富大経済論集
一 一 一 六
‑272ー
Eヨ
耳支低 賃 金 と 地 域 労 働 経 済
||富山県における最低賃金制の動向とその批判
1 l 藤
壮 介 原
富山県における最低賃金の概況
富山県における最低賃金の決定は︑昭和四十一年六月末現在︑九条︵業者間協定に基く最偏賃金︶方式によるもの三八
件︑十条︵業者間協定に基く地域的最低賃金︶方式によるもの四件を数え︑適用労働者数は六万九千余人︑県内中小企業
労働者の三二%にのぼっている︒件数としては全国的にみて平均的だが︑重点対象業種の労働者にたいする適用率で
は九五Mに達し︑現在の最低賃金行政の目標からすれば︑きわめて高い普及率を示している︒
産業別では︑件数︑適用労働者数とも製造業が圧倒的に多く︑件数にして非製造業の五倍強︵三二件︶︑適用労働者
数では八七%が製造業の労働者である︒この比重も︑全国決定状況と比較してかなり高い︒内訳を業種別にみれば︑
適用労働者数で最も多いものが︑繊維工業および機械器具製造業の各一万一千名︑次いで各種製造業︵地域単位の最低
賃金
︑繊
維関
係が
多い
︶の
七千
名︑
化学
工業
︵医
薬品
︶︑
製材業の各五千名弱︑
弱電
気機
器部
品製
造︵
電気
抵抗
器︶
︑
食料
︵ファスナー︑プラスチック︶が各三千五百名前後︑金罵製品製造︵アルミ打抜プレス︶三千名︑非製
造業ではサlゼス業関係各種合わせて七千名となっている︒以上の比重と順位は︑富山県における中小企業の構成を
品製
造︑
﹁そ
の他
﹂
‑273ー
最 低 賃 金 の 年 度 別 適 用 状 況
I
新設数|改訂数|廃止数9条 … の |嶋仁山|晶者霊|品塁新設数l
改訂数34年 度 5 382 9,831
35 I,ク 9 1 1 1,263 22,490 36 // 8 2 1 1, 511 33,276 37 I,ク 3 10 1 1 1,669 37,606 38 // 8 11 7 1
39 I,ク 2 3 1 1 2 2,845 53,697 40 I,ク 13 19 4 2 3,704 69,055 41 // 2 4 開 3 I 69,334 (6月末迄〉
第一表
最低
賃金
と地
域労
働経
済︵
藤原
︶
反映している︒そして︑富山県における最低賃金の普及状況は︑製造業中
心型︑あるいは高い普及率をもった重点対象業種中心型ということができ
年次別普及の概況は第一表のとおりである︒昭和三十四年十二月の最初 る ︒
の公示以降︑年次別の拡大率に起伏はあるが年々新設件数を加え︑ほぼ順
調な発展をたどって現在にいたっている︒
協定に包括される使用者数と労働者数は︑業種によって異っている︒
件当り使用者数では︑昭和三十七年に六件を統合して成立した鉄工業・機
械器具製造業と零細営業の多い美容業︑製材業・木材販売業がいずれも四
00
人に近く︑少いものでは染色業の九人︑西部地区プラスチック製造業の十五人等がある︒労働者数では鉄工業・機械器具製造業の一万一千名は
特例として︑大きなものでは自動車製備業︵五千名︶︑製材業・木材販売業
︵四千五百名︶︑小さなものでは東京美容師会富山支部の八十名︑木船製造
修理業の二百名等がある︒使用者数の多寡︑適用労働者数の大小は︑最低
賃金の規模を表示するが︑そのままで業種の企業規模を表わすものではな
い︒業種別の平均労働者数では染色業が二三五名︑アルミ打抜プレス業で
一五
O
名という例もあるが︑前記鉄工業で三一名︑平均して使用者一人当り労働者数は一八・一名となり︑最低賃金が小・零細企業の多い業種に普
一 一 一 七
‑274‑
富大経済論集
二一
八
及していることは明らかである︒一件当り使用者数は約一
OO
人で
ある
︒
決定された最低賃金額は四
OO
円から七OO
円の間にあり︑四二Ot
四三O
円に集中している︒この額は昭和三十九年十月に答申された目安額に妥当し︑次いで四十一年二月に改訂された目安額からすれば幾分低い︒三八業種中二
