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平成 22 年 3 月

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平成21年度

IISTアジア月例講演会

報告書

平成 22 年 3 月

( (( (財 財 財 財) )) )貿易研修 貿易研修 貿易研修 貿易研修センター センター センター センター

この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。

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はじめに

(財)貿易研修センターでは事業の一環として、世界経済における重要度を ますます高めつつあるアジアとの良好な経済関係を維持構築するため、国際経 済交流を軸としたアジア事業を展開しています。その一つとしてアジアに造詣 の深い学識経験者、行政官、ジャーナリスト、アジアから来訪する各国要人等 を講師とした講演会を開催しております。今年度は新しい試みとして関西、九 州地域でも講演会を開催し、多くの参加者を数えました。その中では、新興市 場として注目されるインドの状況についてジャワハルラル・ネルー大学のモト ワニ教授、カンボジアのフンセン首相特別経済顧問リー・ヨンパット閣下他の 来日に併せた講演会を実施し、現地の状況を聞く絶好の機会となりました。ま た、中国とのビジネスモデルを中心に産業界から講師をお招きした北九州での 講演会では、中国との経済交流へ向けた貴重な意見交換の場ともなりました。

なお、本講演会は、アジア問題に関連する行政官、学術研究調査機関、民間企 業などの一般参加者を対象としており、参加者には原則アジアメンバーズとし て登録をいただき、フィードバックなどができるよう運営し、講演要旨はホー ムページなどで広く公開しております。

この報告書は、平成 21 年度に開催した全 10 回の講演会要旨を抜粋し、取り 纏めたものです。本報告書が関係各位のご参考に供していただければ幸いです。

また、この場をお借りして、ご多忙の中ご講演をいただきました講師の方々 に厚く御礼を申し上げます。

平成22年3月

財団法人 貿易研修センター

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目 次

(※講師所属・肩書きは講演当時)

■第30回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 演題: 「アジア経済の現状と我が国のアジア通商政策」

講師: 黒田 篤郎 経済産業省通商交渉官

■第31回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 演題:「国際金融危機と中国経済」

講師: 大橋 英夫 専修大学教授

■第32回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 演題: 「ベトナムを中心とする CLMV 諸国の経済動向について」

講師: 星野 達哉 ベトナム経済研究所 研究理事

■第33回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 演題: 「インドネシアの総選挙・大統領選挙の動向及び中国台頭の中の

日本・インドネシア関係」

講師: 古宮 正隆 三菱商事株式会社 業務部 顧問

■第34回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 演題:「中国政治と東アジア―現状と展望」

講師:高原 明生 東京大学大学院 法学政治学研究科教授

■第35回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 演題:「カンボジアの経済動向と今後」

講師:リー・ヨンパット フンセン首相特別経済顧問・カンボジア上院議員

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■第36回 IIST アジア月例講演会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 演題:「中国人民解放軍の動向とアジア諸国の対応」

講師:佐藤 考一 桜美林大学国際学部教授

■IIST アジア特別講演会(東京)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 演題:「インドから見た日印経済関係の現状と問題点」

講師:プレム モトワニ ジャワハルラル・ネルー大学教授

■IIST アジア特別講演会(関西)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 演題:「日系企業にとってインドでの課題-そして困難を乗り切るヒント」

講師:プレム モトワニ ジャワハルラル・ネルー大学教授 ※共催: 関西経済連合会、近畿経済産業局

■アジア講演会(九州) 「ものづくり企業、中国ビジネスへの挑戦」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 Ⅰ演題:「中国への挑戦~販路開拓を目指す日本企業の取組方法及び注意点~」

講師:高橋 勝彦 独立行政法人 中小企業基盤整備機構 経営支援専門員

ⅡⅡⅡⅡ演題:::: 「中国天津市における自動車解体技術協力について」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 講師:小南 雅稔 吉川工業 株式会社 取締役・営業統括部長

※共催:九州経済産業局、()中小企業基盤整備機構、九州経済国際化推進機構

■過去の講演会一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

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第 30 回 IIST アジア月例講演会

「アジア経済の現状と我が国の対アジア通商政策」

経済産業省 通商交渉官 黒田 篤郎

2009年4月22日 於:東海大学校友会館

1.世 界 経 済 危 機 の 現 状 と 東 ア ジ ア 経 済

まず経済の現状だが、とりわけ昨年のリーマン・ショック以降、世界各地で経済成長率が悪化 している。日本とアメリカ、ユーロ圏が軒並みマイナスで、日本を除く東アジアでは 0.6%増と なっている。これが昨年第 4 四半期の様子だ。そして IMF(国際通貨基金)の 3 月時点の見通し によると、今年、アメリカ、ユーロ圏、日本という先進国の主要 3 エリアは全てマイナス成長と なり、これは初めてのことだ。

他方途上国では成長率がほぼ半減するとはいえ、中国、インドなどを中心にプラス成長が続い ている。しかし、アジア諸国の GDP が世界経済に占める比率はまだ低く、アジアだけで世界を引 っ張るのは難しい。しかし、それでもアジアがある程度引っ張るしかない。また中国の 4 兆円元 の経済対策、自動車や家電製品の購入補助などの景気下支え効果は着実に現れている。また、ア メリカやユーロ圏の金融システムが非常に傷ついていることに比べれば、日本は今、輸出が減っ て GDP の下げ率が大きいものの、回復力はおそらく欧米より強い。したがって日本がアジアと一 緒に、いかにして全体を引っ張っていくかだ。

2. 東 ア ジ ア の 実 態 的 な 経 済 統 合 の 進 展 と 日 本 企 業 の 戦 略

ASEAN を中心とした東アジアの 16 カ国を 1 つのブロックと考え、EU(欧州連合)と北米の NAFTA

(北米自由貿易協定)の 3 つを比較してみると、東アジア 16 カ国の人口は今 33 億人で世界人口 の約半分程度、GDP は 10 兆ドルで世界の 5 分の 1 強、22%程度を占める。しかし一人当たり GDP は少なく、先進国が多い EU や NAFTA の約 10 分の 1 だ。また、域内における一人当たり GDP の格 差は大きく、例えば日本とミャンマーでは 150 倍違う。この東アジアの中では域内での部品・製 品の貿易・直接投資が年々盛んになっている。その主役は日系企業であり、日系企業の生産ネッ トワークが東アジアの事実上の経済統合を実現している。その結果、東アジア地域の域内貿易比 率は現在 54.6%で、これは NAFTA、3 カ国の域内貿易比率の 41%をはるかに超えており、また EU の 65%という数字とも約 10%の差しかない。

次に世界の国々、ASEAN や中国にどれだけ投資があるかだが、国際収支ベースでみると、ASEAN と中国の投資は従来、拮抗していたが、中国への投資が 2001 年の WTO(世界貿易機関)への加盟 を契機に急速に拡大した。ASEAN への投資はアジア危機や IT バブルで減り、中国との格差は広が る一方だ。他方中国の直接投資受入額の推移を中国側のデータでみると、2008 年後半以降、伸び が急速に鈍化し、11 月以降マイナス、12 月には 6 割減、今年 1 月には 3 割減となっている。

