著者 居城 弘
雑誌名 静岡大学経済研究
巻 10
号 2
ページ 1‑21
発行年 2005‑10‑31
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00005833
論 説
兼営銀行化 の論理一銀行業の構造変化 をめ ぐって
居 城 弘
はじめに
商業銀行 の構造変化、兼営銀行化の背景 と諸契機 兼営銀行化の具体的検討
兼営銀行 の特質 と問題点 兼営銀行 と金融 システム
は じめ に
現代 の銀行業 は急激 な変容の中にある。 その変容 は多面的かつ複雑 な要因によって もた らされ ている。 まず現代の大企業 を中心 として、その資金調達構造の変化が進行 している。豊富な内部 留保 による自己金融化傾向や、証券発行等の直接金融への傾斜が強 まってお り、 これ までの銀行 との緊密な取引関係の見直 しを含 めて、銀行融資への依存が低下す る傾向がはっきりして きてい る。 このため銀行 は、新たな取引対象 として リテール分野、中小企業や個人向け、消費者金融領 域 を開拓 し、金融サー ビスの拡張 による手数料サー ビス分野の拡大 をはか ることによって、収益 基盤の強化 を追求 している。 この動 きとも関連 しているのだが、現代 の銀行 は、業務分野の拡大 をめざして、いわゆるユニバーサルバ ンク化や、金融持 ち株会社 を形成 して、金融業の他業態、
証券、保険、投資銀行業等への進出によって総合金融機関化 を進 めている。我が国において も近 年ではいわゆるメガバ ンクか らさらに巨大銀行合併、金融 コングロマ リッ トの形成 に向かってい るのが現実である。 この規定要因のひ とつは、巨大銀行 による激 しい競争があることはい うまで もない。 さらにはグローバル化 した巨大企業のボーダー ンスな再編や合併 の激 しい動 きが、銀行 業の再編 をも促 しているもの と思われ る。
このような現代的な変容の進む中で、銀行業の本来的な基本的な機能のあ り方 をあらためて間 う動 きも現れている。バブル崩壊後の我が国金融 システムが、未曾有の金融危機 に見舞われ、そ の脱出過程 において これ までの銀行のあ り方の見直 し、銀行 を含 めた金融 システム全体 の再編が
論 じられ る必要がある。 しか し、そこでの規制緩和論や業態 を超 えた参入の拡大 は、金融 システ ムのあ り方についての本筋の議論の流れか らの逸脱 ともいえる状況 を生み出している。一般産業 と金融業、 とりわ け銀行業の根本的違 いや、競争の論理 と金融 システムの健全性や安定性確保の 重要性 についての認識が不可欠であろう。(Dよ り根本的には、銀行業の構造変化の問題 を取 り上 げ る場合、経済・ 金融構造の歴史的発展段階 と関わ らせて、検討す るという視角が求 め られる。19 世紀末か ら世紀の転換期や、両大戦間期、特 に1930年代、 さらには第二次大戦後の高度成長期か ら低成長・ グローバル化の進展 とい う段階 を対象 として、構造変化 とその要因 を明 らかにす るこ とが行われてきた。 この間の激 しい変化 に直面 して、表相的な変化の動 きを追跡 することに追わ れ る結果 となっていて、 より本質的問題 についての検討が改めて求め られ ることとなっていると いえるのではないだろうか。端的に言えば、構造変化の中での銀行業のあ り方を問 うことである。
この問題の原点 に立ち返 ってみた場合、銀行業の本来的あ り方をしめしている商業銀行の兼営 銀行化の論理、 とりわけ銀行業の機能・ 役割の拡大・ 変化、ない しは業態の拡張がいかにして も た らされ るかを探 る作業の中で、銀行業の基本的機能や特質 と銀行業の変容や構造変化 との関連 を考 えることが出発点の課題 であろう。 それ を手がか りとして、 さらに銀行 と非銀行金融機関 と の関連や、金融 システムの構造分析、 さらには金融政策の効果・ 有効性の問題へ と進めてい くこ
とが可能 となるであろう。●)
このような問題意識 と展望の下で、本稿では、原点に関わる問題 についてひ とつのアプローチ を試みようとしている。すなわち商業銀行の構造変化 に関する問題 に焦点 を当て、以下の論点に ついて検討することである。0つまり兼営銀行化 をもた らした背景やその諸契機 を探 るとともに、
兼営銀行 の特質 をどのように理解すべ きかを検討す ることによってである。 この問題 は主要国の 金融構造 についての理解が前提 になるし、金融史研究の成果 によらぎるを得 ないことである。商 業銀行が、 自己宛債務である預金 を通 じて通貨 を供給 し、それにより支払決済 システムの役割 を 担 うとともに、信用創造・預金創出によって金融仲介 を行 うことについてはすでに共通認識 になっ ている。 そこで兼営銀行 を対象 に、その商業銀行 との共通性 とともに、銀行業の変化 をもた らし た新たな要因・特徴 をどこに求めるべ きかを考察することが必要 となる。経済・産業構造の変化0
(D金融の自由化や規制緩和の進展 とともに、各国で金融機関の経営不安や破綻が発生 し、金融 システムの不安定化 が顕著 となって きている。 この様 な背景の下で、いわゆる決済機能 を隔離 した「ナローバ ンク」論が主張 されて いる。
9)「現代 において銀行の役割 を考察す る場合 には、商業銀行 の本来的機能 は何か、商業銀行 と金融媒介機関の決定 的違 いは何 か、金融仲介機関の比重 は何 ゆえ増大 したのか、金融仲介機関の比重増大 は金融政策 にどのような影 響 を及 ぼすのか、 これ らの諸点が明 らかにされねばな らない。岡本 (1968)、 54ペー ジ
●)商業銀行 の構造変化 について もっ とも詳細 な研究 を精力的 に続 けて きたのは、坂本正氏 である.その研究 は商業 銀行 の構造変化 を、資本信用や擬制資本 な どの新たの信用形態の展開 を、信用論の体系的展開に位置づけること がめざされている。されに商業銀行 の変化 については、近代的商業銀行か ら現代的商業銀行への発展 として とら えてお られ る。参考文献 に示 した坂本氏 の一連 の論稿 を参照。
高度化が背景 にあることは明 らかであるが、銀行業が担 うべ き役割の変化 を追求す ることが基本 的視座である。銀行 に対する資金需要の性格、 したが つて信用供与 の内容や銀行業務 のあ り方 に 注 目して銀行 の新たな役割 を明 らかにして、兼営銀行化 の諸契機 を確認す る。 その上で兼営銀行 の立脚す る基盤やその特質 を検討する。銀行 による信用供与の性格 をまず問題 にす る必要があ り、
ここに銀行のあ り方 を規定する起点があることを示す。 さらに兼営銀行の資金的基盤の変化や、
