海上運送契約の一考察
一中華民国新法によせて一
志 津 田 氏 治
序 説
1 海上運送法の地位
海上の活動は船舶を媒介として展開される。船舶ならびに運航に関する事項を「海事」
と称するが,この海事は法規制の立場から,海上危険の特殊性,国際的統一性,慣習的起 源性,高度の技術性などの傾向をもつものである。この海事に関する法の体系を海事法と いうが,なかでも,その一部門を占める海商法は,海上における企業取引活動つまり海上 運送営業を中心課題とするものである。ところで,このような海商法は,一方において営 利の目的をもって船舶を航海の用に供する企業,つまり海上企業に関する法として民法と 異なった特色を有すると同時に,他方では海上運送契約に関する法として,商法の他の部 門の法に対しても,独自の地位を有するものである。
2 海商法の構成
(1>わが国の商法第4編は7章から構成されている。すなわち船舶および船舶所有者
(第ユ章),船員(第2章),運送(第3章),海損(第4章),海難救助(第5章),
保険(第6章),船舶債権者(第7章)である。これらの規定は,海上企業の主体の組織 に関するもの,海上企業そのもの,つまり海上運送に関するもの,および海上危険を超克 するための対策に関するものの三つの柱より成っている。しかして船舶先取特権iおよび船 舶抵当権iなどの船舶債権について詳細な規定があること,あるいは海上企業の主体の組織 について,別段の規定を設けている点などは,まったく海上企業の特異性にもとつく著し (注)
い特色といわなければならない。
(注)中華民国海商法典では,第1章通則・第2章船舶,第3章船長,第4章海員,第5章運送契約,
第6章船舶衝突,第7章海難救助,第8章共同海損,第9章海上保険,第10章附則より構成さ れる。とりわけ第5章は海上企業取引法としての海商法の中心ともいうべき海上運送契約に 関するものである。その内容は,第1節:貨物運送契約すなわち物品運送契約,第2節旅客運送 契約,第3節曳船契約に分かれる。81条から133条におよび量的にも本法の重要な部分を形成 する。
(2>海上運送契約とは海上において船舶により行なわれる物品または旅客の運送契約を
いう。海上とは,湖川・港湾すなわち平水航路の区域外の水面である。もっぱら湖川・港
湾だけでなされる内水運送は,現行商法上は陸上運送として取り扱われる (569条)。ま た運送手段が船舶に限定されている点で,航空機による運送も海上運送に属するものでは ない。海上運送契約の法的性質に関しては,一般の運送契約と同じく請負契約と解するの が通説である。なお,それは商行為性を有し,営業としてこれをなすことにより商行為と (注)
なる(502条4号)。
(注)中華民国海商法の第1条によると,「本法において船舶と称するは海上および海と相通じた 水面または水中を航行する船舶をいう」ものと定義する。これを分説すると,第一に海商法上 の船舶は,海上を航行する船舶のほかに,海と相通ずる水面あるいは水中を航行する船舶を包 含している点に著しい特色がみられる。かくて航海船の範囲が,すこぶる拡大されている。第 二に中華民国の海商法上の船舶は,上述のような海上もしくは水上・水中を航行する船舶であ る限り,その航行目的のいかんを問わない点に注目すべきであろう。したがって運送船,漁船 のような営利のための船舶だけではなく,探検船,快遊船のような非営利船をも含めることに なるのである。このような観点からみると,中華民国の海商法は,むしろ海商法として表現さ
り の り む
れるべきではなく海事法もしくは海上航行法としての名称が適切であるといえよう。
(3)技術の進歩・国民経済ないしは世界経済の発展にともない,海上企業もしだいに計 画的,集約的大規模の企業に変遷しつつある。そのことは運送形態の分野でも,不定期航 海より定期航海へ,航海傭船より個品運送へ,船舶共有より株式会社へと移行しているこ とが何よりの証拠であろう。それにもかかわらず成文法としての海商法は,旧式の帆船運 送による不定期航海企業,したがって傭船契約をおもに規制しており,近代的な個品運送 については,まったく普通契約約款によって補われている現状である。しかし最近わが国 の場合では,外航船を中心とする国際海上運送の面では国際海上物品運送法が制定され,
運送関係の近代化に対応していることは,画期的な現象ともいうべきであろう。内航船の 面でも,これと並行して海商法の合理化・近代化が,何よりも当面の課題であるといえよ
う。