ドイツにおける生命保険契約の透明化の 動向について
⎜ 連邦憲法裁判所及び連邦通常裁判所判決の影響を中心として ⎜
金 岡 京 子
■アブストラクト
2008年1月1日施行を目指し大改正作業中のドイツ保険契約法は,連邦憲 法裁判所判決及び連邦通常裁判所判決と双方向から影響を及ぼし合う形で,
生命保険の現代化としての透明性強化を目指している。本稿では,その社会 的背景と判決内容の分析を通して,日本法にとって重要な課題を示唆する。
■キーワード
生命保険の現代化,既契約約款の変更,基本権保護義務
一 はじめに
現在日本においては,保険法の現代化に向けた法改正の検討が始まってお り,この間に公表された保険法の現代化に向けた立法目的,検討課題等をみ ると,自由な事業展開と消費者保護の実現を保障する私法ルールの制定が強 く要請される現代の社会状況の中 で,いかにして公正・公平かつ透明な契 約法上の規律を定めていくかということが大きな課題になっている 。生命
*平成18年9月26日の日本保険学会関東部会(生命保険協会)報告による。
/平成18年10月31日原稿受領。
1) 山下友信 法の大変動と保険法の課題 アクチュアリージャーナル2006年5 月4頁参照。
2) 江原健志 保険法の現代化に向けて
NBLNo
824,46頁参照。保険契約に関しては, 今後の高齢化社会における役割の重要性をかんがみ,
多様なニーズにこたえることができるように規律を見直すこと ,ならびに 保険契約の成立,変動及び終了に関する規律について,保険契約者の保護,
保険の健全性の維持,高度情報化社会への対応等に配慮し,その内容を見直 すこと が,検討課題とされている。
ドイツにおいても,2000年6月7日から開始された保険契約法改正作業は,
2004年4月19日の改正委員会最終報告 を経て,2006年3月13日には立法担 当者草案 が作成され,直近の2006年10月11日には,閣議決定された政府草 案 が公表され,国会審議の段階に入っている。生命保険の現代化という観 点から政府草案の改正目的をみると,ドイツでは,生命保険の透明性を高め ることが,保険契約者の地位の明確な改善につながるという考え方が基礎に ある ことが明らかである。
そこで本稿においては,生命保険の現代化へ向けたドイツ保険契約法改正 の背景および双方向で影響を及ぼし合った裁判例の分析を通して,ドイツに おける生命保険契約の透明化が,日本の保険契約法の現代化 に向けた立法 の参考になると思われる観点を探求していくこととする。
具体的には第一に,生命保険の透明性が求められた社会的背景を明らかす ることによって,ドイツにおけるこの問題の重要性を確認するとともに,ど
3) 法制審議会第150回会議 諮問第78号 (平成18年9月6日)
4)
VersR-Schriftenreihe
25“Abschlussbericht der Kommission zur Reform des Versicherungsvertragsrechts vom
19. April
2004”VVW,邦
訳は,新井修司,金岡京子 ドイツ保険契約法改正専門家委員会最終報告書(2004)訳 日本損害保険協会,生命保険協会。
5)
Referentenentwurf des Bundesministerium der Justiz.
6)
Gesetzentwurf der Bundesregierung,
11.
10.
2006, BMJ.
7)
BM J, ʻ Neues Versicherungsvertragsrecht:M ehr Verbraucherschutz fur Versicherteʼ , Pressemitteilungen,
11.
10.
2006,Ⅲの生命保険の現代化を 参照。8) 日本の保険現代化に関して検討課題に関しては,山下友信 保険契約法現代 化に向けた課題上・下 金融財政事情2006.4.17,32頁,2006.4.24,38頁。
のような法的救済手段が考察されてきたか検討していくことになる。
第二に,生命保険契約の透明性を高めることが,透明性原則違反を理由と する保険約款の無効判決,およびその後の保険契約法172条2項による約款 改正によっても実現することができないとされた根拠を探求することになる。
さらにこの検討においては,連邦憲法裁判所判決が,2007年12月31日までと いう期限をつけて,生命保険契約の透明化を保障する立法を強く求めた 理 由,及び連邦通常裁判所が,保険契約法改正草案の内容から影響を受けた判 決を下した意味について検討していくことになる。
二 社会的背景
1.消費者団体による養老保険批判と保険業界の対応
ドイツの生命保険の主力商品である養老保険は,従来から相当な批判を受 けてきた。新契約費が高く,かつその費用が契約締結から1年ないし2年程 度の早い時期に保険料から控除されるため,この時期に解約した保険契約者 は,多大な経済的損失を受けるという点が批判の的になっている。特に失業 者が増加しているドイツでは,最近の労働市場改革に関する一連の法の適用 により,社会保障給付を受けるために,生命保険契約を解約することを余儀 なくされるため ,この批判は,一層大きな社会問題と化しているといわれ ている。2003年度には,5万件以上の生命保険契約が,雇用エージェンシー の指示に基づき解約されている 。さらに平均保険期間が26年の養老保険の
9) レーマーによれば,委員会草案公表後,保険契約法改正を求める連邦通常裁 判所判決が下されたことによって,他の保険分野に比べて,生命保険分野の改 正は重点を置かれることになったという。Romer, ʻ
Zu ausgewahlten Prob- lemen der VVG-Reform nach dem Referentenentwurf vom
13. M arz
2006(TeilⅡ) ʼ , VersR2006 , S.
