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在日外国人児童・生徒の学習権保障に関する一考察

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

在日外国人児童・生徒の学習権保障に関する一考察

著者 平岡 昌樹, 中川 喜代子

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 29

ページ 141‑152

発行年 1993‑03‑01

その他のタイトル A study of guarantee of the right to learn for foreign students at elementary and junior high school in Japan

URL http://hdl.handle.net/10105/6805

(2)

在日外国人児童・生徒の学習権保障に関する一考察

平岡昌樹・中川喜代子

      (社会学研究室)

要旨1近年の多くの外国人の渡日に伴い・外国人子女がわが国の公教育現場に 入ってきてい孔外国人子女のほとんどは日本語が話せず・学校での授業につ

いていけないとか、生活習慣・文化の違いのため学校生活に適応できない等の 問題を抱えている。本稿では、インドシナ難民が比較的まとまって定住してい る姫路市及び尼崎市の小学校を中心として、外国人児童・生徒のための 学習 権 の保障.の緊要の課題を①学習の機械と場の整備,②人材の養成・教材の開 発等の点から明らかにするようにっとめた。

キーワード:学習権保障 外国人児童・生徒 日本語教育

1.はじめに

 1992年7月14日の朝日新聞夕刊に「日系人の就学を拒む」という記事が記載された。これは、

香川県善通寺市の教育委員会が、市内の食品工場で働くブラジル日系人の子どもの小・中学校受 け入れを拒否しており、ブラジル日系人の親子が失意のなか、日本を後にするという「教育権の 保障」に関わる問題提起であった。日本経済の活況と国内労働力市場の質的な変化によって、製 造業、建設業等の未熟練単純労働者の絶対的不足の事態を背景として、1990年、『出入国管理及

び難民認定法』(以下、『入管法』)が改正され、いわゆる 日系人 に対して日本の「定住者」

ビザが発行されるようになり、ブラジル、ペルー等から、多くの日系人が中小企業での労働者と して働くため渡日するようになってきた。このように、合法的に日本を滞在を認められた外国人 労働者は、約20数万人いると推定される。そしてこれら外国人労働者の子女が日本の学校に就学

している状況がマスコミで報道されるようになってきた。また、これら就労を目的として来日す る人びと以外に、中国からの引き揚げ者とその家族、ベトナム、カンボジアなど インドシナ難 民 を含む、いわゆる ニューカマー川〕と呼ばれる外国人も、現在、相当数滞在している。と

ころで、日本社会で生活する外国人は、多くの場合、日本の国籍を持たないため、税金は徴収さ れても参政権は認められていないことに象徴されるように、法制度上はもちろん、文化的にもそ の主たる成員である日本国民とは異質な存在として扱われる。日本に在住する外国人は、それぞ

A study of即arantee of the right to1eam for foreign students at e1ementary and junior high schoo1in Japan

Masaki HIRAOKA(Graduate studen七,Socio1ogy major)

Kiyoko NAKAGAWA(Department of Socio1ogy,Nara University of Education,Nara)

(3)

れ、渡日目的は異なるとしても、ほとんどの場合、例えば、就労環境、社会保障等に関して、日 本国民と同じ扱いを受けているとはいえない。

 一方、視点を教育に向けると、これまで日本語が話せない外国人児童・生徒をほとんど受け入 れたことのない学校現場にも、多くのこれら外国人の子女が就学するようになってきた。そのた め、学校側では、日本語が話せない児童・生徒の日本語指導、教科指導、生活指導に苦慮してい る。このような受け入れ後の対応への懸念を理由に、おそらく、善通寺市の教育委員会は、日系 ブラジル人児童の受け入れを拒否したものと考えられるが、これは、基本的人権としての「教育 を受ける権利」を、日系ブラジル人児童から剥奪したことにほかならない。このような 門前払 い のケースは、例外的なものであるかもしれないが、入学を認められた後にも、多くの外国人 児童・生徒たちは・言語能力のハンディキャップから、授業内容が理解できないとか・学校制度 の違いによる学校生活への不適応、給食が食べられない。  いじめ にあうなど、さまざまな問 題を抱えながら学校生活を送っている。

 人権保障の世界的な潮流のなかで、教育を受けられない/教育を受けられなかった人びとに対 して・  学習権 の保障を主張する民主的教育論が積み重ねられてきた・1985年・ユネスコの国 際成人教育会議は、「学習権とは、読み書きの権利であり、問い続け深く考える権利であり、想 像し、創造する権利であり、自分白身の世界を読み取り、歴史を綴る権利であり、あらゆる教育 の手だてを得る権利であり・個人的・集団的力量を発達させる権利である」とする『学習権宣言』

