弘 前 医 学 45:184‑190,1993
診断 の困難 な前頭葉 てんかん
斎 藤 文 男 臼 谷 心 平* 石 山 哲
佐 藤 泰 治 兼 子 直 福 島 裕
抄録 特異 な発作症状 のために, てんかんの診 断 に疑 問の もたれた症例 の発作症状 の特徴 と脳波像 を検討 した.
第1例 は夜間の胸部苦悶 ・呼吸困難感 を第2例 は不安 ・恐怖感 を,発作症状 として訴 えた. ビデオ脳波同時記録 によ り臨床発作が とらえ られた.第1例 は脳波で は確定 的な所見 を欠いたが,下肢の激 しい運動 を示 し,前頭葉 焦点 に由来す る複稚 な身ぶ り自動症 に相 当す る もの と考 え られた.第2例 は, おびえた表情 ・動作 とともに脳波 で左前頭部 に優位 の発作性活動が記録 された. この種 の発作が, その特異 な症状 と難治性 お よび脳波所見の乏 し さか ら,非 てんかん発作 と診断 され る危険が あること, また, その鑑別 のためには,脳波 ビデオ同時記録 な どに よる発作 の直接的な観察が重要で ある ことを指摘す る とともに,前頭葉発作 の診 断困難性 について論 じた.
弘前医学 45:184‑190,1993 Keywords:frontallobeepilepsy pseudoseizure
partialseizure video‑EEC monitoring
FRONTAL LOBE EPILEPSY W ITH DIAGNOSTIC DIFFICULTIES
FUMIOSAITO,SHINPEIUsUTANI書,TETSU IsHIYAMA YASUHARU SATO,SUNAOKANEKOandYUTAKA FUKUSHIMA
Abstract Twoepilepticcaseswithpeculiarictalbehavior,whichwereclinicallydifnculttodistiguish from psychogenicseizures,WereinvestigatedbyvideoEEC recording.Case1complainedofnocturnal episodesofprecordialdiscomfortanddyspnea.InterictalEEC showednoepileptiform patterns.Ictal manifestationsrecordedonthevideotapewerekickingandpedalingofbothlegs,whichwereconsistent with"frontallobecomplexpartialseizures".Case2hadseizuresofshortdurationwithfeelingoffear. Thevideotapedseizuresshowedfrightenedexpressionandcrymgaccompaniedwithcoveringherfacewith hands.TheEECexhibitedictalpatternslocalizedintheleftfrontalarea.Itissuggestedthatobservation ofictalphenomenausingvideo‑EECmonitoringishelpfultoestablishthediagnosisofepilepsy.
HirosakiMed.J.45:184‑190,1993 弘前大学医学部神経精神医学教室 (主任 福島 裕
教授)
青森 県立 つ くしが丘病院 平成5年4月28日受付 平成5年5月31日受理
DepartmentofNeuropsychiatry,HirosakiUni‑ versitySchoolofMedicine(Director:Prof.Y.
FUKUSHIMA),Hirosaki,Japan
TsukusigaokaAomoriPrefecturalHospital Receivedforpublication,April28.1993 Acceptedforpublication,May31.1993
平成 5年 9月 弘前医学 45巻 2号
は じ め に
てんかん診療 のスター トは確実 な診断であ る. それ は,発作の臨床 的観察所見 を主た る 情報 として成立す る. しか し, 日常の臨床 で は非 てんか ん性 の発作 に遭遇 す る こ とも多 い.その ような発作 は真のてんかん発作 と鑑 別すべ きもの とされ,疑似発 作 (pseudosei‑ zure)とい う名称 まで与 えられている. とこ
ろが,逆 に,いわゆる心因性発作 とまざらわ しい臨床症状 を示すが,実際 はてんかん発作 である とい う例 についての報告が ここ数年散 見 され る. この ような例 には,前頭葉の とく に内側面 に焦点 を示すてんかんが多 く含 まれ ていることが指摘 されている14).著者 らは, 治療経過 中にてんかんの診断 に疑問が もたれ たが,臨床発作の観察 と頭皮上脳波像か らて んかん発作 と判断 された例 について, その診 断学的問題 について論 じたい.
