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「食文化」の商品化の構築のために Discussions on Commodification of Food Culture

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(1)

「食文化」の商品化の構築のために Discussions on Commodification of Food Culture

池 田 和 子

Kazuko Ikeda

本稿では,「食文化」の商品化を概念として構築するための,近接分野にみられる商品化概念について検討する。

先行研究としては,観光人類学などにみられる「文化」の商品化に関するものと,おもに農村研究から提起され た「農村空間」の商品化に関するものを対象とする。これらの先行研究において共通しているのは,商品化はま なざしの転換を示す視点である。「食文化」の商品化への応用に関する主な問題点としては,真正性やロカリティ はより多様化する可能性があり,商品化から再生産への言及は少ないということである。以上をふまえ,「食文化」

の商品化は,概念としては非商品から商品への移行と,背景としてのまなざしの変化を示すが,そのモビリティ の高さ,変容可能性の高さから,それに関する議論に再生産や循環のプロセスを盛り込む必要がある。本稿では,

「食文化」が経済活動と文化事象を循環するモデルを想定し,そのなかで文化事象から経済活動に移る切替部分 を「食文化」の商品化と考える。

I.はじめに

昨今,各地で地域の資源として認識され,活性化 の源として期待されている食文化だが,その食は,

いつ,何の契機によって,どのようにして,その場 所と結びつけられ,その場所の食文化として認めら れるようになったのだろうか。食品は,加工品,材 料,農産物に関わらず,多くの場合価格の設定され た商品である。池田(

2010

)は,愛媛県伊予市の削 り節製造を事例とし,産業地域形成に果たす「場所」

の役割について考察した。そのなかで,カツオ節利 用の文化が日本の食文化と認識されるに至る過程 において,削り節の商品化がひとつの重要な役割を 担っていることを明らかにした。つまり,当初は特 定の地域に限定されていたカツオ節の利用が,削り 節の商品化を経て日本全国に広まったのである。こ れは,食文化の地理的範囲の変化が,使用する食品 の商品化を契機として生じていることを意味する。

具体的には,削り節が商品化し,その流通範囲が拡 大することなどによって,カツオ節の出汁を取ると いう調理行動が広まった,ということである。この ように,流通範囲の拡大などを通して,食品を利用 する地理的範囲に変更が加えられ,変更された食品

利用の地理的範囲が定着し,その場所に根づいてい く場合がある。また,食品が商品化されることで,

当該商品の流通範囲が変化するだけでなく,その商 品を用いた食の行動が,ある地理的範囲で行われる 独特の行動である,と広く認識される可能性もある。

本稿では,食品が売買の対象とは考えられておらず,

食文化の一部として存在する状態と,市場に流通す る商品である状態とを行き来する状況を想定し,食 文化から商品へと切り替わる点を,「食文化」の商 品化と捉える。

「食文化」の商品化の研究の学問的価値はなんで あろうか。地域文化が経済活動によって変容してい く可能性と,逆にあくまで経済的な目的によって開 発され商品が,地域文化の一部となる可能性をもっ ていることは,漠然とは理解されている。だが,そ うした問題意識は学問的領域においてこれまで充 分に検討されてきたとはいい難い。

一方で,観光や地域ブランドなど,現実の経済活 動においては,地域文化の積極的な活用は,ますま す盛んになっている。そうしたなかで地域の文化が,

外部の者にも開放されることによって変容するこ とに懸念を抱く者も少なくない。「食文化」の商品 化は,これまでの研究の欠落を補う意味でも,領域 横断的な研究としても,現実社会への理解を深める 意味でも,意義あるものと考えている。つまり,「食

首都大学東京大学院都市環境科学研究科博士後期課程

192-0397

東京都八王子市南大沢

1-1 (

9号館

)

(2)

文化」の商品化を概念として検討していくことによ り,経済と生活文化の接合部分に焦点をあて,研究 領域を結びつけ,地域文化活用の実際に貢献しうる だろう。

本稿では,まず「食文化」の商品化について,仮 説を提示したうえで,商品化を概念に含む,近接分 野の先行研究についてレビューし,そのうちとくに 真正性とロカリティについて検討する。先行研究を

「食文化」の商品化に応用する際の課題を抽出し,

まとめとして,得られた知見を「食文化」の商品化 にいかに取り入れるべきであるか,概念の再検討を 行う。

Ⅱ.「食文化」の商品化の定義

「食文化」の商品化を定義するにあたり,まず「食 文化」を規定しなければならない。日本の食文化研 究は,主に文化人類学や歴史学,家政系の研究者が リードしてきた。これらの分野における「食文化」

の定義は「いまだに食文化の概念,日本料理の定義 といった基本的な語彙が整理されていない現状」

(熊倉

2005

)で,明確な定義はみられない。石毛

2005

)は食文化には「原料の生産に始まり,調理,

栄養,生理など食に関するあらゆる事が含まれ」

「食習慣や嗜好もやはり文化の問題」であるとし,

それを広義の食文化としている。そのなかで中核を なす「食物加工と食行動をめぐる文化」を狭義の食 事文化と称している。

ここから想起される広義の食文化の範囲は,非常 に広い。しかし「食文化」の商品化の研究では,食 文化の範囲を,経済活動に活用されるモノとしての 食品と,その経済活動の際に与えられる,食と場所 の結び付きに関する情報に限定したい。この情報が,

私たちが一般に地域の食文化と呼ぶものであり,こ れによって商品の稀少性が高まり,商品と場所の結 び付きが正当化され,そのような食文化は,ある地 域が特定の作物やその加工品を開発し販売するた めの根拠となるのである。食文化となる情報の内容 には,原料生産,加工調理方法,それをいつどのよ うに食べるかといった食習慣,嗜好などが含まれる。

