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原子力発電所運用高度化のための次世代 HMS に関する技術開発 Development of an advanced human-machine interface system to enhance operating availability of nuclear power plants 京都

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原子力発電所運用高度化のための次世代 HMS に関する技術開発

Development of an advanced human-machine interface system to enhance operating availability of nuclear power plants

京都大学 吉川 榮和、椹木 哲夫 東北大学 北村 正晴 Kyoto Univ. H. Yoshikawa T.Sawaragi Tohoku Univ. M.Kitamura 東京大学 古田 一雄 岡山大学 五福 明夫

Tokyo Univ. K. Furuta Okayama Univ. A. Gofuku 三菱重工業 伊藤 広二 三菱電機 大井 忠

MHI K. Ito MELCO T. Ohi

原子力発電所運用高度化のための次世代HMS開発に関する研究を平成13年度より開始 した、本報告では平成16年度に得た成果について報告する。

キーワード:

運転支援技術、コオペレータ、インタフェースエージェント、クルーパフォーマンス、モ バイルエージェント、拡張現実感、RFID、系統隔離作業、トラブル対処支援

1. 目的

日本の電力供給を考える上で、原子力発電プラントの継続的な信頼性や安全性の向上が 求められる。またプラントの長寿命化に伴い保守の高度化、効率化が重要な課題となって いる。これを実現するためにはプラント機器構成のみならず、プラントの運転保守を実施 する人間とプラントの間に存在するヒューマンマシンインタフェースシステム(HMS)に おいてより一層の運転員・保修員の支援が必要になると考えられる。

本プロジェクトでは、人間中心の情報化によるプラントの運転保守全般を含めた運用の 高度化を目指し、中央制御室にいる運転員の操作を支援する運転支援システム開発とプラ ントにおける様々な現場で作業を行う現場作業員の支援システム開発を進めている。

運転支援システム開発では、運転員の監視操作状態を評価する動的操作パーミッション システムと、運転員の意図を理解しプラントの状態に応じて最適な運転監視情報を提示す る情報提供システムの開発を通じて、HMSによるプラントの状況認識と人間の意図理解を 実現する。さらにクルーパフォーマンス評価手法の開発によりクルー間のチーム状況認識 の評価手法を確立する。

現場作業支援システム開発では、将来に想定される熟練者の減少のもとで少人数による 運転保守作業を正確且つ確実に行うために、情報技術を活用し作業者に適時、適切、適量 な作業関連情報を提示することによって、単独保守作業や、中央制御室など他の作業現場 との連携作業を支援し、作業自体及び協調作業相手を含めた作業全体の状況認識の向上を 図る。

(2)

2. 技術開発成果

運転支援システム開発:

①動的操作パーミッションシステム

運転員向け支援技術として、コオペレータとしての動的操作パーミッションシステ ムの位置づけを定義し、操作モデルに基づく動的操作パーミッションアルゴリズムを 確立しプロトタイプを実装した。さらに MFM(マルチレベルフローモデル)に基づく操 作の効果や影響の推論結果に基づく動的操作パーミッションシステムを開発した。

②プラント監視システムの情報提供方式

情報提供方式のフレームワークとしてインタフェースエージェントによる支援方式 を提案した。このフレームワークをベースに当直長向けの支援技術として、警報メッ セージリストや運転員のとった操作履歴を集約して提示する情報提供方式の設計開発 を実施した。

③ クルーモデルの構築とクルーパフォーマンス評価手法

ク ル ー の パ フ ォ ー マ ン ス 評 価 指 標 と し て チ ー ム 状 況 認 識 (TSA: Team Situation

Awareness)を定義した。健全性と完全性の2つのTSA評価基準を提案し、インタフェー

スデザイン、行動観測の可能性、コミュニケーションの有無、メンタルモデルの異同など さまざまな要因がTSAに与える影響を定量的に評価できることを示した。

現場作業支援システム開発:

ユビキタス保守作業支援の概念を提案し、これを実現するための要素技術開発、システ ム開発を行った。

①保守作業向けの要素技術開発

表示系のヒューマンインタフェースデバイス、通信方式、拡張現実感技術を実現す るためのトラッキング技術を開発した。

②通常運転時の現場作業支援システム

現場データ収集と機器監視作業、トラブル対処作業を支援対象に、「モバイルエー ジェント」による自律的な情報収集、情報分析を特徴とする枠組みをプロトタイプシ ステムとして開発し、その機能の妥当性、有用性を確認した。

③定期検査時の現場作業支援システムの開発

拡張現実感技術をベースとしてチームを対象としたコミュニケーション支援システ ム、系統隔離作業を支援する現場作業支援システム、視線情報を利用した遠隔地競業 作業支援システムを開発しその機能の妥当性、有用性を確認した。

最後に、本技術成果を活用した原子力防災と保全管理強化のシステムを提案した。

3. まとめ

平成16年度は、本研究で得られた成果を有効に活用するため、実用化に向けてこれまで の研究成果をまとめた。

(3)

ABSTRACT

For a nuclear power plant to remain in use, its operating reliability and safety must be improved continuously. Also, improving plant maintenance to increase working efficiency has become an important issue with the ageing of nuclear power plants.

Furthermore, more reduction of operation / maintenance cost and more system reliability will be required for future nuclear plant. To meet these needs, better human-machine systems that apply information processing and human-interface technologies need to be developed for use in the plant operation & maintenance domain.

In the plant-operation domain, many parts of the plant operation are done as soft operations through visual display units (VDUs) in newly constructed plants and plants where existing plant-control systems have been replaced with VDUs. Therefore, the development of advanced plant-operation systems that reflect a knowledge of critical human factors, such as the means of communication between crews, and the establishment of evaluation techniques have become important subjects. In the plant-maintenance domain, it has been an important subject that how to support the field workers to enhance situation awareness both of local field situation and remote field or center situation. Especially, due to the numbers of experienced field workers are decreasing yearly in Japanese nuclear power plants, how to provide in-experienced field workers with necessary information in proper formation at proper timing is also important subject.

We plan to develop a human-machine system based on research into advanced human interface technology over several universities. In the operation domain, our technical development has aimed at miniaturizing operating consoles that incorporate one or more VDUs. In the maintenance domain, our technical development has aimed at enhancing maintenance work cooperation between the plant field workers and the central control room staff and providing better technical support for plant field workers by applying augmented-reality and wireless data-transmission technologies. Our target in this project is to establish the basic design of an advanced human-machine system for the plant-operation and -maintenance domains. We will develop a functional design and test its effectiveness through prototype systems.

This report gives detailed information about the research and development. In operation domain, we developed the operation model for the dynamic operation permission system, prototype system of the dynamic operation permission system, the information presentation framework for supervisor using interface agent, and the team situation awareness (TSA) simulator using TSA model for team performance evaluation.