対 象 と 方 法
弘前大学医学部附属病院神経精神科てんか ん外来で治療 中の患者で,発作間欠時脳波で 明確 なてんかん型パ ター ンを認 めず, その特 異な発作症状 か らてんかんの診断に疑問が も たれた症例 の中か ら, ビデオ脳波同時記録 に よ り発作が捕捉 された2例 3発作 を対象 とし た.
症例 は初診時35歳 の男性 と14歳 の女性,栄 病年齢 はそれぞれ18歳 と6歳,診断確定 まで の雁病期間 はそれぞれ28年間 と8年間であっ
た .
結 果
2症例 の臨床経過,発作症状 お よび脳波所 見 は次の ようであった.
症例1 男性 当科初診時35歳 1)経過
家族歴では,2人の子 どもが ともに熱性 け いれんによる治療歴がある.本人 には,出産
診断の困難 な前頭葉 てんかん 185
お よび発育歴 に特記すべ きことはない.小学 校入学前,熱性 けいれんを数回起 こした.幼 稚園か ら小学校時代 にか けて頭部打撲の既往 が3度 あるが,いずれ も軽度 で,意識障害 を きたす もので はなか った.18歳時,突然息苦 しくな り,胸 を叩いた り,部屋の中を歩 き回 るの を親 に目撃 されているが, この最初のエ ピソー ドを本人 は記憶 していない.その後,持 続的 に平均1日 1回の頻度で発作が出現す る ようになった.発作 は,かな らず睡眠中で,急 に胸が圧迫 されて呼吸で きない感 じにな り, 口を手で押 さえて発作終了 まで我慢す る.育 痛がひ どい ときには,胸 を叩いた り,歩 き回 った りす る.持続 は10秒前後.発症 当時 よ り 抗てんかん薬 による治療 を受 けているが,26 歳 の時約1年 間発作 が消失 した こ とが あ る が,その期間以外 は平均1日 1回の発作が持 続 している.服薬 によ り,歩 き回るほ どの強 い発作 は見 られな くなっている.転勤 を契機 に35歳時当科初診 した.初診時脳波では,背 景脳波 に軽度 の β波の混入 を認 めるのみで, てんか ん型パター ンは全 く認 め られ なか っ た.その後,外来で数多 くの抗 てんかん薬 に よるが試 み られたが,発作頻度 は月に5‑ 6 回以下 になることはなかった.使用薬剤 とそ の最大使 用量 は次 の通 りであ る.phenytoin 350mg,carbamazepine 800mg,sodium valproate 1,000mg,clonazepam 4mg, zonisamide300mg.頭部CTスキ ャンで は 異常が認 められなか った. この ように,抗て んかん薬 の調整 に もかかわ らず発作の改善が ない こと,発作が常 に夜間 に出現 してんかん 発作 としての症状が唆味であること,反復施 行 した脳波でてんかん型パター ンが一度 も記 録 されない ことな どか ら,てんかんの診断 に 疑問が もたれた. そのため,46歳時発作の観 察 を主な目的 として入院 した. その結果,入 院中の脳波記録時 に,1回の発作が ビデオ脳 波同時記録 に とらえられた.
2)発作症状
臥床 して睡眠中 (睡眠第1段階),突然覚醒
186 斎 藤 ,他
し,頭部 を左右 に振 る と同時に下肢 を無 目的 に動か しはじめる.喰 り声 を発 しなが ら,下 肢の動 きは徐々 に激 しくなる.12秒後 には両 上肢 を挙上 し,両手で頭上のベ ッ ド柵 につか まる.下肢 をばたつかせる動 きはその まま持 読.やがて,動 きは少な くな り,37秒後 には 両上肢 をおろし, もとの姿勢で静かに臥床す るに至 るが,その とき脳波検査技師に 「すみ ません」 と声 をか ける.