六業種の最低賃金が︑今年度中に改訂目安額に適合するように改正を予定されている︒全国状況では四
O
年の最低賃金額の中位数は四二二円︵乙地域四二九円︶であり︑この面で富山県はほぼ全国平均並の状態にある︒
ところで︑最低賃金制の問題は︑現在一つの転換点に立っている︒昭和四十年八月十三日の中央最低賃金審議会第
三十三回総会において︑﹁最低賃金制の基本的検討について﹂の諮問が行なわれたことは︑その具体的な表現であっ
た︒現行最低賃金法については︑周知のように成立当初から根本的な批判が行なわれ︑労働者側の反対も施行以来七
ヶ年を経て次第に高まろうとしている︒しかし︑﹁基本的検討﹂についての今回の動向に関して言えば︑それが労働
組合勢力の社会政策にたいする高い関心︑強力な全国的運動を媒介とするものではなく︑現行法にもとづく最低賃金
の普及と行政指導の成果の上に︑意図され計画されている点にむしろ特徴がみられ
a d
いま︑地方的事実をもとにして︑このような全国的な動向について論ずることは︑必ずしも容易ではない︒そして
富山県の事実は︑この点で決して何らかの特異な矛盾を鮮明に示しているのでもない︒さらに︑最低賃金制は︑独占
資本主義段階における典型的な社会政策であって︑現段階の多様な経済政策︑労働政策とも密接なつながりを持って
いる︒地域的視点から問題を扱うことは︑方法論としても有効ではないし︑分析は不可避的に全国的問題に還らざる
をえないがその面でも限られたものとならざるをえない︒しかし︑現行法のもとにおける最低賃金の発展が︑地域各
業種の状態と密着した関係のもとにあることからすれば︑地域的資料による分析の意義も決して否定されるものでは
わ 九 ︑
︒
φん ︑
︑
hy
zt 仁 王
E自主交
Z Z
L L
陀州 軍E E
叶i
一 均 二 −
Eノ4オて担金耳男て村知穿一力一士伺町寸条二二三件︑十一条六件︑十六条二件︑適
用労働者数は四三九︑七九一七人︒これを重点︑非重点に分ければ︑昭和四十年十一月末現在で重点対象労働者は七0・一%
の適用をみており︑製造業労働者の比重は同年九月末の調査で適用労働者中の六一%である︒全国状況は︑労働省労働基準局
賃金部﹁賃金月報﹂により︑富山県のものは業務統計にもとづいて算出した︒
凶手工業に依存する業種の規模はきわめて小さく︑食料品製造業のうち味噌醤油製造業︑蒲鉾製造業では平均従業者十名前後︑
サービス業のクリーニング業︑理容業︑美容業では平均二
t
一二名となっている︒平均従業者二i三名の業種においても最億賃金が採用されていることは︑最低賃金にたいする伝賃金カルテルという批判の妥当性を思わせる︒同業種が環境衛生法等の国
家的規制をうけているカルテル業種であるだけに︑一段と現実的である︒
企業規模では︑成長産業に分類される機械器具製造業の場合でも圧倒的に零細企業中心の構成をとっている︒同業種では︑
県内全事業所数の四五%が従業者九人以下の企業であり︑七七%が二九人以下の企業である︵昭和三十八年﹁工業統計地方結
果表﹂︶︒ちなみに︑同業種最低賃金における︑同年の平均従業者数は三0
・一 名で あっ た︒
なお︑全国状況でみる平均規模は︑適用使用者一人当り適用労働者数二ニ・五名であって︑零細業種への普及が富山よりも
幾分高い模様である︒
ω
昭和四十年五月四日︑春闘共闘委員会の要求書にたいする石田労働大臣の文書回答は︑﹁一︑労働省としては︑中賃答申に基づいて策定した﹃最低賃金推進計画﹄を実施することが現状において最も実効があり︑かっ︑将来より適切な最賃制を実現
する基盤であると考えている︒﹂というものであった︒これと全く同じ文面は︑八月十三日の﹁基本的検討﹂についての諮問
のなかでも繰り返されている︵前掲﹁賃金月報﹂一九巻一O
号 ︶ ︒
ω
