大正大學研究紀要 第一〇三輯
1.はじめに
日本の英語教育は、これまでの文法訳読式授業や受験英語に対する批判、
および国際的に活躍できる人材育成を急務とする経済界からの要請によっ て、コミュニケーション能力育成を目指して様々な改革が行われてきた。
2009 年に告示された現行の高等学校学習指導要領では、さらなるコミュニ ケーション能力育成の強化を目指して科目を大幅に変更し、4 技能の総合的 な育成を図ることを目標としている。指導する語彙数もこれまでの 1,300 語から 1,800 語に増加し、中高合わせて 3,000 語となった。さらに、この 学習指導要領が改訂される際、最も議論を呼んだ内容のひとつは、以下の文 言であった。
生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニ ケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。そ の際、生徒の理解の程度に応じた英語を用いるよう充分配慮するものと する。(文部科学省 , 2009, pp. 115-116)〔下線部筆者〕
「英語の授業を英語で行うこと」が明記され、これによって学校教育現場や 英語教育関係者の間では言うまでもなく、ニュースや新聞の誌面においても 様々な意見が交わされるところとなった1)。
本稿では、この「英語で行う授業」について、まず学習指導要領の記載を 考察し、実際の授業における実施状況、および教師の意識を検証し、その実
一
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
――高校教師の意識を中心に――
行 森 まさみ
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
践に際しては教師にどのようなことが求められているのかについて議論を行 うことを目的とする。
2.高等学校学習指導要領:
「授業は英語で行うことを基本とする」
現行の高校学習指導要領で初めて記載されることとなったこの施策の背景 には、日本では教室外で英語を話す機会がほとんどないという現状が述べら れている。学校で英語を学習しても、それを実際のコミュニケーション場面 で使用するという実践のチャンスが限られているため、教室を実践の場とし、
生徒たちに少しでも多く英語に触れ、使う場面を提供すべきだという主張が この施策の根拠となっている。
また、もう一つ大きな目的として、現在の英語授業の改善というねらいが ある。「訳読や和文英訳、文法指導が中心とならないよう留意し、生徒が英 語に触れるとともに、英語でコミュニケーションを行う機会を充実すること が必要である(文部科学省 , 2010, p. 50)」と記載されているように、日本 の学校英語教育が、コミュニケーション能力育成の方向に転換してから久し いが、英語の授業内容については、大学入試に対応できるよう英語の文法・
語彙に関する知識や、訳読を中心とした読解活動に重点が置かれているケー スも少なくないとされ、英語で授業を行うことによって、よりコミュニケー ションを意識した授業展開の可能性を期待し、この「英語で行う授業」が明 記されることとなった。
しかしながら、この 2009 年の学習指導要領に続いて 2010 年に告示され た学習指導要領解説では、この文言の扱いについての注意書きが多く記載さ れ、「英語で行う英語の授業」に対するニュアンスがかなり薄まったものに なっている。まず、以下は文法の指導に関する点である。
英語に関する各科目を指導するに当たって、文法について説明すること に偏っていた場合は、その在り方を改め、授業において、コミュニケー
二
大正大學研究紀要 第一〇三輯 ションを体験する言語活動を多く取り入れていく必要がある。そもそも 文法は、3 のイに示しているとおり、英語で行う言語活動と効果的に関 連付けて指導するよう配慮することとなっている。これらのことを踏ま え、言語活動を行うことが授業の中心となっていれば、文法の説明など は日本語を交えて行うことも考えられる。(文部科学省,2010, p. 51)〔下 線部筆者〕
「英語で行うことを基本とする」の「基本」は原則であって、状況に応じて それ以外の選択もありうることが具体的に記されている。つまり、より効果 的と判断され、必要があれば日本語の使用も適宜行うことが明記されている。
さらに、解説は以下のように続く。
「生徒の理解の程度に応じた英語」で授業を行うためには,語句の選択、
発話の速さなどについて、十分配慮することが必要である。特に、生徒 の英語によるコミュニケーション能力に懸念がある場合は、教師は、生 徒の理解の状況を把握するように努めながら、簡単な英語を用いてゆっ くり話すこと等に十分配慮することとなる。教師の説明や指示を理解で きていない生徒がいて、日本語を交えた指導を行う場合であっても、授 業を英語で行うことを基本とするという本規定の趣旨を踏まえ、生徒が 英語の使用に慣れるような指導の充実を図ることが重要である。
