これからの障害児教育・援助に関する一考察
著者 弓野 憲一, 弓野 スミ子
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇
巻 28
ページ 215‑224
発行年 1997‑03‑24
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00008350
静岡大学教育学部研究報告 (教科教育学篇)第28号 (1997.3)215〜224
これか らの障害児教育・ 援助に関する一考察
A Consideration for the Near Future Education and Support of Handicapped Children
弓 野 憲 一 ・ 弓 野 ス ミ子・
Kenlchi YuMINO and Sunllko YuMINO
(平成8年10月7日 受理
)
1995年 8月 か ら 9月 にか けて カナダのエ ドモ ン トン市 とアメ リカのイサカ市で小・ 中・
高校 および健常児 と障害児 の統合学級 な らびに各種特殊教育関係施設を見学 した。国 間 や 各施設間、学校間によ り幾分違 いがあ るが、共通 したのは、健常児 も障害児 も含 めて個 々 人 の もて る能力・ 特性・ 興味・ 将来 の進路等 に応 じて、 コアおよびオプ シ ョンのカ リキ ュ ラムが準備 されて いることであ った。見学 した各種施設 の実践を参考 に、将来 の 日本 の障 害児教育・ 援助が どのよ うになされ るのが望 ま しいのかにつ いて一つの提案をお こなった。
1. :ま じめに
文部省 は1996年 7月 に教育職員養成審議会 (教養審)に対 して、教員養成 のあ り方 につ いて 諮 問 した。主 なる内容 は以下 の通 りである。①教員養成課程 の改善、②修士課程 を積 極 的 に活 用 した教員養成、③教員養成 と採用 0研修 との円滑化 などであ る。① にお いて は、教育相 談 、 国際化・ 情報化教育 、環境教育 や特殊教育 にかかわ る教員養成課程 の教育内容を どのよ うに構 成す るか、さ らには、教育実習期間および実習内容 を どのよ うにす るか といった問題 も含 まれ て いる。教育実習内容 につ いて は、取得を希望す る免許状 にかかわ る学校種以外 の学校 、 と り わ け、盲学校 、ろ う学校 、養護学校 での教育実習が必要か、さ らには、小学校・ 中学校 の実 習 期間中に特殊学級での実習を含め る必要があ るか ど うかにつ いて も諮問 されて いる。そ して こ れ らの諮間 に対す る答 申は、およそ1年後 に出 され ることにな っている。
答 申が出た時点 において、障害児教育 の今後 の方向がはっきりす ると思 われ るが、従来 とは 異 な り、取得 を希望す る教科以外 に特殊学校 や特殊学級での教育実習の必要性 につ いて諮 問 さ れて ことは、現在行 われている特殊学校 における「 統合教育」 もしくは「交流教育 」 が、将来 において はます ます必要 にな ることを意味す るもの と思え る。そ して、先進諸国の一部 で既 に 実施 されて いる、特殊学校 の廃上、普通学校 の中での障害児教育 0援助 とい う方向に沿 った展 開 があ るもの と予想 され る。 この小論 で は、カナダ・ アメ リカで行われて いる障害者教 育・ 援 助 を紹介 しなが ら、 日本 の これか らの障害児教育・ 援助 につ いて考察をすす める。
*静岡北養護学校
弓 野 憲 一・ 弓野ス ミ子
2.カナダ 0ア メ リカでの教育施設見学
1995年 8月 〜 9月 にか けて、筆者 らは静 岡大学 の カナダでの姉妹校 で あ るアルバ ー タ大学
(エ ドモ ン トン市)と10年前 に滞在 したアメ リカ 0ニ ュー ヨー ク州 の イサ カにあ る コー ネル大 学 で研修す る機会を持 った。エ ドモ ン トン市 では、教育委員会、障害者関係機関始 め、 い くっ かの小・ 中学校 を訪問 し、またイサカ市では、障害者施設 と授産所を見学す ることがで きた。