本人 に よる発 作 の記憶 はつ ぎの ようで あ る.「うとうとしていて,突然深い眠 りに落 ち た瞬間発作が来た.後方か ら追突 された よう な衝撃があった.その後少 し意識が途切れ,検 査技師が動かないで といった ところか ら記憶 があ り,それでベ ッ ド冊 につか まった.それ 以後の記憶 はずっとあるが,身体の動 きを止 め られなかった.身体 の動 きが止 まってか ら すみません と言ったのははっき り憶 えていな
い .」
3)発作時脳波所見 (図 1)
発作時の脳波 は一見 した ところ,体動 によ A
September,1993 HirosakiMed.∫.45(2) るアーチ フ ァク ト以外著 しい変化 を示 さな い. しか し,子細 に観察すると,発作開始の 約10秒前に正中中心部 (Cz)に限局する低振 幅の林波様 の波形が数回出現 し(A),発作開 始4秒前か ら全体的に低振幅パ ター ンとな り (B),発作開始 と同時 に脳波 は体動 によるア ーチ ファク トにおおわれ る (C)というわず かな変化が見 られた.アーチ ファク トの合間 にみ られ る脳波 には発作性のパ ターンを見分 けられない.発作終了後 は直 ちに覚醒脳波に 戻 り,徐波の増加 もない.
4)その後の経過
その後,外来でzonisamide,clobazamな どを加 えなが ら抗てんかん薬 を調整 している が,月数回の発作が出現 し,完全抑制 には至 っていない.ただ,発作 は睡眠中にのみ起 こ るので,社会生活 には支障をきた していない.
その後施行 された頭部MRIで も異常 は認 め られなかった. また,性格変化 も含めて,精 神医学的な障害 は認 め られない.
50pVL土塁竺・
図 1 症例1の発 作 時脳 波.
A :頭蓋 頂 (Cz)で位相逆転する低振幅林波.B :全般性の低振幅化.
C:体動 によるアーチファク ト.
平 成 5年 9月 弘前医学 45巻 2号
症例2 女性 当科受診時14歳 1)経過
家族歴 で は,父親が20歳頃 よ り全般性強直 間代発作 と思われ る発作 を認 め,抗 てんかん 薬 による治療 を受 けた ことが知 られた.また, 弟が1歳未満 に熱性 けいれん を起 こした こと がある.本人 は,出産 お よびその後 の発育 に は異常 を認 めなか った.既往 に も中枢神経系 に障害 をもた らす ような疾患 はない.6歳時 よ りてんかんの診断で某病院で抗 てんかん薬 の処方 を受 け,発作 は まもな く抑制 されたが, 脳波 の改善がみ られない とい うことで10歳時
まで服薬 を続 けていた.発作症状 は当科受診 時の もの と同様 であった とい う. その後,服 薬 を中止 し,発作 の再発 もな く経過 していた.
しか し,13歳時 よ り後述 の ような発作が再 び 始 ま り,多 い ときは1日に 4‑ 5回 も出現す るようになったため,上記病院 を再受診 した.
そ こで,phenytoin,carbamazepine,sodium valproateの投与 を受 けたが,発作 の抑制 が 不十分であるため当科 を受診 した.
発作症状 は次の通 りである.突然,背後 か ら何 か に襲 われ るような, あ るいは周囲か ら 視線 を浴 びてい るよ うな強 い恐怖 をおぼ え,
「怖 い」とか 「キャ‑」とい う声 をあげる.浴 びえた表情 をし,両手で顔 を被 う動作 を とも な うことが多い. この間,顔面 はやや紅潮す る.持続 は5‑10秒間だ とい う.本人 には発 作 中の記憶が あ り, また実際,発作 中は呼 び か けに反応 す る.発作後 は速やか に平生 の状 態 に戻 る.明 らかなけいれんは認 め られない.
発作の出現時間 は朝起床 前後が多 く,時 に,明 け方怖 い夢 を見ているうちに発作が起 こる こ ともある とい う.
初診時の脳波 では,覚醒時 に背景活動 でβ 帯域 の徐波が軽度 に増加 し,睡眠時 に14・6陽 性棟波 を認 めるのみで, てんかん型パ ター ン
は認 め られなか った.
carbamazepine600mgか ら治療 を開始 し たが,1日数回の発作 はお さまらず,学校で 発作 を起 こす ことを理 由に登校 したが らなか
診 断の困難 な前頭葉 てんかん 187
った り,早退 した りす るようになった.car‑ bamazepineの血 中濃度が有効 治療域 内 にあ
る (10.7ノ̀g/ml)に もかかわ らず発作が抑制 されない ことや,不安 を主体 とす る症状 であ ることか ら,てんかんの診断 に疑 問が もたれ た. そ こで,carbamazepineを一旦 中止 し, diazepam8mgに切 り替 えた. そ うした とこ
ろ,発作頻度 はさらに増加 し,発作 に尿失禁 を ともな うことが多 くなった. そのため,再 度脳波記録 を施行 した ところ, ビデオ脳波 同 時記録 で2回 の発 作 を記 録 す る こ とが で き
た .