一方、日本からは中国と ASEAN への投資のバランスが比較的とれている。アセアンへの投資は アジア危機や IT バブル崩壊のときには減ったが、最近また増え、2006 年からは中国への投資を

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上回っている。これには中国への投資の一極集中に慎重で、投資の多極化、分散化を進める考え 方が日系企業の間に広まってきたことがある。また最近は中国よりもベトナムやインドネシアの 賃金が安い、そして人材の優秀さではベトナムやインドの評価が高いといったこともある。さら に市場という意味では、現状では中国だが将来はインドやインドネシアの成長性が高いと判断し ている企業も多い。

3.東 ア ジ ア の 制 度 的 な 経 済 統 合 と 日 本 の 役 割

遅れていた東アジアの制度的な経済統合だが、その中核となる ASEAN 自由貿易協定(AFTA)は 1993 年にスタートし、最初はなかなか進まなかったが、アジア危機後に中国が WTO に加盟し、そ れまで ASEAN に向かっていた世界の投資が中国に向かい始め、ASEAN は危機感を持った。ASEAN で は狭いところに国境がたくさんあり、関税がかかる。そうした中で AFTA を真面目にやろうではな いか、ということになった。ただ ASEAN の中にはあまり大きな市場がない。したがって他の大市 場と一緒にならなければいけないということで、ASEAN が AFTA の次に考えたのは、近隣国との FTA だ。まず中国と 2000 年頃に議論がスタートし、韓国、日本、インド、豪州、ニュージーランドと いう形で主要な周辺国との FTA ができてきた。

日本の経済連携(EPA)に関する取組みだが、ASEAN 全体と行い、また ASEAN 各国ともより深掘り するような EPA を順次締結してきている。ベトナムはまだ発効していないが、それ以外は全て発 効している。他にも中南米、スイス、中東の国々があり、このうち中東、インド、韓国、豪州と は交渉中だ。日本と ASEAN の FTA では、例えば日本から液晶パネルをマレーシアに輸出し、液晶 テレビを組立ててインドネシアに輸出する場合、日マレーシア、日インドネシア、AFTA の3つの FTA があっても、ルール上インドネシアではテレビに関税がかかってしまう。こうした場合にも 関税がかからないようにするため日本と ASEAN 全体という包括的な EPA も苦労して別途つくった。

そして最後に、ASEAN 中国、韓国、豪州、ニュージーランド、インドとそれぞれの協定ができ つつあるので、できればこれを一本化したい。われわれはこれを、東アジア包括的経済連携(CEPEA)

と呼んでいる。また投資環境比較、投資環境の法制度の問題、知的財産権の保護、インフラ開発、

人材開発、物流網の整備、省エネルギー、環境保全、情報セキュリティ、こういった経済に関す るいろいろな問題を一緒になって分析し、解決してルールを共通化していこうと議論している。

そのために東アジア・ASEAN 経済研究センター(ERIA)という組織を、日本政府が全額拠出して 昨年ジャカルタに設置した。そこで議論していることの 1 つが、インフラの問題だ。インドに対 しては日印共同で、デリー=ムンバイ間の産業大動脈構想を提案し、進めている。そしてさらに、

日本企業がたくさん集積している ASEAN との間の回廊を開くことも検討している。それぞれの国 でインフラ開発の計画があるので、それをうまく統合するような形で物流システムをつくってい こうと考えている。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 31 回IISTアジア月例講演会

「国際金融危機と中国経済」

専修大学教授 大橋 英夫

2009年5月25日 於:東海大学校友会館

1.中 国 の 成 長 率 低 下 と 4 兆 元 の 景 気 刺 激 策

中国経済は 2003 年から 5 年連続の二桁成長を実現したが、昨年の第 4 四半期から急遽、風向き が変わった。これまで世界経済を支えてきた高い成長率で規模も大きな経済が減速したことは、

かなり大きなインパクトを与える。しかし中国経済は今年も 6〜7%程度の成長が見込まれており、

それなりに高い成長率だ。その中国が成長率を背景に、国際経済で大きな発言力を持ち始めてき ている。アメリカではいわゆる G2、つまり米中両国で国際関係のあり方を考えるという議論も出 ている。中国の方は、「G2 は現実的ではない」と冷めた見方をしているが、アメリカと同格に扱 われることについては悪い気がしないはずだ。

中国経済の大きな成長率の低下は、基本的には外需の大幅な縮小による。輸出入の伸び率を見 ると、昨年 10〜11 月に急激に落ちている。そして対中投資も同様に昨年 9〜10 月辺りから、前年 比でマイナスになった。ただし 2007 年後半から 2008 年初めまでは最高水準にあったので、それ と比べてという留保をしていただきたい。

昨年 9 月 15 日にはリーマン・ショックがあり、中国の人民銀行は 6 年 7 ヵ月ぶりの金利引き下 げ、8 年 10 ヵ月ぶりの預金準備率の引き下げを行い、ここから「積極的な財政政策」と「適度に 緩和的な金融政策」が始まった。その目玉は、昨年 11 月に発表された 4 兆元の景気刺激策だ。こ の 4 兆元の財政出動については当初、インフラに 45%と半分近く、そして震災復興に 1 兆元など の支出をするという方針がとられた。その一方で、このプランが出されてから、中国国内では、

これをどのように有効に用いるかに関する論争があった。

胡錦涛、温家宝政権は、「調和ある社会」を目指そう、高度成長のツケ、あるいは歪みを是正し ようという政策をとっているため、社会福祉や社会事業などの分野にもっと多くの支出をすべき ではないかという議論が出てきた。そして間接的ではあるが、その部分をまず改善して消費マイ ンドを高めた方がよいという議論もなされた。しかし当座の結論としては、減税や消費よりも即 効性のある投資が優先された。そして昨年末の中央経済工作会議は、2009 年に中国は 8%の成長 を維持するというもう 1 つの方針を打ち出した。この 8%という数字には果たして根拠があるの だろうか。私はあまり根拠はないと思う。むしろ構造調整を考えて、5〜6%の成長でもよいので、

むしろそちらを選択すべきだったのではないか。

2. 銀 行 融 資 の 増 加 と 十 大 産 業 の 振 興 策

次に金融の問題だが、リーマン・ショック発覚後、24 時間以内に金利と準備率の引き下げがな され、その後 12 月末までの 4 ヵ月間に 5 度の金利引き下げが行われた。これだけでも効果がある のかだが、実はもっと大きな効果は 10 月後半に行われた総量規制の撤廃である。今年 1〜4 月に、

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銀行融資の増加額は 5 兆元を超え、これは前年の通年の銀行融資増加額をはるかに上回るものと なった。景気刺激策は 4 兆元なので、銀行融資はそれをはるかに上回る。4 兆元は 2010 年末まで だが、こちらは今年初めの 4 ヵ月で、5 兆元を突破してしまった。

そして実物面では、今年 1〜2 月にかけて、十大産業振興策、鉄鋼から物流に至るまでの十大産 業を振興するという政策が打ち出されており、具体的な政策がいろいろとあがっている。十大産 業には、鉄鋼、自動車、船舶、石油化学など、国民経済に占めるシェアが非常に大きな産業が含 まれる。さらにもう 1 つ、現行の第 11 次五ヵ年計画の 1 つのポイントでもあるが、自主的な創新、