その際に重要な点として,明示の有無に関わらず,

食文化は領域をともなって示されることを挙げた い。ある地方の食習慣を紹介すると同時に,当該の 食品を販売することは,商品に地理的なものを含む 情報,または物語を添えているといってよいだろう。

したがって,本稿では食文化を「食を地理的範囲と 結びつけて,その価値を見出し,活用する際に根拠 となる,または創出され,再生産される物語」と規 定する。

「食文化」の商品化における商品とは,価格が付 されて市場に流通する事物を指すが,商品化の議論 においては,必ずしも新たに売買の対象になるもの であるとは限らない。例えば,既に商品として流通 している商品に地域の食習慣や由来などの情報を 改めて付し,それを前面に出すような宣伝活動も,

「食文化」の商品化の例として想定する。つまり,

「食文化」の商品化では,実際に市場に出るモノで ある商品と,情報である「食文化」の双方を考察す る必要がある,ということになるだろう。以上を踏 まえ,ここではひとまず「食文化」の商品化を「場 所と結びついた食の情報・物語が文化的事象から経 済活動に移行する切替点」と定義する。

Ⅲ.2つの商品化

概念としての「食文化」の商品化を正面から扱っ た議論は,管見の限りみられない。しかし,食文化 と関わりがある,商品化の議論を

2

つ挙げることが できる。

1

つは主に観光人類学で議論される「文化」

の商品化,もう

1

つは農村地理学などを中心とする

「農村空間」の商品化である。地域の食文化は,観 光の大きな魅力の

1

つであるし(

Cohen and Avieli 2004

,地域の農産物やその生産の場などは,宿泊,

体験,観光などさまざまに活用されている。観光は,

「食文化」の商品化において,結びつきの強い場面

1

つといえるのではないだろうか。なお,これら の商品化は,表

1

のように分類できるだろう。ここ ではスミス(

1991

)にならい,観光客をゲスト,観 光客を遇する側をホストと呼称する。

(3)

1

商品化論の分類

概念 視点 目的 文献名

「文化」

商品化

ホスト 文化の意味 考察

安藤

(2001)

川森

(2001)

ゲスト 観光の意味

考察

森本

(1998)

「農村 空間」

商品化

ホスト 経済的振興 井口・田林

(2011)

小原

(2010)

ホスト

ゲスト

非経済的な 地域振興を 含む

小金澤

(2007)

3.1

「文化」の商品化

観光の文脈では,訪問先である地域の文化が,価 格のともなった商品として,ゲストの消費の対象と なる。このような状況を観光人類学では,「文化」

の商品化として捉えられている。つまり,「文化が 観光の資源として利用され,さまざまな文化要素に 価格が付けられ,観光商品として観光客の消費の対 象となる」(大橋

2001

)現象をさす。この背景には,

観光産業の成長により,地域文化へのまなざしと,

それにともなう地域文化の変容がある。地域文化へ のまなざしの変容とは,例えば葛野(

1996

)にみら れる,フィンランドのトナカイ遊牧民が北欧の聖ニ クラウス信仰と結びつき,サンタクロース民族とし てみなされる,といった状況である。地域文化の変 容とは,後述するグリーンウッド(

1991

)の事例の ように,地域の祝祭が「バスク人としての歴史的ア イデンティティを意思表示する」儀礼から,観光の 目玉商品のひとつになり,住民が参加しなくなった という,意味の変容がある。また,観光用のショー において,ダンスの演出に手を加えるような,可視 的な変容も含まれる。ここでは,観光客を受け入れ る地元であるホストと,観光客であるゲストにとっ ての商品化に大別できる。

まずホストからみた「文化」の商品化は,その理 解が二極化しているといわれている。観光によって 地域文化が形骸化しその意味を失ってしまう,とい う悲観論と,必ずしもそうはならず,観光活動が「伝 統を保存し,改革し,そして再創造する過程を強化 する」(マッキーン

1991

)という見解である。

グリーンウッド(

1991

)は,スペインの伝統儀式 を事例に,文化の商品化が,人々からその本当の意

味を奪ってしまうと強く非難する。彼は,観光の促 進が「富の不平等配分と,その結果として生じる社 会階層の分化」によるとし,経済的弱者に置かれた ホストが,観光によってその文化までも破壊される 状況をあぶりだした。

一方,マッキーン(

1991

)はバリの事例から,ホ ストの人々が,観光によって生じる文化変容になす 術もないのではなく,選択的に行っていることを明 らかにした。彼らは「地元経済を破壊しないで,そ れを国際経済とリンクさせ」「保存と経済的必要性 の双方が,近代化のための資金を得るために,彼ら の彫り手,楽士,及び踊り子としての技能を保つこ とをバリ島の人々に促している」のである。

これらの主張にみられるのは「観光のインパクト によって文化が商品化される際に生じる文化の意 味をめぐる問題」(大橋

2001

)である。文化の意味 とは,その文化の持ち主ともいうべき,商品化され た文化の提供者の視点における意味である。川森

(2001)

は岩手県遠野の語りべホールの事例を通じて,

用意された観光の場が,ホストの肯定的な自己認識 の機会となると同時に,ホストの日常生活を外部の 支配的な力から守る防波堤として機能することを 明らかにした。語りべホールは,柳田国男『遠野物 語』のイメージを活用した観光施設であり,そこで は昔話の公演が行われる。だが昔話の演者は,観光 用のホールで柳田国男の話に依拠した昔話をする よう,単に押し付けられているのではない。公演の 場は,演者自身の記憶と結びついた語りをすること による自己の表現の場となり,また日常では既に使 われなくなった方言を呼び起こし,活用する機会に もなっているのである。

