IS曲線
IS曲線とは、投資と貯蓄が等しくなるような、という意味は生産物市場 が需給均衡するような利子率と実質国民所得水準の組み合わせを示す曲線で す。ここで、物価水準の変化は考えません。
45度線分析で、投資と貯蓄が等しい時、生産物に対する総需要と総供給が 等しくなることはサムエルソンの図で説明されています。ただし、政府、輸 出入は無視して考えました。この45度線分析の時の投資は独立投資として、
外正的に(モデルの外から)与えられて、一定の値に所与でした。つまり、
均衡国民所得水準を決めるのには、I¯=S(Y)を解いて国民所得水準を決め ました。
今、投資が利子率の関数であると考えましょう。高い利子率の時、企業は 借り入れた資金に対して高い利息を支払わねばならないので、とても優良な その高い利息を払っても利益の出る投資しか行いません。そのような優良な 投資は多くはありませんので、投資額は少なくなります。逆に利子率が低い 時は、より劣悪な投資でも充分採算がとれるので、新規の投資は増えます。
IS LM 分析と位相図
中 島 章 子
**福岡大学経済学部
!#本稿の原稿の入力には福岡大学経済学研究科の呉迪さん、作図には経済学部
の片山翔三郎君の協力を得ました。 "
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( 1 )
I, S
S
実質国民所得水準 I(r1)
I(r2) Y2 Y1
利子率
IS
実質国民所得水準
つまり、投資は利子率の関数で、利子率が高いほど投資額は低くなります。
すると、貯蓄計画と投資の図で考えて、
低い利子率r1に対応する投資水準は高く、この時均衡国民所得水準は高 くなります。高い利子率r2に対応する投資水準は低く、この時の均衡国民 所得水準は低くなります。
すなわち、IS曲線上では、高い利子率は低い国民所得水準と、低い利子 率は高い国民所得水準と対応することがわかります。つまり、IS曲線は右 下りです。
図を用いてIS曲線を導いてみましょう。第2象限には投資と利子率の関 係を示す図を、左側に向かうほど投資額が増えるように描きます。第4象限 には実質国民所得水準と貯蓄額の関係を表わす図を、水平軸に実質国民所得 水準、貯蓄額が増すほど垂直軸の下向きに貯蓄額が増すように描きます。貯 蓄は所得が零のときは零です。最低の所得水準が満たされてから始めて貯蓄 はできるので、その最低の所得水準まで、貯蓄は零です。以後貯蓄は逓増的 に増えます。これを、180°ひっくり返して貯蓄を下向きに描くと、図1のよ
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( 2 )
r 利子率 IS 曲線
(貯蓄計画)貯蓄関数
(S+T)S 貯蓄 投資関数
投資I 45°
A E C
(I+G+EX 独立支出項目) 実質国民所得水準Y
生産物市場の不均衡 IS曲線
図1
うになります。第3象限には補助線の45°線を描きます。45°線の補助線を描 くことで投資額と貯蓄額が等しくなる点を選び出せます。その時の利子率と 実質国民所得水準を結ぶとそれが第1象限のIS曲線となります(図1)。
では次に、IS曲線の平面の上で、IS曲線上以外の点、つまり均衡点以外 の点からの動きを考えてみましょう。A点では投資水準は貯蓄計画を上回っ ているので、超過需要です。ですから、生産の増加が行われます。C点はE 点に比べて、同じ投資水準なのに、貯蓄は高いS(C)に対応しています。こ のS(C)を生み出す所得Y(C)は需要がないため実現しません。この場合 利子率が下落して投資が増大しない限り、生産を削減して、低い国民所得水 準へ方向へ調整が行われねばなりません。この調整を矢印で示します。
IS LM 分析と位相図(中島) −73−
( 3 )
利子率
超過供給
超過需要 IS
国民所得水準
このように、IS曲線上では、生産物市場は需給が均衡していますが、IS 曲線より右側では超過供給となり、右側からは調整がIS曲線に向かって左 向きの矢印で示される国民所得水準の下落で行われます。IS曲線の左側で は、超過需要(投資水準>貯蓄)となりますので、国民所得水準が上昇する ように調整が行われます。