867.
10) 根本到 ドイツにおける労働市場改革 労働政策研究報告書No.69,37頁 によれば,3ヶ月前から始めた生命保険等を解約させることは過酷事例として 考慮される余地もあるが,社会保障給付が貸付になるという。
11) このような背景事情に関しては,Bauerle, “Rechtsgutachten zu den eur-
oparechtlichen Fragen einer gesetzlichen Festschreibung des Ruckkauf-
約半数が,満期前に解約されているという事実も,解約返戻金に関する規律 を考える際に考慮すべき重要な事情であるといわれている 。つまりこのよ うな多くの保険契約者にもたらす経済的不利益は,現行保険契約法165条1 項が保障する保険契約者の解約権の行使を実質上阻害しており,何らかの法 的保護の必要があるとされてきた 。
また,安全割増が織り込まれた保険料によってもたらされる剰余金の配当 が適切に行われているかどうか不明確であるため,剰余金に関する正確な情 報提供と保有資産の含み益の配当を求める消費者保護団体の要求が強まって いる 。このように剰余金配当が不透明な結果,契約締結時も,契約継続中 も,他の資産運用商品ではなく,養老保険を選択することが,老後保障に備 えたい保険契約者の利益に適っているか否かを判断することができないとい う点が,この要求の根底にあると考えられる。
消費者団体によれば,このように問題のある養老保険が,ドイツで主力商 品になっているのは,商品そのものの品質がよいからではなく,所得税法上 の優遇措置と保険募集人に支払われる高額の募集手数料によるものであると いう。つまり,保険募集人が,保険契約者にとって不利益な部分を隠蔽して まで,手数料が多く期待できる養老保険の募集を積極的に展開してきたため,
養老保険が主力商品の地位を得ているというのである 。
これに対しすでに80年代から,連邦保険監督庁は,契約締結後早い時期に 解約した場合に保険料がまったく戻ってこないか,極めて僅かしか戻ってこ
swerts der kapitalbildenden Lebensversicherung erstattet im Auftrag des Bundes der Versicherten e.V”, April
2005, S.
4参照。12) この点に関しては後述する連邦憲法裁判所2005年2月15日判決,VersR2006,
S.
492の理由(47)で明確に述べられている。13) たとえば,政府草案
Regierungsentwurf, S127参照。
14)
Braun,in Basedow
=Meyer=Ruckle=Schwintowski, “Beitrage zur14. Wissenshaftstagung des Bund der Versicherten”, S.
95.
15)
Verbraucherzentrale Bundesverband
,ʻStellungsnahme zur dem Refer-
entenentwurf des Bundesministeriums der Justiz vom
13. Marz
2006zur
Reform des VersicherungsvertragsrechtsʼS.
25.
ないのは不当であると考え,保険業界との長期間の折衝を経て,養老保険約 款の内容を改正させた。改正認可約款は,早期に解約した場合であっても,
払込保険料の50%以上が戻ってくるという内容であったが,1994年7月の規 制緩和後約款認可は廃止され,保険契約法176条が適用されることになった。
同条3項によれば,解約返戻金は継続していた保険契約の終了のために保険 数学の承認された算式に基づき,その保険の時価額として算出された金額で あるとされた。そのため規制緩和後,多くの保険会社がほぼ同じ内容で規定 している養老保険の解約返戻金に関する条項は,保険契約法176条の法規の 内容を再現する宣言的条項の形をとることになった。その結果,再び早期解 約時に保険契約者に深刻な経済的不利益をもたらす状況になった 。
他方養老保険の剰余金配当に関しては,保険契約法上の規律はなく,約款 に従って配当が行われている。規制緩和前は,保険会社が保険監督庁の認可 を得た業務計画書に従って剰余金配当を行うことが規定され,規制緩和後は,
生命保険の責任準備金に関する命令,及び商法の計算規定に従い,剰余金の 確定と配当が行われることを定めた約款が使用されている。剰余金配当の適 切性に関しては,保険監督法81c条による不適切な状態の除去に関する規定 と保険監督法第56a条の損失補てん計算に関する規定があるだけである。
2.憲法訴願という最終手段の行使