In maintenance domain, the basic concept called as ubiquitous maintenance support system is proposed. The developed component technologies needed to realize the concept is summarized, followed by three developed maintenance support prototype systems that applied the component technologies. The prototype systems support field workers both for doing daily routine tasks and doing periodical inspections. The support system for field workers to deal with troubles in routine tasks such as plant monitoring and field patrol has been developed, by applying mobile agent technology to the ubiquitous maintenance support framework proposed as the basic concept. For periodical inspections, augmented reality and wireless communication technologies are utilized to develop a support system called as ISSAR (Isolation Support System using AR and RFID). Thirdly, a support system focusing on utilizing worker’s line of vision has been developed to enhance cooperation between field in-experienced worker and remote experienced workers. The prototype of ISSAR has been developed. Its functions have

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through an experiment using a real auxiliary electricity facility. The function verification has been also conduced for the other support systems. The results indicate that these support systems are effective for enhance field workers’ situation awareness and communication between local and remote.

Finally, the future subjects of this research and development project are summarized on each domain, so that the developed support systems can be applied into practical use in nuclear power plant. A prospect is also given to describe how to integrate the proposed style in this project (satellite operation and maintenance center) with the official off-site center concept. The integration would not only reduce the cost of operation and maintenance, but also increasing the social concerning and understanding about the safety of nuclear power plant.

(5)

目次

1. はじめに ………...1

2. 技術開発計画 ………...1

2.1 運転支援システム開発 ………3

2.2 現場作業支援システム開発 ………3

3. 成果の概要 ………...…..3

3.1 運転支援システム開発 ………3

3.1.1 動的操作パーミッションシステム ………..3

3.1.2 監視操作システムの情報提供方式 ………..9

3.1.3 クルーモデルの構築とクルーパフォーマンス評価手法 ………11

3.2 現場作業支援システム開発 ………...12

3.2.1 本研究開発での前提とねらい ………12

3.2.2 基本概念と基本フレームワーク ………13

3.2.3 要素技術の開発 ………15

3.2.4 現場作業支援システムの開発 ………18

3.3 実用化に向けた課題と解決 ………...24

3.4 技術開発成果の発表 ………...26

4. まとめ ……….26

添付資料:開発成果公表状況 ………..28

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1. はじめに

日本の電力供給を考える上で、原子力発電プラントの継続的な信頼性や安全性の向上が 求められる。またプラントの長寿命化に伴い保守の高度化、効率化が重要な課題となって いる。さらに将来の原子力発電プラントとして開発が進められている中小型の次世代プラ ントでは、他の発電システムと互角以上の経済性が求められ、より一層のプラント運転保 守のコスト低減が求められる。例えば出力30万KWの小型モジュール炉で現在の大型炉

(120 万 KW)と同等以上の運転コストを達成しようとすると、現在の運転クルー構成(当

直長を含め4名)で4ユニットの小型炉を運転監視することになる。また保守についても 同様で、系統の簡素化により1ユニットの構成機器は減少するとはいえ、4 ユニット分の プラント機器保守を現状と同等の人数で実施することが想定される。これらを解決するた めにはプラント機器構成のみならず、プラントの運転保守を実施する人間とプラントの間 に存在するヒューマンマシンインタフェースシステム(HMS)において、より一層の運転 員・保修員の支援が必要になると考えられる。

本プロジェクトでは、上記の課題を解決するため人間中心の情報化によるプラントの運 転保守の高度化を目指している。より高度な情報化のためには、

・ HMSによるプラントの内部状態の状況認識と人間の意図理解の実現

・ HMS(支援系)とプラント、およびHMSと人間のインタラクションの改善 の2つを達成することが必要である。またこうした機能の実現により人間側の状況認識

(Situation Awareness :SA)能力、さらには運転や保守作業を行うグループ全体でのSA が向上すると考えられる。課題を具体化するために、本プロジェクトでは、支援対象領域 を中央制御室の運転操作と様々な現場で行われる作業に分けて研究開発を実施するが、プ ロジェクトの最終的な目標は、プラントの運転保守の分野においてこれらの共通の課題を 解決するための技術的ブレークスルーを成し遂げることである。

2. 技術開発計画

運転支援システム開発では、ヒューマンエラー防止の観点から運転員の監視操作状態を 評価する動的操作パーミッションシステムと、運転員の意図を理解しプラントの状態に応 じて最適な運転監視情報を提示するインタフェースエージェント適用情報提供システムの 開発を通じて、HMS によるプラントの状況認識と人間の意図理解を実現する。さらにク ルーパフォーマンス評価手法の開発によりクルー間のチームSAの評価手法を確立する。

現場作業支援領域では、中央制御室以外の様々な現場において、現場機器、設備の情報 を作業者に適時に、適切な形式で、適量に提供することで、現場作業者の単独作業、中央 制御室や他の現場との連携作業を正確で、確実かつ効率に行うための支援システムの設計、

開発、評価を行う。原子力プラント現場作業のうち通常時における日常点検、トラブル対 処などの作業と、定期検査時における様々な現場作業を対象に、HMS とプラント間のイ ンタラクションを改善し、現場作業における状況認識と人間の意図理解、遠隔地間のチー

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ム状況認識能力を向上させることを目指す。全体の技術開発年次計画を図1に示す。

平成15年度の成果評価にて、平成13年から15年までの研究にて概ね予定どおりの目 標、成果を達成し、主要な課題は概ね検討されコアとなる重要な研究成果が得られたと評 価された。しかしながら本研究の成果を現実のプラント運転保守に役立てるためには計画 の再構築が必要と判断された。そのため平成 16 年度は、当初計画を修正し本研究成果を 有効に活用するため、実用化に向けてこれまでの研究結果をまとめることとする。

本開発プロジェクトは、以下の実施体制で推進している。運転支援システム開発におい ては、岡山大学はこれまでのヒューマンインタフェース研究およびプラント動特性研究の 実績を生かし、運転員支援技術の動的操作パーミッションシステムにおける操作モデル、

プラント挙動モデル、誤操作判定アルゴリズムの研究開発を担当する。京都大学は幅広い ヒューマンインタフェース研究の実績を生かし、当直長支援技術の統合型情報提供方式の 研究開発を担当する。東京大学はヒューマンモデルに関する研究実績をもとに、相互信頼 指標に基づくクルーパフォーマンス評価方式の研究開発を担当する。三菱重工は、原子力 メーカとしてのプラント設計、製作の実績にもとづき、プラント側からの機能要求の立案 分析、各種モデルの妥当性評価、改善、運転支援システム全体の評価を行う。三菱電機は、

メーカとして中央計装システムの設計製作、ヒューマンインタフェース研究の実績に基づ き、運転支援システムのプロトタイプシステムの開発、検証および実機体系への適用検討 を担当する。

