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オーストラリア留学における大学準備教育・ 大学の接続の一考察

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オーストラリア留学における大学準備教育・

大学の接続の一考察

‑日本の留学生支援研究の一環として一

佐 藤 優 子

(1)課題の設定および研究の目的

本稿は,日本の高等教育機関における接続問題を考察するために,オーストラリアの高等教育機関 における大学入学前教育と大学の教育プログラムを取り上げ,両者の接続が留学生にとっていかに有 効であるかについて明らかにする。

日本における大学開放において,留学生はその対象である。彼らを受け入れるにあたり,入学前 の予備教育機関の整備(1)ぉよび,入学後の彼らへの配慮が必要である(2)。留学生に対する支援体制 の今後の課題として,教育機関相互の連携をいかに図っていくか,スタッフの資質はいかなるもの が求められるかを検討していくことが挙げられる。文部科学省の「平成13年度私費外国人留学生学 生生活実態調査」によると,来日後日本語教育施設等を経ずに,大学等‑直接入学した留学生は全体 の37.8% (904人)であった。一二万,来日後留学生別科を含む日本語学校を経て大学等へ入学したも のは全体の51.7% (1236人)であった(3)この全体の半数を占める者のうち,国費留学生は,文部 科学省や大学の碇供する留学生別科に入り,大学へ向けての準備課程を受けることができる。その反

面,私費留学生の場合は大学入学前に,日本語学校を経由し,大学入学基準である留学生統一試験を 受け(4)日本語能力検定一級に合格しなければならない。ここでの問題は,日本語学校と大学がそ れぞれ独立運営されているため,日本語学校から大学へと進学する留学生は,全く異なる環境へと急 に移ること,さらには制度や知識,情報といった面で,大学入学前と入学後で受けた教育の関連性や 継続性が途切れていることである(5)

翻って,オーストラリアの高等教育機関を見てみると,留学生に対して,入学前には大学付属の大 学準備教育(Foundation Program :以下FP)が,入学後には初年次教育(FirstYear Experience :以 下FYE)(6)が設置されている。これらの教育プログラムは留学生が,大学生活により早く順応し,ま た一貫した知識を学ぶことを目指している。接続問題の今後の課題は,大学入学前教育と大学教育間 の「その接点から線に伸びる接続課題」(7)であり,大学入学選考改革から,教育機関両者の教育プロ グラム間の接続である。この点が整備されているオーストラリアの事例は,日本の高等教育機関に参 考となろう。

本稿ではこの視点から,接続問題を以下の順序で考察していく。まず,第‑節では,入学前のFPを,

(2)

第二節では,入学後のFYEを取り上げ,両節とも, (∋制度的観点, ②教育プログラムの内容, ③スタッ フに求められる資質の三点から接続問題を検討する。

(2)先行研究

留学生に関する先行研究としては,中島直忠『日本・中国高等教育と入試〜21世紀‑の課題と展 望』(8)の入学制度に着目した論文や漬名篤弓=嶋大津夫『初年次教育〜歴史・理論・実践と世界の動 向』(9)の初年次教育に関する論文があるが,本稿とは目的および扱う領域が異なっている。そして, 須賀章夫「留学生受け入れモデル〜大学と日本語学校の協調関係を見据えて」(10)の論文は,大学入学 後1, 2年で日本語学習を中心に行い, 3, 4年で専門教科を学ぶプログラムを提案したものであるが,

日本語末修得のまま入学した後の単位修得の確実性について論じていない。また,オーストラリア 高等教育に関するものとしては,杉本和弘『戦後オーストラリアの高等教育改革研究』(ll)がある。こ れは,戦前から現在までのオーストラリア高等教育の制度的改革に焦点が当てられたもので目的が異 なっている。本稿は,接点から線に伸びる教育プログラムを考察しているという点でその方向性およ び視点が異なる。