消費者保護団体は,養老保険の解約返戻金と剰余金配当に関して,保険者 の一方的裁量権が支配的な状況に対し,二つの方向から保険契約者保護の行 動をとった。第一の方向は,個人訴訟の支援だけでなく,団体訴訟も活用し て,保険会社が使用する普通保険約款の不当性を確認するとともに,保険契 約者保護に配慮した普通保険約款の内容変更手続への消費者保護団体の関与 を求めることであった。第二の方向は,養老保険の販売停止を実現するため に,保険契約法における生命保険の定義そのものの改正,及び保険料の分解 表示義務を求めることによって,保険契約者保護を高める透明かつ競争促進
16) 以上の点に関しては,Bauerle, a.a.O, S.16参照。
的な新しい生命保険の形態を実現することであった。そしてこのような消費 者保護団体の行動によって,ドイツにおける生命保険契約の透明化,ひいて いは生命保険契約の現代化に関する問題が論ぜられる場合は,生命保険契約 のあり方についてあらためて見直す意味で,現在販売されている形態の養老 保険の剰余金配当と解約返戻金に関して,適切な契約者保護がどのような形 で実現できるかという点に大きな焦点が当てられることになった。
具体的に第一の方向においては,剰余金配当に関しては,民法典315条3 項による普通保険約款の無効確認及び判決による適切な内容確定を求める個 人訴訟,ならびに旧約款規制法9条1項(現行民法典307条1項)の透明性 原則違反による普通保険約款の無効を求める団体訴訟が提起され,解約返戻 金に関しては,同様に旧約款規制法9条1項の透明性原則違反による普通保 険約款の無効を求める団体訴訟が提起された 。
これらの訴訟の根底にあった法的根拠は,契約の等価性破壊,及び契約の 相手方にとって経済的不利益となる内容が隠蔽されることによる決定自由の 侵害と自由な競争の機能不全であった。つまり民法典315条3項によれば,
両当事者の利益を適切に考慮していない給付内容が一方的に定められている 場合は,契約の本質的要素に関して両当事者による十分な意思形成がないた め,その契約内容は必然的に無効であり,判決によって適切な給付内容を決 定すべきであると考えられた。
他方,民法典307条1項に定められた透明性原則によれば,約款が不透明 に規定されることによって,契約の相手方の経済的不利益が隠蔽される場合 は,約款使用者の契約の相手方の契約の締結及び内容確定に関する自由が奪 われ,また市場における健全な競争が阻害されるため,その約款は不当に不 利益な内容であり,無効となると考えられた 。
剰余金配当に関する約款は,連邦通常裁判所判決により,民法典315条に
17) 拙稿 ドイツにおける生命保険約款の内容規制 早稲田法学会誌52巻93頁。
18) 日本法との関連では,小林道生 保険約款における給付記述条項の内容規 制 損保研究67巻2号85頁参照。
よる内容変更を求める個人訴訟においても,また旧約款規制法9条1項によ る無効を求める団体訴訟においても,原告側の請求は棄却された。そのため,
消費者団体の支援を受けた個人は,基本法2条1項及び14条1項によって保 護されるべき基本権侵害を理由に憲法訴願 を行った。憲法訴願が,保険契 約者保護のための,いわば最終手段として行使されたわけである。
解約返戻金に関する約款については,剰余金配当条項の場合と事情が異な り,連邦通常裁判所2001年5月9日判決において,透明性原則違反を理由に 無効とされたため,保険会社に対する要求は,無効とされた普通保険約款の 内容変更手続の適法性,及び変更された内容の適切性に関するものに変化し た。具体的には,養老保険は,保険契約法172条2項による約款変更の適用 対象とならないこと,したがって,民法典306条2項に従い,裁判官の補充 的契約解釈によって定められるべきであること,無効とされた約款と同じ内 容の約款を使用し続けることは不当であることの確認を求めて,再び個人訴 訟を支援する形で民事訴訟を提起すると共に,基本法2条1項及び14条1項 の基本権侵害を理由とする憲法訴願も行われた。
消費者団体の支援を受けた訴願提起人が憲法訴願で期待した要求は,次の 点にあった と解されている。つまり,保険会社は剰余金配当に関しては,
保険契約者の受託者であると考えること等,保険会社に会計上の操作の可能 性を与えないことが期待された。したがって生命保険契約の透明化につなが る憲法訴願においては,基本権保護の観点からどの程度まで,このような消 費者保護団体に支えられた訴願提起人側の期待に応じることが可能であるか が問題となった。
3.100年ぶりの保険契約法改正作業の影響
ドイツでは,100年ぶりの保険契約法改正の動向が,学会,実務界,消費
19) 経緯および内容に関しては,江澤雅彦 契約者配当の透明性について 早稲 田商学307号484頁以下で詳細に論じられている。
20)
Heiss, in “
30. M anheimer Versicherungswissenschaftliche Jahres-
tagung”, S.
14.