を採択し、「人が生きのびるのに、不可欠な道具」であり、それなくしては「何人も成長するこ とはできない」  学習権 の地球的規模での保障をアピールした。そして、1990年の『国際識字 年』のキャンペーンによって・特に・アジア、アフリカを中心に約9億の教育を受ける権利を奪 われた 非識字 の人びとに対する識字運動を基盤とする 学習権 保障への積極的な取り組み がなされてきている。  学習権 の保障は、成人だけでなく、いずれ成人となる子どもたちへの 保障が、第一義的な課題であるということはいうまでもない。1989年11月20日に国連総会で採択

された『子どもの権利条約』(ヨ〕でも・12条(意見表明権)・28条(教育への権利)によって・

学習権 を定めている。近年、わが国では、学校教育の現場での体罰、  いじめ 、管理的な 校則等が、子どもの人権の視点から論議され、柔らかな発想としなやかな感性と豊かな生活力を 酒養するための 学習権 の保障が課題として提起されている。

 しかし、このような今日的な学習権 の論議も、外国人といういわば「異質な者」への存在 をどれだけ視野に入れたものとなっているかは疑問である。  人権尊重 が地球レベルでのうね りとなっている現在、来日目的の如何にかかわらず、在日外国人の子どもたちの 学習権 を保 障するための体制を整備することは、経済大国・日本にとって、国際的な課題であるといわなけ ればならない。本稿では、わが国に定住するインドシナ難民児童・生徒の学校教育現場での受け 入れ状況と学習環境の実態を素描することを通じて、恐らくは、今後とも増加しっづけるであろ う外国人児童・生徒に対する アイデンティティ の確立と、  人権 としての 学習権 を保 障していくために、不可避的な学校教育における体制整備の課題を明らかにしたい。

2.わが国における在日外国人児i・生徒の現状

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 いわゆる ニューカマー と呼ばれる在日外国人の子女の学校への就学について、教育関係者 の間で注目されるようになったのは、比較的最近のことである。端的には、1990年6月の『入管 法』改正施行にともない、中南米からの日系人の流入が相次ぎ、その子女がわが国の公立学校に 就学するケースが急増してからであるといってもよいが、この問題が表面化するなかで、1990年 6月以前より来日し、日本の学校に就学していた中国からの引き揚げ者およびその家族やインド シナ難民等の存在も俄に表面化してきた。当然、これら日本語以外の言語を母国語とする子ども たちの教育問題は、彼らが絶対的にマイノリティであったこともあって、一部の受け入れ校また

表1 都道府県別 日本語教育を必要とする外国人死量・生徒数       (1991年9月1日現在)

学校 小学校 中学校 学校 小学校 中学校 計

学校数 児童数 学校数 生徒数 学校数

児童・生徽

学校数 児童数 学校数 生徒数 学校数

魑・生徽

北海道 6 19

4 5

1O 24 滋賀県 17 56 3 3 20 59 青森県 O O O O O O 京都府 8 30 7 17 15 47 岩手県

1 1

0 O

1 1

大阪府 84 105 50 310 134 505 宮城県

7 11

3

5

1O 16 兵庫県 34 101

11

50 45

2ユ1

秋田県 6 11

1 2

7 13 奈良県 15 19 4 16 10 35 山形県

2

3 3

5 5

8 和歌山県 2

3

0 O

2

3 福島県 3 O

2 4 5

13 鳥取県 O O 0 O O O 茨城県 56 204 18 31 74 235 島根県

1 1

O O

1 1

栃木県 18 91 8 16 26 107 岡山県 12 25

2 2

14 27 群馬県 65 221 24 71 80 292 広島県 37 98 17 80 54 187 埼玉県 33 112 13 32 46 144 山口県

2

3

1 2

3

3

千葉県 52 134 18 50 70 184 徳島県

2 2

O 0

2 2

東京都 253 586 97 273 350 850 香川県

5

13 3

4

8 17

神奈川県 184 535 200 2641 261 735 愛媛県

1

3 0 O

1 R

新潟県

2

10

1 3

3

11

高知県 10 17 3

5

13 22 富山県 8 10

1 2

9 12 福岡県 10 27 6 8 16 35 石川県 6 8

1 1

7

9

佐賀県 O O O o 0 O

福井県 8 15 O 0 9 15 長崎県 3

5 3 5

6

且O

山梨県 10 36

2 3

21 39 熊本県 6 16

3 5

9 21 長野県 40 106 20 31 60 137 大分県 0 O

1 1 1 1

1岐阜県 41 81

11 ユ7

52 98 宮崎県 3 6

1 1

4 7 7静岡県 117 423 41 61 158 484 鹿児島県 2 4

2 2

4 6 6愛知県 215 526 56 91 271 317 沖縄県 17 53 8 37 25 90

90三重県 23 89 10 27 33 116

1,437 3,976

536

1,485 1,975 5,463

文部省調査より

(5)

