九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
難治性唾液腺疾患の診断における唾液腺検査の有用 性と発症メカニズムに関する研究 : IgG4関連涙腺・
唾液腺炎とシェーグレン症候群に注目して
坂本, 瑞樹
https://doi.org/10.15017/2534398
出版情報:九州大学, 2019, 博士(歯学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
難治性唾液腺疾患の診断における
唾液腺検査の有⽤性と発症メカニズムに関する研究
〜IgG4 関連涙腺・唾液腺炎とシェーグレン症候群に注⽬して〜
A study on the diagnostic utility of salivary gland tests and the pathogenic mechanism of intractable salivary gland diseases
– Focusing on IgG4-related dacryoadenitis and sialadenitis, and Sjögren’s syndrome –
2019
年9
⽉九州⼤学⼤学院⻭学府⼝腔顎顔⾯病態学講座 顎顔⾯腫瘍制御学分野
坂本 瑞樹
指導教員
九州⼤学⼤学院⻭学研究院⼝腔顎顔⾯病態学講座 顎顔⾯腫瘍制御学分野
中村 誠司 教授
2018年 第66回 国際⻭科研究学会⽇本部会(JADR)にて
「TLR8+CD68+ monocyte/macrophage contributes to the pathogenesis of Sjögren’s syndrome. 」 として本研究の⼀部を発表し、IADR Hatton Travel Awardsを受賞した。
本研究の⼀部は下記の学術雑誌に掲載した。
The diagnostic utility of submandibular gland sonography and labial salivary gland biopsy in IgG4-related dacryoadenitis and sialadenitis: its potential application to the diagnostic criteria
Mizuki Sakamoto, Masafumi Moriyama, Mayumi Shimizu, Akira Chinju, Keita Mochizuki, Ryusuke Munemura, Keiko Ohyama, Takashi Maehara, Kenichi Ogata, Miho Ohta, Masaki Yamauchi, Noriko Ishiguro, Mayu Matsumura, Yukiko Ohyama, Tamostu Kiyoshima, Seiji Nakamura
Modern Rheumatology January 7; 2019
(DOI: 10.1080/14397595.2019.1576271)
略語表
AIP: autoimmune pancreatitis(⾃⼰免疫性膵炎)
cDNA: complementary DNA(
CT:Computed Tomography
DAB: diaminobenzidine(ジアミノベンジジン)
DAVID: Database for Annotation, Visualization and Integrated Discovery(
DC: dendritic cell(樹状細胞)
DEG: differentially expressed gene(発現変動遺伝⼦)
DEPC: dietyl pyrocarbonate(
eGC: epitopic germinal center(異所性胚中⼼)
ELISA: Enzyme Linked Immunosolvent Assay FBS: fetal bovine serum(ウシ胎児⾎清)
FDG-PET: 2-[18F]fluoro-2-deoxy-D-glucose-positron emission tomography GO: Gene Ontology
gRNA: guide RNA(ガイドRNA)(
HE: hematoxylin and eosin(ヘマトキシリン・エオジン)
HPF: high power field(強拡⼤視野)
HRP: horseradish peroxidase(内因性ペルオキシダーゼ)
Ig: immunoglobulin(免疫グロブリン)
IgG4-DS: IgG4-related dacryoadenitis and sialoadenitis(IgG4関連涙腺・唾液腺炎)
IgG4-RD: IgG4-related disease(IgG4関連疾患)
IL: interleukin(インターロイキン)
IFN: interferon(インターフェロン)
IHC: immunohistochemistry
KT: Küttner tumor(キュットナー腫瘍)
MC: mucocele(下唇粘液嚢胞)
MΦ: macrophage(マクロファージ)
MD: Mikuliçz’s disease(ミクリッツ病)
mDC: myeloid dendritic cell(⾻髄系樹状細胞)
ML: malignant lymphoma mono: monocyte(単球)
mRNA: messenger RNA(
PBS: phosphate buffered saline(リン酸緩衝⽣理⾷塩⽔)
PCR: polymerase chain reaction(
pDC: plasmacytoid dendritic cells(形質細胞様樹状細胞)
PMA: phorbol 12-myristate 13-acetate(12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート)
SS: Sjögren’s syndrome(シェーグレン症候群)
Tfh: follicular helper T(濾胞性ヘルパーT)
TGF: transforming Growth Factor(トランスフォーミング増殖因⼦)
Th: T helper(ヘルパーT)
Th0: T helper 0(ヘルパーT type 0)
Th1: T helper 1(ヘルパーT type 1)
Th2: T helper 2(ヘルパーT type 2)
Th17: T helper 17(ヘルパーT type 17)
TLR: Toll-like receptor(Toll様受容体)
TNF-α: tumor necrosis factor-α(腫瘍壊死因⼦-α)
Treg: regulatory T(制御性T)
⽬ 次
要 旨
6
緒 ⾔ 8
材料と⽅法 12
結 果 22
研究
1. IgG4-DS
の診断における唾液腺検査の有⽤性についての検討 1-1. 患者内訳 1-2. ⼝唇腺⽣検の診断能 1-3. 顎下腺超⾳波検査の診断能 1-4. 診断能の⽐較検討 研究2. SS
の発症におけるTLR8
