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記者の証言拒絶権をめぐる立法的解決

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記者の証言拒絶権をめぐる立法的解決

著者 二宮 貴美

雑誌名 同志社法學

巻 63

号 2

ページ 1075‑1142

発行年 2011‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013805

(2)

(    同志社法学 六三巻二号二〇七

二    宮    貴   

章  節   )   )  節   )   )  節 章  節 Branzburg v. Hayes

一〇七五

(3)

(    同志社法学 六三巻二号二〇八   )   )   ) Branzburg 節 Miller  )   ) 章  節   )   ) Strossen 節   )   ) TuckerWermiel章  節   )   )   )  節   )   )  一〇七六

(4)

(    同志社法学 六三巻二号二〇九  節  節 

はじめに

 本稿は、記者の取材源に関する証言拒絶権をめぐる問題点を指摘し、立法解決への可能性を探るものである。 二〇〇六年一〇月三日、日本の最高裁は民事事件において取材源についての証言拒絶をめぐる記者の主張に対する初めての決定をくだした 。条件を提示して記者の証言拒絶権 を肯定したこの決定は、報道機関の報道の自由を重く見る立場からは、好意的に受け止められた 。一方で、報道機関に対して法廷での証言を免除するということに対して、裁判の公正を重視する立場から批判的ないし懐疑的に捉える見解も見られる 。 同時期に、大陪審での証言を拒絶した記者が民事上の裁判所侮辱(Civil Contempt )として収監されるという事件がアメリカで起こっており、日本でも報道され注目を浴びていた。CIA工作員の身元が暴露されたことについての証言を拒絶した、New York Times のJudith Miller 記者(当時)及びTIME のMatthew Cooper 記者をめぐるものである。 日米における記者の証言拒絶権をめぐる学説を見ると、日本でも議論がなされてきたが、論争の蓄積はアメリカでのものが圧倒的に多い。そして、そのアメリカでは一九七二年のBranzburg v. Hayes判決 以降、連邦最高裁はこの問題について判断していない。しかし、各下級審はBranzburg判決におけるStewart裁判官の反対意見で示された意見をもとに、記者に制限つきの特権を認める傾向にあった。

一〇七七

(5)

(    同志社法学 六三巻二号二一〇

 しかし近年は再び、記者の主張について否定的に判断する傾向にあるとみられる。他方、州レベルでは近年、記者の証言拒絶権を認めた法律(シールド法と呼ばれる)の制定、あるいは従来の法律をより厳密なものとする法改正が相次いでいる。さらに、連邦レベルでもシールド法案の提出が毎年のようになされている。日本では、平成九年の民事訴訟法改正の際、職務上の秘密を理由とする証言拒絶が認められる職業として報道機関を明記しようとする議論があったが、見送られた 。そのため、今日に至るまで記者の証言拒絶権が主張される際には憲法二一条一項及び民事訴訟法一九七条一項三号が根拠条文として援用され続けている。 そこで本稿では第一章、第二章で日米両国における判例の状況を考察し、第三章では、ニューヨーク市で発生した同時多発テロ、いわゆる九・一一事件以降におけるアメリカでの論争を紹介する。その後、第一章から第三章までの検討を元に、第四章では立法を欠いた状態で記者を特権で保護することへの問題点を指摘し、日米の状況の違いをも踏まえながら記者の証言拒絶権を立法で保護することの必要性について考えてみたい。

第一章 日本の最高裁決定

 国家機関を相手にしたアメリカでの民事訴訟において、日本での報道に携わった報道機関であるNHK、読売新聞社など複数の報道機関およびその記者が国際司法共助協定に基づいて証言を求められた。このような経緯のもとで、記者には取材源および取材源の特定につながる情報についての証言を拒絶する特権が認められるか否かが争われた。この決定は、NHK記者の主張に対してなされたものである。 一〇七八

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(    同志社法学 六三巻二号二一一 第一節 二〇〇六年最高裁決定(1) 事件概要 二〇〇六年最高裁決定(以下、二〇〇六年決定)の基本事件は、要約すると次のようなものであった。 一九九六年、アメリカ合衆国歳入庁は日本国国税庁に対して、アメリカに本社を置くアロエ製品会社Aloe Vera of America社(以下Aloe社)及びその製品を扱う日本法人Forever Living Products Japan社(以下FLPJ社)をめぐる税務調査を同時に行うことを申し入れた 。同年八月、合衆国歳入庁の職員がアリゾナ州フェニックスにおいて合衆国歳入庁の職員が日本側の代表者に原告Aloe社及びFLPJ社の納税情報にかかわる多くの資料と情報を提供した。その後、日米が同時に一九九一年度から一九九五年度にかけての税務調査を行うという通知が両社になされたが、東京国税局の職員が報道機関への情報漏洩を示唆することによって日米同時の税務調査の受け入れを迫ったという点も指摘されている 。なお、FLPJ 社は同時税務調査を受け入れなかったが、一九九七年一月、日本国国税庁は約八〇億円の申告漏れを指摘した上で約二〇億円を追徴課税した 。これに対して、原告は次のように主張した。﹁歳入庁の税務調査案は正しいものではなく、合衆国の税法、国際的な税法、日米における税務指針及び価格調整に関わるOECDの指針の解釈を誤っている。そのため、歳入庁は適正な価格調整を怠っており、日米同時の税務調査によって二重に課税がなされている ₁₀