は、これら外国人児童・生徒が集住する地域を除いてほとんど、その日本語指導、学習指導、生 活指導さらには進路保障といった問題は、限られた地域の限られた学校における特定の問題とし て、大きくクローズ・アップされることもほとんどなく、そのことが 人権 の視点にたった受 け入れ体制の整備を遅らせてきたともいえよ㌔

 ところで、外国語を母国語とする外国入児童・生徒を対象に全国レベルでの調査が行なわれた のは、1991年の9月に文部省海外助成局海外子女課によって実施された「日本語教育が必要な外 国人死量・生徒の実態調査」しかない。以下、この調査結果に依拠しつつ、外国人児童・生徒の 教育をめぐる状況について、概観しておく。o〕

 調査結果によれば、平成3年9月1日現在、「日本語教育が必要な外国人児童・生徒の数は、

小学校3,978人、中学校1,485人、合計5,463人を数え、受け入れ枝も、それぞれ、1,473校と536校 で、合わせて1,973校に達している。地域別にみると、小学校では、東京の586人を筆頭に神奈1Il、

愛知、静岡などが400人以上、他方、中学校では、大阪310人をはじめ、東京、神奈川などが続き、

いずれも大都市およびそ.の周辺に集中してい孔これは、彼らの保護者たちが・労働力不足に悩 む大都市近郊の中小企業に就労する傾向が強いからだと考えられる。特に南米日系人の場合、自 動車関連の下請け工場で働くケースが多く・このような下請け工場が密集する豊田市(愛知県)、

浜松市(静岡県)などに、外国人児童・生徒が集中している傾向がある【表1】。

 これら外国人児童・生徒の母国語としては、小学校でポルトガル語が1,665人(41.9%)と最 も多く、以下、中国語999人(25,1%)、スペイン語451人(11.3%)、ベトナム語170人(4.3%)

などの順となっている。他方、中学校では、中国語を母国語とするものが625人(42.1%)と最 も多く次いでポルトガル語267人(18.O%)・韓国・朝鮮語187人(12.6%)・スペイン語145人(9.

8%)、ベトナム語93人(6.3%)などの順となっている。なお、公立小・中学校に就学する日本 語教育を必要とする外国人児童・生徒の母国語の種類(言語数)は、実に42言語にのぼる【表2】。

表2 言語別一日本語教育を必要とする外国人死量・生徒数(%)

 総数  ポルト      スペイ  韓国・ ベトナ      フィリ

(=1OO%) ガル語  中国語  ン 語  朝鮮語  ム 語  英 語  ピン語  その他

小学校 3.978 41.9 中学校  1,485

18.O 5.463     35.4

25.1 42.1 26.7

11.3 9.8 1O.9

3.5 12.6 6.O

4.3 6.3 4.3

3.O 2.5 2.8

2.4

1.8 2.2

8.6 7.O 8.2

      文部省調査より

 日本語教材等の使用状況(複数回答)をみると、小・中とも半数近くが「特別な教材を使用し

ていない」としており、「教科書以外の適切な編成の日本語教材を使用」がそれぞれ4割程度あ

るが、「在籍学年より下の学年の国語教科書を使用」が小学校40%、中学校29%を占めているこ

とも注意を引く。国や都道府県などの具体的な対策がないままに、個々の教育現場では、以上に

みたように、日本語を話せない児童・生徒を前にして、手をこまねいてはおれず、突きつけられ

た現実にともかくも対応してきているというのが実態であるが、暫く1992年度から、実質的に初

(6)

めて文部省が対応のための措置を講じることになった。( 〕その一つが「外国人子女日本語指導対 応」研究指定校制度であり、1992年度、207名のr日本語指導教員」の加配を予算化した。また、

9月には日本語指導のための教材『にほんごをまなぼう』が作成された。実質的には、日本語指 導は各学校の外国子女の指導にあたる教師の裁量にまかされていたが、これまでの日本語のテキ