陽性単球/マクロファージの関与 2-1. DNAマイクロアレイによる発現変動遺伝⼦の抽出 2-2. ⼝唇腺におけるTLR関連分⼦の発現量 2-3. ⼝唇腺におけるTLR8の発現と局在 2-4. ⼝唇腺におけるTLR8の発現細胞の検索 2-5. TLR8陽性単球の機能解析 考 察 35謝 辞 42
参考⽂献 43
要 旨
難治性唾液腺疾患としてはシェーグレン症候群(
SS)が広く知られている
が、近年では本邦から提唱された新たな疾患概念であるIgG4
関連涙腺・唾 液腺炎(IgG4-DS)も注⽬されている。IgG4-DSはIgG4
関連疾患(IgG4-RD)の 1
つで、⾼IgG4
⾎症と涙腺・唾液腺における著明なIgG4
陽性形質細 胞浸潤や線維化を伴う腫脹を特徴とする。診断には罹患臓器の病理検査が重 要であるが、⼤唾液腺が罹患している場合、腫瘍との鑑別も考慮して全摘出 されることも多く、唾液分泌機能の低下や顔⾯神経障害などの合併症が⽣じ ることがある。そこで研究1
では、より侵襲の少ない唾液腺検査(⼝唇腺⽣検および顎下腺超⾳波検査)における
IgG4-DS
の診断能について検討を⾏い、現⾏の診断基準への適応について検証を⾏った。⼀⽅、SSは涙腺や唾液 腺などの外分泌腺が特異的に障害される⾃⼰免疫疾患であり、診断基準につ いては確⽴しているものの、その病因や病態形成についてはいまだ不明な点 が多い。しかし、最近の研究では、⾃然免疫に必須な病原体認識センサーで ある
TLR
が全⾝性エリテマトーデスや関節リウマチなどの⾃⼰免疫疾患の病 態形成に関与していることが報告されている。そこで研究2
では、SSにおけ るTLR
の発現に注⽬し、IgG4-DS
の病態形成に関わる新たなTLR
関連分⼦の同定と機能解析を⾏った。以下に本研究で得られた結果をまとめた。
研究1. IgG4-DSの診断における唾液腺検査の有⽤性についての検討
新たな唾液腺検査として、侵襲の少ない⼝唇腺⽣検と⾮侵襲性の顎下腺超
⾳波検査について検討を⾏った。超⾳波検査は「⾎流豊富な結節状の低エコ ー」または「深部にしたがって正常像に移⾏する網状の低エコー」を認めた 場合を陽性とした。その結果、⼝唇腺⽣検および超⾳波検査の感度・特異
度・正診率はそれぞれ
100%
、91.9%、95.6%と64.5%
、73.8%、75.0%であっ た。以上の結果から、IgG4-DSの診断における超⾳波検査は極めて有⽤であ り、現⾏の診断基準の診断項⽬としても⼗分に適応できることが⽰唆され た。研究2. SSの発症におけるTLR8陽性単球/マクロファージの関与
DNA
マイクロアレイおよびバリデーションでは、TLR8
のみがSS
の唾液 腺で発現が亢進しており、主な発現細胞は単球/マクロファージ(CD68陽性 細胞)であった。そこで、ヒト単球細胞株にTLR8
を過剰発現もしくはノッ クアウトさせ、TLR8アゴニストで刺激実験を⾏うと、TLR8
を過剰発現させ た細胞株では有意にTNF-α
の産⽣が亢進していたが、ノックアウトさせた細 胞株ではTNF-α
の産⽣はほとんど認められなかった。TNF-αは炎症性サイト カインとしてTh1
誘導型炎症を引き起こし、SSでも唾液腺における組織破壊 およびアポトーシスに関与していることが報告されている。以上の結果か ら、TLR8による刺激を介して活性化した単球/マクロファージがTNF-α
を産⽣することで、SSの発症に関与していることが⽰唆された。今後、TLR8は
SS
の診断においても特異的な分⼦として診断マーカーに応⽤できることも推 察される。緒⾔
IgG4
関連疾患(IgG4-related disease: IgG4-RD)は、⾼ IgG4
⾎症と全⾝の罹 患臓器に著明なIgG4
陽性形質細胞の浸潤や線維化を伴い、同時または異時的 に多発性に腫⼤や結節・肥厚などが⽣じることを特徴とする原因不明の疾患で ある。2001年にHamano
ら1が⾃⼰免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis: AIP)で上記の特徴を認めることを報告したのをはじめとして、硬化性胆管炎
,
間質 性腎炎, 間質性肺炎、リンパ節炎、リーデル甲状腺炎、ミクリッツ病(Mikuliçz’s disease: MD)、
キュトナー腫瘍(Küttner tumor:KT)などでも同様の報告があり、
これらの疾患を「IgG4-RD」という新たな1つの疾患概念として捉えることが 本邦から提唱された2。
⼝腔外科領域に発症する MD は、病理組織学的類似性により従来シェーグ レン症候群(Sjögren’s syndrome: SS)の⼀亜型として認識されてきた 3。しか し、2005年にYamamotoら4がMDのみで⾼IgG4⾎症や腺組織へのIgG4陽 性形質細胞の浸潤が認められることを明らかにし、MDとSSは明らかに異な る病態であることが認識されるようになった。最近では
MD
とKT
がIgG4-RD
の涙腺・唾液腺病変であることを明確にするために、「IgG4関連涙腺・唾液腺 炎(IgG4-related dacryoadenitis and sialoadenitis: IgG4-DS)」と呼ばれるようにな った5。現在、IgG4-RD の診断には本邦から提唱された「
IgG4
関連疾患包括診断基 準」と「臓器特異的診断基準」を組み合わせて⽤いられている6。しかし近年、IgG4-RD
に対する認知度が⾼まるとともに「⾎清IgG4
⾼値」のみで診断されるケースが散⾒される。特に、悪性腫瘍(がん、悪性リンパ腫(malignant
lymphoma: ML)
)やキャッスルマン病は「⾎清IgG4
⾼値」を⽰すこともあることから、IgG4-RD の確定診断には病変局所の組織⽣検による病理診断が重
要であることが再認識されていている。⼤唾液腺(特に顎下腺)の腫脹から
IgG4-DS
を疑う場合、腫瘍との鑑別も考慮して全摘出されることが多く、唾液分泌機能の低下や顔⾯神経障害などの合併症が⽣じることがある。そのような 背景から、我々は
IgG4-DS
の診断に対してより低侵襲な⼿技として、顎下腺 部分⽣検や⼝唇腺⽣検の有⽤性について報告してきた 7, 8。しかし、全⾝状態 や⽣検に対する同意が得られず、⽣検⾃体が困難な症例も認められる。そこで 研究1
では、⾮侵襲性の新たな診断⽅法として顎下腺超⾳波検査に注⽬し、そ の診断能について検討し、現⾏の診断基準への適応について検証を⾏った。⼀⽅、SS は涙腺や唾液腺などの外分泌腺が特異的に障害される臓器特異的
⾃⼰免疫疾患であり、ドライアイやドライマウスを主症状とする。病態が進展 すると、⾼γグロブリン⾎症や
ML
などの腺外症状を呈することからも、IgG4- DS
と同じく難治性唾液腺疾患として認識されている。SS
の診断には「シェー グレン症候群改訂診断基準(厚⽣労働省研究班、1999
年)」9が広く⽤いられ、組織⽣検以外の診断項⽬でも診断が可能である。しかし、発症や病態形成の機 序についてはいまだ不明な点が多く、根治的治療法が確⽴していないため、対 症療法が主体となっている。
免疫組織学的には涙腺・唾液腺などの病変局所に
CD4