独占段階の社会政策として︑労働者階級の政策と︑特に当面の地域的分析においても最低賃金審議会をめぐる組合の動向はきわめて重要だが︑これは別の機会に譲らざるをえない︒
労働力不足のもとにおける最低賃金
‑275ー
現行法施行以来の最低賃金の発展は︑おおよそ二つの時期に分けられる︒
一つ
は︑
昭和三十四年七月の施行以来昭
最低賃金と地域労働経済︵藤原︶
一二
九
‑276‑
富大経済論集
一 三 O
和三十八年八月の中央最低賃金審議会の答申﹁最低賃金制の今後のすすめ方について﹂︵以下﹁第一次答申﹂と呼ぶ︶ま
で︑第二の時期はそれ以降︑とくに昭和三十九年十月の答申﹁最低賃金の対象業種および最低賃金の目安について﹂
︵以下﹁第二次答申﹂と呼ぶ︶によって発展が具体化された時期であり︑現在にいたる︒第一の時期は︑労働力不足に促
がされた業者間協定発展の時期であり︑第二の時期は︑中小企業近代化政策にそって行政的推進をみた時期である︒
富山県における最低賃金は︑現行法施行の年十二月に︑不二越協力工場会︵株式会社﹁不二越﹂の下請工場群︶適用労
働者三千人と織物染色業二千二百人に適用されたのを最初に︑順調な発展をとげた︒昭和三十七年度末の状況では︑
九条二五件︑十条二件︑適用労働者三万七千余名を数えている︒設定件数の大部分が九条︵業者間協定︶にもとづくこ
とは︑法の性格からして当然の全国的な状況であった︒この時期の業者間協定の発展が︑労働力需要の急激な増加に
ともなう小・零細企業の労働力確保難に基本的な要因があったことは言うまでもない︒業種の大要は第二表に示され
ている︒鉄工業・機械器具製造業の六件が最も多く︑伝統的な産業で零細企業の多い織物業がこれにつぎ︵﹁各種製造
いずれも概して低賃金業種であり︑深刻
な労働力不足を経験した業種である口技能労働者不足に悩む製材業︑電気工事業の設定も早い︒全国的すう勢と第一
次答申の言う﹁業種別不均衡﹂に関連しして言えば︑業種が多く小・零細企業の比重も高い食料品および繊維工業で 業﹂の内容は主として織物業である︶︑その他鋳物業︑医薬品︑プラスチック等︑
件数が比較的少なく︑適用率も低いことが注目される︒
いま富山県における労働力不足について若干の指標をあげれば︑次のとおりゼあった︒まず︑この間における生産
増加のテンポの急速な状態については︑昭和三十三年と三十七年を対比して︑製造業の生産出荷額が約二倍に達して
いることからも知られるが︑これにともなう労働力需要の高さについては︑同じ時期に製造業従業者数が一・五倍近
くに膨張していることを見るべきであろう︒労働力需要は︑重化学工業の進展を反峡して若年労働力と技能労働者に
守r l 71
つL
産 業 別 最 低 賃 金 決 定 状 況
昭度末和37年 昭和41年6月末現在 業種内容と範囲
九割十条九割十条|清号室寝室議昭和37年 l~fF~皇
産 業 言十 I 241 I 381 413・
吋ヰ
[計 22 32 3 2, 342:60, 833
食 料 品 製 造 業 2 5 250 3,584製まパぼンこ, か
繊 維 工 業 2 7 245 1ム1,247染織物色ねん業糸
製 衣製服その他造繊維製業品 1 30 1, 152
木材・木製品製造業 1 1 398 4,527 製 材 業
家具・装備品製造業 1 69 1, 186 家具製造;
紙 加 工 品 製 造 業 1 1 59 889 紙 製 容 器
印 目周 業 1 1 1 1 141 2, 224 印 府リ 造 イじ 学 工 業 1 1 131 4,819 医 薬 品 窯 業 1 1 1 1 120 1, 187 粘 土 瓦
非鉄金属製品製造業 2 2 110 1,676 軽銅合金金属鋳鋳物物
金 属 製 品 製 造 業 1 20 2,999
不地プアのロ二ル域協レ越鉄ス定ミ打下工業抜請
機 械 器 具 製 造 業 6 1 356 11, 028 統 ,/E:>コ,.