。﹂ 一方で、﹁日米両国の税務調査によって、アメリカに本社を置く健康食品会社であるAloe Vera of America社と、その日本法人であるForever Living Products Japan社が約七七億円の法人所得を隠していたことが判明し、東京国税局によって約三五億円の追徴課税がなされた﹂という報道がNHKをはじめとする日本の報道機関によってなされた ₁₁

。 この報道について、Aloe社及びFLPJ社側はアメリカ合衆国のアリゾナ州地区連邦地方裁判所に対して、損害賠償

一〇七九

(7)

(    同志社法学 六三巻二号二一二

請求の訴訟を提起した。その請求は、﹁アメリカ政府の職員が会社の税務申告に関する不利な情報を日本の国税庁に開示したと考えられ、その情報の中には虚偽の情報も含まれていたこと、そのために国税庁から誤った追徴課税を受けたこと、アメリカ政府職員は国税庁がこの情報を機密情報として取り扱わないことを知り、又は知り得たにもかかわらず、当該情報を国税庁に開示したため、国税庁職員から情報が漏洩され、報道されたこと﹂を理由としている。それにより、報道の結果として会社の信用が低下し、株価が下落したとして損害賠償を求めたのである。そして、提訴するにあたって、追徴課税の情報が報道機関に漏洩されたことを立証するための証拠として、報道機関に証言が求められた。 これを受けて、アリゾナ連邦地裁は国際司法共助協定に基づき、当該報道にかかわった複数の報道機関に属する記者に対する尋問を日本の裁判所に嘱託した。嘱託を受けて日本の裁判所(東京地裁、新潟地裁)は、報道関係者への証人尋問を行った。最高裁決定は、NHK記者の主張に対するものである。 証人尋問において、記者は六ないし七の取材源からの取材に基づいて作成された原稿についてチェックを受けた上で放送したことを証言したが、﹁情報源﹂または﹁関係者﹂とは誰かとの質問については民訴法一九七条一項三号の定める﹁職業上の秘密﹂にあたることを理由として証言を拒絶した。この証言拒絶の可否について争われたのが本件である。なお、この証言拒絶事件について、第一審である新潟地裁 ₁₂

、次いで原審である東京高裁 ₁₃

は記者の証言拒絶には理由があるとの決定を行った。そこで、会社側が最高裁に即時抗告したことに対する決定がなされたのである。

(2) 決定要旨 最高裁第三小法廷は全員一致で、NHK記者が取材源を特定可能な質問事項について職業の秘密に当たることを理由に証言を拒絶したことには正当な理由があるものと認める決定をくだした。その決定要旨において、報道関係者の取材 一〇八〇

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(    同志社法学 六三巻二号二一三 源が﹁一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密にあたる ₁₄

﹂とし、取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、﹁当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべき ₁₅

﹂であるとの基準を提示した。さらに、当該報道が﹁公共の利益に関するものであって、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値する ₁₆

﹂と述べた。 本件において、当該報道が公共の利害に関する報道であることは明らかであり、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれないとして、民訴法一九七条一項三号に基づき、取材源にかかる事項についての証言を拒むことができるとして原審の決定を認容した ₁₇

第二節 評価 我が国では記者の証言拒絶権そのものが争点となった事案はさほど多くはない。事実上の先例となってきたのは一九

一〇八一

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(    同志社法学 六三巻二号二一四

七九年の島田記者事件の高裁決定 ₁₈

であり、最高裁が扱ったものに限定すると、一九五二年 ₁₉

にまでさかのぼる必要がある。 では、二〇〇六年に出された最高裁決定はどのように評価しうるだろうか。現時点においても憲法学界のみならずマス・メディア学の立場からも様々な評釈がなされているが、代表的なもののみ紹介しておく ₂₀

(1) 肯定的評価 松井茂記教授は、まず取材の自由が憲法二一条によって保障されることを明記し、取材源の秘匿もまた取材の自由の一環として、憲法上の保護を受けるとしている。しかし、取材源の秘匿は絶対的ではないとし、記者に取材源の開示を強制するかどうかを判断するにあたっては、原則として記者の取材源秘匿を認めることを前提に、例外的な場合にのみ証言強制を認める趣旨だと解釈している。また、刑事事件であるか民事事件であるかの違いについても、Branzburg 事件判決におけるStewart裁判官の反対意見で挙げられた三要件を満たさない場合には刑事、民事を問わず証言拒絶が認められるべきであると述べている。最後に松井教授は、本件で最高裁判所が民事事件について、とりわけマス・メディアが第三者的立場に立つ場合の取材源開示拒否権を認めたことの意義は大きく、刑事事件においても、最高裁は石井記者事件判決を覆し、取材源開示拒否権を認めるべきであると結んでいる ₂₁

