大学教育のグローバル化を踏まえた進路支援についての一考察
―派遣留学の進路支援事例から―
村上 壽枝【要旨】
日本への受入留学生は2009年に約13万人で増加している。一方、海外で学ぶ日本 人学生は2007年に約7万5千人で近年減少傾向にある。その要因の一つに、留学で就 職活動の好機を失うことが不安要素となっているとも言われている。筆者は日本人学 生の派遣留学促進に向け、進路支援部門からできることを軸に4大学の派遣留学の進 路支援についてケーススタディを行った。その結果、支援の工夫や明確な周知、先輩 の協力、派遣留学者の就職活動の時期に配慮した企業開拓等、必要な支援項目が明ら かになった。事例を通じて少しでも派遣留学の促進に繋がれば幸いである。 キーワード:派遣留学、内向き志向、進路支援、留学の手引き、海外留学説明会1.はじめに
(1)問題意識と目的 昨今、留学生30万人計画の策定やグローバル30で、受入留学生の出口対策も明らかになっ てきている。 受入留学生数は、1983年に策定した「留学生受け入れ10万人計画」で、2003年に約11万人 になり、2009年には約13万人に達した。一方、海外で学ぶ日本人学生数は2007年に約7万5千 人で、近年減少傾向であり(文部科学省 2010c: 17)、日本人学生が内向き志向と言われている。 (文部科学省 2010c: 4)1)学生の内向き志向の要因は、留学で就職活動の好機を失うことが不安 要素となっているとも言われている。2) そのような中、新成長戦略では2020年までに、「日本人学生等30万人の海外交流」と数値目 標を掲げた。(閣議決定 2010: 42–3) もはや、大学教育のグローバル化は時代の流れの中で必須である。 筆者は、日本の学生に対して、避けて通れない大学教育のグローバル化3)について職員から できる支援が必要であると考えた。そこで進路支援部門でできることを軸に、派遣留学の進路 支援を事例調査により少しでも明らかにし、日本人学生の派遣留学の推進に供していきたく、 本稿の研究目的とする。(2)本稿での用語と研究対象 ①本稿での用語について (i)留学についての用語 a) 本稿では、日本を拠点として考え、日本から海外へ行く留学生を「派遣留学(生/者)」 (または略称を「派遣」)、他国から自国に受入れる留学生を「受入留学(生/者)」(また は略称「受入」)とする。ただし、前後の内容から派遣留学が明確な場合は、「留学」とす る。 b) 受入と派遣の総称も前後の内容から「留学」とする。また、派遣留学前と派遣留学中、 派遣留学後の進路支援を「留学前」、「留学中」、「留学後」(または「帰国後」)と略称を用 いる。 c) 『「国際教育・交流調査」結果概要』(私立大学連盟 2010: 6)では、外国での修得単位や 経験等を在籍大学で単位認定する交換、国費、招聘、私費と短期(1学期未満)、長期(1 学期以上)で区分した留学者数を出している。本稿でも派遣留学を区分する場合は、こ れに準ずる。 (ii)留学を支援する大学の担当部門に関する用語 a) 本稿では、進路支援を担当する部門を「進路支援部門」とし、その支援を「進路支援」、 進路支援を担当する者を「進路支援担当者」とする。また、留学を支援する部門を「国際 交流担当部門」とする。 但し、上記いずれも、事例大学が固有名詞として指定した場合はその限りではない。 ②研究対象について 『「国際教育・交流調査2009」結果概要』(日本私立大学連盟 2010: 6)では、学部の学 生が平成20年度間で13155名、大学院が352名となっている。同調査の結果からみると、 学部の派遣留学生が約97%であることを参考に、学部の派遣留学の進路支援を対象と する。
2.派遣留学における進路支援の現状について
