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氏名 川口カワグチ

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 川口

カ ワ グ チ

ヒ デ

所 属 理工学研究科 物理学専攻 学 位 の 種 類 博士(理学)

学 位 記 番 号 理工博 第

254

号 学位授与の日付 平成

30

3

25

日 課程・論文の別 学位規則第

4

条第

1

項該当

学 位 論 文 題 名

Effective Hamiltonian theory of anomalous optical responses induced by spin-orbit interaction

スピン軌道相互作用による特異な光学応答現象の有効理論(英文)

論 文 審 査 委 員 主査 教 授 森 弘之 委員 准教授 荒畑 恵美子 委員 准教授 服部 一匡

委員 チームリーダー 多々良 源

(

理化学研究所創発物科学研究センター

)

【論文の内容の要旨】

本論文は、有効ハミルトニアンの方法を用いて、物質中のスピン軌道相互作用によって 誘起される光学応答現象について理論的に解析した結果をまとめたものである。

我々の身の回りに存在する物質は、膨大な数の電子から構成されている。そのため、金 属に外力として電場を加えると電流が誘起され、磁場を加えると磁化が誘起される。この 電磁応答現象が基礎となり、エレクトロニクス産業の発展を支えている。近年その発展に おいて物質特性を反映したスピン軌道相互作用によって誘起される、電気と磁気の情報を 直接結びつける交差相関応答が注目されている。特に、物質の空間反転対称性の破れに起 因したスピン軌道相互作用によるものが精力的に研究されている。

本論文にてまず着目したのはラシュバ型のスピン軌道相互作用と呼ばれるもので、その ハミルトニアンは空間反転対称性の破れを特徴付けるラシュバベクトルを用いて記述され る。このラシュバ相互作用は運動量空間において、電子スピンの向きをフェルミ面の接線 方向に固定させる。そのためラシュバ電子系に電場や磁場を加えると、磁場から電流を生 成でき、また電場によって磁化を誘起できるといった交差相関応答現象が発現する。最近、

それらの交差相関応答に起因した複屈折、負の屈折、光の集光などの光学応答現象が議論

されている。また、ラシュバ相互作用に加えて、磁化と電子スピン間の交換相互作用を考

慮することで時間反転対称性も破れている場合において生じる特異な光学応答現象が報告

されている。光学伝導度の解析から、磁気ラシュバ伝導体では、絶縁体のマルチフェロイ

(2)

クス物質と同様に、トロイダルモーメントと電磁場の波数の結合によって、方向二色性が 生じることが指摘された。上述の指摘がなされるまで光の方向二色性は絶縁体であるマル チフェロイクス物質に特有の現象であると考えられており、金属系における光の方向二色 性の理論的及び実験的研究はほとんど行われてこなかった。絶縁体系と金属系に共通する 光学応答を統一的に理解する概念の構築は、物質科学の重要な課題であるがいまだなされ ていない。磁気ラシュバ伝導体における方向二色性を微視的に解明し、絶縁体におけるシ ナリオとの対応関係を探ることで、物質中の光学応答に関する有効理論の確立を目指すこ とは急務である。

マルチフェロイクス物質で提案された結果と光学伝導度の結果に基づき電磁場に対する 有効ハミルトニアンを考察すると、磁気ラシュバ伝導体では、系の空間反転と時間反転の 対称性が破れていることで、トロイダルモーメントとポインティングベクトルが結合した 相互作用項が誘起される可能性がある。本論文における

1

つ目の目的は、磁気ラシュバ伝 導体における光の方向二色性を記述する相互作用項を微視的に特定し、その物理的意味を 有効ハミルトニアンの観点から明らかにすることである。絶縁体であるマルチフェロイク スにおけるシナリオでは、有効ハミルトニアンは対称性に基づいた現象論によって導入さ れたが、その微視的な導出及び物理的意味の考察は充分になされていない。そこで、磁気 ラシュバ伝導体の場合での有効ハミルトニンの導出を完成させ、絶縁体の場合との対応関 係を明らかにすることで、金属だけでなく物質全般における方向二色性の物理的基礎を微 視的立場から築く。経路積分に基づいた解析を行い電子の自由度を積分消去することで電 磁場の有効ハミルトニアンを導出する。系としては電磁場中における磁気ラシュバ伝導体 を考えた。電子に対する相互作用として、ラシュバ相互作用、磁化との交換相互作用、電 磁場との電磁相互作用を考慮している。計算では、ラシュバ相互作用の効果を取り込んだ 電子の温度グリーン関数を用いて電流電流相関関数を記述している。相関関数を磁化及び 電磁場の波数に関して線形の範囲で展開し、評価することで、トロイダルモーメントと波 数の結合が微視的に見出される。この微視的計算によって、磁気ラシュバ伝導体における 方向二色性を記述する有効ハミルトニアンがマルチフェロイクスにおいて提案されたもの と同型であることが判明した。これによって、物質中の方向二色性は、流れの役割を担う トロイダルモーメントによる光のドップラー効果の帰結として解釈できることが結論づけ られる。さらに磁気ラシュバ伝導体で得られた結果と、

θ

項によって記述されるワイル半金 属の光学応答現象の相違点を有効ハミルトニアンの観点から議論することで、

θ

項はドップ ラー効果を誘起できないことが理解される。

交差相関応答現象は、ラシュバ相互作用系特有のものではなく、他のスピン軌道相互作

用系においても発現しうる。近年、カイラル物質においてワイル型のスピン軌道相互作用

に起因する交差相関応答が報告されている。本論文では、次にカイラル物質において実現

されるワイル型のスピン軌道相互作用に着目する。そのハミルトニアンは、空間反転対称

性の破れを特徴付ける定数を用いて記述される。この系では電子スピンの向きがフェルミ

面上で放射状に固定され、交差相関応答の起源となる。特に、カイラル物質が示す自然旋

光性と光学カイラリティの関係が現象論的考察から見出され、カイラリティを基本的な物

理量として位置づけ、光学応答現象の理解を目指す研究が注目されている。もともと光学

(3)

カイラリティはゼルチ

(

日本語訳で「重要でない量」

)

として定義され文字通り物理的意味 が不明であったが、カイラリティの概念を持ち込むことで、円偏光状態の螺旋構造と関係 があることが近年指摘されている。しかしながら、光学カイラリティは対称性に基づいた 現象論によってその存在が仮定されるのみで、微視的観点からの導出及び意味づけは未だ なされていない。

本論文の

2

つ目の目的は、有効ハミルトニアンの観点から光学カイラリティを議論し、

光学カイラリティの出現機構及び自然旋光性との関係を明らかにすることである。電子に

対する相互作用として、ワイル相互作用、電磁場との電磁相互作用を考慮する。系の空間

反転対称性のみが破れていることから予測すると、有効ハミルトニアンは光学カイラリテ

ィに比例した形で書けることが期待できる。これは光学カイラリティという物理量が電磁

場の有効ハミルトニアンという物理的意味を持つことを示唆している。この予想を有効ハ

ミルトニアンの微視的導出をもって裏付ける。解析ではワイル相互作用を含んだ温度グリ

ーン関数で記述された電流電流相関関数を電磁場の波数に関して

1

次の範囲で展開し計算

を行った。結果として、光学カイラリティに比例する項が有効ハミルトニアンにおいて支

配的なものになることが判明した。有効ハミルトニアンの結果に基づきマクスウェル方程

式を導出することで、光学カイラリティというオーダーパラメータの存在がカイラル物質

における自然旋光性の起源となることが理解される。

参照

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