。 次に鈴木秀美教授は、島田記者事件での第一審、第二審決定との比較において、本最高裁決定は取材源の秘密に重要な社会的価値を認めた上で、報道関係者の取材源秘匿を原則とし、例外となる場合を限定したことについて、札幌高裁決定を前進させたものと評価している ₂₂

。 長谷部恭男教授は、取材源秘匿の権利が﹁職業の秘密﹂という概念が直接に示唆する報道関係者の職業遂行の利益、及びそれによって保護される取材源の利益という私益にとどまるものではなく、民主主義社会において国民の知る権利 一〇八二

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(    同志社法学 六三巻二号二一五 に奉仕するという重大な公共の利益に求められるものであるということを確認した上で、公正な裁判の実現と報道及び取材の自由を一元的な物差しで比較することはできないと述べている ₂₃

。その上で、本決定によって示された基準について、当該民事事件の意義や影響を判断材料とするにあたっては、裁判所によって結論が分かれうる事態が予想されることを指摘している ₂₄

(2) 懐疑的評価 二〇〇六年決定に批判的ないし懐疑的な立場から分析したものとしては、溜箭准教授による論文が挙げられる ₂₅

。二〇〇六年決定は取材源の秘密が保護に値するかどうかを判断するにおいて考慮すべき三要件を示したが、要件として当該報道の内容、性質、その持つ﹁社会的な意義・価値﹂を挙げたことに疑念を示している ₂₆

。﹁当該﹂報道や﹁当該﹂民事事件は個別化された上で社会的な意義・価値が比較衡量にかけられるが、そのような個別の、社会的な価値が裁判官の自由心証に委ねられることに問題があると指摘するのである。 決定は﹁本件基本事件は⋮社会的意義や影響のある重大民事事件であるかどうかは明らかでなく、また、本件基本事件はその手続きが未だ開示(ディスカバリー)の段階にあり、公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない﹂というが、﹁社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうか﹂が明らかでない段階で証言拒絶を認めることは、すなわちその事件の社会的意義や影響もわからないままに終わり、基本事件も意味を失ってしまう ₂₇

。 裁判の場において取材源の開示が報道活動の妨げになるのか、また報道機関が国民の知る権利に資するものかという認識の当否を争い、証拠と議論を通じて判断を下せる場を提供すべきものであるが、二〇〇六年決定は結論のみを先取

一〇八三

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(    同志社法学 六三巻二号二一六

りして議論がなされず、明確な根拠が示されていない ₂₈

、と手厳しい。 このように指摘した上で、二〇〇六年決定をめぐる訴訟や報道の社会的意義に重みを与えることには疑問であると主張する ₂₉

。裁判官が社会的意義のある言論や社会的価値のある訴訟を選別することも警戒すべきだとしている。そして、裁判を通じた証拠収集が非権力者の権利という側面をもつとの観点から、広範かつ絶対的な証言拒絶権を立法で認めるべきでないという。裁判における証拠の必要性が比較衡量の中心となるべきであり、そのような判断こそ立法府より司法府が適しており、証言拒絶権の規定から一義的に立法による公益の認定と真実発見の犠牲を導くことには慎重であるべきだと結んでいる ₃₀

第三節 分析 記者の証言拒絶権は、報道機関の報道が正しい内容であるために重要な意義を持つものとして主張される。しかし、日本の裁判所は一貫して、取材の自由が憲法二一条の精神に照らし﹁十分な尊重を必要とする ₃₁

﹂としつつも憲法によって保障される権利だとは認めてこなかった。 二〇〇六年決定は、民事事件においては原則として記者の証言拒絶が認められるとの判断を示した。しかし、判断の際の要素として国民の知る権利や報道の自由に留意するとしているものの民訴法一九七条一項三号を直接の根拠としており、憲法上の特権を保障したものとみることはできない。他方で、社会的意義・影響のある重大な事件である場合には証言拒絶が認められない可能性をも示唆しているが、どのような事件であれば﹁社会的意義・影響のある重大な事件﹂とされるのかは示されていない。そのため、同様な事件が生じた際の完全なリーディング・ケースとはなり得ていないと考えるべきだろう。 一〇八四

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(    同志社法学 六三巻二号二一七 第二章 アメリカの判例  記者の証言拒絶権について、アメリカの連邦最高裁が初めて判断したのが一九七二年のBranzburg v. Hayes事件(以下、Branzburg 判決)であった。取材源に係る証言の拒絶を主張した三名の記者をめぐる四件の事件を併合審理したこの判決の法廷意見は、大陪審において証言を拒絶するという特権は記者には認められないというものであった。しかし、

White 裁判官による法廷意見は立法解決によって記者が保護される可能性を示唆していた。また、多数意見を構成するにあたってのキャスティング・ボートとなったPowell裁判官の個別意見は、記者に証言を求めるにあたっては、要求される情報の証拠としての重要性と、記者に証言を強制することによって起こりうる不利益とを比較衡量して判断すべきであるというものであった。このように法廷意見の中でも見解が分かれていたため、以降の裁判所は記者の証言拒絶権を認めた例も少なくない。ここでは、本章ではBranzburg 判決が今なお裁判所に与え続けている影響とはどの程度のものなのかを分析する。