これ ら2つの市 は、カナダ・ アメ リカの中で も比較的豊かな市であ り、障害者教育 0援助 に対 して も先進 的であ る。以下 にこれ らの市 の障害者教育・ 援助 についてま とめ、将来 の障害者教 育 0援助 のあ り方 につ いて、考察 してみよ う。
3.カナダの教育施設見学
3■.エ ドモ ン トン市 の教育
エ ドモ ン トン市の公立学校 には、小学校136校、小・ 中学校17校、中学校30校、高校14校、職 業訓練校1校がある。 これ以外 に も相 当数 のカソ リック 0ス クールが あ る。 しか し、公立学校 で は障害児 のみを集 めた盲・ ろ う・ 養護学校等 の特殊学校 はない。 この教育 システムは、6年
前か ら始 ま ったよ うである。エ ドモ ン トン市 の公立学校を統括す るのが、エ ドモ ン トン中央教 育委員会(Edmonton Board Center for Education)で あ り、 ここに市民 よ り選 ばれ た9人の 委員が いる。日本 とは違 って、中央集権的ではないカナダ・ アメ リカで は、 この9人の委 員 が 市 の教育全般 に対 して全責任 を負 って いる。
G度 合いのめ \
一
子供の 成長
体系的な教授方略 の立案
Fig。
1.エ ドモ ン トン市の児童 0生徒の学習プログラム立案要項図これからの障害児教育・ 援助に関する一考察
3‐
2.中 央教育委員会の運営方針①子供の個人差を尊重する
② 自己の価値 と尊厳 に気付かせる
③市民精神 (Citizen ship)と 責任感を確立 させる
④発展的に学習す ることを保証す る
運営方針 として上記の4つをあげ、エ ドモントン市の公立学校に在籍するすべての生徒の要 求 に合 った学習計画 と学習環境を提供することを約束 している。
3‑3.エ ドモン トン市公立学校生徒プログラム立案の枠組み
上記の運営方針に沿 って、学習計画を立案 し、児童 0生徒の成長を保証す るためにFig.1の 各々のプログラムが実施 され、調整 されている。
Fig。1について時計回 りで説明 しよう。中央に子供の成長がある。 この成長を促 し、保障す るために周囲の6つのプログラム要素が配列されている。まず子 どもの①「現状把握」がある。
ここでは、子 ども一般の学習 と発達の性質、さらには、各々の子 どもの学習スタイル、興味、
および諸能力等の基礎的事項を把握す る。障害の性質や程度 もこの段階でつかむ。次に②「可 能性の評価」である。全ての子 どもが学習する知識0技能・ 態度に関 して、各々の子 ど もが実 現可能なものは何かについて判断す る。③「 カ リキュラムの決定」では、このカ リキュラムの 実施 によって、知識 0技能0態度について一定期間の枠内で、次に何 を学べるかを決める。ま た各々の子 どもがいかに上手にそれを成 し遂げるかについて も、明確にする。④「体系的な教 授方略の立案」では、学習環境、学習・ 教授資源を選定 し、各々の子 どもの成功を保障す る体 系的な教授方略を立案遂行す る。⑤「学習の評定」では、全ての子どもが学習する知識・ 技能
0
態度に関 して、各々の子 どもが達成 した ものを測定するための評定方略を選定す る。そ して適 切な方法で実現 したものを特定化する方法を探す。そ して諸データを集める。⑥「成長度合 い の伝達」では適当な伝達方法で、知識・ 技能・ 態度に関する子どもの成長を本人、両親および 地域社会に知 らせる。以上の6つのプログラム要素を遂行することにより、適切な学習プ ログラムの計画 と実行を行 っている。
3‐
4.エ ドモン トン市の小・ 中学校での障害児教育0援助中央教育委員会で特殊教育について具体的に質問 して、以下の回答を得た。
①特殊教育の対象は、達成度の上下合わせて約10%の子供が対象になっている。