ストはどれも成人向けのものであり、児童・生徒が理解しにくい内容のものであった。また、学 校生活で使われる言葉がほとんどそれらのテキストになく、自主教材や補助プリントですませて いただけに、今回刊行された日本語のテキストは、(1)最も必要な日本語から学習できるよう体 系的に構成されている。(2)できるだけ文字を少なくし、イラストや漫画で会話を学習できるな どの点で評価でき孔1992年8月には、全国から外国人子女教育に携わる約1,OOO人の現場教師 を集め、このテキストを使用した日本語指導のための1週間の集中研修が、文部省主催で筑波大 学で開催された。他方、日本語・日本文化だけでなく、母国の文化・言語に触れる民族教育や母 国語教育も  学習権  の主要な構成要素である。韓国籍・朝鮮籍児童・生徒が多数生活してい る大阪市においては、韓国・朝鮮の民族教育が全国に先駆けて取り組まれており、すでに20年の 実績をもっているが・その大阪市においてさえ・いわゆる ニューカマー の子女に対する民族 教育らしきものは・現状ではほとんど行われていない。(5〕

3.外国人死量・生徒受け入れ校の実態

 それでは、現在、外国人死量・生徒を受け入れている学校では、どのような取り組みをしてい るのだろうか?どのうな指導上の問題点があるのか、学習面だけではなく、生活指導上とのよう な問題を抱えているのか?保護者との連絡、地域社会との関係でどのような問題を抱えているの か?などについて、インドシナ難民児童・生徒を受け入れている学校の実践を通して、明らかに

していきたい。

 インドシナ難民としては・まず、1975年のサイゴン陥落後の社会主義化政策を機に・迫害を逃 れるために国外へ自由を求めて脱出したベトナム難民があげられる。また、ほぼ同時期に、隣接 するラオス・カンボジアも社会主義政権の成立を契機とする国内のこ混乱から多数の難民を輩出 し、インドシナ3国を合わせて、現在までに約207万人が流出しているといわれている。そのう ち、日本に定住が許可された難民はわずか8,460名(ベトナム6,076名、ラオス1,183名、カンボジ ア1,201名)であ孔定住が決まったインドシナ難民に対しては、アジア福祉教育財団の難民事 業本部が、定住のための受け入れ教育を一括して行っている。難民事業本部では、神奈川県の大 和市と兵庫県の姫路市に定住促進センター、東京の品川に国際救援センターを設け、定住する難 民の日本語教育並びに日本社会への適応指導教育を行っている。このセンター入所期間中、就学 年齢の子どもたちは、約1ケ月のセンターでの日本語教育を受けた後、センター近隣の小学校に 通学することになっている。大和の定住促進センターの場合、それら児童の受け入れ校は南林間 小学校であり、姫路定住促進センターは砥掘小学校である。これらの学校では、それぞれ難民児 童のための特設学級を設け、原学級から抽出して、日本語、算数および生活指導を行っている。

以下、姫路市立砥堀小学校と、同じく難民児童を多数受け入れている兵庫県尼崎市立園田北小学

(7)

校の現状と問題点を検討する。

 (1〕編入学状況一…・・砥堀小学校では1979年10月から難民児童を受け入れているが、センター   入所期間中のみの通学のため、児童の編入学並びに転出が年間牽通してあり、平均的に述べ   20名以上の児童が在籍する。1992年5月1日現在、ベトナム難民7名、ラオス児童3名が在   籍している。

   一方、尼崎市の園田北小学校では、学校区にある南清水雇用促進住宅に、33世帯150人の   ベトナム人が入居しており、1982年に2名のベトナム難民児童が編入して以来、1992年4月   1日現在までに、述べ45名の難民が同校に転入してきている。1992年4月1日現在、23名の   いずれもベトナム難民が在籍している。

 (2)外国人加配について…一・・砥掘小学校では、年間を通して20名以上の難民児童が編入して   くるため、現在2名の外国人加配教員で県費で置かれてい孔(卸園田北小学校では、1987年   頃らベトナム児童の転入が多くなり、1990年から外国人加配が、同じく県費で1名配置され   た。翌1991年からは、2名の加配が県費で配置されている。