このような調整はあくまで生産物市場だけが不均衡に対応し、マーシャル 的な数量調整が行われる場合のものです。IS、LM分析では、生産物価格の 調整は考えません。あるいは、数量調整の方が価格調整より早いと仮定して います。
投資が利子率の関数であることについて、つまり投資の限界効率について 説明します。投資の理論には、国民所得水準の変化分の関数であるという加 速度原理や、更にストック調整原理などもあります。しかし、ここでは資本 の限界効率を考えて、投資は利子率の関数と考えます。
ある費用Cをかけて機械設備を買うとします。この機械はこれからn年 間、毎年R1,R2……Rnの期待収益をもたらすとします。この機械の現在の価 値(割引現在価値)は
n n
r R r
R r V R
) 1 ... ( ) 1 (
1 2
2 1
となります。但しrは現在の市場利子率です。
今、予想収益がR1,R2……Rnの時に
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( 4 )
n
Rn
R C R
) 1 ... ( ) 1 (
1 2
2 1
U U
U
をなりたたせるρを資本の限界効率といいます。
ふつう 割引現在価値>機械の値段⇔利子率<投資の限界効率 割引現在価値=機械の値段⇔利子率=投資の限界効率
割引現在価値<機械の値段⇔利子率>投資の限界効率 が成り立ちます。
つまり、利子率<限界効率ならば、この機械は利潤或いは利益を生み出し ます。よって他の制約条件がなければ投資は実行されるでしょう。また、利 子率が低ければ低い程この機械は利潤を多く生みますので、投資は増えます。
尚、上の予想収益は、将来に対する現在の予想に影響されます。つまり、投 資の決定にはケインズの長期期待が重要な要素となります。
LM曲線
LM曲線とは、貨幣市場が需給均衡するような、利子率と国民所得水準の 組み合わせを示す曲線です。
貨幣供給(ハイパワードマネーに預金通貨や定期性預金、譲渡性預金を加 えた通常M2+CD)は中央銀行が供給したハイパワードマネーに銀行の行う 信用創造が加わって供給されます。これは利子率とは無関係に通貨当局が一 定量にコントロールできると考えます。
一方、貨幣需要は取引需要(国民所得水準の増加関数)と流動性選好によ る投機的需要(資産需要ともいい、利子率の減少関数)の合計からなります。
つまり、貨幣需要をLで表すとL=L(Y、r)で、貨幣需要は所得と利子率 の関数で、L(1 Y)+L(2 r)と分けられるとします。所得が増すほど手元に貨 幣を貨幣として保有する額は多くなるので、 1!0
w w Y
L です。一方、利子率が IS LM 分析と位相図(中島) −75−
( 5 )
利子率 LM 曲線
資産重要 L2
取引需要 L1
L1
L2 Y
実質貨幣残高 45°
高くなれば、利子を生む債券を人々は購入します。よって貨幣を貨幣のまま 保有する貨幣の資産需要は減少します。よって 2 0
w w
r
L です。貨幣市場の需 給均衡式は P
M で実質貨幣供給を表すとすれば、 L(Y,r) L1(Y) L2(r) P
M
です。
この関係式を満たす、国民所得水準Yと利子率rの組み合わせをLM曲 線といいます。
図を用いてLM曲線を描いてみます。
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( 6 )
利子率
国民所得 Y
実質貨幣残高の増加 L1
L2
L2
45度
第2象限には利子率と資産動機による貨幣需要L2との関係が描かれます。
第4象限には取引動機による貨幣需要L1と実質国民所得水準との関係が描 かれます。第3象限のグラフが縦軸、横軸を切る切片までの距離は実質貨幣 残高(M/P)を示します。すると、第3象限で、実質貨幣残高は取引需要に よる貨幣需要(L1)と、資産需要による貨幣需要(L2)の合計になります。
つまり、貨幣市場の需給均衡が成り立つ軌跡が第1象限のLM曲線というこ とになります。
①実質貨幣残高つまり実質マネーサプライの増加はLM曲線を右側にシフ トさせます。