業 電気機械器具製造業 1 1 26 3, 6.62 弱電気部品
輸 送 用 機 器 製 造 業 1 19 225 木 船
ファスナー
そ の 他 の 製 造 業 2 4 214 3,496 プラスチッ
各 種 製 造 業 3 3 154 6,932 福端部ク〉町市巴町小,城矢
非 3十 2 6 1 l, 481 8,501
製 建 設 業 1 1 282 1,538 電 気 工 事
造 理グク容,リ美ーニ容,ン
業 サ ー ビ ス 業 1 5 1 l, 199 6,963 白動車整備
第二表
最低賃金と地域労働経済︵藤原︶
一 一 一
一
一富大経済論集 職業安定課 135年3月卒[36年3月卒137年3月卒;38年3月卒\39年3月卒[4咋 3月卒|
製造業の年次別初任給推移(中卒者〉
第三表 次 年
12,350 10,615
9,260 8,371
6,890 5,720
男
10,688
一
一 一
一一
一
12, 115
直結したのではない︒昭和三十六年︑﹁富山市機械工業産地診断﹂は︑抽出個別調査の項に 集中した︒新規中卒者を例にとれば︑就職率がほとんど一
O O
M
に達していることは言うまでもないとして︑充足率は三十四年の七六・八弱から三十七年四五・二
M m と下降の一路をた
どり︑初任給は年々大巾な上昇をとげている︵第三表︶D
一方︑中小企業が主に依存しなければならなくなった一般職業紹介では︑殺到率が低下し
て一に近づいていること︑それにもかかわらず就職率はかえって転落し︵三十四年二0
・ 七 ︑
充足率も三十四年の三二・六から三十七年一五・
O
に低下していることが10,202
三十
七年
七・
九︶
︑
a. 注目され&︒中小企業はその提供しうる条件をもってしては︑求める質・量の労働力を︑こ
﹂からも得ることは出来なかった︒
8,825
具体的な事例によってその発展をみよう︒第一に︑適用件数が最も多く︑適用労働者の比
重も全体の約五分の一を占め︑最低賃金の普及率が最も高い業種である鉄工業・機械器具製
造業について︒同業種は︑中小企業のなかでも若年労働力需要が一番高い部類に属している︒
6,365
ここでは︑経済成長過程における労働力需要の異常な高まり︑従業者数で言えばその飛躍的
な膨張が︑きわだった特徴となっている︒経済の成長にともなって年々増勢を示した製造業
5,456
従業者が︑五年を経てやっと一・五倍に達したとき︵基準年次昭和三十三年︒三十八年の指数は一
五一・一︶︑機械製造業従業者数は三ヶ年ですでに三倍に達している︵一二十六年の指数二九九・四
三十
八年
三O五・九%
女
機械器具製造業の労働力需要はきわめて旺盛だったが︑しかし︑それがすぐ労働力不足と
業 種 別 平 均 賃 金
種!?三1;~1;~;~1
業
機 械 78円 41円 31. 5才 銅 器 77 37 36.9
医 薬 品 76 33 36.7
フ。ラスチック 58 32 28.8 織 物 55 31 34.0
第四表 機械工業従業者数の
規模別推移(昭33=100)
おいて︑﹁診断工場では求人の困難を差程に感じておらず︑富山市を中心とする
富山県労政課調
労働市場は需給のアンバランスが︑工業地帯をひかえる大中都市に比し比較的
にゆるやかであり﹂と伝えるほどの状態があった︒当時における平均賃金を若
干業種について比較すれば︑規模を同じくする小・零細企業︵従業者二九人以下︶
の場合で第四表のとおりである︒機械製造業の賃金は︑男女ともに他業種より
若干高い︒また︑県内産業中成長率の最も高い花形の業種として︑労働力需給
の上では幾分の余裕を残していたことがうかがわれ司令
だが︑重化学工業化の急激かつ本格的な展開にともなう若年労働力・技術者
不足の現象が︑大企業と中小企業問の労働力調達上の格差を拡大して行ったこ
とは当時の全国的な傾向であった︒富山
300人以上p
, '
機械工業計
, /
'
/
/ /
// 30〜299人
//
//
/
//// 4で人
/ / / /
i I I ~/ ̲
/ i
I ,,,-ノ~・ r/ ; I ・' / 製造業総計
/
J 〆
o -~ど三J一
る︒従業者数の急激な増大が︑なにより
:‑279ー 第一図
300
最値
賃金
と地
域労
働経
済︵
藤原
︶
37 年
県の場合︑従業者数発展上の規模別格差
は第一図によって知られ&︒機械器具製
36
造業について︑従業者一
OO
人以上とそ35
れ以下の区分をとれば︑昭和三十三年か
34