預金拡張への動因やその方策 を指摘す る。次いで銀行の証券業務 の兼営化 あるいは証券関連業務 との連携の強化 とい う兼営銀行の特質 について取 り上 げる。 その うえで兼営銀行 に とっての流動 性 問題 の意義 を検討する。商業銀行 に とっての流動性 との相違 は何か、兼営銀行 の内包す る問題 点である流動性 の基盤 をいかに理解す るべ きかについて提起す る。兼営銀行 と金融 システム との 内的な関連 は、流動性問題 とならんで兼営銀行の業態の展開の解明によって示 され ることとなる。
商業 銀行 の構造 変化 、兼 営銀行 化 の背 景 と諸 契機
商業銀行 の業務 の中心 をなす手形割引は、機能資本相互間の商品売買 において形成 され る商業 信用関係 を基礎 としている。支払 いの猶予・ 繰 り延べによって流通 に必要 な貨幣の節約 を図 ろう とす る商業信用の効果 は、その連鎖 したがって債権債務 の相殺の拡大 によって、貨幣節約の可能 性 をさらに増大 させ る。銀行 による手形割引は、銀行信用による商業信用の代位 によって、商業信 用の限界 をこえて相殺範囲の拡大 をもた らすが、商品売買の実現 による貨幣の支払0還流 に支 え
られている。商業銀行の こうした役割 によって商品流通の促進 と貨幣節約が図 られてい くのであ る。 しか し商業銀行の活動基盤 をなす経済・ 産業構造 は、競争 と技術革新 に促 されて しだいに変 化・高度化 していき、それ とともに商業銀行の役割や業務 の内容 も変化 してい くこととなった。0
1)産業構造 の高度化・ 重工業化、集中運動
産業革命 による技術的変革の進展 は、経済0産業構造の一層の変革 をもた らす。軽工業 を中心 とする発展段階か ら、鉄鋼、機械・ 金属や鉱山業、 さらに新たな電機や化学工業な どを含む重工 業 を基軸 とす る産業構造の高度化 は、企業・ 経営の規模 を飛躍的 に増大 させ る。企業 にとって必 要な資本規模が拡張 し、利潤の内部的蓄積やその再投資では所要資本の確保が困難 となれば、外 部の他人資金の借入や資本結合の形態 によらぎるを得 な くなる。 この段階の企業の資本需要 は、
単 にその規模 の増加 に とどまらず、内容的にも経営や設備拡張に向けられ る資本需要であって、
)ここで取 り上げた構造変化の諸契機の説明は、一般的な傾向としてのものである。後に主要国の銀行について述 べるように、工業化や企業の資金需要、資金調達形態などそれぞれ異なっていることが明 らかである。そうした 相違 をふ まえての傾向を取 り上げている。
こうした性格の資金が銀行 に対 して求め られ るようになれば、商業銀行の業務内容や役割 を変化 させずにはおかない。 さらにはまた、所要資本 に対す る個別企業の規模の限界 を打破するため、
企業合同や集中運動への誘因 をも増大 させ る。 こうした新たな動 きに対応す る企業形態の変革の 必要か ら、資本の社会的な動員 と結合 を可能 とする株式会社制度の産業分野での普及・ 拡大や、
株式・ 社債等の産業証券の発行・ 流通の証券市場 の発達が不可避 となった。
2)商業銀行の業態構造の変化 と兼営化の契機
産業構造の高度化や企業の資金需要の拡大 は、商業銀行の取引先企業 との関係 に大 きな変化 を もた らす。なかで も銀行信用の内容や性格、銀行の媒介する取引の変化が重要である。 それ まで 銀行 はお もに企業の短期の資金需要、つ まり商取引・ 商業信用 に関する融資 を手形割引の形態で 行 って きた。企業・ 経営や資本規模 の拡張 に基づ く資金需要 に対 して銀行 は、基本的には短期貸 付 の形式、た とえば手形貸付,手形引受や当座勘定貸付 (交互計算信用)などの諸形態で応 じて い くのである。 しか しその資金需要の内容・ 性格が設備の拡張や固定資本投資に向けられるもの であることか ら、貸付の返済期限到来時 にはさらに貸付が更新 され ることが必要 になる。 こうし て銀行の貸付 において事実上、中・ 長期貸付が増加 してい く。 ここにまず商業銀行の業態変化の 端緒的な契機が認 め られる。0
中・ 長期の貸付が増大すれば、銀行の資金調達内容・ 構成 も変化せ ざるを得ない。貸付の長期 化 に対応 して、長期の貯畜性預金のウェイ トを増大 させ ることが必要 となるか らである。商業銀 行 は企業の購買・ 支払の準備金 を中心 として、流動性・ 決済性預金 として受 け入れてきたが、信 用供与の変化 に応 じた資金調達面での対応が必要 となる。長期性資金 を預金 として集中すること が求め られたのである。 これは銀行の業態変化 をもた らす契機であった。産業構造の高度化や固 定資本の増大 な どを背景 とする貸付貨 幣資本の形成条件の変化 にうなが され、長期の貯畜性資金 を集中す る金融媒介機関である、信託会社、生命保険、投資信託 な どが成長 してい くこととなる。
これに対 して商業銀行 は、長期・ 貯蓄性資金の確保・ 拡大の目的で、 これ ら金融媒介機関 との取 引強化や、資本参加・ 資本関係の形成 を積極化す るようになる。 こうした傾向 も商業銀行の業態 変化 を促 した要因であった。
さらに企業の資金調達方式の変化 に促 されて、銀行 自らの証券業務への進出や、証券取引所金 融 を通 じて証券業務 との関連が強化 されてい く。株式や社債の発行 な ど証券市場 を通 じた企業の 6)企業金融のあ り方が どのように変化 してい くかの実態把握は容易ではない。後に見るように経済の発展テンポの 違いによっても影響 され、しかも銀行の産業金融への姿勢や態度によっても異なるからである。しかし一般的な 趨勢 としては経済構造の高度化や重工業化は所要資本規模の増大をもたらすであろうし、それに対 して企業が ど のような資金調達方法を選択するか ということは、銀行や証券市場のあ り方によって大 きく影響 されるであろ う。企業は自らの資金調達方法 としての銀行 との取引関係を通 じて、充足の可能性を求めることは、一般的には 認められることであろう。
資金調達が増大 してい くのに応 じて、銀行 は証券担保金融 によって証券流通 を支 えただけでな く、
企業の新規証券発行の際 に、 自ら引受・ 売 り出 し業務 を行 った り、 さらに証券引受 シンジケー ト ヘの参加 を通 じて も、証券取引に関連す る業務 を拡大 していった。商業銀行 による証券業務 の拡 大 は、収益拡大のための有価証券への投資 としてだけではな く、銀行 の信用供与・ 融資構造の変 化 に伴 って生 じた貸付の長期化 に対 す る銀行流動性への配慮か らも必要であった。貸出債権 の証 券化である。 こうして商業銀行が多様 な契機 と形態 によって、証券取引に関わ る金融、つ まり証 券金融業務や証券取引の媒介 を積極化 していったが、 これは商業銀行の業態変化、兼営化 を大 き