者保護運動に多大な影響を及ぼしている。
2000年6月7日に連邦司法省によって設置された保険契約法改正委員会は,
養老保険に対する社会的批判を背景に展開された消費者保護の強化を求める 理論,及びこの間明らかにされた連邦通常裁判所判決の考え方を踏まえ,生 命保険契約の透明化のために求められる立法上の手当てを検討してきた。保 険契約法改正委員会は,保険法学者,実務法曹,行政担当者だけでなく,保 険業界と消費者団体の代表者も参加することにより,多様な立場の専門家の 意見,判例の展開,保険契約者保護の必要性,業務の健全な維持のための実 務上の要請等を集約することができ,4年弱の長期間にわたり検討を重ねた 結果,最終報告書をまとめている。そのため,2004年4月19日に公表された 保険契約法改正に関する提案は,連邦憲法裁判所および連邦通常裁判所の判 断に相当な影響を及ぼしていると考えられる。つまり,連邦憲法裁判所は,
個々の保険契約者の決定自由と財産権を保護するための立法措置について具 体例を挙げて求めるという,これまでの憲法裁判所判決では見られなかった ような領域まで踏み込んだ基本権保護義務を明らかにしており ,また,連 邦通常裁判所は,判決理由の中で明確に,解約返戻金の最低保障に関する保 険契約法改正委員会の提案を裁判官の補充的契約解釈に取り込むことが妥当 であると説示している。連邦通常裁判所のこのような判断も,これまでの保 険約款の透明性原則違反判決では見られなかったものである。長年争われて きた,解約返戻金に関する普通保険約款の条項の不当性に関して,まるで終 止符を打つかのように,保険契約法改正委員会の提案した改正草案の内容に 正当性根拠を見出していることは明らかである。
また消費者保護団体が精力的に立法化を求めた第二の方向から保険契約法 改正委員会提案をみると,消費者保護団体が長年求めてきた養老保険の販売 停止を視野に入れた生命保険の定義の変更要望は,1997年に社会民主党議員
21)
Schencke, ʻ Die Anforderung des BverfG an die Berucksichtigung von
Bewertungsreserven bei Ermittlung der Uberschussbeteiligung bei
kapitalbildenden Lebensversicherungʼ , VersR2006 , S.
725.
団の草案で提案されたことが言及されているものの,改正草案の中では反映 されていない。その主な理由としては,保険契約者の商品選択の自由と同様 に,保険者の事業展開と商品開発の自由も保障されなければならないこと,
及び消費者保護の観点から保険契約者のために定められた規定が,保険契約 者に決定的な利益をもたらすことなく,最終的には保険料引き上げにつなが ってしまう可能性もあることがあげられている 。
確かに生命保険の保険料を危険保険料,貯蓄保険料,付加保険料の三つに 分解表示した上で,保険者は,危険保険料による危険引受業務と個々の保険 契約者に帰属する貯蓄保険料による資産運用業務を行う保険信託上の受託者 として位置づけられ,付加保険料は保険信託の事務処理を行う保険者のサー ビス給付の対価として支払われるとする生命保険形態のみを認める考え方 は,広範に普及している養老保険の事業展開を制限する一方で,保険契約者 の選択自由の実質的保障を効果的に実現する根拠としては不十分であると考 えられる。分解された保険料額を提示されたとしても,早期死亡保障と老後 保障のために,養老保険を選択すべきであるか,あるいは早期死亡リスクは 定期保険でカバーし,老後保障のためには,他の資産運用手段を選択すべき であるかということに関する決定的判断基準にはなり得ないのが実情である。
むしろ保険契約者の商品選択にとって必要な情報は,払い込むべき保険料額 とその対価として期待することのできる保険給付全体について,客観的に見 通すことのできる情報である。この情報提供は,剰余金配当に関するモデル 計算書と年次報告書の交付を通して,生命保険契約に関する透明性を高める ことによって実現可能である 。
このようにして養老保険に内在する問題に関しては,剰余金配当と解約返 戻金に関する適切な規律の制定,保険者及び保険仲介人による助言の改善,
22)
Abschulussbericht, S.
93.
23) この考え方については,清水耕一 ドイツ法における配当付き養老保険契約 の信認関係の射程 生命保険論集152号181頁で紹介されている。
24) 保険信託モデルの側からの批判としては,Braun, a.a.O, S96
.
並びに保険契約者の決断のための根拠となり得る情報の透明化を図ることに よって,保険契約法上の解決を図る方向が打ち出されることになった 。し たがって,消費者保護の立場から求められた保険信託モデル提案理由の基礎 となっていた,保険料による運用資産の信託者として保険契約者が,受託者 である保険者の業務方針に関与する権利があり,また受託者としての保険者 は保険契約者の運用資産を最適な状態に維持する義務があるという考え方は,
大きな後退を余儀なくされたといえる。次に検討する連邦憲法裁判所判決に おいても, 保険者が企業判断の枠組みの中で形成した財産価値 等の文言 でこの考え方を退けており,結果的に伝統的な形態の養老保険の提供が連邦 憲法裁判所判決によって認められたことは,ドイツの保険契約法体系にとっ て重要な意味があると解されている 。その背景には,保険契約法改正委員 会提案の検証があったものと推測される。いずれにしても,消費者保護の立 場から提案された生命保険形態の抜本的変更としての保険信託モデルを支持 しない連邦憲法裁判所の立場は,多様な商品による競争促進という観点から も,EU内に無用な障壁を築くことを回避した点で評価されている。
以上見てきたとおり,100年ぶりの大改正作業の経過は,約款の内容規制 に関する判例に大きな影響を及ぼす一方で,連邦憲法裁判所と連邦通常裁判 所により保険契約法改正の方向性確認が行われるという極めて異例な展開を 示したことが明らかになった。しかし,憲法裁判所の役割は方向性確認だけ にとどまらず,保険契約者の基本権保護のためにさらに必要とされる立法措 置を具体的に示すことによって,逆に保険契約法改正の内容に多大な影響を 及ぼすことになった。この点は,政府草案の理由書の中で明確に示されてお り,憲法裁判所が求める方向での修正作業が実際に行われている。
25)
Regierungsentwurf, S.