このように、本規定は、生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、
授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業を英語で行う ことの重要性を強調するものである。しかし、授業のすべてを必ず英語 で行わなければならないということを意味するものではない。英語によ る言語活動を行うことが授業の中心となっていれば、必要に応じて、日 本語を交えて授業を行うことも考えられるものである。(文部科学省,
2010,p. 51)〔下線部筆者〕
英語による授業を実施する際の配慮について、丁寧な解説が記述されている。
特に後半部分では、授業を英語で行うことについて、強制力がないことを付
三
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
け加えている。基本は英語で授業を行うという姿勢であるが、文法説明や英 語での指示・解説を理解できない生徒がいる場合には、英語の使用に慣れる ように日本語を使用することまで言及され、柔軟な対応の必要性を強調して いる。当初、議論の的となった「英語の授業は英語で」の文言が与えたイン パクトは、この解説の記載を読む限りではかなり弱まった印象を与えるもの となっている。
2.1 外国語科(英語)の科目
次に、外国語科の授業を構成する科目についてみてみたい。科目名および 標準単位数は表 1 に示すとおりである。
表 1 外国語科 英語に関する科目および標準単位数(文部科学省 , 2010, p. 10)
四
科 目 標準単位数 コミュニケーション英語基礎 2 コミュニケーション英語Ⅰ 3 コミュニケーション英語Ⅱ 4 コミュニケーション英語Ⅲ 4
英語表現Ⅰ 2
英語表現Ⅱ 4
英会話 2
上記のうち、「コミュニケーション英語Ⅰ」は必修履修科目であり、コミュ ニケーション能力の基礎を養う中学校の学習指導を踏まえて、4 技能を総合 的に育成するための指導を行う科目とされている。「コミュニケーション英 語基礎」は中学校における学習の確実な定着と高校の学習の円滑な接続を目 的とした科目とされ、「コミュニケーション英語Ⅱ・Ⅲ」はそれぞれⅠとⅡ の内容を発展させたものと明記されている(文部科学省,2010, p. 6)。さ らに、「英語表現Ⅰ・Ⅱ」に関しては、話したり書いたりする活動を中心に、
情報や考え等を伝える能力の向上を図るため創設されたとしている。科目改 訂の要点には、「英語表現Ⅰ」は、「積極的にコミュニケーションを図ろうと する態度を育成するとともに、事実や意見などを多様な観点から考察し、論
大正大學研究紀要 第一〇三輯 理の展開や表現の方法を工夫しながら伝える能力を養う科目」(文部科学省 , 2010, pp. 6-7)とある。また、「英語表現Ⅱ」は「論理の展開や表現の方法 を工夫しながら伝える能力を伸ばす指導を発展的に行う科目」(文部科学省 , 2010, p. 7)とされ、ライティングおよびディスカッション等のスピーキン グ活動を主眼においた科目とされている。
2.2 「英語表現Ⅰ・Ⅱ」の内容をめぐって
「コミュニケーション英語」が総合的な英語科目であるのに対して、「英語 表現Ⅰ・Ⅱ」が、このようにライティングとスピーキングに焦点化してい るのには、この 2 技能が英語での発信において重要な要素であるにもかか わらず、あまり実際の授業においては取り扱われてきていない経緯も要因と なっている。古家(2013, p. 43)は、この「英語表現Ⅰ・Ⅱ」を「生徒の 英語での表現力を音声的な形、文字表現の形で伸長させることを目的とする 科目」と述べ、これまで授業で全般的に文法や語彙、表現を学習し、それを 覚えることに多大な時間が費やされていたことを指摘し、この科目では具体 的な状況設定や使用文脈が与えられ、その中で実際に話す・書く活動を通じ て自己表現を達成する機会がもたらされているという見解を述べている。
しかしながら、リスニング、リーディング、スピーキング、ライティング の英語 4 技能のうち、高等学校においては特にリーディングおよびリスニ ングの指導が中心的に行われ、スピーキングとライティングに関しては学年 が上がるにつれて行われることが少なくなっていることを示す調査がある。
ベネッセ教育総合研究所が 2014 年に行った調査2)では、「学校の英語の授 業の中で行っていること」について、「英文を日本語に訳す」が 86.9%(高 校 1 年生から 3 年生の平均)、「先生の説明を聞く」が 79.2%、「文法の問題 を解く」が 79.4%と高い割合なのに対して、「自分の気持ちや考えを英語で 書く」が 37.8%、「自分の気持ちや考えを英語で話す」が 32.0%と非常に 低く、ライティングとスピーキングは授業で行われることが少ないと報告さ れている(ベネッセ教育総合研究所,2014)。
「英語表現」の科目は、ライティングおよびスピーキングを中心に行われ ることが前提となっているが、なぜ実際の授業ではこの 2 技能があまり行
