油圧動力伝達システムにおける油中気泡の分離除去 に関する研究
著者 坂間 清子
著者別名 SAKAMA Sayako
その他のタイトル Research on Bubble Separation and Elimination for Hydraulic System
ページ 1‑s23
発行年 2015‑03‑24
学位授与番号 32675甲第359号 学位授与年月日 2015‑03‑24
学位名 博士(工学)
学位授与機関 法政大学 (Hosei University)
URL http://doi.org/10.15002/00011878
博士学位論文
論文内容の要旨および審査結果の要旨
氏名 坂間 清子 学位の種類 博士(工学)
学位記番号 第576号
学位授与の日付 2015年 3月24日
学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 田中 豊
副査 教授 小林 尚登 副査 教授 竹内 則雄
副査 東京工業大学教授 横田 眞一
油圧動力伝達システムにおける油中気泡の分離除去に関する研究
1.論文内容の要旨
油圧動力伝達システムは,油の高い剛性とパスカルの原理を利用することで大きな力の 伝達を可能にし,小形で大出力を必要とする産業分野で広く利用されている.油圧システ ムが利用されている建設機械や航空機では,機器のさらなる小形化・軽量化・高出力化へ の要求が高まっており,それにともないシステムの高圧化が進んでいる.システムの高圧 化は,油圧機器の小形高出力化に有効であるが,同時にキャビテーションによる機器部材 の壊食や作動油の劣化の促進等の問題の原因にもなる.キャビテーション壊食と作動油の 劣化には,作動油に含まれる空気の存在が大きく影響している.作動油中には大気圧下で8
~10%程度の空気が溶解しており,ポンプ内のノッチやバルブオリフィス部等の流路が狭く,
圧力が急激に低下するところでキャビテーション噴流が発生し,溶解していた空気は気泡 となって析出する.一度析出した気泡は,再度溶解するまでに長い時間を要し,油のみか けの剛性を低下させるため,システムの動特性へも影響をおよぼす.本研究では,気泡除 去装置を用いて油中気泡を積極的に分離除去することで油圧動力伝達システムに生じる諸 問題を解決することを目的としており,気泡除去装置の有用性を実験的に検証し,さらに 装置内部の流れの可視化実験と数値解析の結果から気泡除去装置の設計法を確立している.
本論文は,緒論と結論を含む全7章で構成されており,各章の概要は以下の通りである.
第1章「緒論」では,近年の油圧動力伝達システムの動向と問題を示し,油圧機器で生 じる問題の原因の一つに油中気泡の存在が挙げられること,さらにそれらの問題の解決に 旋回流を利用して油中気泡を分離除去する気泡除去装置が有効であることを述べている.
また,この気泡除去装置の動作原理を説明し,装置の各部の形状パラメータの最適化と流 体の条件を考慮した装置の設計法の確立の必要性について述べている.
第2章「気泡除去装置が油圧動力伝達システムにあたえる効果」では,気泡除去装置の
有用性を明らかにすることを目的として,気泡除去装置を用いた作動油の劣化試験,キャ ビテーション噴流実験装置を用いたキャビテーションの可視化実験と部材の壊食量測定実 験,気泡の混入した作動油の等価体積弾性係数の測定実験の結果を示している.作動油の 劣化試験では,気泡除去装置を用いて作動油中の気泡を取り除くことで作動油の酸化劣化 の原因となる作動油中の酸素量を減少させ,作動油の劣化の進行を大幅に遅らせることを 明らかにしている.また,キャビテーション噴流の可視化とキャビテーションによる部材 の壊食量測定実験では,気泡を除去することでキャビテーションの発生を減少させ,結果 としてキャビテーション壊食の低減につながることを示している.作動油の等価体積弾性 係数の測定実験では,油中の気泡が作動油の剛性に大きく影響をおよぼすことを明らかに し,油中気泡の除去の必要性を示している.