(1)派遣留学の進路支援の必要性について 『平成16年度海外留学経験者の追跡調査』報告書(以降、「JASSO追跡調査」と呼ぶ)の「留 学未経験者調査」では、「留学について知りたいこと」として「復学・就職」が11.4%の実績、 また、留学経験者が留学後に困ったこととして、就職が2位で「24.2%」だった。留学で失った ものは、「就職活動の好機」が2位で24%だった。 「留学後のフォローアップしてほしい情報サービス」は、1位が「就職斡旋」で43.6%、2位が 「留学経験者や同窓生の情報提供」28.8%である。(日本学生支援機構 2006:48–86) これらの参考情報から、派遣留学未経験者や経験者共に復学・就職の進路に関する情報は関心の高い項目であると想定される。 では、派遣留学の進路の不安への対応として、進路支援部門からできると想定されることは どのようなことだろうか。 (2)日本の派遣留学に関する進路支援の方法について 大学の派遣留学の進路支援マニュアルとしては、「国際交流ハンドブック」(日本私立大学協 会 1998: 21–2)で一部言及している。また、『質の保証を伴った交流に関する参考資料』(文部 科学省 2010b: 7)でも、帰国後の「キャリア形成支援」について触れていた。 上述の参考情報や、大学のホームページを参照すると、派遣留学の進路支援は、留学前、留 学中、留学後に他者の協力も得た次の対応が主な支援として想定される。 (i) 出国前ガイダンスや個別指導の充実 (ii) 留学中の学生に現地での説明会や日本から企業情報を提供 (iii) 帰国後の対応 (iv) 派遣留学経験者や卒業生等の連携と連携を持つための追跡調査 (v) 留学の手引きなどの提示 では、実際の大学の支援はどうだろうか。 (3)派遣留学に関する進路支援の大学ホームページ掲載状況 本稿では、派遣留学の支援がどのように行われているか、「単位互換実績率の多い大学は、派 遣留学の進路支援行事や内容をホームページに掲載している」と仮定して、下記の方法で、各 大学のホームページを調べてみた。 ①調査方法 (i) 『大学ランキング2011年版』(朝日新聞出版 2010:109)に掲載の、2008年度留学単位互 換 16 単位以上認定学生数の多い 33 大学に、『大学ランキング 2010 年版』(朝日新聞出版 2009:各大学のページ)で2008年度の学生数をプロットし、単位互換した学生比率が多い 大学順に並べ替えた。 (ii) 「留学、就職」または「留学、進路」等で各大学のホームページ検索を行いながら、上述 「2(2)(i)∼(v)」の参考情報に準ずる派遣留学の進路支援の掲載が1項目でもある大学 を特定した。(調査期間:2010年7月1日∼ 7月31日) ②調査結果 大学のホームページを閲覧したところ、進路支援等のページに、派遣留学の進路支援の記載 がある大学は33大学中、17大学の52%で約半数だった。 では、派遣留学の進路支援について、ホームページの情報以外、具体的にどのような支援を
行っているだろうか。
3.ケーススタディ
(1) ケーススタディの方法 筆者は、主な留学情報提供団体に派遣留学の進路支援についての研究方法として、質問紙法 の妥当性を尋ねたところ、近く行った数件の質問紙調査の回収率が少なかったとの情報を得た。 そこで、確実に情報を収集できるインタビュー方式で下記の通りケーススタディを行った。 ①調査期間:2010年8月1日∼ 9月22日 ②調査方法:インタビュー方式(上述「2.(2)(i)∼(v)」の参考情報を基に作成した質問項目で実 施。質問項目は本稿「資料集」の「資料」に掲載。) ③調査対象大学の選定条件:上述「2.(3)」で調査した、17大学で10位以内の大学。 ④調査依頼方法:選定条件の大学へ筆者が電話等で打診し、対応可能な4大学に依頼文含む質問項 目を送付し日程調整して行った。 インタビューの内容は次のとおりである。 (2)個に注力できる派遣留学生への進路支援~ A 大学の事例~ キーワード ・就職情報サイトではできない部分で、進路支援担当者が企業と学生を繋ぐ ・集団に周知できるガイダンスやツール活用による個別対応の充実 ・学長の考え方が学生、卒業生、企業にも浸透 A大学の進路支援担当者が支援で大切にしていることは、就職情報サイトではできない部分 で直接企業と学生をつなぐこと、またその働きかけを省かないことである。 留学前の進路ガイダンスは、担当者の要所説明と、就職活動を終えた学生に質問するという 方法で、学生が主体的に進路について考えるよう設定している。 ガイダンスでは、学生自身の引き出しの数を多くするため、良し悪し関わらず、周囲に誰が いてどのようなことをして、その時どう思ったか(自分の思いだけではなく)、日本語で日記を 書くよう勧めている。この日記が就職活動のための履歴書やエントリーシートの作成にも役立 つ。