五
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
われていないのか。三浦(2014, pp. 51-52)は次のように指摘する。「英語 表現Ⅰ」の科目において、各高等学校が採択した教科書を調査したところ、
最も多く採用されていたのは短文英訳式・文法ドリルの性質を有する教科書 であったという。つまり、この授業科目では英文法の指導や演習を行ってい ることが多いという実状について指摘したのである。以前、「英文法」は科 目として設定されていたものの、1978 年の学習指導要領改訂時にその名称 の科目は廃止された。しかしながら、三浦(2014)は、いまだ英文法の指 導に特化した科目が行われていることを示し、これを「隠れ英文法」と呼ん でいる。このように指導要領に記載された内容と異なる指導を行うことには、
理由があると考えられる。現在の大学入試に対応できる英語力育成のための 優先順位が、ライティングとスピーキングより文法指導のほうが高く、まず 文法力を上げることによって生徒の基礎的な英語力を強化できると現場で捉 えられている可能性が考えられる。
「英語表現Ⅰ・Ⅱ」の科目で文法指導が広く行われているとすれば、指導 要領解説の文言、「文法の説明などは日本語を交えて行うことも考えられる
(文部科学省,2010, p. 51)」という日本語による文法解説の状況が、「英語 表現Ⅰ・Ⅱ」という科目における実際の多くの教室の現状といえるのかもし れない。
3.実施状況
次に、「英語で授業」の実際の状況を知る手がかりとなる調査をみてみたい。
ベネッセ教育総合研究所(2016)が行った、全国の中学校および高等学校 で英語を教える 2,134 人の英語教師調査3)によると、普段の授業の中で教 師が英語を使用する割合は以下のとおりであった(図 1)。
「ほとんど英語で授業をしている」と回答したのは、中学校で 3.1%、高等 学校で 3.8% にとどまっている。中学校で最も多いのが、「英語使用が 50%
くらい」(44.6%)で、次いで、「30% くらい」が 32.8% を占めている。高 等学校においては、「英語使用が 30% くらい」が 39.3% と最も多く、「50%
六
大正大學研究紀要 第一〇三輯七
くらい」が 30.4% であった。この結果によると、中学・高校ともに、授業 の全てを英語で行っている教員はごく少数であることがわかるが、中学校で は授業の半分ほどを英語で行っている教員が多いという実施状況が明らかに なった。現在は中学校に先行して、高校の現行の学習指導要領で「授業は英 語で行うことが基本」が明記されているが、その高校よりも中学校の教員の ほうがすでに多く英語を使用した授業を行っていることも示された。
2017 年に告示された中学校の新学習指導要領(文部科学省,2017a)では、
高校に準じて「授業は英語で行うことが基本」とされている。その解説にお いてもやはり高校と同様に、導入の経緯や実施における具体的な注意等が詳 細に記載されている。その中で中学校に特化した内容として、小学校での外 国語活動では教師や児童の豊富な英語使用の実態があること、およびそれを 経験した児童が中学生になっても「英語が使えるようになりたい」という学 習意欲を維持するためにも、中学校においても同様の環境作りの大切さが述 べられている(文部科学省,2017b)。小学校英語との接続という位置づけと、
扱う学習レベルを考慮すると、高校よりも中学校のほうがより英語での授業 実施が自然にできることが考えられる。
また、同調査では、「授業のどのような場面で英語を使用するか」という 質問もなされた。回答は「生徒への指示」(中学 94.5%・高校 81.6%)が最 も多く、「褒め・励まし」(中学 89.0%・高校 72.8%)、「生徒との Q&A」(中 学 88.9%・高校 77.4%)、「生徒へのコメント・アドバイス」(中学 66.2%・
高校 48.3%)、「発音や発話の指導」(中学 65.3%・高校 60.3%)、「本文の 内容を紹介・説明(オーラルイントロダクションやパラフレーズ)」(中学 64.1%・高校 54.5%)等が大きな割合を占めている。これらは英語で遂行す
図 1:授業での英語の使用割合
「英語で行う英語の授業」に関する一考察八
ることが比較的容易なものであるといえる。また、英語で行うことが少ない とみられる場面としては、「誤りの修正」(中学 28.9%・高校 26.4%)や、「文 法の説明」(中学 11.5%・高校 7.1%)等があり、生徒の理解を促すために、
これらの場面においては日本語で行っていることが多いことが明示された。
4.教師の意識
教師の授業における実際の英語使用は以上のとおりであったが、次に、「授 業は英語で行うことを基本とする」という学習指導要領の文言について、教 師がいかに捉えているかという意識を検証していきたい。
まずは、前述のベネッセ教育総合研究所の調査(2016)であるが、以下 のような結果が報告されている。
「『授業は英語で行うことを基本とする』についてどのように感じますか」
