弘 前 医 学
55:1 8‑ 2 2 ,2 0 0 3
原 著下北半島過疎地域在住高齢者における
CYP2C19
遺伝子変異頻度の検討4 1 3
男人事正
滞藤
石斉 高 畑 武 功
2)
古 郡 規 雄2)
佐 々木 睦 男
1)
立 石 智 則2)
抄録 内因性や外 因性物質 の酸化代謝 を担 うチ トクローム
P4 5 0 ( CYP)
は複数 の酵素か らなる酵素群であ り,そ の分子種であ る2 C1 9 ( CYP2 C1 9)
はdi a z e pa
m やome pr a z o l e
など多 くの薬物 の代謝酵素 と して知 られ る.生体 内CYP2 C1 9
活性 には遺伝的多型性があ り, 日本人の酵素活性欠損者 はCYP2 C1 9*2
も しくは*3
の変異遺伝子 を有す る. これ までの青森地域 のABO
式血液型の頻度分布や東北地方 出身者 におけるCYP2 C1 9 PM
の頻度 を検討 した報 告 では青森 県 出身者 と他地域 出身者 においてCYP2 C1 9 PM
の頻度や変異遺伝子頻度が異 なる可能性 を示唆 して い る.そ こで今 回下北半 島の過疎地であ る川 内町在住高齢者 のCYP2 C1 9
変異遺伝子 の頻度 を検討 し, これ までの 日 本人 の報告 と比較 した.川 内町 出身 の在住者1 0 8
名 を対象 にCYP2 C1 9
変異遺伝子 を検索 した.今 回得 られた遺伝 子 型 頻 度 はho mo EM :32
.4%,he
tEM :51 . 9%,PM :1 5. 7%
お よび変 異 遺 伝 子 ア リル頻 度 は*1:58. 3%,*2:
3 0. 6%,*3:
ll . 1 %
とこれ までの 日本人 の報告 と有意 の差 を認め なか った.本研究 の結果や これ までの報告か ら, 日本人 においては出身地域 によるCYP2 C1 9
変異遺伝子の頻度や遺伝子型頻度の差異は小 さいと考 え られた.
弘前医学
55:1 8‑ 2 2 ,2 00 3
キー ワー ド:チ トクロームP450;CYP2C1 9;
遺伝子多型.ORIGINALARTICLE
CYP2C19M UTATI ON FREQUENCY I N ELDERLY SUBJECTS LI VI NG I N A SPARSELY POPULATED AREA OF SHI M OXュTA PENI NSULA
Yuki o I s hi zawa l・4)
,Takenor i T
aka l1 at a 2)
,Nor ioYas ui ‑ Fur uko r i 2)
,Mas at o Sai t o 3)
,Mut s uo Sa s ak il) and Tomonor i Tat ei s hi 2)
Abs t r act Cyt oc hr omeP4 5 0pl a ysama j o rr o l ei no xi di z i nganumbe rofe ndoge no usa nde xoge no usc o mpounds a ndi tc o ns i s t sofs ubbm il i esi nc l udi ngCY
P2 C1 9,me t a bol i z i ngdi a z e pa
m,ome pr a z o l ea nds oo n.Thei nvi vo a c t i vi t y o fCYP2 C1 9s howspo l ymo r phi s m a ndaJ a pa nes eCYP2 C1 9po o rme t a bol i z e r( PM)pos s es s est w?
mut a t i o ns ,cy p2C1 9 * 2a n d / o r cY p2C1 9* 3. Pr e vi ousr e po r t ss t udi ngt heABO bl oodt ypef re que nc yi nAo mo n di s t r ic ta ndt heCYP2 C1 9PM f re q ue nc yi ni nha bi t a nt so fTo ho kua r e as ugge s t e dt ha tt heCYP2 C1 9ge no t ype a ndt hemut a t i ona ll e l ef re q ue nc yl napo pul a t i onbo m i nAo mon pr e f e c t ur emi ghtbedi f f e r e ntf ro m t hos ei n o t he ra r e aofJ a pa n. The r e f わ r e,1 08i nha bi t a nt si nKa wa uc hit own,c ount Ⅳs i deofShi mo ki t ape ni ns ul a,we r e r e c r ui t e di nt hi ss t udya nda na l yz e df ort he i rCYP2 C1 9ge no t ype. Nos i gni f ica ntdi f fe r e nc ewasno t e di nt he CYP2 C1 9ge not ypeort hemut a t i o na l l e l e血・ e q ue nc ybe t we e n也epo pul a t i o ns t udi e dhe r ea nd仇os ei npr e vi ous r e po r t s . Pr e vi o uss t ud i esa ndc ur r e ntr e s ul t si ndi ca t et ha tr e g io na lva r ia t i o ni nt heCYP2 C1 9ge no t ypea nd 也emut a t i o na l l e l e血・ e que nc yma yber e l a t i ve l ys ma l li naJ a pa ne s epo pul a t i on.