② カナダでは都市によって特殊教育のや り方が異なっている。東の方の都市では特殊学校が残 っ ているが、エ ドモン トン市にはない。
③公立 小0中・ 高校でハ ンディを持 った生徒 (障害児だけでな く、一般生徒 も含む)に対す る 援助 は、各学校がセ ンターか ら買 い取 るシステムになっている。セ ンターには、心理判定員、
理学療法士、視覚療法士、言語療法士、セラピス ト等の専門家が所属 し、依頼によ って各学 校へ派遣 される。派遣 されるのは学習の指導時間だけでな く、個人に合 った学習計画立案 の 話合いや評価にも参加 して担任 と協力体制を組んでいる。
3‐
5.教 育組織エ ドモン トン市の小・ 中学校においては、校長、副校長、教師、スクールカウンセラー、コー
218 弓 野 憲 ―・ 弓野ス ミ子
デ ィネー ター、秘書 および職員 がいる。 この中でスクールカウンセ ラーとコーデ ィネーター、
清掃員 は日本 の学校 には無 い専門の仕事なので、その中身 を尋 ねてみた。
① スクールカウ ンセ ラーの仕事
日本 の学校 に もここ1、 2年の間 にスクールカウンセ ラーの導入 が盛 んにな りつつ ある。 し か し、それ は学校 に常駐す るスクールカウンセ ラーではな く、週 に1, 2回学校 を訪問 して、
児童・ 生徒 の悩 みを聞 くカウンセ ラーである。筆者 らがたずねたエ ドモ ン トン市 の小・ 中学 校 で は、カウンセ ラーは、学校 に常駐す る教諭であった。授業で は保健を担 当 しつつ、児童・ 生 徒 の要請 に応 じて、面接 の時間を設 け、個 々人 の学習 0人間関係 0家族・ 私 に関す る各種 の悩 みの相談 にの っていた。また障害児 が各教室で健常児 と一緒 に学習 していること、およ び移 民 も含 めた多 くの人種 の子 どもによ って学級 が構成 されているので、「 い じめ」 を始 め、 さま ざ まな トラブルが発生す る。そのよ うな場合 にカウンセ ラーが中心 とな って、そのよ うな問題 を 解決す るには、どのよ うにすればいいかにつ いて、当事者 を中心 にカウンセ ラー室 で討議 しそ れを学級運営 に生かす と聞 いた。 さ らに、能力 の非常 に優 れ た子 ど もが、Gifted Education (英才教育)を受 ける中で同年代 の子 どもか ら孤立 し、学習お よび人格 にお いて破 綻 を きた さ ないよ うに、それ らの子 ど もの心理的ケアも行 っていた。
日本 にお いて も近 い将来 に、特殊学校が無 くな り、特殊教育 が普通学校 に統合 され る と予想 され る。そのよ うな場合 に しっか りした心 の教育 がなされなければ、今以上 に「 い じめ」、「 登 校拒否」が社会問題 となることは必至である。カナダや アメ リカでのスクールカウンセ ラー制 度 に学 び、そのよ うな資質 を もつ教育臨床家 の養成が教育心理学分野 の焦眉 の課題 とな らて く
るであろ う。
② コーディネーターの仕事
先に述べたようにエ ドモントン市では、「子 どもの個人差を尊重す る」 とい う教育指針があ る。この目標を達成す るためには、個々人に合 った教育 カ リキュラムが必要 となる。 この場合 子 ども、教師、専門家が相談 しなが ら、各々の子 どもに適合 した教育 カ リキュラムを作 ること になる。その中で学校の中にいて、それ ら三者を結 びつけ、個人に最適のカ リキュラムを作 れ るように調整す るのがコーディネーターの仕事の一つである。また将来の自立に向けて生徒 が 地域で実習を行 う様なときにも、各々の事業所 と連絡0調整に当たっている。さらに、学校見 学や学校内部の教育活動に関す る諸々の調整 も行 っている。学校が地域 と密接に結 びついた中 で、教育が行われるアメ リカ 0カ ナダでは、コーディネーターの仕事 はとて も重要であ る。 こ の任に当たる専門家の力量が不十分である場合には、学校の運営に支障をきたすであろう。