陽性ヘルパーT(helper
T: Th)細胞を主体としたリンパ球の浸潤を認め、これらが SS
の病態形成に重要な役割を果たしているとされている10,11。
Th
細胞は分泌するサイトカインや 発現している転写因⼦の違いから、機能的に異なるいくつかのサブセットに分 類されており、少なくとも6
つのサブセットとしてTh type 0(Th 0)、Th1、
Th Th2、Th17、濾胞性ヘルパーT(follicular helper T: Tfh)、および制御性 T
(regulatory T: Treg)細胞が同定されている12-14。Th0は他の
Th
サブセットへ と分化しうる前駆細胞で、Th1 はインターロイキン(interleukin: IL) -12
によって誘導され、IL-2、インターフェロン–γ(interferon-γ: IFN-γ)、および腫瘍壊 死因⼦-α(tumor necrosis factor-α: TNF-α)を産⽣し15、主に細胞性免疫を担って いる。Th2は
IL-4
によって誘導され、IL-4
やIL-5
などを産⽣し、主に体液性 免疫を担っている16。また、Th17
は IL-1βやIL-6
によって誘導され、IL-17
を 産⽣し、種々の⾃⼰免疫疾患の発症に関連している 16-18。Tfh はIL-21
を産⽣し、異所性胚中⼼(ectopic germinal center: eGC)形成や⾃⼰免疫疾患の病態に 関与し19、
Treg
はIL-10
やTGF-β
を産⽣し、他のTh
細胞の免疫応答を調節す るとされている20。われわれのこれまでの研究で、
SS
の唾液腺において病態の進展とともにTh
サブセットに局在を認めることを明らかにしており、図1
に⽰すような病態 モデルを確⽴してきた21。まず、Th1 細胞とTh17
細胞が標的組織である導管 上⽪周囲に浸潤し、炎症性サイトカインを産⽣することで導管が障害され、SS
の発症と病態維持に寄与する。さらに病態が進展すると、Tfh とTh2
細胞がeGC
とその周囲に集積して、B 細胞を活性化するサイトカインを産⽣するこ とにより、B
細胞による⾃⼰抗体産⽣が促進され、ML
など腺外症状に繋がる ことが⽰唆された22。図1. 我々が提唱するSSの病態モデル
Th1 IL-2IFN-γ TCR
Th17 IL-17
IL-6
Th2
Th0
Tfh
B cell Plasma
Ductal epithelial cell cell
IL-21 IL-4
antibody production
Initiation
Progression
MHC class antigens
Ag
最近の報告では、Th 細胞などの獲得免疫だけではなく、⾃然免疫も⾃⼰免 疫疾患の病態形成に寄与していることが報告され、特に病原体認識センサーで ある
Toll
様受容体(Toll-like receptor: TLR)が微⽣物由来の成分のみでなく、内在性の分⼦も認識することで⾃⼰免疫疾患の発症に関与することが明らか になっている23-25。
そこで研究
2
では、新たな診断マーカーと標的分⼦治療の開発を最終⽬標 として、SS
の発症や病態形成に関わるTLR
関連分⼦を網羅的に解析し、その 発現細胞や機能に関して免疫学的検討を⾏った。材料と⽅法
1. 対象患者
<研究
1>
平成
20
年から平成31
年までに九州⼤学病院顎顔⾯⼝腔外科を受診した患 者のうち、腺腫脹(涙腺・⽿下腺・顎下腺)もしくは⾎清 IgG⾼値(>1747mg/dl)により IgG4-DS
を疑い、⾎液検査(⾎清IgG4)、顎下腺部分⽣検に
加え、⼝唇腺⽣検および顎下腺超⾳波検査を施⾏した 68例(男性
32
例、⼥性
36
例、平均年齢:59.4 ± 16.0
歳)を対象とした。<研究
2>
平成
17
年から平成29
年に九州⼤学病院顎⼝腔外科を受診し、SSと診断さ れた⼥性17
例(平均年齢: 58.4 ± 14.1
歳)、コントロール(HC)として下唇 粘液貯留嚢胞と診断された9
例(男性1
例、⼥性8
例、平均年齢:44.3 ± 20.5 歳)の⼝唇腺を⽤いた。2. 組織採取
対象患者の⼝唇腺は
Greenspan
ら26が提唱した⼿技に沿って、顎下腺はMoriyama
ら7が提唱した⼿技に沿って⽣検を⾏い、その⼀部を使⽤した。いずれの患者も
SS
以外の⾃⼰免疫疾患および悪性腫瘍の既往はなく、免疫抑 制剤の使⽤もなかった。採取した⼝唇腺および顎下腺は、免疫組織学的解析⽤には
4%パラホルムアルデヒドに 24〜48
時間浸漬固定後、パラフィンワックスに包埋し、DNAマイクロアレイおよび
messenger RNA(mRNA)解析⽤
には直ちに液体窒素を⽤いて凍結し、-80℃で保存した後に実験に⽤いた。
3. IgG4-DS
およびSS
の診断IgG4-DS
の診断は、図2
に⽰すように「IgG4関連疾患包括診断基準」 と「臓器特異的診断基準(IgG4関連涙腺・唾液腺炎診断基準)」を組み合わせ て⾏った6。SSの診断は「シェーグレン症候群改訂診断基準(厚⽣労働省研 究班、1999年)」9に準じて⾏った。
図2. IgG4涙腺・唾液腺炎の診断フローチャート HPF: high power field
4. 画像解析
顎下腺超⾳波検査は診断専⽤機器である(Logiq 7: GE Healthcare, Tokyo,
Japan)にて中⼼周波数 12 MHz.で撮影を⾏い、顎下腺に対して縦⽅向(下顎
下縁に対して⽔平)の画像とドップラー画像を抽出した。超⾳波検査にて
IgG4-DS
に特徴的な「⾎流豊富な結節状の低エコー」または「深部にしたがって正常像に移⾏する網状の低エコー」を認めた場合に陽性とした。
5. DNA
マイクロアレイ解析Invitrogen
社推奨のプロトコルに基づき、TRIzol
®Reagent
(Invitrogen, SanDiego, CA)を⽤いて total RNA
を抽出後、SV Total RNA Isolation System
(Promega, Madison, WI)を⽤いて精製した。total RNAは
Agilent 2200
TapeStation System(Agilent Technologies, Santa Clara, CA)を⽤いてクオリティ
チェックを⾏った。各50 ng
のtotal RNA
を⽤いて、Low Input Quick AmpLabeling Kit, one-color(Agilent Technologies)によりラベリング反応を⾏っ
た。Agilent社推奨プロトコルに基づき、SurePrint G3 Human Gene Expressionv2 8×60K Microarray Kit(Agilent Technologies)(DNA chip including 60,000 probes)へハイブリダイゼーションし、洗浄後、SureScan Microarray Scanner
(Agilent Technologies)を⽤いてスキャンした。その後、スキャナーから出⼒
された数値をバックグラウンドの値を考慮し、Feature Extraction Software ver.