(3)概念の整理および用語の定義

本稿のテーマは大学入学前準備教育と大学入学後教育間の「接続」である。本稿ではこの言葉を どのようなものと捉え用いているのか。高大接続の研究者,池田輝政は接続の概念図を二つ提示して いる。第一に,高校と大学の間には教育機関の目的・目標そして内容をコアとする不連続の制度的溝 が存在し,その溝をわたす橋の機能として選抜の仕組みが作られてきたというイメージ図である。橋 を渡ることができる入学者の資格が,大学制度もしくは個別の大学が明示する入学基準(入学スタン ダード)である。ここに接続の具体化として,高校には進学準備教育に進学指導が加わり,大学には 入学基準に初年次教育指導が加わった。第二に,中等教育と大学教育の出口スタンダードを強調した 点と,上下両方向の二つの矢印を加えて,両者の関係者の交流と対話が制度的溝を超えて進展するこ とを強調したイメージ図である(12)。本稿では,これらの概念図を留学生の教育プログラムの接続問 題に置き換え,これが留学生にどのような肯定的な作用をもたらしうるのかを考察する。

第一節 入学前の大学準備教育

FPは,留学生対象の大学付属の大学入学準備教育機関のことであり,オーストラリア国内40大学 すべてに設置されている。オーストラリアの教育制度が,大学入学時点には専門科目に関する基礎知 識を備えていることを求めているため,母国で中等教育を修了し,大学入学を目指す留学生にとって FPは通過しなければならない教育機関となっている。申請には, FPの定める英語試験スコアおよび 母国での成績を提出する。 FPはインテンシブコースであれば半年を要するが,通常一年間のコース である。では, FPは留学生にとってどのような利点があるのか。第一に,その大学付属のFPに入

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学し, FP期間中に自分の入学希望学部が設定する成績を修めれば, FP修了後にその大学学部に入る ことができる。第二に, FPは大学で要求される基礎知識を習得できる機関としてデザインされてい る。以下では, ①制度的観点, ②教育プログラムの内容, ③スタッフに求められる資質の三点から留 学生にとってのFPの意義を,オーストラリア高等教育の中で,最も留学生数の多いシドニーにある ニューサウスウェ‑ル大学(University of New South Wales :以下UNSW)(13)を事例として検討して いく。 UNSWには,他大学と比較して,最も規模が大きく,それゆえにプログラムの構成が整備さ れているFP機関がある。

(1)制度的観点

FPと大学が制度の継続性を持ち合わせた教育機関であることは,留学生にとってどのような意義 があるのだろうか。

FPは留学生を対象としていることから,世界各国の教育制度を考慮し, FP入学時期を年に二回設 けている。二回の入学時期はどちらも,大学入学日までに修了できるように逆算され設定されている。

FPの目的のひとつは,留学生が学部生として入学する前にオーストラリアの教育環境に適応するの を援助することであるため,留学生が学習に困難を感じた際に利用できるようなカウンセリング等の 支援体制も整備されている。また, FPの建物が大学の敷地内にあることから∴諸施設が利用できる。

FPにおけるキャリアアドバイザー(CareerAdvisor)は,学生の進路相談に随時応じるだけではなく, 進路説明会を設けている。進路説明会では,留学生はUNSWの学部スタッフに直接会い,どの学部

に進学するのがよいのかどうか相談することができる。学部情報が後日再確認できるよう,オース トラリアの大学と学部の入学基準が載っている大学入学ガイド(Guide for University Entry)も配布 される。では,大学の定める入学基準とは何か。 FPのパンフレットには,あらかじめ大学の各学部 の入学基準が掲載されており,留学生はFP入学前から求められる基準を知ることができる。その基 準は大学が要請している基準である。入学基準を満たすためには, FPを通して課せられる全ての課 題をこなし, 80%以上の出席率を保つ必要がある。そして,それらの成績と修了間際の試験の総合点 で,最終成績が出される。それ以外に,英語の成績が一定基準以上であることが求められる。この入 学基準を満たした者は大学入学前教育と大学教育との間に存在していた不連続の制度的溝を渡ること が許可されるのである。留学生は,そのままFP付属の大学への進学希望であれば,修了間際に配布 される用紙に,希望学部を記入すればよい。その後の諸手続きは,希望学部の求める成績を修めてい ればFPが自動的に事務手続きを行ってくれる。大学人学手続きに求められるビザ申請書類等も併せ てFPが用意するため,留学生が自ら行わなければならない手続きは省かれる。 FPに入学した学生は, 多くの場合は,そのまま付属先の大学に進学する。しかし,在籍中に他の大学に進学を変更したいと

なっても,それは可能である。なぜなら, FP修了資格は,オーストラリア全土で共通の留学生の大 学人学資格でもあるからだ。他大学進学‑の手続きは留学生個人で行うことになるのだが,それにあ