イノベーションが奨励されている。この「自主的な」というのは言い換えると実は、国産化、あ るいは国産品奨励策であり、この辺は少し気になるところだ。

3. 景 気 回 復 の 兆 候 と 中 国 経 済 の 課 題

今後の見通しだが、確かに景気回復の兆候はいろいろなところで目にするようになり、報道も されている。今回の景気回復の兆候も、最初に指摘されるようになったのは中国国内ではなく国 外である。外国で中国向けのビジネスが動き出したという話が、ところどころで漏れ聞かれるよ うになった。また中国国内の先行指標、いろいろな指標が上向きに転じているのは、ご承知のと おりだ。しかし問題は、国内の消費がいまだ鈍いことだ。家計貯蓄率、すなわち可処分所得に占 める貯蓄の比率は上昇を続けており、今年の第 1 四半期には 35%になった。中国ではこれまで給 料が安く、労働分配率が低かった。その一方で住宅費や教育のコストが非常に高くなっているほ か、医療、年金も未整備であり、貯蓄へ走る傾向が強い。

世界を見ても、中国の景気回復が最も早いのはおそらく間違いない。ただ今回行われた景気対 策が長期的に見て中国経済にとってどうかというと、話は別だ。対外的には、今回、中国がとっ た景気対策、あるいは稼いだ米ドルでアメリカの国債を買い支えるというような行動を見る限り、

中国の国際的な地位は大変上がった。しかし、国内的には非常に問題が多い。中国は第 11 次五ヵ 年計画で、「成長方式の転換」を目指している。いいかえると、投資と輸出による成長から内需、

それも消費を中心とする成長への転換を目指している。しかしこれだけ公的な資金、あるいは銀 行の融資が出されるとなると、どうしても投資主導型成長パターンへの回帰という懸念が拭えな い。

実は中国の現在の投資効率は、1979、80 年ごろの改革開放が始まった直後のレベルにまで落ち てきている。これはやはり、あまりにも多くの投資がなされ、中にはパフォーマンスの悪いもの がかなり含まれているということにほかならないだろう。また公共投資が急増したとして、それ が果たして構造調整を伴うものになるかどうかがもう 1 つの大きなポイントだ。さらに公共投資、

財政出動、銀行融資も、政府が総量規制を取り払って融資を拡大しろという姿勢、こういう経済 運営や経済管理のスタイルを見る限り、経済改革の流れに逆行しているのではないかという気が する。

中国のみならず日本にとっても世界にとっても、中国の景気回復が望ましいことはいうまでも ないが、長期的に見ると今回の 8%成長を維持するための投資、8%を維持するための信用緩和と いったやり方は、今後を考える場合に少し気になるというのが私の印象だ。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 32 回IISTアジア月例講演会

「ベトナムを中心とする CLMV 諸国の経済動向について」

ベトナム経済研究所 研究理事 星野 達哉

2009 年 6 月 24 日 於:東海大学校友会館

1. ドイモイ以降のベトナムと共産党政権

ベトナムの歴史では、大きく分けると 3 つの重要な出来事があった。1 つは 1986 年のドイモイ、

次が 1995 年の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟、そして 2007 年の世界貿易機関(WTO)加盟だ。

ドイモイ当時のベトナムは、絵に描いたような共産主義国家だった。いわゆる付加価値を生むも の、収入があるものは、大きく分けて 2 つしかなく、1 つは農業で、もう 1 つは国営企業だった。

しかし典型的な共産主義的体制の下で、労働意欲はなく、生産性は上がらなかった。政府はいろ いろなものを支給しなくてはならず、財政赤字は膨大になった。その財政赤字を埋めたのが、コ メコン(経済総合援助会議)による援助だったが、ソ連と東欧でも次第に財政が逼迫し、それが できなくなった。このころ日本がインドネシア、シンガポール、タイなどの国々に投資をして、

これらの国々が非常に高度成長した。ベトナムとこれら ASEAN 諸国との経済的格差は大きくなり、

住民の不満が高まったことから、ベトナム政府が「これはいけない」と考え、戦争に強くなるた めの重工業重視の状態から、人々の生活を豊かにするため農業、軽工業に力を入れるように変化 した。そして国営だけでなく、個人のビジネスも少し認めようという決定をしたのがドイモイだ った。

ではドイモイ以降、ベトナムは大きく変わったかというと全然変わっていない。しかしベトナム にとって幸いだったのは、1991 年にソ連が崩壊したことだ。ベトナムがそのときに気づいたのは、

「やはり近隣国と仲良くならなければいけない」ということで、1995 年には ASEAN に加盟し、完 全とまではいかないが、大きな市場主義の中に入った。そして、外資を積極的に呼び込むように なり、私企業もどんどん展開するよう政策を変更した。このようにベトナムのポイントは、この 20 年弱の間、共産党、中央集権という政治体制は変えずに、個人所有を否定した計画管理経済か ら個人所有を大幅に認める市場経済に入ったことだ。

2. ベトナムの経済・社会状況、今後の経済見通し

ベトナムは資源が非常に豊富で農産物があり、米とコーヒーは世界で第 2 位だ。また石油が出る ことも、大きなメリットだ。さらに安くて優秀な労働者が多いといわれ、労働者の 70%は 30 歳 以下と非常に若い。現在、工業の発展が大いに期待されており、いわゆる輸出加工用事業、ソフ ト IT、そして二輪車、繊維企業などがあるが、私としては非常に期待されるのは製鉄業、石油化 学工業の 2 つの基幹産業だと思う。

ベトナム人と付き合う際に少し注意していただきたいのは、ベトナム人は非常に体面や面子に こだわるということだ。ベトナムはまた贈答社会で、これは賄賂に関係してくる。ベトナム人の 賄賂に対する感覚は、日本人とは異なり、一般に①金額が妥当、②もらった金を関係者と分け、

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独り占めしない、③もらった金は生活費に充てる‐という 3 つの条件を満たせば、賄賂性が非常 に薄くなるという考えを持っている。

またベトナムでは百家争鳴で、議論が百出する。特に政府関係の事業を始めるときは議論がい ろいろ出るが、結論はなかなか出ない。また「誰が事業責任を負うのか」という点については、法 律上、政府は責任をとれないことになっている。したがって政府は事業体をつくらなくてはなら ず、これには時間がかかるのだが、事業をする際はこの辺を詰める必要がある。

ベトナムでは高度成長が続いており、中でも外資が大きな役割を果たしている。ベトナムの基本 的な政策はこれまで不変で、現体制の維持と経済発展を基本にしている。国会が経済指標という ものを決めており、これは日本の経済予測とは異なり、いわゆる企業でいう予算目標、実行予算 だ。昨年末、2009 年の経済目標として、成長率を 6.5%としていたが、今国会でこれを 5%にし た。輸出の増大率についても 13%としていたのを、3%にしている。またベトナム人は財政赤字 が嫌いだが、世界同時不況下で日本やアメリカ、中国も景気刺激策をとっているのでベトナムも やらなくてはいけないということになり、財政赤字を 7%にすることになった。これはベトナム では画期的なことだ。

