音による視覚障害者のためのクライミング支援
Climbing Support System for Visually Impaired People by Sound
1W110537-5 山中 悠勢 指導教員 及川 靖広 教授
YAMANAKA Yusei Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要:フリークライミングは通常は視覚情報が重要なスポーツである.全盲者を含む重度視覚障害者は地上にいる晴 眼者の音声により,ホールドの位置関係,形状,コースの判別などといった壁面の情報を取得しながら壁を登ること が一般的である.しかし
,この方法では晴眼者が主観的にその場の状況に応じて最適な情報を与えてしまい,視覚障害 者クライマーが言われるがままに動くだけになり, 「戦略の組み立て」というクライミングの楽しみのひとつが失われ てしまう恐れがある.その問題を解決するような視覚障害者クライマー支援システムを構築し,考案した指示音の有 用性を示した.
キーワード:視覚障害者、クライミング、指示音
Keywords: visually impaired person, climbing, indicator sound
1.
ま え が き
クライミングは「自分の周囲のホールドへの方向,距 離,形などを確認し,次に取るホールドを決定した後,
そのホールドを取りに行く」という一連のタスクを繰り 返すことで成立する.クライミングは,近年では図
–1の ように人工的に作った壁にホールドと呼ばれる人工的な 手がかり足がかりを取り付けて登る楽しみ方も存在す る
[1].クライミングは通常は視覚情報が重要なスポーツ であるものの,一方で,晴眼者の補助があれば視覚障害 者でもできるスポーツのひとつである.晴眼者がクライ ミングを行う際,ホールドの位置関係,形状,コースの 判別などといった壁面の情報を視覚によって得ることが できるが,全盲者を含む重度視覚障害者はそれが困難な ため地上にいる晴眼者の音声を頼りに壁を登ることが一 般的である.しかし
,この方法では晴眼者が主観的にその 場の状況に応じて最適な情報を与えてしまい,視覚障害 者クライマーが言われるがままに動くだけになり, 「戦略 の組み立て」というクライミングの楽しみのひとつが失 われてしまう恐れがある
[2].これに対し,
Webカメラ と骨伝導ヘッドホンなどの汎用品を用いて重度視覚障害 者がフリークライミングの戦略構築ができるような支援 方法が小林によって検討されている
[2].その文献では,
クライミングの邪魔にならないような軽量の装着物と,
パソコンに繋がれた
Webカメラからクライマーや壁の 状態を取得するシステムを検討している.また,クライ マーへ提示する情報を含んだ適切な音を考案することが できれば有用な支援システムを構築できる可能性が示唆 されている.そこで,本研究ではクライマーに与える音 情報を検討し,視覚障害者クライマー支援システムを構 築する.クライミング初心者,初級者を対象とし足自由 のコースに対する支援を目的とし,情報提示のための指
示音をフィードフォワード音とフィードバック音として 考案し,被験者実験によりシステムの評価をした.
図–1 ボルダリング壁
2.
提案システムの構成
図
–2に提案システムの構成を示す.
Kinectでクライ マーの位置情報をパソコンに取り込み,適当な音情報を 出力する.クライマーの両手と背面に合計
3か所の目印 をつけ,
Kinectで
RGB画像を取得し,その色のピクセ ル重心を取ることで実現している.
Processing言語でプ ログラムを構築した.取り込んだ情報をもとにした指示 音の出力も同じプログラム上で行う.クライマーは口に 二つのスイッチを咥え,それを舌で押すことによって取 りたいホールドを選んだり,モードの切り替えといった システムの操作を行う.スイッチからの情報は
Arduinoを介してプログラムに送られる.