第一節 Branzburg v. Hayes事件―リーディング・ケース―(1) 事件の概要 Branzburg事件判決は、大陪審からの出頭及び証言の要求に対して記者が拒絶できるかどうかという問題について争ったケンタッキー州の記者Branzburg、マサチューセッツ州のテレビ局の写真記者Pappas、そして、ニューヨーク・タイムズの記者Caldwellという三名の記者をめぐる四つの事例について併合審理がなされたものである。それぞれについて、順に概観する。

一〇八五

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(    同志社法学 六三巻二号二一八  1 Branzburgをめぐる事件 ケンタッキー州Louisvilleで発行されているCourier-Journalに所属する記者であったBranzburgは、マリファナを原料としてハーシシュという麻薬を製造している二人の男についての記事を執筆し、その記事は製造中の両手を撮影した写真とともに一九六九年一一月一五日付で同紙に掲載された。掲載された記事には、その男二人はハーシシュによって三週間で五〇〇〇ドルを稼いでいることが書かれていた。なお、Branzburgは、ハーシシュを製造する男二人の身元を明らかにしないことを要件として取材したが、この記事が掲載された後、大陪審への出頭及び証言を命じられた。

Branzburgは出頭したが、マリファナを所持し、ハーシシュを製造していた男の身元についての証言を拒絶した。 ケンタッキー州にはジャーナリストを保護するシールド法 ₃₂

が規定されており、Branzburgは同法および合衆国憲法修正一条、あるいはケンタッキー州憲法一条、二条、八条を根拠に証言を拒絶したのであるが、ケンタッキー州の事実審は取材源秘匿の主張を認めなかった。そこでBranzburgは州控訴裁判所に上告し、同法にいうところの﹁ニュースソース﹂には取材活動の過程で記者が入手し得た全ての知識を含むとして争ったが、州控訴裁は﹁ソース﹂とは情報が得られた方法あるいは情報を提供した人物を意味するものと定義し、記者の持つ﹁情報そのもの﹂は同法による保護の対象外であると判断した。 次いで、Branzburgはケンタッキー州Frankfortにおいて違法薬物が使用されているという情報についての記事を執筆し、一九七一年一月一〇日付で新聞に掲載された。その記事はFrankfort における﹁ドラッグ・シーン﹂についての広範囲にわたる調査を伝えるものであり、記者は首都における数十人のドラッグ使用者とのインタビューを二週間にわたって行ったとされていた。記事が掲載された後、州の薬物法違反についての捜査を行っている大陪審によって出頭、証言を命じられた。Branzburgは修正一条及びケンタッキー州のシールド法 ₃₃

、州憲法を根拠として出頭命令の取消しを 一〇八六

(14)

(    同志社法学 六三巻二号二一九 求めたが、控訴裁判所は、記者に出頭、証言を求めることはアメリカ憲法が保障する報道の自由の侵害にはあたらないとして、取消しを認めなかった。 その後、Branzburgをめぐる二件の裁量上訴の申立てが連邦最高裁によって受理された。

 2 Pappasをめぐる事件 ロードアイランド州のテレビ記者であったPappas は、一九七〇年七月三〇日にニュー・ベッドフォードの警察で起こった暴動について、ブラック・パンサーの本部において取材を行った。ブラック・パンサーは黒人の戦闘的な団体であるが、Pappas は取材に際して、警察での暴動について以外にブラック・パンサー本部内で見聞きした出来事は一切公表しないという約束を交わした上で写真撮影を行った。そこで、暴動以外の事柄については記事を書くことなく口外もしなかった。そのような状況の中で、暴動について調査している大陪審に召喚され、証言を求められた。Pappas は大陪審に出頭し、自らの氏名や職業などの質問には証言したがブラック・パンサー本部で見聞きしたことについては証言を拒絶した。そのため、さらに出頭命令を出された際には取消しを申し立てたが、マサチューセッツ州には証言拒絶をめぐる記者の特権を認めた制定法がなく、修正一条にもとづく権利も認められないとして申立は却下された。

Pappas による裁量上訴申立てが連邦最高裁によって受理された。  3 Caldwellをめぐる事件 Caldwell事件は他の二人の記者とは異なり、連邦地裁、控訴裁ともに記者の主張を一定程度において認容していたものである。