③清掃員の仕事
カナダの学校では、児童0生徒の教室環境の整備を担当 している「清掃員」がいる。 日本 の 学校にいる「用務員」のお じさん とは異なり、教室環境を清潔に保 ち、さらに学校 の安全を保 持す るプロである。大学を始め、私たちの訪問 した学校0施設には必ず このプロがいた。登校 して くるこどもたちは、チ リーつ無 いように完璧に教室環境を整備 。清掃 して くれるプロの清 掃員に対 して、感謝の気持 ちを込めて挨拶を していた し、また学校を案内 して くれた校長先生 に も随所にそのような態度が見 られた。
3‐
0.学校を終えた障害をもつ子 どもの進路 学校を終えた子 どもは、これからの障害児教育・ 援助に関する一考察
①一部 は家庭ヘ
②多 くはグループホームヘ
1ホ ームあたり2〜8名のハ ンディを持つ人たちが一緒に生活 している。
運営の中心 は障害者の援助に関心のある夫婦が、大学や教育委員会が主催す る講習会等 で所定の単位を取 り、公の補助を受けて行 っている。
③一部 は施設 に滞在す る
3‐
7. Fanlily and Soc:al Services中央教育委員会でハ ンディを持つ人々を支える学校以外の組織をいくつか教えていただき、
その内の一つであるこの機関を訪ねた。町の中心部にある大 きな ビルの15階の一室に招かれた。
窓の下 には市街の眺望が広が りとて も明るい部屋であった。話をして くださったのは、ソシャー ルワーカーを してお られるSchimpf氏 であった。
この機関はハ ンディを持つ子供 とその家庭を支えるための機関で、1974年に設立 された州 の 機関である。対象 はアルバータ州に在住の精神的0身体的にハ ンディを もつ18才以下の子供 で ある。
援助の内容 としては、
①家庭への直接的援助 :例 えば子守や掃除などの家庭内労働 も含む
②ハ ンディを持つ子供の社会経験を増や し、家庭の他のメンバーが休息をとれるようホス トファ ミリーヘハ ンディを持つ子供を受け入れるリーフサービス
③ハ ンディを持つ子供のために余分にかかった経費の負担
たとえば
・ 歯医者の経費 0医療機関に通 うための経費 (運賃・ 駐車代)
・ 家を離れて医療機関にかかるための食費0宿泊費
・ 特殊な目的のために必要な衣類や靴、道具を買 う費用
④ カウンセ リング、相談サービス などが行われている。
このように援助 は心理的なものだけでなく経済的、さらには具体的な家庭の中での手伝 いま で広範囲に行われてお り、ハ ンディを持つ子供 とその親の苦労を支えていこうとす る間日の広 さに驚いた。 しか しこのカナダで も不況の波が押 し寄せてお り、財政支出が削減 されて経済的 には苦 しいと言 うことであった。 しか し、日本ではやっと始まったばか りのボランティア活動 がカナダではさかんであ り、それ らの人々の情熱 に支え られて、障害者の生活環境が保障 され ていると聞いた。
またこの機関 も始めは親の連絡機関か ら出発 して州の機関へ成長 したもので、並々な らぬ親 の努力が実 ったものである。この機関の中で一般の人はボランティアとしてハ ンディを持つ子 供を受 け入れるホス トファミリーとなってお り、何気な く協力 していた。これなどは宗教立市 であるエ ドモン トン市の社会を印象づけるものであった。
3‐
8。 エ ドモン トン市の障害者教育・ 援助に対する考察全ての生徒の個人差や要求に応 じて学習計画を立てるという原則を大 きく打ち出 し、障害 を 持つ子供達だけでな く、一般生徒の中の問題を持つ子供達に対 して も、それぞれの問題 や要求 に対 して必ず応えていくという基本姿勢 は、教育 における民主主義を実現 していると感 じられ
弓 野 憲 一・ 弓野ス ミ子