一方,ゲストにとっての「文化」の商品化はどの ようなものであろうか。ホストからみた「文化」の 商品化とは異なり,対象となる文化は,必ずしも価 格をともなうものではないことが指摘できるだろ う。アーリ(

1995

)は,「ツーリズムは記号の収集 をともなう」としている。場所とは,彼のいう「観 光のまなざし」を向ける対象で,人々はあらかじめ 場所に対し,映画や新聞,テレビなどさまざまな非 観光的実践を通して,普段とはまったく異なる楽し みへの期待をつくりあげる。つまりこれらの非観光 的実践は,人々に記号を提供する。そして人々が実 際の観光で見たものは,そのようにして前もって与 えられた記号によって解釈されるのである(アーリ

1995

文化」の商品化を概念として検討していくことによ り,経済と生活文化の接合部分に焦点をあて,研究 領域を結びつけ,地域文化活用の実際に貢献しうる だろう。

本稿では,まず「食文化」の商品化について,仮 説を提示したうえで,商品化を概念に含む,近接分 野の先行研究についてレビューし,そのうちとくに 真正性とロカリティについて検討する。先行研究を

「食文化」の商品化に応用する際の課題を抽出し,

まとめとして,得られた知見を「食文化」の商品化 にいかに取り入れるべきであるか,概念の再検討を 行う。

Ⅱ.「食文化」の商品化の定義

「食文化」の商品化を定義するにあたり,まず「食 文化」を規定しなければならない。日本の食文化研 究は,主に文化人類学や歴史学,家政系の研究者が リードしてきた。これらの分野における「食文化」

の定義は「いまだに食文化の概念,日本料理の定義 といった基本的な語彙が整理されていない現状」

(熊倉

2005

)で,明確な定義はみられない。石毛

2005

)は食文化には「原料の生産に始まり,調理,

栄養,生理など食に関するあらゆる事が含まれ」

「食習慣や嗜好もやはり文化の問題」であるとし,

それを広義の食文化としている。そのなかで中核を なす「食物加工と食行動をめぐる文化」を狭義の食 事文化と称している。

ここから想起される広義の食文化の範囲は,非常 に広い。しかし「食文化」の商品化の研究では,食 文化の範囲を,経済活動に活用されるモノとしての 食品と,その経済活動の際に与えられる,食と場所 の結び付きに関する情報に限定したい。この情報が,

私たちが一般に地域の食文化と呼ぶものであり,こ れによって商品の稀少性が高まり,商品と場所の結 び付きが正当化され,そのような食文化は,ある地 域が特定の作物やその加工品を開発し販売するた めの根拠となるのである。食文化となる情報の内容 には,原料生産,加工調理方法,それをいつどのよ うに食べるかといった食習慣,嗜好などが含まれる。

その際に重要な点として,明示の有無に関わらず,

食文化は領域をともなって示されることを挙げた い。ある地方の食習慣を紹介すると同時に,当該の 食品を販売することは,商品に地理的なものを含む 情報,または物語を添えているといってよいだろう。

したがって,本稿では食文化を「食を地理的範囲と 結びつけて,その価値を見出し,活用する際に根拠 となる,または創出され,再生産される物語」と規 定する。

「食文化」の商品化における商品とは,価格が付 されて市場に流通する事物を指すが,商品化の議論 においては,必ずしも新たに売買の対象になるもの であるとは限らない。例えば,既に商品として流通 している商品に地域の食習慣や由来などの情報を 改めて付し,それを前面に出すような宣伝活動も,

「食文化」の商品化の例として想定する。つまり,

「食文化」の商品化では,実際に市場に出るモノで ある商品と,情報である「食文化」の双方を考察す る必要がある,ということになるだろう。以上を踏 まえ,ここではひとまず「食文化」の商品化を「場 所と結びついた食の情報・物語が文化的事象から経 済活動に移行する切替点」と定義する。

Ⅲ.2つの商品化

概念としての「食文化」の商品化を正面から扱っ た議論は,管見の限りみられない。しかし,食文化 と関わりがある,商品化の議論を

2

つ挙げることが できる。

1

つは主に観光人類学で議論される「文化」

の商品化,もう

1

つは農村地理学などを中心とする

「農村空間」の商品化である。地域の食文化は,観 光の大きな魅力の

1

つであるし(

Cohen and Avieli 2004

,地域の農産物やその生産の場などは,宿泊,

体験,観光などさまざまに活用されている。観光は,

「食文化」の商品化において,結びつきの強い場面

1

つといえるのではないだろうか。なお,これら の商品化は,表

1

のように分類できるだろう。ここ ではスミス(

1991

)にならい,観光客をゲスト,観 光客を遇する側をホストと呼称する。

(4)

森本(

1998

)は,文化が商品化される状況を,次 のように表し,旅の空間全てが商品となっているこ とを示唆する。

「商品化された文化」とは,(中略)ツーリストの鑑 賞の対象となる大自然や芸能をも内包し,更にツーリ ストの視線を意識しながら経済的,文化的,社会的活 動をする人々の言動や外観等にも拡大される。これら の人々の言動や外観等は,必ずしも金銭が直接介在す るとは限らないが,ツーリストに「展示」されたもの として消費されている。(森本