Hi r os a kiMe d.J .55:18‑ 2 2 ,2 0 0 3
Ke ywor ds : Cyt ochr omeP450・ ,CYP2C191 ,genet i cpol ymor phi s m.
1)弘前大学医学部外科学第二講座
2)
弘前大学医学部臨床薬理学講座3)
弘前大学医学部第一 内科講座4)
別刷請求先:石滞幸男 平成1 5
年6
月1 0
日受付 平成1 5
年7
月31
日受理1) Se co nd De pa r t me nt of Sur ge r
y,Hi r os a ki Uni ve r s i t y,Sc hoolo fMe di c i ne
2) De pa r t me nto fCl i ni c a lPha r m ac o l ogy , Hi r os a ki Uni ve r s i t y,Sc hoolofMe di c i ne
3) Fi r s tDe pa r t me ntofI nt e ma lMe di c i ne,Hi r os a ki Uni ve r s i t y,Sc hoolofMe di c i ne
4) Co 汀e S pO nde nc e:Y.I s hi z a wa
Re c e i ve df orpubl i c a t i o n,J une1 0,2 0 0 3
Ac ce pt e df わ rpubl i c a t i on,J ul y31 ,2 0 0 3
下北半 島在住 高齢者 の CYP2 C1 9 遺伝 子変異頻度
緒 看
ミクロソ‑ムに存在す る‑原子酸素添加酵素 の
c yt oc hr o me P4 5 0 ( CYP)
は複 数 の分子種 か ら構成 され る酵素群であ り, ヒ トにおいては少 な く と も9
分 子 種 (1 A2
,2 A6
,2 B6
,2 C8
,2 C9
,2 C1 9
,2 D6
,2 E
l,3 A4 )
が種 々の薬物 を 代謝す ることが知 られている1).それぞれ の分 子種 の酵素活性 は ヒ トによ って大 き く異 な り, い くつかの分子種 においては遺伝子の変異 によ る酵素活性 の低下や欠損が報告 されている. こ の変異遺伝子を有す ることによる酵素活性欠損 者( poo rme t a bo l i z e r , PM)
の頻度 には人種差 が あ り,CYP2 C1 9
で は 日本人 のお よそ2 0%
がPM
であ るのに対 して欧米人PM
の頻度 は5%
未 満 と い わ れ て い る
2)
.中 国 人 に お け るCYP2 C1 9 PM
の頻度 は 日本人 とはぼ 同程度 と 報告 されていたが,最近 の研究 によれば中国に は数多 くの少数民族があ り,その民族間におい てCYP2 C1 9PM
に頻 度 の差 が あ る こ とが わ か った3)
. またOkubo
らの 日本 人 を対 象 と し た研究 で は東北地方 出身者 のCYP2 C1 9 PM
頻 度は東北地方以外の出身者 に比較 して高い こと を報告 している4)
.従 って 日本人 のなかで も居 住地域 によ りCYP2 C1 9
変異遺伝子の頻度が異なる可能性がある.
川 内町は下北半 島の中ほどに位置す る海沿 い の過疎地である.明治時代以来その人 口は減少 してお り外部か らの人 口流入はほ とん どないと 考え られ る. また津軽地方 を中心 に青森,岩手 の血 液 型 を検 討 した松 木 の報 告 にお いて は,
ABO
式血液型 の分布 が西 日本 と異 なることを 指摘 して い る5)
.松 木やOkubo
らの報 告 は川 内町 にお け るCYP2 C1 9 PM
頻度 に,他地 域 出 身 日本人 との頻度の差が存在す る可能性 を示唆 す る.そ こで 我 々 は川 内町 在 住 者 を対 象 にCYP2 C1 9
変異遺伝子の頻度 を検討 した.対象お よび試験方法
本試験 の試験計画 につ いて,弘前大学倫理委
1 9
員会で審議 され承認 を得て,試験 は
2 0 0 2
年7
月 よ り2 0 03
年3
月 まで に実施 した.1
)対 象本試験 の被験者 (表 1) と して 日本人高齢者
1 0 8
名 (男性1 3
名,女 性9 5
名,年 令 :平 均78
歳( 6 5‑9 0
歳)) を対 象 に した.被 験 者 は何 れ も 川 内町 (図 1) において生 まれ育ち,他地域か らの転入者 は含 まれていない.被験者 には本試 験 に先立ち,本試験 の 目的お よび人権保護 に関 し文書 にて十分説 明 し,同意を書面 にて得た.2)
試験方法 遺伝子型 の検討全血
1 0m
lをヘパ リン採血 にて採取 し赤血球 を溶血後,遠心 にて 白血球 を回収LDNA