く規定す る要因・ 契機であった。
兼 営銀行化 の具体 的検 討
以上 は、抽象的・ 一般的アプローチによる構造変化の契機である。 ところで こうしたプロセスは いうまで もな く各国において同 じように進行 したわけではない。銀行業の歴史的発達の違いや、各国 の金融制度・規制 に応 じて異なった姿で進行 した ことに注意す る必要がある。 この点 をめ ぐって、
主要国について、わが国の金融史研究者の成果によりなが ら、各国の特徴 を浮 き彫 りにしてお こう。
1)イギ リス
イギ リスの銀行 は、商業銀行の典型 とされ、伝統的に短期信用業務 に専念 し、要求払い預金 に 基づ く小切手取引の発展の担い手であ り、預金銀行 とも呼 ばれ る。0そ して、手形割引業務 を重視 す る商業銀行業務が全国的に展開されてい くのは19世紀中葉の ことであった。
以下では、玉野井昌夫氏の研究 によりつつ0、 イギ リスの銀行 の特徴 を浮 き彫 りにしよう。すな わちイギ リスの銀行 をロン ドンの銀行 と地方の銀行 との関係 を中心 に見てい くと、 ロン ドンで も 地方で も手形割引を主要業務 とす るものであった。各地の地方銀行 は、経済発展 に ともない増加 す る企業の遊体資金 を初 め、各種源泉か らの預金 を受 け入れ、手形割引 を中心 に運用 していたが、
地域的な経済的背景の相違か ら、資金の需給 において も、手形の割引需要 に関 して も地域的な不 均衡が存在 した。 このため各地方銀行 は、余裕資金 をロン ドンの代理店 を通 じて運用す るほか、
地方で集 め られた手形が割引を求めてロン ドンに送 られ、そこで割 り引かれたのである。したがっ てロン ドンの株式銀行 は、 ロン ドンだけでな く、地方銀行のロン ドン代理店 として地方での預金
(0西村閑也氏 は、この点について次のように指摘 している。「第一次大戦前には英国の預金銀行 は原則 として工業に 対 して長期金融 を授与 しないこと、た とえそのような事態が存在 した として も部分的、一時的な現象であ り、い わゆる銀行 と産業の癒着なる事実はほとんど立証 し得ないであろう」。西村閑也、『国際金本位制 とロンドン金融 市場』、1980年、法政大学出版局、361頁
)以下の叙述 は玉野井昌夫 (1960)、 91‑103頁によっている。
を受 け入れ、 これ を貿易取引に基づいて振 り出されマーチ ャン トバ ンカーによって引 き受 けられ た手形や、地方銀行 によってロン ドンでの割引を求めて送 られた手形の割引、再割引にむけてい た。 ロン ドンの銀行 は、貿易金融 とともに、各地方銀行間の資金融通 を仲介 した。 こうして国内 的資金需給の不均衡の調整が、 ロン ドン割引市場での ビルブローカーの役割 に支 えられた手形の 再割引 を通 じて行われた。イギ リスにおける銀行集中運動 は銀行合同の形態 において進め られた が、新興の工業地域 における資金需要の急増 を背景 とした前貸(当座貸越、貸付)の増加、流動性 の改善のための資金集中を求めることによって、あるいはまた、 これ とは異な り手形割引を中心 とした業務 を展開 した銀行 も、それぞれ、 ロン ドンでの業務展開の足場 を構築することを目標 に ロン ドンヘの進出を進め、こうしてロンドン=地方銀行が成立 し、多数の支店 をともなった大銀行 へ と発展することとなった。
ではイギ リスの証券市場 は、国内投資の市場 としてはいかなる役割 を果た したのであろうか。
イギ リス産業の資金調達問題 との関連 についてである。玉野井氏 は次のように指摘す る。C8p19世紀 中葉、 ロン ドン市場 は、鉄道、銀行、保険 をはじめ、運輸、鉱山な どの長期資金供給 に も大 きな 役割 を果た したが、次第 に海外証券の比重が高 まっていった。地方工業都市 な どの市場では鉄道 のほかに、株式会社0有限責任制の採用以降、各地の産業証券の市場 とい う性格 を強めていった。
ロン ドンが海外証券の市場であるとともに、国際金融の中心に発展することにより、海外証券=ロ ン ドン、国内産業証券〓地方商工業都市に特色 を持 った市場 という三分化 を示すようになった。国 内投資の市場では、 リヴァプール、マ ンチェスターなどの地方取引所が国内産業証券の市場 とし て、地域特色 を持 った市場 として専門化 していた。 その規模 はしか しロン ドンでは上場 されない 小規模の ものが多かった とい う。イギ リスでは、工業の資金調達 において証券市場が どの程度の 役割 を果た したかを確認することが難 しい とされ る。 また株式会社制度の普及の増加 も、組織変 更が多 く、産業の資金調達 に十分利用 された とは考 えられない とい う。玉野井氏 によれば、企業 側で証券市場 を利用 して広 く社会的資金 を動員 して資金調達 を行 お うとす る意欲が欠如 していた とし、これは企業が別の方法での資金獲得が可能であったか らだ とす る。つ まり、「 イギ リスの企 業 はこの時期 になって も個人的色彩 を残 してお り、 まず取引関係者、知人 の資力 に依存すること が多 く、銀行の当座貸越 (Overdraft)も 例外的に設備信用 に利用 された。繊維工業 はもとより、
造船、機械工業 も組合企業 (Partnership)、 非公募株式会社 (pr市ate jOint‐stock)の形態 を とる ことが多 く、拡張 にさいし個人的関係 を通 じることが しばしばであった。…中略… また企業間信 用(trade credit)も長期資金の調達のために利用 され、船舶が賦払いで製造提供 され、綿工業や 製靴業では機械が賃貸 され ることもしばしばであった。 そして このような外部 に依存す る蓄積 と
0玉野井 昌夫 (1968)、 25‑37頁
並ぶ別の より重要な方法 は、利潤の再投資すなわち内部留保依存であった。」0)