たってのアドバイスをFPは行ってくれる。

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これまで論じたことから, FPは進学準備や進路指導を兼ね備えた機関と位置づけられる。留学坐 にとってのFPの制度的利点は,諸手続きの簡素化,大学入学に関する情報入手の機会の豊富さ,的 確なアドバイスを受ける機会があるということである。さらに,母国での学習歴にFPの成績を加算 したものを入学基準として,大学入学に適用している。 FPは大学の要請する目的・目標に即した運 営をしているため,大学入学前教育と大学入学後の制度的な隔たりは小さくなっていると考えられ

る。大学付属であり,大学内に施設があるFPは,留学生が大学生活を垣間見ながらFPの期間を過 ごすことができる利点もある。それは彼らの進学に対するモチベーションに効果的に働くと考えられ る。

(2)教育プログラムの内容

次に,大学入学前に学んだ知識と,大学入学後に学ぶ知識の関連性を考察するために教育プログラ ムの内容に着目する。万が一,留学生が大学入学前の機関で学んだことが,入学後に結びついていな いのであれば,彼らは入学後に始めて新たな知に出会うことになるといった点で,それが現地学生と 机を並べて学ぶにあたって不利な立場におかれる可能性がある。ところが, FPの場合, FPのコース カリキュラムは,大学とFPが共同で作り上げているため,そのような問題は生じにくい。それはな ぜか。以下,大学の専攻に即した教科,オーストラリアン・スタディーズ(AustralianStudies),そ

の他のスキルの順に考察していき,留学生にとってのFPの意義を検討していこう。

FPの授業は,大学の授業形式に即したものとなっているため,講義(lectures)と20名以下のゼ ミ(tutorials)から構成される。ゼミの授業の流れは毎回学生に担当者が割り当てられ,担当者が課 題について発表をし,それについての討論をすることである。評価は課題と試験,参加・出席率によ

りなされる。どれをとってみても,大学の授業で実際に行われる方法であり, FP学生は大学入学前 に事前体験をすることができるのである。

FPは, 5つのストリーム(Stream)から構成されており,留学生はFP申請時にどのストリームに 入学したいかを決定する。ストリームは,商学(Commerce),物理化学(PhysicalScience),生活科 学(LifeScience),グラフィックデザイン・建築(Design/FineArtsMedia&Building),人文科(Arts) である。例えば,将来学部で工学,コンピューターサイエンス,科学,医学部に進学したい学生は, 数学,化学,物理,コンピューターが必須科目となっている物理化学のストリームを選択することに

なる。これらに加えてさらに,英語とオーストラリアン・スタディーズが必須科目である。前者は, 英語と一概に言っても,専門科目別の英語となっている。後で詳しくみるように,英語は,学習スキ ル科目(S山dySkills)と有機的に結び付けられた科目である。

後者のオーストラリアン・スタディーズは,全学生共通の必須科目であり,オーストラリアについ て学ぶ科目である。大学での授業やゼミは,オーストラリアという場所にいることが前提となってい るため,オーストラリアの文脈に基づいた授業やオーストラリアを考察の出発点とする授業が展開さ れる傾向にある。そして,クラスメートは多くの場合オーストラリア人である。よって,オーストラ

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リアについてある程度の予備知識がないと授業に参加するどころか話についていけないことがあるた め,オーストラリアについて学んでおく必要があるのである。オーストラリアン・スタディーズが目 指すところは, 「現地の地理,歴史・文化に関する基礎知識を得ること」(14)である。そのために授業 内容は,オーストラリアの国際的位置づけ,地理,社会情勢,政治・法律の基礎知識,オーストラリ アの国家主義とアイデンティティの発達,移民と多文化主義,先住民族等,幅広いテーマを取り扱う。

さらに,授業で学んだことを課外活動で歴史博物館や市街探索に足を運び確認する授業もある。

FPには,専攻科目に対応した教科や必須科目以外に,学習スキル,情報(Information Technology:以下IT)スキル,生活スキル(LifeSkills)という科目が設置されている。学習スキル とは,能率的に課題をこなし,学んでいくために必要な学習基盤である。学習スキルの習得は,主に 英語の授業に組み込まれている。英語の文献を読む中で,時間管理法,プレゼンテーションの仕方, エッセイの書き方,リーディングの仕方,ライティングの仕方,注釈の書き方を学び,実践活動を行っ ていく。そこでは,課題に取り組むにあたり最も気をつけなければならない盗作についての話もある。