9.5.1.1(Agilent Technologies)を⽤いてデータの数値化、統計処理ソフト R
を⽤いた
quantile
法による正規化を⾏った27, 28。そこから、少なくとも1
つのサ ンプルでフラグ‘P’(Present)を⽰したプローブのシグナル値を選び、Linear
Models for Microarray Analysis package
29を⽤いて発現変動遺伝⼦(differentiallyexpressed gene: DEG)を選択した。さらに、ratio(SS
群における平均シグナル値/ HC群おける平均シグナル値)を算出し、HC群と⽐較して
SS
群におい て発現上昇(ratio ≥2.0-fold かつ P <0.02)または減少(ratio ≤0.5 かつ P<0.05)を認めた DEG
を抽出した。得られた
DEG
が各群間でどのような発現変動パターンをしているか⽐較 するため、ヒートマップにて数値化されたマイクロアレイデータを⽰した。6. RNA
およびcomplementary DNA(cDNA)の抽出
バリデーションとして、まず⼝唇腺における
mRNA
発現量を解析すること とした。RNAの抽出にはacidified guanidinium-phenol-chloroform
法を⽤いた。⼝唇腺に
Torizol
®Reagent
(Invitrogen)を1 ml
加え、ホモジナイザーを⽤いて 粉砕した。クロロホルム(Nacalai tesque, Kyoto, Japan)を200 µl
加えて撹拌 後、15分間静置した。4℃、15,000 rpmで15
分間遠⼼した後にRNA
を含む⽔層を採取し、これに
1 ml
のイソプロパノール(Nacalai tesque)を加えて撹 拌後、4℃、15,000 rpmで15
分間遠⼼し、上清の除去後に得られたRNA
ペレ ットを70% EtOH
(Nacalai tesque)で洗浄後乾燥させ、50 µlの0.1% dietyl pyrocarbonate(DEPC)処理⽔に溶解した。その後、吸光度計 NanoDrop ND- 1000 spectrophotomerter
®(Thermo Fisher Scientific, Milford, MA)にてRNA
の 濃度を測定した。cDNAの合成には、DEPC
処理⽔に約1.0 µg
のtotal RNA、
20 U/µl
のRecombinant RNasin
®Ribonuclease Inhibitor
(Promega)を0.5 µl、
0.5 µg/µl
のoligo(dT)
12-18(Pharmacia, Uppsala, Sweden)を1 µl、10 mM PCR Nucleotide Mix(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)を 1 µl、250 mM
トリス塩酸塩(pH 8.3)、375 mM KClおよび 15 mM MgCl を含む反応緩衝 液を4 µl、100 mM dithiothretiol
を2 µl、200 U/l SuperScript
®II Reverse
Transcriptase(Thermo Fisher Scientific)を 0.5 µl
加えて合計20 µl
とし、42℃で 1
時間インキュベートした。その後、95℃で5
分間加温して酵素を失 活させ、直ちに氷冷した。これをDEPC
処理⽔で10
倍に希釈し、mRNA
の 解析に⽤いた。7. real-time polymerase chain reaction(PCR
)法による候補分⼦のmRNA
発現の解析
real-time PCR
法はBrilliant III Ultra-Fast SYBR
®Green QPCR Master Mix
(Agilent Technologies)を⽤いて⾏った。滅菌⽔に
Master Mix
を10 µl、
template DNA
を10 ng、20 pM
センスおよびアンチセンスプライマーをそれぞれ
0.5 µl
ずつ加え、全反応液量を20 µl
とした。反応条件は、熱変性は95℃
で
1
サイクル⽬が5
分、2
サイクル⽬以降は10 ~ 20
秒間で⾏い、伸張反応は72℃で 10 ~ 30
秒間とし、全60
サイクルの増幅を⾏った。マイクロアレイの結果をふまえ、⼝唇腺における
mRNA
発現量を解析する候補分⼦に選んだTLR1、TLR7、TLR8、および TLR9
の各プライマー配列を表1
に⽰す。また、各症例間での
mRNA
発現量を定量化するために、それぞれのmRNA
の 発現量はハウスキーピング遺伝⼦であるβ-actinのmRNA
発現量を⽤いて補 正し、相対的発現量を算出した。Gene PCR産物 サイズ
(bp) プライマーの塩基配列 TLR1 248 forward
reverse
5'- CAG CGA TGT GTT CGG TTT TC -3' 5'- GAT GGG CAA AGC ATG TGG AC -3' TLR7 262 forward
reverse
5’- TGG AAA TTT TGG ACC TCA GC -3’
5’- TTG CAA AGA AAG CGA TTG TG -3’
TLR8 195 forward reverse
5′- AAG CAC ATC CCA AAT GAA GC -3′
5′- GCA ACT CGA GAC GAG GAA AC -3′
TLR9 265 forward reverse
5’- CAA TGT CAC CAG CCT TTC CT -3’
5’- GCT GAG GGA CAG GGA TAT GA -3’
β-actin 260 forward reverse
5′- GCA AAG ACC TGT ACG CCA AC -3′
5′- CTA GAA GCA TTT GCG GTG GA -3′
表1. real-time PCR のプライマー
8. 免疫組織学的解析
前述の
real-time PCR
法の結果をふまえ、注⽬した分⼦の⼝唇腺における発 現および局在について、免疫組織化学染⾊法を⽤いて検討した。パラフィン包埋されたブロックより
Leica RM2145
回転式ミクロトーム(Leica Biosystems, Tokyo, Japan)にて
4 µm
の切⽚を作製し、HE染⾊、免疫 組織化学染⾊、および蛍光⼆重免疫染⾊に⽤いた。作製したパラフィン切⽚をキシレンに
30
分間、さらに100%、 95%、
85%、 75%エタノールの順にそれぞれ各 5
分間浸漬させ、脱パラフィン処理および⽔和処理を⾏った。切⽚を精製⽔にて⽔和したのちに、Target Retrieval
Solution(Dako, Glostrup, Denmark)を⽤いて抗原賦活化処理(121℃、5
分 間)を⾏った。ただし、⼀次抗体として抗IgG4