また、学長は学生へ留学中に課題図書とレポート作成を課している。 A大学では年間100 ∼ 150名が留学しているが、上記の集団的な支援以外、多くは個別面談 で、学生1人約80時間から100時間費やし、普段から学生と連絡が取れるような対応により集 団支援以外を補完している。それは、留学先によりインターネットの環境があまり整っていな い場合や、学年暦が異なる等、共通事項以外は、1対1の支援が多いことが理由として挙がっ た。 留学中の支援は、学生への一斉メールで進路状況を概ね把握するが、留学中存分に過ごし、外から見た日本を自分なりに考えることに注力してもらう。 例えば、海外ではコミュニケーション力不足の日本人を認識する一方、日本の技術(者)の 力、つまり部品も含めて日本製品がブランドであることを知り、日本を誇りに思い、留学後は メーカー中心に就職活動をする学生も多い。 留学先で就職情報会社が行う派遣留学生対象のキャリアフォーラムは、そのフォーラムが全 てではなく、選択肢の一つとして考えるよう学生に伝えている。学生は企業説明会等の参加を 通じて、企業の中では「派遣留学」が特別ではないことを知る。 学生には、12月の帰国時に企業説明会を提示できるよう工夫をしているが、帰国が日本の就 職活動の好機と合わない場合は、就職情報サイトにはない潜在的な求人情報を、企業人事担当 者から進路支援担当者に個別入るもので活かすこともある。留学と就職活動のタイミングのズ レが生じた場合は、4年半、5年卒業を留年ではなく、卒業延期とすることで、新卒採用の活動 も可能としている。 就職活動を終えた在学生は、アドバイザーとなって留学から帰国した学生の就職活動を支援 したり、後輩のために内定企業の就職活動体験記録を記したりしている。また、派遣留学を経 験したOBOG組織が主体的に動き、A大学を通じて自分達の企業説明会を企画提案し実施もし ている。このようなファクトは、学長の海外留学への考え方が、学生の質、企業と学生を繋ぐ 担当者、卒業生、教育方針に共感した企業にも影響している点が、留学後の学生進路に結果と して結びついていると捉えた。 進路支援担当者は支援マインドに関連して次の事も述べた。 「休学して留学する学生は年間2 ∼ 3名おり、自分がビザの手続きから全て自分で行うため、 手間が掛かり大変であることを当該学生が語っていたが、本来の留学は、そちらかもしれない。 しかし、留学のお膳立てをしても行かない学生が増えている。 ある時、A大学に1年間滞在で受入れている交換留学生が、1年間の日本留学で日本の概要を 知り、自国の企業で日本への留学経験者というアドバンテージを持って貢献したいと語ってい た。その話を聞くと、日本の学生が語学要員、即戦力として海外の企業に働く学生もいるが、 その後が心配である。(それのみではないはずだ。)語学=グローバル化ではない。派遣留学を 経験した学生を如何に生かすか、これらのことも含めて、日本は、「日本人が日本人を育てる」 ということを再認識させられる。」 A大学は共通して伝えられる部分を、ホームページ掲載の留学の手引きや集団の説明会で周 知し、それ以外は個別対応に注力して支援を行っていることが分かった。なお、卒業生に対し て追跡調査はしていないが、企業に対して、就職して5年後の卒業生の状況を簡単に聞く調査 を予定しているそうだ。また、大学が文系か理系かによっても対応が異なるのではないかとの コメントも担当者から得た。
(3)学生の留学プランに応じた進路支援~ B 大学の事例~ キーワード ・留学を考えるための幅広い選択肢の提供に応じた進路支援 ・一斉メールの活用と派遣留学生に対するメールによる進路サポート ・教員、他のセクションとの連携 ・入学時に開催の保護者対象の説明会で理事長が留学への示唆を提示 B大学は、入学時に保護者向けの大学説明会を設けており、留学は費用がかかるが、大学生 活の中でかけがえのない経験になることを理事長から説明している。 学生は、2年次に留学する場合は30単位修得済み、3年次に留学する場合は60単位修得済み など、留学開始時期によって各年次の取得単位数の条件があるが、2年次から4年次で半年か ら1年間の留学が可能である。また、「語学試験の成績条件はあるが、授業料減免措置のある交 換留学制度」と、「語学試験の成績条件と授業料減免措置のない留学」と2つの選択肢がある。 