た。また、一人一人 の子供 の教育 や成長が担任一人 に任せ られ るので はな く、いろい ろな立場 の人 と協力 して子供 の現状を見、計画を立案実行 し、評価 しなが ら将来の見通 しを語 り合 え る ことは大変心強 く、 うらやま しく思えた。 しか し反面、多 くの人が分業体制 で子供 に関 わ り合 うため、その人 々 と協力体制を組 むのが難 しいこともあるだろ うと思われた。またそれぞれ の 生徒 に必要 な援助を与 え る専門職 の人 々が各学校 に属す るのではな く、教育委員会 に属 して、
そ こか らスケ ジュールを組んで各学校 にまわ ってい くとい うのは、 とて も合理的 な システムだ と思われた。一人一人 の子供 の要求 にあ った教育 をす るとい う強固な理念 と、それを支 え る組 織 と財政 の姿 に日本 との違 いを見 い出 し、ため息 の出 る思 いであった。
ただ し、エ ドモ ン トン市 のよ うな障害者教育 0援助を 日本でやろ うとす ると、い くつ もの問 題 が発生す る。まず教育委員会 に属す る心理判定員、理学療法士、視覚療法士、言語 療法士 、 セ ラピス ト等 の専門家の問題である。日本では教育委員会 に属す るそれ らの専門家 はほとん ど いない。次 に、費用 の問題 である。ボランテ ィア活動 に馴染んでいない日本 で上記 の サ ー ビス をす るとな ると、費用が膨大 な ものになる。さ らに、ボ ランテ ィアの質 の高 さが期待できない。
等 々である。 したが って、日本 はアメ リカ0カ ナダとは違 った方法・ 方略でそれ らの教育 0援 助 を考 えて いかなければな らないであろう。
4。
アメ リカの教育施設見学イサカはニュー ヨーク州 の西の端五大湖 の南側 に位置す る。ニ ュー ヨー ク市 か ら車 で約 6 時間の距離 であ る。住民 の大半 はコーネル大学 の教職員や学生 で、氷河 の名残 であ る湖 や森 に 囲 まれた静かな学園都市 である。 この町 は10年前 に、 7カ 月滞在 したところで もあ る。
イサカで は10年前 にお世話 にな ったDunn博士 ご夫妻 の紹介 で、 コー ネル大学 とと もに、通 所施設 と授 産所 にあ た る施設 を見学 す る ことがで きた。 また、概念地 図法 の創 始 者 で あ る Novak博士 と発達 および創造性 の研究者 であるRipple博士 に再会す ることもで きた。
4¬.コ ーネル大学
コーネル大学 は私立大学であ り、その授業内容 の高 さと (もちろん授業料 も)キ ャ ンパ スの
美 しさでアメ リカ有数 の大学 である。キ ャンパ スは森 の中 に作 られてお り、緑 の絨毯 を広 げた 芝生 の中 に蔦 の絡 まる赤 レンガの校舎が点在 している。その中で も一際 目を引 くのがマ ック グ ロータワー とよばれ る時計台で、この時計台か ら流れる鐘 の音がキ ャンパ スに響 きわたる光景 はたいへんの どかな ものである。のどかな光景 に対 し学生達 の 日常生活 はかな りきび しい もの であ った。相 当な量 の宿題 を こな し、次 々行われ る試験 に合格 し、進級・ 卒業す るため に図書 館 で勉強す る学生 のために13ある図書館 はいつ も真夜中の12時まで灯が光 々 とともって いた。
レジャー ラン ド化 した日本の大学や大学生が失 って しまった学問に対す る情熱やひたむ きな態 度 が感 じられた。実際それがなければ この大学 の授業 につ いて い くのは無理 であ り、入学 時 の 学生 の半数 しか卒業 で きないほどの厳 しい選抜 システムを大学 の誇 りとしていると聞 いた。
4‐
2. Development Handicap Servicesイサカの中心か ら車 で30分ほどの湖 を臨む岡の上 にこの通所施設 はあ った。 この施設 は21才 以上 のハ ンデ ィを持 つ人 々に対す るもので、年間を通 じて開所 されてい る。事前 にアポイ ン ト
メ ン トを とり、Mrs.Dunnと ともに施設を訪問す ると、Jeff・Beeter氏 が出迎 えて下 さ り、施
