三重 大 学法 経 論 叢 第2 6 巻 第1号 3 7‑7 8 2 0 0 8 年1 0月
企業との協働に よ る地 域 づく り 推 進事 業 調 査 報 告書
‑ C S R に関する調査報告 ‑
渡 達 明
目 次
1 C S R と は
2 東 京都 商工会 議所 葛 飾 支 部の メ ン バー の C S R に対 する考 え 方 3 三重 県 内の中 小企業のC S R の考 え 方
4 C S R を使って何が できるのか
総 括 ‑ 「新しい時代の 『公』」 という 観 点か らの検 討‑
1 C S R とは
日 本 経 団連は, 2 00 3 年1 月1 4 日の 『多 国 籍 企 業に求め ら れ る社 会 的 責 任に関 する研 究 会 報 告 書』 で C S R に対 する関 心が高 まっ てきた背 景 を 以 下の ように述べている。
1 . 企 業 を 取 り 巻 く 環 境の変 化
(1) 企 業 活 動のグロ ー バ ル化に対 する N G O や途上国の懸 念 (2) 消 費 者 行 動の変 化
(3) 投 資家か らの評 価 (4) 従 業 員の意 識 変 化 (5) 法 制 化に向けた動 き
2 . C S R に関 する国 際 基 準 ・ 規 格の現 状 と 問 題 点 1 . 急 速に増 加 する国 際 基 準 ・ 規 格
2 . 国 際 統 一 基準・ 規 格と文 化 ・ 社 会 的背 景の違い 3 . 国 際 標準化 機 構 (IS O) に よ る規 格 化の動向
IS O は, 政 府の規 制に よ らず, 民 間が自 主 的に国 際 基 準を作 成し, これ に基づ いて各 企 業が社 内 体 制 を 整 備 することの中心 的 な役 割 を 担っ てきた。 I S O の マネジメ ント ・ システ ム規 格と し て は, 9 0 00s (品 質 管 理), 1 4 0 00s (環 境) が有 名だ が, 現 在, C S R に関 する規 格 化の是 非につ いて検 討が進め ら れ ている。
東 京 商工会 議 所H P は, 不 信, 不 透 明 な 時 代だ か らこそと C S R の重 要 性 を以下のように述べ ている。
「企 業という ものは社 会の 一 部であり, 社 会に役 立つこと に よっ てのみ成 り 立つ存 在だ。 あ
なたの会 社の理 念や綱 領にも そ う 書か れ てい る。
その根 底に は当然, 社 会と企 業 との信 頼 という 粁 を 前 提 とし てい る はずである。 しかし, 今 やそこに大 き な ギャッ プが ある ように感じ る。 全ての企 業 人は同 時に社 会に おける生 活 者であ る が, 企 業 人としての視 点と生 活 者と し ての視 点は同じレベル にあるだろうか。 自 分の勤め て
いる会 社 を 一 人の生 活 者と し て信 頼でき ない人 も 少 な く ないかも し れ ない。 もは や売上高や従 業 員 数 などの企 業 規 模が信 頼の指 標にな り 得 ないことは誰 もが知っ ている。 企 業 不 信の表 現と し て 「顔が見 え ない 」 という言 葉 も多く 見かける。 果た し て企 業は どう すれ ば信 頼 を 得 られ る
のか」。
㈱ 経 済 同友会が 20 03 年3 月にま とめ た 『「市 場の進 化」 と 社 会 的 責 任 経 営』 という企 業 白 書 で は, わ が国に おける C S R の典 型 的 な 考 え 方は, 以 下の通 りである と分 析 して いる。
「●C S R と は, 社 会に経 済 的 価 値 を 提 供 すること である。 (⇒専ら企 業の持つ 「経 済 的」 責 任 を 「主」 と考 えてい る。)
●c s R とは, 利 益 を社 会に還 元し, 社 会に貢 献 すること である。 ( ⇒ c s R を 「 コ ス ト」 「
フ ィラン ソロ ピー 」 と考 えている。)
●C S R と は, 企 業 不 祥事を 防 ぐた めの取 り 組み である。
( ⇒ c s R を 「義 務 的取 り 組み」 「法 令 遵 守」 と 考 えている。)」