交換留学制度では、留学先の授業料はかからず、6割強のB大学の授業料減免を受けること ができる。派遣留学者数は、2009年度の実績で約180名、その内約60名が交換留学制度の留学 である。 留学時期の選択幅があるため、留学希望者に特化した進路支援ガイダンスと手引き等配布資 料の対応ではなく、各学期のオリエンテーションで留学に関する質問内容に応じた対応窓口を 周知する。また、留学時期は各学生の事情に合った時期になるが、進路支援としては、2年次 に留学することをモデルとして説明している。 純粋に海外に興味がある、外国語を学びたいという学生は多いが、中には留学が就職に有利 だと思い込んでいる学生もいるため、留学が就職に有利という事ではない説明を欠かさない。 対応窓口は、進路についてはキャリアセンター、留学に関する生活面については国際交流課、 留学先大学の内容については教員である。役割分担の調整は、キャリア教育委員会でキャリア センターと国際交流課の職員と委員の教員で行う。 また、学年毎の一斉メールがあり、派遣留学生か否かに関わらず、学生はキャリアセンター からの周知を当該メールで知ることができる。一斉メールの中では、派遣留学生に特化した進 路支援の内容も明示して、留学希望者や派遣留学生へ周知する。そのため、留学中の学生は日 本の就職事情や進路についての活動状況を海外でも把握する事ができる。 中には、日本でアナウンサーや銀行等採用の募集要項があるとの周知メールを見て、留学先 からキャリアセンターにメールで問い合わせる学生もいる。職員は留学中の学生からのメール でエントリーシートの添削や、アドバイス等の支援も行っている。 一斉メールで学生へ問い合わせる進路調書については、教員に学生への周知協力を得たり、 ダイレクトメールを送りキャリアセンターからの調書については必ず返信するよう周知する が、留学中の学生からのメールも含めて返信は6割で全員回収は難しいようだ。 帰国後も、個別対応で進路支援を行っている。年に2回の企業説明会や、OBOG訪問会を企
画するが、依頼した留学経験者の卒業生参加率はほぼ100%で、後輩への説明、後輩から卒業 生への質問などを通じて留学への不安を最小限にする工夫がされていた。 なお、留学経験者の追跡調査は行っていないが、留学を経験した学生の就職や進路に向けて の活動体験は、広報資料を通じて対外的に作成している。 また、既存の卒業生組織の中で留学経験者に特化した組織を作ることも予定しているが、女 性が8割のため運営上の工夫が必要とのことだった。 上記のインタビューから、理事長が保護者へ留学に対する理解を促す説明を入学当初に行っ ていること、留学するための幅広い選択肢の提供、学年一斉メールの活用、教職員間の連携、 卒業生からの支援、留学前、留学中、留学後と一貫した進路支援担当者の個別対応というファ クトが、B大学の留学制度を支える進路支援となっていることが分かった。 (4)多様な学びの中の留学と進路支援~ C 大学の事例~ キーワード ・卒業生と留学経験のある進路決定在学生との連携による留学トータルサポート ・多様な留学プログラムと可能な限りの留学費支援 ・進路決定までの活動手順を連想する長期留学までのステップ ・留学と進路に関する事前、事後ガイダンスとホームページも含めた詳細な手引書 C大学は、少しでも多くの日本人学生が留学等で海外の文化と接し、幅広い人材育成に向け て、学生の興味と条件に対応できるよう、2言語習得やC大学と海外の大学の2つの学士を取 得するもの、夏季休暇を利用した語学や文化を学ぶ短期留学、提携大学でのインターンシップ など、数多くのプログラムを提供している。そのため、留学への不安を少しでも払拭するよう な支援を多様な角度から行っている。 約2割の学生が留学するため、国際交流担当部門が主催で留学についてのガイダンスを年に 2∼ 3回行っている。それに加えて、進路の部分については、進路支援担当者が1 ∼ 2コマ(1 コマ90分)で留学前ガイダンスを開催し、留学中に準備することや帰国後の事を含めて説明す る。留学後には直近の就職活動についてのガイダンスを行っている。 また、留学中の学生については、留学先からのメールや電話での問い合わせに個別対応して いる。 C大学の留学期間は、1年以上の長期留学と1年未満の短期留学、自分で時期や単位を調べて 事前に承認を得る認定留学などがある。 留学費用も条件によって多様だが、例えば長期留学の多くは派遣先大学の授業料、寮費、食 費支給と大学が配慮しているため、休学してまで留学する学生は、年間約十数名程度である。 しかし、留学のための条件は厳しい。 特に交換留学生になるためには、1次試験から4次試験の事前選考を受けて合格し、C大学の 受入留学生別科クラスの学生と共に留学準備クラスの授業を半年で修了し留学候補生にならな