ら三十八年までの五年間の増加率は︑後
者で二倍のとき︑前者は四倍となってい
33 200
も大企業の蓄積と拡大の驚異的な発展に
一 一 一 一 一 一
一
‑280ー
富大経済論集
一三
四
よって先導された事情は充分明らかである︒
昭和三十四年十二月不二越協力工場会︵従業者三︑
0 0
OO
円の最低賃金を決定・公示し0
名﹀がいち早く一日二た背景は以上のようなものであった︒同年について言えば︑機械器具製造業就業者数の高い伸びにもかかわらず︑増
加従業者のほとんどが大企業に吸収されて︑中小企業就業者数は停滞的な状態にとどまっていたことも注目すべきで
あろう︵第一図︶︒最低賃金は︑親会社の生産拡大に対応する意義をもち︑あわせて下請加工賃算定上の基礎ともなる
ものであった︒
鉄工業ひいては呉西地区における最低賃金の発展については︑いま一つの事情︑高岡市般若鉄工所の急激な発展も
大きな影響を与えている︒同鉄工所は︑昭和三十四年には従業者二
OO
人の中企業にすぎなかったが︑設備投資の急増︑工業機械需要の飛躍的拡大の波にのって旋盤に手がけ︑廉価性と納期の早さを武器として異常なほどの成長を遂
げた︒そして倒産直前の昭和三十六年十一月には︑四工場︑従業員数三︑
0 0
0
人︑月産約七OO
台︑国内生産台数の六割を誇る旋盤専門メーカーとなっていた︒成長の基礎は低額の固定給と︑プラスされる奨励給および残業収入で
あったと言われている︒しかしともあれ︑生産の拡大に応ずる労働力需要は︑相対的な﹁高収入﹂︑とくに手取額の
魅力によって満された︒急激な労働力需要に応ずるためには募集方法も露骨なものが採用された︒市内鋳物業その他
の町工場では門前に労働者募集のはり紙が見られ︑直接的勧誘の手も積極的であったと一一言われる︒結果として高岡周
辺の町工場の賃金水準は急速な手直しを迫られ︑防衛としての最低賃金の必要性も企業家聞に認められて行った︒
鉄工業にひきかえ︑製材工・電気工事士等の技能労働者︑あるいは低賃金の女子労働力に依存してきた中小織物業︑
医薬
品︑
ファ1
スナ
1製造業等では︑労働力の絶対的な不足を直接原因とした︒技能労働者の最低賃金は︑
一般
工と
は別に資格を規定して高く決められているD技能労働者の不足状況は︑規模別では︑昭和三十五年二月の調査で従業
者一
o o i
一九九人の規模で最も高くつ至・六
M m ︶ ︑
翌年には不足率が高まると共に最高値は規模的に幾分上位にず
れているのをみる︵従業者一
00
1一九九人さ三・一%︑従業者二
OO
i四九九人で四六・五%︶︒小・零細企業も不足率は
カバーできる余地を考えるならば︑ここでは労働力需要とともに公正な競争条件の設定という意義も加えね
ばな
らな
い︒
高い
が︑
女子労働力に関しては︑新規学卒では︑成長過程における需要の六O%前後が女子労働者に向けられていること︑
また繊維産業大企業の需要が目立って高く︑そのため大企業中心型の需要構造となっていることが注目される︒また
一般労働力についても︑既存の就業構造は大きくゆり動かされた︒機械工業︑プレス工場では若年女子の機械工進出
も進み︑他方︑農村地帯では手作業による弱電気部品製造工業の発展が及ぼした影響も大きいが︑なによりも建設業
等急激に拡大した業種の需要は積極的で︑繊維工業の地盤であった農村地帯にたいしては︑マイクロバスやトラック
等の輸送手段を用いて︑その労働力をかすめ取った︒昭和三十六年一月の調査によれば︑織物業の労働力充足率は全
体として四割︑しかも大紡績工場で一OOMの充足率にたいして︑中小専業機屋では三割を下回ると言われ︑後者に
おいでも織機の増加は急速に進んだのであったが︑求人難がかえって生産過剰の問題を柔げているという皮肉な説明
をうける状態であった︒中年婦人の職種であった鋳物業の型こね工︑中子工では︑汚なさと労働の激しさが嫌われて
労働力を補充できず︑前者は男子の仕事に移り︑後者は比較的高自の最低賃金を採用するとともに︑労働力を農村地
帯から求める方向をとった︒
最低賃金採用の最初の一つである染色整理業については︑輸出産業としての規制というよりは︑昭和三十三︑三十
四年と受注量の減少した結果激しい過当競争が行なわれて加工賃が採算点をはるか下まわるまでに低下し︑労賃低下
のために労働者の離散が相継いだことが直接の原因であった︒最低賃金は業界再建のための適正加工賃確保の努力の
最低
賃金
と地
域労
働経
済︵
藤原
︶
五
富大経済論集 最 低 賃 金 決 定 額 の 年 次 推 移