第3章「気泡除去装置の流れの解析」では,油圧システムで生じる気泡に起因した問題 を確実に解決するために,使用環境を考慮した気泡除去装置の設計法の確立が必要である ことを示し,装置の設計法を検討するために実施した気泡除去装置内の流れ解析の概要に ついて述べている.本研究では,気泡除去装置内部の流れを観察するために,透明アクリ ルで作製した気泡除去装置を用いた流れの可視化実験と,装置内部の流れを詳細に比較検 討するために装置内部の流れの数値解析を実施しており,本章ではこれらの概要を説明し ている.また,可視化実験と数値解析の結果から装置の性能を正確に評価するための準備 として,気泡の分離性能に関わる装置断面の気泡含有率分布を用いた評価法と,気泡の除 去性能を表す指標となる気泡除去率を用いた評価法について説明している.
第4章「流体条件と気泡除去装置の性能」では,気泡除去装置に流入する流体の流入流 量や動粘度,流体に混入した気泡の径と混入量を変更して実施した可視化実験と数値解析 の結果を示している.数値解析の結果から,流入流量が多く,動粘度が低い,すなわちレ イノルズ数が高いほど気泡の分離除去性能が高いことを明らかにしている.しかし,可視 化実験の結果では流入流量が少ないほど気泡が装置内部で集合する傾向にあることが確認 され,数値解析と可視化実験では異なる傾向を示すことが明らかとなった.ここで,装置 に流入する気泡径が装置の性能に影響をおよぼしているとの予測から,装置内部に流入す る気泡径の分布を測定し,さらに数値解析で気泡径の違いによる装置の性能を比較検討し た.その結果,装置に流入する気泡の径が装置の性能に大きく影響をおよぼすことを明ら かにした.以上のことから,作動油の物性値と装置の代表長さで決まるレイノルズ数を考 慮するだけでは装置の設計は困難であり,作動油中の気泡の条件を考慮した装置の設計法 の確立が必要であることを明らかにしている.
第5章「形状パラメータと気泡除去装置の性能」では,気泡除去装置の形状パラメータ の違いが装置の性能におよぼす影響を明らかにするために,気泡除去装置の流出口径,放 気口径,テーパ管路部長さを種々変更して可視化実験と数値解析を実施し,これらのパラ メータが装置内部の気泡の挙動に影響をおよぼすことを明らかにした.また,気泡除去後 の作動油が流出する流出口径と,分離除去された気泡が流出する放気口径は,気泡の挙動
に大きく影響をおよぼすだけでなく,相互に影響をおよぼし合うことが明らかになり,装 置の個々の形状パラメータを単独で最適化することは困難であること,そして装置の形状 パラメータを最適化するには複数のパラメータの関係を考慮する必要があることを示して いる.
第6章「気泡除去装置の設計法」では,第4章と第5章の結果を考慮してさらに詳細に 気泡除去装置内の気泡の挙動を比較し,特定の流体条件における装置の最適形状と流体条 件の違いを考慮した装置の設計法を検討している.装置の形状パラメータを最適化するた めに,はじめに気泡径を基準に装置の中心軸上に気泡を十分に集合させることが可能な流 出口径を探索した.その結果,流出口径に対する気泡径の比で表される無次元気泡径を新 たに導入し,この無次元数がある一定値を超えるように流出口径を決定することで,確実 に気泡を装置の中心軸上に集合させられることを明らかにした.次に,装置内部の気泡の 挙動に影響をおよぼすテーパ管路部形状を最適化するために,流入管路部径とテーパ管路 部長さを変更して数値解析を実施し,流入管路部径によってテーパ管路部の最適な長さが 異なること,そして装置内部の旋回の挙動の変化からこれらのパラメータの最適化が可能 であることを示した.また第5章では,放気口径は流出口径と相互に影響をおよぼしあう ことを明らかにしたが,放気口径については新たに導入したスパイラル係数という指標を 用いて決定できることを示した.以上のことから,装置に流入する気泡径から流出口径,
装置内部で生じる旋回の挙動の変化から流入管路部径とテーパ管路部長さ,そしてスパイ ラル係数を用いて放気口径を決定することが可能になり,装置の形状パラメータの最適化 が可能になることを示した.ここで示した装置の最適形状は,流体条件の違いを考慮して 装置の設計を行うための基準形状としている.第4章では作動油の物性値と装置の内径を 代表長さにとったレイノルズ数を一致させるだけでは装置の性能の維持が困難であること を示したが,本章でさらに詳細に結果を比較検討し,前述した無次元気泡径を導入するこ とで,流体の条件が異なる場合でも装置の性能の維持が可能であることを明らかにした.