 13)難民児童のための特設学級について………砥堀小学校では、「竹の子学級」という難民児   童のため学級を設け、技能科(音楽、図工、体育、家庭科)以外の教科を別室で指導してい   る。教科指導といっても、日本語を学習して間もない難民児童であるため、日本語指導と算   数指導が中心であるが、日本の学校生活へ適応するため、学校の基本的規則等の生活指導も   「竹の子学級」で行われている。

 la〕日本語指導………あいさつ程度の日本語しか話すことができないため、ひらがな・かたか   なの読み書きが正しくできるように指導する。その後、2年制程度の漢字を、ドリル、プり   ソトを使って学習させている。日本語の名詞等の学習は・具体的やフラッシュカードを使っ   て学校生活に関係するものから教えている。また、曜日や年月の読み書きなど日常、最も頻   繁に使われる単語を中心に、加配教員が独自で編纂した教材を使用して学習させている。成   人向きの日本語教材はかなり出版されてるようになったが、日本語を話せない子どもに対す   る日本語教材はほとんど市販されていないため、現場の学校教育の裁量によって日本語指導   がなされている。

 lb〕算数一…・・言葉の理解が十分でないので、文章題などの問題の指導は困難であり、それぞ   れの学年に応じた計算技能を中心に指導を行っている。その前段階として、1から100まで   の数字が正しく読めるようにさせている。かけ算の 九九 の学習については、日本語では   抵抗が大きいため・ベトナム児童には・主にベトナム語で練習させている。

 (c)生活指導・……・・生活習慣の違いから日本の学校の習慣に馴れない児童も多く、特設学級で

  は日本の学校のきまりや学習の仕方を指導する。難民の成人に関しては、定住促進センター

  で仕事、防犯・防火、銀行の利用方法など、日本の生活に適応するための指導がなされてい

  るが、就学年齢の子どもたちには、まず1日の生活の大半を過ごす学校生活への適応に指導

  のポイントがおかれる。同じベトナム難民児童でも、母国での就学経験を持たない者、東南

  アジアのキャンプ地で生活をしていたため満足な教育を受けていない者など、生活体験はき

(8)

 わめて多様であり、一般的に、編入当初は学校生活に適応できない者が多い。そのため、身  振り・手振りと、「よろしい」(Yes)、「ため」(No)の2つの言葉で生活指導を始める。主  な指導事項は以下の通りである。 ①チャイムの合図で、1時間目、2時間目等の勉強があ  ること。 ②授業中は自分の席に座って勉強すること。 ③人のじゃまにならないように大  きな声で話をせず、静かに勉強すること。 ④人が質問されていることやプ→ソトなどの答  えを教えないこと。 ⑤朝の活動がある時は、外に出て、原学級の児童といっしょに行動す  ること。 ⑥新学級で勉強するときは学習道具を親学級へ、「竹の子学級」で勉強する時は  「竹の子学級」へ持ってくること。 ⑦学校から無断でセンターへ帰らないこと。 ⑧毎日、

 帽子・名札・ハンカチ・ちり紙を持ってくること。

  園田北小学校では、ベトナム児童の特設学級は低学年(1年〜4年)と高学年(5年〜6  年)に別れており、低学年は国語を、高学年は国語と算数を中心とした別室指導をなされて  いる。低学年児童の場合、日本生まれの子どもたちは日本語の習得状況が良好であり、教科  書を使用して授業を進めている。特に、文字の書き順には時間をかけて正しく書けるように  させたり、日付の言い表し方や言葉の意味などを毎日の生活のなかで補足し、学習させてい  る。教室には、ひらがな・かたかなの一覧表のほか、彼らが学習してきた作文などの作品な  とが提示されている。高学年の場合、日本に来てから3年程しかたっていない児童も含め、

 日本語を話す力が十分でない者が多いため、綿密な個別の指導によって、学習意欲・学力の  向上をはかっている。

14)学校全体での取り組み………砥堀小学校では・児童集会で難民児童が作文を読んだり・音  楽会でrさくらさくら」やベトナムの歌を披露している。運動会や音楽会には、センターの  難民を招待している。園田北小学校では、全職員に対して園田中学校(ベトナム人生徒7人  が在学中)の加配教員や園田公民館館長、難民相談員、公民館での日本語ボランティアの人  たちを招いて、国際理解教育交流会を開催しているほか、校内の資料室の一角にベトナムコー  ナーを設けて民族衣装のアオザイや、高学年兄董のベトナムからの「出国体験記」を紹介し  ている。