128,
参照。26)
Heiss, a.a.O.S.
20, Romer, a.a.O, S.
867.
三 判例による生命保険契約の透明化要請
1.連邦憲法裁判所2005年7月26日判決
(事案の概要)訴願提起人は,憲法訴願後死亡した原告の相続人である。原 告は,1964年に保険相互会社であった被告と生命保険契約を締結した。保険 金額は5万マルクであった。年間保険料は1250マルクで,満期は2009年であ った。この保険では,合意された満期を早めるために継続的利益配当を使用 する,いわゆる調整保険が問題となっていた。これに基づき,この保険は 1989年3月に満期になり,原告は58,350マルクの支払を受けた。連邦保険監 督庁の検査によれば,剰余金の配当は,被告の業務計画書及び年次報告書の 中で公表されている利益配当率に従い,正確に計算されていたことが確認さ れている。原告は,被告の定款および被告の宣伝文書に照らしても,原告に 割り当てられた利益配当が少なすぎると主張した。つまり,剰余金配当は,
被告の資産の含み益からも配当されなければならず,この範囲で原告は被告 に対し,実際に支払われた以上の支払請求権があると主張した。さらに原告 は,被告が原告に対し,蓄積された含み益を含めて剰余金と収益に関する情 報を提供する義務を負い,この義務はとりわけ,相互会社における原告の社 員資格から明らかであると主張した。
訴願提起人は,原告の請求を棄却した民事裁判所の判決は,次の点を根拠 に,基本法2条1項,14条1項を誤認していると非難した。つまり,保険契 約者の剰余金配当請求権は,これほど広範に保険者の任意の処分に委ねられ るべきものではなく,かつ,保険契約者が自己の権利を主張する可能性はこ の権利を有効に認識することができなくなるような形で憲法に反して制限さ
27) 1
BvR80/95 , VersR2005 , S.
1127.
本判決以外に,他の二つの憲法訴願にお いて,子会社への既契約移転並びに保険相互会社から別の会社への既契約移転 の際に,保険契約者の利益が十分保護されていない点が問題とされたが,Regierungsentwurf, S.
134でも述べられているように,これらの判決は一義的 には保険監督法に関係しているため,本稿との関連では,消滅時配当が問題と なった本件のみを取り上げることとした。れてはならないこと,保険関係において弱い立場の契約の相手方の保護は広 範に後回しにされてきたため,私法上の手段も公法上の手段も機能していな いこと,連邦通常裁判所の解釈適用において,養老保険の被保険者と保険者 との利害対立を克服していないこと,保険契約者は保険会社の決定に何ら影 響を及ぼすことができないため,剰余金配当請求に関する有効な法的保障が 必要であることが主張された。そして適切な解決策は,保険料によって形成 された資産価額を適切に考慮することを保障する権利を与える民事法上の請 求権を保険契約者に認めることであるという。
憲法訴願に関し,被告である保険会社,監督官庁,被保険者同盟,ドイツ 保険協会が陳述している。また,ドイツアクチュアリー会,複数の専門家,
保険オンブスマンのレーマーが意見を述べている。
(判旨)憲法訴願は,一部理由がある。
基本法2条1項並びに14条1項に定められた客観的な法による保護の委託 は,立法者に対し,剰余金配当付の養老保険の保険契約者が,消滅時配当の 確定の際に,払い込まれた保険料によって形成された資産価額を適切に配当 されるための保護措置を講ずることを義務づけている。立法者はこの義務を 十分果たしていない。
規範の確定性と明瞭性の要求は,含み益が粗剰余金計算の際に考慮される か否か,また損失補てん計算が消滅時配当を少なくすることが許されるか否 か,さらには考慮され許されるとすればどの範囲までであるかについて基準 制定を求めている。保険契約者は,現行法の基準によれば,自分自身の行為 を通して,またその点に関する裁判上の法的保護を通して,自己の利益を効 果的に追及する可能性を十分有していない。利益調整を行う保険監督法の予 防措置は,法律上の保護の委託を履行するには十分ではない。
基本権保護の実現のために必要とされる基準が法秩序の中に存在しない場 合は,基本権から発生する保護要件が満たされていない。たとえば保険契約 法を鑑みれば,そのような状態にある。いずれにしても連邦通常裁判所の解 釈では剰余金の形成と剰余金配当の問題において保険契約法は自制しており,
この点に関して公法の適用があるとしている。連邦通常裁判所が確定したよ うに,本件で基準となる剰余金の概念は,約款には定義されていない。約款 は,保険者の営業秘密の保持を要するため,一般的には保険契約者がアクセ スすることができず,かつ民事訴訟において検討することのできない新たな 規定,つまり業務計画書を参照指示している。
民事裁判所がその規制の可能性を参照指示している保険監督法も,基本法 2条1項および14条1項による客観的な保護の要請に応えていない。…契約 上の地位を保護するために活動する民事裁判所は,保険監督が不適切な状況 を排除することを指摘し,かつそのことに信頼を置く一方で,この点に関し て,保険契約法的観点から保険契約者の利益を十分考慮するための独自の検 討を行っていない。他方,保険監督は保険契約者の利益の保護に積極的に目 を向けているわけではない。…個々の被保険者の利益を考慮して審査するた めの可能性は法的に保障されていない。被保険者全体の利益と保険業の機能 全体に関連づけられた観点からは,当然含み益はできる限り将来に備えて保 持することが想定されている。しかしこの考えは,個々の被保険者の利益に 矛盾する可能性がある。保険監督法の基礎とする基準は,このような様々な 利益衡量について定めていない。もっとも立法者は,もっぱら個々の被保険 者の利益のためや,保険関係から離脱した人の利益のために支払われる給付 を最大化する方向にもっていくことは許されない。このようなことは,保険 法にとって典型的な危険共同体の基本思想に反しており,それゆえに期間の 経過や,保険種類に関係なく,様々な利害関係者の利益を常に等しく考量す ることに矛盾する。