今後の展望として今考えられているのは、ベトナムをモノづくりの基地、生産基地にすべきとい うことだ。そしてソフトの拠点にしようという方向で動いている。その一方で、国営企業の改革 や裾野産業の育成といった重要な課題も残っている。

3. ラオス・カンボジア・ミャンマーの経済状況

次に他の CLMV 諸国についてだが、ラオスに関するポイントは国が小さい、人口が少ないというこ とだ。ラオスではまだ外国投資は少ないが、タイ、中国、ベトナムが中心で、これらの多くは水 力発電に対するものだ。また最近は金や銀など鉱物資源が出て、初めて貿易収支が黒字になった。

カンボジアの特徴は政治が安定していることで、その中で 10 年間、9.3%の成長が続いている。

人口が約 1300 万人なので規模は小さいが、観光、農業、繊維産業が重点分野だ。そして特徴的な のは、国を挙げて外資を呼び込もうとしていることだ。またカンボジアでは、規制が非常に少な いことも、1 つの大きな特徴だ。

次にミャンマーだが、個人的には魅力ある市場だと思う。人口はインドネシア、タイに次いで多 く、国土は ASEAN ではインドネシアに次いで大きい。残念ながら、軍事政権とアウン・サン・スー・

チー氏一派の権力争いが長く続いており、これによって疲弊して、経済も矮小化している。何ら かの方法で互いに歩み寄り、ミャンマー国民の幸せは経済発展にあるということでやってほしい と思う。豊富な労働力や英語でのコミュニケーションができる点などが長所で、ミャンマーには 未開発の天然資源もある。

世界的な経済状況の中、世界はどこにビジネス投資を求めるかというと、答えははっきりしてお り、中国、インド、ASEAN だ。そして ASEAN の中で特に元気がよいのはベトナムだ。したがって ベトナム、他の CLMV 諸国への投資は、1 つのチャンスだと思う。このチャンスをどのように生か すかが、非常に重要だ。私はベトナムの景気回復は意外に早く、今年後半ごろから上向いてくる のではないかと思っている。日本企業の方々にはぜひ、ベトナムや ASEAN 諸国へ積極的に進出し ていただきたい。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 33 回 IIST アジア月例講演会

「インドネシアの総選挙・大統領選挙の動向

及び 中国台頭の中の日本・インドネシア関係」

三菱商事株式会社 業務部 顧問 古宮 正隆

2009年7月14日 於:東海大学校友会館

1. 選 挙 結 果 と 民 主 主 義 の 定 着

インドネシアでは 4 月 9 日に総選挙があり、全国で国会、地方代表議会、州議会、県議会の選 挙が一斉に行われた。国会の選挙では、ユドヨノ氏を大統領候補に擁立した民主党は議席の 10%

程度を占める弱小政党だったが 20%を得票し、第一党に躍り出て議席の 27%を得た。これはユド ヨノ人気によるものである。これまではゴルカル党が第一党で、闘争民主党は第二党であった。

今回の第二党カラ党首のゴルカル党と第三党のメガワティ党首の闘争民主党(PDIP)は、いずれ も 14%台の得票だった。その後ろに、イスラム系の四政党が並んだ。

インドネシアでは 5 年前から、世論調査が根付いている。この世論調査は 5 年前の総選挙時に、

国際協力機構(JICA)の支援で始まったものだが、極めて信頼できるということが、政治家にも 国民にもすっかり定着した。今回の大統領選では 6 つの世論調査機関が出口調査で、皆ほぼ同じ 数字を見込んで、ユドヨノ組が 6 割、メガワティ組が 3 割弱、カラ・ウィラント組がほぼ 12%と なった。この時点では未だ開票は終了していないものの、国民はこの調査結果を納得しており、

選挙結果の意外性が無くなり、選挙の勝敗の予想がほぼつくようになった結果、デモも混乱も無 くなった。インドネシアでは、自由なメディアを基盤として民主主義が定着した、ということで ある。

スハルト時代とは大きく変わって、「自由なメディア」と「選挙による政権交替のシステム」と いう民主主義の根幹が確立された。その結果、政治の安定性のみならず、透明性と予測可能性が 格段に高まった。

総選挙及び大統領選選挙を通じて、過去 5 年間にこの様な民主主義の基盤を築き、経済を安定 させたユドヨノ大統領個人への人気、世論の支持が圧倒的に大きかった。ユドヨノ大統領は、慎 重だが正しい決定をする、優柔不断という批判もあるが、間違いの決定はほとんど見られない、

という国民の信頼感が、今回のユドヨノ氏の勝利と与党民主党の躍進に大きく貢献した。

また同大統領はクリーンなイメージを有し、歴代大統領で初めて汚職撲滅を本格的に行ったこ とも国民の信頼感を得るのに寄与した。

一方、過激派の爆弾テロに対しては、イスラム勢力の言論の自由を弾圧するという印象を避け て、ソフトな対応をとってきた。爆弾テロでは現場周辺にいるイスラム教徒も負傷したり亡くな ったりすることもあり、テロ自体がイスラム系勢力から批判を受けている。極めて少数の地下に 潜った過激派は残っても、テロを支持する勢力はイスラム勢力からも批判され、社会全体で孤立 し、少なくなっていく、という柔軟なアプローチをユドヨノ政権は取ってきた。その結果、今回 ユドヨノ陣営は、主要なイスラム系政党全ての支持を得ることになった。

インドネシアではイスラム教徒が大半を占めるが、今回の総選挙の結果、上位三政党は世俗政

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党であった。即ち、国民は政治がイスラム主体よりも世俗的な方が良いと思っていることが示さ れた。

そしてユドヨノ政権には合理的なマクロ経済政策がある。これについては今度、次期副大統領 になるブディオノ氏と、スリ・ムリアニ女史が担ってきた。ブディオノ氏は元経済調整大臣、そ の後中銀総裁であり、テクノクラート出身であり、党派性もない。インドネシア大学のエコノミ スト出身である 46 歳のスリ・ムリアニ女史は、5 年前に開発企画庁長官・国務大臣に就任し、そ の後、財務大臣、更に経済調整大臣を兼任し、最優秀なアジアの財務大臣といわれ、インドネシ ア最強の女性と言われるスーパー・レディーである。この 2 人のテクノクラート・学者コンビで 経済をうまく運営してきており、国際的・国内的な支持も大きい。

世界的に、民主主義国では庶民の生活が苦しくなると与党の支持率が下がり、生活が楽になる と上がるのが一般的だが、昨年 10 月以降の金融危機、それに伴う原油価格の下落の影響で、イン ドネシアでは燃料油価格や日常品の価格が下落し、結果的に庶民の生活が楽になる、という現象 が生じた。これは世界的な経済変化によるもので、ユドヨノ政権の政策とは直接の関係はないが、

結果として与党の支持率とユドヨノ人気の上昇に貢献した。

政治では、それに加えて人間関係も影響する。ユドヨノ大統領とカラ副大統領は 5 年間コンビ を組んできたのになぜ別れたのかというと、結局二人の相性が合わなかった為と思われる。慎重 でじっくり型のジャワ人、ユドヨノ氏にとっては、スラウエシ出身の直情径行で、拙速を尊重す るカラ氏は肌合いが合わなかったと思われる。多くの人は「性格が反対だからよいコンビだ」と いっていたが、結局ユドヨノ氏側が、間接的・婉曲的な表現ながら今後 5 年間のパートナーとし ては拒否した結果、コンビが解消された、というのが実情と思われる。