1998

また,訪問先であるホストも,ゲストが抱いてい るイメージを損なわないような景観の工夫を行い,

それは,ゲストのイメージと「部分的に重なり合う かたちで形成されている」(森本

1998

。つまり,観 光客が形成する場所のイメージを,ホストの方でも 利用し,そのようにして生じた実際の景観は,その 場所らしさをさらに盛り上げていくことになる。

後述するように,ホスト,ゲスト双方において,

この問題意識は真正性の議論に結びつく。ホストの 視点からは,文化変容をどのように理解し,評価す るのか,ゲストの視点では,ゲストが観光で求めて いるのはどのような本物なのか,その真正性の多様 性に関わる議論である。

3.2

「農村空間」の商品化

「農村空間」について

Woods

2005

)は「観光,

投資や農村の物品販売,商品への農村イメージ利用 などを通じ,農村が「売って」「買う」商品となる こと」,立川(

2005

)は,「農村空間のもつ様々な要 素(景観,イベント,土地,伝統,社会関係等)が,

消費の対象として,時に既存の文脈と切り離されて 市場的評価の対象となること」と定義している。こ れらの共通点は,従来の農村機能である農業生産に,

レクリエーションや農業民宿など諸活動の場とし ての評価が追加されていること,またその空間や諸 活動が売買の対象となっていることである。あくま で生産の場であった農村空間は,見るべきもの,遊 ぶ場所としては何もないと思われていたが,そのこ とが都市にはないものとして,価値を与えられ,開 発されてきたのである。

「農村空間」の商品化の背景としては,農村にお ける経済的困難と,農村機能への生産者,消費者双 方の視点が,従前の農業生産一辺倒だった農村空間

を多様化させたことが挙げられる。立川(

2005

)が 述べるように,これからの農村研究は,農村再生を 目指して,これまで注目されてこなかった,「農村 を消費・受容する農村外部の人々の視点」に注目し,

「農村を消費する側の論理を明らかに」することが 求められている。立川(

2005

)はまた,このような 農業生産以外の観点から農村空間を評価する状況 を,まなざしの概念を用いて明らかにしようとして いる。その問題関心は,農村研究から出発しており,

農村における地域活性化の事例と結びついている ことから,自ずとその視点も観光人類学でいうとこ ろのホストの側に集中する。

「農村空間」の商品化の対象は,食にとどまらず,

農村的なものや農村にあるもの全てが含まれるが,

本稿では農産物や加工品など,食品に関連のある範 囲に限定する。ここに含まれる先行研究は,商品と しての食や食文化の活用方法において二分できる。

それは,「農村空間」の商品化によって経済的な地 域振興を目指すものと,それも含みながら,非経済 的な要素を含んだ地域振興を目指すものである。

経済的な地域振興に重きを置く「農村空間」の商 品化は,おもに食の質や安心・安全といったキーワ ードで語られる。地域ブランドや商品連鎖の地理学 も,ここに含まれる。これは,立川(

2005

)の方法 論的分類のうち,(アクター)ネットワーク論的ア プローチを取り入れた研究ともいえる。これは

Callon

などのアクターネットワーク論の影響を受け

た,いわば農産物が取り持つネットワークに着目し た研究などである。農産物などの,生産者の顔が見 えること,地域に根ざしていることが,商品の価値 となり,それによって地域経済を活性化させること が期待されている。井口・田林(

2011

)の静岡市の 石垣イチゴ地域の事例からは,素朴さも質のひとつ とみなすことができるだろう。各農家はイチゴ加工 品,雑貨類を手づくりし,農家の素朴さ,農村らし さをアピールしている。実際の食品としての新鮮さ や安全性に加え,農村の素朴なイメージを商品に反 映させているのである。

非経済的な地域振興をも視野に入れた「農村空 間」の商品化は,農村住民の意識高揚や,伝統の継 承をその意図に含む。食育や農村住民の生きがい,

といったキーワードが挙げられるだろう。これらは,

地域主義に結びつくものといえる。ただし,地域主 義という用語から一般的に喚起されるような,政治 性の強いものではない。小金澤(

2007

)は,食文化

(5)

の安易な地域振興への利用に懸念を示しており,

「地域の食文化・食育の価値を地域住民が評価して,

自らが需要者としてそれらを支え,その価値をきち んと評価できる消費者に提供できる体制作りが必 要」と主張する。安易な商品化や認定制度は,もっ ぱら市場での商品差別化の道具,価格維持のための 手段としてのみ機能しかねないと主張する。

Ⅳ.真正性とロカリティ

以下では,「食文化」の商品化を考察するうえで 重要な

2

つの点について検討したい。真正性とロカ リティである。先述したとおり,「食文化」の商品 化においては,明示の有無に関わらず,「食文化」

は場所と食品の組み合わせで示される。それが他の 類似した商品との差別化にむすびついているため,

商品化の過程では,開発主体による当該「食文化」

の特徴づけが行われるであろう。そのなかで真正性 は,ある場所がある商品を売るに値する,という正 当性の根拠に結びつき,ロカリティは場所の情報で もあり,商品の稀少性に関わる。またロカリティで は場所のイメージが商品のイメージにも大きな影 響を与えるであろう。商品としての食品の真正性と ロカリティは,「食文化」の商品化には不可欠な要 素なのである。これらと「食文化」の商品化の実際 の関わりを検討することにより,開発主体がいかな る論理と過程で商品となる「食文化」を形成し,食

-場所の関係を構築するのかを明らかにできるだ ろう。

真正性は,観光人類学の重要なテーマである。観 光の場でホストやゲストによって追求される本物 らしさを,観光人類学では真正性(本物性,オーセ ンティシティ)と呼ぶ(安藤