現場作業支援システム開発において、京都大学、神戸大学は拡張現実感技術を適用した

H16 技術開発項目

1.動的操作パーミッ ションシステム

2.監視操作システ ムの情報提供方式 3.クルーモデルの 構築とクルーパフォ ーマンス評価手法

H15 H14

クルーの認知的

特性モデル化 チーム信頼性評価手法開発 情報提供方式開発

インタフェースエー ジェント検討 プラントモデルの構築

パーミッションロジッ

クの開発 操作モデル開発 操作系への実装 H13/下期

運転支援システム開発

Step1 ミニプロト構築

H15 技術開発項目

1.日常点検 作業支援

2.定期検査 作業支援

H14 H13/下期

Step 2プロト構築 要素技術開発

対象物認識手法 検討

保守向けユビキタスネット ワークシステム

基本検討

H16 Step1プロト構築

グループ間 認識共有技術 要素技術開発

現場作業支援システム開発

ミニプロトへ組込

成果まとめ

成果まとめ

成果まとめ

成果まとめ

成果まとめ

図1 プロジェクトの全体スケジュール

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術の研究開発を担当する。東北大学は、ヒューマンインタフェース技術、信号処理技術の 実績を生かし、自律的な信号処理、監視を行うモバイルエージェントに関する研究開発を 担当する。三菱電機は、メーカとしての各種支援システム開発、ヒューマンインタフェー ス研究の実績に基づき現場作業支援システムのプロトタイプシステムの構築、評価、実機 体系への適用を担当する。

開発の推進にあたっては、各システムごとにWGを形成し1/4期を目処に進捗状態の報 告、情報交換を行う。また WG内でさらに細分化された技術テーマごとにサブ WGを設 け具体的なモデル検討、システム設計を関係者で適宜進める(通常は1回/月程度の頻度)。

2.1 運転支援システム開発

VDU監視操作における動的操作パーミッション技術、インタフェースエージェントを適 用したプラント監視操作の情報提供技術、チームSA の概念に基づくクルーパフォーマン ス評価技術について、これまでの研究成果をまとめる。本研究での前提、ねらい、基本概 念、システム化、解決した技術課題についてまとめる。

2.2 現場作業支援システム開発

保守向けのユビキタスコンピューティング技術、情報エージェントによる現場作業支援 技術、拡張現実感を適用した情報提供技術についてこれまでの研究成果をまとめる。本研 究での前提、ねらい、基本概念、システム化、解決した技術課題についてまとめる。

2.3実用化に向けた課題と解決方式

これまでに開発した要素技術の実用化に向けた課題とその解決方式を検討する。また、

本開発の当初で想定していた電力会社の発電所の運用高度化とは別の観点から、現今の社 会が要請している原子力安全への安心にこたえる方策として、本研究開発の技術成果を適 用した原子力防災と保全管理強化のためのシステムについて提案する。

3. 成果の概要

3.1 運転支援システム開発

中央制御室でプラントの運転監視を行う運転員向け支援技術として、運転員の操作に関 するヒューマンエラー防止のための動的操作パーミッションシステムのプロトタイプシス テム開発、当直長向けの支援技術としてプラントおよび運転員状態の集約情報提供方式の 開発、運転クルー向けの技術としてクルーパフォーマンス評価手法におけるチーム状況認 識の定義、定式化と、推論手法の開発を実施した。

3.1.1 動的操作パーミッションシステム

原子力プラント運転における情報の集約と運転員間の情報共有をバランスさせるために、

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最新の運転監視制御システムでは、VDU(Visual Display Unit)と大型表示装置を用いた 中央制御盤が導入されている。VDU を用いた中央制御盤では、画面内の情報表示の様式 や制御スイッチ等の配置における柔軟性が高く、運転制御タスクに適切な画面インタフェ ースの設計が可能である。しかも、運転員がどの監視操作画面や画面内の制御スイッチを 選択したかを容易にモニタできるため、運転員の操作を認識し操作意図を推定することも 可能である。本研究では、運転手順書に従った異常事象への対応操作において、VDU を 用いたヒューマンマシンインタフェースのこれらの特長を有効に利用し、ヒューマンエラ ー防止ための一つの枠組みとして、動的操作パーミッションシステムの概念を提案し開発 を行った。動的操作パーミッションでは、運転手順書の内容、および、プラントの状態と 状態変化の因果関係に関する知識の2種類の知識を利用して、実施しようとする操作の妥 当性について判定する。そして、不適切な操作であると判断された場合には、操作に対す る警告を発する。プラントの状態や状態変化の因果関係に関する知識を用いることにより、

ある操作を実施した場合のプラント状態への影響を推論することが可能であり、操作の効 果や副作用が評価できる。この知識表現には、プラントの目標や機能と関連づけることの できる MFM(Multilevel Flow Modelling)を適用する。本研究開発では、操作の妥当性 判断のアルゴリズムを開発し、これを実現するための操作モデルの開発設計、プラント挙 動推定モデルの改良を行いプロトタイプシステムにより機能の有効性を確認した。

(1) 操作の妥当性判定アルゴリズム

動的操作パーミッションのフローチャートを図 3.1-1に示す。操作パーミッションの判 定において、上側の2種類3つの判断は運転手順書の内容をモデル化した操作モデルに基 づき行い、下側2つの判断は MFM による操作のプラント状態への影響の推論結果に基 づいて行う。図において、not-YesはYes ではない(Unknown も含む)、not-NoはNo で はない(Unknown も含む)を意味する。操作パーミッションの判定では、まず、実施さ れようとする操作を認識し、その操作が操作候補リストに含まれているかを判断する。操 作候補に含まれている場合は、運転手順書に記載の操作手順に従っていることを意味して おり、操作の前提が満足されているものに対しては、操作パーミッションは「許可」と判 定される。しかしながら、前提が満足されていないものは、次に行うべき操作ではあるが 操作を行う時期ではない(時期早尚)という意味で、操作パーミッションの判定は「警告」

となる。実施しようとする操作が操作候補リストに含まれておらず、操作の前提条件が満 足されない場合には操作パーミッションの判定はもちろん「警告」となる。操作モデルで 判定できない場合には、MFM モデルに基づいて、操作候補リストに含まれる操作に対す る望ましくない挙動が現れるか、また、望ましい挙動が現れるかの判定結果によって、「コ メント付許可」、「警告付許可」、あるいは、「強い警告付許可」の操作パーミッションの判 定となる。

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(2) 操作モデルの開発

運転手順書には、プラント状態をどのように推移させるべきか、そのように推移させる 手段にはどのようなものがあるかが、標準的な実施順序に従って記載されている。運転操 作モデルの形式と内容を検討するために、以下のような操作記述の分析を行った。

a. 運転手順書の操作を単位的な操作に分割する。

b. 単位的な操作の実施順序を明らかにし、操作シーケンスとして整理する。

c. 操作の前提条件を明らかにする。

d. 操作の目的を明らかにする。

e. 操作を実施した時の望ましい挙動(効果)および望ましくない挙動(副作用)を 明らかにする。

操作シーケンスを整理することにより、操作内容とともに、順番に直列的に実施すべき 操作と並列してできる操作が明らかになる。この操作シーケンスは、操作候補リストの選 定において利用される。また、各々の操作には、目的と実施における様々な条件がある。

これらを、それぞれ、操作の目的と前提条件としてモデル化する。操作を実施した結果と して、プラント状態がどう変化するかはある程度事前にわかっており、それらの変化やそ

No

not-No

not-Yes

not-Yes No

Yes

Yes No

操作候補リスト に含まれる?