基本法2条1項ならびに14条1項に定められた保護義務をこれまでは実現 してこなかった立法者は,立法者に認められている立法裁量の枠組みの中で,
保護の欠如を除去するための解決策を用意しなければならない。その場合,
立法者は,これまでの保険監督法と保険契約法に定められた制度に限定され ていない。立法者には様々な手段が開かれている。特にヨーロッパ連合の指 針と内外の保険会社間の競争激化によって呼び起こされた,法的展開におい
ても事実上の展開においてもドイツ法を調整しようとする機運を考慮するな らば,立法者は,様々な被保険者と保険者の法的地位に関する将来の位置づ けを既存の法的枠組みの中で行うのか,それとも生命保険法並びに生命保険 法に関連する会社法および会計法を今後改正する過程で行うのかについて,
特に明らかにしなければならない。
この検討においては,利源の推移と剰余金の支払に関する透明性を一層高 めるための保護の可能性,及び当該被保険者の保護のための新たな憲法に基 づく手段と同様に,利害関係者にとって情報アクセスが一層容易になるため の可能性が考慮され得る。たとえば,契約締結費用,管理費用,ならびに損 失補てん計算の可能性やその他の保険契約の特別な清算条件に関する補足情 報を提供することによって,競争機能も改善され得る。
立法者は,2007年12月31日までに,基本法第2条第1項並びに14条1項の 要件に適った規定を定めなければならない。
2.連邦通常裁判所2005年10月12日判決
(事案の概要)消費者団体である被保険者同盟の支援を受けた原告は,生命 保険会社である被告に対し,契約締結費用を差し引いておらず,解約控除が 行われない場合の解約返戻金額に関する情報提供,並びにこの情報により明 らかにされた金額の支払を求めて訴訟を提起した。
連邦通常裁判所は2001年5月9日判決 により,他の生命保険者の条項と 同様に,旧約款規制法9条の透明性原則違反を理由として,被告のこれらの 約款条項を無効とした。原告との契約の基礎となっていた,契約締結費用の 徴収ならびに控除に関する,被告の約款15条は,団体訴訟において既判力の
28)
BGH, Urteil von
12.
10.
2005, VersR2005 , S.
1565.
なお解約 返 戻 金 請 求 権 に関しては,その後の憲法訴願において,剰余金配当請求権と同様,基本法2 条1項及び14条1項による保険契約者の基本権保護のための立法上の措置が欠 けていることの確認がなされたが,本判決によって,民事上の解決策が連邦通 常裁判所によって具体的に示されたため,憲法訴願を認容する実際上の意味は ないとされた。BverfG, Beschluss von15.
2.
2006, VersR2006 , S.
489, S.
494.
29)BGH, Urteil von
9.
5.
2001, VersR2001 , S.
839.
あるシュトゥットガルト上級地方裁判所判決 ,及び連邦通常裁判所2001年 5月9日判決により,他の保険者の条項と同様に,透明性原則違反を理由に 無効とされた。その結果,被告は,保険契約法172条2項の監査人手続によ り,無効とされた条項の代わりに,内容は同じであるが,被告の主張によれ ば,いまや一層透明に記述された条項を補充した。
原告は,連邦通常裁判所2001年5月9日判決と監督官庁の2001年10月10日 通達に基づく約款の変更に対し,2002年1月30日の書面で異議申立を行った。
原告は,2002年3月1日に本件契約を解約し,解約返戻金の支払を請求した。
原告は,約款の変更は無効であると主張した。原告の主張によれば,保険契 約法172条2項は,同条1項の死亡保険にのみ適用可能であって,積立金の ある生命保険には適用できないので,いずれにしても解約した本件契約には 適用できないという。また,不透明であることを理由に無効とされた約款条 項を,同じ内容の約款で補充することは,決して許されないと主張した。区 裁判所は,2002年11月12日判決により被告は原告に対し,どの範囲の契約締 結費用とどれだけの控除額を本件契約の時価(保険契約法176条3項)に反 映し,またこれらの控除がなければ2002年3月1日時点での支払金額は幾ら になったかについて,裏づけがあり,検証することのできる形式で情報提供 するよう命じた。被告は,強制執行を回避するために,2002年12月23日の書 面により,特に契約締結費用と解約控除額に関する情報提供を行った。原告 は,この情報提供が不十分であると主張し,民事訴訟法888条に基づき,
2003年4月25╱30日の区裁判所の決定を得た。地方裁判所は,2003年6月12 日判決により,被告の控訴を棄却した。被告は上告した。
(判旨)補充的契約解釈による約款内容の変更
…被告の無効とされた条項は,保険契約者に対する被告の給付義務とかか わっており,それゆえにまた,計算規定にも関係している。したがって,保 険契約法172条2項の手続で,発生している契約の欠缺を補充する必要があ
30)
VersR1999 , S.