これか らの障害児教育・ 援助に関する一考察
設 の概要を説明 しなが ら案内 して下 さった。
ここで はDay Treatment Programが実施 されている。このプログラムはコ ミュニティーサー ビスの一環 と して行 われてお り、原則 として、
① ノーマライゼーションを第一 とする
②一人一人の成長 と学習を促す
③サー ビスを受 ける人 (施設に来ているハ ンディを持つ人)がどんな支援やサービスを受 ける か決定す る。
内容 としては、
④A・DeL(身辺処理)
⑤簡単なコ ミュニケーションの道具 としてのサインや
お金や時間に関す る技能を身につけさ せ る。
⑥前職業的な訓練
⑦ レクレーション などである。
また必要があれば
職業的訓練、理学療法、心理療法、言語療法、栄養指導などを受 けるこ とができる。
ここで も一人一人の要求にあったサー ビスを しようとする姿勢が明確に打ち出されていた。
4つの部屋 に分かれて活動 していたが
やっていることは一人一人違 うことが多か った。それ ぞれの部屋に個人 ファイルが置いてあり、今まで何を したか、今の目標 は何でどんなことをす るか、その結果が書かれていて、どの人がグループの支援に入 って もす ぐ活動できるよ うに し てあるのは分か りやすい方法だと思われた。そのファイルの中の項 目に、何を した らどの様 な 罰をどの くらい与えるのか も明示 してあり、実際廊下の一角にはTime Out Roomが 反省 をす るために一人で過 ごす場所 として設 けられていた。これなどは、個人の意志を尊重す る代 わ り に個人の責任 もきちんと負わるせ る契約社会のアメ リカの姿を端的に表わ していると感 じた。
また施設の中だけで活動す るのではなく、日常的に町に出かけて買物 したり、一般の人 々 と 一緒に乗馬を習 った りなど、ノーマライゼーションの原則が生かされているのが印象的であ っ
た。
4‑3. Cha‖enge lndustrios
日本では授産施設にあたるこの施設 はイサカの中心部にあった。この施設には前述の通所施 設か ら通 っている人 もいるということで見学 させていただいた。説明 して下 さったTimothy・
Batty氏 によると、ここは職業訓練を中心 とした施設で、17才か ら76才までのハ ンデ ィを持つ 人々が通 ってきている。作業内容 としては、
①部品の分類
②箱詰め
③袋詰め
④宛名貼
等が主であるが、
⑤ コンピューターを使 った作業 (帳簿つけ等)
⑥本のマイクロフィルム化
弓 野 憲 ―・ 弓野ス ミ子
等の仕事 も行われている。報酬 は仕事によって1時間25セ ントか ら6ドルの人まで様々である。
また施設の中での活動だけでな く、COmunity site iObと いつて下記 ののよ うな地域社会で の作業 も頻繁に行われている。
⑦ ファース トフー ドの店員
③大学の飼育動物の世話
⑨大学の植物の手入れ
⑩病院の手伝い
この施設 においては、常時40人ほど施設外で働いている。一方ハ ンディを持つ人の実態によっ ては 、日常生活のための訓練を行 うこともある。見学 させていただいた時に も机 の上 にはい ろいろな部品や書類が山積みされていたが、よくみると、
⑩大学の電話ケーブルの組立、
⑪大学の新聞の発送、
⑫大学の新入生への説明書の袋詰め
⑬大学図書のマイクロフィルム
等であった。地域の施設であるということで大学か ら仕事の注文を優先的にまわ して もらえ るそうで、地域に根付 いた施設であるとともに地域に支え られた施設なのだと納得 した。
短 い時間ではあったが、機関や施設で話を聞 き参観す ることができた。それぞれ性格 の違 う 面 もあったが、共通 していたのは、
一人ひとりの違いを認め合い
自己決定の機会を与えて
可能性を追 い求めようとす る姿勢 だ ったように思われる。
4‐