START

実施操作認識

操作の前提 満足?

望ましくない 挙動現れる?

望ましい挙動 現れる?

コメント付許可 警告付許可 強い警告付許可 操作の前提

満足?

許可 不許可 Yes

Yes

END 操作パーミッション判定

図 3.1-1 操作パーミッションの判定フロー

(11)

れを確認するために監視すべきプラント変量が運転手順書に示されている。この記述はそ の操作を実施した場合の望ましい挙動としてモデル化する。一方、操作を実施する場合に そうなってはいけないプラント状態が運転手順書に注記されている。これらは、その操作 に対する望ましくない挙動としてモデル化する。

操作順序を表現すべき操作には、単一操作と複数の単一操作から成る抽象操作の2種類 がある。ここでは、それらをまとめて、操作単位と呼ぶ。操作単位の操作順序を表す操作 シーケンスは、ペトリネット的なモデルとした。ただし、制御的操作のような次ステップ に遷移した後も続く操作の表現がペトリネットでは困難であるので、図3.1-2 に示すよう な操作シーケンスの表現形式を開発した。この操作シーケンスの表現形式の特徴は、操作 が有効となったことの評価(有効評価)を設けることにより、制御的操作においても操作 が有効となった時点から並列的に次の操作へ遷移できることである。運転操作手順は、一 連の操作シーケンスで表現できるので、操作単位を基準として、直列操作シーケンスと並 列操作シーケンスを図的に表現することができる。ここで、直列操作シーケンスとは、前 の操作単位が後の操作単位の前提となる場合であり、並列操作シーケンスとは、並列に操 作可能な操作単位の集まりである。

操作1

操作2 操作4

操作6

操作5 操作7

操作8 操作3

操作9

操作名 or 操作 ID 操作名 or 操作 ID

操作名 or 操作 ID 操作名 or 操作 ID (a) 具体的操作の場合 (b) 操作確認の場合

(c) 報告の場合 (d) 指示,依頼等の場合 操作開始時点

操作有効時点

操作完了時点

図3.1-2 操作モデルの表現例

(12)

(3) プラント挙動推定モデル(MFMモデル)の改良

MFM の本来の目的は、工業プラントをデザインする上で手段-結果、全体-部分の概 念を使用するための基礎体系を与えることにあり、MFM では、工学システムを手段と目 標の観点からモデル化する。これまでMFMは、診断、計画、マンマシンインタフェース システム設計問題に適用されてきた。MFM では、システムは人工物すなわち人工の何か 意図を持ったものとの立場から、システムを表現する。システム目標、サブ目標や目標/

サブ目標を達成するためのシステムの機能間の関係を手段と帰結の構造により表現する。

MFM では、部分-全体の軸からもシステムを表現する。すなわち、あるシステムは異な ったレベルの詳細さの複数の記述によっても表現する。

ここでは、機能と目標の定性的因果関係の結合方法についてMFMモデルの改良を述べ る。対応操作候補導出手法では、機能流れ構造と目標の achieve 関係を、機能流れ構造内 の2つの機能間の流れ(関連機能流れ)と目標間の関係として表現していた。関連機能流 れを定義していたのは、「transport」機能の場合、例えば、入口での流れの減少による出 口での流れの減少は機能の低下とは解釈しなかった。そのため、「transport」が目標を

achieve している場合には、異常の影響が目標へは波及しないことになっていた。

しかしながら、この表現では、温度変化等に対応する「storage」機能の変化をうまくモ デル化できないことが判明した。例えば、「原子力プラントでの燃料棒から1次冷却材への 熱伝達により燃料棒が冷やされている」ことをMFMモデルで表現すると、燃料棒を冷や すための2つの方策、すなわち、1) 燃料棒での発熱量を減少させた場合と 2) 冷却水流量 を増やして熱伝達の増加を図った場合の、目標「燃料棒を冷やす」への影響の推論におい て矛盾を生じることになる。

そこで、「transport」機能の入口(出口)の流れが増加あるいは減少した場合には、そ れに対応して機能そのものも増加あるいは減少するものと解釈することとする。これは、

A

A C - - - -

- +

+ +

A

A C +

+ ++ +

+ +

- +

-

+

燃料棒を冷やす 燃料棒を冷やす

一次冷却材を流す 一次冷却材を流す

燃料棒 燃料棒

燃料 燃料

燃料での発熱が減少した場合 冷却水の流量が増加した場合 図 3.1-3 修正後のモデル化における影響波及推論

(13)

「storage」機能の場合に、例えば、入口の流れが減少した際に、「storage」機能が減少す る場合があるとの解釈と同様である。この「transport」機能の扱いの変更に対応して、関 連機能流れを拡張し、2つの機能間の流れあるいは1つの機能と目標の関係として表現す る。先の「燃料棒が冷やされる」例でも正しく推論できるようになることを確認した(図 3.1-3)。

(4) 動的操作パーミッションプロトタイプシステム構築

動的操作パーミッション機能の実現性を確認するため、図 3.1-4に示す構造のプロトタ イプシステムを構築した。

操作対象としては、運転員の判断操作が多く含まれるPWR プラントの蒸気発生器細管 漏洩(SGTR)事象を選定し、評価用の操作モデル、MFM を構築した。プラントシミュ レータと組み合わせた機能検証実験を行い、適切な操作の認識、不適切な操作の検出など 基本機能の実現を確認した。また、基本操作モデルと操作エラーを検出するアルゴリズム をベースとして、操作モデルに基づく動的操作パーミッションアルゴリズムを確立した。

さらに、動的操作パーミッションシステムをコオペレータとして位置づけるために、コ オペレータの概念を提案し、自動化レベル、自動システムによる監督、システム明快度、

および、情報共有の観点からの考察を行った。これにより、動的操作パーミッションシス テムの機能が狭義のヒューマンエラー低減に有用なだけでなく、様々な自動化レベルにお いても人間への操作支援のフレームワークとして活用できる可能性があることがわかった。

ソフトオペシステム

操作情報

操作・事象診断情報変換機能 事象診断情報

プラント状態 パーミッション

操作情報 事象診断情報

パーミッション診断機能

操作モデルDB プラントMFMモデル

監視システム

MFM影響推論機能

操作モデルエディタ プラントMFMエディタ プラント状態モニタ機能

プラント状態 モニタテーブル プラントシミュレータ

動的操作パーミッション システム

挙動/MFM変換 テーブル 操作/MFM変換

テーブル

図3.1-4 動的操作パーミッションプロトタイプシステムの構成

(14)