2001

。この議論を出 発点に,観光人類学の他のさまざまな概念が提示さ れてもいる。真正性に関する議論の紹介は,中村

2009

)や安藤(

2001

)に詳しい。真正性に関して は,ホストとゲストそれぞれの視点に立った議論が 展開されている。ゲストに関しては,旅行者が旅に 求めるのは,真正性の追求か否か,という問いに集 約されるだろう。そこを起点として,現在では,真 偽という二項対立そのものを疑問視する主張が目 立つ。橋本(

2007

)は,観光客が求めるのは「らし さ」であると述べている。ホストについては,例え ば,安藤(

2001

)は東北の民俗芸能を事例として,

異なる立場の担い手それぞれが,自らの真正性を主

張する様子と,その意味を考察している。安藤も同 様に,真偽の二項対立に対し,その限界を主張する。

日本では,真正性の真偽を問う議論は下火といえ る。「真偽」を問うこと自体「時代遅れ」とみなさ れ,あるいは「真偽」の枠を越えてポストモダン観 光における文化の混淆性を計る手段と扱われる傾 向が強い」(中村

2009

。この背景には,橋本(

2007

も指摘するように,真正性についての研究がその

「捏造」を暴く行為である,とホストの人々に警戒 されてしまう,という実状があると考えられる。た だし,ここには観光文化を肯定的に評価するものと して歓迎される一方で,真正性そのものを不問に付 するものとなり,その背景にある真偽の階層構造と いう,暗黙の前提についての内省的な議論までも縮 小することになるおそれがある(中村

2009

「農村空間」の商品化では,真正性は過去のある 時点の姿に求められ,それを根拠に商品化が進めら れているといえる。「農村空間」の商品化の過程で は,その商品価値としてルーラリティ(農村らしさ)

が社会的・文化的に構築される。それを正当と価値 づけるための真正性が必要となるが,その根拠とし ては,集合的記憶としての歴史が参照される(松井

2011

。そもそも「農村空間」の商品化の要因のひ とつとして,松井(

2011

)は「農村が都市との相対 的比較において有意な,イデオロギー的美徳の宝庫 であること」を挙げる。都市にはない,自然環境や 伝統的な価値観が維持されている場所として,農村 空間が商品価値を見出されているのである。ここに は,まず農村空間が,都市との二項対立のもと,時 間的に遅れたものとして認識されているという,暗 黙の前提がある。そのうえで農村には,過去の,懐 かしい,都市が失った古きよきもの,と消費者の認 める要素が残されていることが期待されているの である。そのため,真正性の根拠は,過去に求めら れることになる。

しかし,その参照されるべき過去も,実際は誰に とっても同じものではなく,商品化する主体の論理 によってさまざまである。農村も「単に過去が保存 され,映し出される場なのではなく,現在の文脈の 中で「過去」が創出され,その内容が争われる社会 的構築物」(米家

2005

)である。つまり,参照され るべき場所の歴史も,単一ではなく,主体それぞれ の行う表象の実践なのだと主張する。

結果として,ルーラリティは消費者,農村の双方 によって消費を意識した構築,循環,再生産がなさ 森本(

1998

)は,文化が商品化される状況を,次

のように表し,旅の空間全てが商品となっているこ とを示唆する。

「商品化された文化」とは,(中略)ツーリストの鑑 賞の対象となる大自然や芸能をも内包し,更にツーリ ストの視線を意識しながら経済的,文化的,社会的活 動をする人々の言動や外観等にも拡大される。これら の人々の言動や外観等は,必ずしも金銭が直接介在す るとは限らないが,ツーリストに「展示」されたもの として消費されている。(森本

1998

また,訪問先であるホストも,ゲストが抱いてい るイメージを損なわないような景観の工夫を行い,

それは,ゲストのイメージと「部分的に重なり合う かたちで形成されている」(森本

1998

。つまり,観 光客が形成する場所のイメージを,ホストの方でも 利用し,そのようにして生じた実際の景観は,その 場所らしさをさらに盛り上げていくことになる。

後述するように,ホスト,ゲスト双方において,

この問題意識は真正性の議論に結びつく。ホストの 視点からは,文化変容をどのように理解し,評価す るのか,ゲストの視点では,ゲストが観光で求めて いるのはどのような本物なのか,その真正性の多様 性に関わる議論である。

3.2

「農村空間」の商品化

「農村空間」について

Woods

2005

)は「観光,

投資や農村の物品販売,商品への農村イメージ利用 などを通じ,農村が「売って」「買う」商品となる こと」,立川(

2005

)は,「農村空間のもつ様々な要 素(景観,イベント,土地,伝統,社会関係等)が,

消費の対象として,時に既存の文脈と切り離されて 市場的評価の対象となること」と定義している。こ れらの共通点は,従来の農村機能である農業生産に,

レクリエーションや農業民宿など諸活動の場とし ての評価が追加されていること,またその空間や諸 活動が売買の対象となっていることである。あくま で生産の場であった農村空間は,見るべきもの,遊 ぶ場所としては何もないと思われていたが,そのこ とが都市にはないものとして,価値を与えられ,開 発されてきたのである。

「農村空間」の商品化の背景としては,農村にお ける経済的困難と,農村機能への生産者,消費者双 方の視点が,従前の農業生産一辺倒だった農村空間

を多様化させたことが挙げられる。立川(

2005

)が 述べるように,これからの農村研究は,農村再生を 目指して,これまで注目されてこなかった,「農村 を消費・受容する農村外部の人々の視点」に注目し,

「農村を消費する側の論理を明らかに」することが 求められている。立川(

2005

)はまた,このような 農業生産以外の観点から農村空間を評価する状況 を,まなざしの概念を用いて明らかにしようとして いる。その問題関心は,農村研究から出発しており,