抽 出 キ ッ ト( QI Aa mp DNA Bl ood Ma xi Ki t ,
Q ui a ge n
社 製) を 用 い てge nomi cDNA
を 得 た.次 に dNTPs2 0 0〟mol / L ,1 0 ⅩPCR w w / 0 1 0r r mol / L, 2 5 m M MgC1 2 1 . 5 r r m ol / L, Ta q
表 1 対 象者 の年齢 と性 別 No. ofs ub j e c t s 1 08 Age( y)
Me a n 78 Ra nge 65‑ 9 0
Ge nde r
Me n 1 3
Wome n 95
図 1
川内2 0 石 滞,地
表 2 CYP2 C1 9* 2
および*3 検 出のための PCRプライマー CYP2 C1 9* 2 ( e xo n5 )
Fo r wa r dp r ime r 5 ' ‑ AATTACAACCAGAGCTTGGC‑ 3I Re ve r s ep r i me r 5 I ‑ TATCACTTTCCATAAAAGCAAG‑ 3' CYP2 C1 9* 3 ( e xo n4 )
Fo r w ar dp r i me r 5 ' ‑ TATTATTATCTGTTAACTAATATGA‑ 3I Re ve r s ep r i me r 5 ' ‑ ACTTCAGGGCTTGGTCAATATAG‑ 3'
表 3 ア リル頻度
Exo n5 Exo n4
*1 * 2 * 3
Tokyo 1
865 8. 1 0% 2 8. 7 0% 1 3. 2 0%
Ky
us
hu1
405 3. 9 0% 3 5. 0 0% 11 . 1 0%
Ka
w
auch
i(our st u
dy) 1085 8. 3 0% 3 0. 6 0% 11 . 1 0%
[文献
8)
より引用].pol yme r as e 1 . 2 5uni t s ,ge nomi cDNA 2 0 0ng
,PCR f or wa r dpr ime r0. 1L L mOl / L,PCR r e ve r s e pr i me r0. 1〃mol
凡 で反応液 を調製 し,PCRの 条 件 (表2)
を熱 変 性 ス テ ップ( CYP2 C1 9* 2:
9 4
℃,5mi n
,CYP2C1 9*3:9 4
℃,5mi n)
プ ライマーの アニ リングステ ップ( cYp2 C1 9* 2:
53℃ ,1mi n, CYP2C1 9*3: 53℃ , 0. 5mi n)
プ ラ イ マ ー の伸 長 ス テ ップ( cYP2 C1 9* 2:72 ℃,
1mi n
,CYP2C1 9*3:72
℃,0.5mi n)
と してCYP2 C1 9* 2
を40c yc l e , CYP2 C1 9* 3
を35cycl e
と した.PCRか けた後,制 限酵 素 は
e xon4:
B
amHI,e xon5:Sma I
を用 いて30℃ 6時 間 で 処理 した.その後,agar os e
で4%ゲルを作成
し,loxl oadi ngbuf fe r1 . 5L J l
をDNA5.0L L
lと混ぜ 1 0 0V
で約60
分電 気泳動 した.エチ ジウムブロマイ ドで染色 し紫外線をか けて
CYP2 C1 9
の 野 生 株( wt )お よ び 2種 類 の 突 然 変 異 株
( e xon5
,exon4)の判定を行 った.
3)統計学的処理
本研究 で得 られた川 内町在住者 の
CYP2 C1 9
ア リル頻度 とこれ まで の報告8)
され て い る 日 本人 のCYP2 C1 9
ア リル頻度 との比較 には x2 検定 を用 い,P<0.05
の場 合 に統 計学 的 に有 意 の差があると判定 した.結 果
本研究 に参加 した被験者 の背景 を表
1
に示 し た.108
名 よ り得 られ たCYP2 C1 9
のt ot a 13 a
ll e l es
の うち*1,* 2,* 3
ア リル頻度 はそれぞれ58. 3%,30. 6%,l l . 1%で あ った.今 回の研究
か ら得 られたア リル頻度 とこれ までに報告 され ている 日本人のア リル頻度 を比較 した8)
(表 3) が,有意の差は得 られ なか った.またそれぞれの 遺伝子型頻度は3 2 .
4%がho moz ygo t ee xt e ns i ve me t a bol i z e r( EM), 51 . 9
% がhe t e r oz ygot e EM , 1 5. 7%
がpoo rme t a bol i z e r( PM)
で あ った. こ れ まで の遺伝子型 頻度 の報告6)
と比べ て (表4)有意の差は得 られ なか った.