3.1.2 監視操作システムの情報提供方式

インタフェースエージェントの設計では、人間ユーザと対等かつ真にフレンドリィな協 調関係を樹立するために双方の間での概念共有が必須となる。しかし現実にはインタフェ ースエージェントによる情報提示からオペレータの解釈を経て解が特定されそれが実行に 移されるまでのプロセスには多くの不確定要因が介入し、必ずしもエージェントの意図し た行動をオペレータが実施するわけではない。その主たる要因としてはオペレータの当該 タスクに対する習熟度の違いとエージェントとの間での知識の共有・視点の同一性などに 関する不一致の問題である。本研究開発では、まず要素技術開発としてこれを解決するた めのコミュニケーションフレームワークの検討を行った。

エージェントと人間のコミュニケーションの方法としては、情報を多様に表現でき、情 報を伝え、理解させる手段が多様であるという点から会話という形式が最も適していると 考えられる。実際、相互主導型のインタラクションは、人間同士の対話過程にその原型を 見ることができる。インタラクションの開始時や話題転換時におけるターン・テイキング

(turn-taking)の自律決定、対話文脈の理解、会話のグラウンディング(grounding in

conversation)の三要素が必須要件とされる。「会話のグラウンディング」とは意図や行為

の相互理解を可能にする信念の共有に基づいて会話そのものが自然に淀みなく継続されて いく状態のことを言い、会話中の相手意図に関する不確実性や誤った理解の生起を契機と して、その解消や修正のための行為を含め相互に有機的な結びつきをもって展開される共 同作業性(joint activity)の側面が特徴である。このような会話に関する相互信念のモデ ルとして Clark による相互信念の理論を導入し、相互主導型会話エージェントの実現に 向け必要なフレームワークについて検討を行い相互信念の生成と、会話の構造、状態を把 握するために用いるプランツリー表現(図 3.1-5)を提案した。これに基づいて会話にお ける動的な注意管理機構としてのフォーカススタック機構の設計を実施した。

また、上記のフレームワークを踏まえて、インタフェースエージェントを用いた知的支 援技術の開発について検討を行った。具体的には、現在の運転員室における警報メッセー

会話目的Aが会話目的Bの一部を満たすとき,会話目的Bのノードの下位に会話 目的Aのノードを表す

会話目的Cを満たすためには,会話目的Dが先に満たされなければいけないとき,

会話目的Dは会話目的Cから先行充足関係を表すリンクで結ばれる

状況認識の相互信念化 実行する対処行為の決定

の相互信念化 先行充足

異常事態の対処

何がおきて いるか

なぜおきてい るのか

このままでは

どうなるか 目標状態の相互信念化 候補となる対処行為 の相互信念化

状況認識の相互信念化 実行する対処行為の決定

の相互信念化 先行充足

異常事態の対処

何がおきて いるか

なぜおきてい るのか

このままでは

どうなるか 目標状態の相互信念化 候補となる対処行為 の相互信念化

図3.1-5 インタフェースエージエントのコミュニケーションフレームワーク

(15)

ジ提示やプラント監視・操作のための現状でのインタフェースに大きな変更をもたらさな い自然な拡張として、インタフェースシステム内にインタフェースエージェントとしての 機能を埋め込み、実プラントにおける事象進展の監視とともに、各種警報メッセージのも とに監視・操作を実行しているオペレータクルーが適正なメンタルモデルの構築を行って いることを実証するための推論機構の理論について検討をおこなった。

自動化の適正な稼働状況を見失い混乱に陥る現象は、Automation-Induced Surprise(自 動化に誘起された驚愕)の名の下に広く認識されている。この原因には2つあり、一つは 制御系のロジックそのものが複雑すぎてオペレータの追跡的理解が追いついていかない状 況。いま一つは、オペレータの側で進行している対象や自動化の稼働状況に対する理解が 実際とは食い違っており、誤ったメンタルモデルや仮説を持ってしまっている場合である。

後者の場合には、例え監視すべき対象や情報アイテムの規模は小さくても、確実に混乱に 陥る。これらの問題認識に基づいて、本研究では、エージェントが担うべきインタフェー スの表示系、操作系、警告メッセージのトータルなデザインを目標に、その理論構築につ いてまとめる。オペレータにインタフェース上で提示される情報が、オペレータの誤った 状況認識を誘起しないか否かについて事前に評価するための手法としてコンポジットモデ ル解析を導入する。この解析で同定可能なのは以下の2つの情報提示設計の不備について である。

・エラー状態の同定:異常事象対応時に手順書の中で規定されている状態識別に対して、

プラントにおける実際の状態と、インタフェースから得られる情報のみに基づく場合 のオペレータが捉えている状態との乖離する可能性のある部分を事前に同定する。

・ブロッキング状態の同定:状態認識としては誤っていないものの、その状態のもとで どのような遷移が起こり得るか(オペレータとして実施可能な状態遷移事象が何であ るか、あるいは自動化の起動による事象として次に何が起こり得るか)についてのオ ペレータの認識が、実際と乖離する可能性のある部分を同定する(=自動化に誘起さ れた驚愕の根本原因の解消)。

以上の課題について、本研究では、細管破断の異常事象をとりあげ、プラントにおけ る異常事象の生起に際して、運転員が異常への気づきと同時に、一連の対応操作を確実に 実施し、対象プラントの状態推移と各種自動化の適正な稼働状況を見極め、対象プラント が望ましくない状態に陥ることを必ず回避するためのインタフェースエージェントの監視 推論の枠組みを提案した。

最後に、当直長へのオペレータクルー操作時系列の集約・サマリ提示手法として、参加 型システムズアプローチの構造化モデリング手法の一つである Interpretive Structural Model (ISM) 法を用いたオペレータクルーの監視操作の集約提示法について検討を行っ た。本来ISM法は、人間の意思決定を支援するべく、決定者の主観判断から逐次より客観 的なものへと表現していくグラフ理論に基づいた計算機の援用手法として発案されたもの である。本開発では、ある時間区間においてオペレータが状況認識や監視操作時に複数の

(16)

VDU 監視画面の間を遷移する際の履歴をデータとして収拾し、その監視・操作の概要を 最小辺有向グラフとしてサマリ表示する手法を提案した。作成されたグラフは、当直長へ の集約表示として方法として有用である以外にも、VDU 画面の改良設計にも用いること ができる。VDU 画面間移行の関係が表しているのは、いわばオペレータクルーのプラン ト監視における、情報画面間の移動を表す動線である。従ってISMにより最終的に得られ た最小辺有向グラフは動線の最小化を保証する画面提示の順序を導出したものになってお り、この順序に従って、次画面参照のためのリンクを張った画面をデザインすれば、画面 間の移行を最小限に抑え、かつ的確に状況認識に導くことのできるVDU画面設計ができ る。さらにISMにより導出された強連結を形作る画面群は、同時もしくは引き続いて画面 を切替えながら参照される画面群であることを表しており、これらの画面で実際に参照さ れている情報アイテム群をまとめて同一画面内に構成すれば、画面移行の煩雑さをオペレ ータに負荷として与えることなく的確な状況認識に導ける画面が設計できることになる。

