BulletinofFacultyofEducation,NagasakiUniversity:CurriculumandTeachingNu37(2001)29133
環境 における金属腐食 の教材化 に関する研究 Ⅰ
一大学生 と市民の腐食概念 に関す る実態調査 ‑
富 山 哲 之* 町 田め ぐみ= 宮川真希子=*
(平成13年3月15日受理)
A Study oftheCom sion of MetalsinEnvironmentasaTeaching Material
‑Student'sandPeople'sUnderstaTldingofCorrosionofMetals‑
NoriyukiTOMIYAMA
*
MegumiMATIDA‥
Makiko MIYAGAWAH * (Received,Mar.15,2001)1. は じめ に
我 が国 における鉄鉱石 の発見 は1727年 とい う。 砂鉄 か ら鉄 鉱 石 を原料 とす る銑 鉄 の連 続 出鉄 に成功 したのは、130年後 の1857年 の ことであ る1)。冶 金技 術 の発 展 に よ って、 鉄 材 に 限 らず多 くの金属 は鉱石の中か ら人為 的に引 き離 されて様 々 な金属加 工 品 に形 を変 えて い るが、 いっか は自ら腐食 されて再 び大地 に帰 ってゆ くことにな る。 自然 科学 にお け る腐 食 の概念 の辞書的定義 は次 のよ うであ る。金属材料が使用環境 との化学 反 応 に よ って表 面 か ら金属 でない状態 にな って失 われてい くことをい う2)。金属 の性質が変化 して実 用 的 な機能 が損 なわれ るのである。普段、「腐食 す る」 と 「さび る」 は同 じ意味 のよ うに使わ れ るが、
非鉄金属 には 「さびる」とい う用語 は使 わないようで ある3)。従来 の中学校理 科教 科書 で は
「鉄 はさびる」 とい う事例 を簡潔 に触 れてあ る。新学習指 導 要 領4)で は軟 化 や還元 の反 応 を 日常生活 と関連付 けて理解 させ ることが強調 されて いる。今後 、 自然 環 境 にお け る金 属 の 腐食現象 は穏 やかな教化 に関す る教材 と しての有用性 が考 え られ る。
そ こで、本稿で は、材料 に付随 した特性 と して、金属 の腐 食現 象 につ いて教材 化 の た め の示唆 を得 よ うとす る ものであ る。 ここで は、大学生及 び市 民 の金属 の腐 食 に関 わ る事 柄 に対す る意識 を調査 し、分析 ・検討 した ことについて述べ る。
2.調査の方法
2000年10月か ら同年12月 までの3か月間 に、金属 の腐食 に関 す るア ンケ ー ト調 査 を、 本 学教育学部 の大学生(86人 ;男性25人、女性61人)及 び市内の一般市民(48人 ;男性20人 、女性28 人)の134人 (男性45人、女性89人)を対象 に行 った。市民 の回答者 の年 齢層 は10代(5人 )、20 代(6人)、30代(4人)、40代(8人)、50代(12人)、60代(8人)、70代(4人)、80代(1人 )に及 ぶ。
学生 に対 して は調査用紙 を配布 し各個人 が直接記入す る方法 を と り、 市 民 に対 して は街 頭
*長崎大学教育学部理科教育講座 *
*
西海建設 (秩)*
**
長崎市管内郵便局30 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 No.37(2001年)
で直接 に質問 し調査用紙 に記入す る方法をとった。調査項 目は次項 の(1)〜(6)に示 す通 り である。項 目(1)、(3)、(6)の自由回答記入欄 は複数回答可 とした。 なお自由回答 の中の表現 は各個人 によって若干異なることもあるので、内容が同 じと考 え られ る記述 は一 つ の回答 として集計 した。調査内容 には慣用語の 「さび」 または 「重 さ」 を用 いた。
3.調査の内容 と結果、及び検討
(1) 「身の回 りの ものでさびているものはあるか」 とい う質問を したア ンケー ト結果 を図 1に示す。
図1(a)に示すように、「ある」の回答率 は、全体で は90.2%と高 い比 率 を示 した。 学 生では市民 に比べて15%程高 い。図1 (b)は、具体的 に何 が さびて い るか につ いて示 し た ものである。「自転車」 と答えた回答者 は約1/5を占めた。「バイク」、 「傘」、 「釘」、 「包 丁」 のそれぞれが5‑6%程度を占め、その他 として 「水道管」、 「雨戸」、 「物干 し竿」 等 の 日常生活 に密着 した ものが挙 げ られ る。 これ らの回答内容 につ いて は学 生 と市民別 によ る差 はみ られない。
(a) (b)
図1 さびているもの
