国立歴史民俗博物館研究報告 第219集 2020年3月
461 [論文要旨]
ジェンダー,歴史教育と博物館
黄貞燕
台湾での経験を例に
JANYEN Huang
はじめに
❶ジェンダーと歴史研究,そして博物館
❷台湾におけるジェンダー研究とジェンダー平等運動
❸ジェンダーというテーマをどのように台湾の博物館に取り入れるか
❹博物館,女性史の収蔵・展示と歴史教育
❺結論
1985 年,国連で正式に示された「ジェンダー主流化」の理念を受け,台湾では関連政策の制定 も進んだ。そのなかでも,2012 年に制定された「ジェンダー平等教育法」は,台湾の公立博物館 に対して,収蔵・展示・研究,来館者サービス,人事などについて,ジェンダー平等の意識や原則 を進めることを求めており,経営管理における原則の 1 つとされている。
しかしながら,台湾の博物館がジェンダーに関してステレオタイプの社会的価値観や歴史的思考 への対応や反省を積極的に行っている主な要因は,国のジェンダー平等政策ではない。歴史学にお いてジェンダー視点を通じた歴史解釈の新たなパラダイムが熱心に探求されていることをふまえ,
国立台湾歴史博物館におけるジェンダー問題への関心は,パブリックヒストリーの中で女性の姿を どのように描くか,特にそれをどのように収蔵し,展示するのかという点に集中している。たとえ ば,2003 年「台湾女性研究計画」の策定をふまえ,2008 年~ 2011 年の「台湾女性の映像記録」で は,オーラルヒストリーによって社会の下層や弱者の個人の経験を収集,記録,展示し,あわせて 取材の現場やプロセス自体を歴史資料として記録するといった手法もとられている。このような試 みは,女性に限ったものではないが,ジェンダー問題において重視される女性主体の叙述,多元的 な歴史視点,女性は歴史に存在するなどの主張に呼応するものであり,多元的な歴史資料を収集す るという新たな方法の開拓につながってきた。
歴史解釈の民主化を重視することは,戒厳令解除後の台湾における社会発展の特徴の 1 つである。
パブリックヒストリーの重視もこのような社会的な背景のなかでおこなわれてきた。展示とジェン ダ―についていえば,これまでの「私的」領域における成果を,いかに「公的」領域に戻していく のかが今後の課題となろう。
【キーワード】博物館とジェンダー 国立台湾歴史博物館 ジェンダー平等教育法 オーラルヒス トリー パブリックヒストリー
Genger,History Education and Museums:
A Focus on Experiences in Taiwan