λ ; : 壬 昭
73〜 41〜昭3115〜 1制
〜|
17昭
〜1〜3717〜I1脚 昭 泊〜17〜1〜!?〜 昭40 昭1〜 4112 6 12 6 12! 6 12 6 12 6 12 6 12 6
199円 以 下 | 2 2 2
200〜249円 2 2 15 6 3 1 250〜2991,少 1 2 3 4 4 1 300〜3491,少 1 4 6 5
: 1:>:
350〜399‑7 1 1
400〜449‑7 1
450〜499‑7 1
500円 以 上 1 li 1
件 数 計 4 4 18 9 6 10 13
第五表
設定様式が職種.年数等によって区分されている時は各一件とした。
月日は公示年月日による。
一 一 ニ 六
一環
であ
か︒
以上︑労働力不足を基本因とする業界者間協定発展
の具体的事情について考察してきた︒若年労働力不足
と賃金水準上昇の影響については︑最低賃金決定額の
年次別上昇傾向のうえからも︑これをたしかめること
が出来る︒第五表は最低賃金額の推移であるが︑最初
二
OO
円と一八O
円︵六ヶ月未満︶で決った最低賃金は︑逐年上昇して昭和三十五年十月以降二
OO
円未満の決定は姿を消し︑三十七年一月以降は二五
O
円未満も消え︑三十八年四月以降決定はいずれも三
OO
円以
上である︒以上を通じて︑その労働力不足が同時に︑
共通して旺盛な拡大意欲を背景としていることは︑見
のがし難い特徴となっている︒
業者間協定は発展したが︑しかしこれをもって︑中
小企業は労働条件の改善を﹁余儀なくされた﹂ものと
うけとり︑そこに現行法の﹁有用性﹂を見だしたり︑
あいは業者間協定のゆえに対応が﹁偽踊的﹂であった
ことに終るならば︑業者間協定による最低賃金の性格
を問題とする上では︑一面的な視角と言わなければならない︒旺盛な蓄積意欲はたしかに賃金の引上げにとって有利
な条件ではある︒最低賃金決定額の上昇はこの一面を表わしている︒だが︑資本制的蓄積の発展が労働者階級に及ぼ
す影響は︑本来︑決してパヲ色のものではなかった︒加えて︑高度成長経済の下における中小企業は︑設備の更新・
拡大に追われ︑なおかつ﹁企業格差﹂拡大の圧迫を強く受け︑
ならない状態にあった︒ ﹁近代化﹂のため資本形成を最大の課題としなければ
実態上注目すべき点は︑生産の急激な増大の要請にともなって︑労働強化が進行したばかりでなく︑中小企業では
労働基準法無視の傾向も高まっていること︑労働力不足がさらにこの状態に拍車をかけていること︑いま一つは︑資
本蓄積の諸方法は同時に過剰人口創出の諸方法であり︑労働力不足は同時に労働力過剰同題と並行し︑かっ︑農業近
代化と物価騰貴が追加労働力の強制的供給手段として大きな作用をもった事実である︒
最低賃金決定の全国的な水準については︑製造業零細企業︵従業者一
t
四人︶の年少者賃金の上昇にさえ追いついていないという批判がある︒昭和三十六年の政府諮問の①﹁現実の賃金水準と比較して低過ぎる金額﹂にあたるこのこ
とは︑業者間協定を中核とする現行法の基本的な性格を示すものであり︑批判の事実は富山県の場合にも妥当すム︒
そして第一次答申当時︑最低賃金制は﹁若年労働者の極端な低賃金・極端に低い初任給の上昇を下からけん制するフ
ァシズム的賃金統制の一つの道具に転化しつつある﹂と言われたのもこの事実によってであった︒
ところで富山県の場合︑ここで言われている十八才未満労働者は︑早くから小・零細企業における最低賃金の主要
な対象となってはいない︒第六表は︑代表的業種について年令別従業者構成︵二九人規模以下︶を調査したものであるD
‑283‑
昭和三十六年二月の調査で︑すでに十八才未満労働者の数はきわめて少なく︑機械器具製造業で八鋭︑銅器製造業で
は二%である︒このうち従業者一
t
四人規模事業所についてみれば︑機械製造業および銅器製造業では一名の該当者最低賃金と地域労働経済︵藤原︶
一三
七
‑284‑
富大経済論集
小・零細企業の年令別従業者構成(従業者29人以下企業)
製富造山市業医薬品 福野町織物業 高造業岡市銅器製
昭36・21昭39・10昭36・21昭39・10昭36・21 (18才未満) (ω) (38) (8) (4) (10) (7) (11)
71 26 5 19 14 35 240 95 38 58 43 115 30〜40才 タ 154 162 77 68 55 71 140 40〜50才 グ 69 115 76 61 32 48 93
5J才計以上||
5~~