農村における地域活性化の事例と結びついている ことから,自ずとその視点も観光人類学でいうとこ ろのホストの側に集中する。

「農村空間」の商品化の対象は,食にとどまらず,

農村的なものや農村にあるもの全てが含まれるが,

本稿では農産物や加工品など,食品に関連のある範 囲に限定する。ここに含まれる先行研究は,商品と しての食や食文化の活用方法において二分できる。

それは,「農村空間」の商品化によって経済的な地 域振興を目指すものと,それも含みながら,非経済 的な要素を含んだ地域振興を目指すものである。

経済的な地域振興に重きを置く「農村空間」の商 品化は,おもに食の質や安心・安全といったキーワ ードで語られる。地域ブランドや商品連鎖の地理学 も,ここに含まれる。これは,立川(

2005

)の方法 論的分類のうち,(アクター)ネットワーク論的ア プローチを取り入れた研究ともいえる。これは

Callon

などのアクターネットワーク論の影響を受け

た,いわば農産物が取り持つネットワークに着目し た研究などである。農産物などの,生産者の顔が見 えること,地域に根ざしていることが,商品の価値 となり,それによって地域経済を活性化させること が期待されている。井口・田林(

2011

)の静岡市の 石垣イチゴ地域の事例からは,素朴さも質のひとつ とみなすことができるだろう。各農家はイチゴ加工 品,雑貨類を手づくりし,農家の素朴さ,農村らし さをアピールしている。実際の食品としての新鮮さ や安全性に加え,農村の素朴なイメージを商品に反 映させているのである。

非経済的な地域振興をも視野に入れた「農村空 間」の商品化は,農村住民の意識高揚や,伝統の継 承をその意図に含む。食育や農村住民の生きがい,

といったキーワードが挙げられるだろう。これらは,

地域主義に結びつくものといえる。ただし,地域主 義という用語から一般的に喚起されるような,政治 性の強いものではない。小金澤(

2007

)は,食文化

(6)

れ,「農村に付与された一般的なイメージは,正の 記号として積極的に利用され」(松井

2011

,そのう えで他の農村との差異化を図るべく,個々のロカリ ティを追求することになるのである。

以上,

2

つの商品化における真正性に関する議論 をみてきたが,本稿における論点は

2

点あると考え られる。

1

つは何をもって真正とするのか,ホスト,

ゲスト双方の解釈の多様性であり,いま

1

つは,多 様性の結果として,誰にとっての真正性なのか,と いう点である。

安藤(

2001

)にみられるように,「文化」の商品 化に関わる主体は多様で,それぞれに自らを本物で あるとするための論理をもっている。ゲストも,ス ミス(

1991

)が示す観光客の類型にみられるように 多様であり,脚色の全くなされていない,ありのま まの姿を求める者ばかりではない。そのありのまま の姿も,突き詰めていけば,過去のどの時点の姿を 以て本物とするのか,主体によって解釈は異なる。

商品化された農村空間も同様で,ホストはそれぞれ の論理で商品化を行っている。その際,農村の,真 正とする部分は維持しつつ,その他の部分は美化や 現代的な快適さなどを優先した整備が行われるこ とがある。例えば,古民家を活用し,地元産の食材 を用いた郷土料理を提供するような宿泊施設であ っても,下水道を整備し,冷暖房を完備する,とい ったことは珍しくない。真正性は,一義的にはホス トにとっての真正性であるだろう。ただしそれはゲ ストにとっても納得のいく真正性であることが前 提となる。商品に対価を支払い,消費するのはほか ならぬゲストであるからだ。商品である以上,ゲス トがそこに価値を見出すものでなければならない だろう。

以上を踏まえると,食文化における真正性の根拠 は,その場所と結びついた生産の特徴,例えば生産 量,独特の生産方式,生産物の特徴の独自性といっ た特徴や,その特徴が過去や現在のある事実に基づ いていること,その場所に独特の習慣と関わりがあ ることなどを挙げることができるだろう。なおかつ それが客観的に示されるものであるほど,説得力は 高まる。「食文化」の商品化では,ホスト,ゲスト 双方における解釈の多様性を克服し,より多くの 人々に商品の真正性を訴えるための

1

つの手段とし て,統計などの客観的な指標を用いることも有効で はないだろうか。

ロカリティは,場所性,地域性,風土など他にも

同様の意味合いを持つ概念である。これらそれぞれ の検討は非常に重要であるが,ここでは広く先行研 究を求める目的から,ロカリティとしておく。ロカ リティは,先に述べたいずれの商品化においても,

真正性のような明示された議論はみられない。しか し,「文化」の商品化では,文化は必然的に領域を ともなうものでもあり,その場所に根づいているこ とは当然のこととみなされているのではないだろ うか。葛野(

1996

)の事例にみられるように,サミ 人以外の民族の者が「ラップ人」を演じることを問 題視するように,ロカリティはむしろ真正性の一部 として論じられている。その場所との結びつきが,

すなわち真正性のひとつの根拠とみなされる。

「農村空間」の商品化についても,ルーラリティ

(農村性,農村らしさ)については,そこに内在す る都市-農村の二元論への指摘を含めた言及がな されているものの,農村間の競争という次元でロカ リティの構築について指摘されることは少ない。商 品化過程における農村の記号化によって,農村や農 村空間のダイナミズムや多様性が隠蔽されるとい