同 自 書は上 記3 点 を 「 いずれもC S R の 一 部である が, その本 質 を 表し ていない 」 と断じ てい る。 その理 由の第1 は 「企 業の持つ経 済 的 責 任 を 主(社 会 的 責 任 を 従)」 と考 え, 第2 は 「C S R をコスト, フ ィラン ソロ ピー 」 と考 え, 3 は 「C S R を 義 務 的 取 り 組み, 法 令 遵 守」 と考 えてい る と述べてい る。 C S R は, 社 会の持 続 可 能 な 発 展と ともに, 企 業の持 続 的 な 価 値 創 造や競 争 力
図1‑1 2 つの C S R と倫理 l 持続 可能 な 社 会 と2つの C SR
C S R の追 求 に は 倫 理 が 必 要であ る。
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c s Rに は企業外 とのコミュ ニケーショ ンに留ま らず, 企 業内に お け る組 織体 制の構 築な ども 含ま れ るo
c s Rに は, 最低限の法 令遵 守はもと よ り, 事業と密 接 な関係を有 する製品 ・サー ビスの安 全確 保,地 球 環境・廃 棄物リサイ クル対 策を含 め た環境 保護, 労働 環境 改 善, 労働 基 準の遵 守. 人材育 成, 人権尊 乱 腐 敗 防止, 公1Ⅰ二な競 争, 地域 貢献 など, 更に地 域投 資 やメ セ ナ活 軌 フィランソロピー ( 社会 貢 献) など様々な活動に及ぶ た め. 強い倫理性が求め られ る.
C S Rは, 国や 地域の価 値観, 文化,経 済, 社 会 事情に よって多様で あ る が, 共通項は倫確 で あ るo
C S Rの内 容.取組に関し て は,企業の自主性・多様性と戦略 的 取組が重 要で あ るo
c s Rの信 頼惟を支え る取組で最 も重 要な ものは.情 報開示 と説 明責任,ステーク ホルダーに よ る評 価とステーク ホルダー との対 話で あ る。
企 業との協 働に よ る地域づく り 推 進事 業 調 査 報 告書 ○ 向上にも 結び付 く。 その意 味で, 企 業 活 動の経 済 的 側 面 と 社 会 ・ 人 間 的側 面は 「主」 と 「従」 の関係で はな く, 両 者は 一 体のものとして考 えられている。
近年の社 会 構 造の複 雑 化に より,企 業の事 業 活 動に より影響が及ぶ範 囲が広 まっ てきている。
また, C S R の認 識が社 会 的 な 広がり を 見せ る中で, 人々 の考 え 方, 価 値 観等も多様 化しつ つ あ る。 そのた め, 今までス テ ー ク ホルダ ー とし て考 えていない相 手 までステ ー ク ホル ダ ー として 捉 え, 対 応 していくこと が必 要 と なる場 合が出てきている。 例 えば競 合 企 業 など は, これまで であれ ばあ く まで事業上の競 争 相 手であ り, 相 手 企 業に配 慮 すること自 体 が事業 上の マイナス と考 えられることが多かっ た はずである。 し か し, 当 該 業 界の市 場に おける公 正 取 引の観 点か ら見れば, 競 合 企 業との関係にも 考 慮 する必 要があ り, ステ ー ク ホルダ ー と して 一 定の対 応 す ること が必 要となっ てい る。
今 後の企 業 経 営に おい て は, 時 代の潮 流 を 考 えれば地 域 社 会に配 慮しない経 営は社 会 的に認 め ら れな く な り, 地 域 と 共に発 展 するという考 え を 企 業 理 念 とし て考 慮し て行かざるを 得 な く なる と考えられる。
現 在で は C S R を 実 践 することが 世 界 的 な 潮 流とな り, コンプ ライア ン ス, 地 球 環 境 等 を 中心 に C S R を 考 慮しない企 業 活 動は, ある意 味で は許 されなく な りつ つある。 これまで は, こうし
た C S R に対 応し た動 きは大 手 企 業 を 主 とし て進め ら れ てきた が, 近年で は部 品・ 資材の調 達 先 などの, サ プライ ・ チ ェ ー ンに組み込 まれ て いる中 小 企 業にも 要 請 され る ケ ー ス が日 立っ てい る。 特に最 近で は, グロ ー バ ルな 事 業 展 開 を 行っ てい る大 手 企 業か ら部 品 ・ 資 材 調 達 先(サ プ ライヤ ー) に対し て人 権, 環 境 問 題等を 中 心に, C S R 調 達(C S R を 考 慮 した対 応 を 行う企 業か