657 69 363 37 264 36 12837 243 19 478 95第六表
労政課「中小企業賃金実態調査」による
) 18才未満は内数
年 次 別 , 期 間 別 改 定 件 数 ( 廃 止 を ふ く む )
l~品昭お!昭巾幻|昭山 l 昭 40 I昭41
1 / 3 I 10 I 1s / 4 22 I
内1伴伴I~年年年半年~~~l年未:年年半満
グ。
グ 1 2 1 1 2 3 1 3 5 11 2 6 7 2
2年〜2年半グ 5 3 2 5 1
訳2年半〜3年タ 1 2 2
3 年 以 上 2 1
第七表
一三
八
もなく︑医薬品と織物業でも各一名
を数えるにすぎない︒次に昭和三十
九年十月の調査と対比してみよう︒
医薬品をのぞいて労働者数はふえて
いるが︑若年者は絶対的にも減少し
ており︑二
O
才未満にまでひろげてみてもこの層の比重は大巾に低下し
ている︒業種︵労働内容︶によって年
令別構成の変動は違っているが︑零
細企業の最低賃金はすでに若年労働
者の確保を目標としえない状態にあ
った︒三ヶ年半にわたる最低賃金額
の上昇傾向をしても︑小・零細企業
の若年労働力の吸収・確保に役立た
なかったことは︑紛れもない事実で
ある
次いで第七表に注目しよう︒表は ︒
設定以来改定にいたるまでの期間を
年度別にとったものである︒富山県の場合︑すでに昭和三十七年度以来改定件数は新設件数を上回る傾向を示してい
るが︵第一表︶︑そのことは決して賃金上昇への対応の早さを示すものとは言えない︒改定は昭和三十五年十二月の不
二越協力工場会︵期間一ヶ年︶を最初とするが︑通常の改定は一年半から二年半の期間をおいているのである︒最低賃
金による﹁倒産・|l失業の危険﹂ではなく︑最低賃金をもってしでも労働力不足に対応しえないことが憂えられた時
期における︑改定の傾向がこれであった︒
改定第一号・を飾る不三越協力工場会の場合について言えば同年八月に富山市鉄工業協同組合で同様の最低賃金の決
定をみていること︑さらに二年後の次回の改定︵昭和三十八年一月︶においても︑すでに四ヶ月前に同水準の決定が同
じく富山市鉄工においであったこと︑あるいは一年前︵魚津鉄工・伏木鉄工︶一年半以前︵洗鉄鋳物業︶に︑同業関係に旧
金額を上回る最低賃金額の設定が行なわれていることは見逃しがたい︒一物一価への﹁追随﹂というだけではなく︑
すでに昭和三十六年十月の調査において︑機械製造業では格差は﹁総支給額では消滅した﹂と言われる状態にあり︑
零細企業においてかえって賃金水準上昇の気運が高かった時期の運動がこれである︒最低賃金は︑小・零企業にとっ
ては直接的な意義をもつものではなく︑若年労働者採用の可能性をもち︑かつ最低賃金を﹁守る﹂ことの出来る上層
にとって現実的な意義をもっと言われる意味はこの点にあった︒零細企業による不正競争を排除するという賃金カル
テルの意義は︑拡大意欲の異常な高さを背景とするこの時期においては︑かえって近代化を期待された中小企業上層
n o
の低賃金維持の手段に転化したのである︒
注ω
区分
はほ
ぼ︑
﹁高
度成
長政
策期
﹂と
﹁安
定成
長政
策期
﹂に
対応
して
いる
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かし
︑中
小企
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る︒
ω
﹁職
業安
定業
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る︒
ω
この
増加
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︑製
造業
総計
中に
占め
る従
業者
構成
比も
︑昭
和三
十三
年の
六・
九か
ら三
十六
年一
四・
九に
高ま
って
い
最低
賃金
と地
域労
働経
済︵
藤原
︶
一三
九
‑286‑
富大経済論集
一 匹 ︒
る︒三十八年には若干低落したが一四・O
であ
る︒
ω
富山県商工労働部中小企業課﹁富山市機械工業産地診断勧告書﹂︵昭和三十六年十月二十三日︶一三五頁︒伺このことは︑鉄工業における最低賃金が概して低く︑かつ今日においても比較的低い額に定められている大きな理由となっ
てい
る︒
ω
工業統計表上の都合によって機械工業全体の数値をとったが︑機械器具製造業だけをとれば規模別格差はこれ以上にはっきりしていることは他の諸指標によって確めることができる︒