1.「日本語で行ったほうが効果的な場合がある」 95.3%
2.「生徒の学力によって難しい場合がある」 92.7%
3.「入試に対応できる学力を育成できるかどうか不安である」 75.5%
4.「生徒が英語を使う機会が充実する」 74.4%
5.「生徒の英語を使う力が高まる」 73.5%
6.「授業が実際の英語を使うコミュニケーションの場になる」 73.0%
7.「生徒が英語を使う楽しさを感じる」 64.9%
8.「基礎・基本が身につかない気がする」 63.8%
9.「授業を英語で行うには自分の英語力に自信がない」 53.5%
この調査では、「英語で授業」について用意された質問項目は上記の 9 つ であった。これは英語教師たちの調査協力を得て、まず聞き取り調査を行い、
その結果に基づいて作成された項目であったという。「あてはまる」と回答 された上位 3 つ(「日本語で行ったほうが効果的な場合がある」、「生徒の学 力によって難しい場合がある」、「入試に対応できる学力を育成できるかどう か不安である」)はいずれも否定的な意見である。続く、4 ~ 7 番は、「生徒
大正大學研究紀要 第一〇三輯九 が英語を使う機会が充実する」、「生徒の英語を使う力が高まる」、「授業が実 際の英語を使うコミュニケーションの場になる」、「生徒が英語を使う楽しさ を感じる」というもので、英語で授業を行うことに対する肯定的な意見、ま た、最後の 2 つに否定的なものが続いている。このことからも、「英語で授業」
については現場の教師の間でも賛否両論であることが看取できる。
また、この否定的な質問項目については、英語で授業を行うことが効果的 であるのかという疑念や、生徒がついてこられるのかという不安、入試に対 応できる力がつくのかという懸念に加えて、そのような授業を実践すること に対する教師自身の不安があることにも着目したい。実際に個々のクラスの 授業を運営する教師が不安をもっている状況は、英語を使った授業の実施そ のものに関わることである。
4.1 「英語で授業」に対する教師の不安
次に、この教師の不安についての調査をみていきたい。行森(2017)は、
288 名の日本人高校英語教師を協力者として、57 項目の 5 段階リカートス ケール回答方式の質問と 1 点の自由記述質問の質問紙調査を行った4)。その 質問のうち、英語での授業に関する質問は、項目 56 の「英語で授業を行う ことについて不安がある」で、平均値は 3.27、標準偏差は 1.15 であった。
ヒストグラムによる回答結果の分布は図 2 のとおりである。
図 2 項目 56 のヒストグラム:「英語で授業を行うことについて不安がある」
21 54
84 83
46
ま
� た く あ て は ま ら な い
あ ま り あ て は ま ら な い
ど ち ら と も い え な い
ど ち ら か と い う と あ て は ま る
よ く あ て は ま る
「英語で行う英語の授業」に関する一考察一〇
平均値にしてしまうと 5 段階リカートスケールの 3.27 と、さほど数値が 高いとは思われにくいが、このような度数分布で確認することによって、そ の分散がわかる。「まったくあてはまらない」と「あまりあてはまらない」
と回答した人数が合わせて 75 人で、「不安がない」と感じる割合が全体の 26.0% であるのに対して、「どちらともいえない」が 84 人(29.2%)、「どち らかというとあてはまる」(83 人)と「よくあてはまる」(46 人)を合わせ た 129 人(44.8%)が「不安がある」と感じていることがわかる。
さらに、自由記述式の回答では、学校英語教育における様々な改革による 最近の変革に対する困惑の表れともいえる記述がみられた。
昔はどちらかというと、英語そのものを楽しいと思って学んでいたが、
今は自分の主張や物事に対する考え方等、しっかり英語を使って伝えら れないと英語の役割を果たせないようになってきているように思う。そ の分、教員にも求められるものが変わってきているけれど、正直どう対 応していくのがいいかわからないです。授業を英語にしたり、生徒同士 のコミュニケーションを入れることが、果たして世の中に通用すること なのか。いろいろと迷ってばかりの授業をしています。〔30 代女性・教 師歴 12 年〕(行森,2017,p. 186)
教師自身が学生時代に受けていた英語教育と、現在教師として求められてい る英語の授業に乖離があることを認識し、その対応に困惑している様子が見 て取れる。同調査では、協力者のこれまでの英語に関する経験についても質 問をしており、その結果は以下のとおりである。(表 2)
この調査は 5 段階のリカートスケール式回答であり、その平均値が 4.00 以上は非常に高い数値であるといえる。そのような数値を示した項目をみて みると、「28.中学または高校時代は英語が好きだった」、「29.中学または 高校時代は英語が得意だった」といった英語に対する肯定的な感情に加えて、