一〇八七

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(    同志社法学 六三巻二号二二〇

 Caldwellはニューヨーク・タイムズの黒人記者であるが、ブラック・パンサー代表者の信頼を得てインタビューを行い、記事が新聞に掲載された。そのことにより、ブラック・パンサーについて調査している大陪審により文書提出命令及び出頭命令が出された。その後、Caldwell側の代理人と政府との合意によって文書の提出は免除され、単に出頭して証言を求める命令が改めて出された。しかし、どのような質問に対して証言を行うかどうかにかかわらず、大陪審に出頭すること自体が取材対象者との信頼関係を破壊すると主張してCaldwellは出頭せず、出頭命令の取消しを申し立てた。これについて連邦地裁は、﹁誰もが政府の権限に服する﹂として申立は却下したものの、記者として取材活動を行ったことによって得られた﹁コンフィデンシャルな交流、ソース、情報﹂についての証言を強制するには﹁圧倒的かつ優越的な国家利益﹂の存在が必要であり、加えて、代替手段によっては証拠が得られないことを政府が示す必要があるとの要件を提示した。そして、要件を満たさない場合には記者に証言の義務はないとして、記者の主張を一定程度において認容した。 連邦控訴裁はさらに、修正一条が記者に対して証言をめぐる条件つきの特権を認めていると判断した。その見解によると、Caldwellのような記者に証言を強制することによって将来の取材が困難となり、その結果、出頭命令を避けるために執筆をためらうこととなるだろうと述べている。そして、証言を必要とするやむにやまれぬ理由を欠く場合には証言を拒否できるとした ₃₄

。 これについて、政府側による裁量上訴の受理申立てが認められた。

(2) 連邦最高裁の判断 White裁判官による法廷意見は、取材源秘匿権を求める記者の主張を認めなかった。しかし、前述のように多数意見 一〇八八

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(    同志社法学 六三巻二号二二一 を形成するキャスティング・ボートとなったPowell裁判官は、記者に証言拒絶を認めるかどうかについては個別判断によるべきであるとの個別意見を述べた。加えてDouglas 裁判官、Stewart 裁判官による反対意見が付されており、Stewart裁判官の反対意見にはBrennan、Marshall両裁判官が同調している。

① 法廷意見 ﹁報道関係者といえども一般的な法の適用を免れるものではなく、一般人が負担する大陪審での証言義務をも特別に免除されるものではない﹂として、報道関係者であるがゆえの特権を認めなかった。さらに、報道機関を大陪審の調査に強制して協力させることが結果として情報源が情報の提供をためらうこととなる可能性を認めながらも、情報源から報道機関に知らされた犯罪について追求し、訴追することは公衆の利益となるとの理由をもって修正一条に対する負担を正当化し、憲法上の特権を否定した。しかし、連邦や州のレベルにおいて立法解決がなされることは自由であるとし、報道機関が保護されうる可能性を示唆している。

② Powell裁判官による意見 本件における証言拒絶権は認めなかったが、記者が証言を求められる情報と事件との関連が希薄であったり、関連性が明確でなかったりする場合には証言命令の取消しを求めることができるとし、報道機関の証言拒絶が認められるかどうかは報道の自由と、犯罪行為に関連のある証言を行うという市民の義務とを比較衡量することによって判断されるべきであると述べている。

一〇八九

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(    同志社法学 六三巻二号二二二

③ Douglas裁判官による反対意見 Douglas裁判官によれば、修正一条の保障する﹁情報の自由な流通﹂は絶対であり、新聞記者は完全な出頭拒否権、及び証言拒絶権が認められる。記者が犯罪に関与していなければ修正一条による保護を根拠として大陪審からの出頭命令を拒みうるとするのである。

④ Stewart裁判官による反対意見 Douglas裁判官と同様に、Stewart裁判官もまた多数意見の見解について﹁ジャーナリストの職業を政府の調査の手足として付属物にしようとするもの﹂として非難している。Stewart裁判官は、記者が情報源との間にコンフィデンシャルな関係を持つ特権を認める。それは公衆に対して情報を完全に且つ自由に伝達するという憲法上の権利であり、社会的な利益から派生するものであるとするのである。情報源は取材過程において不可欠であり、もし報道機関に対してコンフィデンシャルに与えられた情報や情報源の身元を開示するように強制する権限が政府機関に与えられるとするならば、情報保持者は情報の提供を差し控えるであろうことは明らかであり、記者もまた、入手できた情報の公開を差し控えるという﹁自己検閲(self-censorship )﹂の結果を導くこととなる。それは市民の﹁知る権利﹂を妨げることとなるというのである。このようにStewart裁判官は市民の﹁知る権利﹂に奉仕するという根拠によって記者の特権を導いている。 さらに、Stewart裁判官は﹁司法の効果的な執行﹂と﹁情報の完全な流通﹂という相反する価値について、修正一条の﹁傷つきやすい性質﹂を考慮に入れた上での比較衡量によって判断すべきであるとしている。そして、記者に出頭を要求し、コンフィデンシャルな情報の開示を強制するには以下に示す三つの要件を満たさなければならないとする。 一〇九〇

(18)

(    同志社法学 六三巻二号二二三  第一に、新聞記者が、特定の法律違反行為に関連する情報を所持していると信じるにつき十分な理由があること。 第二に、求められた情報は、修正一条の権利を侵害しない代替手段によっては得られないこと。 第三に、求められた情報には、事件を解決するために圧倒的かつ優越的な価値が存在すること。 Stewart 裁判官によると、これらの三つの要件の立証責任を公権力側に負わせることとし、立証できなければ記者の証言拒絶は認められるとしたのである。第一の要件により、報道機関が情報を所持しているという確信なく情報を探し、報道機関を捜査機関の手足とすることが禁じられることとなり、第二の要件により、他の方法によって政府の目的が達成されるのであれば、記者と情報源との信頼関係を破壊する正当な理由は失われることとなる。そして、第三の要件が示すように、事件解決のために不可欠なものであることを政府側が立証できなければ記者の証言拒絶は認められるということになる。以下に示すように、この三要件が以降の下級審に大きな影響を与えていたのである ₃₅

