後大脳動 脈 閉塞後 の記憶 障害 はTGAよ りも長期 に及 ぶ こと,椎骨 ・脳底動脈梗塞発症以前 にTGA の既往 の ある症例 も稀 で あ る こと,TGAの 生命 お よび脳血管障害 の発症 に関す る予後 は 通 常 の 血 管 障 害 に 比 べ は る か に 良 好 で
3.4,6,21)
ある ことな ど,血管障害 として は説明 の困難 な事実 もい くつか指摘 されてい る.
われわれ は,TGA の病 因 を探 るひ とつの 方法 として発症状況 の検討 を行 った. その結 果,発症 は冬期 間 に多 く, また前夜 に大量 の 飲酒 をしていた り,発症直前 に除雪作業 や入 浴 を していた とい う症例 が比較 的多 い ことが わか った.戸外 での除雪作業直後 や入浴 は末 梢血管 の急激 な拡張が起 こる と考 え られ, そ れ に伴 う血流動態 の変化 がTGA発症 の要因 として関与 してい る可能性 が考 えられ る.前 述 した ように発症要因のひ とつ として挙 げ ら れ る加齢, あ るい は高血圧症 の合併 は動脈硬 化性疾患の危険因子 であるが,動脈硬化性病 変が あ り脳 内血流動態 の恒常性維持機能 が低 下 してい る とすれ ば,飲酒,除雪,入浴 とい った状況 で血流動態 の変化が起 こ りやす くな る ことは十分 に考 え られ ることであ る.最近,
3)
cAPLAN は485例 の TGA についてエ ピソー ド前 の状況 を集計 し血管造影,性交渉,冷水 浴お よびプールや入浴,運動,情動的ス トレ ス, 自動車運転 ,疾病,昼食 な どが多い こと を報告 し, その病 因 として,突然 に起 こる血 管系の トーヌスの調節障害
( a c u t e a r t e r i a l
d ys c o nt r o
l)とい う概念 を提唱 した.例 えば, 脳血管造影 に伴 って2Z) TGAを発症 した とい う 報告が しば しばみ られ るが, これ は血管造影 によって血流動態 や血管壁 の透過性 の変化が 起 こ り一過性 に血管 トーヌスの変動 を もた ら されたため と説明 している. この ような病態 を証明 してい くこ とは容易 で はない と思われ1 1 2
田 崎,他るが,
TGA
の臨床的特徴 を説明す る仮説 と して は興味深 い ものである.発症状 況 か ら病 因 を検討 した研究 として23) は
,FI SH
ERの ものがある.7 8
例の呈 した85回 のエ ピソー ドの分析か ら,26のエ ピソー ドで 何 らかの誘因 を兄いだ している.その内容 は 恐怖や悲嘆 な どの情動体験が8
例,性交渉が7
例,疹痛が6
例,三叉神経痛治療のための 神経節刺激が2
例 とい う結果であ り,FI SHER
はこれ らに共通す るのは情動的色彩 を帯びた 体験 であると解釈 した.情動 と記憶が ともに 海馬 ・辺縁系 に関係の深い機能であることも 併せ,加齢 に ともな う神経系の変化 を基盤 と して,情動体験が誘因 とな り
TGA
のエ ピソ ー ドが起 こるので はないか と論 じている. さ らに,病因 として は従来 よ り指摘 されている 海馬 ・辺縁系の両側性虚血 よりも電気生理的 な障害 に基づ く 「海馬発作」が支持 され る と24)
述べている.平田 らは発症時の状況 を詳細 に 検討で きた自験例14例 中,
9
例 で何 らかの精 神的身体 的 ス トレス を認 めた と報告 してい る.ス トレスの内容 は怒 り,驚 きな どの精神 的ス トレス,過換気症候群,重労働,水泳で ある.海馬辺縁系が記憶 のみな らず情動 とも 密接 に関連 した部分 であるこ とか ら,TGA
の発症要因 として情動 な どの精神的身体的ス トレスの重要性 を指摘 している.