2)臨床発作症状
発作症状 は2回 とも全 く同様 で, それ は次 の ようであった.間隙の まま臥床 していた (覚 醒 中)が,突然薄 目を開 けて両 口角が下方 に 引かれ,べ そをかいた ような表情 となる. そ の直後,両手 で顔面 をおおい坤 き声 をあげる.
呼吸 も速 くなる.7‑8秒後両手 を顔か ら離 すが, この時 は両眼が見開かれおびえた表情 になっている. その後 も両手で顔 を隠 した り 右手 で口をおおった りの恐怖 に襲 われている かの ような仕草がひ き続 き見 られ る.発作開 始後21‑22秒 には口角の とくに右側 に軽 い間 代性の動 きが生 じる. 口角の動 きは約4秒間 続 いた後消失 し,急速 に平生 の状 態 に戻 る.全 経過35‑36秒である.
3)発作時脳波所見 (図2)
発作 開始 とともに,後頭部律動が消失 し,全 般性 に低振幅パ ター ン とな る(A).手で顔 を おお うと同時 にそのアーチ ファク トが混入す る.両手 を顔 か ら離 した時点 (B)で左前頭 部領域 に12‑13Hzの律動波が生 じ,徐々 に 振幅 を増 しなが ら全般化 してゆ く.律動波 は 最後 まで左前頭部 お よび左前頭極部 で最大で あるが,周波数 は次第 に遅 くな り,9‑10Hz になった ときに口角 の けいれ んが 出現 す る (C).律動波の周波数 はさらに遅 くなって,出 現後 約7秒 で明瞭 な林 波 成分 が重 畳 しは じ め,4Hz前後 の棟 ・徐波複合 のパ ター ン とな り(D), それが約1秒 間続 いた後 に突然消失
1288FpFpll VVAA 34343412783456GFFCCPPOOFFTTTTKE
September,1993 HirosakiMed.∫.45(2)
C D
‑ ∴∴ 二、二Tl.I‑1'一一lV‑I::L:ll'::::I:‑I.、̀̀.I:I:.::̲・/
、叫ル uw JJJ,VM vWWVvVvW mrJ√しノーr‑
図2 症例2の発作 時脳 波 .
A :全般性の低振幅化.B:左前頭部 に律動性の速波出現.C:左前頭部の律動波(9‑12Hz,口角の疫学出現).
D:律動波が明瞭な挿 ・徐波複合 となる.
す る.
4)その後の経過
上記の所見か ら,てんかん発作であること が 確 認 で きた た め,carbamazepineを500 mgに増量す る とともに,phenytoin150mg を追加処方 した.その結果, 1カ月後 には発 作の完全抑制 を見 るに至 った. その後5年間 発作のないままで経過 した. しか し,服薬が 次第 に不規則 になったためか,21歳 の時,睡 眠中恐怖感の発作のために覚醒す る と訴 えて 来院 した ものの,その後 は来院 してお らず,経 過不明である.
考 察
近年,てんかんの診断技術の向上 はめざま しく,それがてんかん発作分類およびてんか ん (症候群)分類5)として結実 した ことは周知 の事実である. ビデオ脳波同時記録 は,臨床 発作の詳細 な観察 とその脳波 との関連 につい て検討す ることを容易 にした.画像診断の進 歩 も,脳の形態だけでな く脳血流や脳代謝 を も視覚化 させた.加 えて,てんかんの外科治 療の進歩 は,頭蓋内脳波記録の汎用 により,て んかん発作の解剖学的背景 に関す る知見 を撤
密 にしつつある.てんかん焦点の外科的切除 は, これ まで側頭葉てんかんに対 して最 も多 く適用 され,良好 な治療成績 をあげて きた.と ころが,側頭葉切除後 に発作の改善が得 られ ない例 を検討 してい くうちに, それ らの多 く は実 は側頭葉以外 を起源 とする ものであるこ とがわかってきた.そのような症例の検討か ら前頭葉内側部 に焦点 を有す るてんかんが注 目され,側頭葉の発作 との異同が議論 され る ようになって きたl・4).っ まり,てんかん外科 の側か ら前頭てんかんを側頭葉てんかんか ら 鑑別することが要請 され るようになったわ け である.