(5〕教科指導について・・一…前述したように、両校とも、国語・算数については特設学級で指  尊しているが、社会・理科・音楽・体育・図工などの教科は、日本人児童とともに原学級で  皆指導しているが、社会・理科・音楽・体育・図工などの教科は、日本人児童とともに原学  級で指導している。しかし、日本語の理解が充分でない児童にとっては、理科・社会での専  門的用語や歴史用語等の理解はかなり困難なようである。

(6)保護者との連絡について…・…・・姫路難民定住センターに入所するすべての難民は、日本社  会への適嘩教育の一貫として砥堀小学校を訪間することになってい孔砥堀小学校の場合、

 保護者の日本語能力が十分でないため、大切な連絡事項は通訳を介してされているが、セン  ターを退所して定住先に移った園田小学校のような場合には、通訳を頻繁に要請することは  困難であり、学校からの連絡を親など保護者が理解できないことも少なくない。

(7)地域との連携について………砥堀小学校では、難民児童受け入れ当初、日本人児童の保護

(9)

 者が子どもの「成績が下がる」などと、学校側に詰めよることもあったようである。

  園田北小学校では、1989年、校区に園田公民館が新設されたのを契機に、ベトナム難民と  地域住民との交流が始まった。毎週月・木曜日はベトナム児童の学習会、火曜日には成人難  民のための日本語教室が1990年から開催されている。毎年秋の「公民館まつり」にはベトナ  ム児童の絵画や習字の作品や日本語教室の学習風景の写真等が展示され、地域住民に広く紹  分されている。

(8〕問題点

 1a〕子どもの置かれている実態

  ①日本語が理解できないことによる学力の遅れ…・・・…インドシナ難民児童の就学におけ    る最大の問題は日本語の習得である。学校の授業はすべて日本語で行われるため、日本    語が理解できないことが直接的に学力の低下につながる。また日本の友だちと話したが    らず、難民児童同士でかたまる傾向もある。

  ② 将来への展望が持てないことによる学習意欲の欠如………日本語の能力に関係なく、

   学習することに対する目的意識が低い児童もいる。家庭の事情により、中学校を卒業し    たら働かなければならないと考えている児童など、将来への展望がなく、悲観的、消極    的な学習態度も見受けられる。

  ③文化・価値観の差異による学校生活への不適応一…・・前述したように、難民としての    苛酷な生活体験を経てきた児童のなかには、日本の学校生活になじめず、授業中集中力    が続かないといった学習場の不適応状況も見られ、定住当初、日本の食生活に馴れない    ため給食を食べられない児童も多い。

  ④ 親の教育観や厳しい生活条件がもたらす児童の学校生活への影響………親たちの難民    としての困難な生活条件の影響を受けて、働く親を助けて小さい弟や妹の面倒をみたり、

   通訳として親や弟妹を病院・診療所などに連れて行くなどのため欠席がちになる児童も    少なくない。また、親の一時帰国に同行して、1ケ月〜2ケ月も学校を休むこともあり、

   日本人死量に比べて欠席の割合が高くなっている。子どもを学校に行かせることすら望    まない保護者もあり、子どもの教育に対する親たちの意識にも問題があるが、難民とし    ての厳しい生活環境が、子どもたちの 学習権 を抑圧していることは確かであり、難    民児童・生徒に対する奨学金制度の整備なども将来的課題であろう。

  ⑤経済的に恵まれていない家庭………上述の問題とも関連するが、経済的に裕福なベト    ナム家庭は当然少なく、児童に学習用具が満足に与えられないケースもある。

 lb〕受け入れ校の問題点

  ①言葉が通じないため、原学級での指導が困難………日本語の能力が十分でない児童は、

   日本人児童と同じ教室で指導してもほとんど学習内容が把握できないし、教師にとって    も、原学級内での個人指導は大きな負担となる。

  ②教育制度の違いからくる学力差や進度の違いが大きく、学習面での指導が難しい…一・

   ベトナムと日本とでは教育制度が異なり、日本人児童との学力差が大きい。また、母国

(10)

  で学校教育を全然受けてこなった児童もいる。

 ③言葉が通じないため、保護者とのコミュニケ一ションに問題がある・・…・…ぎょう虫検   査、欠席の連絡などの日常の連絡のほか、中学生の進路指導に関する相談等が容易にで   きない。簡単な連絡に関しては子どもを介して行っている。

 ④生活習慣や文化の差異からくる戸惑い…・…・・学校にピアスをつけてくる児童の指導な   ど、学校の規見目と文化の違いとのはざまで、指導のあり方に戸惑いを感じる教師も少な   くない。