4.イサカ市 の障害者教育・ 援助 に対する考察日本 の教育 において は、教育 目標・ 目的 と教育実践 の間 に大 きなズ レが見 られ ることが しば しばあ る。目標 は「 目標」、実践 は「 実践」 と分 け られてお り、崇高 な 目標 0目 的 の割 に は、
低 レベルの実践 しか行われていない こともよ く経験す る。目標・ 目的 はあ くまで も「 理想」 で あ り「努力 目標」である場合が多 い。 これに対 して、プ ラグマティズムの国 アメ リカや カナ ダ で は、明文化 した教育 目標・ 目的 は「理想」や「努力 目標」ではな く、確実 にそれを達成 す る ための方略 0カ リキ ュラムo人材・ 財政が伴 っている。そ して、一人 ひとりの障害者 に対 して、
最適 の学習 カ リキュラムを作 り、年度毎 にそのカ リキュラムの効果0有効性 を教 師のみな らず 専門家 も交 えて、評価す る。アメ リカやカナダではごく普通 の教育形態であるが、 日本 で は こ れを実践す ることがむずか しい。
一つ には、専門家の不足 であ る。学校 に も教育委員会 にも、アメ リカ0カ ナダにい るよ うな 専 門家 は存在 しない。次 に問題 となるのは、学校 0施設 の経営 に関す る専門家 の不在 であ る。
日本 の場合、教師を務 めた人が、学校長・ 施設長・ 教育委員会・ 指導主事 にな るので、 プ ロと してそれ らを運営す るにはやや力不足 にな らざるを得 ない。さ らに地域社会の障害者教育 0援 助 への無関心 さ もあげ られ る。教育 は「 お上」が行 うとい う伝統のある日本 では、地域社会 と 障害者 のかかわ りは薄 い。上述 の Challenge lndustriesを 例 にとると、 この施設 の維 持 と教 育 のために、数百の会社 と個人が定期的に寄付 を行 っている。また障害児 の職業教育 を確 か な
ものにす るために、郵便局 や体育館 といった公的施設か ら始 ま り、多数 の会社・ 商店・ 事業所
これか らの障害児教育・ 援助に関する一考察
等 がかれ らを受 け入 れて いる。さ らに、各種 の基金 や奨学金 も民間か ら出 されて いる。加 えて ボ ランテ ィアによる人的援助 も豊富 になされて いる。国の文化 や伝統 の違 いとは言え、 日本 に 比 べ るとアメ リカ・ カナダの障害者 は、ハ ンデ ィキ ャップは負 いつつ も、一人一人 の違 いを認 め合 い自己決定 の機会を得て、自己の夢や可能性 にチ ャレンジす る機会が確実 に保障 されて い るよ うに思 えた。
5.これか らの障害児教育0援助の方向
は じめにの項 で述べたよ うに、日本 の障害児教育 は統合教育、さらに進 んで普通学校 へ の障 害児 の通学 とい う方 向にい くもの と思 え る。障害児が特殊学校 か ら離れて普通学校 で学ぶ時 、 特殊学校 で受 けていた学校内での特殊教育0訓練、地域での生活0職業訓練の質を落 とさずに、
アメ リカやカナダで実施 されている質 の高 い障害児教育 を実現す るためには、組織、カ リキ ュ ラム、援助態勢 も含 めて大改革 が必要 になろ う。
どのよ うな組織を作 りあげれば、普通学校 で健常児 も生 き、障害児 も生 きることにな るで あ ろ うか。現在 で も一部 の障害児 は、普通学級 で学んでいる。 しか し、専門家 による支援 や ボ ラ ンテ ィアに学習介助・ 援助の期待で きない現在の普通学級では、その子 どもが配属 された ク ラ スの子 ど もと教 師 と親 が障害児の発達 0学習 に対 して全責任 を負 っている。確か に、軽度 の障 害児 であ る場合、その子 を中心 にクラスが運営 され、健常児 だ けの普通学級 で は育 ち難 い、
「 弱者 を思 いや る心」が育 ったとの報告 もたびたび見聞 きす る。学級担任 が特別活動・ 授 業 に 対 して力量 を持 ち、また学級経営 に も秀 でた才能 と情熱を持 っている場合 には、 このよ うな こ とが起 きるであろう。 しか し、自閉的傾向を持 ち、ほんの僅かな生活学習環境 の変化 に対 して、