3.1.3 クルーモデルの構築とクルーパフォーマンス評価手法

プロセス制御のさまざまな分野において、状況認識(SA: Situation Awareness)の概念 が注目を集めている。SA は「環境に存在する要素の時空間内における知覚とその意味の 理解、および近い将来におけるそれらの状態の予測」と定義され、どれだけ適正なSAを 保持しているか、人間行動を評価する上での有力な指標と考えられている。

従来の SAに関する研究の多くは、個人のSAを対象とするものであった。共同作業状 況下におけるSA、すなわちチームSAはこれまでメンバーが所持するSAの共通部分とい った概念で扱われてきたが、チーム意図などの研究と比較するとこの考え方はあまりにも 単純である。本研究では、共同作業に用いられる先進的ヒューマンインタフェースの評価 をチームSAの概念に基づいて行う計画であるが、その基礎として本研究開発では、チー ムSAの定義、定式化と、推論手法の検討を行った。

まず、チーム SAを「複数の人間が状況の知覚、理解、予測、共同作業への関与など について認識を共有していること」と定義した。認識の内容には、個人に関して考えられ ている状況の知覚、理解、予測の3レベルのSAだけでなく、チ―ム意図のような他のメ ンバーの行動面に関する認識を含んでいる。

つぎに、様相論理を用いてチーム SAの定式化を行った。たとえば状況の知覚に関する レベル1のSAを、

(

SA1( , ) MBEL( ,hold( ,now))

)

) symptom(

)) now , hold(

, MBEL(

) , 1(

TSA

i i

i i P

P g m

P m

P m

P P

g P

g

i i

=

のように定式化した。ここで、MBEL はメンバーの相互信念を、symptomは観測可能 な状態を表す。この式を変形すると、レベル1のチームSAがメンバー個人のレベル1SA と相互信念に還元できることがわかり(式の後半)、チーム意図に関する理論との間に一貫

(17)

性がある。理解、予測のレベル2、レベル3のチームSAについても全く同様の定式化が 可能である。

提案したチーム状況認識(TSA: Team Situation Awareness)推論手法に基づいてTSA シミュレータを構築し、DURESSの2人チームによる運転に適用して個人SAと相互信念 を推論により導出した。TSAを左右する因子にはさまざまなものがあるが、DURESSを 用いたテストシミュレーションによって、提案した TSA 推論手法がこれらの効果を考慮 できることを示した。さらに、健全性と完全性の2つの TSA 評価基準を提案し、この基 準に基いて推論された TSA を経時的に評価した。これによって、表示パネルの設定、行 動観測の可能性、コミュニケーションの有無、メンタルモデルの異同などさまざまな要因 がTSAの良否に与える影響を定量的に評価することができた。メンタルモデル共有がTSA に与える影響は、コミュニケーションを頻繁に行うチームでは大きくないが、コミュニケ ーションを行わないチームにおいては大きな影響を与える。

表示情報の共有に関しては、コミュニケーションを頻繁に行うチーム、あるいは訓練な どによりメンタルモデルに差が少なく相互に行動観測が行える場合には、同一の情報表示 パネルがなくても良好な TSA を獲得可能であることがわかった。一般的に言えば、チー ムが適切な TSA を得るためには外部環境からチームプロセスに関する情報を得なければ ならないが、チームプロセス情報の伝達チャネルにはプラントからの情報表示パネルだけ ではない。逆に、いくらメンタルモデルが共有されていても、チームプロセス情報が得ら れなければTSAを獲得することは不可能である。

個人SAの共通部分としてTSAをとらえる従来型のTSA概念と、本研究のTSA概念と に基く評価基準によってシミュレーションされた TSA を評価し、比較した。その結果、

個人SAと相互信念の双方を考える本研究のTSA概念の方が、現実のチーム協調作業と特 徴を正しく捉えていることが示された。

3.2現場作業支援システム開発

本研究開発プロジェクトでは、保守領域の開発について、まず、現状の原子力プラント を取り巻く情勢を分析するとともに、モジュール炉が代表する将来炉を視野に入れたサテ ライト運転保守センターという将来構想において、保守分野開発の前提とねらいを提起し た。次に、提起したねらいに対して、本研究開発の基本概念である「ユビキタス保守作業 支援」を説明し、基本概念を具現化するためのシステム基本フレームワークを提案し、開 発の必要な技術課題を纏めた。さらに、これらの技術課題に関して、本研究プロジェクト での関連要素技術の開発について説明した。最後に、開発した要素技術を用いて、既存プ ラントの保守活動の合理化を図り、既存プラントの典型的な日常点検保守活動と定期検査 時の保守活動における現場作業に対する作業支援システムを開発した。

3.2.1本研究開発での前提とねらい

(18)

本研究で開発では、原子力プラントに限らず設備の保守保全活動は人間の手により実施 されることから、ヒューマンファクターの視点に立ち、その実情把握と品質向上のための 研究や技術開発の必要性が極めて高いと考えられる。本プロジェクトでは、近年目覚しい 発展を遂げてきた情報処理技術、ヒューマンインタフェース技術を、原子力プラント保守 保全業務に取り入れて、一層の技術高度化を目指す。

一方、電力市場自由化の流れの中で、原子力発電についてもコスト削減が要求されてい る。原子力発電の運転保守コストを低減する方策の一つとして、プラント毎にそのプラン トだけのための保守員を配置するのではなく、遠隔地に保守リソースを集約するサテライ ト運転保守センター方式が提案され、保守作業の省人化を実現する方向がある。また、プ ラントの信頼性、安全性を維持向上しつつ、コスト削減を可能とする状態監視保全

(Condition Based Maintenance)方式の保守運用形態も提案されている。

既存プラントの運用形態の合理化と将来炉の運用形態構想という2つ大きなトレンドが、

本研究開発における保守分野の技術開発の前提となる。本研究開発のねらいは、下記のよ うに纏めることができる。

・ 将来炉の運転保守形態構想に対して

革新的な要素技術の開発を行い、将来炉の運用形態に適用可能な保守作業支援シス テムを提案し、プロトタイプシステムの構築により、システムの有用性、有効性を検 証する。

・ 既存プラントの保守運用合理化に対して

上記革新的な要素技術を用いて、既存のプラント保守作業の合理化を図り、既存炉 で行われている代表的な現場作業を対象に、作業支援システムを構築し、既存プラン トにとって実用的な作業システムの提案を目指す。このような現場作業支援システム の開発と評価は、将来炉向けのプロトタイプとなり、前記のシステムの有用性と有効 性の検証に相当する。

3.2.2 基本概念と基本フレームワーク

本 プ ロ ジ ェ ク ト で は 、 ユ ビ キ タ ス コ ン ピ ュ ー テ ィ ン グ ネ ッ ト ワ ー ク(Ubiquitous Computing Network; UCN)の概念を原子力プラント保守保全作業支援に適用し、作業員 がプラントのいたるところにおいても、適切な作業支援を受けることを目指し、ユビキタ ス保守作業支援という概念を提唱している。その具体的な利用イメージを図3.2-1に示す。