図書館で,自分の探したい本を効率よく検索するための方法や,インターネット上での論文の検索方 法もここに含まれる。 ITスキルは,大学生活において必要不可欠である。というのは,大学での課 題は,ワードで提出することが求められる。これは強制的ではないのだが,毎週示された課題を着実 にこなしていくためには,手書きでは追いつかないのである。そのため, FPはそれを見通して,ワー ドの使い方,エクセルの使い方,パワーポイントの使い方などの基礎的なコンピュータースキルを教 えてくれる。学習・ITスキルはFPの他の教科においても活用し応用できるよう,他教科の担当教員 も積極的に授業や課題に取り入れるよう注意している。それらのスキルを習得できたかどうかは,揺 業中に学生があるテーマについてプレゼンテーションをし,エッセイを書く中で確認される。生活ス キルは,異国の地で生活し,学ぶ留学生にとって,生活上諸々のトラブルが生じたときにはどうすれ ばよいか,ホームシックの対処法,いかにストレスとうまくつきあっていくか,などのスキルを学ぶ 授業である。

以上をまとめると,留学生にとっての教育プログラム間の接続の意義は, FPで学んだものが,そ の後の学習へとつながるものであるということである。それは,留学生が今学んでいること,取り組 んでいることの価値を認識させてくれるものになる。加えて,学んでいることが,自分にとってどの ような意味をもっているのか,なぜ学んでいるのかが明らかであるため,学習‑さらなる付加価値が 付与されると考えられる。このようにFPと大学における教育プログラムの一貫性をもたらしている のは, FPと大学の関係者との連携である。両者の連携が促されることは,学習の主体者である留学 生に肯定的な影響を与えると考えられるため,学習者を考察の中心に据えた両者の有機的な対話を生 み出す機会をもつことが重要である。

(3)スタッフの資質

留学生の学習が障害なく進むような役割を,客体である正規職員であるスタッフはどのように担っ

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ているのか。まず, FPそのものが情報提供媒体としての機能を有していることが指摘できる。中で ち,キャリアアドバイザーは留学生に有益な情報ネットワークを提供している。それは, 「学習者が 表明するニーズに応え,目標の達成に必要な情報を提供して学習プロセスを援助する役割」(15)であ る。次に,英語の教員は,週当たりの授業数が多いことからもホームルームティーチヤーと考えられ ている。そのため, FPの中間成績発表では,学生との個人面談を行い,学生の希望学部と成績とを 照らし合わせて,どの教科が弱点であり克服するとよいかを話し合う機会を設ける,学習マネジャー

としての役割を担っているのである。そして, FPの全教員は,情報や技術を持っているが,学習者 をコントロールすることが無いという点で専門家と捉えることができる。彼らはあくまでも留学生に とって学習に必要な教材を用意し,時には留学生の課題や質問に対応していく態度をとっている。こ ういった専門家の役割が十分に発揮されるのは,学生が短期間に集中的に系統だった知識・技能を身 につけたい場合である(16)。留学生は, FPの短期間に自らの目標に向かって学んでいるという点で, 専門家としての教員の留学生‑の関わり方は適切なものであるように制度ができている。全体を通し

て, FPのスタッフは,専門知識もさることながら留学生の生活とはどのようなもので,どういった 精神状態に陥りやすいかがわかるものが望ましいことから,留学経験者をスタッフとして採用する傾

向にある。

総じて,留学生にとってのFPの意義は次のとおりである。まず, FPの制度的利点は,手続きの 簡易さ,大学入学に関する情報提供・入手の機会の多さ,的確なアドバイスを受ける機会が設けられ

ていることである。 FPは大学の要請する目的・目標に即した制度を適用しているため,制度的な隔 たりは少なく,教育プログラムの関連性も保持されている。全てのスタッフは,留学生の必要となる 情報入手や知識獲得が可能となるような支援を行っている。 FPは大学入学を前提とした,進路準備 や進路指導を兼ね備えた機関であり,また留学生の入学後のすばやい適応を図るものである。このよ うなプログラム設置の根底には, FPと大学の対話が促進されていることにある。したがって, FPの 留学生を取り巻く物理的,人的要因である制度・施設・教育内容・スタッフを含む教育環境は,留学 生が目指す目標が達成できる方向へと導くように支援する教育環境をつくっていると考えられる。実