(2) 「日常生活 においてさびで困 った経弓削まあるか」 とい う質問 を した ア ンケー ト結果 を 図2に示す。
図2(a)に示すように、「ある」の回答率 は、全体では75.0%と高 い比率 を示 したが、
学生が91.9%を占め、市民を2倍程上回 った。学生の方が さびで困 ったとい う意識 がか な り 高い ことが分か る。図2 (b)は回答の中で 目立 った事例 として、「見 た目が悪 くな る」が 約19%、「汚れ る
」
と感 じるのは約17%である。「使用で きな くな る」、 「自転車 の動 きが悪 い」、「ね じや釘が動かない」、「修理費用がかか る」がそれぞれ10%以下 で あ った。 また、「強度が減少す る」 という回答 もみ られた。何れ も日常生活 に密着 した事例が多 くみ られる。
反面、「ない」 という回答 は市民 の方では過半数を占めてお り、 「さびは さほど気 にな らな い」、「困 ったことがない」 とい う回答 もあ った。昔 に比べれば防食加工 が施 され た金属製 品が多用 されていると言える。生活経験が長 い人の目か らみれば些細 な ことは気 にな らな いとも言える。
富山哲之 町田めぐみ 宮川美希子 :環境における金属腐食の教材化に関する研究Ⅰ 31
(a)
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(b) 図2 さびで困 った軽挨
(3) 「日常生活 において さびを防 ぐための対策や工夫などを しているか」 とい う質 問 を し た結果 を図3に示す。
図3 (a)に示す ように、「している」 の回答率 は、全体で は75.0%と高 い比率 を示 した。
市民 よ りも学生 の方 が何 らかの防食対策を行 っている割合が2割程高 い。図3 (b)は具体 的な対策 と して、「水分 をふ き取 る」が約22%、「こまめに手入 れ をす る」、 「湿気 の あ る場 所 に放置 しない」、「さび止 めをぬ る」がそれぞれ約12%で あ った。 次 いで 「油 をぬ る」、
「ペ ンキをぬる」 の順であ った。「していない」 という回答 には 「す る必要 が ない」、 「さび るの は仕方がないか ら特 になに もしない」等 の記述がみ られた。
(a)
図3 さびを防 ぐための対策や工夫
( 4 )
「金属では何が最 もさびると思 うか」
とい う質問を した結果 を図4に示す。
この質問 は鉄、鍋、真漁、 ステ ンレス、
アル ミニウム、金、銀 の7種類 の金 属 か ら 択一式 とした。図4に示す ように、全体で
は 「鉄
」
が75.7%を占めた。「銅」 が7.6%を占め、次 いで 「ステ ンレス」、 「アル ミ ニウム」、「銀」、「真 ち ゅう」、「金」 の順で
(b)
全体 市民
草生 7騨
IB :I
∫̲ Iロアルミ■嘉ち8ステンレスlb徽回書■鋼D曇ロ義I徽数回薯ゆうニウムl
4.3.I
・8. [
9.?I
・4.一 嗣
図4 最 もさびる金属
32 長崎大学教育学部紀要 教科教育学 NA37(2001年)
あ った。回答 の大多数 は 「鉄」 であ り、鉄 は 「さびる
」
もの とい う認 識 がか な り強 いよ う である。学生 と市民別 による差 は、学生の方が 「鉄」 に対す る回答率 が4%程低 く、 逆 に「銅」 は5%程高 い。
(5) 「さびの原因 にな るものは何であると思 うか」 とい う質問 を した結果 を図5に示 す。
図5に示す よ うに、「水 (湿気)」の回答率 は、全体では38.9%であ った.次 いで、「酸イ
U
が9.9%であ り、以下 に 「潮風」、「水 ・敢素」、「汚れ」、「酸素」 の順 である. 学生 と市 民 別 による差 は、学生 の方が 「水 (湿気)」に対す る回答率が5%程 高 い。 多 くの回答者 は水 分 (湿気)のあるところに金属 を放置す るとさびるとい うことを、生活経験上、認識 して い る ことが分か る。大 きな差異がみ られ るのは、市民 が回答 した 「潮風」 の17.0%と、 学 生 が 回答 した 「酸化」 の14.7%及 び 「水 ・酸素
」
の11.0%と高 い比率 を示 したのが特 に際立 って いる。市民 は金属の腐食 を潮風 による塩害 と捉え る傾向が現 れ た。 この ことは周 囲 が海 に 囲 まれた居住環境 によるのであろ う。海岸沿 いにあ る構造物や機械等の腐食が酷 いと い う状況が ある。特 に台風が製来 した とき に風雨災害 だけでな く、 その後建物 に使わ れてい る金属 の腐食が極端 に酷 くな った と いう経験 はよ くある。 これに対 して学生 は 酸化反応 と して捉 えている傾向が現れた。
また、「汚 れ」の回答 は学生 に多 くみ られ る。環境汚染物質 の影響 を意識 して いるも の と考え られ る。
8 .