いと留学できない。また、交換留学希望者のうち候補生合格者は約半数である。長期留学希望 者は留学までにいくつもの選考を経て留学に挑むため、留学前に日本の就職試験にも似た選考 パターンと模擬留学を経験することになる。 1年以上の長期留学開始の時期は、2年次または3年次の春か秋の時期が多い。場合によって は4年次で留学する学生がいるが、卒業は遅れることを了承のうえで留学している。 近年、3年次の終わりに帰国する学生が増えており、4年次の夏に帰国する学生は学年の約1 割強である。4年次の夏に帰国する学生は、進学または再度留学する学生が比較的多いのもC 大学の特徴であるが、就職希望者のために4年次の夏に帰国する学生の就職活動に合った募集 企業の開拓や、帰国のタイミングで企業説明会を行う。 また、その他の留学後のフォローは、留学から帰国後の2コマ(1コマ90分)の進路ガイダン スのほか、最近の取り組みとして、東京で開催される4年次の夏に帰国する学生を対象とした 合同企業説明会へ、主催の就職情報会社とタイアップして無料のバスツアーを企画するなど工 夫をしていた。バスツアーによる合同企業説明会では、4年次夏に帰国した学生の6割が参加 し、内定を獲得する学生もいるとのことだった。 C大学は、留学と進路に関する手引きの活用とガイダンスや、留学から帰国して進路決定し た在学生や卒業生と協働して派遣留学を支援している。留学と進路に関する手引きは、進路支 援部門で作成している。また、国際交流の部門で各職員に1名ずつ、長期留学で帰国した学生 を面接で採用したアシスタントアルバイトが、進路決定までの経験に基づき、留学のメリット、 デメリット両面の情報を掲載した「留学とキャリア」の冊子作成を企画し、進路支援部門の協 力を得て作成、配布もしている。また、同冊子では帰国後の進路決定までのスケジュールや、 留学先や帰国後に日本で行なわれる企業説明会等イベントの時期や場所、就職情報会社のホー ムページ情報なども、進路支援部門から情報掲載していた。 ガイダンスでは、目前に留学を控えている学生にとって、担当者が長時間の説明をするより も、身近な学生からのメッセージを織り交ぜることが効果的であるとのことだった。また、卒 業生との連携については、卒業後1、2年経った先輩が、これから留学する学生へ留学や進路の 準備について、ブース形式の説明会を年間2 ∼ 3回自主的に行っている。 派遣留学の支援で力量が必要な部分は、就職活動の時期が早期化しているため、夏(5 ∼ 6 月)に帰国の学生を対象とした募集企業を発掘することである。 また、留学経験者に対する進路支援で気に留めている事として、次の点を担当者が述べてい た。 「派遣留学を経験した学生の中には、留学経験を主張しすぎて短期間で海外関係部門に配属 になることを望み、視野が狭くなり自身の可能性を自ら狭めてしまうことがある。多くの企業 は望み通りの部署での配属という訳にはいかないため、すぐ別の企業へと就職活動を切り換え ることがある。視野を広げてよく見極めるよう周知するが、なかなか伝わらず難点である。だ が、この点は進路決定まで場数を踏んでいくうちに学生も気がついてくる。
最初は彼らにとって希望通りに行かなくとも、何年か日本の企業に腰を据えて勤務し、彼ら にチャンスがきた時に、例えばこの事業を海外へ展開したいと言ってくれたら、また、留学経 験を生かせる事が出来たら、との想いで支援を行っている。 C大学は、留学を通じて世界で活躍できる人間の幅の広さを持ってもらうことが、留学の最 大の目的である。今は海外からの学生に押されてしまっているが、将来の日本のために、多く の学生に内にこもらず、外を見て国力を高める人材に育ってほしいと願っている。」 なお、進路状況の把握とその対応では、卒業対象学生で進路状況を届け出ていない学生全員 に対して電話で聞き取り調査を行っており、中でも派遣留学生の就職先情報については、追跡 調査を行い大学内部で把握している。 