際,留学生にとって,さらなるキャリアの基礎となるものであったとインタビューに答えているもの がいることから,これが裏付けられよう(ユ7)。

第二節 入学後の初年次教育

前節では,制度的側面,教育プログラムの内容,そして求められるスタッフの資質から大学入学前 のFPの留学生にとっての意義を検討した。本節では,大学入学後のFYE (FirstYearExperience)を, 前節と同様に①制度的観点, (参教育プログラムの内容, (歪スタッフに求められる資質の三点から論じ

る。 FYEが教貞対象のプログラムであることから,教員の認識変容が留学生の学習環境にどのよう に貢献しているかにより重点を置いていく。

FYEは,高等教育機関において教育に携わる教貞を対象にしたプログラムであり,教員が大学新

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一年生にどのように関わっていくのかというヒントを与えてくれるものである。このプログラム設立 の背景には,大学一年の学生の退学率が高かったこと,年々クラス人数が増加し,学生人口は多様化 していることがあった。そのため,大学で教鞭をとる教員が,大学一年生がつまずきそうな箇所を把 接しており,授業を通して支援していくことが,退学率の減少につながるとの趣旨から一年生の教授 に関わるスタッフにより,このプログラムが開発された。対象となるのは留学生のみに限らず地元学 生も含まれるが,特に,留学生は, FPでは同級生がすべて留学生であったのが,大学に入学した途端, 大多数が地元学生で構成されるクラスに入っていくことになる(18)ここでは,留学生同士との英語 を使った会話よりも,スピードが速く,授業の不理解といった問題が生じる。よって,教員や大学が, 留学生の抱える問題を把握し対応していくことができるかどうか,教員がプログラムを通して得た知 識を実践していくことができるかどうかが,留学生が大学環境に適応していく鍵となる。

(1)制度的観点

初めに, FYEの留学生にとっての制度的意義とはどのようなものなのか,以下で考察していく。

FYEは,大学一年生の学生を大学生活のあらゆる側面から支援するために,スタッフに3つの役割 を割り振っている。それとは,一年生コーディネーター(FirstYearCoordinator),コースコーディ ネーター(Course Coordinator),アカデミックアドバイザー(AcademicAdvisor)である。前者ふた つはUNSWに固有のものではないが,最後のひとつはUNSW独特のものである。 FYEのプログラ ムは三者が共同して開発,発展させている。彼らの役割はどのようなものだろうか。まず,一年生コー ディネーターは,大学一年生の学習意欲と定着を高め,保留率を支援するため大学生活全般にわたる 配慮をする。そのために,学部オリエンテーションを組織し,一年生の学生にアドバイスを行ってお り,大学側は,一年生の中でも特に第一言語が英語ではない留学生がオリエンテーションに積極的に 参加するよう促している。大学が開始される前の過に開催されるオリエンテーションにより,留学生

はどの科目を履修すればよいのかわからない,選択したコースにどのような内容が含まれているのか わからない等,大講義での不安を事前に解消することができる。オリエンテーションではその他にも, キャンパスツアー,新入生歓迎会,学生サービスに関する情報,メンターに会う機会の提供,学部説 明会があるため(19)留学生が必要と感じる情報にアクセスできる機会となっている。次に,コース

コーディネーターは,科目の設置を企画し,組織する役割を果たしている。科目内容が決定すれば, 各教員が授業シラバスを作成でき,課題を示すことができるため,学生は前もって予習をすることが できるようになる。最後にアカデミックアドバイザーは,科目修了時に,成績不振の学生に対して, 今後の学習の方向性についてのアドバイスをし,必要であれば他の学習支援機関を紹介している。

では,教員が学生の指導にあたる際に,どういった点がFYEでは強調されているのだろうか。ウェ ブサイトでの情報は,教員に,教授法,キャンパスイベント,および初年次教材を提供するものとなっ ている。教授法には,後述するように,ゼミや講義での学習と教授法,効果的な集団活動,指導への フィードバック,多様性への対応,一年生の学習と教授が含まれている(20)また,教員は大学内で

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の留学生への支援体制やイベントをウェブサイトで閲覧できるようになっている。例えば,留学生対 象の支援体制は留学生サービス(International Student Services :以下ISS) (21)が行っており, ISSは, 海外からの留学生が,シドニー生活や大学生活に慣れることを助ける目的を持っていることを知るこ

