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日本と中国を移動する子どもたち

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FIELDPLUS 2018 07 no.20

のため、結婚や家族との合流ではなく、単 身で移住し海外で働く女性を主要な調査対 象としてきたのである。

 しかし、アジア域内の結婚移民を調査対 象とする研究者との交流は、結婚移民を個 人的な移住から区別してきた自分の思い込 みに気づくきっかけとなった。結婚移民と いっても、結婚は単なる移動の手段ではな い。結婚が国際移動のきっかけとなる者も いれば、移動の過程で結婚に至ることや、

結婚が移動を妨げることもある。2010年 頃から、私は中国人の夫を持つ日本人女性 を調査し、単身女性や男性の移動と異なり、

配偶者や子どもとの関係、特に子どもの教 育や言語、将来の子どもたちの生活への関 心が、彼女たちの選択に影響を与えている ことを知った。その語りを通して、日中間 を移動する子どもたちの生活や多様な選択 女性の国際移動と子どもたち

 私たちを取り巻く社会や文化のグローバ ル化が進む中、従来男性の経験を中心に 研究される傾向があった人の国際移動にお いて、男性とは異なる女性の移住経験に注 目が集まっている。たとえば、女性は男性 の移住の後に、妻や婚約者として呼び寄せ られるなど、家族との合流を目的に移動す ることが多い。他方、産業構造の変化によ り、女性が担うことの多い介護や家事労働、

サービス業などで働くために移動する女性 も増加している。

 私は1990年代半ば以降、香港や上海な どの「アジア」で現地採用や起業者として 働く女性の単身移住を調査してきた。円高 による海外渡航費用の減少、日本と中国や 東南アジアとの経済関係の密接化によって 就業の可能性が高まったことなどの経済的 な要因と、職場や家族内でジェンダー分業 が強い日本と比べて、外国では性差にかか わらず生活を選べるという認識の広まりが、

単身で移住する女性の増加を説明する。そ

肢にふれていくことになった。

日中国際結婚と子どもたち

 日中国際結婚の世帯で生まれた子どもた ちの国籍や居住地、今後の展望、使用言語 や生活のスタイル、国との関わり方には多 様性があるが、共通して、複雑な文化や社 会状況に直面している。日本も中国も親の 国籍を引き継ぐ「血統主義」と単一国籍制 度を取り、言語や文化の共通点を強調する 傾向がある。だが彼らの経験はこのような 制度とは適合しないためである。

 Aさんは、留学中に結婚した中国人男性と の間に生まれた子どもの出生届を領事館に 出した。国外で生まれた日本人の子どもは、

この手続きをとることで、日本国籍を留保 し、帰国時に日本国籍を取得できる。Aさん の子どももこのように日本国籍を取得した

上海に住む日本人は口をそろえて、今の上海で の生活が便利すぎて日本に戻るのが不安と言 う、その代表格がこのレンタル自転車だ。スマ ホで解錠し、目的地で乗り捨て可能。

上海日本人学校紅橋校は古北にあり、周 辺には多くの日本人が住む。浦東にある もう一校は中学、高校を併設している。

パ オ ズ子や煎チエンピン餅などを朝食 に買う人の列は、上海 らしい光景だ。

近年日本と中国の関係が密接になり、

国境を越えて移動する人々が増加している。その中で多様化する 子どもや家族の経験はなにを物語っているだろうか。

日本と中国を移動する子どもたち

複数の文化間での葛藤を乗り越える

酒井千絵

さかい ちえ / 関西大学、AA研共同研究員

中国北東部(旧満州)

中 華 人 民 共 和 国

日 本 名古屋 東京

大阪 瀋陽

上海

香港

*写真はすべて筆者撮影。

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FIELDPLUS 2018 07 no.20 にもかかわらず、中国内で生まれ、中国人

の父を持つためか、外国人とはみなされず 外国籍の居住者が必要であるはずの居留許 可(ビザ)を取得できなかったという。

 国際結婚の家庭では複数の文化に接して 育つ子どもの教育が大きな問題となってい た。中国人の夫が日本から上海に企業派遣 されている場合、日本への帰国を前提に日 本人学校を選ぶことが多い。他方、生活基 盤は中国にあっても、競争の激しい中国の教 育を避けるため、あるいは、日本人の母親 が子どもの家庭学習の面倒をみるために日 本人学校を選ぶ者も多く、Aさんはその一人 だった。しかし日本人学校は入学条件に日 本国籍と中国での居留許可をあげており、日 本国籍ではあるが居留許可を持っていないA さんの子どもは入学に手間取った。Aさんは この事実上の「二重国籍」状態を解消した いと関係部署に問い合わせたが、子どもが 日本に居住する必要があると言われ、うまく いかなかった。Aさんは「日本も中国も国籍 は一つというのが決まり。実際に日本国籍だ けを持っているのに、なぜ居留許可が取れ ないのか分からない」と話していた。