Woods

2005

)の指摘は,個々のロカリティでは なく一括して農村ロカリティとして論じられる傾 向と表裏一体である。ここには,従来の農村研究の 特徴も関わっているように思われる。「農村研究は 社会経済的な変化の消費あるいは結果と結びつい た問題を強調しすぎてきた」(ホガート・ブラー

1998

)ために,農村が一様にみなされる傾向にあり,

個々のロカリティよりもルーラリティとして一括 して考察されたのである。

アーリ(

1995

)はロカリティが「実在的なものあ るいは経験的なものを,ただ単に手短に言い表した もの」ではないと述べ,これを多様な概念であるこ とを示している。ホガートとブラー(岡橋・澤監

,1998

)では,「ロカリティは独立した因果的プロ

セスの舞台である」と定義する。これは農村ロカリ ティの地域差が非ローカルな圧力の差異でのみ説 明されることに批判を加え,非ローカルな外圧に加 えローカルなプロセスとの因果的結び付きを明ら かにするものである。

Cooke

1989

)はロカリティ を,生きられた空間であり,単に自治体の範囲とい った政治的領域ではない,文化,経済,社会生活の 領域であると述べる。ただし,「ロカリティは空間 やコミュニティを単純に示したものではなく,社会 行為と空間における個人,集団,社会的志向の多様 性の集まりからなる結果としての行為の総和」であ

(7)

るとも述べている。

高橋(

1999

)は「ロカリティは,異なったスケー ルで作用するさまざまなネットワークによって構 成され,アクターによる政治的・経済的・文化的資 源の利用を通してそのネットワークのなかで異な って構築される」とする。ロカリティは大小さまざ まなスケールのなか,各主体の論理で表象,価値づ けられ,最終的には物理的に反映される。小原

2010

)は,ルーラリティを「外部の主体の背後に ある社会や歴史,文化などに影響されながら,農村

(田園)景観や農業,農産物など要素だけでなく,

それら要素の組み合わせによって表象されていく ものである」としている。

まとめると,ロカリティは単なる空間や自然環境 ではなく,そこに歴史や社会生活といった,人間の 行為が関わりあう場であること,物質と表象が絡み 合いながら景観に反映されること,他の地域スケー ルとの関係があり,相対化することによって認識さ れるものであること,を指摘できる。本稿では,こ の特徴をロカリティの定義に準ずることとしたい。

ここにはある問題が隠れている。それは,つくら れた商品が担い,代弁,再生産されるロカリティの 存在は,軽視されているのである。

Woods

2005

などが,商品化以前に予め消費者のイメージが存在 することを示しているし,また大橋(

2001

)は観光 が文化の再構築を要請する,と再生産の可能性に言 及しているが,商品化によって付加されたり明示さ れたりしたロカリティの,再生産への言及はみられ ない。商品としての食品に関していえば,場所の全 体,一部を問わず,その場所の範囲内に独特のもの であれば,ロカリティは場所全体に対し,自明であ るとみなされているとはいえないだろうか。その商 品がカバー可能な地理的範囲がどこまで及んでい るのかについては,深く考慮されることなく,開発 主体や消費者に柔軟に受容されているのである。例 えば,カップ入りの即席きつねうどんには粉末スー プが関東風,関西風と

2

種類あり,販売エリアも二 分されている。開発企業は調査の結果,風味の東西 の分岐点を関ヶ原とし,それをもとに販売エリアを 都道府県レベルで分けている(日清食品

HP

。分岐 点を点としながら,販売エリアは線で区分されるの である。このような区分の仕方は,間違いとはいえ ないものの,なかには真正性に疑問を持つ消費者も いるだろう。それでも,商品は日本全国で広く受け 入れられ,風味が

2

種類あることが,むしろ商品の

魅力のひとつにもなっているのである。

Ⅴ.「食文化」の商品化への応用に向けた課題

「文化」の商品化,「農村空間」の商品化にみら れる共通点として,まず,概念的には非商品から商 品へのまなざしの転換,つまり,これまでは金銭の 授受の対象となっていなかったものが,変化したこ とを概念としての商品化としていること,そして,

その結果,できあがった商品に関わる人々にとって の意味も変化しているという点である。これらの先 行研究を「食文化」の商品化に援用する場合に想定 される問題はなんであろうか。まず,商品化の意味 が混在するおそれがあり,明確に区別する必要があ る。ここでいう商品化の意味には

2

通りあり,

1

目は概念上の商品化で,先述のように,売買の対象 ではなかったものから商品への移行である。この背 景には,商品化される対象に対する生産者と消費者 双方の評価,視点の変化がともなう。森本(

1998

や井口・田林(

2011

)の事例のように,売買に直接 関わりのない部分までもが,その場所らしさを高め るよう工夫されていることを考慮すれば,むしろそ の評価や視点の変化こそが,商品化には重要な過程 といえる。つまり,概念上の商品化は,非商品から 商品への移行と,その背景としてのまなざしの変化 である。もう

1

つは商業的な文脈で用いられ,より 一般的な意味使用での商品化である。これは大量生 産や機械生産,既存の流通販売網に乗せるための諸 過程である。またコメのように,広義では商品でも,

市場経済化されていなかったものからの転換も含 まれるだろう。実際に行われている商品化の多くは こちらの商品化である。

これらの商品化の概念の共通の問題点は,非商品 から商品に変化するという,一方通行の変化のみを 捉えている点である。商品化により,元の文化に変 化が加えられ,それが新たに文化として定着し,再 生産していく可能性というものは,ほとんど考慮さ れていない。