項目 35 と 36 の「ネイティブ、あるいはノンネイティブ・スピーカーとの やりとりをして嬉しかった体験」や、項目 37 の「演習問題が解けて嬉しかっ
大正大學研究紀要 第一〇三輯一一 表 2 英語に関する教師の経験
1. まったくあてはまらない 3. どちらともいえない 5. よくあてはまる
2. あまりあてはまらない 4. どちらかというとあてはまる
あなたのこれまでの経験について、以下のことは
どの程度あてはまりますか。 平均値 標準偏差
28. 中学時代、または高校時代は英語が好きだっ
た 4.25 1.00
29. 中学時代、または高校時代は英語が得意な
ほうだった 4.19 1.00
30. 中学時代、または高校時代に受けた英語の
授業は興味がもてるものだった 3.32 1.12
31. 中学時代、または高校時代に受けた英語の 授業はコミュニケーションを重視したもの
もあり、楽しかった 2.09 1.07
32. 現在の英語力は努力の結果だと思う 4.11 0.90 33. 学生時代の英語の学習時に、刺激を受けた
友人がいる 3.16 1.42
34. 今の教師としての自分は、学生時代に英語 を教わった先生からの影響を強く受けてい
ると思う 3.33 1.33
35. ネイティブ・スピーカーとやりとりをして
通じて嬉しかった経験がある 4.42 0.87
36. ノンネイティブ・スピーカー(非母語話者)
とやりとりをして通じて嬉しかった経験が
ある 4.11 1.10
37. 英語の学習をしていて、難しい問題が解け、
嬉しかった経験がある 4.08 1.09
38. 英語の学習をしていて、日本語にはない面 白い表現や興味深い文章に出会った経験が
ある 4.52 0.70
39. 英語の文章を書くのが楽しいと思ったこと
がある 4.00 0.97
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
た経験」、および項目 38「日本語と異なる表現や文章に出会った経験」、項 目 39「英語で文章を書くのが楽しかった経験」等があげられる。教師たちは、
学生時代に英語のコミュニケーション実践や問題演習おける成功体験、ある いは興味深い英語表現との出会い等を経験し、「英語が好き」で「得意」で あるという感情をもってきたことがわかる。
しかし、この質問項目の中で平均値が 3.99 以下であった項目をみてみる と、「30.中学時代、または高校時代に受けた英語の授業は興味がもてるも のだった」と「31.中学時代、または高校時代に受けた英語の授業はコミュ ニケーションを重視したものもあり、楽しかった」、さらには「33.学生時 代の英語の学習時に、刺激を受けた友人がいる」と「34.今の教師として の自分は、学生時代に英語を教わった先生からの影響を強く受けていると思 う」がある。友人や教師との出会いについては個人差が生じる様々な要因が あると考えられるため、ここでは言及をとどめ、中学・高校時代の英語の授 業に関する項目に着目したい。自身が受けてきた英語の授業は興味が持てる ものだったかという質問に対しては平均値が 3.32、それに対して自身が受 けてきた英語の授業はコミュニケーションを重視したものであったかという 質問については平均値が 2.09 と他の項目と比較してかなり低い数値となっ ていることがわかる。自らが受けてきた英語の授業は、現在のコミュニケー ション力育成を目指す授業とは異なるものであり、その違いが浮き彫りと なっている。
しかしながら、自身が受けてきた英語の授業に必ずしも満足していたわけ ではないとしても、英語教師を目指し、現在は実際に教壇に立っている現役 の教師は、英語という言語に対して強い興味・関心があることは間違いなく、
そのような自身の興味・関心を生徒に伝え、教えたいという思いがあること は想像しやすい。前述の 30 代女性教師の回答における、学生時代に学んだ こと(あるいは学び方)と現在教師として求められていることの乖離に困惑 する例はただの一事例ではなく、このようなことに起因する不安は現役の英 語教師に広く関わる事象だといえるのではないだろうか。
また、英語で授業を行う際に、自身が話す英語が、学習モデルとして広く 認識されているネイティブ・スピーカーの英語とは異なることを懸念する教
一二
大正大學研究紀要 第一〇三輯 師もいることも考えられる。中学校の新学習指導要領解説(2017)では、「授 業は英語で行うことを基本とする」という文言の詳細の中に、以下のような 記載がある。
英語を母語としない教師は、日常的に英語を使用する人とは異なる英語 を使うことをためらう傾向が見られることがある。しかし、生徒はいつ もそういった人の話す英語に触れるのではなく、教師が話す英語に触れ ることも重要なことである。現代世界において様々な国や地域で使用さ れている英語の広まりを考えたとき、異なる英語に触れる機会をもつこ とが重要である。とりわけ、生徒が自分の英語に対して自信をもって堂々 と使っていけるようになるためには、授業で触れる教師の英語使用に対 する態度と行動が大きな影響力をもつ。だからこそ、「授業を実際のコ ミュニケーションの場面とする」ことを主眼として、教師の積極的な英 語使用が求められるのである。(文部科学省,2017b,p. 84)〔下線部筆者〕