このようなロン ドン証券市場、その発行市場 における金融機関のかかわ りの中で、商業銀行の 役割 はどのような ものであっただ ろうか。「 ロン ドンと地方の両地域 を含む大銀行 は、イギ リス証 券市場 の性格 に消極的にではあるが大 きい影響 を与 えたのである。 ロン ドン=地方銀行 は、かつ ての地方銀行の慣行 にで きるだけ適合 させ ようと努力 し、長期信用 をも行 ったが、それにもかか わ らず地方の産業 に対す る直接貸出を低下 させ ることになった。対人信用の性格 を残 し、担保 と 流動性 に問題があ り、 また管理の点で困難 な地方産業 に対す る貸出は、大銀行 の首都 中心の業務 遂行 に適 した ものではなかった。商業銀行 は、かつて合同前 に純粋工業地方の銀行であった とき に比較 して、産業 に密着 した融資 を行 うことが困難 になったのである。 このためイギ リスの銀行 はます ます短期 の金融機関 としての性格 を強め、地方産業 は長期借入の不便か ら証券市場への依 存 を大 き くしたのである。」(1の
商業銀行 の産業金融 との「消極的」関係 については以上の説明か ら明 らかであろう。「 この よう に株式 を敬遠 し、発行引受業務 を欠いたイギ リスの商業銀行 は、証券市場の発展 に寄与 した とは いって も、 ドイツの ように発行引受業務 ばか りでな く、 自ら売買業務 まで行 った場合 に くらべれ ば、 もちろんそれははるかに消極的で間接的であった。 したがって銀行が この時期 に果た した役 割 の うち、証券市場 の発展 と拡大 に とって大 きい意義 を もつ ものは、集中化 された多額の資金 を い くつかの径路 を通 じて証券市場 に流入 させた点 にある。 この径路 としては、普通の銀行貸 出 と コール貸付が選 ばれたが、発行市場 については取引所所属の、あるいは会員外のアンダーライター に証券担保貸付 を行 い、流通市場ではジ ョッバーや直接投機家 に対 しての貸付、さらに一流ブロー カーを通 じてジョッバーに繰延取引に ともなうcontango loanを 与 えた。」(11)
イギ リスの商業銀行の、証券市場 との取引、証券取引所金融の概要が ここか ら明 らかなように、
産業金融 に関 しては消極的ではあったが、証券市場 に対 してはこの ように間接的な形態で証券市 場 との関連 を深 めただけでな く、株式銀行 自身の証券投資 も80年代 降増大 させていった。 ここに 商業銀行 の「兼営化」のイギ リス的特質 を見 ることがで きる。
2)ドイツ
ドイツにおける民間・ 普通銀行 は信用銀行であるが、その実態 はよ く知 られているように、イ ギ リスの商業銀行 とは異な りその誕生以来、一貫 して産業企業のための金融 に深 く関わ るもので あった ことが特徴 であつた。イギ リスに対抗す るというその経済的発達の条件のために ドイツで
0)玉野井昌夫 (1968)、 36‑37頁
。の玉野井昌夫 (1968)、 40頁
。つ玉野井 昌夫 (1968)、 41頁
は、企業の所要資本規模が当初か らきわめて大 き く、そのため株式会社制度の早期か らの導入に よる資金調達か、銀行 による設備資金の金融 に依存することが必要であった。株式信用銀行の成 立 は、 こうした産業金融の課題 を果たすための ものであった。 したがって会社の創業資金調達や 設備資金の融資 を行 う銀行 としてスター トしたのであった。証券業務や投資銀行業務 に傾斜 した 信用銀行 の業務 も、取引企業 との恒常的取引が緊密化す るにつれて次第 に変化 してい くことと なった。預金取引や短期の信用業務 さらには振替取引・ 決済業務などの商業銀行・ 正則銀行業務
―その中心 は交互計算業務一の分野 を拡大 ̀強化す ることによって、その基盤の上で これ と有機 的に連携する証券の引受発行や証券売買業務 を展開す る兼営銀行化の方向を強めていったか らで ある。交互計算信用や引受信用な どによる設備資金や固定資本信用の供与が行われ、その後、経 営が順調 に軌道 に乗 った ところで顧客企業 に証券発行 を行わせ、増資や社債発行 によって貸出債 権 の流動化・ 回収 を図るのである。 こうして正則業務・ 交互計算業務 と非正則業務・ 証券引受発 行業務の連携 による兼営銀行制 、すなわち銀行業務 と証券・ 投資銀行業務の兼営 とい う典型的形 態が確立することになった。 ドイツの重工業化 と高度蓄積 は ドイツ型兼営銀行制 による強力な支 援 によって進展 したのである。 しか し、 こうした業務の展開が内包す る不安定性の要因 として、
銀行貸 出の長期・ 固定化 と銀行流動性の悪化 という契機 を内包 していた ことが問題であった。 こ のため、銀行流動性問題 とその改革 は、流動性の基盤 としての証券市場や手形割引市場、証券金 融市場 での流動性 回復や中央銀行・ ライ ヒスバ ンクヘの依存 とい う問題 を含 めて大 きな課題 と なったのである。(1幼
3)アメ リカ
アメ リカの商業銀行の特徴 は、(10国内各地域 におびただ しく多数の単一銀行が散在 した ことで あ り、集中化が ヨーロッパ諸国の銀行 に比 して も緩慢であった。 その背景 には銀行設立の法制度 とくに、19世紀の30年代の各州での「 自由銀行法」の影響があって、所定の条件 さえ満たせば自 由に銀行 を設立 しうるという原則が確立 し、 これが1850年代 の州法銀行の設立熱狂の制度的基盤 となった。国法銀行法の改正 (1863年)後も、弱小の単一銀行の乱立状態が続 いた。1890年代以 降、ニュー ヨークの諸銀行では銀行集中運動 な ども見 られたが全国的な もの とはな らなかった。
また地域的な相違 も大 き く、東部地域では少数の大銀行の活動が、中・ 南西・ 西部では多数の弱 小銀行 の存在 という地域的分布 を示 していた。商業銀行の与信業務 については、事業貸出が最 も 重要であって、その貸出形式 は顧客の振 りだす単名約束手形 に対するものが多かった こと、有期 貸出においては、「必要 とあれば多 くの場合貸出は更新 され、…… したがって、事業貸出は一応 は
。a居城 弘 (2001)、『 ドイツ金融史研究 ―ドイツ型金融システムとライヒスバンクー』参照
∞小野英祐 (1970)
短期貸出の形式 を ととのえていた とはいえ、実際 にはしばしば長期化 したのである。 また資金の 使途別 に、み ると、事業貸出は、単 に運転資金調達のためだけでな く、固定資産の取得な ど様々 な目的か ら利用 されていた。」(10
しか し注意すべ きは、商業銀行の事業貸出の中心 は中小企業であ り、製造業、商業、農業であつ た。大企業が商業銀行 の事業貸出を求 めることは少なかった ことである。20世紀 にはいって独 占 体が確立 し、豊富な内部資金 によって自己蓄積力が強化 された結果、 この傾向はます ます強 め ら れた とい う。 また外部資金 を調達す る場合 も、大企業 においては固定資産の比率が概 して高かっ た ことを反映 して、証券発行 によることが多かつた。