とができる。また,留学生の学習支援体制としては,ユニバディーズ(UniBuddies‑ PeerMentoring fornew students)やラーニング・センター(Learning Center)がある。前者は,成績優秀の留学生 がチューターとして,入学した留学生を教えることにより,ポジティブフィードバックを与えること である(22)後者は大学が組織する英語学習のコースである。教員は,以上の支援体制をウェブサイ

トで確認することができ,学生のためにどのような支援があるかを把撞することができる。

上述のことから,入学直前のオリエンテーションにおいて留学生は,大学の授業に関するアドバイ スや,利用可能な施設・設備について知る機会が設けられている。教員が大学構内における学生支援 体制を把握しているということも,留学生が,支援体制について知りうる機会拡大となる。留学生が 必要となる学習機会の場があることは,まずそれについての情報を入手できているか否かが大きい。

それゆえに,留学生支援に関する情報提供は,彼らを取り巻く人々にも提示される必要性がある。

(2)教育プログラムの内容

次に, FYEの教育プログラムの内容が,教員に認識変容をもたらすことによる留学生にとっての 意義とは何か。文化,言語,人種,しょうがい,階層,ジェンダーといった多様な背景をもった学生 がクラスにいれば,学生の学習へのアプローチもまた多様となる。そこで,教員に求められるのは, 教授法を試行錯誤することによってクラスの学生の学習意欲を高めることである。たとえば,留学生 が他の学生とのグループワークやディスカッションを行うにあたり,積極的に交わっていく機会をつ くることによって,彼らの学習体験の総合的な質を向上させることができる。それだけでなく,地元 学生も多様性を認識し,対応していく格好の機会となる。学生はこれまで慣れ親しんだ学習方法でク ラスが運営されない場合,疎外感を抱く可能性があるため,教員はどの学生もクラスの一員として参 加できるよう取り計らっていくことが肝要である。教員は留学生のニーズに配慮しながら,彼らがそ

の困難を克服できるよう助けていくために,以下のような実践が可能となる。ひとつには,ゼミでは 自己紹介として各学生の文化背景,両親の出身地,家庭で使用する言語について発表してもらうこと で,教員自身が多様性を知ることができ,またクラスの学生にとっても他学生について知るよい機会 となる。ふたつには,ディスカッションにおいては,留学生‑の発表がある場合にはあらかじめ知ら せ,準備時間を与えるといった配慮がとりわけ必要となる。また,留学生が,自らの文化経験を活か すことのできる視点を提供できるような発間をすることで,彼らの参加もクラスに貢献していること

を自覚させることができる。さらに,非英語圏出身の学生‑の積極的な対話やフィードバックを行う 必要があるのは,英語の理解度が,成績や学習パフォーマンスを左右するからである。教員は留学生 の言語的レベルを把握するため,各ゼミのはじめに短いエッセイを書かせ,評価をし,必要であれば, 他の言語支援施設であるラーニング・センターの英語のクラスを紹介し,留学生が自らの見解を明確

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に述べることができるような支援や助言を行っていくことが肝要である(23)

以上見てきたことから,教員がFYEを通してクラスルームの中における多様性を知ることによっ て,学生への対話や発間に変化が見られると考えられる。それは,留学生の学習プロセスに影響する だけでなく,地元学生にとっても,多様性の中に身を置き,学ぶことができる機会となる。しかし, 教員が留学生‑の全責任を迫っているわけではない。教員は留学生にとって必要とされる学習支援を 的確に把捉し,新たな支援組織を紹介していくことも,学習の促進という面からいえば役目のひとつ でふ"V*‑

(3)スタッフの資質

大学での留学生の学習目標に沿った支援をしていくために,彼らに関わる者はどのような役割が求 められているのか。まず,教員はFYEを経ることにより,留学生の学習を促すように導くといった 点でフアシリテ一夕‑としての役を担っている。つまり,教員は,クラスの中で,多様性を理解し, 留学生の潜在的なニーズを把振しそれに応えている。例えば,留学生との対話の機会を設け,彼らが 発言できるような発間をし,発表の順番が回ってくる前にそれを伝え,彼らがディスカッションに参 加できるような雰囲気をつくっている。そして,ユニバディーズとして登録された成績優秀の留学生 は,チューターやメンターとして,他の留学生へのアドバイスをしている。留学生は同じ境遇に置か れている者としてユニバディーズと接するため,より親近感を持ちやすい。そのため,留学生は,ロー ル・モデルとしてのユニバディーズから受けるアドバイスを実現可能なこととして受け止めやすくな る。