以上のことから装置の最適形状からレイノルズ数と無次元気泡径を考慮して装置の寸法を 決定することで,流体の条件が異なる場合でも高い気泡除去性能が得られることが明らか になり,流体条件を考慮した装置の設計が可能となることを示した.
第7章「結論」では,本研究で得られた結果をまとめ,気泡除去装置の有用性と高性能 化について本論文で明らかになった知見がまとめられている.
2.審査結果の要旨
建設機械や航空機などで利用される油圧動力伝達システムでは,機器のさらなる小形 化・軽量化・高出力化への要求が高まっており,それにともないシステムの高圧化が進ん でいる.しかしシステムの高圧化はキャビテーションによる機器部材の壊食や作動油の劣 化の促進等の問題の原因となる.キャビテーション壊食と作動油の劣化には,作動油に含 まれる空気の存在が大きく影響している.作動油中には大気圧下で8~10%程度の空気が溶
解しており,ポンプ内のノッチやバルブオリフィス部等の流路が狭く,圧力が急激に低下 するところでキャビテーション噴流が発生し,溶解していた空気は気泡となって析出する.
一度析出した気泡は,再度溶解するまでに長い時間を要し,油のみかけの剛性を低下させ るため,システムの動特性へも影響をおよぼす.
本論文では,油中気泡を積極的に分離除去することで油圧動力伝達システムに生じる諸 問題を解決することを目的として,旋回流を利用して油中気泡を分離除去する気泡除去装 置の有用性を実験的に検証するとともに,装置内部の流れの可視化実験と数値解析の結果 を詳細に検討し,高性能な気泡除去装置の設計法を提案している.
まず気泡除去装置を用いた作動油の劣化試験,キャビテーション噴流実験装置を用いた キャビテーションの可視化実験と部材の壊食量測定実験,気泡の混入した作動油の等価体 積弾性係数の測定実験が実施された.これらの実験結果から,油中気泡の分離除去が油圧 動力伝達システムに生じる諸問題を解決する鍵となることが明らかとなり,油圧動力伝達 システムにおける気泡除去装置を用いた積極的な油中気泡の除去の必要性が示された.
次に気泡除去装置内部の流れの可視化実験と数値解析を実施し,従来は経験的に決めら れていた気泡除去装置の形状パラメータの影響が詳細に検討された.その結果,作動油の 物性値と装置の代表長さで決まるレイノルズ数を考慮するだけでは装置の設計は困難であ り,作動油中の気泡の条件,特に気泡径を考慮した装置の設計が重要であることが初めて 明らかとなった.また装置の個々の形状パラメータを単独で最適化することは困難で,複 数のパラメータの関係を考慮する必要があることが示された.
さらに高性能な気泡除去装置の設計法を確立するため,これまでの可視化実験や数値解 析の結果がより詳細に検討された.その結果,新たに導入した無次元気泡径というパラメ ータを用いて装置に流入する気泡径から流出口径を,装置内部で生じる旋回流の挙動が遷 移する様子から流入管路部径とテーパ管路部長さを,新たに提案したスパイラル係数から 放気口径を,それぞれ決定する設計手法が提案され,高い分離除去性能を有する気泡除去 装置の基準形状の設計が可能となった.またレイノルズ数と無次元気泡径を考慮して,こ の基準形状から装置の寸法を修正することで,流体の条件が異なる場合でも高い気泡除去 性能が得られる装置を設計できることが示された.最後にこれらの設計手法がまとめられ,
高性能な気泡除去装置の設計手順が具体的に示された.
以上,本論文は,気泡除去装置による積極的な油中気泡の分離除去が油圧動力伝達シス テムの課題解決に有効であることを具体的に示し,実験と数値解析を駆使することにより,
高い分離除去性能を持つ装置の設計手法を提案し,その設計手順を確立した.こうした設 計手順を確立するための着眼点,その学術的かつ工業的意義,新規性や独創性,工業的有 用性において,本論文の内容とその成果は非常に高く評価することができる.
よって,本審査小委員会は全会一致をもって,提出論文が博士(工学)の学位に値する という結論に達した.