的富山県般若支援共闘会議﹁倒産ーその実態をあばく﹂︒
刷業者間協定の発展は︑労働力需要の増大にともなう中小企業の労働力確保策を基本的な要因としているが︑これに単純他す
ることなく︑現実的には多様な要因によっていることをみつめなければならない︒︵このことは業者間協定の性格の評価とも
関連してくる︒︶藤本武氏は八項にわたって諸要因を列記して︑﹁多くの場合種々の要因が組み合わさってそれの締結が促進
された﹂と指摘している︒なお︑第七﹁公正な競争条件の設定﹂のなかでは︑﹁業者間協定の締結運動の中心に立っているの
が︑やや規模の大きい業者であるという事実﹂をあげている︒同氏﹁最低賃金制度の研究﹂六五三頁︒
ω
北陸銀行調査部﹁富山県の産業﹂三四頁︒ω
藤本氏の言う諸要因の第八﹁親企業に対する加工賃引上げに利用する手段としての業者間協定﹂がこれにあたる︒しかし︑最低賃金が直接に加工賃引上げの役には立たなかった︒﹁実効﹂ある加工賃協定は昭和三十六年のことと言われる︵前掲﹁富
山県の産業﹂八一頁︶︒なお︑輸出業種の最低賃金をソシャル・ダンピングに対する諸外国の非難をそらすための偽騎手段と
みることにたいして︑藤本氏は﹁この要因をそれほど強く考えることは問題であろう︒というのは︑諸外国の独占資本は︑こ
んな業者間協定による低い賃金を決して高く評価しないからである︒﹂と述べている︵同氏前掲書六五O頁︶︒国際的な競争激
化のなかで同要因が改めて見直される時期が来るとすれば︑最低賃金制も新らしい装いを必要とするようである︒
ω
決定水準は全国的すう勢にしたがい︑ほぽ平均的である︒前掲﹁賃金月報﹂第十七巻十号﹁最低賃金制の概況﹂の第三表と第八 表参 照︒
ω
決定的な問題は︑中小企業労働者の組織率の低きである︒また︑未組織労働者と組織労働者を機構的につなぐものとして最低賃金審議会の意義は大きいが︑その機構的に無力な内容については︑従来も屡々批判されて来た点であり︑再説を要しない︒
ω
藤本
氏前
掲書
六五
一
i二
頁に
引用
され
てい
る松
岡三
郎氏
の陳
述は
興味
深い
c
ω
黒川
俊雄
﹁現
段階
にお
ける
現行
最偶
賃金
法﹂
︵﹁
経済
評論
﹂一
九六
四年
二月
号所
収︶
雑誌
六九
頁︒
争の
現状
と課
題﹂
七頁
︒ 仰第六表と第五表を比較せよ︒側黒川氏前掲雑誌六九頁︒
側近代他のなかで若年労働者依存の性格が強まっている機械器具製造業の場合でも︑小・零細企業では︑二O
才未
満の
出重
は
低下
して
いる
︒低
下は
二O
才か
ら三
O才
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働者
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われ
てい
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︑こ
こで
も重
心は
後半
年令
に移
って
いる
︒
同富山県商工労働部﹁中小企業賃金実態調査﹂︵昭和三十六年度︶二一i
三頁
︒
細迫朝夫
﹁最
低賃
金制
闘
最低賃金における経済的視点の確立
最低賃金発展の第二期は︑昭和三十八年八月の第一次答申にはじまる︒だが︑問答申の出発点はさらに二年前にさ
かのぼる︒昭和三十六年六月二十七日︑政府は第十五回中央最低賃金審議会にたいして︑﹁最低賃金制の今後のすすめ
方﹂について諮問した︒当時政府は︑昭和三十六年度を初年度とする三ヶ年の﹁最低賃金普及計画﹂
︵い
わゆ
るコ
一五
︒万人普及計画﹂︶をたてて実施に入っていたが︑同時にそれまでの実情を分析して︑①業種別普及の不均衡︑②地域別
普及の不均衡︑①現実の賃金水準と比較して低過ぎる金額︑④時間の経過による改正の必要等の問題点を指摘して︑
法運用上の今後のすすめ方を諮問したのであった︒
﹂の
諮問
が︑
﹁所得倍増計画﹂︵昭和三十五年十一月答申︶に関連していることは言うまでもない︒同計画は︑独占資
本の高度成長計画であったばかりでなく︑その基盤としての中小企業についても積極的な構想を打出していた︒
一括
71
n o
門/ιなど数点を中小企業対策の﹁基本的目標﹂としてかかげ︑最低賃金制度についても︑近代化の一環として﹁全雇用労 して中小企業の﹁近代化﹂と言われるその方向は︑企業格差の是正︑規模の適正化︑設備近代化︑労働関係の近代化
最低
賃金
と地
域労
働経
済︵
藤原
︶
四