図 卜 2 C S R と 文化創造
C S R を通 じ て " 誇り の文化、 ' を創 出
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ヒア リング対 象にした大 垣 市の㈱デ リ カスイト で は, C S R 的 発 想で地 域の企 業 をコラ ボレ ー ト さ せなが ら地 域の活 性 化 をデザ インし ている。
大 垣 商工会 議 所 を 中 心に動いてい る C S R 的 発 想は,
「ま ちづく り」 か ら「くらしの場づく り」 へ と 実践 活 動 を 展 開 している。 デ リ カスイト㈱の堀 社 長は, 商工会 議 所の活 動 を 通じ て, 水 都 と言わ れ る大 垣の水 を 利 用 した お豆 腐の開 発⇒ こ のお豆 腐 を 使っ た 「夕 銅 御 膳」 の開発⇒お豆 腐に薬 草の産 地の伊 吹 山の ヨ モギ を 入れ た 「お豆 腐」 の開発⇒ 「 ヨ モギの入っ た油 揚」 の開 発
⇒ 「 いな り 寿 司」 の開 発=〉大 垣 を 「 いな り 寿 司のま ち」 にする という活 動 を 行っ てきた。 堀 社 長 を 中心と し た活 動は 「ま ちづく り」 を 企 業の社 会 的 責 任の観 点か ら追 及し ていこうとする発 想に たっ たものである。 商工会 議 所が地域の大 学や自 治 体 (大 垣 市) を 巻 き 込みな が ら 美 術 館 を 作 り上げ, 60 歳からの大 学 院 を 設 計し て C S R を 展 開 してい る。
図ト 3 堀 社長の考える C S R の観点か らの 「ま ちづくり」 か ら 「くら しの場づくり」
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荏: こ の図は, デ リ カスイ ト㈱の堀 社 長とヒア リング し な が ら 三重大 学 渡 連 研 究室が作ったものである。
2 東 京都 商工会議所葛 飾支部の メ ン バ ー の C S R に対する考 え 方
1) ヒアリング
A) C S R につ い ての ヒ アリング:2 00 7 年8 月2 6 日 山 重 ㈱ 会 長 北 武 洋 氏 ( 東 京 都 漬 物 事 業 協 同 組 合 専 務 理事: 東 京 商工会 議 所 C S R 委 員) のお話
北 会 長のお話は 「倫 理 法 人 会」 に所 属 する と言うことも あって C S R を 企 業 戦 略に組み込 むと
いう 観 点か ら非 常に示 唆に富 む ものであっ た。 経 営 者の モラルが企 業の理 念 形 成に重 要 な 意 味 を 持つと言 うことを 長 時 間に渡っ て力 説 するものであっ た。
)
企業との協 働に よ る 地域づく り推 進事 業 調 査 報告 書 ◎
【この ヒア リ ングのポイン ト】
企 業は適 者生存 . 不適 者 淘 汰 さ れ るの でモラルが 必 要です。 ⇒ 企 業 経 営 者のモ ラ ル
産 地はタ イです。 現 地で, 徹 底した 有 機 栽 培 を指 導し ていま す。 ⇒ 環 境 問 題
点 業は, 土を 深 く 掘 ら な く なっていま す。 土作 りは特に重 要です。 ⇒ 環 境 問 題
東 京 都の CS R の提 案のポ イン ト は, コ ミュ ニケ ー ションを上位に した.
工 1
21 C は, ネッ ト ワ ー クの時 代でフ ァブレ ス を前 提にす るとコミュ ニケ ー ションが 重 要
B) C S R につ い ての ヒ アリング :2 00 7 年9 月7 日 ア メリ カ か ら帰っ てきた ば かりの ベン チャ ー ビ ジネスを 立 ち上げた ば かりの社 長の ヒ アリ ング
rI】小企業に C S R を 行っ てもらうた め に は, C S R を 行 う N PO を 作るのは どうだ ろうか ? ? 1 企 業では資 金が少なくて も, 何1 0 社 も 集ま れ ば イ ン パク ト が強 く なる と言 う 認 識が 必要で ある。 N P O が, どの セク タ ー (部 門) に お金 を 出 すのかを 選 択できる ようにする。 その仕 組み を 作る研 究 をやっ た ら どうだろうか ?