 日本語を使わない香港人の夫と上海に住 むBさんは、子どもをインターナショナル スクールに通わせ、上の子どもをオースト ラリアで大学進学させたが、子どもたちに は常に日本語で話していた。これは地域に より発音に多様性がある中国語や英語と比 べ、「島国の日本語の場合、ネイティブス ピーカーではないと、日本人としては受け 入れてもらえない」と考えていたためであ る。子どもが将来どこに住むのかは分から

ないが、「将来的にどの道で行くのか、選択 が多ければ多いほどいい」と考えていた。

日本に住む中国出身の子どもたち

 日中間の人の移動は双方向に増加してい るが、中国から日本への移動人数の方が ずっと多く、留学や就職、結婚、技能実習 など滞在資格や目的も多様である。当然中 国からやってきて日本で暮らす子どもも増 えている。

 日本には中国人留学生がたくさんいるが、

中には家族の移住に伴って来日した中国出 身の学生もいる。両親とも中国人の家庭で 生まれたCさんは、10歳の頃母親が研修生 として単身日本にわたり、中国にいるCさん と父親の生活を経済的に支えていたが、Cさ んは「ずっとお母さんの服を着て寝ていた、

お母さんの匂いだって」と母のいない寂し さに耐えていたと話す。その後、母親は父 とは離婚し、日本人男性と結婚した。高校 時代には勉強のプレッシャーもあって塞ぎ 込むようになり、心配した母が日本に呼び寄 せ、日本で大学に進学したのだという。

 父方の祖母が満州開拓による中国残留婦 人だったDさんは、小学校高学年の時に家 族で来日した。初めは全く日本語ができな かったが、週2回来てくれる中国語通訳の 助けで日本語を覚え、学校になじんでいっ た。友人に恵まれたというDさんも、家族 と学校との間でアイデンティティに悩ん だ。「例えば親に学校でこんなことがあった とか、友達のことなど説明するのが本当に 大変だった。中国語で何て言ったらいいん やろうって、もういいや、わからなくてと

かなっちゃいましたね」。また思ったことを はっきり伝える中国の文化に対する違和感 を友人から告げられ、「自分の性格を押し殺 して出さないようにして周りになじむ、そ の努力をずっとしてた」ために、高校の頃 には本当の自分がわからなくなってしまっ たという。しかし大学進学後、アメリカ留 学を経験したDさんは、日本人も皆に合わ せるばかりではないことに気づき、中国や 台湾からの留学生とも親交を結ぶ中で、自 分が持つ複数の文化を受け入れられるよう になった。

 上海での調査でも、元々は中国にルーツ を持ち、子ども時代に日本に移った人に出 会った。小学校の時家族で来日したEさん は、大学時代に中国に留学し、卒業後は上 海で働いている。現在の仕事は「日中の架 け橋になりたい」という希望に沿ったもの だという。日中バイリンガルの男性と結婚 したEさんは、今後子どもを持ったら2言語 を身につけてもらいたいが、幼いときに来 日し、中国語を話せない弟を見ていると難 しさも感じると語っていた。

 これらの事例は国境を越える子どもやそ の家族のごく一部に過ぎない。国際移動が 活発になっても、依然として1つの国に属す ることを標準モデルとする日本や中国では、

複数の文化を持つ人々は周囲の標準とは異 なっていることに葛藤を抱えていた。その 中で、自分の持つ可能性を広げようとする 力を持ち、さらに移動していく人々の経験 は、移動のダイナミクスを直視し、固定的 な国のあり方を問い直していく契機になる だろう。

2004年の上海、浦東地区を望む写真。現在と比べると、いかに 上海が発展してきたかは一目瞭然だ。

様々な店から食事の出前をとれる宅配サー ビスも急速に普及し、上海の便利さを象徴 している。昼時には、注文が来そうな店の 前にバイク便の若者が集まっている。

2018年の上海、外灘から浦東を望む。2004年の写真とは角度 が違い、単純な比較はできないが、高層ビルの増加は著しい。

参照

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