第二次ユドヨノ政権だが、ユドヨノ氏は中道な政策を行うとしており、クリーンな政権として 安定して行くであろう。ユドヨノ大統領は大きな戦略を描く人物であり、個々の事項の処理は自 分ではやらない。またブディオノ氏はマクロ経済の専門家である。財務大臣として評価が高いス リ・ムリアニ女史を中銀総裁に任命したいとユドヨノ大統領が一旦述べたが、彼女が仮に中銀へ 行ってしまったら政権の中で誰が彼女の役目を果たすのか、という問題があった。しかしユドヨ ノ氏はこれを白紙に戻した様で、彼女が内閣に残ればマクロ経済の運営は大丈夫だと思う。課題 としては、カラ副大統領というミクロ経済の処理を引き受ける人物が政権にいなくなるので、こ の穴埋めが必要となることであり、その人選が話題に上っている。

2. 中 国 の 動 き 、 日 本 ・ イ ン ド ネ シ ア 関 係

インドネシアでは近年、中国の進出が顕著だ。同国で中国ブームが最も高まったのは 2005 年か ら 2006 年にかけてで、胡錦濤国家主席が訪イし、インドネシアと戦略協定を締結した。そしてユ ドヨノ大統領やカラ副大統領が訪中した際には、夫々数十億ドルの両国協力インフラ案件が締結 された。また中国企業が石油や天然ガスの開発にも参入した。しかし石炭火力発電建設プロジェ クトは進捗したものの、併せて、ファイナンスや納期の遅延等いろいろな問題も生じた。今では インドネシアの関係者の間で、「中国に入れ込み過ぎた」という反省が見られる様に思われる。

インドネシア華人は 1,000 万人ともいわれるが、ワヒッド、メガワティ大統領時代を経て、ス ハルト時代の華人の言語、文化、人権等に対する規制が次々と撤廃され、華人を区別する国籍法 も改正される等、華人の権利が拡大し、中国語、中国文化の浸透も盛んになった。

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一方、日本は世界銀行、アジア開発銀行(ADB)と共に、対インドネシアの三大支援国・機関に なっている。しかし日本が国家戦略的に支援を行っているかというと、良し悪しは別として、あ まりそういう感じはしない。中国の進出の方は国家戦略的な印象があるが、代わりに現地では少 し抵抗感がある。中国は 2005 年には鄭和就航 600 年記念行事を大々的に行った。また孔子学院の 設立、多くの学校への中国語教師の送り込みと中国語コース設立、インドネシア各界指導者の中 国への招待等を積極的に行ってきた。

米国からは今年 2 月にヒラリー・クリントン国務長官がインドネシアを訪問した。そして次の 中国の総理といわれる李克強副総理も、初めての外遊でインドネシアを訪問した。従来から米国 にとってインドネシアは重要であったが、オバマ大統領も今年、インドネシアを訪問する予定と されている。しかしイスラム教徒が多いインドネシアでは、主にパレスチナ問題のために米国は 嫌われてきた。この様に中国、米国にはそれぞれ問題があり、「日本は一番良い位置にある」とイ ンドネシアの友人からはいわれる。そうだとすれば、日本から見れば今はインドネシアで日本の 存在を高めるチャンスだ。

インドネシアは東南アジア最大の資源国で、石油、ガス、石炭、ニッケル、銅等がある。イン ドネシアは、アジアで中国、インドに次ぐ大市場であり、また中東と北東アジアを結んだ地政学 的に重要な位置にある国だ。

インドネシアは ASEAN の大国であるが、近年は G20 メンバー、MEF メンバー、BRIICsとも言わ れ、国際的な地位の向上が著しい。

一方、日本とインドネシアの間では、近年政治経済の人的な交流が以前と比べて少なくなり、

日本のメディアでもインドネシアを含む東南アジアのプレゼンスが低くなっている。インドネシ アでは日本のイメージが非常に良かった。しかし ODA の減少の故かもしれないが、近年はそれも 低減傾向にある。嘗ては戦争中に日本が指導した国軍の指導者がインドネシアの指導者だったこ とから、インドネシアには親日の DNA があったが、スハルト氏を最後に、この親日の岩盤がなく なった。ユドヨノ大統領の夫人の父は日本軍の指導を受けた人物であり、この影響が僅かに残っ ている程度である。

現在の指導者は殆ど全部がアメリカ、豪州、一部は欧州で勉強した人達になっている。知日派 の政治指導者は、賠償留学生一期生であったギナンジャール地方代表議会議長 1 人となり、寂し い状況である。

従い日本としては、幅広い戦略、人脈育成等により、これを打開する必要があるのではないか。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 34 回 IIST アジア月例講演会

「中国政治と東アジア‐現状と展望」

東京大学大学院 法学政治学研究科教授 高原 明生

2009年9月25日 於:東海大学校友会館

1. ウ ル ム チ で の 暴 動 、 デ モ の 衝 撃 、 中 国 経 済 の 現 状

新疆ウイグル自治区ウルムチ市で今年 7 月、大変大規模な暴動が起きた。これがなぜ驚きだっ たのかというと、規模の大きさもあるが今、中国が厳戒中に起きた事であったからだ。少数民族 地区に関して注意をしていたのに、なぜあれだけのことが起きたのか。原因については、わから ないことも多い。当局がいっているのは、「宗教絡みの問題ではない、民族問題ではない」という ことだ。しかし、これにはやや無理がある。何が直接の引き金かはともかくとして、一番のベー スには民族間の対立があり、その 1 つの原因として経済格差があるのは間違いないだろう。

そしてもう 1 つ、チベットのこともある。新疆にもチベットにも、漢族だけではないが、元々 そこに住んでいなかった民族が進出してきている。そして先住の民族との間で摩擦が発生する。

さらにもう 1 つ深層の問題は、思想や文化の問題だと思えてならない。いわゆる多文化共生の思 想が根づいていないことに、1 つの根本問題があるのではないかと思う。

経済に関しては昨年来、4 兆元の景気刺激策がとられている。これは必ずしも財政だけでなく、

金融等、中央、地方をあわせて 4 兆元という計画だが、ある程度、功を奏している。今年第 1 四 半期は 6.1%まで前年同期比で成長率が下がったが、第 2 四半期にはかなり回復、今年は目標の 8%

成長を達成できる見通しとのことだ。一方、懸念材料もない訳でなく、相変わらず輸出が弱い、

また、バブルの心配もある。

2. 政 治 的 な 引 き 締 め の 強 化 と 限 界 、 政 治 改 革 、 権 力 闘 争

中国では今、「被時代」(〜されてしまう時代)という言葉が流行している。例えば「被就職」

という言葉は「就職させられちゃった」という意味で、中国では今、大学生が就職難だが、実際 には就職していないのに自分が就職していることになっていたと気づいた、ということだ。これ は、大学が政府から学生を就職させるよういわれているので、上によい顔をするために就職して いない人まで、嘘をついて就職したという報告を上げたりするためだ。この建前と実態の乖離は、