人間の運動にはフィードフォワード制御を行う弾性運
動とフィードバック制御を行う修正運動があり
[3],手で
ホールドをとる運動を考えた場合,まず弾性運動で大体
の場所に手を出し,修正運動で正確に目標に触れるとい
壁
スイッチ
音による情報提示 スピーカー
Kinect パソコン
約 3 m
図–2 システム概要
(1)
フィードフォワード指示音
(2)フィードバック指示音 図–3 指示音
うプロセスを踏んでいると考えられる.よって本システ ムでは図
–3のようなフィードフォワード指示音とフィー ドバック指示音を用意し,それぞれを提示する.フィー ドフォワードの指示音はクライマーの周辺にあるホール ドの方向と距離を提示し,大まかな位置を伝える.クラ イマーの背の一点を基準とし,クロックポジションで方 向を音声提示し,距離は従来法に基づき
[4]「めちゃ近
(めちゃちか
)」 「近
(ちか
)」 「普通
(ふつう
)」 「遠
(とお
)」
「めちゃ遠
(めちゃとお
)」の五段階で音声提示を行う.
読み上げられたホールドの中から取ろうと思ったもの をクライマー自身がスイッチで選ぶ(
N番目に読み上げ られたものが取りたければスイッチ
Aを
N回押す).そ してスイッチ
Bを押すことで,選ばれたホールドに対す るフィードバック音を出力する.
フィードバックの指示音は左右の手それぞれに割り当 てられた非音声のループ音源(左手にはトライアングル の音を,右手にはベースギターの音)を用い,図
–3に示 すようにフィードフォワードモードで選択されたホール ドと手の距離が近ければ近いほど音量を大きくすること によってクライマーに距離情報を提示する.手と目的の ホールドの距離を
xとした時,音量の大きさを表す係数
gは以下のような式で表される.
g= 1−ln (e−1
Xmax
x+ 1 )
(1)
ここで,
Xmaxは
xの取りうる最大値である.人間の感 覚に合わせるため,係数
gを距離の対数に比例させた.
ただし
x= 0のとき
g= 1,
x=Xmaxのとき
g= 0と なるようにした.
0 5 10 15 20 25
晴眼者による指示 FB音のみ FF音+FB音
Time [s]
図–4 ホールドを取るまでの平均時間
[s]3.
実 験
提案した指示音の有用性を検討するため実験を行った.
被験者は成人男女
6名である.壁は木板にボルトでホー ルドを固定したものを用いた.目標ホールドを一つ設定 し,フィードフォワード指示音とフィードバック指示音両 方を提示した場合,フィードバック指示音のみを提示し た場合,晴眼者による指示といった三種類の提示方法そ れぞれについて,目的のホールドを触れるまでの時間を ストップウォッチで測定した.外れ値の除外処理を行った 上での実験結果を図
–4に示す.フィードフォワード音が あったほうがない場合より短い時間でホールドを取るこ とができた.フィードフォワード音ありの指示音は晴眼 者による指示に近いスコアになった.フィードフォワー ド音が弾性運動,フィードバック音が修正運動の補助と してうまく機能したからだと考えられる.
4.
む す び
視覚障害者のためのクライミング支援システムを構築 し,それに用いる指示音としてフィードフォワード音と フィードバック音を考案した.被験者実験を行ったとこ ろ,フィードフォワード音があることでより短い時間で ホールドを取ることができることが確認できた.今後の 課題として,よりスムーズにホールドを取ることができ るような指示音の考案や,実際にクライミングが行われ る環境下でのシステムの実用性を向上させることが挙げ られる.
参 考 文 献
[ 1 ]
中根穂高, インドアボルダリング練習帳, 山と渓谷社, 東京, 2014.
[ 2 ]
小林真, 視覚障害者のフリークライミング支援方法についての
基礎的検討, ヒューマンインターフェース学会研究報告集,vol.11,
no.6,pp.43–47,Dec. 2009.
[ 3 ]
小堀聡, 人間の知覚と運動の相互作用–知覚と運動から人間の
情報処理過程を考える, 龍谷理工ジャーナル,vol.23(1),no.60,
pp.24–31,May. 2011.
[ 4 ] NPO
法人モンキーマジック制作の動画(2014 年
4月
29日閲 覧)
url http://www.monkeymagic.or.jp