つまり、日本人英語教師は自分の英語に自信をもって、授業内で積極的に使 う姿勢が重視されているのであり、生徒たちにとって、その姿が英語を使 う非母語話者の身近なモデルになることを指摘している。生徒たちのわかる 語彙や文法を使用して教師が語りかけ、それを理解し、また生徒も自分たち のできる範囲内での発話を通じたやりとりが成立することで、英語によるコ ミュニケーションを教室で経験することになる。それが、「授業は英語で行 うことを基本とする」という文言の真意であると捉えることによって、教員 の不安も少なからず軽減されるのではないかと考えられる。
5.授業実践にむけて
次に、教室での授業実践に際して英語教師にはどのような意識が求められ るのかについて考えていきたい。
和泉(2016)は、日本語か英語かという二者択一で議論を行うことに異
一三
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
論を呈し、どちらが良いか正しいかという問題ではなく、教育効果と効率を 考えた上で、どちらを選ぶべきかというバランスの問題であると述べている。
「全て英語で」と意気込んで正しく説明したとしても、日本語でも難しい説 明を、英語で生徒が全て理解できるとは考えにくい。つまり、これまで日本 語で行っていた指示や説明の全てを同じように英語で行うと考えると、教師 にとっても生徒にとっても相当な負担となることは間違いない。ただ教師が 延々と英語を話せばよい、正しく英語で説明すればよいというわけではなく、
英語で行うならば特に、生徒がわかるようにインタラクションを行うことが 必要であると和泉(2016)は指摘する。それが英語で授業を行うことの利 点であり、生徒にコミュニケーションを目的として英語を使う場を提供する ことになると主張している。
また、金谷(2004)も英語で行う授業について、英語を使用し、工夫し て授業を遂行しようとする教師の姿勢が教育に好影響を及ぼす点について指 摘している。金谷(2004)は、英語教師が授業を全て英語で行えば、生徒 が英語に接する機会が増えて英語力が伸びるという「直接的効果」よりも、
英語で授業を行おうとする教師の姿勢に生徒が刺激を受けることや、教師側 の授業変革への意識や工夫が生徒に与える「間接的効果」のほうがその影響 が大きいと述べている。
現行の高校学習指導要領の告示後、『英語を英語で読む授業』を出版した 卯城(2011)は、その冒頭において、「本書は「日本語を使う・使わない」
の二律背反ではなく、「英語で授業を行う部分を増やすにはどうしたらいい のか」という観点から書かれています。」と述べ、これまで日本語で行って いた授業を突然全て英語に変えるのではなく、各教師が可能な範囲で少しず つできる授業変革の手引きとして著書を紹介している。
和泉(2016)、金谷(2004)、卯城(2011)はいずれも、日本人英語教 師がこれまで行ってきた授業を、母語話者が話すような英語で全て行うとい うわけではなく、これまでの英語の授業について個々の教師が振り返り、さ らなる改善および向上を目指していくひとつの手立てとして、英語を使う授 業の導入を推奨している。
一四
大正大學研究紀要 第一〇三輯 5.1 日本語の有効的な活用
現在の日本の英語教育においては、学習の目標言語である英語で授業を行 うことの有効性に注目が集まっているが、母語(地域語)の使用の利点を 主張する立場もある。非母語話者英語教師における研究では、学習者の母 語も役立つ資源であり、積極的に活用すべきだとする見方もなされている
(Mahboob et al., 2004; Moussu & Llurda, 2008; Braine 2010; Selvi, 2014)。
Mahboob(2017)は、母語の使用に対する否定的な態度は、20 世紀の言 語教育で主流となったいくつかの教授法に基づいて、目標言語である英語の 使用が学習効果をもたらすという概念が広く浸透したこと等に起因している と述べている。目標言語の使用のみに限らず、教師も生徒も共通の母語をもっ ているのであれば、それも有効な言語資源として活かすことを考えるべきだ と主張している。
ヨーロッパで近年急速に広がっている言語教授法である CLIL(内容 言 語 統 合 型 学 習:Content and Language Integrated Learning) に お い て も、目標言語で授業を行うことが基本とされているが、母語への切り替え
(code-switching)に対して寛容な姿勢であることが指摘されている(池田,
2016)。授業内タスクへの指示や複雑な概念を理解させる時、あるいは英語 での議論が困難である場合には母語への切り替えも行われるという。池田