抗体を使⽤した切⽚につい ては、抗原賦活化処理(105℃、30分間)を⾏った。室温で
30
分間放冷したのち、切⽚をリン酸緩衝⽣理⾷塩⽔(phosphatebuffered saline: PBS; 137 mM NaCl、 2.7 mM KCl、8.1 mM Na
2PO
4、1.5 mMKH
2PO
4(Nacalai tesque))にて洗浄した。この後、内因性ペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase: HRP)除去のため、3%過酸化⽔素⽔(Nacalai
tesque)を室温で 30
分反応させた。再度、PBSで洗浄したのち、抗体の⾮特異的吸着を防ぐために
Protein Block Serum-Free( Dako)を 30
分間反応させ た。⼀次抗体は4℃で⼀晩反応させた。単球(monocyte: mono)/マクロファ
ージ(macrophage: MΦ)のマーカーとしてCD68、樹状細胞(dendritic cell:
DC)のマーカーとして CD11c(⾻髄系樹状細胞 myeloid dendritic cell:
mDC))および CD123(形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cell:
pDC))、そして B
細胞のマーカーとしてCD 20
を⽤いた。陰性対照として、⼀次抗体に換えて
PBS
を⽤いた。使⽤した⼀次抗体を表2
に⽰す。抗体(clone またはcatalog#, 会社名, 所在地) 希釈倍率 抗CD138モノクローナル抗体(mouse)
(MI15, 医学⽣物学研究所、愛知、⽇本)
1:800
抗IgG4モノクローナル抗体(mouse)
(HP6025,The Binding Site, Birmingham, United Kingdom)
1:1000
抗CD68モノクローナル抗体(mouse)
(KP1, Abcam, Cambridge, United Kingdom)
1:800
抗CD11cモノクローナル抗体(rabbit)
(EP1347, Abcam)
1:200
抗CD123モノクローナル抗体(mouse)
(BR4MS, Leica Biosystems)
1:100
抗CD20モノクローナル抗体(rabbit)
(EP459Y, Abcam)
1:200
抗TLR8ポリクローナル抗体(rabbit)
(SAB3500307, Sigma)
1:200
表2. 免疫組織化学的染⾊に使⽤した⼀次抗体
PBS
にて洗浄後、⼆次抗体にHRP
標識抗体マウスおよびウサギimmunoglobulin(Ig)G
ポリクローナル抗体(Nichirei Biosciences, Tokyo,Japan)を⽤い、室温で 1
時間反応させた。PBSにて洗浄後、ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidine: DAB(Nichirei Biosciences))にて可視化した。
全ての免疫組織化学染⾊において、対⽐染⾊としてヘマトキシリン溶液
(Merck Millipore, Darmstadt, Germany)を使⽤した。その後、切⽚を
75%、
85%、 95%、100%エタノールに各 5
分間、キシレンに10
分間浸漬し、脱⽔、透徹処理を⾏い、マリノール(Malinol 750cps〈武藤化学、東京、⽇本〉) を⽤いて封⼊した。なお、各抗体の陽性細胞は、オールインワン蛍光顕微鏡
BZ-9000
シリーズ(KEYENCE, Tokyo, Japan)を⽤いて撮影、記録した。
蛍光⼆重免疫染⾊には、Opal 4-Color Manual IHC Kit (PerkinElmer, Waltham,
MA)を⽤いた。CD68、CD11c、CD123、そして CD20
を1次抗体として⽤いた。染⾊した組織の検出には、オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-9000 シリー ズ(KEYENCE)を⽤いて撮影、記録した。
9. IgG4
陽性率およびIgG4
陽性細胞数の算出IgG4
陽性率は、強拡⼤5
視野でIgG4
陽性細胞とCD138
陽性細胞をそれぞ れ計測し、各視野のIgG4
陽性細胞をCD138
陽性細胞で除したものを平均し た。また、IgG4陽性細胞数は、強拡⼤5
視野でIgG4
陽性細胞を計測して平 均した。10. TLR8
陽性率の算出TLR8
陽性率は、強拡⼤5
視野でTLR8
とmerge
したTLR8
発現細胞数(⻩⾊)と総
TLR8
発現細胞数(⻩⾊+緑⾊)をそれぞれ計測し、各視野のTLR8
とmerge
したTLR8
発現細胞数を総TLR8
発現細胞数で除したものを平 均した。11. TLR8
⽋損型U937
細胞の作製およびU937
へのTLR8
の強制発現ヒト⽩⾎病細胞株
U937
よりTLR8
の機能と発現を⽋損した細胞株を作製 するため、CRISPR-cas法を⽤いたゲノム編集を⾏った。そのためにまず、TLR8
のゲノム編集を⾏うためのノックアウトベクターの作製を⾏った。CRISPR-direct(https://crispr.dbcls.jp)にて TLR8
特異的なgRNA(guide
RNA)を設計し、得られた配列(5’- AATGTACAGCACCAGAACGG -3’)の
合成をfasmac
社へ依頼した。次にcas9
をその配列中に含むlenti CRISPR v2
ベクター(Addgene, Watertown, MA)への上で得られた配列の挿⼊をライゲ ーションにて⾏い、ノックアウトベクターを作製した。次にウイルスベクタ ー取得のため、得られたノックアウトベクターをヒト胎児腎細胞株293FT
にViraPower Lentiviral Expression Systems(Thermo Fisher Scientific)を⽤いて遺伝
⼦導⼊を⾏い、2⽇間の培養の後にウイルスベクターを含んだ上清を採取し た。得られたウイルスベクターを含む上清を
U937
細胞へ加え、48
時間後に ピューロマイシンによるセレクションを開始した。72時間後にピューロマイ シンの除去を⾏った後、限界希釈法にて1
細胞由来の細胞群を得た。他⽅、U937
へのTLR8
強制発現には、TLR8のcDNA
をクローニングしたpHIV-
zsgreen
ベクター(Addgene, MA)を⽤いた。ウイルスによる細胞株への遺伝
⼦導⼊は上記のものと同様に⾏った。
なお、U 937の
TLR8
が強制発現とノックアウトされたことに関しては、イムノブロット法で確認した(図
3)。
図3. U937細胞株におけるTLR8のタンパク発現
empty TLR8 empty
cDNA TLR8
gDNA TLR8F
ACTB
150 kDa