考 察
本研究では下北半 島の陸奥湾沿岸 に位置す る 川内町在住高齢者を対象 に
CYP2 C1 9
変異遺伝 子の頻度を検討 した.我 々の対象の平均年齢 は78
歳 と これ まで の報告 に比べ極 めて高齢 で あ る. しか しなが ら生体 内CYP2 C1 9
活性 と寿命 との関連 を検討 した研究 7)で は,超 高齢者群( 95
歳 以上) と対照群 (中間値27歳)ではそ の 頻度 に差がな く, この酵素の生体 内活性は寿命 に影響 を与えないと結論 している.従 って年齢下北半 島在住高齢者 の CYP2 C1 9 遺伝 子変異頻度
表 4 遺伝子型頻度
n homoEM h e
tEM PM Tokyo 1 86 3 4. 9 0% 4 6. 30% 1 8. 8 0%
Kyus hu 1 4 0 31 . 4 0% 4 5. 0 0% 2 3. 6 0%
Ka wa uc hi ( o urs t udy) 1 08 32. 4 0% 51 . 9 0% 1 5. 7 0%
[ 文献8)
より引用].SmaIDi ge s t i o n( * 2)
W nⅣ m/ m W I W W/ m Wr W Wr W W/ m W/ m
1 2 3 4 5 6 7 8 9
1 0
BamH
Wr W m/ IDi m W/ ge m W s t / W W i o n( / m *3)
WN Wj W W r y 1
2 3 4 5 6 7 8 9 1 0 図 2 PCR
‑ RFLP 解析.
1 レー ンはマ‑カー ,2 L レー ンはブランク ,3 レー
ンは正常 ア リルの コン トロ‑ル,4レー ンは変異ア リルの コン トロール
,5‑ l oレ一 ンは DNA サ ンプル
層によって CYP
2 C1 9 遺伝子型の頻度が異なる 可能性はなく,対
象の年齢を考慮する必要はな いと思われる.
生体 内
CYP2 C1 9 活性には遺伝的多型が存 在 し日本人のおよそ 2 0%が PM であ ると報告 さ
れ て い る.ま た 日本 人 PM で 見 出 され た CYP2 C1 9 変異遺 21
伝子には e xon5 にあるG681 A 変 異 ( CYP2 C
1 9*2) とe xo n4 に あ る G636 A 変異
( CYP2 C1 9* 3)の 2 種類が知 られてお り, これ ま
での報告,久保田らが東京 ( 八王子市)
でお こなった研究で
2 2 石 揮,他
は ア リル頻度
* 2:35. 0%
,* 3:
ll . 1 %
で あ る8) .
今 回の
1 08
名 を対象 と した我 々の検討 にお いて もpM
の頻度 は1 5. 7%
で あ り, *2お よび* 3
ア リル頻度 は30. 6%
お よび11 . 1 %
とはぼ 同様 の値 を示 した.CYP2 C1 9 PM
頻 度 は ア ジ ア人種 で 高 く,大陸在住 中国人では2 4. 0%
,台湾人で は1 5. 0%
, ベ トナ ム人 は20. 0%
と報 告 され て い る9) .
しか し* 2
お よび* 3
ア リル頻度 は アジア 人種 のなかで も一定 してお らず,人種間に若干 差が見 られ る.中国人では大陸在住や台湾在住 に関わ らずCYP2 C1 9* 2
は 日本人 よ り高 く4 0%
前後 で あ るのに対 し
,CYP2 C1 9* 3
は 日本人 よ り低 く1 0%
未満 で あ る.それ に比較 し日本 人 では1 0. 8%
か ら1 5. 6%
といずれ も1 0%
以上 の値 を 示 し て い る.我 々 の 対 象 に お い て もCYP2 C1 9* 3
ア リル 頻 度 は11 . 1 %
で あ っ た.CYP2 C1 9* 3
ア リル頻度 が比較的高頻度 を示す 民族 は少 な く, これ までの報告では韓国,ベ ト ナム, メラネシアの一部 に限 られ る.いずれ も 海沿 いの民族であ り交流 の結果CYP2 C1 9* 3
ア リル 頻 度 が 高 く な っ た の か も しれ な い.CYP2 C1 9
はdi az e pa
m,ome pr azol e,l ans opr ozol e
,mephenyt oi n
など数多 くの薬物 を代謝す ること が報 告 され て い る.CYP2 C1 9 PM
で は これ ら の薬物 の ク リアラ ンスが低下 し,除去半減期が 延長す る.薬物投与 を行 う際,その安全性や有 効性 を考 え るにあ た りPM
に関す る検 討 は重 要 な意義 を持っが,今回対象 とな った下北地 区 の住民においても5‑ 6
人に一人がCY P2 C1 9 PM
であ ることに留意 してCYP2 C1 9
の基質 となる 薬物 を使用すべ きであろう.結 語
下 北 半 島 にあ る川 内町在 住 高齢者 を対 象 に
CYP2 C1 9
遺伝子型 を検討 した と ころ,従来 の 健常成人の報告 されている頻度 と有意 な差 はな か った.参 考 文 献
i)