パ ニ ックに陥 るような子 どものよ うな場合、明 らかに普通学級 の教師・ 子 どものみで は対応 じ きれないであろ う。 このよ うな ことを考 え ると、特殊学校が発展的に解消 し、障害児 が地 域 の 普通学校 に通学す るに際 して は、それ相 当の組織 を作 る必要がある。 これに関 して一つ の アイ
デアを示 そ う。
まず養護学校 を発展的 に解消 して、よ り専門的で高度 な教育技術 0技能0経験 を もった教諭 集 団を「 障害児教育 セ ンター」に集 め る。次 に地域 の普通学校 に障害児 のための「障害児学級」
を設 ける。そ して この学級 を養護教育 の免許 を持つ教諭が担 当す る。 ここでの教諭 の役割 は、
単 にその学級 の担任 であ り、通常 の特殊教育 を実施す るに留 ま らずに、カナダの学校で挙 げた、
コーデ ィネーターの役割 も果 たさなければな らない。まず、普通学級 で学ぶ障害児 の学 習 に関 して、普通学級 の担任 と しば しば打 ち合わせが必要 になろ う。次 に、よ り特殊化 され た障害児 のための教育 が必要 とな った時には、障害児教育 セ ンターに属す る教諭 の援助を受 けるための 連絡 もあろ う。さ らに、地域 に根 ざ した生活0職業教育 を充実 させ るために、地域 の工 場・ 商 店・ 事業所 0農場や各種 の施設 との打 ち合わせ も必要 になろ う。
学校時代 か らの地域 とのふれ合 いや交流 の充実 は、イサカで見 たよ うに、障害者 の人生 に大 きな資産 となるであろう。とい うのは、多 くの人が障害者 がその地域 にいることを知 る事 にな り、就労 に際 して も何 か とバ ックア ップが期待出来 るか らであ る。現在の特殊学校 のよ うに、
地域 と離 れた ところで教育を受 けている限 り、保護者 の個人的 な努力 がなければ、障害児 は学 校卒業後 に地域 の中で生 きることなかなか難 しいのであ る。
障害児 は、障害児学級 に在籍す るとともに、一つの普通学級 に も在籍す る。そ して その子 ど もの教育 目標・ 目的 に合 わせて二つの学級 を行 き来す る。現在普通学校 に設 け られて いる特殊
弓 野 憲 ― 。弓野スミ子
学級 とは少 し異なり、生徒の障害の程度・ 特性に合わせて、個人毎の教育 目標・ 目的を持 ち、
二つの学級でフレキシブルに学習を続けていく事にになる。
このような場合に参考 になるのが、カナダで見 られた、カ リキュラムにおける「 コア」 と
「 オプション」の考え方である。エ ドモントンの小 0中 学校において、普通児 もこの方式にのっ とり、市民 として、国民 として欠かす ことの出来ない学科・ 内容のコアの学習 とともに、その 人の個性・ 適性をより伸ばす方向に、障害児にあっては障害の程度0特質に応 じて、オプ シ ョ ンの学習を進めていた。日本の学校のカ リキュラムにこの「 コア」、「 オプション」 の考 え方 を 持 ち込 めば、障害児のみな らず健常児において も、より個性を伸ばす方向での教育が期待出来
るであろう。
6.参考文献
Challenge Industries, Inc. L994 Challenge and You: Partners In Independence.
Lg94 Annual Report. Development and Community Relations Department.
Ithaca:New York.
Edmonton Public Schools 1995
School 1995-96.
Edmonton Public Schools 1995
Edmonton Public Sehools Planning for Junior High
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