商業銀行 は近隣地域の中小企業や農民 に信用 を与 えたほかに、 コル レス関係 を通 じて金融市場 のセ ンターでの運用 を行 った。証券担保貸付 はそのひ とつの運用方法であった。 もっ とも重要な 意義 を担 っていたのがプローカーズ・ ロー ンであ り、最大の需要者がニュー ヨーク証券取引所で あった。(この形態で証券売買のために必要な資金 を供与 し、それによって証券発行・流通市場 を 支 え、企業の証券市場 を通 じた資金調達 を支 える役割 を果た した。)この ように、 コル レス関係 を 通 じて、銀行間預金 としてニ ュー ヨークに集中された資金 はブローカーズ・ ロー ンにだされてい たが、 このブローカーズ・ローンは商業銀行 にとっては第二線準備たる意義 を担 うものであった。
小野氏 は結論的に以下の ように指摘す る。「 アメ リカ経済の基幹部分 を形成する大企業 と商業銀 行のあいだでは事業貸出を通ず るいわば直接的金融関係 は、 きわめて弱かった。大企業 は、 もと もと蓄積資金の多 くを内部資金 に負ってお り、 また外部資金 を調達するにして も、概 して証券発 行 によっていた。 そして この傾向は、鉄道、鉄鋼業部門 を中心 に独 占体が確立 された20世紀初頭 以降、 ます ます顕著 になっていたが、ほかな らぬ この時期 にこそ、商業銀行制度 は逆 に急速 な外 延的発達 をとげたのである。つ まり短期金融機関 としての商業銀行の本来の業務 において主要な 信用需要者 となっていたのは、独 占的大企業のいわば周辺部分 に所在す る中小企業や農民であっ た。商業銀行 は、事業貸出や農地抵当貸付 を通 じて彼 らに比較的零細 な資金 を融通 していた。 そ のか ぎ りでは、個々の銀行の零細性 もなん ら支障がなかったのである。 しか し、そのさい短期事 業貸 出の形式 を通 じて雑多な用途 にあて られる資金が供給 され、 しば しばそれが借手の もとに長 期間 にわたって固定化 されていた し、農地抵当貸付 は、もともと長期貸付であった。したがって、
銀行資産の中で投資がかな りの割合 を占めていた ことをあわせて考慮すれば、商業銀行 の流動性 はかな り低 く、 また商業銀行 は厳密な意味 における『短期金融機関』ではけっしてなかった。」《1' 各地方に散在す る商業銀行が、 この ように中小企業や農業 に対する金融 に関わっていた こと、
そこでの貸付の実態や流動性の状況 は極 めて興味深いが、 さらに各地の銀行が資金の運用や流動 00小野英祐 (1970)、 49頁
(151/J瑚矛メ財右 (1970)、 53頁
性 を求めて、中央の金融市場の銀行 との特有のコル ンス関係 を形成 していた ことが特徴 であった。
「 そ して以上 のような方法 によって銀行所在地で運用 されない資金 は、中央金融市場 に投ぜ られ、
そのため古 くか らコル レス関係が発達 していた。地方銀行 は、近隣の都市銀行 を代理店銀行 に指 定 し、後者 はさらにニューヨーク、シカゴ市中銀行 とコルレス関係 を結んでいたのであって、全国の 銀行 はニ ュー ヨー ク、 シカゴ市中銀行 を頂点 とす るピラ ミッ ド型の組織 に編成 されていた。地方 銀行資金 は、 コル ンス関係 を通 じて中央 に集中されブローカーズロー ンとして運用 されてお り、
これによって大企業の証券発行 による長期性資金調達がはじめて可能 になっていた。 また、東部 大銀行 は大企業の証券発行 その ものに介入 し、 さらに引受証券 は、 コル ンス関係 を通 じて全国の 銀行 によって保有 されていた。要するに、か ようないわば迂回的金融関係 を通 じて、大企業の外 部資金需要が商業銀行制度 に媒介 されて、 また商業銀行制度 によって、みたされてお り、 そのた めの舞台 もコル ンス関係 として与 えられていたが、そのゆえに、アメ リカの商業銀行 は ドイツ、
イギ リスにみ られた ような大規模 な集中の動機 を、いちじるしく欠 くことになったのである。」10 アメ リカの商業銀行の全国的な金融構造・ ネ ッ トワーク と関わって、証券市場 との業務上の結 びつ きが どのような ものであったかが問われ ることとなる。 これについては佐合紘一氏の研究 を 見 ることにす る。佐合氏の説明は、アメ リカにおいて商業銀行の証券業務 とのかかわ りがいかに 形成 され深化 していったか と言 う視角か らの検討である。(1つ
アメ リカでは銀行業務 と証券業務 は制度的に分離 されていた。 しか しその分離 は歴史的には19 世紀か ら20世紀への転換期 に重大 な変化が生 じていた。 この構造変化 を解明す ることが課題 とな
る。
商業銀行・ 国法銀行 は当初か ら、国債取引、国債消化 と密接な関連があった。 さらには地方債 や事業債への投資 をも拡大 していった。大都市の国法銀行では引受 シンジケー トを組織 し、債券 の引受 を大規模 に展開 した。世紀転換期 には企業合同が活発化 し、企業規模 の拡大が顕著 とな り 巨大株式会社が形成 された。鉄道業の大企業 は企業財務の改善のために、債務 の資本化や短期債 務 の証券化 をすすめたが、一般産業の企業合同に際 して、証券交換や過大資本化、水増 しが行わ れ るな ど、総 じて世紀転換期 には、大量の証券発行が行われた。 こうした証券市場の拡大 はさら に、企業の資金調達構造 を変化 させていった。まず企業の資金需要の規模拡大 に対 して,地方の銀 行 は、単一銀行制 によって資金量の限界 に直面 した ことである。 このため地方の大企業が資金調 達 を地方か ら中央市場 に移行 させ る動 きが強 まった。 さらに企業の資金調達 において証券発行方 式 に力点 を移行 させ る傾向が強 まった ことである。 さらには短期資金調達 において も銀行借 り入 れが困難 な場合 な どには、CPの発行が選 ばれ るようになった ことである。
00小野英介 (1970)、 54頁
。つ以下 は、佐合紘― (1987)での見解 をまとめた ものである。
こうして世紀転換期 には、全体的な証券化の進展や、証券市場の拡大 を背景 にして、金融構造 の変化が進展 し、資金調達の場 としての中央市場の重要性が増大 していつた。 それ とともに各地 の地方銀行 な どの資金が、銀行間預金、 コル ンス関係 を通 じて中央 に集中す る傾向が進み、そこ で証券関連やCP投資 な どに運用 されるようになった。