IS LM 分析と位相図(中島) −77−
( 7 )
利子率
流動性の罠
Y
L1
L2
②流動性選考理論とのかねあいで、利子率が低くて、流動性の罠に堕る場 合は、貨幣供給量の増減で景気回復をはかる、という金融政策は無効となり ます。
これは市場利子率が充分低すぎて、人々は金融資産を貨幣で保有している 場合です。
③新古典派の世界といわれる、資産需要が利子率に対して非弾力的な場合 は、財政政策すなわち、有効需要政策は無効です。人々は利子率の動きに反 応せず、資産動機としての貨幣需要は一定の値をとろうとしています。
これは通常新古典派の世界といわれる状態ですが、ケインジアンの立場か らはあり得ない状態でしょう。
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( 8 )
利子率
Y
L1
L2
A点
LM
B点 E点 r
Y 不均衡
LM曲線上のE点(貨幣市場は需給均衡)に比べA点では利子率が高い ので、債券を保有しようとします。すると、資産需要としての貨幣需要は少 なくなります。すなわち貨幣市場は超過供給です。これを是正するためには、
利子率が下落して、貨幣の資産需要が増加すれば、貨幣市場は需給均衡しま す。よって、A点では利子率が下落すると考えられます。一方のB点では IS LM 分析と位相図(中島) −79−
( 9 )
どうでしょうか。B点はE点と同じ国民所得水準ですから、取引需要の額 は同じです。ところが、利子率が低いので、資産需要としての貨幣需要はE 点より多くなります。E点で貨幣市場は需給均衡しています。よって、B点 では、貨幣供給より多い貨幣需要があることになります。すると、資金の逼 迫が起こり、利子率は上昇しようとします。
貨幣市場の裏には債券市場があると考えられています。B点では貨幣に対 する超過需要がありますが、この時、債券市場では超過供給があります。債 券市場が、超過供給のときは、債券の価格(債券を取り引きする価格)は下 落します。債券はそれぞれある利子(利息)を払う、と約束して発行されて いますから、その販売価格が下落すると、その債券を購入することによって 得られる実際の利回りは上昇します。すでに発行された債券の利回りが上昇 すると、次に新しい債券を発行する企業は、高い利息を払う、と約束しなけ れば、自分の発行する債券を買ってはもらえなくなります。よって高い利子 を払う、と約束せざるを得ません。このようにして、市場利子率は上昇しは じめます。これが続くと市場利子率は上昇します。つまり、B点では、E点 に向かって利子率が上昇します。
逆にA点では、E点に向って、利子率は下落しようとします。調整の方 向を矢印で示すと図のようになります。つまりLM曲線の上側では利子率が 下落し、下側では利子率が上昇するように調整が動くと考えられます。
財政金融政策との関連
生産物市場と貨幣市場(この裏に債券市場も考えています)が均衡すると ころで均衡の国民所得水準は決まります。しかし、この点で完全雇用が達成 される保障はありません。以下の三つの図でそれぞれY1は完全雇用国民所 得水準に相当するものとして、財政、或いは金融政策が行われた、と考えて
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( 10 )
IS0 IS2 IS1 LM
拡張的財政政策
Y0 Y2Y1 r
Y
r
Y LM0
LM2 LM1 IS
金融政策
Y0Y2Y1 下さい。
①市中引受による拡張的財政政策は金利の上昇を招き、それは民間投資の 減少をもたらします。拡張的財政政策によりIS曲線は右側にシフトします が、その後IS曲線は左側にシフトします。これをヒックス効果とか、クラ ウディングアウトと呼びます。
②金融政策により、貨幣供給量を増加させるとLM曲線は右にシフトしま す。これは物価の上昇を招きます。物価の上昇は、実質貨幣残高を減少させ るので、LM曲線は再度左にシフトします。
IS LM 分析と位相図(中島) −81−
( 11 )
r
Y0 Y2 Y1 Y
IS LM
③日銀引受による財政支出の増大は通貨供給を増大させます。この場合も、