50 kDa
37 kDa
12. ELISA
法によるTLR8
リガンド刺激後のサイトカイン産⽣の測定 ヒト⽩⾎病細胞株U937
の培養はRPMI
培養液に10% FBS、ペニシリン /ス
トレプトマイシン/グルタミン混合液、37℃、 50 µM 2-ME
を加えた培養液で 培養を⾏った。培養はインキュベーター内で37℃、 5% CO
2の条件下で⾏っ た。まずU937
細胞を96
⽳プレートに1.0 × 10
5cells/well
となるように播種 し、12-O-テトラデカノイルホルボール 13-アセタート(Phorbol 12-myristate13-acetate: PMA)を最終濃度が 20 ng/ml
となるように培養液に加え培養を⾏った。その後、IFN-γ(PepoTech, Rocky Hill, NJ)を最終濃度
3 µl/ml
となるよ うに加え、16時間培養を⾏った後、5µM R-848を⽤いて細胞の刺激を⾏い24
時間後に上清を回収した。回収した上清中におけるTNF–α
の濃度の測定をELISA(Thermo Fisher Scientific)にて測定した。
13. 統計
統計処理には
Student t
検定、Fisher検定、Mann-Whitney U検定、Kruskal-Wallis
検定、One-way ANOVA検定およびSpearman
順位相関係数を⽤いた。なお、統計解析ソフトとして
JMP software version(SAS Institute, Cary, NC)を
使⽤し、P < 0.05の場合を統計学的有意差ありとした。結 果
<研究
1> IgG4-DS
の診断における唾液腺検査の有⽤性についての検討1-1. 患者内訳
IgG4-DS
を疑い、当科にて唾液腺検査(顎下腺部分⽣検、⼝唇腺⽣検、顎下腺超⾳波検査)を施⾏した
68
例を対象とした。「IgG4関連疾患包括診断 基準」および「IgG4関連ミクリッツ病診断基準」に基づき、IgG4-RDの確 定診断となった36
例を、IgG4-DS 患者31
例と涙腺・唾液腺病変を伴わない
IgG4-RD
患者(その他のIgG4-RD)5
例の2
群に分けて検討を⾏った。また、IgG4-RDの確定診断に⾄らなかった患者
37
例の最終診断は、SSが28
例、MLが4
例であった。内訳は図4
に⽰す。図4. IgG4-DS患者の分類ツリー
1-2. ⼝唇腺⽣検の診断能
各疾患の⼝唇腺における病理組織学的特徴を把握するために、免疫化学 的染⾊および
HE
染⾊を⾏った。IgG4-DS、SS、およびML
の代表例の組織 像を図5
に⽰す。IgG4-DS患者では多くの⼝唇腺でeGCの形成を伴った IgG4陽性形質細胞の浸潤を認めたが(64.5%)、その他の⼝唇腺ではeGC やIgG4陽性形質細胞の浸潤を認めず、軽度のリンパ球浸潤を認めたのみで あった。⼀⽅、SS患者では全例の⼝唇腺で導管周囲へのリンパ球浸潤を認 めたが、診断基準値(IgG4陽性率が40%以上かつ IgG4
陽性細胞数が10/HPF
以上)を超えるIgG4
陽性細胞を認めたものは1
割程度であった。ML
患者では4
例中1
例で診断基準値を超えるIgG4
陽性形質細胞を認め た。実際に、⼝唇腺の
IgG4
陽性率および陽性細胞数を計測して検討を⾏った 結果を図6
に⽰す。IgG4-DS、その他のIgG4-RD、SS、および ML
患者にお ける⼝唇腺⽣検の陽性率は、それぞれ64.5%、40.0%、10.7%、25.0%であっ
た。なお、
IgG4-DS
に特徴的な病理組織学的所⾒として「異所性胚中⼼の形成」、「花筵状の線維化」、「閉塞性静脈炎」があるが、⼝唇腺で認められる割合は それぞれ、45.2%、16.1%、0%であった。
図5. IgG4-DS、SS、およびML患者⼝唇腺における病理組織学的所⾒
HE: ヘマトキシリン・エオジン、Scale bars: 100 µm
図6. 各疾患の患者⼝唇腺におけるIgG4陽性率およびIgG4陽性細胞数
1-3. 顎下腺超⾳波検査の診断能
各疾患の顎下腺における超⾳波検査所⾒の特徴を把握するために、IgG4-
DS、SS、そして ML
の代表例の画像を図7
に⽰す。IgG4-DS患者における 顎下腺の超⾳波検査画像では、「⾎流豊富な結節状低エコー」または「深 部にしたがって正常像に移⾏する網状低エコー」を認めた。さらに、顎下 腺全摘出を⾏った症例を⽤いて超⾳波検査を施⾏した断⾯と同⼀⽅向に割⾯を加えた病理像(HE染⾊)を⽐較したものを図
8
に⽰す。これらの結果 から、IgG4-DSに特徴的な線維化は⾼エコー領域として(⻩⽮印)、eGC
形成を伴うリンパ球浸潤は低エコー領域として(⽩⽮印)超⾳波所⾒に反 映されていると考えられる。⼀⽅、SS患者の顎下腺では「腺全体にわたる網状低エコー」や「外形の 不明瞭化」を認め、IgG4-DSとの鑑別は容易であった。しかし、
ML
患者で の顎下腺(節外性)では、IgG4-DSの所⾒に類似した「深部にしたがって正 常像に移⾏する網状低エコー」を呈する症例もあり、超⾳波検査のみではIgG4-DS
と節外性ML
との鑑別は困難であった。IgG4-DS、その他の IgG4-RD、SS、および ML
患者における顎下腺超⾳波 検査の陽性率はそれぞれ 100%、0%、0%、75.0%であった。興味深いことに、臨床的には涙腺にのみに腫脹を認めた
IgG4-DS
患者3
例でも顎下腺超⾳波検査では陽性となったため、顎下腺⽣検を⾏うと著明 なIgG4
陽性細胞の浸潤を認め、病理所⾒でも陽性となった。図7. IgG4-DS、SS、およびML患者の顎下腺における超⾳波検査所⾒
図8. IgG4-DS患者の顎下腺における病理組織所⾒と超⾳波検査所⾒の⽐較
線維化は⾼エコー領域として(⻩⽮印)、異所性胚中⼼形成を伴うリンパ球浸潤は低エコ ー領域として(⽩⽮印)超⾳波所⾒に反映されている。
1-4. 診断能の⽐較検討
IgG4-DS、その他の IgG4-RD、SS、および ML
患者の臨床および⾎清学的 所⾒を⽐較したものを表3
に⽰す。IgG4-RD
患者では、⾎清IgG
およびIgG4
値の⾼値を⽰す⼀⽅、抗SS-A
抗体および抗SS-B
抗体はほとんどの症例で陰 性であった。また、SSに特徴的な唾液分泌量の減少はSS
と⽐較して軽度で あった。さらに、IgG4-RD を
IgG4-DS
とその他のIgG4-RD
の2
群に分けて⽐較検 討すると、平均年齢、性別、⾎清IgG
およびIgG4
値に有意な差は認められ なかったが、IgG4-DS の⼝唇腺⽣検および超⾳波検査の陽性率はその他のIgG4-RD
と⽐べて有意に⾼かった。最後に、顎下腺超⾳波検査と⼝唇腺⽣検が
IgG4-DS
臓器特異的診断基準へ 適応できるか検討を⾏った。2つの検査単独、または⾎清IgG4
値と組み合わ せた場合の診断能を表4と図9