 ⑤欠席児童への対応………上述したように、多様な背景から学校を長期に休む児童に対   する学力保障の問題。

 ⑥経済的に恵まれない家庭への学用品等の確保………給食費や学用品等の費用のねん出   が困難な児童に対する物的援助が必要だが予算措置の見通しはない。

 ⑦ 教師の意識の低さと理解不足………日本語がわからないから、授業中に外国人児童に   答えさせなかったりしていると、児童も自分は答えなくてもよいものだと感じてしまう。

  また、外国人に対して侮蔑的な態度で接するなどの問題もある。

 ⑧外国人児童・生徒の受け入れに関する『手引』の必要性………外国人死量・生徒をと   のように受け入れ、どのように指導していったらいいか、などに関する学校・教師向け   の『手引』を要請する声が大きい。

 ⑨学習に関する評価がつけにくい・何を考慮したらよいのか?・…・・…「何を基準に外国   人児童の評価を行うか?」現場では戸惑いを隠せない。

 ⑩中学生に対する進路指導のあり方

(C〕地域の実態

 ①日本人とベトナム人との交流の不足一…・・地域において日本人とベトナム人との交流   がほとんど見られないため、生活習慣の違いなど近隣との摩擦も起きている

 ②保護者同士の交流の不足………ベトナム人と日本人傑謹者の交流も十分ではない。

4.在日外国人死量・生徒の学習保障の課題

 以上、インドシナ難民児童受け入れ校の実態から、広く外国人死量・生徒の 学習権 を保障 していくため、外国人児童・生徒を受け入れるに際して、 少なくとも、急いで整備されるべき諸 条件を列記すると、以下のとおりである。

 (a〕学習の機会と学習の場の整備

   ①日本語指導者の配置・派遣。 ②日本語学習の集中コース(夏期・冬期・春期休業中な

  ど)の設置。 ③抽出授業、特設学級での指導体制の整備。 ④「国語」・「算数」以外の

  教科の学力保障。 ⑤母国語教育・民族文化教育の保障。 ⑥母国の文化・言語を指導でき

  る補助教員の派遣。 ⑦日本人児童・生徒に対する国際理解教育。 ⑧放課後の教室開放等

  による学習する場の確保。 ⑨生徒の進路指導のあり方。 ⑩生徒の進学保障のための優遇

  措置と奨学金制度の整備

(11)

lb〕人材の養成・教材の開発

  ①小学校・中学校教師に対する 人権教育 ・国際理解教育の充実。 ②基本的生活習慣・

 宗教の違いへの理解。 ③小学校・中学校教師の日本語指導能力のトレーニングと、日本語  教材の充実。 ④日本語指導教員の養成。 ⑤日本語のできる外国人教員の採用。 ⑥日本  語能力くを評価する標準テスト。 ②視聴覚教材並びにコンピュータ・プログラム教材の開

、発。 ⑧やさしい日本語で書かれた「社会」・「理科」等の教科書の作成。 ⑨日本語教育  と教科指導を分けて考えずに統合的学習活動を促す教育方法の開発

(C)研修と情報の収集並びにフィードバック・システムの整備

  ①日本語指導教員への情報提供と情報収集。 ②国際理解・異文化理解等に関する校内所  修の充実。 ③外国人保護者との緊密な連携を図るための体制等の整備(例えば、連絡文を  母国語で提示できるようなマニュアル等の作成)。 ④外国人死量・生徒の指導のための教  師に対する『手引書』の作成。

(d)保護者並びに地域との連携

  ①地域での語学講座の開催(保護者の日本語能力の開発と児童・生徒の学力保障) ②保  護者同士の交流会・料理交歓会等の開催。 ③親の役割や権利などに関する効果的なオリエ  ソテーンヨンの開催。 ④地域の広報等の母国語翻訳による提示と地域住民によるボランティ  ア活動を促進するための社会教育・生涯教育の充実。

5.おわりに

 在日外国人死量・生徒の 学習権 の保障を考える上で、今後、最も期待されることは母国の 文化・言語の保持に関することである。児童・生徒は、就学すれば否応なしに日本語を話さざる を得ない状況におかれる。しかし、日本語を完全にマスターしたからといってすべての問題が解 決するわけではない。やがて、子どもたちが成人し、次代の社会を担っていくようになったとき、

現在のアメリカ合衆国やブラジルにおける日系二世の人たちが持つような自らのアンデンティティ を獲得し得ているかという重い課題が突きっけられることにな孔「いったい自分は何者なのか?」