特に政治において激しい。

また、インターネットをどう管理するかは中国共産党にとって非常に重要な課題となっている。

09 年 1 月からは低俗な風紀を正すことを名目に、インターネットで多くのブログが閉鎖された。

さらにこれを強化しようと始めた緑壩プロジェクトがある。販売されるコンピューターにはグリ ーン・ダムという青少年を有害なサイトから守る機能のソフトを入れなければ売ってはいけなと いう検閲ソフトの導入である。

中国共産党の次の党大会は 2012 年だが、これは権力継承が行われるべき党大会になる。今の胡 錦濤氏、温家宝氏から次の世代にバトンタッチされる。中国では現在、温家宝氏に対する批判が

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相変わらずきつい。温家宝氏はそれほど強い権力基盤、あるいは自分の人脈がある訳ではないの で、攻撃の対象になりやすい。また特に経済の具合が悪くなってくると、総理大臣、中国の首相 は経済の責任者なので、批判が高まるのは理解できない訳ではない。

3. 日 米 新 政 権 の 登 場 と 東 ア ジ ア

次に東アジアについてだが、多くの問題があるので、ここでは 2 点に絞って触れたい。注目す べき点の1つは、鳩山総理による東アジア共同体の提案だろう。これについてはご存知のように、

ここ数年やや停滞気味だった。何故かというと日中の主導権争いが確かにあり、東南アジア諸国 もやや当惑ぎみだったからである。日本の推す ASEAN+6、中国の ASEAN+3 でいくのか。この東 アジア共同体の形成過程については、EUとはかなり違うものになると思う。あらかじめ首脳が 集まって、はっきり決まった目標を目指すのではなく、いろいろな機能的なネットワークやフレ ームワークができてきているので、これをどう育てていくか、という話になると思う。

中国も政策としては、東アジア共同体を受け入れている。しかし、最近少し鳩山総理の提案に ついても、どう受け止めてよいのか今から中国は考え始めたところだ。これはなぜかというと、1 つは日本との信頼関係の疑問符とともに、もう 1 つの問題は中国は東アジアを重視し続けるだろ うかということだ。実は最近、中国のいろいろな文献で、東アジアという言葉はあまり出てこな くなっており、その一方で、中央アジアの相対的な重要度が上昇している。これはエネルギー、

テロの問題などがあるためだ。また最近、皆が中国をちやほやしており、アメリカのオバマ政権 もものすごく中国に遠慮している。中国側も一部に自信過剰というか、「もう日本など相手にしな くてよいのではないか」といった思いを持つ人が増えている。そういう人たちに、「東アジアなん て面倒くさい」、「日米中 3 国対話などする必要はない」という、ある種の自信、自己評価が出て きている。

しかし日本にとってはどうしても、東アジア共同体も日米中 3 国対話もどうしてもやってもら わないと困る。中国は経済発展するにつれて軍拡する中国と地域で共生していくのは、大変重要 な戦略的問題だ。日本にすれば日米同盟で中国の軍拡を迎える形になるので、中国がアメリカと だけ話をすればよいというのは困る。日本も入れて 3 カ国で話をするという体制を何としてもつ くらなければならず、東アジア共同体も持続可能な発展と平和のために是非やらなくてはならな いと思う。それはアメリカを無視するといったことではなく、どのアジア諸国にとっても、アメ リカとの関係もアジアでの連帯も大事なのである。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 35 回 IIST アジア月例講演会

「カンボジアの経済動向と今後」

フンセン首相特別経済顧問・カンボジア上院議員 リ・ヨンパット(H.E. Oknha Ly Yong Phat)

2009 年 10 月 5 日 於:東海大学校友会館

カ ン ボ ジ ア 政 府 経 済 財 務 省 副 大 臣

ソ ー ・ ビ ク タ ー 氏( Mr. SO VICTOR )

カンボジアでは約 30 年にわたる内戦があり、内戦が終結した 1999 年は「カンボジアのゼロの 年」と呼ばれる。1979〜1989 年の約 10 年間、カンボジアは社会主義で、計画経済を取り入れた。

そして 1990 年から現在に至っては、自由経済ということで自由市場を取り入れ、さまざまな分野 が発展してきた。国内の社会基盤については、ゼロの年から現在までに幹線道路や橋、水道、電 力がほぼ全国的に普及した。これまで日本政府に多大なご支援をいただいたおかげで、社会基盤 が整備された。またその手助けとなったのはリ・ヨンパットという会社で、BOT 方式などを採用 し、橋、道路の建設にも力を入れてきた。

カンボジアは多くの人材を有する国だ。2008 年の統計を見ると、カンボジアの人口では 20〜35 歳までが約 25%を占めており、これは約 300 万人の国民ということになる。そして 20〜50 歳の 人口は、約 500 万人いる。カンボジアでは現在、2 つの通貨が使われている。1 つはわが国自体の 通貨だが、アメリカのドルも通用する。わが国のような小さな国、まだあまり経済発展してない 国では、ドルを流通させることによって経済が安定する。ただ将来的には、カンボジアの国立銀 行はドルの流通を若干制限し、国内でカンボジアの通貨、リエルをより流通させようと考えてい るようだ。

カンボジアの国内総生産(GDP)の伸びは年 9.7%程度で、これは 1997〜2007 年の平均の数字 だ。周辺国と比較しても経済は非常に発展しており、近い将来、2 桁の数字に手が届くだろう。

ご承知のとおり、2008 年には世界的な金融危機が起こり、カンボジアも影響を受けた。ただカン ボジアの場合、経済規模がまだ小さいので、影響は非常に小さく、2008 年の GDP の伸びは 6.8%

だった。2009 年に関しては、まだ予測段階だが、1〜2%程度の成長率になる見込みだ。

カンボジアの産業で最も重要なのは農業分野で、2007 年には GDP に占める比率が 29.6%だった。

工業では縫製産業、靴の製造が主な分野になっており、サービス産業では観光が主だ。これらの 分野については昨年や今年も若干だが、成長を続けている。

リ ・ ヨ ン パ ッ ト ・ グ ル ー プ 取 締 役 セ ン ・ ニ ャ ッ ク 氏( Mr. Seng Nhak )

リ・ヨンパット・グループが活動するエリアは、コッコン、ウドンメンチェイ、コンポンチャ ム、プノンペンの 4 カ所だ。プノンペンにはプノンペン・ホテルがあり、これは 1995 年に設立さ れた。4 つ星ホテルだが、規模はプノンペンで最大だ。電力に関してはプノンペン市内で、45MW の発電所があるほか、レッドブルという飲料水の販売権も持っている。さらに韓国ヒュンダイの 自動車を販売するディーラーとして、2008 年にプロジェクトがつくられた。ウドンメンチェイに も、ホテルを 2000 年に建設している。ここでは他に、タイから電力を買って地域住民に供給した

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り、浄水、飲み水を供給している。そしてコンポンチャム州には、カンボジア最大のゴムのプラ ンテーションがあり、約 1 万 7720 ヘクタールの規模だ。この会社は ISO の認証も受けている。ま たコンポンチャム州からベトナムのティンニンまで、その電力を供給するため、電線を敷いてい る。