図に示す利用イメージは、プラント内の様々な機器設備にユビキタスコンピューティング 装置(Ubiquitous Computing Device; UCD)を設置し、作業員が設備機器の周辺に近づ くと、自動的にその設備機器に関する情報が入手でき、また作業時には作業に関する指示 情報が提示される仕組みを描いたものである。このUCD は、設備機器のセンサーなどと 通信し、設備機器の状態に関するデータを常に収集し、蓄積し、分析する機能を有し、更 に情報ネットワークのゲートウェーの役割を果たし、作業員がこのUCDと通信すること

(19)

により、自動的に設備機器の状態に関わる情報、設備機器の設計情報などが入手できる。

将来構想のサテライト運転保守センターを踏まえて、プラント機器設備、現場作業員、

サテライト保守センター、センター保守員という構成のマンマシンシステムに対して、本 研究開発は、保守作業支援のための基本フレームワークを提案し、その具体的な実現形態 として保守作業支援システムを開発する。保守作業支援システムは、機器設備、現場作業 員、保守センターに対応して、下記に示す3つのサブシステムで構成される。

・機器設備側のUCD(Ubiquitous Computing Device; UCD)

UCD とは、保守作業のターゲットとなるプラント機器設備に配置する小型のデー タ収集装置である。現状のローカルコントローラからその機器設備の保守に関する 様々なデータを収集し、異常を検知し、更に保守員に通知する役割を果たす。

・現場作業員のためのウェアラブル情報端末

現場作業員を支援するための情報端末であり、作業のためHands Freeにする必要 があり、作業員が装着できるようなウェアラブルなデバイスが必須である。現状では、

PDA(Personal Digital Assistant)や、HMD(Head Mounted Display)などがそのよう な情報端末の候補である。機器設備側の UCD、保守センターとの通信により、現場 での保守作業を確実且つ正確に行えるように作業に関わる様々な支援を受けること ができる。

・保守センターのための保守情報システム

保守センターでは、すべての保守作業を統括的に管理しているため、それぞれの現

プ ラ ン ト 計算機

UCD装置

UCD

80PA ON

まず、このボ タンをOFF

プラントのセンサー情報、設備の保守関連情 報などを保守員に提供するシステム

・ 設備対象、指示対応個所を認識する技術

・ 実写画像上への情報の重畳表示技術(拡 張現実感技術)

・ 3Dオブジェクト構築技術

・ ネットワーク通信技術

・ ウェアラブルデバイス技術

・ データベース技術

・ 異常診断、故障予測等のための高度情報 処理技術

(20)

場でどのような保守作業が行われているのか、個々の保守作業がどこまで遂行されて いるかなど保守作業の全体像を把握するのが重要なポイントとなる。保守作業の監視 機能が必須であり更に、現場作業員の要請により、センターにいる熟練者または保守 専門家が現場の作業員に対して具体的に指示し、作業の支援を行う役割も果たす必要 があり、多地点多人数の協調作業を支援する機能が必要である。

保守作業支援システムのフレームワークはプラント運転中の日常点検作業、定期検査の 両方に適用できる。

3.2.3 要素技術の開発

前記の基本概念である「ユビキタス保守作業支援」に基づき、将来炉を対象としたサテ ライト運転保守センターの運用形態、さらに既存プラントの運用合理化のため本研究開発 で開発した要素技術についてまとめる。

(1) デバイス技術

デバイス技術について、現場作業者用携帯情報端末、特に情報表示端末の開発と、情報 処理端末の検討を行った。また、現場機器設備用の小型情報収集処理端末UCD について も、検討と試作を行った。

a. 携帯型情報表示端末の開発 1) SCOPOの開発

本研究開発では、プラント現場作業で利用可能なヘッドマウントディスプレーとして、

作業性を落とすことなく、必要な情報をしっかり映像として捕らえることができるディス プレイを開発することとした。具体的に、通常は自分の周囲を両眼で視認することができ、

見たい時に視線(片目)を向ければ50cm 離れたところに 10 インチ相当の画像を見るこ とができる高指向性の小型ディスプレイの原理を実証し、そのプロトタイプモデルを開発 した。開発したウエラブルディスプレイは以下の特長を有する。また、図3.2-2 に従来光 学系との違いを示し、図3.2-3には、映像を見ている時と周囲を見ている時の目線を示す。

図3.2-2新規光学系と従来光学系の構成、および特性比較

(21)

また、同図には各目線位置における目に対する光線の当たり方を同時に示している。

z 視野フリー:通常は普通に周囲を視認でき、意図的に見て始めて画像が見える。

z 視力フリー:すなわち、近視・遠視でも画像がぼけない。

z ハンドフリー:小型・軽量ディスプレイ、見易い位置を保持する機構系

また、ウエラブルディスプレイのエルゴノミクス評価に関して、瞳孔光反応計測による 視覚疲労評価および眼球運動計測による画面サイズ感評価を行い、開発したウエラブルデ ィスプレイのエルゴノミクス面の特性を評価した。その結果、ウエラブルディスプレイは 他社両眼式HMDと比較して縮瞳率の減少率が低く、視覚疲労の症状が出ていないことを 分かった。また、画面サイズ感については、想定している対角 10 インチの画面を視距離 50cmの位置から観視した条件と同じことが分かった。

2)視線検出型ヘッドマウントディスプレー(HMD)

本研究開発で、現場作業員の視線情報を注目し、作業員の注視箇所を検出することによ り、適時に適切な支援、指示ができると考えて、視線検出型HMDの開発を行なった。開 発した視線検出型 HMD は、市販の片目シースルー型 HMD を改造したものである。図

3.2-4 にその外観を示す。改造は、市販の片目シースルー型 HMD に、視野情景を撮影す

るカメラ(視野カメラ)、作業者の瞳孔を撮影するカメラ(眼球カメラ)と撮影するために、

眼球を照らす赤外線LEDを組み込んだ形となる。

このような改造により、図 3.2-5 に示すような瞳孔形状データが得られ、さらに、ソフ トウェアの開発により、瞳孔の中心位置と視野カメラから得た情景画像により対応視線位 置の推定を行った。後述する遠隔地協調作業支援システムの開発では、このような視線検 出型HMDを現場作業者に装着してもらい、遠隔地にいる熟練作業者または監督者が、現

図3.2-3 映像、周囲を見る時の視線、および目に対するビームスポットの当たり方

(22)

した。

b.その他デバイスに関する検討

「ユビキタス保守作業支援」という基本概念を実現するために、上記携帯型情報表示デ バイスだけではできない。現場作業員には、携帯型情報処理デバイス、現場機器設備には、