(2016)によれば、「トランスラングエッジング(Translanguaging)」と呼 ばれる積極的母語活用を支持する研究者も少なくないとしている。学びを深 めるために二言語を計画的、体系的に扱うべきだという主張もなされている
(Lewis, Jones, & Baker, 2012; Baker, 2011)。
さらに、母語の有効的な活用についてもう一点挙げるとすれば、言語学習 という授業内容を越え、教室における教師と生徒たちの人間同士としての シンプルな交流において、コミュニケーションの手段としての母語の効果 的な使い方も考慮されるべきなのではないだろうか。何気ない日本語での やりとりやジョーク等は、教師と生徒との心理的距離感を縮めることにも 貢献し、生徒の教師に対する人間的信頼感にも繋がる可能性も考えられる。
Matsumoto(2011)は英語学習者の学習動機づけの研究において、習熟度 の低い学習者は教師の授業に対する献身的な態度やパフォーマンス等の行動
一五
「英語で行う英語の授業」に関する一考察
面に注目する傾向が高く、習熟度の高い学習者は教師の人間性や実際の指導 技術により注目していると報告している。廣森(2015)も、「学習者の年齢 が上がるにつれ、教師が持つ人間的な魅力や英語教師としての能力・資質と いった「思考」面も同様に重要視するようになる」と述べている。教師は教 室において、英語を使って英語を教える存在というだけではなく、生徒に対 して一人の人間として向き合っている存在であり、互いへの理解を深めるた めの母語使用の効用は軽視されるべきものではないと考えることができる。
英語で日本語と同等の即興的なやりとりができる教師もいるだろうが、それ を日本語と同じように理解し、返すことのできる生徒が多いとは考えにくい。
「英語で授業」という概念にとらわれると、日本語をなるべく使用しないと いう意識にばかり焦点がおかれることがあるが、「日本語を効果的な場面に おいて取り入れる英語の授業」という発想も必要であると考えられる。
5.2 必要とされる教師の意識
前述のように、「英語で行うことを基本とする授業」は日本語で行う授業 をそのまま英語にするという考え方では、その実施は難しい。また、教師が 知識を伝授することのみに焦点化していたり、正解を求めるだけの質問が教 師によって繰り返されたりする授業を英語で行うのは生徒にとっても負担が 大きいものである。そのような教室における談話のパターンとして広く認知 されているものに IRF(IRE)がある。教師の発問(Initiation)に対して生 徒が応答(Response)し、それを教師が評価(Feedback/ Evaluation)する という構造である。この構造だけで構成される授業では、学習者は常に正解 のみを発話することが求められ、その言語活動は自由な発言を制限され、伝 えたいという意欲をかきたてるものにはならない。これに対して、Linares, Morton, & Whittaker(2012)および Lyster(2007)は、正解を問う質問 に続いて「自由に答えられる質問」をしたり、「詳しく説明させる」、「理由 を説明させる」、「具体例を列挙させる」、「経験を語らせる」、「意見を語らせ る」等の指示を加えることによって授業にインタラクションが生まれ、コミュ ニケーション実践としての英語使用が実現できるとしている。英語を使用し た対話型授業を行うには、学習者にとって教師が話す英語のインプットとし
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大正大學研究紀要 第一〇三輯 ての刺激も重要であるが、学習者自身が英語を使用する機会も同様に重視さ れることをあらためて認識しなければならないといえる。教師は知識を伝授 して教え込むのではなく、生徒が自発的に学べる環境を作り、学習を発展さ せるファシリテーター(促進者)としての役割も担うことになる。このよう な意識をもって授業に臨むことが、英語で授業を行う際の教師の土台となる と考えられる。
現在、実際の英語での授業の実施方法を紹介した文献は多い。これらの様々 なアイデアの中から、教える内容や学習者の年齢および英語力等に応じて、
個々の教師がそれぞれにヒントを得て、自分の授業に活用していくことが求 められているといえる。まずは、挨拶や指示などの身近な教室英語の使用か ら始まり、語彙や文法の導入、あるいは背景知識の活性化を目的として、リー ディング教材の内容の導入を英語で行うなど、英語を無理なく効果的に使用 して授業運営を行うことは可能である。語彙や文法、文章の導入は、教師の 英語での発話のみならず、生徒からの自由な発想を引き出すブレインストー ミングを利用した教室全体でのインタラクションであったり、ゲームやペア ワークを活用してよりコミュニケーションに焦点をおいた活動を行うことも できる。