コッコンにも 1997 年に 5 つ星のホテルをつくっており、約 545 の部屋がある。そしてタイから 電気、水道を買い、約 3824 世帯が恩恵を受けている。この他、コッコン橋、動物園などにもグル ープは活動を広げている。そしてここには経済特区があり、サトウキビのプランテーションも存 在する。この経済特区は約 336 ヘクタールの規模で、現在ここにヒュンダイの販売、組み立ての 権利をもっている。ここでは橋や道路、電気、水道などの社会基盤が完備されている。したがっ て、ここではすぐに投資を始められる。ここで投資をすれば、さまざまな政府の優遇措置も受け られる。

コッコンにおけるわれわれの経済活動、開発は、何もないところから始まった。したがってこ こでは道路、橋、水道、ホテル、市場などが、われわれのグループによってつくられたといって も過言ではない。その活動を通じ、政府から信頼された。将来的なプロジェクトとして、港や経 済特区の拡充、副都心の建設などについても、政府から多大な信頼を得ている。

リ ・ ヨ ン パ ッ ト 閣 下

グループは近い将来、経済特区をつくることを計画している。その地域の名前は、キリサコと いう。ここには約 2200 ヘクタールの土地があり、政府から経済特区の開発について認可をいただ いた。また隣接する土地が約 1 万ヘクタールあり、それを国から払い下げる形で今申請している ところだ。ここでは、芋など植え、将来、生産、輸出をしようと考えている。

カンボジアには現在、港が 2 カ所しかなく、1 つはプノンペン、もう 1 つはシアヌークビルだ。

しかしプノンペン港に入るには、ベトナムを通らなくてはならず、また川の水深が浅いため 2000 トン以上の船は入れない。したがって唯一使えるのは、シアヌークビルの港だ。ただここも水深 は 10 メートル程度しかない。カンボジア政府は現在、ローンで港の拡大を行っている。そこで考 え出したのは、このキリサコに港をつくろうということだ。それも民間の手でつくろうと考えて いる。ここは水深が 12 メートルあるほか、電力関係で投資をしようとする会社もあり、電気も水 道は十分供給される。

経済特区は国からさまざまな許可を得ているため、ここでは法律上の問題は発生しない。また ここで投資をすれば、さまざまな政府の優遇措置も受けられ、そこで得た利益は無条件で本国へ 送金できる。さらにもう 1 つ、プノンペンの副都心の構想があり、われわれのグループもそれを 実現しようとしている。ここはさまざまな幹線道路とつながっており、利便性がよい。

さらに今、約 1500 メートルの橋を BOT 方式で建設しており、また約 7200 メートルの道路もつ くることになっている。それが 2010 年 7 月に完成する予定だ。そして約 1000 ヘクタールの土地 も独自に所有しているので、今後何らかの形で開発していきたい。例えば観光バスが中継でき、

観光客が移動できるような場所をつくりたい。また生産品の倉庫、卸売市場など、さまざまな経 済活動のために開発しようと考えている。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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第 36 回 IIST アジア月例講演会

「中国人民解放軍の動向とアジア諸国の対応」

桜美林大学国際学部教授 佐藤 考一

2009年11月27日 於:東海大学校友会館

中国の国防予算は 2007 年の公表額で、3509 億 2100 万元(5 兆 4778 億円)で、この年に日本の 防衛予算を超えたといわれ、装備の充実、開発に力を入れている。さらに活動範囲も広範であり、

技術習得にも積極的である。また、中国海軍はソマリア沖には商船の護衛で出てきているし、洋 上給油艦の数も増え、日本と同様の 5 隻となっている。ミリタリー・バランス(MB)の数字を見 ると、兵員は 100 万人程度削減され、通常兵器については装備の近代化を進めている段階である が、それがあまり大きな数字になって出てきていない。なお、核兵器は増えている。しかし、単 純な「中国脅威論」に陥らず、台頭する中国に冷静に向き合うことが、我々には求められている と思う。

中国は日米とは軍事演習を行ったり艦艇の訪問をしたりするが、関係が悪くなったり、国内で 問題があると途絶えるなど、ぎこちなく交流している。一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)や上 海協力機構(SCO)、南西アジア諸国とかなり接近し、アメリカの手が及ばない自国の影響圏を確 保できないかと考えているようである。また中国は、『和諧世界』、「和して同ぜず」、「仲良くする が、あなたたちと私たちとは違うので私たちのことには干渉しないでください」といった姿勢を 西側諸国に対してとることを、上海協力機構諸国やアフリカ諸国などへも呼びかけている。

次に、中国に対して、日本やアジア諸国はどう対応すべきかであるが、中国側は一枚岩ではな いということもあり、一方的に敵視する必要はない。左手に盾を持って、右手で握手をするよう なイメージだ。何か向こうがやってきたら、盾で防ぐという対応でよいと思う。日本のシーレー ンは中国沿海部が長く、何かをされたときのために抑止力を準備しておくことは必要だが、長期 の戦争を考えることは非現実的だ。こちらから戦争を仕掛けることはしないという考え方である べきだ。

尖閣列島の大正島(赤尾嶼)、そして魚釣島といった島を守るためにはどうしたらよいかだが、

われわれは南シナ海で過去に起きたこと、そして今、行政的に中国がやっていることを把握して おく必要がある。通常は管轄水域の国際法解釈の問題に関しては、2 つの国があった場合、排他 的経済水域の境界をどうするかというと、両国の沿岸からの中間線を取るというのが常識だ。日 本はこれを中国に提示しているのだが、中国は日本に対しては、大陸棚の延長線を主張しており、

国際法の解釈では譲らず、時間をかければそのうち自分たちに有利な解決の時期がくるといった 考え方が国内にあるようだ。

また日本は核兵器を持たないという政策をとっているので、核戦力に関しては、ASEAN+3 や東 アジア・サミット、国連外交などを通じて対処する必要がある。そしてミサイル・ディフェンス、

弾道ミサイル防衛(BMD)の開発協力などは、積極的に進めるべきだろう。さらに軍事・汎用技術

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の流出への対策も考える必要がある。

日中両国間では今後、信頼醸成や共通の安全保障問題で協力し、少しずつ緊張緩和を図ってい くことが一番望ましい。また、中国は多頭の龍のように、各省庁が個別バラバラに動くので、全 ての場所と協力関係を結ぶ必要があり、1 つの組織の中でもトップだけでなく、現場の人とも協 力できるような関係をつくっていくことが重要であろう。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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アジア特別講演会(東京)

「インドから見た日印経済関係の現状と問題点」

ジャワハルラール・ネルー大学教授 プレム・モトワニ

2009 年 5 月 15 日 於:(財)フォーリン・プレスセンター

金 融 危 機 と イ ン ド 経 済

独立後、開放政策が打ち出されるまで国家主導型経済の中にあったインドの企業は、今回の 金融危機で史上初の不景気を経験している。当初、輸出依存度が低 く、国有の金融機関が多い インドでは、経済への影響はあまりないといわれていたが、やはり徐々に影響が現れてきてお り、輸出入はここ6カ月連続で前年比が 減少している。一番影響を受けているのは、アメリカ を最大の相手国とするIT技術である。ただし、ITのプロジェクトはかなり前に決定される ため、実際の 影響は今年度に現れるといわれている。自動車および自動車部品、不動産、イン フラへの影響も大きい。約 50 万人がこの金融危機で職を失っており、特に契約 労働は最大の 課題である。