現場機器設備情報収集処理用の小型デバイス等も必要である。

現場作業員用の携帯型情報処理デバイスについては、市販の製品だけでも発展進化が著 しくて、本研究開発では、開発そのものを行なわないことにし、市販のものを積極的に活 用することにした。実際には、後述の現場作業支援システムの開発では、市販の PDA を 用いることとした。また、マンマシンインタフェースの研究開発に着眼点を置いた本プロ ジェクトでは、現場機器設備用の情報収集処理小型デバイスについても、開発そのものを 行なわないことにして、市販の汎用製品を活用する立場を取った。後述の現場作業支援シ ステムの開発において、市販の汎用計算機(ノート型パソコン)、または小型計算機パーツ

(組み込みパソコンパーツ)を組み立てて使用することとした。

(2)通信技術

ユビキタス保守作業支援の基本概念に基づく作業支援システムの構築には、通信技術が 必須であり、本研究開発では、非接触で指向性の高い、更に周囲環境にノイズを与えない 光空間伝送通信技術の開発を行なった。また、現時点で実用的な観点から、光空間伝送通 信 技 術 の 代 わ り に 、 作 業 支 援 シ ス テ ム の 構 築 に す ぐ 活 用 で き る 近 距 離 通 信 技 術 の Bluetooth通信技術とRFID通信技術について検討し、実際にBluetooth通信技術とRFID 通信技術を用いて、作業支援システムのプロトタイプを開発した。

(3) コンテンツ技術

ユビキタス保守作業支援を実現するためには、作業員に適切な作業指示、支援情報を与 える必要がある。本研究開発では、近年注目を浴びている拡張現実感技術(Augmented Reality; AR)に焦点を絞り、保守作業支援の情報提示技術を研究開発してきた。

視野カメラ

眼球カメラ

図3.2-4カメラ取り付け後のHMD 図3.2-5 得られた瞳孔形状データ

(23)

AR技術の特徴として、作業対象機器設備に対して作業箇所へ直接指示を出せることと、

文字だけではなく図形も用いて作業指示の内容を表現できるため、作業者がその内容を容 易に理解できること等があげられる。AR 技術を用いて作業支援システムを構築するため に、必須となる情報提示技術、トラッキング技術、レジストレーション技術、キャリブレ ーション技術について、特に難しくとされているトラッキング技術に関して研究開発を行 なった。

トラッキング技術に関して2種類の開発を行なった。一つは、マーカによるトラッキン グ技術であり、もう一つは、ハイブリッドトラキング技術である。マーカによるトラッキ ング技術の開発では、作業対象機器設備に少数の人工マーカを設置することと合わせて、

対象機器設備の形状的な特徴を自然マーカとして認識して、トラッキングに利用する技術 の開発を進めてきた。開発した技術に対して、現場作業員の3次元位置推定機能を評価し た。性能評価は、人工マーカを用いてそれぞれ位置推定を行い、精度を測定した。その結 果、人工マーカを用いた作業員の位置推定では、誤差が10%以内でおさまり、ほぼ正確に 3次元位置を求められることが分かった

また、既存の技術をレビューし、現場作業支援において様々な制約条件を満たすことの できるトラッキング技術として、自然特徴点を用いたトラッキング、ジャイロセンサ・加 速度センサを用いたトラッキングを併用するハイブリッドトラッキング技術を開発するこ とにした。その結果、自然特徴点を用いたトラッキングの技術に関して、6 つの自然特徴 点を用いたトラッキング、ステレオ法を用いた自然特徴点の三次元位置推定については、

良好な結果が確認できた。しかし、自然特徴点同士を対応づけるマッチングに関しては、

本開発項目で提案した直線検出と Harris オペレータの併用では、効果が期待できる結果 ではあるが、計算負荷の問題から、実用的なレベルには達しなかった。一方、ジャイロセ ンサ・加速度センサを用いたトラッキングに関して、センサを利用する上で問題であった ドリフト成分の除去については、提案手法の有効性が示された。しかし、位置・姿勢を算 出するには精度が低く、推定結果には大きな誤差が現れた。推定精度の向上が実用化に向 けての課題となった。

3.2.4 現場作業支援システムの開発

本研究開発プロジェクトでは、開発した革新的な要素技術を用いて、その技術の有効性 を検証することを兼ねて、既存のプラントを対象として、実用的な現場作業支援システム の開発を行なってきた。具体的には、既存プラントの保守作業の代表的な2つの場面:日 常点検・巡視点検と定期検査に対して、下記に示す現場作業支援システムを開発した。

z 現場作業員による巡回点検時の作業支援システム

・ 小型情報処理、提示装置を活用し、点検ルートのナビゲーション、自動データ収 集、設備データ履歴の表示等機能を有する

z 自動巡回点検システムと現場作業員のトラブル対処支援システム

(24)

・ モバイルエージェントを用いて、自動巡回点検を実現

・ 現場でのデータ処理により初期トラブル対処を支援

z 定期検査時の現場作業員チームを対象とするコミュニケーション支援システム

・ AR技術を用いて、チーム間のコミュニケーションを支援する z 定期検査時の系統隔離の現場作業支援システム

・ AR技術、RFID技術、小型情報提示デバイス技術を用いて、系統隔離作業の効 率化、ヒューマンエラーの防止を実現

z 遠隔地協調作業の作業支援システム

・ 視線検出型HMDを用いて、遠隔地協調作業の現場作業者を支援する。

(1) 現場作業員による巡回点検時の作業支援システム

本研究開発では、日常点検の作業支援システムプロトタイプの設計、試作を行った。具 体的には、作業員の持つウェアラブル情報端末が設備機器の状態を常に監視する小型計 測・通信装置のUbiquitous Computing Device(UCD)と通信するようなフレームワークに おいて、プラント機器設備の状態に関する最新のデータの自動収集、機器設備の異常や故 障の早期発見、状態監視保全の実施が可能になる。

a. UCDの機能

巡回点検作業支援向けに、様々なプラント機器設備に配置されるUCDに必要となる機 能は以下のようにまとめられる。

・状態監視保全のためのデータ収集:データ収集、保存、加工による異常検知

・短距離通信機能: 現場保守員の持つウェアラブル情報端末との短距離通信機能であり、

収集したデータの転送、異常を検知した場合の通知、更に保守員の位置情報の送信など プロトタイプシステムでは、小型発電装置およびその付帯設備を対象模擬設備として、

工業用小型計算機を用いて、UCD の機能実装を試みた。小型発電設備の運転中に様々な データを収集、保存し、更にパラメータが正常な変動範囲から逸脱したときに、異常検知 とする。短距離通信機能の実装については、省電力のBluetooth技術を用いている。

b. ウェアラブル情報端末の機能

点検保守員が持つウェアラブル情報端末に要求される機能は以下のようにまとめられる。

・サテライト保守センターと長距離通信機能:通信による作業員の個人認証、サテライ ト保守センターからの作業指示の受信、また保守員の位置情報をサテライト保守センタ ーへの通知とそれによる巡回ルートのナビゲーション情報の受信

・現場機器設備に設置される UCDとの短距離通信機能:機器設備の状態に関するデー タの収集、保守員の位置情報の受信

・巡回点検保守員への情報提示機能:サテライト保守センターからの作業指示(作業手

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