このような金融構造 と資金構造の変化 は、銀行 の業務内容 にも影響 を与 えた。 とくに企業の資 金調達の変化 は、商業銀行の事業貸付 を後退 させた。銀行 の証券投資が拡大 し、投資対象 も多様 化 していき、資金運用総額 に占める証券投資の割合が上昇 した。長期性資金の銀行への流入 とい う銀行資金の構成変化 も背景 にあった。 コル ンス体制 を通 してニュー ヨークの集中 した資金 は取 引所証券 を担保 とした コール市場 で運用 された。 さらに銀行 は証券引受・ 発行業務 な どの投資銀 行業務へ進出 した。銀行 内部 に「債権部」 を設置 し投資銀行業務 に専念 した。1902年の国法銀行 の投資銀行業務への規制以降は、 これを「証券子会社」 に再編 し、投資銀行業務 を引 き続 き展開 した とい う。アメ リカにおける銀行業務 と証券業務 の「兼営化」 はこのように世紀転換期 におい て金融構造 の変化 とともに進展 した。
4)フランス
フランスでは第一次大戦前 に、 クンデイ・ リヨネ、 ソシエテ・ ジェネラルな ど4大預金銀行 の 体制が成立 していたが、 このほかに全国各地 に多数の地方銀行が活動 していた。その業務の実態 はどのようであっただろうか。大預金銀行 と地方銀行の両者の展開はきわめて対照的であつた。
よ く知 られているように大預金銀行 は国内の産業金融 に対 しては消極的であった とされ る。 そし て主 として顧客か らの要求払い預金 を受 け入れ、 これをもとにフランス銀行再割適格 の優良手形 を中心 に手形割引を行 ったが、商取引に基づかない信用手形 を排除す る姿勢 を とっていた。 また 健全 性確保 の視点か ら、当座貸方勘定(預金)の方だ けに関心 を寄せ る傾向が強かった とい う。。め
しか し大預金銀行 は他面で非正則業務 として、企業や銀行等の設立 に資本参加 した り、種々の証 券関連業務 を展開 していた。 この業務 を通 じて証券取引所 と顧客のあいだを媒介 し、顧客の証券 売買注文 を取 り次いだ り、顧客 に対 して内外 の国債 の募集 を斡旋、投資の勧誘 を行 い手数料収入 を確保 していた。 こうした顧客 との証券取引の媒介 を通 じて顧客か らの預金の集中を行 った。つ まり、 フランスの大預金銀行 は、手形割引を中心 とした商業銀行業務・ 正則業務 とな らんで、顧 客 に対 する証券売買・ 投資の媒介な どの非正則業務 を展開 したのであるが、 ここにはフランス的
な「兼営性」の特徴が うかが えるのである。
他方で各地の地方銀行の中には、産業企業 と密接 な関係 を持 って、中長期の貸付 を行 い中には
0紺井博則 (1992)、 196頁
地方の取引所 を通 じて企業の証券発行 をもお こない、企業の設備資金の金融 を行 うもの も現れた とい う。(1のこれ ら地銀 は、企業 とのあいだでの当座勘定取引 を業務の中心 においていた (大預金 銀行が行 った顧客・ 有力投資家への証券売捌 きな どの証券業務 の条件が地方銀行 には欠 けていた か らで もあった)。 また地銀が企業への融資 において割引手形ではな く、当座貸越 によって与 えた ことについては、地銀の顧客の手形 は優良手形 としては扱われず、 フランス銀行の再割適格外で あった ことか ら、割引利率の点で も不利であったか らである。 しか し顧客の当座借越が長期化 し た り、固定化することによる流動性 の悪化 を回避す るために次のような ことが行われた。顧客・
企業 に地銀宛の約束手形 を振 り出させ、 これに第二者の保証 をつけて、 フランス銀行再割適格 の 形式 を整わせた上で、この手形 を割 り引 くという方法であった。これによって当座貸越 の返済減、
割引手形の増 とな り、銀行 の資産 の流動性が改善 され る。地銀が準備不足 になればこの手形 をフ ランス銀行で再割引することがで きた。 この ような手形 は流動化手形 と呼ばれ、 フランス銀行の 多 くの支店で受 け入れ られた とい う。西村氏 によれば、「 この種 の流動化手形 を含 めて融通手形の ことをフランスでは信用手形 と呼んでいた。そ して信用手形 はしばしば産業の固定設備建設資金 の貸付の手段 として用い られていた。」●のより具体的には、ナンシーやグルノーブルの例では、企 業 の設立 に複数の銀行が参加 して融資が行われ (これ にフランス銀行支店 も加 わ る ことが あっ た)、 事業が軌道 に乗 った ところで社債の発行がお こなわれ、貸付が返済 された。また銀行が広範 囲に創業 に際 して証券発行 に関わった り、設備資金貸付が行われ、貸付の流動化のための手形が 用い られた。
以上の ことか ら明 らかなように、 フランスでは地方銀行 において産業 に対す る固定設備貸付の 産業金融がかな り広範 に行われ、その流動化の方法 として手形形態 に転換 した り、証券発行 によ る流動化が行われ るという、兼営銀行業の明確 な展開が見 られた ことが確認で きる。 さらに注 目 すべ きことは、地方銀行の産業金融 を中央銀行たるフランス銀行が、信用手形の再割引の形態で 積極的 に支援 した ことである。 これは ドイツにおける兼営銀行のあ り方 ときわめて類似 した こと であった。
主要国に関する金融史研究の実証分析か ら浮かび上がって くることをまとめてみよう。
み られ るように、 ここには、経済的発展のあ り方やそのテンポの相違、金融 システムの構造の 各国それぞれの独 自な展開によって、当然異なる様相 を示 した ことが浮 き彫 りにされ る。 とりわ
け経済発展 に金融 システムがいかに対応 したかについての興味ある事実が示 されている。
第一 に、 もっとも基本的問題 として、経済的発展 とくに重工業段階での工業化のための資金需
●0西村閑也 (1992)、 177頁
④西村閑也 (1992)、 223‑224頁
要が どの ように して充足 され、金融 システムが これにいかに対応 したかである。 ここでの資金需 要の性格・ 内容 は、発展テンポや規模 によって異なる意味 を持 った ことは明 らかであろう。 とり わけ設備拡張や設備投資資金が問題 となっていることは明 らかである。 そして発展テンポが比較 的に漸次的である場合 には、内部資金の再投資や内部金融 を通 じて資金調達が図 られ ることも可 能であった。あるいはまた、商業銀行 の営業姿勢が長期化す る産業金融 に対 して消極的な場合 に も、産業企業 は銀行以外か らの資金調達 を求めざるを得なかった。ここか ら工業化の資金調達が、
内部 の資金の再投資の方法 に基づいて行われ るか、証券市場 を通 じた証券発行 の方法 によるかの 方法 を選択す るほかないことになる。 したがってイギ リスの場合 には、企業合同や内部的蓄積 の 再投資 とな らんで、地方の工業都市での産業証券の取引所 を通 じた資金調達の方法 によって行わ れた。あるいはまた商業銀行の発展が制度面か ら制約 され、工業企業の資金需要の規模 に商業銀 行の資金的制約か ら対応 し得ない場合、証券市場 と投資銀行業の発達 を促 し、 それゆえに証券発 行 に重点 をおいた資金調達が優勢 になる とい う金融 システムが形成 され る。 これがアメ リカの ケースであった。