(3) Branzburg判決の影響 Branzburg 判決以降に記者の証言拒絶権を認めた裁判例としては、一九八一年のZerilli v. Smith 事件 ₃₆

(以下Zerilli 事件)が挙げられる。 Anthony T. Zerilli とMichael Polizzi がAttorney General 、FBI 長官および司法省を相手にプライバシー法違反と修正四条の権利侵害を訴える際に、ZerilliおよびPolizziが記者に取材源の開示を求めたものである。この事件に先立ち、

Zerilliらの違法な活動の数々についての会話がFBIによって通信傍受されたが、その記録が何者かによってDetroit Newsに提供され、その記録に基づいたと推定される記事が新聞Detroit Newsに掲載された。なお、この通信傍受は令状による許可なく行われており、通話記録テープはZerilliらの違法な活動をめぐる刑事裁判における証拠採用が認

一〇九一

(19)

(    同志社法学 六三巻二号二二四

められなかった。そして、このテープは当事者以外の者への開示を認めない旨の命令が連邦地裁によって出されていた。そのため、当該記録を見ることができたのは政府機関の関係者のみであった ₃₇

。そのような状況であるにもかかわらず、

Detroit Newsに属する記者であるSeth Kantorが﹁Inseide the Mafia﹂と題したZerilliらに関する記事を執筆し、記事は紙面に掲載された。 そこでZerilliらは、記事が掲載されたのは政府機関の関係者によって権限なく通話記録が漏洩されたからであると主張してプライバシー法についての訴えを提起した。この際、情報を漏洩した関係者を特定するために、記事を執筆した記者に証言を求めたのである。 控訴審における法廷意見はWright裁判官によって執筆され、Robb裁判官が同意意見を付している。法廷意見は、

Branzburg 判決が記者の特権を否定したのは刑事事件においてであり、効果的な刑法の執行という公衆の利益は民事事件には妥当しないとするCarey v. Hume事件控訴審判決 ₃₈

(以下Carey判決)を引用した上で ₃₉

、民事事件においては修正一条を根拠とした制限つきの特権が適用可能であるべきことを示した ₄₀

。Carey 判決で示された判断の指針は

Branzburg判決においてPowell裁判官が示したものと類似しており、裁判所が特権の適用を認めるか否かについて判断する際にはそれぞれの事例を個別に審査した上で、記者の情報源を保護するという公衆の利益が情報の開示を強制することによって得られる私的な利益を上回るかを決定すべきだという。さらに、Zerilli判決によると、比較衡量の際には修正一条による優先的な立場と正確な報道の重要性を考慮すべきであり、記者の取材への侵害は最小限にとどめなければならない。つまり、証拠としての重要性や合理的な代替手段によって必要な情報が得られないことなどの要件をすべて満たしている場合にのみ、記者に証言を要請することが認められるという。もっとも、Zerilli 判決は記事が名誉毀損的であるとして訴えられた際の秘密の取材源の開示拒否までは特権として認めていない。判決によると、名誉毀損訴 一〇九二

(20)

(    同志社法学 六三巻二号二二五 訟など記者が訴訟の当事者であるか、そうでないかの違いは証言強制をめぐる判断要素の一つとなりうるという ₄₁

。記者が訴訟の当事者である場合には、証言拒絶の特権を認めることはすなわち立証責任から逃れることを意味するため、裁判の公正さの点がより重要視される。しかし、名誉毀損訴訟であれば記者に対して直ちに開示請求が可能だということではなく、記者の取材源の身元情報が訴訟に必須のものであって他の手段によっては得られないことを明らかにしていなければならないことはいうまでもないことを指摘している ₄₂

。 Zerilli 事件において、通信傍受記録を記者に提供した者が誰かという情報は必須のものであると認められるが、控訴人Zerilliらは司法省職員から情報を得ようとする努力を怠っている。名誉毀損で訴えられたCarey事件とは異なり記者は訴訟の第三者であって、責任逃れではない。そのため、記者への証言強制を認めないという判断に至っている ₄₃

。 その他、記者に対する証言強制の問題でStewart裁判官の意見が引用されて特権主張が認められた事件としては、市長選挙に立候補していた原告が名誉毀損的な報道をめぐって記者に証言を求めたが認められなかったRiley 対Chester市事件 ₄₄