1989年の国際抗てんかん連盟のてんかん症 候群分類5)には,前頭葉てんかんは発作症状 と機能解剖学的局在か ら補足運動野,帯状回, 前頭極,眼窟前頭,背外側,弁蓋,運動皮質 に焦点 を持つ発作の7型 に分 けて記載 されて いる.その中で,前頭葉の内側面および眼簡 面 に焦点 を有す る発作 は特異 な身ぶ り自動症 を示 し, きわめて難治であることがわかって きた. その発作症状 の特徴 は概ね次の ように まとめられ るト4).(1)発作開始時か らの体幹お よび四肢の激 しい交代性の運動.つ まり, ち
平 成 5年 9月 弘前医学 45巻 2号
が くような動 き,めまぐるしい姿勢の変化,両 辛 (拍手 な ど) あるいは両足の (ペ ダル を踏 むような)運動,唾 を吐 く動作,奇妙 な呼吸 な ど.この ような症状 のために心因性発作 (ヒ ステ リー発作) と見誤 られやすい.二次性全 般化がお こる と,初期症状 は見過 ごされやす い.(2)発声あるいは発語.叫び声が多 く,罵 声 な ど感情的色彩 を帯 びる.(3)認知機能や記 憶 は発作で障害 されない例 もあるが,他方,健 忘が著 しく発作の 自覚がない例 もある.(4)栄 作後 もうろう状態 はないか,あって も軽微.(5) 発作 は短時間で,10‑30秒の範囲である.(6) 非特異的な前兆 (aura)が先行す ることがあ
る.(7)発作 は側頭葉てんかんに くらべて頻 回 である.(8)発作 は夜間 に多 く,群発 の傾 向が ある.脳波所見の乏 しさもこの種の発作症状 を示す例 の特徴 といわれてい る3).著者 らの 検討で も,発作間欠期 に前頭部発作波 を呈す る症例 には上記の ような発作症状 は全 く認 め られなかった6). さらに, この種 の発作では, 発作時脳波 に も異常 を認 めない ことが少 な く
ない ことも指摘 されている3).
さて,著者 らの症例 について考察 したい.症 例1の発作症状 は,情動的な発声お よび両側 下肢の激 しい交代性運動であ り,上記の複雑 な身ぶ り自動症 (complexgesturalautoma‑
tisms)1・2)あ るい は前頭 葉複 雑 部 分発 作4)と 称 され るもの と一致 している.発作間欠時の みな らず発作時で さえ明確 な脳波所見 に乏 し い こと,お よび発作が難治であることも前頭 葉内側面起源 の発作の特徴 とされている. こ の ような特徴か ら心因性発作 (ヒステ リー発 作) と見誤 られ ることが多い こともすでに述 べた通 りである. また,発作が難治であるに もかかわ らず,知能障害,性格障害,精神病 症状 を呈す ることが少 ない ことも側頭葉 てん かん との差異である といわれている1).なお,
この種の発作 は, ほ とん ど夜間 にお こり,脳 波所見 に も乏 し く,抗てんかん薬が著効 しな い ことな どか ら,てんかんで はな く夜間発作 性 ジス トニー (nocturnalparoxysmaldys‑
診 断の困難 な前頭葉 てんかん 189 ton主a)であると主張す る研究者 もいる7).もっ
とも, これ らの研究者 も最近で は,短時間の 発作 はて んか ん性 の現 象 で あ る と認 めて い る.本症例 も,厳密 には深部脳波等でてんか ん性のパ ター ンが証明 されない限 りてんかん の診断 は確定で きないわ けであるが,上記の 特徴的な発作症状が常 に同 じパ ター ンで繰 り 返 され ること, また,発作が夜間睡眠中のみ に限 られ,心因性発作 とす るには疾病利得 を 想定 しえない ことか らてんかん と考 えて よい であろう.