といった人間としての存在そのものにかかわる問題である。日系人やベトナム人などは、同じア ジア人として顔つきでは一見して区別はっかないし、日本人の行動様式や価値観まで身に付けれ ば、ほとんど日本人との区別もつかなくなる。しかし、今日の韓国・朝鮮人問題を見てもわかる ように、本名を名乗れないことに象徴されるさまざまな次元での差別が厳然として存在している ことを考えれば、われわれに突きつけられた課題はきわめて重い。日本社会で ともに生きる 外国人として、次の世代を担う子どもたちが日本の社会のなかで、確固とした生活基盤を築いて いくだけでなく、精神的にもバランスよく成長していくためには、自らの アイデンティティ を確立し、自らの民族の誇りを持って生きていけるよう、母国語の保持と民族の文化や歴史を学 習する機会と場を提供していくことが、国際社会の一員として、しかも経済的にも豊かなわが国

に期待される役割であるといってよい。

 本稿では、インドシナ難民児童受け入れ校の実態を中心に、外国人児童・生徒の 学習権保障

(12)

の課題について考察してきたが、  学習権 の保障は、単に、子どもだけでなくその親たちにも 関わる問題である。多くの外国人を受けいれているアメリカやドイツでは、外国人に対する無料 の語学講座が開設され、彼らがそれに自由に参加できるシステムが体系化されている現実を見る とき、日本における対応はあまりにもおろそかであり、「経済大国・人権赤字国」という国際的 評価も甘んじて受けざるを得ない状況にある。急増しつつある ニューカマー と呼ばれる外国 人労働者など、成人の外国人に対する 学習権 保障の問題は、筆者たちの今後の重要な研究課 題としたい。

【注】

ω 強制連行・移住等で戦前または戦後から定住する在日韓国・朝鮮人を オールトカマー  と呼称するのに対して、就労を目的として近年、渡日してきた外国人や中国からの引き揚げ  者とその家族、難民、国際結婚で来日した者等は ニューカマー と呼ばれている。ちなみ  に・中国からの引き揚げ者は・1992年10月31日現在・3,999世帯・13,043名(厚生省援護局  庶務課中国孤児等対策室調べ)、インドシナ難民は、1992年9月30日現在、2802世帯、8,460  名((財)アジア教育福祉財団難民事業本部調べ)である。

(2〕1989年11月20日国連総会でされた後、20カ国の批准により1990年の9月に発行している人  権条約であ乱1992年11月5日現在・世界122カ国が批准を済ませているが・日本政府は未  だ批准していない。

(3〕ただし、この調査の対象は、公立の小・中学校であり、私立の小・中学校および高等学校  は含まれていない。また、外国人児童・生徒のなかには、すでに日本に定住を始めてから1O  年を越え、日本語の「書く力」・「読む力」が備わっている者もかなりいるが、このような  児童・生徒は含まれていない。つまり、日本の中等教育課程までに就学している外国人児童・

 生徒の実数は、現状では把握できていないが、受け入れ校にとっても、外国人死量・生徒に  とっても最大の課題である「日本語能力」の習得状況に視点を当てて分析していることから、

 現状の問題点を明らかにする上でこの調査結果が示唆するものは少なくないと考える。

(4〕これまでの日本語の全くわからない児童・生徒に対して、国・文部省がまったく施策を施  さなかったわけではない。中国帰国孤児子女に関しては、1986年度から中国語のわかる指導  協力者を配置したり、研究協力校を設け、教員の加配を進めていた。しかし、現在のように  急激に増加した外国人労働者の子どもに対する施策は・実質的には1992年度から施策が始め   られたばかりである。

(5〕大阪市教育委員会では・1972年に大阪市外国人教育研究協議会を設置し・在日韓国・朝鮮  人児童・生徒に対する教育面での取り組みに関する研究・教育活動を推進してきれ具体的  には、隣国である韓国・朝鮮について学ぶ副読本『サラム』シリーズの作成・民族講師を中  心とした課外活動での民族クラブ・子ども会などの取り組みがある。

16)兵庫県教育委員会学事課によると、1992年度現在、兵庫県内(神戸市を除く)には県費に

 よる外国人加配を小・中学校に10名配置しているという。外国人加配に関する基準は今のと

(13)

ころ特にないが、関係各学校長の申請により、教育委員会が必要と認める学校に適宜教員を

配置している。現在、外国人加配教員10名は、すべてインドシナ難民児童・生徒が多数在籍

する学校への配置である。

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