、Dallasにおいて学校長が解雇された争いについて、校長と学区との争いについて報道した記者が出頭・証言命令を受けたBruce Selcraig 事件 ₄₅

、トラックレンタル会社であるU-Haul をめぐる争いについて調査取材を行っていた記者が証言を求められたShoen対Shoen事件 ₄₆

などが挙げられる。

第二節 Miller記者をめぐる事件 アメリカでは、基本的には前述のBranzburg判決が依然として維持されている。しかし、州によって、あるいは連邦でも地裁や控訴裁においては異なった判断がなされることもあるということもまた既に述べた通りである。また、近年では、証言を拒絶した記者が裁判所侮辱罪として収監されたことが日本国内でも報道されている。殊に、CIA職員

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(    同志社法学 六三巻二号二二六

の身分を漏洩した事件をめぐってNew York Times(ニューヨーク・タイムズ)やTIME(﹁タイム﹂)の記者に証言が求められた事件はNHK記者の証言拒絶を認めた最高裁決定が出された時とちょうど同じ時期であったために日本国内でも注目され、大きく報道された。

(1) 事件の概要 二〇〇三年、アメリカの元ガボン大使であるWilson氏の妻、Valerie Plame女史がCIA情報員であることが保守系コラムニストであるRobert Novak氏の記事によって報道された ₄₇

のに続き、Cooper記者を含む多くのジャーナリストが報道した。なお、この事件の背景として、Wilson元大使がブッシュ政権によるイラク政策を批判する意見を寄稿し、ニューヨーク・タイムズに掲載されていたことを留意しておかなければならない。 CIA情報員の氏名は国家機密として保護されているものである ₄₈

ため、職員の身分を記者に洩らした職員を捜査するために任命されたフィッツジェラルド特別検察官及び大陪審が﹁タイム﹂誌のCooper 記者、ニューヨーク・タイムズのMiller記者の二名に情報源を証言するように求めた。以下、Cooper、Miller両記者それぞれについての経過を概観する。 フィッツジェラルド特別検察官と大陪審による調査は二〇〇四年の一月より始められたものであるが、二〇〇四年五月二一日、大陪審よりCooper 記者に出頭命令が出された。それは二〇〇三年七月一七日、二一日に掲載された記事に関する証言及び文書提供を求めるものであった。Cooper記者は出頭を拒絶し、二〇〇四年六月三日には命令の取消をコロンビア特別区地方裁判所に求めたのである。同時に、﹁タイム﹂社に対しても出頭命令が出されていたが、同様に取消を求めた。これらの取消請求に対して、コロンビア特別区地方裁判所は二〇〇四年七月六日 ₄₉

、続いて八月六日、請 一〇九四

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(    同志社法学 六三巻二号二二七 求を却下した。その後Cooper記者と﹁タイム﹂社は控訴審に上訴したが、フィッツジェラルド特別検察官との交渉によってCooper 記者が情報提供者との特別な関係について証言及び文書の提供をすることに同意し、上訴は取り下げられた ₅₀

。これが、Cooper記者と﹁タイム﹂社の最初の出頭命令取消訴訟である。 しかし、二〇〇四年九月一三日、大陪審はCooper 記者に対し、二〇〇三年七月一四日以前における情報源との会話に関わる全ての文書を提出するように求める文書提出命令を出した。また、同年八月二日には﹁タイム﹂に対して﹁メモ、録音テープ、E-mail 、その他Cooper 記者が二〇〇三年七月一七日に執筆した記事に関わる文書など全て﹂の提出を求める命令が出された。そこで、Cooper記者と﹁タイム﹂社は二〇〇四年一〇月七日、再び命令の取消しを求めた。 同時期に、Miller 記者はPlame 女史についての記事を書かなかったにもかかわらず、Miller 記者に対しても記者と情報源との会話に関する証言と文書提出を求める命令が出された。Miller記者もまた大陪審への出頭を拒絶し、命令の取消を請求した。しかし、コロンビア特別区地方裁判所は理由を付さずに請求を却下し、裁判所侮辱罪として投獄した。そのため二〇〇四年一二月八日、Miller記者は上訴した。 なお、Miller 、Cooper 両記者および﹁タイム﹂社の主張は、情報、特にコンフィデンシャルな情報源の身元については修正一条によって、あるいは連邦のコモン・ローによって保護されているとするものであった ₅₁

(2) 裁判所の判断 ワシントン特別区の控訴審は、Sentelle、Henderson、Tatelの三名の裁判官によって審理された ₅₂

。Sentelle裁判官による法廷意見に加え、三名の裁判官が各自で個別意見を付している。

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(    同志社法学 六三巻二号二二八

① 法廷意見 Sentelle裁判官による法廷意見は、第一に修正一条、第二にコモン・ロー、第三に適正手続条項、最後に司法省のガイドラインをめぐる記者らの主張について順に検討した後、それらの主張を否定した。 まず最初に、大陪審に召喚された記者は修正一条による保護を受けられないとした地裁の決定 ₅₃

を支持することを明らかにしている ₅₄

。その上で、Branzburg判決は修正一条による記者の証言拒絶を否定したものと捉え、次のような解釈を示している。Sentelle裁判官によると、Branzburg判決は記者による特権の主張を否定するに際して大陪審の権限は歴史的な事実のみならず、﹁人は全ての証拠を利用する権利がある﹂という長年の原則に基づくものであり、証拠上の特権が認められうるのは修正五条が定める自己負罪強制の禁止のみであるという ₅₅