そして,開発主体と,商品化された対象との関係 については議論の対象となっているが,商品と地名 の示す地理的範囲の関係は,看過されているといえ る。つまり人々と文化の関係,人々の表象の実践は 注目されるが,そこで空間や場所,例えば地名の示 す地理的範囲がどのように扱われ,生産,再生産さ れていくのかへの関心は低い。文化の領域が異なれ れ,「農村に付与された一般的なイメージは,正の

記号として積極的に利用され」(松井

2011

,そのう えで他の農村との差異化を図るべく,個々のロカリ ティを追求することになるのである。

以上,

2

つの商品化における真正性に関する議論 をみてきたが,本稿における論点は

2

点あると考え られる。

1

つは何をもって真正とするのか,ホスト,

ゲスト双方の解釈の多様性であり,いま

1

つは,多 様性の結果として,誰にとっての真正性なのか,と いう点である。

安藤(

2001

)にみられるように,「文化」の商品 化に関わる主体は多様で,それぞれに自らを本物で あるとするための論理をもっている。ゲストも,ス ミス(

1991

)が示す観光客の類型にみられるように 多様であり,脚色の全くなされていない,ありのま まの姿を求める者ばかりではない。そのありのまま の姿も,突き詰めていけば,過去のどの時点の姿を 以て本物とするのか,主体によって解釈は異なる。

商品化された農村空間も同様で,ホストはそれぞれ の論理で商品化を行っている。その際,農村の,真 正とする部分は維持しつつ,その他の部分は美化や 現代的な快適さなどを優先した整備が行われるこ とがある。例えば,古民家を活用し,地元産の食材 を用いた郷土料理を提供するような宿泊施設であ っても,下水道を整備し,冷暖房を完備する,とい ったことは珍しくない。真正性は,一義的にはホス トにとっての真正性であるだろう。ただしそれはゲ ストにとっても納得のいく真正性であることが前 提となる。商品に対価を支払い,消費するのはほか ならぬゲストであるからだ。商品である以上,ゲス トがそこに価値を見出すものでなければならない だろう。

以上を踏まえると,食文化における真正性の根拠 は,その場所と結びついた生産の特徴,例えば生産 量,独特の生産方式,生産物の特徴の独自性といっ た特徴や,その特徴が過去や現在のある事実に基づ いていること,その場所に独特の習慣と関わりがあ ることなどを挙げることができるだろう。なおかつ それが客観的に示されるものであるほど,説得力は 高まる。「食文化」の商品化では,ホスト,ゲスト 双方における解釈の多様性を克服し,より多くの 人々に商品の真正性を訴えるための

1

つの手段とし て,統計などの客観的な指標を用いることも有効で はないだろうか。

ロカリティは,場所性,地域性,風土など他にも

同様の意味合いを持つ概念である。これらそれぞれ の検討は非常に重要であるが,ここでは広く先行研 究を求める目的から,ロカリティとしておく。ロカ リティは,先に述べたいずれの商品化においても,

真正性のような明示された議論はみられない。しか し,「文化」の商品化では,文化は必然的に領域を ともなうものでもあり,その場所に根づいているこ とは当然のこととみなされているのではないだろ うか。葛野(

1996

)の事例にみられるように,サミ 人以外の民族の者が「ラップ人」を演じることを問 題視するように,ロカリティはむしろ真正性の一部 として論じられている。その場所との結びつきが,

すなわち真正性のひとつの根拠とみなされる。

「農村空間」の商品化についても,ルーラリティ

(農村性,農村らしさ)については,そこに内在す る都市-農村の二元論への指摘を含めた言及がな されているものの,農村間の競争という次元でロカ リティの構築について指摘されることは少ない。商 品化過程における農村の記号化によって,農村や農 村空間のダイナミズムや多様性が隠蔽されるとい

Woods

2005

)の指摘は,個々のロカリティでは なく一括して農村ロカリティとして論じられる傾 向と表裏一体である。ここには,従来の農村研究の 特徴も関わっているように思われる。「農村研究は 社会経済的な変化の消費あるいは結果と結びつい た問題を強調しすぎてきた」(ホガート・ブラー

1998

)ために,農村が一様にみなされる傾向にあり,

個々のロカリティよりもルーラリティとして一括 して考察されたのである。

アーリ(

1995

)はロカリティが「実在的なものあ るいは経験的なものを,ただ単に手短に言い表した もの」ではないと述べ,これを多様な概念であるこ とを示している。ホガートとブラー(岡橋・澤監

,1998

)では,「ロカリティは独立した因果的プロ

セスの舞台である」と定義する。これは農村ロカリ ティの地域差が非ローカルな圧力の差異でのみ説 明されることに批判を加え,非ローカルな外圧に加 えローカルなプロセスとの因果的結び付きを明ら かにするものである。

Cooke

1989

)はロカリティ を,生きられた空間であり,単に自治体の範囲とい った政治的領域ではない,文化,経済,社会生活の 領域であると述べる。ただし,「ロカリティは空間 やコミュニティを単純に示したものではなく,社会 行為と空間における個人,集団,社会的志向の多様 性の集まりからなる結果としての行為の総和」であ

表 1 商品化論の分類 概念 視点 目的 文献名 「文化」 の 商品化 ホスト 文化の意味考察 安藤 (2001)川森(2001)ゲスト観光の意味 考察 森本 (1998) 「農村 空間」 の 商品化 ホスト 経済的振興 井口・田林(2011)小原(2010)ホスト ゲスト 非経済的な地域振興を含む 小金澤 (2007) 3.1  「文化」の商品化  観光の文脈では,訪問先である地域の文化が,価 格のともなった商品として,ゲストの消費の対象と なる。このような状況を観光人類学では, 「文化」 の商品化として

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