波動インピーダンスと放射抵抗
v1.5 Jul.2018 科 年 番 氏名:
1. 電波インピーダンス(電界と磁界の比)
z軸上原点に置かれた長さl,電流Iの微小ダイポールが作る電磁界は Er= Il
2πcosθe−jkrk2η ( 1
(kr)2 − j (kr)3
)
(1) Eθ= Il
4πsinθe−jkrk2η (j
kr + 1
(kr)2 − j (kr)3
)
(2) Hφ= Il
4πsinθe−jkrk2 ( j
kr+ 1 (kr)2
)
(3) であった。このうち,平面波*1として遠方に到達する電磁界成分 Eθ, Hφの比をZとおくと
Z = Eθ
Hφ
=
Il
4πsinθe−jkrk2η (
j
kr+(kr)12 −(kr)j3
)
Il
4πsinθe−jkrk2 (
jkr1 +(kr)12
)
= η
(j kr+ 1
(kr)2 −(kr)j3
) jkr1 +(kr)12
(4) となり,分子分母にkr/jを掛けると
Z =η
1 +jkr1 −(kr)12
1 +jkr1 =η
1−krj −(kr)12
1−krj (5)
これを微小ダイポールの波動インピーダンスまたは電波インピーダ ンスと呼ぶ。図1に波動インピーダンスの距離変化の様子を示す。
kr <1ではIm[Z]が支配的*2で,kr >1ではRe[Z]が支配的とな り,さらに電流源から十分離れた遠方kr >10ではZ ≃η= 376.7 Ω に近づくことが分かる。このように波動インピーダンスが定常になる 領域を遠方界と呼ぶ。
㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻜 㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻝 㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻞 㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻟 㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻠 㻝㻚㻜㻱㻗㻜㻡
㻜㻚㻜㻝 㻜㻚㻝 㻝 㻝㻜 㻝㻜㻜
㻵㼙㼜㼑㼐㼍㼚㼏㼑㻌㼇䃈㼉
㼗㼞㻌㼇㼞㼍㼐㼉
㻾㼑㼇㼆㼉 㼨㼇㻵㼙㼇㼆㼉㼨 㼨㼆㼨
㻟㻣㻢㻚㻣
図1 波動インピーダンスの距離変化
2. 放射抵抗(電圧と電流の比の実部)
同様に,平面波として遠方に到達する電磁界成分Eθ, Hφの積から,
時間平均電力密度EθHφ∗/2を計算する*3。Hφの共役は式(3)より Hφ∗= Il
4πsinθe+jkrk2 (−j
kr + 1 (kr)2
)
(6) であるから,時間平均電力密度[W/m2]は次式で計算される。
1
2EθHφ∗ (7)
= 1 2
(Il 4π
)2
sin2θk4η ( j
kr+ 1
(kr)2 − j (kr)3
) (−j kr + 1
(kr)2 )
(8)
= I2l2sin2θηk4 32π2
( 1 (kr)2+ j
(kr)3+ −j (kr)3+ 1
(kr)4+ −1 (kr)4− j
(kr)5 )
(9)
= I2l2sin2θηk4 32π2
( 1
(kr)2 − j (kr)5
)
(10)
= I2l2sin2θηk4 32π2
(k r
)2( 1− j
(kr)3 )
(11)
*1進行方向であるr方向に電磁界成分を有さない波。このケースはTMrモー ド(Hr= 0)と呼ぶこともできる。
*2実際はIm[Z]の符号には−が付くので,キャパシティブなインピーダンス である。このようにリアクタンスが支配的な領域を近傍界と呼ぶ。
*3共役を掛ける理由は付録参照。
空間に放射されて消費されるのは,式(11)のうちの実部のみなので k2η=ω2µε
õ
ε =ω2µεω√µε ωε = k3
ωε (12)
の関係を使うと Re
[1
2EθHφ∗]
=I2l2sin2θk3
32π2r2ωε (13)
となる。さらに,時間平均放射電力[W]を求めるために式(13)を微 小ダイポールを包む球面全体で積分すると
P¯=
∫ 2π 0
∫ π 0
Re [1
2EθHφ∗]
r2sinθdθdφ
= I2l2k3 32π2r2ωε
∫ 2π 0
∫ π 0
sin3θ r2sinθdθdφ
= I2l2k3 32π2r2ωε
8π
3 =I2l2k3
12πωε (14)
となる。さらに式(14)を変形すると P¯= I2l2k3
12πωε =(Il)2(2π)2 12ωεπλ2 ω√
µε= (Il
λ )2π
3η (15)
となる。ここで,P¯=RrI2/2よりRrは次式となる。
Rr= (l
λ )22π
3 η= 80π2 (l
λ )2
(16) 式(16)を微小ダイポールアンテナの放射抵抗と呼ぶ。
3. 付録:共役複素数を掛ける理由
最も簡単な例として,1次元伝送線路を伝わる電圧V(z)と電流I(z) が運ぶ伝送電力について考えてみる。波動方程式の一般解より V(z) =(
V0+e−jβz+V0−e+jβz)
ejωt (17)
I(z) = 1 Z0
(V0+e−jβz−V0−e+jβz)
ejωt (18)
進行波のみに着目すると
v+(z, t) =V0+ejθe−jβzejωt=V0+ej(ωt−βz+θ) (19) i+(z, t) = V0+
Z0
ejθe−jβzejωt= V0+ Z0
ej(ωt−βz+θ) (20)
となる。式(19)式と(20)において,物理的な意味を有するのは実部 のみなので*4
Re[
v+(z, t)]
=V0+cos (ωt−βz+θ) (21) Re[
i+(z, t)]
= V0+ Z0
cos (ωt−βz+θ) (22)
が得られる。式(21)と式(22)から瞬時電力pを求めると p(t) = Re[
v+(z, t)] Re[
i+(z, t)]
=V0+2 Z0
cos2(ωt−βz+θ) (23) となる。ここから時間平均電力P¯を求めると
P¯= 1 T
∫ T 0
p(t)dt= 1 T
∫ T o
V0+2 Z0
cos2(ωt−βz+θ)dt
= 1 T
V0+2 Z0
∫ T 0
cos2(ωt−βz+θ)dt (24) 加法定理を使って式(24)を展開すると次式となる。
P¯= 1 T
V0+2 Z0
∫ T 0
1 + cos [2 (ωt−βz+θ)]
2 dt=V0+2 2Z0
(25) 一方,実部と虚部を含む式(17)と式(18)をそのまま使って,次の計 算V(z)I∗(z)/2を行ってみる*5。
1
2V(z)I∗(z) = 1 2V0+
e−jβzejωt 1 Z0
V0+∗e+jβze−jωt
=1 2
1 Z0
V0+
V0+∗=1 2
1 Z0
V0+2 (26) これは式(25)で求めた時間平均電力P¯に等しい*6。即ち,
P¯= 1
2V(z)I∗(z) = 1
2V∗(z)I(z) (27)
となる。式(17)と式(18)のように複素数で表された電圧・電流セッ トのうち,片方の共役をとって掛け合わせることで複素数を上手く消 去できる。これにより物理的に意味のある値の導出に要する計算量を 大幅に減らすことができる。
*4敢えて虚部や指数関数を導入しているのは,微積分の計算が簡単になるため。
cosxやsinxの微分積分には符号反転や,cosとsinの入れ替えなど面倒だ が,ejxなら微分積分しても間違いを犯すリスクが少ない。
*5V∗(z)I(z)/2でもよい。
*6二つの共役複素数c=a+jbとc∗=a−jbの積はa2+b2=|c|2である。
1