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図5 さびの原田 になるもの (6) 「さびがで きると重 さは ど うな るか
と思 うか、 また、 その理由はなにか」 とい う質問 を した結果 を図6、図7に示す。
この質問 は 「重 く守る」、「変 わ らない」、「軽 くなる」 の中か らの択 一式 と した. 図 6に 示す よ うに、「重 くな る」の回答率 は50.0%を占めた。学生 は57%であ り市民を20%程上回 っ ている。次 いで 「変 わ らない」が24.2%、「軽 くな る」 が22.7%であ った。 理 由 につ いて は 自由回答 と した。図7に示すよ うに、「酸化」が18.9%、次 いで 「剥離」10.6%、「付着
」
が 9.1%であ った。無回答が半数を占めた。学生 と市民別 では、学生 は44.2%であるのに対 し、市民の無回答 は60.9%と高 い比率を示 した.学生の方 は 「軟化」の回答率 が高 く、 市民 の
図 6 さびによる重 さの変化 図7 重 さが変化する理由
富山哲之 町田め ぐみ 宮川美希子 :環境における金属腐食の教材化に関する研究Ⅰ 33
方 は 「剥離」 の比率が高 い ことが分 か る。「付着」 についてはどち らも9%程度 である。
金属 の酸化現象 につ いて は、小学校か ら高校 までの各段階 で学 習 す る機会 が あ る。 これ まで小学校理科第6学年 「金属 の燃焼」 で取 り扱 われていたが、 新学 習 指導 要 領 で は中学 校‑移行統合 され る内容 である。金属 の酸化 につ いて学習者 が これ まで に受 けて きた通 り 一遍 の授業 で はその概念が定着 しに くい事例 のよ うである。
4.まとめ
調査結果か ら、金属 の腐食現象 に関 して学生 と市民 の認識 の実態 が明 らか にな った。 以 下 の諸点が指摘 で きる。
日常 の意識 と行動 につ いて、回答者 の多 くは金属 の腐食現象 を 日常 的 に経 験 して い るよ うであ る。回答者が持 っている鉄材 に対す る意識 は強 いよ うで あ る。 現 在、 最 も多量 に使 用 されてお り、然 も錆易 い代表的な金属 として鉄製品が多 く挙 げ られ る。 目立 た な い けれ ど も釘 は身近 な存在である。錆 に起因す る外観劣化、強度低下等 の よ うに、 金 属 の錆 は悪 い方 に働 いた とい うイメー ジが強 い ことである。身近 な方法 と して ペ ンキ に よ る表面 塗装 や防錆油 を塗布す る等 の腐食防止対策がなされて いる。
金属 の腐食 に関す る知識 を問 う質問 に関 して、腐食因子 と して は学 生 も市 民 も 「水 (堤 気)」または 「潮風」等 の 自然環境要因を挙 げた点 で は一致 している。学生 と市民 別 で は次 のよ うな認識 の差異がみ られ る。 学生 は金属 の腐食 を酸化現象 と して捉 え、 市民 は潮 風 に よる塩害 と捉えている傾向があ る。 環境汚染物質 の影響 を考 えて い る者 は少 な い よ うで あ る。金属腐食 による質量変化 につ いて は、誤 った認識がかな りみ られ る。
参 考 文 献 1)昆 勇郎 :日本金属学会会報 34(1995)1154.
2)玉虫文一他編 :岩波理化学辞典(岩波書店、1971)1145.
3)H.H.ユー リック著、岡本 剛監修、松田誠吾他訳 :腐食反応 とその制御(産業図書、1974)1.
4)江田 稔、三輪洋次共編:中学校学習指導要領の展開(明治図書、1999)93.