。そして、一般の市民に認められない特権を作り出すことはできず、記者は情報源を守るために違法行為を隠してもよいことにはならないとするBranzburg判決を支持している。このように述べた上で、Branzburg事件における連邦最高裁判決の判決は修正一条について大陪審に出頭しない特権、あるいは証拠の提供を拒否する特権を記者に認めたものではないと解釈し、本件においてもそのような特権は認められないと判断した。 Branzburg 判決におけるPowell 裁判官の個別意見、一九八一年のZerilli 判決を根拠として証言拒否の特権を求める記者らの主張については、次のように否定した。まず前者について、Branzburg判決が五対四という僅差によるものであるが、Powell 裁判官が個別意見を示すことによってWhite 裁判官による法廷意見はもはや相対多数意見にすぎないということが記者の特権を認める根拠であると記者らは主張する。この点については、裁判官の個別意見の性質と扱いについて検討したMcKoy 対North Carolina 判決を引用した上で、Powell 裁判官はあくまでも法廷意見に加わっていることを重視し、記者らの主張を否定した。Powell裁判官は確かに憲法上の特権についての多数意見に同意しない意思 一〇九六

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(    同志社法学 六三巻二号二二九 を明らかにしているが、このことは悪意を伴った調査において修正一条による保護の可能性があることを強調したにすぎないとの解釈である ₅₆

。後者については、記者の証言拒絶権を容認したのは民事事件においてであるとし、本件は民事事件ではないため、記者の特権を認める根拠とはならないと判断した ₅₇

。 第二に、記者らは秘密の情報源が修正一条によって保護されないとしても、Branzburg 決定が出された一九七二年にそのようなコモン・ローが存在したか否かにかかわらず、裁判所は連邦のコモン・ローに基づく記者の特権を認めるべきことを主張する ₅₈

。コモン・ローに基づく記者の特権をめぐる各裁判官の見解は一致していない ₅₉

が、共通の結論として、記者の秘密の情報源が保護されるべき特権があるとしても完全なものではなく、適切な説明(appropriate showing)を示すことによって覆されるのであって、本件においては適用され得ないとしている。 第三に、記者らは自らの特権を完全なものであると主張しながらも、二次的な基準として、一定の要件のもとでの保護がなされるべきだと主張する。そして、特別検察官と地方裁判所が記者らに対して、出頭命令の強制によって得られた特別検察官の保持する秘密の情報へのアクセスを拒絶したことによって適正手続の権利が侵害されていると訴えている。この主張は大陪審の秘密という制度を争点とするもので、地方裁判所が、一方当事者の必要に応じて大陪審の秘密を保持することができると定めていることは記者らも認めている通りである。この点について裁判所は、﹁大陪審は法廷から独立した組織である﹂との立場を示している。大陪審の機能は連邦裁判所における秘密の維持によって成立しており、一七世紀以降、それらの手続の記録は公衆の目から遠ざけられているというのである。既に確立された弁護士と顧客との間の特権を保護する手続が妥当であるように、記者と秘密の情報源との間に特権が存在するのであるとしても、大陪審の秘密は同様に適用されるものと判断される。 記者らによる最後の主張は、特別検察官が司法省のガイドライン ₆₀

に従っておらず、そのことによって地裁の命令取消

一〇九七

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(    同志社法学 六三巻二号二三〇

しの根拠となるとするものである。この主張については、地裁が司法省のガイドラインを適用すべきかどうかとの疑念を表してはいるものの、当該ガイドラインは強制力を伴う権利を作り出すものではなく、法令遵守の問題に触れる必要はないとした上で、仮に強制的に適用可能であるとしても特別検察官は当該ガイドラインを全て満たしているため、命令取消しの理由にはならないと結論づけた ₆₁

② 個別意見 さらに、三名の裁判官がそれぞれ個別意見を付している。

 1.Sentelle裁判官意見 Sentelle裁判官 ₆₂

は、記者の取材源を保護するためのコモン・ローを根拠とする特権の存在を否定した連邦地裁の判断を支持している。さらに、大陪審によって行われる、記者を困らせる目的による根拠のない調査に対して証言を拒絶するという一般市民に与えられた権利以上の保護を記者にのみ与えることは認められないとの立場を示している。しかしながら、記者が享受するいかなる特権も合衆国の説明によって覆されるものであって、そのような特権が存在するか否かの判断は不要であるとする同僚の結論を完全に否定はしないとしながらも、裁判官自身はこの問題が論理的には覆すべき証拠の請求に先立つものだと考えている。コモン・ローに基づく特権の主張を否定する根拠としては、判例の蓄積、政策、そして権力の分立を挙げている。参照すべき判例としてBranzburg判決を挙げているが、Sentelle裁判官は記者の特権について憲法上の問題としてだけでなくコモン・ローの問題としても繰り返し議論されてきたものであると位置づけている。その上で、慣習において、記者が大陪審で秘密の取材源の開示を拒絶できるといういかなる特権も裁判 一〇九八

参照

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