上述したことからも明らかなように, FYEの制度的な側面に関して,留学生は,オリエンテーショ ンや教員を通して,大学の授業に関するアドバイスや,利用可能な施設・設備について知る機会が設 けられている。ウェブサイトでも留学生支援について知ることができるが,身近な教員から,支援機 関を紹介され具体的な内容を知った上で,足を運ぶ方が,どのようにその支援が自分の学習に関連し ているのかわかるため,利用する確率が高くなる。教育プログラムの内容としては,教員がFYEを 通してクラスルームの中における多様性を知る,ということによって,学生への発問に変化が見られ る可能性がある。教員が留学生への配慮の必要性を把握し実践しているという点で,彼らはフアシリ エータ‑と捉えることができるのである。教員はFYEを経ることにより,留学生に伝えられる知識 や諸価値を,どのように提示していくのかを知り,状況に応じて実践するよう試みるようになる。ま た,同じ留学生という立場から,アドバイスをしてくれるユニバディーズは,ロール・モデルとして, 留学生を刺激すると同時に,励ます役目を負っている。

本稿では,留学生を考察対象とし,大学入学前教育と大学入学後教育の接続問題について考察する ことを日的とし,次の二点を明らかにした。第一節では,留学生にとってのFPの意義を検討した。

(10)

まず, FPの制度的利点は,手続きの簡素化,大学入学に関する情報入手の機会の豊富さ,的確なア ドバイスを受ける機会が設けられていることである。 FPは大学の要請する目的・目標に即した運営 をしているため, FPと大学の制度的な隔たりは小さく,教育プログラムも一貫性がある。スタッフ の資質として求められることは,留学生の必要となる情報や知識へのアクセスが可能となるような支 援を行っていくことである。 FPは大学入学を前提とした進路準備や進路指導を兼ね備えた機関であ ると同時に,留学生が大学入学後のすばやい適応を図るものである。このようなプログラムが設置可 能であるのは, FPと大学の対話が促進されているからである。

第二節では,留学生にとってのFYEの意義を考察した。制度的な側面に関して,留学生は,オリ エンテーション等を通して,大学の授業についてや,利用可能な施設・設備について知る機会が設け られている。留学生は,ウェブサイトでも留学生支援について知ることができるが,身近な存在であ る教員から,支援体制を紹介されることもある。それは,留学生が支援機関を紹介され具体的な内容 を知った上で,足を運ぶ方が,どのようにその支援が自分の学習に関連しているのかわかるため,刺 用する確率が高くなるからである。 FYEは,留学生が大学生活や授業に慣れるかどうかは,留学生 個人の努力にすべてが委ねられていると教員に考えられてしまうことを防ぐ働きを持っている。なぜ なら,クラスルームの中における多様性に気づいたFYEを経た教員は,学生‑の発間が異っていく からである。また,同じ留学生という立場から,アドバイスをしてくれるユニバディーズは,ロール・

モデルとして,留学生を刺激すると同時に,励ます役割を担っている。

総じて, FPやFYEの留学生を取り巻く物理的,人的要因である制度・施設・教育内容・スタッフ を含む教育環境は,留学生が目指す目標が達成できる方向へと導くように支援する教育環境をつくっ ている。そのため,彼らが未来の自分像を措くことを可能にし,彼らの進学に好影響をもたらすので ある。大学という全く異なる学習環境‑移る留学生が,制度や知識,情報といった面で一貫性のあ る教育プログラムによって,彼らの留学目的である学位取得へ向けた学習を支援してくれるという点 で,日本の留学生の接続問題への一考となろう。以上から,大学入学前教育と大学教育間の点から線 への教育プログラムの接続は,留学生に利点をもたらすことが明らかになった。しかし,留学生への 支援は,大学4年間のうちのはじめの一年間だけの支援では十分ではなく,慣れれば慣れるほど,新 たな問題もでてくるだろう。前述のように,特に留学生にとって,言語は最大の課題である。そのた め初年次だけに限らず継続的な支援が必要となる。さらには,大学生活全般にわたる課題として,カ ウンセリング,差別,セクシャルハラスメント アルバイト等の支援も必要となる。今後はこれらの 支援を継続的に,そして組織化していくためにはいかなる方策が求められるのかを考察することを課 題としたい。

注(1)文部省『文部時報8月臨時増刊号』ぎょうせい1987年, 63, 157頁。

(2)文部科学省「大学における学生生活の充実方策について」

(h仕p://www.mextgo.jp/b̲menu/shingi/chousa/koutou/012/toushin/000601.htm) accessed 20th, Oct, 2006.