他方でフランスの ように、大預金銀行が産業金融 に消極的であって、国債等の債券投資 に傾斜 した業務 を展開 したのにたいして、地方銀行が地域の産業の金融的需要 に積極的 にかかわ り、 さ らには証券発行 をも引 き受 けるとい う分業・ 棲 み分 けが行われ、工業の資金需要が地方の諸銀行 によって担われ るとともに、中央銀行の地方支店が これ を積極的に支援するとい う独特な特徴 を 示 した。 この点では ドイツでは、産業の資金需要 に対 して、銀行が積極的に関わった とい うこと が極 めて大 きな特徴であった。個人銀行業 を改組 した株式組織 の信用銀行の創業当初か ら、産業 的諸企業の創業金融や設備資金の供給 に積極的に関わった ことは他の国々 と比較 して も顕著な特 質であった とい うことがで きる。 それゆえ ドイツでは産業金融が銀行 によって担われ るとい う構 造が定着す ることになった。銀行 中心の間接金融方式がそれである。 しか しそこにおいて も、貸 付の長期・ 固定化 に対 する危惧・ 懸念 は大 きな問題ではあったのである。 ドイツでの固定化回避 のためのさまざまな試みや、流動性問題の深刻化 な どに明 らかであろう。01)ドイツの場合 に も、
証券化 を通 じて証券市場 との関連が重要 になるのである。 そ こでの貸出債権 の証券化・ 流動化の 業務 も銀行が引 き受 けることとなった。 ドイツでの兼営銀行化 はこのように銀行信用・ 資本信用 との必然的連関において、つ まり、流動化のための証券発行が、銀行業務 と証券業務の結合 をも た らす こととなったのである。 この ように工業化の新たな設備資金・ 拡張資金の需要 に対 して銀 行が積極的対応 を見せた ドイツの場合 には、兼営銀行化 の点ではもっ とも顕著な動 きを示す こと になった としてよいであろう。 これに対 して産業金融への関与 における銀行の消極的姿勢一イギ
O。この点 についての詳細 は、居城 弘 (2001)『 ドイツ金融史研究 』、第5章参照。
リス とアメ リカでは大 きな差があるのだが―が支配的な国の場合 には、直接金融方式が前面 に現 れて くるのである (もっ ともここで英、米両国の場合で も、 自己金融・ 内部金融や証券発行 によ る資金調達の可能性が制約 され る中小企業の場合、商業銀行 による信用供与―アメ リカの場合,事 業貸出―が中心であ り、 それが長期化す る傾 向 を示す こともあった ことが注 目され る)。 ●幼
第二 に各国に共通 した傾向 として、 この段階 には株式会社制度の発達が急速 に進展 した ことで ある。重工業化の進展 による資金需要の大規模化、企業規模の拡大が背景であったことはいうまで もないが、株式会社化の拡大 は証券市場 による資金調達の拡張 を目的 としていただけでな く、それ とならんで、アメリカの場合、企業財務の改善のために債務の証券化 を進めるためや、企業合同に よる巨大株式会社の成立 において、支配資本の節約のために、証券交換や過大資本化 な どにより 大量の証券発行が行われたのであった。イギ リスの場合 には、株式会社化の動 きを強 めたのは基 軸産業 の重工業化 による資金調達 とともに、企業の有限責任化のための組織変更 としての株式会 社化が多かった こと、企業合同の促進や弱小企業の吸収のために、支配集中の手段 としての株式会 社化の側面 も強かった。 フランスや ドイツの場合 には、大規模 な固定資本 のための銀行信用の供 与 と結びついて、証券発行 による流動化が不可欠 となった ことにより、株式会社化 はその前提 とし てt組織変更や当初 か らの株式会社 の創業が必要であった。しか し同時 に、企業集中運動の際の株 式交換 な ど支配集中の機能 として も株式会社制度の利用 は急速 に広がったのであった。。つ
第二 に、株式会社制度の拡張や証券市場 の発展 とその規模 の拡大 は、各国の資金の流れの構造 変化 をもた らした。端的に表現すれば証券市場、資本市場 を経由する資金の流れが増大 した こと である。 ここにおいて銀行 はどの ような影響 を受 けることになるかが問題である。企業金融の分 野 において証券発行 による資金調達の比重が増大 し、株式や社債の発行 に関わ る金融取引が、ア ンダーライテイング業務や証券引受 シンジケー トの形成な どを通 じてお こなわれ る。発行市場 と な らんで流通市場 において も、証券投資のための売買取引や投機取引が拡大 してい くが、そのた めの証券取引代金が証券担保金融 として供与 され る。証券金融や取引所金融の拡大である。 さら には国債や各種の公共債の発行・ 売買取引が増大 し、証券市場 の規模 を拡大す ることになる。 こ うした動 きは、「金融の証券化」とか「証券資本主義」として特徴付 けられることが多い。証券投 資 を求 めて市場 に流入す る資金 は、それに適 した長期性資金の性格 を持 っているし、 その規模 も
②産業構造の高度化 にともなう各国共通の金融的課題 に対 して、銀行 をはじめ とする各国の金融 システムがいかに 対応 したか、そ こでの対応 の相違が何 によって もた らされ るかの考察 は ここでみ るように、制度的要因や銀行 の 産業 との関係、産業金融 に対す る金融 システムのかかわ りな どの広範 に及ぶ諸要因の検討が必要である。金融 シ ステムの国際比較 においては機械的な単純化 を避 けて、内在的な分析が不可欠 となる。金融 システムに とっての 課題 を明確 に して行 うことが大切 であろう。
0‑般産業分野への株式会社制度の採用・ 広が りの背景 は、 ここで も述べた ように産業構造 の高度化 による企業の 資本規模拡大 と、 それ に対 して企業持分 の「譲渡可能 な」流動化 の必要、 さ らには企業支配 をめ ぐる必要が指摘 され る。 ここで も金融 システムが この段階の金融的課題 に どのように関わ るかによって、株式会社制度の機能の 重点が異 なることとなる。株式会社の社会的な資本集中 と支配集中機能の関連 の問題である。
大 き くなる。長期 の貯蓄性資金の形成が増加 してい く傾向は、経済構造の高度化 と関連 した もの であるが、同様 に、銀行が受 け入れ る預金の構成 において も貯蓄性預金の比率 は増加傾向を示す。