図2‑1 C S R を 追求する N P O の デザ イン
【こ の ヒア リングのポイン ト】
企 業 が 資 金 を 出し て NP O を 作 るo 中れ を 戦 略 的に投 資 す る 日大 き な う ね りに し ていく
C) c sR につ いて の ヒ アリ ング: C SR に関 する キヤ ムブ レ ー ン社 長 太田 実 氏 ( 東 京 商工 会 議 所 葛 飾 支 部 評 議 員) の ヒ アリング
太田社 長は, 東 京 商工会 議 所 葛 飾 支 部の中で は異 色の存 在である。 かな り 早 くか ら C S R を 戦 略 的に生かすと言 う 観 点か ら B C P (Bu sin e s sCo ntin uit y P la n) ・ B C M (Bu sine s sC o ntinuit y M an age m e nt) の発 想で事 業 経 営 を されて いる。 そのた め多 くの 関 連 企 業と緩や かな 連 携 を 保 ち なが ら リスク ・ マネジメ ントを 行っ て い る会社である。 そのた め民 主 的 な 観 点か らの ガバナ
ン スを 実 践して いる。 ( ㈱キヤ ムブレ ー ン のホ ー ムペ ー ジ参 照)
【このヒア リングのポ イント】
社 旦のモチベ ー シ ョンを あ げ る。 ⇒
企 業 連 携 をコ ン トEj ‑ ルす る 組 扱 が 重 要。
喬 客 演 足 度 を あ げ る。 ⇒ 経 営 倫理
K i d 's サ イ ト作 成 ・ 提 供 もC S R であ る。
生産 性 向上
q ガJ け ン ス
⇒ 人材 教 育
D) c s R につ いて の ヒ アリング:葛 飾 商工会 議 所 会 員に 「C SR 活 動で中 小 企 業に 必要 な もの」
と言 う 間 を 発して ヒ アリング し たもの
集 まっ ていた だい た方々か らの発 言の ポ イ ント は, 以 下のよう な もの である。 C SR を 認 識し
て いない経 営 者の方々や認 識して いて実 践にうつ さ れて いる方々と色々 である。 異 なる地 域の
研 究 会と 三重 県の研 究 会の ジョイ ントも 必 要である。 その役 割 を三重 大 学M O T が担 うこと は 可 能である。 両 地 域の比 較 研 究か ら, 企 業の C S R の普 及 を 考 えて いく必要 性 を 提 案し たい。 東 京で の こ の会 議の後, C SR を 企 業 戦 略に位 置づけ ようとする動 きが中小企業の中で出て き た。 三重 県でも 中 小 企 業 を 巻 き込ん だ C SR 研 究 会の組 織 化が 必要であろう。
「P L M (Product Life Cycle M anagem ent) の動 き」 をお諸になっ た デ ジ タル シアタ ー の五十 嵐 社 長は, 三重 大 学M O T の非 常 勤 講 師と し て 2 0 07 年 度に招 碑しており, こ の地 域の経 営 者に その講 義ビ デ オを 配 信して いる。
企業との協 働に よ る 地 域づく り推 進 事 業 調査報告 書 ⑳
【この ヒ アリングのポ イン ト】
人 は. 力であ り, 人 財 は 宝であ る。 ⇒
子 どもに rもの 」 を 作る楽し みを与 え る. 従業 具に教 育の時 間 を 与 え る。
コ ンプライア ン ス
全 員参加 型の運 営 ∃
人 材 教 育
⇒ 人 材教 育
人 材 教 育 経営倫理
ガバナン ス
「ものづ く り」 のお もしろ さ を 知って いる 人 材の育 成
コス ト削 減 と 品 質 向 上 ⇒
P Lll (Pr odu ct L i fe Cycle Ma n age m e nt)
⇒ 人 材 教 育
生 産 性 向上
の動 き が 産 業 界には あ る。 ⇒ 環境問 題
E) これ らの ヒ アリング か ら見 えてくるもの
東 京 商工会議 所 葛 飾 支 部の メ ンバ ー との会 議では, 中小 企 業は大企業ほ ど人 的 資源が ないの
で, 社 員の教 育シ ステムが必 要である こと, 生 産 管 理 も 我 流で や っ て いる場 合が多いの で M OT のよう な ものがある と, 使 えるの ではないか と いう 意 見が多 く 見ら れ た。 実 際, 三重 大 学M O T の講 義 をS ky pe と Fr e sh Voic e を 利 用して企 業に向 け 配 信して, 共 同 研 究と従 業 員 教 育の効 果とを 調 査し て いる。
図2‑2 M O T を使っ た 実 験の概 念 図