さらに、卯城(2011)によれば、リーディングで扱う教材の内容を英語 で理解させるためには、段落構成のイメージを反映した視覚的補助を用いて 文章構造の理解を促したり、英文要約の穴埋めを生徒同士のペアワークを取 り入れて行ったり等の様々なアイデアがあるとし、リーディングにおける英 語での指導の多様な可能性を示している。内容に関する教師からの質問等の やりとりや、内容を理解した後のアクティビティ、さらには読後の感想を話 したり書いたりする活動、ディスカッション等、4 技能を統合した授業に繋 げる方法も紹介されている。また他の文献においても、教師が必要に応じて 参考にできる、英語で教える高校授業の実践例を散見することができる(三 浦・亘理・山本・柳田,2016;三浦,2014;上智大学 CLT プロジェクト,
2014;樋口・緑川・高橋,2007)。「英語で教える」とひとことで言っても、
その詳細な実践方法は多様であり、教え方は現場で教える教師の数だけ存在 するということもできる。授業において重要なのは全て英語で教えるという
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「英語で行う英語の授業」に関する一考察
ことではなく、目の前の生徒たちにとって何が効果的であるかとまず考える ことであり、教師自身が教室における自分の役割について認識することでも ある。
6.まとめ
「英語の授業は英語で行うことを基本とする」と現行の高等学校学習指導 要領に明記されたが、それは授業のすべてを必ず英語で行うということでは なく、必要に応じて日本語を使用し、生徒の理解に寄り添った、できるかぎ り多く英語を使った指導の推奨を意図したものであった。そこには生徒が英 語に触れる機会をできるだけ増やすという目的とともに、現在の個々の教師 の授業改善の目的も含まれていた。実際の高等学校の英語科における「英語 で授業」の実施状況は、授業の 3 割から 5 割くらいを英語で行っていると 回答した教師がもっとも多く、授業の全てを英語で行っている教師は全体の 3.8% にとどまっている。
教師の意識調査においては、生徒の英語力強化やコミュニケーション力育 成への貢献といった点で「英語で授業」を積極的に評価する意見もある一方 で、入試に対応できる英語力がつくのかという懸念や、英語で授業を実施す ることに対する教師自身の不安も露呈するところとなった。その不安は、自 分が学生時代に教わったように教えられないことや、自分がこれまで興味・
関心をもって学んできたこととは違うものを教師として教えることが求めら れている現状に起因した困惑からくるものであった。
しかし、教師が非母語話者として教室で使う英語は、同じ学習者である生 徒たちにとって良いモデルとなることが考えられ、彼らにとって身近で実現 可能性の高い日本人英語話者の手本であるという認識をもってすれば、積極 的に英語を使用した授業の効果はさらに高まることが考えられる。
また、英語で行う授業は、教師の一方的な英語での説明や指示ではなく、
生徒の発話を促し、相互のやりとりの場を作るコミュニカティブなものであ る必要がある。そのような生徒からの発話を促す環境づくりには、教師と生
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大正大學研究紀要 第一〇三輯 徒、あるいは生徒同士の雰囲気作りも重要な要素であり、時には日本語を交 えたやりとりで人間関係の土台を築くなど、授業に対する柔軟な姿勢が求め られるともいえる。
英語で授業を効果的に行うには、教師自身がまず教室における自分の役割 を考え、認識することが重要だといえる。様々な授業実践がなされている中、
個々の教師が自分と生徒に合った指導方法を模索し、工夫することで授業改 善が図られ、真の意味での教師と生徒のコミュニケーションが教室において 実現できるといえる。
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註
1)三浦(2014,pp. 35-36)、中井(2010, pp. 36-39)に詳しい
2)全国の高校 1 年生 931 名、高校 2 年生 790 名、高校 3 年生 1433 名を 対象に行った調査。
3)2015 年に郵送法によって行われた質問紙調査で、中学校教員 1,801 名、
高等学校教員 2,134 人が協力者であった。
4)この調査は、主に「国際語としての英語」についてどう考えるかについ て日本人英語教師を対象に行った調査である。質問項目は「教師自身が 英語でコミュニケーションを行う際に重要視していること」や「英語を 教える際に重要だと考えていること」、「教師自身のこれまでの経験や興 味・関心」、および「英語教育に対する意識」について質問をした。調 査協力者の内訳は、男性が 168 名(58%)、118 名(41%)、年代は 20 代が 64 名(22%)、30 代が 80 名(28%)、40 代 70 名(24%)、50 代 58 名(20%)、60 代 14 名(5%)、不明 2 名(1%)。学校種別の状況は、
公立が 139 名(48%)、私立が 149 名(52%)で、協力者全体の教員 経験年数の平均は 16.3 年。勤務校の所在地は、北海道、福島、栃木、
東京、神奈川、千葉、山梨、長野、岐阜、兵庫、佐賀、長崎。