に⽰す。顎下腺超⾳波検査と⼝唇腺⽣検の感 度・特異度・正診率はそれぞれ、100%、 83.8%、 91.7%と 64.5%、 73.8%、 75.0%
であった。さらに、顎下腺超⾳波検査と⼝唇腺⽣検を⾎清
IgG4
値の結果と組 み合わせた診断能はそれぞれ、100%、 94.6%、 97.1%
と64.5%、 91.9%、 79.4%
となり、顎下腺超⾳波検査に⾎清
IgG4
値を組み合わせた場合は、感度・特異 度・正診率とも9
割を超える⾮常に⾼い診断能となった。表3. IgG4-DS、その他のIgG4-RD、SS、およびML患者の臨床・⾎清学的所⾒の⽐較
表4. 各検査の診断能の⽐較
図9. 顎下腺超⾳波検査と⼝唇腺⽣検のIgG4-DS臓器特異的診断基準への適応能の⽐較
(%)
<研究
2> SS
の発症におけるTLR8
陽性単球/マクロファージの関与2-1. DNA
マイクロアレイによる発現変動遺伝⼦の抽出SS
病態形成に関与するTLR
関連分⼦の同定することを⽬的に、まずDNA
マイクロアレイによる網羅的遺伝⼦解析を⾏った。SSとHC
の⼝唇腺 におけるTLR
関連遺伝⼦の発現の違いを視覚化するために、ヒートマップ を⽤いた(図10)。SS
では、TLR1、TLR7、TLR8、TLR9
の遺伝⼦発現の 亢進を認めた。図10. ⼝唇腺において発現変動を認めたTLR関連遺伝⼦のheat map
HC:コントロール、TLR:Toll様受容体
2-2. ⼝唇腺における TLR
関連分⼦の発現量次に、DNAマイクロアレイより発現量の変動が⽰唆されたこれらの遺伝
⼦について、real-time PCR 法を⽤いて⼝唇腺での
mRNA
発現量の差を検証 した。各群間で、候補分⼦の相対的mRNA
発現量を⽐較した結果を図11
に⽰す。SS群の⼝唇腺では、その他の群と⽐較して
TLR8
のみmRNA
発現が 有意に亢進していた。図11. SSの⼝唇腺におけるTLR関連分⼦のmRNA発現量 統計はStudent’s t 検定の検定を⾏った。N.S : not significant
2-3. ⼝唇腺における TLR8
の発現と局在SS
の⼝唇腺におけるTLR8
の発現と局在を確認するために、免疫組織化学染⾊を⾏った。さらに
TLR8
発現細胞を同定するために、⼀般にTLR8
を発現すると報告されているmono/MΦ、DC、そして B
細胞と、TLR8の分 布を⽐較した。「⽅法と材料」で述べたように、mono/MΦのマーカーとし てCD68、 DC
のマーカーとしてCD11c( mDC)と CD123(pDC)、B
細胞 のマーカーとしてCD20
を⽤いた。その結果、図12
に⽰すように、SS患者 の⼝唇腺では、TLR8はリンパ球浸潤部に強い発現を認め、CD68
およびCD11c
の発現パターンと類似していた。図12. SSの⼝唇腺におけるTLR8の発現と局在 Scale bars: 100 µm
2-4. ⼝唇腺における TLR8
の発現細胞の検索これらの結果を考慮して、実際に
SS
患者の⼝唇腺における主なTLR8
発現細胞の検索のために、蛍光⼆重免疫染⾊を⾏った。代表的な症例を図
13
に⽰すが、TLR8は主にmono/MΦ(CD 68
陽性細胞)と局在が⼀致し た。さらに、17例のSS
患者に対して蛍光⼆重免疫染⾊を⾏い、各細胞のTLR8
陽性率を半定量的に解析した。これらの算出⽅法は「材料と⽅法」に⽰す。その結果、SSの⼝唇腺においては
mono/MΦ
が最もTLR8
陽性率が⾼かった(図
14)。
図13. SSの⼝唇腺における TLR8発現細胞の検索 Scale bars: 50 µm
図14. SSの⼝唇腺におけるTLR8陽性細胞率の⽐較 統計はKruskal-Wallis(Steel法)の検定を⾏った(*P < 0.05)。
2-5. TLR8
陽性単球の機能解析さらに、TLR8+ 単球/マクロファージの機能解析を⽬的に、ヒト単球細胞 株(U-937)の
TLR8
アゴニスト(R848)で刺激実験を⾏い、炎症性サイト カインであるTNF-α
の産⽣能を検討した(図15)。⽅法の詳細は、「材料
と⽅法」に⽰した通りである。その結果、アゴニスト刺激をおこなってない場合は、いずれの細胞株で
でも
TNF-α
の産⽣はほとんど認めなかった。⼀⽅、アゴニスト刺激を⾏った場合では、TLR8 を過剰発現させた細胞株で有意に
TNF-α
の産⽣が亢進 し、ノックアウトさせた細胞株では産⽣能は著明に低下した(図16)。
図15. TLR8 陽性単球の機能解析(材料および⽅法)
図16. TNF-α 産⽣能の⽐較
Kruskal-Wallis(Steel法)の検定を⾏った( * P < 0.05 、**P < 0.01)。
考察
IgG4-RD
の疾患概念が2012
年に提唱されて以来1, 2、IgG4-RDに研究は 様々な分野で進められ、疾患への理解も深まってきている。しかしなが ら、IgG4-RDにおけるIgG4
の臨床的意義に関しては、直接的に発症や病態 進展を惹起するものなのか、⼆次的に誘導されたものかという議論は未だ 解決していない。⼀般に、IgGサブクラスは、正常⼈の⾎中ではIgG1
(65.0%)、IgG2(23.0%)、IgG3(8.0%)および
IgG4(4.0%)の形で構成
しており、IgG4の分画は最も少ない。IgGは各種抗原に対する抗体を含 み、それぞれ異なる役割を担う。最も分画の多いIgG1
はほとんどのタンパ ク質やペプチド抗原に対して最も優位な免疫となる抗体である⼀⽅、IgG4 は抗原に対する親和性が低く、補体および細胞活性化の誘導能は低い30。ま た、IgG4は補体を結合せず、構成している2
つの重鎖間のジスルフィド結 合が弱いため、IgG4抗体の半分は容易に解離し別のIgG4
抗体と結合し31、 1つの分⼦で2つの異なる抗原を認識する「⼆重特異性分⼦」を形成す る。この⼆重特異性分⼦は抗原架橋能や免疫複合体形成能を⽋くため、抗 炎症作⽤を有すると考えられている32。また、Fc受容体を介した組織破壊⼒が
IgG1
より低く、⽩⾎球を介した組織破壊に関与しているという。このような背景があるにも関わらず、IgG4-RDの診断が「⾎清
IgG4
値の 上昇」のみで下されることが散⾒され、その結果、誤診の増加につながっ ている。最近のコホート研究によると、⼀次性SS
患者の10.7%の⼝唇腺において、陽性数・陽性率ともに診断基準を満たすほどの強いIgG4陽性形質 細胞の浸潤を認めたとの報告がある33。また、Satoら34は⾎清IgG4⾼値と リンパ節へのIgG4 陽性形質細胞浸潤を⽰すもIgG4-RDに関連しない、IgG4 産⽣MLの⼀例を報告した。われわれも過去に、IgG4-DSとの鑑別に苦慮し た、多数のリンパ節や両側顎下腺に⽣じた
marginal zone B
細胞ML
の1例 を報告した 35。さらに、天疱瘡36、 関節リウマチ37、そして唾液腺扁平上⽪癌38などの様々な疾患で、罹患臓器に
IgG4