症例2の発 作 開始時 の症状 は恐怖感 で あ る.恐怖感 は,側頭葉 てんかん (扇桃核 一海 馬発作)で しば しば認 め られ ることが知 られ ている4,7). しか し,本症例で は動作停止か ら 自動症へ といた る側頭葉発作 に特徴的な症状 が全 く見 られない.発作持続時間が著 しく短 く,発作終了後の意識混濁がない ことも側頭 葉起源の発作 とは異なる点である.発作間欠 時脳波で も側頭前部 に限局す る異常 は一度 も 見 られた ことがない. また,発作時脳波 は左 前頭部 に優位 な発作性パ ター ンを示 した.以 上の事実 は,本例 の発作が前頭葉起源である 可能性 を強 く示唆 している. ちなみに,国際 分類5)では弁蓋発作で恐怖感 お よび顔面の部 分性間代発作が生 じうることが記載 されてい る. また,補足運動野の電気刺激で恐怖感が 生 じる とい う報告 もあ るが8),同領野起源 の 発作 に特徴的 と思われ る頭部 ・眼球の回旋 ・ 偏位 あるいは言語停止 といった症状が本症例 では見 られない. もっ とも,前頭葉 自体が解 剖学的に特異 な領域 を欠 く均質かつ大脳の広 範囲 を占める部分であるのに加 え, そこに起 始す る発作発射が急速 に周辺領域 あるいは対 側半球へ伝播 ・拡大す る特徴があることな ど か ら,前頭葉発作症状 の解剖学的局在の解明 は側頭葉のそれ に比較 して立 ち後れているの が現状 である3,4・8)
2例 に共通す る臨床的な特徴 は,治療経過 中にてんかんの診断に疑問が もたれた ことで ある. その理 由は,てんかん発作 としては日
190 斎 藤,他
常遭 遇 す る こ との少 ない奇妙 な発作症状 , お よび脳 波所 見 の乏 しさ,抗 て んか ん薬 治療 へ の抵抗性 とい う点 にあ った.第 1例 は, ビデ オ脳波 に よる発 作記録 か ら,前頭葉 内側部起 源 の てんか ん発作症状 として近 年報 告 されて い る もの と一致 す る と考 え られた.第2例 は, 抗 てんか ん薬 が 中止 され た こ とに よって,栄 作 が頻発 し, ビデオ脳 波 同時記 録 で てんか ん 発作 で あ る こ とが確認 された. す なわ ち, て んか んの治療 に は正確 な診 断 が必 要 で あ り, そのた め に は, てんか ん発 作 についての正確 な知識 と臨床 発作症状 の確認 が必須 で あ る と い う こ とが あ らた め て強 調 され た わ けで あ る.
文 献
1)清野昌一 :成人の難治てんかん.秋元波留夫,山 内俊雄 (編):てんかん学の進歩.No.2‑1991, 51‑73,岩崎学術出版,東京,1991.
2)沼田陽市,八木和一,清野昌一 :前頭葉起源の発 作性自動症.てんかん研究,5:65‑74,1987. 3) WATERMANN,K.,WADA,∫.A∴ Frontallobe
September,1993 HirosakiMed.∫.45 (2)
epilepsy,DAM,M.,GRAM,L.(eds.):Compre‑
hensiveEpileptology.197‑213,Raven,New York,1990.
4) WILLIAMSON,P.D.,WIESER.H.G"DELGADOI EscuETA,A.Ⅴ∴ Clinicalcharacteristicsof partialseizures. ENGEL,∫.(ed.):Surgical Treatment of the EpilepsleS. 101‑120, Raven,New York,1987.
5) CommissiononClassi丘cationandTermino1‑ 0gy ofthe InternationalLeague against Epilepsy:Proposalforrevisedclassi丘Cation ofepilepsleSandepilepticsyndromes,Epile‑
psia,30:389‑399,1989.
6)福島 裕,斎藤文男 :前頭部焦点を示すてんかん の臨床脳波学的検討.臨床脳波,30:709‑713, 1988.
7) TINUPER,P"CERULLO,A,,CIRIGNOTTA,F.et αJ∴Nocturnalparoxysmaldystonia with shortllastingattacks:threecaseswithevi‑ denceforanepilepticfrontallobeorlglnOf seizures.Epilepsia,31:5491556,1990.
8) VEILLEUX,F.,SAINT‑HILAIRE,J.M.,GIARD,N, gJαJ∴ Seizuresofthehumanmedialfrontal lobe.CHAUVEL,P.,DELGADO‑EscuETA,A.V.
gJαJ.(eds.):AdvancesinNeurology.Vol, 57,245‑255,Raven,New York,1992.