物価上昇とクラウディングアウトは生じます。
尚、変動相場制度の下では財政政策は無効となることが知られています。
財政政策は市場利子率の上昇を招きます。利子率が高くなると海外から資金 が流入し、為替レートは高くなります。為替レートが高くなると輸出が減少 してしまうので、国民所得水準は下がってしまうからです。これをマルデ ル・フレミングモデルといいます。
位 相 図
さて、通常の場合の位相図を描いてみましょう。不均衡からの調整を考え て、通常のIS LM曲線の図の各領域に、調整を表わす矢印を書き加えます。
−82−
( 12 )
r
Y IS
LM 位相図
不均衡からの調整は、生産物市場では実質国民所得水準(あるいは実質国 内総生産)であるところのYが調整すると考えます。貨幣市場では、裏に 債券市場を考えているわけですが、利子率rが調整すると考えます。
IS曲線上は生産物市場が需給均衡しているのですから、生産の水準は変 わりません。Yの時間に対する変化であるところの dt
dY は、通常!!で表示
されますが、 Yx dt
dY 0です。IS曲線の右側は生産物に対する超過供給の
状態ですから、マーシャル的数量調整では、生産が縮小されますので、
Yx
dt
dY <0 となります。一方、IS曲線の左側では生産物に対する超過需要が
あります。生産を増加させて均衡させようとしますので、国民所得水準が上 昇します。つまり、 Yx
dt
dY >0となります。Yの変化の方向を水平方向の矢
印で表すと、上の図となります。
同様に、貨幣市場の調整を考えますが、このときは、裏に債券市場の需給 均衡を考えています。LM曲線上は、貨幣市場も、債券市場も需給均衡して
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います。ですから、利子率は変化しませんので、利子率の時間に対する変化 はゼロです。 rx
dt
dr =0です。LM曲線の上方では貨幣に対する超過供給があ
ります。このときは債券市場では超過需要があります。債券価格は上がりま すが、債券に対する超過需要があるので安い利子率でも債券は売れます。
よって利子率は下がります。よって、 rx dt
dr <0となります。一方、LM曲
線の下側では貨幣に対する超過需要があるわけですから、債券市場では超過 供給があります。債券価格は下がります。債券を購入することによって得ら れる利回りが上がります。ですから、利子率も上がります。債券を売りたい 額の方が債券を買いたい額を上回っているわけですから、起債するには、高 い利子率を払わないと債券は売れません。ですから、利子率はあがります。
利子率の時間に対する変化はプラスです。つまり、 rx dt
dr >0となります。
このような利子率の垂直方向の変化を上の図に書き足します。
IS曲線とLM曲線に仕切られた4つの各領域に、Yの変化の方向とrの変 化の方向をそれぞれ書きます。すると、各領域からの変化の方向は先の図の 様になります。
仮に均衡の交点からはずれたA点を図の上にとり、矢印の方向を満たす ように線をひけば、A点からの調整は、左回りに回りながら、均衡点に向う ことになります。(次ページの図)
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( 14 )
r
IS Y A点 LM
不均衡なA点からIS LM曲線の交点である均衡点へ向かう経路は、不均 衡な点から直接均衡点へ向かうのではなく、均衡点の囲りを廻りながら、均 衡点へ到るのです。
参考文献
サミュエルソン、P.A.、『経済分析の基礎』、佐藤隆三訳、勁草書房、1967年。
Dernburg and McDougall, Macroeconomics : The Measurement, Analysis, and Con- trol of Aggregate Economic Activity, McGraw-Hill Kogakusha Ltd., 1980.
IS LM 分析と位相図(中島) −85−
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