832.
る。監査人の同意を得て被告が行った,同じ内容の条項による補充は,無効 である。
民法典306条2項,旧約款規制法6条2項によれば,具体的な補充条項の 意味では,法規が優先されるべきである。このような法規がない場合は,無 効とされた条項を補充なしで廃止することが,適切な解決策であるか否かが 問題となる。双方の可能性が遮断される場合は,承認されている補充的契約 解釈の原則に従い,その補充条項が,裁判官による補充的契約解釈の適切な 内容となっているか否かが検討されるべきである。
無効とされた条項と同じ内容の補充をすることは,旧約款規制法9条1項 による無効という法律上の制裁の裏をかいて効果を失わせることであり,補 充的契約解釈の原則に合致し得ない。約款使用者の契約の相手方にとって不 当に不利益であるという理由で無効とされた条項の代わりに,補充的契約解 釈により,同じ内容の条項を補充することは許されない。…その無効が,透 明性原則違反に関する場合であっても,このことは当てはまる。
保険契約者は,透明性欠如によって,契約を締結するときに,契約内容を 十分認識して,とりわけ経済的不利益を十分認識した上で,自己決定権を行 使することを妨げられている。保険契約者は,実際に早期に解約した時に保 険契約から発生する不利益を基礎として,商品選択を行うことがすでに妨げ られている。透明性欠如のこの結果は,無効とされた不透明な条項が,実体 的に同じ内容の透明な条項によって補充されることによって,遡及的に排除 され得る。しかしながら,その条項はもっぱら形式的に不透明であることを 理由に無効とされたが,内容的には適切であるから,内容を変更する必要は ないとするならば,その理解はあまりにも短絡的過ぎる。確かに当裁判所は,
問題となっている,チルメル式により契約締結費用を一度に差し引く計算が,
旧約款規制法9条の意味で,保険契約者を不当に不利益に扱っているとは認 めていないが,当裁判所が強調したことは,この計算方法が,解約時と払済 保険への変更時に,保険契約者に相当程度の不利益をもたらしていることで ある。その契約が,透明性の欠如により,この不利益を覆い隠した状態で成
立したにもかかわらず,同じ内容の条項を補充したときは,この不利益はそ のまま残ることになる。決定自由と選択自由への介入は除去されないままと なり,保険料払済にしたときには,継続してその影響が及ぶことになるであ ろう。この結果,不透明性を理由に無効とされた条項は,保険契約者に覆い 隠された不利益をもったまま最終的に拘束力を有して継続することになる。
このような結果は,旧約款規制法9条に反するものであり,補充的契約解釈 の結果ではあり得ない。
チルメル式による契約締結費用の控除計算は,満期まで保険料を支払って 契約継続する保険契約者に関しては,確かに問題はない。しかしこの条項を 分けることはできないため,この契約補充は全体として無効である。
保険契約者全体の典型的な利益を評価する際には,契約の相当な部分が満 期前に終了することを考慮せざるを得ない。様々な公表数値の印象からする と,約50%の評価率が現実的であると考えられる。このことから明らかなの は,保険契約者の約2人に1人が,チルメル式による契約締結費用の控除計 算により,解約時点に応じて多少の違いはあるが,大きな経済的不利益を受 けていることである。契約締結時には,その契約を早期に解約しない意図が あった時でさえ,約2人に1人の保険契約者は,後に発生した通常は予測で きない様々な理由からこの意図を実現していない。そのため統計的に見れば,
各々の保険契約者が意識していない分裂した利益状態が存在している。図式 的に述べれば,保険契約者の半分ができる限り多くの満期給付を問題とする のに対し,他方の半分は,早期解約時にできる限り多くの給付を得ることを 問題としているのである。後者の利益が考慮されていないことが,保険契約 者には明らかにされていないため,もはや除去することのできない透明性の 欠如が適切に調整されるべきである。
保険料支払を停止したときの最低給付の額については,当裁判所は,保険 契約法改正委員会の提案を受け入れている(1.3.2.1.4,158条,161条の理 由)。当裁判所は最低解約返戻金額の確定に関して他の可能性も考慮し, リ ースター年金 のように契約締結費用を長期間に分割して償却することも考
慮に入れた。しかしながら複数の理由から,改正委員会の提案が優れている と考えた。この提案は,消費者の代表者,保険業界の代表者,学者によって 構成される専門委員会によってまとめられたものであり,最新の認識に基づ いており,かつ大きな困難をもたらさないで履行可能であると考えられるか らである。この提案によれば,保険契約法176条3項1文とは異なり,解約 返戻金は,もはや保険の時価ではなく,保険数学の承認された算式に従い,