また卒業生の進路情報については、全てではないが、在学中の活動と卒業後どのようなこと をしているというコンテンツを、後輩へのアドバイスも含めてホームページに掲載しており、 中には派遣留学経験者の情報もある。卒業生組織を立ち上げて軌道に乗せるところであり、卒 業後の進路状況追跡調査の実施については検討事項の一つであるそうだ。 派遣留学を通じて、学生の成長への願いと熱い期待を持って支援していたことが印象に残っ たインタビューだった。 (5)学問を学ぶための留学と進路支援~ D 大学の事例~ キーワード ・学問を学ぶための留学 ・学生の自主性と担任教員含む、学内の全ての窓口による進路サポート体制 ・内容が凝縮された派遣留学のための進路支援 ・学年暦についての企業への説明 D大学は、3年次在学生の2割に相当する学生が1年以内の海外派遣留学をする枠がある。中 でも9月に留学する学生が多いため、6月に国際教育交流担当部門が主体となって留学前オリ エンテーションを1日使って開催する。そこでは留学準備や留学中の生活、メンタルヘルス、 保険や単位の説明を行う。進路のことも関連するため、進路支援部門が一つのセッションの中 で説明する。留学をする場合の就職活動の手順を資料配布し、留学前、留学中、留学後の就職 活動の準備や帰国後の活動に関する説明を行っている。 その際、進路支援担当者が派遣留学予定者へ、 「留学は就職に有利であるから留学するということではない。就職のための留学ではなく、 学問を学ぶための留学であり、D大学に入学を決めた学生自身の本来の目的を達成するための 留学である。」 と、D大学の派遣留学の本来の目的について学生に振り返ってもらっている。 帰国後に日本で就職を希望している留学生には10月下旬からメールマガジンが留学先の学
生にも届き、内容は日本で就職活動をしている学生と同じ情報が伝わるようにしている。そし て、1週間に1回は、メールマガジンを見る時間、就職を考える時間として使うよう言及してい る。現地や日本のキャリアフォーラムも開催タイミングを含めて紹介している。 留学中の支援については、エントリーシートの添削は行わないが、メールによる対応を行っ ている。異なる時期に出発する学生には随時対応している。 留学中の学生へ進路支援部門から送るメールマガジンは、求人票を送付してくれた企業名の ほかD大学を訪問した企業の情報は当該企業が作成した詳細な求人情報を付して配信する。こ のメールマガジンの効果は覿面で、留学先から当該メールマガジンの求人情報を見て応募の準 備をして、帰国後すぐに活動して内定を得ることもある。 帰国後のガイダンスは6月中旬に1コマ70分で行い、帰国直後の就職活動の手順について資 料を配布して説明している。より現実味を帯びるため、国際系のキャリアフォーラム運営者の 講演や、留学を経験した先輩の就職活動体験談も盛り込んで開催している。 また、最近の試みでは、数大学が提携して帰国者用の合同企業説明会を行った。 D大学では、上述した帰国後の進路支援ガイダンスなど、支援行事を行う時間帯について、 授業が重ならない様に配慮している。また、支援行事について固有のニーズが多いため、他部 門と調整してコマ数も厳選している。支援行事のための時間割が少ないため、エントリーシー トの書き方などのノウハウに関する支援行事は行わず、自主性に任せている。 なお、個別の進路相談や模擬面接などは、学生が進路支援部門に予約して30分対応する。 留学に関するアンケート調査を、2008 年と 2010 年の 4 月に 2 年生以上対象全員に対して行 っており、調査結果によると、留学に行きたいという学生は少なくなっていく傾向にあるよう だ。その理由として、カリキュラムや学内環境から日本での学びを重視(1位),経済的理由(2 位)、留学条件としての成績(3位)、就職活動(4位)だった。D大学のカリキュラムは、3年次 から開始する専門科目の学びに集中したいという考えの学生や、国際的なキャンパスの環境に 満足している学生が多い。つまり、カリキュラム上の制約が交換留学の参加に、ブレーキをか ける要因となっている事も考えられるとのことだった。 D大学の学年暦は3学期制で、一般的な2学期制の大学と学年暦が異なるため、就職活動の スケジュールも通常と異なる。