(11)

(3)文部科学省「平成13年度私費外国人留学生学生生活実態調査」

(hq3.‑//www. mext.go.jp/b̲menu/shingi/chukyo/chukyo4/gijiroku/001 /0401 0802/00 1 /007/014. htm) accessed 20th, Sep, 2006.

(4)試験の構成は,日本の高等学校学習指導要領に準拠し,理系は数学,理科(物理,化学,生物から2科目 選択),外国語(英語)の3教科4科目,文系は数学,地理歴史(世界史),外国語(英語)の3教科3科目

となっている。

(5)日本学生支援機構は, 「現行の私費外国人留学生統一試験は,理系は3教科4科目,文系は3教科3科目が 課されているが,大学によっては,必ずしもこれらすべてを必要としないところもあり,このことも私立大 学の利用率が低くなっている要因の一つとも考えられる。試験内容が日本の高等学校学習指導要領に準拠し ているため,外国の中等教育機関で学んだ留学希望者には,特別の学習が必要となるほか,特に「世界史」

では,学習内容等が国によって異なるので,受験者の負担が一層重くなっている」ことを指摘している。

(6) UNSW First Year Experience, University of New South Wales, 2006.

(hq) : //www.firstyear.unsw. edu.au/content./strategies/refl‑2‑ l̲transition. c血?ss‑O) acce sse d 1 9th , O ct, 2006.

(7)池田輝政「高大接続の諸形態〜高大接続の新しい構造・ワシントン州」荒井克弘・橋本昭彦『高校と大学 の接続〜入試選抜から教育接続へ』玉川出版部, 2005年, 127頁。

(8)中島直忠編『日本・中国高等教育と入試〜21世紀への課題と展望』玉川出版会, 2000年。

(9)潰名篤・川嶋大津夫『初年次教育〜歴史・理論・実践と世界の動向』丸善, 2006年。

(10)須賀章夫「留学生受け入れモデル‑大学と日本語学校の協調関係を見据えて」留学生教育学会『留学生教 育』第10号, 2005年, 105‑114頁。

(ll)杉本和弘『戦後オーストラリアの高等教育改革研究』東倍量, 2003年

(12)前掲, 「高大接続の諸形態〜高大接続の新しい構造・ワシントン州」荒井克弘・橋本昭彦『高校と大学の接 続〜入試選抜から教育接続へ』玉川出版部, 2005年, 127頁。

(13) 2007年現在130カ国から約7,500人の留学生(全学生敏の約19%)を受け入れている。

SueHelan,シドニー大学FPディレクター, FPにて1999年10月。聞き手:佐藤優子 (15)前掲, 『生涯教育時代の成人教育学〜学習者支援へのアドヴオカシー』明石書店, 2002年。

(16)前掲, 『生涯教育時代の成人教育学〜学習者支援へのアドヴオカシー』明石書店, 2002年, 169頁。

UNSW Foundation Year, University of New South Wales, 2003.

(h仕p://www.ufy.unsw.edu.au/popups/tomoko.htm) accessed 14th, May, 2007.

(18) 2004年度のUNSWにおける大学‑年次の留学生数は,全体の18%であった。

UNSW First Year Experience, University of New South Wales, 2006.

(http://www.ltu.unsw.edu.au/content/teaching̲support/ideas.cfm?ss‑0) accessed 19th, Oct, 2006.

(20)同前。

(21)前掲, University of New SouthWales, 2006.

( http : / /www.ltu.unsw. edu. au/ content/ sessionaLstaff/lt̲studsupp ort.cfm?ss‑O#iss) 担2)前掲, University ofNewSouthWales, 2006.

(http: //www.ltu. unsw. e du. au/content/userD o cs/fye̲2002̲vines. pdf) ra 前掲, University of New SouthWales, 2006.

(http: //www. ltu. unsw. edu. au/content/teaching̲support/diversity. cfm?ss‑0)

参照

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