保険料算出の計算基礎により,継続している保険料期間の終了に向けて計算 された保険の責任準備金である。保険契約法174条2項によって保険料算出 の計算基礎を基準としている保険料払済保険金額の確定に関しても同様であ るべきである。
3.判例に特徴的な透明化に関する要請
連邦憲法裁判所が,剰余金配当に関してこれほど具体的なレベルまで透明 性に配慮した立法措置を求めた理由としては,現行法の下では,保険契約者 が剰余金確定と配当方法の適切性を客観的に検討できるための情報提供が義 務づけられていないばかりか,実際に保険者に一方的に有利な配当額となっ ている懸念を払拭する手段も与えられていないという事実を重視したからで あると考えられる。さらに注目すべき点は,連邦憲法裁判所が,立法者の立 法裁量の枠組みの中で,利源の推移と剰余金の支払に関する透明性を一層高 めるための保護の可能性,及び利害関係者にとって情報アクセスがいっそう 容易になるための可能性を考慮しなければならないとし,具体的には新契約 費,維持費,損失補てん計算の可能性等の情報を提供することによって競争 機能の改善も図らなければならないことまで踏み込んでいる点である。また,
リースター年金の場合のように,含み益の一部を取り崩すことなく,剰余金 配当において考慮することのできる評価準備金の開示を行うという保護措置 が参考になり得る点まで示唆している 。立法上考慮すべき点に関しここま で踏み込んだ判断をあえて行った理由は,やはり直近で予定されている保険
31)
Bauerle, VuR2005 , S.
404によれば,民法のリベラルな契約概念が黙示的に いつも要件としていることが,いまや 憲法 により確定されたという。契約法改正に対する憲法裁判所の見解を公表することによって,適切な法改 正が実現されることを意図したからではないかと思われる。連邦憲法裁判所 が,このような立法における具体的な保護策を論じた後に,立法期限まで示 した事実は,連邦憲法裁判所の強い意図が表れているといえよう。
解約返戻金に関する連邦通常裁判所判決は,透明化に関する点で,その前 後の憲法裁判所の判断と密接な関係にある。本判決で特徴的な点は,解約返 戻金に関する約款内容の不当性は,透明性原則違反を理由に無効とされた約 款条項と同じ内容を透明に記述しただけでは除去されないという,新たな透 明性原則に関する考え方を示したことにある 。つまり,不透明な条項によ って隠蔽されたために契約締結時の決定自由が侵害されただけでなく,その 内容によってすでにその契約が成立してしまった以上,その経済的不利益を 除去する内容の約款に変更しなければならないというのである。このような 考え方は,不透明さが除去されれば,約款の不当性は除去されると解する立 場 からみると,まさに予測を超えたものであった。
連邦通常裁判所が補充的契約解釈という手法を用いて,透明性原則違反の 約款の欠缺補充を行うことを後押ししたのは,保険契約法改正委員会の改正 草案の内容だけでなく,すでに剰余金の確定と配当に関して,連邦憲法裁判 所が,自己決定権保護義務,及び財産権保護義務として,保険契約者が適切 な配当を受けるための立法上の保護措置を求めていたことも大きかったと考 えられる。だからこそ,補充的契約解釈を行ってまで,最低解約返戻金保障 の必要性を示したのではなかろうか。
四 まとめと今後の課題
ドイツにおける生命保険契約の透明化は,生命保険契約の根本的な修正と
32)
Lerch, Anmerkung, VuR2005 , S.
469.
33)
W and, “Ersetzung unwirksamer AVB der Lebensversicherung im
Treuhanderverfahren gema
172VVG”, S.
30.
他の老後保障商品との統一的規制 を目指す保険信託モデルを通してではな く,契約法の中で,開示すべき情報の内容,保障すべき最低金額を明確に定 めることによって実現が目指されているが,含み益の配当や最低解約返戻金 の保障は,保険会社の運用方針や財務状態に相当な影響を及ぼし得るため,
情報提供による透明化の実現と監督法による規制を原則とすべきであるとの 批判がなされている ことも確かである。
この問題を日本法との関連で考察する場合に,監督法による規制だけでな く,契約法上の規律として,契約締結費用の開示や最低保障金額の保障を定 める必要があるか否かを今後検討する必要があると考える。
(本稿は,平成18年度科学研究費補助金基盤研究C 既契約の保険約款変更につい て (研究代表者 金岡京子)の成果の一部である。)
(筆者は東京海洋大学助教授)
34)
Schwintowski, in Beitrage zur
14. Wissenschafttagung der BdV, S.
85 参照。35)