また、3月卒業よりもさらに学びを充実させた大学生活を過ご したいという学生には、1学期のみ卒業を延期して、9月入学者と同様の6月に卒業することが できる。そのため、通常の3月卒業と異なる就職活動のスケジュールになることや、D大学の 派遣留学帰国者の就職活動時期が6月頃になることについても企業に認識してもらうようD大 学の進路支援部門は努めている。 留学前・留学後の就職ガイダンスと配布資料のほか、対外的なパンフレットやホームページ でも、留学と就職活動のガイダンスについて掲載している。留学体験者の報告記録を掲載して いるホームページでは、生活、文化面の他、各人の就職活動等進路の記録があり、派遣留学を よりイメージしやすい内容となっている。 また、卒業生が在学生のために形成した、キャリアサポーターズという組織があり、進路支
援部門とは別に、就職に限らず、進学や編入学などの面でも在学生をサポートしている。なお、 留学経験者の就職状況や就職活動方法などの追跡調査については、留学経験者の区分は特に設 けていないが、進路報告を卒業時に全員提出させている。 D大学のような通常と異なるスケジュールで就職活動が行われている状況と、グローバル化 を迎えている日本の状況を重ね合わせると、夏に海外から帰国する学生対象の求人情報提供な ど、採用スケジュールについて考えさせられたインタビューだった。
4.ケーススタディの考察
全ての大学において、インタビューの質問項目に該当する内容があり、各大学独自で工夫を していた。特に、留学が就職に有利ということではない、との留意事項は4大学とも学生へ言 及していた。下記に考察として特記事項を示す。 (1)派遣留学の進路支援に関する具体的で明確な情報掲載 前掲「2」の調査では、留学の単位互換実績率の多い33大学中、ホームページに派遣留学の 進路支援を情報掲載している大学が52%だったが、在学生の他、派遣留学を視野に入れている 受験生や企業側の情報収集にも関連するため、情報掲載する大学が増えることを期待する。 一方、派遣留学を考えなくなる理由の一つとして国際的な学内環境による事例もあった。筆 者はグローバル30が軌道に乗ると、派遣留学が減ることも考えた。限られた学びの時間をどう 過ごすかは学生次第だが、派遣留学を考えるための情報を進路支援も含めて提供する必要はあ る。 (2)派遣留学に関する情報提供 留学中の情報提供は、4大学とも主にメールで対応していた。 また、留学経験者から派遣留学希望者への情報提供については、卒業生の協力を得る事も含 めて4大学の事例でもあったが、学生にとって年齢の近い先輩から得られる就職活動や進学等 準備情報などの体験談は、派遣留学をより身近なものにしてくれるようだ。 筆者は、大学と大学以外の2団体が2010年7月にそれぞれ開催した派遣留学に関する説明会 に参加したが、どちらも参加者が満員に近く、終了後も留学経験者に対する質問が絶えなかっ た。この状況から、学生の内向き志向の説について確認したくなった。つまり、派遣留学の情 報量が少ないことも理由ではないかと考えた。留学経験者によるOBOG組織の結成や、情報提 供の機会を多くすることも一案である。 (3)派遣留学に関する調査について 企業に対して卒業生の追跡調査を検討している大学は1大学、留学について在学生へ調査し た大学は1大学、留学経験者に特化して進路の追跡調査をしていた大学は2大学だった。在学 生へ留学についての意識調査や、派遣留学経験者の進路状況、当該学生の卒業後の追跡調査を行うことにより、必要な支援や派遣留学の効果が把握できる。例えば、卒業前に全員が提出す る進路報告書や、卒業数年後の追跡調査で留学経験のチェック項目を付すのみでも可能と思わ れる。 (4)留学後の就職活動に関する企業との連携 4大学とも、留学から帰国する学生の就職機会について工夫を要していた。この点からも、帰 国のタイミングで就職活動ができる情報を増やすことと、大学から企業へ通常の学生と異なる 就職活動スケジュールとなる帰国学生がいるという広報が必要だ。また、通年採用や帰国した 派遣留学生の採用スケジュール等を考慮するなど、企業もグローバル化に対応した柔軟な採用 方法を考える必要がある。 (5)国際交流ハンドブックに準ずる派遣留学支援の運用マニュアル 本稿では、「国際交流ハンドブック」(日本私立大学協会 1998: 1 –226)を参考に、インタビュ ーの質問項目を作成したが、質問項目以外の取組もあったことから、昨今のグローバル化の加 速に応じた派遣留学支援の運用マニュアルも必要と思われる。 (6)今後の研究課題 派遣先の派遣留学生に対する進路支援について、WEBや大学進路支援部門、ハローワーク 相当の支援やインターンシップの対応についての研究は今後の課題である。また、大学院生や 専門分野別の派遣留学の進路支援、企業の採用活動やタイミング等、他の面では、留学に関す る国の予算配分も踏み込んだ研究を要する。(日本私立大学協会 1998: 22)
5.おわりに
本稿では、派遣留学の進路支援の事例で、より多くの学生に海外へ行ってもらいたいとの想 いでケーススタディを行った。本稿とは別の論点となるが、政策上の支援について期待したく 次の点を述べる。 ①留学に関する国の就職支援フォローアップ 『留学生交流の推進について』(文部科学省 2010a: 1)では、「外国人留学生及び日本人の海外 留学に関する支援の全体像」が一覧で示されている。 平成22年度の留学関連就職フォローアップの状況については、下記のとおりである。図 5‑1平成 22 年度留学関連就職支援フォローアップ 出典:『留学生交流の推進について』(文部科学省 2010a: 1)より筆者作成4) 図5-1で見ると、受入留学生の就職支援フォローアップの設定はあるが、派遣留学生の就職 支援フォローアップはない。派遣留学の進路支援について受入留学に準じたフォローがある方 が学生にとっては留学し易いのではないだろうか。今後の対応に期待したい。 ②派遣留学の統計情報 本稿では、「JASSO追跡調査」が参考となったが、昨今の行政刷新会議を通して派遣留学に 関する統計情報が今後どのように補完されるかが課題である。5)方法はいくつか考えられるが、 大切なことは、派遣留学希望者の不利益が日本の国益に影響しないように対応することであ る。この点でも今後の対応を見守りたい。 本稿は以上であるが、最後に、多忙の中、快く熱くインタビューに応じていただいた進路支 援担当者に、深く御礼申し上げる次第である。
注
1)『報告書∼産学官でグローバル人材の育成を∼』(経済産業省 2010: 25)では、次のように述べてい る。 「(ⅱ)低迷する若者の海外志向 [中略]より深刻なのは、将来の日本のグローバル化を支える国内人材として期待される若者の海外 志向の低下が懸念されている点にあると言える。 出入国管理統計によれば、1997 年までは20 代の年代別出国率は上昇傾向にあったが、近年その数字 がやや低下傾向にあり、海外に出ていく若者の人数の減少がみられている。」 2)『報告書∼産学官でグローバル人材の育成を∼』(経済産業省2010: 39)では、「学生の「内向き志向」 に加えて、経済的な理由や、就職活動が3年次にスタートしてしまう事、留学先で修得した単位とし て認めていない大学もあるため帰国後に留年せざるを得ないこと等のシステム上の問題が、海外留 学の阻害要因となっている。」との記述がある。また、『留学生交流の推進について』(文部科学省 2010a: 62)にも参考情報がある。3)黄 福涛,2006,『第 2 節 高等教育の国際化― 定義に関する検討』(http://www.gcn-osaka.jp/ project/finalreport/1/1–2.pdf,2010.9.10):J-7 を参考に、本稿ではグローバル化を国家や国境を越えた一体化の意味で使用する。 4)『留学生交流の推進について』(文部科学省 2010a : 1)の資料を基に、筆者作成。受入留学生就職支援 フォローアップのみで作成。 5)行政刷新会議ワーキンググループB,2010,『事業仕分け詳細と結果速報 - 2010年04月28日』内閣 府(http://www.cao.go.jp/sasshin/shiwake/detail/2010–04–28.html,http://www.cao.go.jp/ sasshin/data/shiwake/result/B-24.pdf,2010.07.30).
引用(参考)文献
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