この ような金融構造の変化の中で銀行 は、それ までの融資対象であった大企業、 とりわ け巨大 企業が資金調達の重点 を内部金融や証券発行 による直接金融 に移行 させたために、そこか らの後 退 と、融資対象の変化・ 変更 を迫 られ る。一般的な趨勢 として、銀行 は中小企業や リテール分野 での取引 を強 めるようになることが指摘で きる。他方で銀行 は、金融構造の変化、証券市場や直 接金融 の分野の拡大 に対応 して、収益機会の拡大 を求 めて種々の形態で証券関連業務 との連携 を 強 めるのである。 この点 はすでに述べた ように、 ドイツに特徴的な銀行業務 と証券業務 との連携 に見 られ るように、銀行信用・ 固定資本信用の供与 とその流動化の形態である、証券発行業務 と の内面的 に有機的な関連が形成 され、 これはひ とつの典型 をなす こととなる。産業の資金需要 に 対す るこの ような直接的関係だ けではな く、 よ り間接的な関係 において銀行が産業金融 を支持・
支援す る形態 も重要である。それ は産業の大企業部門 を中心 に証券発行 による資金調達 に重点 を 移行 させ、直接金融方式が優勢 になる金融 システムにおいて、銀行が証券発行や証券流通 のそれ ぞれのレベルで、証券取引に対 して資金供与 を行 うことを通 じて、間接的に産業金融 を支援・ 指 示す ることである。具体的には証券発行 に対す る融資や、証券引受 シンジケー トヘの参加、証券 担保貸付 による証券取引や証券投機 に対 す る資金供与 の諸形態がそれであった。 こうして銀行 の 証券関連業務や証券金融業務 の拡大 は、商業銀行 の構造変化、つ ま り商業銀行が直接0間接 の諸 形態 を通 じて証券業務 との関連 を強化 し深 めてい く姿の うちに認 めることがで きるのであって、
「兼営銀行化」 をもた らした背景・ 要因 をこの ように とらえることがで きるのである。
金融の証券化や「証券資本主義」的現象が顕著 となる段階においては、長期の貯蓄性資金の形 成 も増大す る。この ような資金が証券市場 に直接 に流入す るだけではな く、種々の金融媒介機関、
保険会社、投資信託等 に流入 して、いわゆる機関投資家の拡張 とい う傾向 をもた らすのである。
銀行が これ ら金融媒介機関 との資金獲得競争 をつ うじて、長期 の貯蓄性資金の集中・ 強化 を進 め るとともに、 その運用形態 として各種 の証券関連業務 を拡張す るようになるのであるが、 このた めに銀行業の集中運動や、 コル レス関係の強化・ 拡大 によって、資金の国内的集中 と、金融・ 証 券市場での投資・ 融資 による運用の拡大が行われ るのである。兼営銀行化の契機 については、 こ
うした金融 システムの全体的構造変化 と関わ らせて理解す ることがで きる。
兼 営銀行 の特質 と問題 点
商業銀行の構造変化 と兼営銀行化の背景やその諸契機 についての考察 をふ まえて、次 に、兼営 銀行の特質把握 を試みる。兼営銀行 とは商業銀行業務 を基礎 として、 さらに産業金融や投資銀行
業務、証券業務の諸分野 をも展開する銀行、つ まり銀行業務 と証券業務 を兼営す る銀行 をさすの であるが、 これ まで指摘 した ような商業銀行 の構造変化 を広 くとらえて兼営銀行化 と理解するこ とも可能である。 その場合 は、商業銀行 と投資銀行や各種の金融媒介機関 とのあいだでの証券業 務 を中心 とする取引関係や、資本関係が深 まってい くことが特徴である。その根底 において共通 していることは、企業の資本需要の規模の増大 とその質的変化であって、兼営銀行の特質の第1
は、銀行の信用構造、与信内容の変化のうちに認めることができる。兼営銀行が新たな段階の資本 需要 に応 じて供与 したのは、商業銀行段階のそれ とは異な り、企業の固定資本拡大 に向けられ る 固定資本信用であって、再生産 との関連 においてみた場合、「資本信用」の性格 を持つ 臓勤口資本 供与」 に他 ならない。つ まり兼営銀行の信用供与 においては、商業銀行 との共通基盤の上で新た に資本信用・ 資本の貸付の契機 を内包するもの として行われ ることになる。 これは銀行信用の積 極的・ 能動的役割 を示す ものであ り、再生産 の拡張 をもた らす ことになる。 これを信用創造 の視 点か ら見た場合、商業銀行 における信用創造 と比較 して も、そのメカニズムは基本的には共通 し ているのであって、銀行の自己宛債務 の形態での貸付 (預金設定、交互計算信用)を通 じて供与 され る。 しか し信用創造の媒介する金融仲介の内容・ 性格 は商業銀行段階 とは異な り、資本信用 であ り、追加資本の貸付であった。これに規定 されて信用創造・与信の長期化が もた らされる。●0 しか しすでに述べた ところであるが、 この ような特質 は各国の銀行・ 金融 システムのあ り方に よって規定 され、それぞれ異なった ものであ りえた。た とえば銀行の規模拡大が単一銀行制 によっ て制約 され、銀行の資金的制約か ら産業の資金需要に十分 に応 じることができない場合であると か、逆 に産業の資金需要が漸進的ないし緩慢な場合には、産業の設備拡張のための資金調達の基本 部分が、銀行信用 によるのではな くて内部金融や証券発行 を通 じた形態で行われ ることもあった わけである。ここでは、産業資金需要が基本的に銀行信用 を通 じて供与 され、調達 される典型例 を 取 り上 げてその特質 を把握 しようとしたのである。 これに対 して直接金融型の金融 システムにおい ては、特 に大企業の分野ではここで述べた特質 は明確かつ顕著な もの としてはとらえられないの である。新たな資金需要に対する異なる金融 システムの対応の違いを認めることが必要である。。助
兼営銀行の特質の第2は、その資金的基盤 をなす預金の性格変化 に見 ることがで きる。これは産 業構造の高度化や重工業化 による資本規模拡大、 とくに固定資本部分の増大 とともに顕著 となる 資本の回転0循環の長期化 を背景 としている。 その もとで、企業内での減価償却基金や利潤の企
②産業構造の高度化、固定資本の巨大化に対する商業銀行の構造変化を、資本信用概念 と商業銀行機能の展開を通 じて追求 したものとして、坂本 正 (1991)が ある。証券市場や擬制資本論を含めた信用論の体系化をめざして いる。さらに商業銀行 を中心 とする信用制度を基礎 として、擬制資本や証券市場を包摂する独占期の信用制度へ の展開を試みたものとして、川波洋一 (1995)、 第 2編第 2章 を参照。
C261しか し、大企業分野 と異な り、中小企業分野では銀行信用への依存度が逆に高まる傾向にあったことも留意され
なければならないであろう。