しかし、明るい材料もある。インドは石油を輸入に依存しているので石油製品に補助金を出 しているのだが、輸入減に伴って補助金も減っており、それをイン フラの方に回している。総 選挙が終わり、今月末に新政権が誕生すれば、いよいよ本格的な刺激策が打ち出されるはずだ。

また、インドは農村市場が非常に元気で、特に通信(携帯電話)、二輪、不急消費財が好調 である。金融危機の影響を受けるサラリーマンに比べて自営業者が 非常に多く、このあたりが インドの内需型経済を支えている。そのため、この危機を早期脱出できるのではないかとの予 測があり、今年度も 5.5〜6%の GDP成長率を達成できるといわれている。

日 印 経 済 関 係 の 現 状

日本とインドは、今まで3回も経済関係が親密になるチャンスがあったにもかかわらず、そ れを逃してきた。独立直後には日本の研究者がインドに興味を持 ち、ODA第1号もインド向 けだったが、インドがロシアに、日本がアメリカに付いていたために接点は持たれなかった。

次いで 91 年にインドが自由化政策を 打ち出したときは、日本はちょうどバブルがはじけたこ ろで、それほど親密にはならなかった。そして、2年前から日系企業が動きだしたところに金 融危機が来 て、また足止めになってしまった。しかし、私はこの3回目のチャンスを逃してほ しくないと思っている。

最近の調査では、インドは投資先として第2位、あるいは第1位といわれている。また、2000 年に行われたインドでの世論調査によると、日本は国として はアメリカに次いでよく知られて おり、政治、学問、貿易、メディアの面ではアメリカよりも上という結果が出ている。ある意 味でインドが日本に期待している 面が非常に大きいということだろう。

最近は製造業における投資分野が多様化し、中小企業も関心を示し始めている。インドに進

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出済みの日系企業の 80%は好調で、すべて拡張計画を持っている。

それにもかかわらずなぜ日系企業がインド進出に不安感を持つのか、インド人としては分か りづらい面があるのだが、ポテンシャル性に比べて投資が非常に少 ない。日本はインドに対す る国別FDIで3位(91 年〜99 年)から6位(2000 年〜2008 年)に落ち、日本からのFDI は、91 年〜06 年にかけて 総FDIの6%しか占めていない。

貿易もそれほど増えていないが、2010 年までに 200 億米ドルにするという目標は、包括的経 済連携協定が早期実現されれば期待できるだろう。日系企業 の進出は、ここ5年で約 2.3 倍の 550 社に増えている。91 年〜08 年にかけて 871 件の技術提携があり、これはアメリカ、ドイツ に次いで第3位であ る。今年1月の「グジャラート・グローバル投資サミット」では 8622 件 の覚書が交わされ、日本の企業も数多く参加した。向こう2〜3年以内に中小企業が 約 100 億ドルの投資をすると見られている。

日 系 企 業 が イ ン ド で 直 面 す る 問 題

インフラの未整備や労働改革の遅れが問題点としてよくいわれるが、日本に対して特別にそ ういうハードルを作っているわけではない。インフラの未整備につ いては、SEZ、工業団地 の開発という解決策がある。労働改革の遅れも、うまく考えれば乗り越えられる程度のもので ある。むしろ日系企業にとって難しいの は、商慣習の違い、生活環境の厳しさ、文化上の相違 から来る心理的な距離だろう。

日本側のメリットとして、インド政府もインド国民も日本に対して非常に好意的であること、

インドは民主国家・法治国家でカントリーリスクがほとんどない こと、内需型の巨大市場であ りながら大部分が未開発であること、豊富で比較的安価な人材、食糧安保、リスク回避などが 挙げられるが、一番のメリットは、日 本の強みである製造業がインドは非常に遅れていること である。今、インドで製造業に投資する場合、100%子会社の設立が自動認可ルートで許可さ れてい る。インド側のメリットは、日本の優れた技術と資金力、日本が政治的な友好国である ということである。

日印関係改善のためには、中長期戦略が必要である。また、中小企業は資金力やメンタル面 でインド進出に当たってハードルがあるので、ODAや DMIC(デリー‐ムンバイ間産業大 動脈構想)のように政府がリードしていく形でやった方がいい。両国間の橋渡しとなる人材も 育成すべきである。

問題は両側にあるが、先入観を捨てて正確に事実を認識すると同時に、とにかくアクション を起こすべきである。日本は既に出遅れている面があり、ハードル がすべてなくなってからイ ンドに進出するのでは遅い。とにかくアクションを起こして進出すれば、ハードルは徐々にク リアされていくだろう。

日本側の問題点としては、(1)日本はまだ調査団を送り込む段階で意思決定が遅い、(2)

肩書き尊重のインド人にとって日本企業は魅力が少ない、(3) 西洋企業と違ってトータルソ リューションが少ない、(4)インドを一つのものさしで測ろうとする、(5)インドの時代 錯誤的な法律や目に見える壁に対する 日本側の理解不足が挙げられる。しかし、これらのハー ドルは乗り越えられない性質のものではないと私は思っている。

インド側の問題は、(1)真の社会変化を遅延させるポピュリズム(人民懐柔策)、(2)中

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間管理職の高転職率、(3)工員レベルの人材が安くてもすぐに使 えない、(4)PRが下手 で誤った情報も否定しない点などだが、日本には日本の文化があるように、インドにはインド の文化があり、「明日からこうしなさ い」と言われても変わらない。一つのものさしでものを 見ずに、すべての問題点を裏返して、なぜそういうことがあるのかをまず調べた方がいい。社 会的な背景 を調べて、最初の目に見えるハードルさえ乗り越えれば、インドは非常に面白い国 だと思う。

日本は、経営、品質管理、効率アップといったソフトパワーにおいて非常に優れたものを持 っており、それをどんどんインドに輸出すべきである。IT技術で はインドで3万人以上の外 国人が活躍しているが、日本人は非常に少ないし、インドはインフラ開発で 5000 億ドルを必 要としている。製薬の方では、第一三 共がインドに進出し、武田製薬も進出を考えている。エ ンジニアリングも少し動きだしている。これらを有効的に使えば、日本はソフトパワーを輸出 できると思 う。インドの企業はまさにそれを望んでいる。

インドにはまる日本人がいるが、そういう人たちはインドの裏の面を見いだしているのだと 思う。また、お互いの文化・価値観を理解・尊敬すべきである。イ ンドでは、宗教、家族、個 人が重要であり、経済がまだ流動的なのでどんどん転職して個人の出世を優先するが、それは やむを得ないと思う。商慣習や食生活に ついても同様だ。

それから、一個人や一企業の経験は必ずしも参考にならない。逆に、スズキやホンダのよう な先発メーカーが受けている恩恵を見て、それに学ぶべきである。 そうすれば、インドは非常 にポテンシャルが高い市場だということがすぐに分かる。全体的にインド人はフレンドリーで、

勤勉で、温かくて、好奇心の固まりである。

(講演要旨抜粋/文責:貿易研修センターアジア部/講師肩書きは講演当時)

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