TGA
は一過性 の機能的障害 で,前述 した ように通常 の臨床検査では異常所見 を示 さな い こととが一般的であるため,病因 を直接証 明することは困難である.従来,病因を一過 性脳虚血発作類似 の血管障害 に求める報告が 大勢 を占めていたが,最近 それ以外の発症機 序 を推定す る報告 もみ られ るようになった.そのような意味で,エ ピソー ド前の状況 を検 討する作業 も有用であると考 える.本研究で は飲酒,除雪,入浴な どの状況 に注 目したが, 実際の ところ多 くの症例が歩行中,家事や仕 事 の最中な どに発症 し明 らかな誘因のなかっ た ことも重要な事実である. これ は発症状況 を検討 した他の報告 をみて も同様であ り,今
J ul y,1 9 92 Hi r os akiMe d.∫.44 ( 1 ‑ 2)
後 とも検討 を要す問題 であると思われる.
ま と め
一過性全健忘
( TGA)
の自験例2 7
例 につい て,それぞれの発症状況 を中心 に臨床像 を報 告 した.発症 は冬期 に14例,春期 に9
例 とこの時期 に7
7. 8%が集中 し, また,発症前 の状
況 は,前夜 の飲酒,除雪作業,入浴 な どが多 い ことか ら,血流動態の変化が発症 の要因の ひ とつ となっていることが推測 された.最近 の多数例 を対 象 とした予後 に関す る研 究 よ り,従来言われて きた 「一過性脳虚血発作類 似 の血管障害」 としてのみではTGA
の病因 を説明す ることが難 しい例 もあ り, その病因 に関 しては種々の観点か らの検討が必要であ ると思われ る.文 献
1
)BENDE R,M.
B∴ Syndr omeofi s ol at edepi s ode of conf us i on wi t h amne s i a.
∫.Hi l l s i de Hos p. ,5:21 2‑ 21 5,1 9 56.
2)FI S HE R,C. M. ,ADAMS
,R.D∴Tr ans i e ntgl obal amnes i a. Tr ans .Am.Ne ur ol .As s oc. ,8 3
:1 4 3 ‑1 4 6,1 95 8.
3)CAPL AN
,L B.:Tr ans i entGl obalAmnes i a.
FRE DERI KS
J.A. M. ( ed. ) :Handbook of Cl i ni calNeur ol ogy,Vol .1 ( 4 5);Cl i ni cal Ne ur ops yc hol ogy, 2 0 5‑ 21 8,EI s evi e r Sci ‑ e nc ePubl i s her sB. Ⅴ. ,Ams t e r dam,1 9 85.
4)NAUS I EDA,P, A. ,SHERMAN
,I.C.:Long‑ t e r m pr ognos i si nt r ans i entgl obalamne s i a.
∫. Am.Me d.As s oc. ,2 41:39 2‑ 39 3,1 97 9.
5)SHUP I NG
,J.RリRoL L I NS ON
,R,D.,TooL E
,J. F∴
Tr ans i entgl obalamne s i a.Ann.Neur o
l"7
:2 81 ‑ 2 85,1 9 80.
6)GANDOLF O ,C
,,CAP ONNETTO ,C
.,CoNT
l,M. e t αJ ∴ Pr ognos i soft r ans i entgl obalamne s i a:
A l ong‑ t er m f ol l ow‑ ups t udy.Eur .Ne ur o
1.,32:52‑ 5 7,1 9 92.
7 )FI S HER
,C.M. ,ADAMS
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平成
4
年7
月 弘前医学4 4
巻1・2
号9)HEATHF I E
LD,K.W .G. ,CROFT,P,B. ,SwAS H
,M∴ Thes yndr omeoft r ans i entgl obalamne‑
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Ne u
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一過性全健忘 の発症状況 について
11 3
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"BENNETT
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の脳波.臨床脳 波