陽性形質細胞の浸潤を認める ことが報告されている。これらの報告から、IgG4-DSの確定診断には病変局 所からの⽣検が重要であることが再認識されている。IgG4-DSの確定診断に 向けた低侵襲な⼿技として、われわれは顎下腺部分⽣検術の有⽤性を⽰し てきたが7、しばしば患者の希望や全⾝状態により施⾏困難なことがある。さらに近年、Takanoら39はより低侵襲な⼿技として、顎下腺針⽣検の有⽤
性に関して報告している。感度は
8
割以上でML
との鑑別も可能である が、術後の微⼩出⾎や唾腫が稀に⽣じる。確実なサンプル採取には、症例 の選択と⼀定の技量の確⽴が必要である。 他⽅、Shimizuら40の報告によ ると、IgG4-DSの診断における各種画像検査(超⾳波、FDG-PET、CT、MRI
検査)の有⽤性を⽐較検討した結果、⾼い診断能と放射線被曝がない ことから超⾳波検査が最も有効であった。よって、今回われわれは、顎下 腺超⾳波検査と⼝唇腺⽣検を診断項⽬の1
つである病理検査の代わりに取 り⼊れた場合の診断能について検討した。その結果、⼝唇腺⽣検は⾎清IgG4
値と組み合わせたとしても、その感度の低さから、診断にはあまり適さないことが⽰唆された。しかしながら、顎下腺超⾳波検査と⾎清
IgG4
値 を組み合わせると、感度・特異度・正診率ともに9
割を超え、顎下腺部分⽣検術に匹敵する診断能を⽰した。ただし、節外性
ML
との鑑別は困難な ことから、必要あればその他の臨床所⾒やsIL-2Rなどの⾎液データによる 検討も追加すべきである。事実、悪性腫瘍の全⾝検索で頻⽤されるFDG- PET
も、単独では、全⾝罹患臓器の検索や⽣検部位の判断の決定には有⽤であるが、MLとの鑑別は困難かつ放射線被曝は避けられない41。現状、顎 下腺超⾳波検査の有⽤性に関しては、他施設でのさらなる検討が必要であ るが、将来的には顎下腺超⾳波検査が新診断基準に適応されると考えてい る。
現⾏の
IgG4-DS「臓器特異的診断基準」を⽤いると、臨床所⾒(3
か⽉以上続く、涙腺、⽿下腺、顎下腺のうち 2領域以上の対称性の腫脹)と⾎清
IgG4
⾼値のみで診断が可能であり6、病理組織学的所⾒は必ずしも確定診断 には不可⽋ではないとされている。本研究では悪性腫瘍や類似疾患を鑑別 するべく、IgG4-DSの診断基準には顎下腺超⾳波検査も含めたものを提案す る。また臨床所⾒の診断項⽬(2領域以上の対称性の腫脹)についても、顎 下腺のみを罹患臓器とするIgG4-DS
の1
つであるKT
がこの項⽬により除 外されるため、新診断基準は表4
に⽰すように、「2領域以上の称性の腫 脹」の代わりに「1領域の対称性の腫脹」とすることも提唱する。表5. IgG4-DSの診断基準の改定私案
⼀⽅
SS
は、診断基準こそ1999
年に改定され厚労省診断基準9が⽤いられ ているものの、その治療法はドライアイ・ドライマウスを始めとした主症 状に対する対症療法が主であり、ステロイドを含めた免疫抑制剤は有効で はなく、根治的治療は確⽴されていない42。病理組織学的には、導管周囲性 のCD4
陽性ヘルパーT(Th)細胞を主体としたリンパ球の浸潤とを特徴と する。SS患者のほとんどが⾼齢の⼥性に発症し、その発症要因としては、加齢(エストロゲンの枯渇)43やウイルス感染(EBVや
HTLV−1)
44, 45など 諸説あるが、いまだ明らかにされていない。我々のこれまでの研究では、唾液腺に浸潤する
Th
細胞に注⽬し、SSの発症・維持にはTh1
やTh17
が、病態進展には
Th2
やTfh
が関与していることを報告してきた21。しかしな がら、近年、Th細胞などの獲得免疫だけではなく、TLR
を介した⾃然免疫 も⾃⼰免疫疾患の病態形成に寄与していることが報告されている23-25。この ことから、まず本研究では、SSの発症や病態形成に関わるTLR
関連分⼦を 網羅的に解析し、バリデーションを⾏った。その結果、TLR8 のみmRNA
発現が有意に亢進していた(P<0.05)。⼀般的にTLR8
は、DC、mono/MΦ、および B
細胞に発現するとされ、2量体を形成し、ウイルス由来や⾃⼰由来の⼀本鎖
RNA
を認識して、⾃然免疫反応を引き起こすことが 知られている46, 47。最近の研究では、ヒトTLR8
トランスジェニックマウスは
TNF-α
などの炎症性サイトカインを過剰産⽣することにより、⾃⼰免疫性炎症を引き起こすことや48、SS患者の末梢⾎で
TLR
ファミリー(TLR1〜TLR10)の
mRNA
発現を検討したところ、健常者と⽐較してTLR8
の発現が亢進していたことから49、TLR8が
SS
の病態に関与していることが推 察された。そこで、TLR8の発現候補細胞のマーカー(CD123、CD11c、CD68、CD20)
を⽤いて蛍光⼆重染⾊法を⾏い、各細胞のTLR8
陽性率を半定量的に解析したところ、SS の⼝唇腺においては、主に
mono/MΦ
が最 も割合が⾼かった(P<0.01)。さらに、TLR8+
mono/MΦ
の機能解析を⽬的に、ヒト単球細胞株(U-937)に
TLR8
を過剰発現もしくはノックアウトさせ、TLR8 アゴニスト(R848)で刺激実験を⾏った。その結果から、TLR8アゴニスト刺激により、TLR8 シグナルを介して、TLR8+
mono/MΦ
はTNF-α
の産⽣が亢進することが⽰唆 された。なお、TNF-αは、TLR8シグナルを介してTh1
誘導型の炎症を惹起 し、全⾝性関節炎の発症に関与することや48、SSにおいて唾液腺上⽪のア ポトーシスに関与していることが知られている50, 51。SS
の発症要因とされるウイルス感染や慢性炎症(による蓄積した⾃⼰のRNA)は TLR8
が認識すること、最近の研究ではTLR8
がX
染⾊体に優位 なことからも52、TLR8はSS
の発症に与することが推察される。本研究の 結果から、唾液腺に浸潤しているTLR8
を発現するmono/MΦ
がTLR8
刺激を介して
TNF-α
を産⽣して、Th1
誘導型炎症を引き起こし、唾液腺の破壊やアポトーシスを促進させることが⽰唆された(図
17)。
図17. 本研究の結果から提唱されるSSの病態モデル
今後は、TLR8トランスジェニックマウスを⽤いて
TLR8
を介したSS
の 発症機序の解明(Thサブセットとの関連など)し、TLR8
経路を標的とし た新規治療法およびSS
特異的な新規診断マーカーの開発に繋げたい。.謝 辞
稿を終えるにあたり、御懇篤なる御指導を頂きました九州⼤学⼤学院⻭学研究院⼝腔顎 顔⾯病態学講座顎顔⾯腫瘍制御学分野の中村誠司教授に深甚なる謝意を表します。
また、直接御指導頂きました森⼭雅⽂助教に深謝致します。さらに、常に励ましの⾔葉 を頂きました同分野の皆様に深く感謝致します。
最後に、蔭ながら⽀えてくれた同分野や⼤学の同期、そして家族に感謝致します。
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