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北田実男 中島節子    大阪市立小児保健センター循環器科

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(1)

日本小児循環器学会雑誌 9巻3号 420〜430頁(1993年)

基礎心疾患を認めない不整脈患者の長期予後

(平成5年5月25日受付)

(平成5年8月30日受理)

   大阪府立成人病センター循環器検診第3科

  北田実男 中島節子

    大阪市立小児保健センター循環器科

中川  正  杉本 久和  竹内   真

key words:基礎心疾患を認めない不整脈,運動負荷テスト,長期予後,死因,管理基準

      要  旨

 基礎心疾患を認めない主な不整脈患者6,311人年の高卒後の追跡調査を20〜48歳(平均25.4歳)まで行 い,小,中,高校在学中の11,256人年の観察データと合せて次の結果を得た.

 1.主な不整脈患者の年間総死亡率の平均は在学中が1.33%・,高卒後が1.90%・であり,同年代,同年齢 の一般人の死亡率との比は共に3〜4倍となり,在学中と卒後で差はみられなかった.

 2.不整脈死の率が特に高かったのは洞不全症候群(在学中は年間10.53%・,卒後は15.87%・),QT延長 症候群(同6.90%・,12.99%。),心室性頻拍症(同10.20%。,0%・),III度房室ブロック(同0%。,5.75%。)

などである.

 3.WPW症候群の初回頻拍発作による不整脈死の率は一般に考えられているほど低くなかった(同

1.01%o, 0.73%o).

 4.心室性期外収縮はLown分類3度以上であっても基礎心疾患がない限り,不整脈死の危険性は極

めて低い.

 5.不整脈患者の不整脈死の誘因として,在学中は運動が最大の要因であるが,高卒後は運動量の減少 とともにその重要性は低下する.これに対して,不整脈死の遠因としての体調不良の重要性は在学中も 卒後も変わらない.

      はじめに

 学校心臓検診における全員心電図検査の普及によっ て,基礎心疾患を認めない各種の不整脈が高率に発見 されるようになった.幸い,その大部分は予後良好で あるが,一部に予後不良例がみられる.

 基礎心疾患を認めない小児不整脈の管理基準とし て,本学会・心電図専門委員会の基準(1988年改訂版)1)

がある.それは種々の角度から検討されたものである が,長期予後の面からの検討は客観的データに乏しく 十分とはいえない.特に,慢性のものについては成人 期に及ぶ長期データを踏まえて,さらに検討を重ねる

別刷請求先:(〒537)大阪市東成区中道1−3−3      大阪府立成人病セソター循環器検診第3      科       北田 実男

心要がある.

 私達は基礎心疾患を認めない不整脈の高卒後,若年 成人期の予後について,在学中の経過の延長線上にあ ることを示唆する調査結果を以前報告した2).今回は 主な不整脈に絞って,多数例を対象に高卒後の追跡調 査を行い,長期予後を解明すると共に,在学中のデー タと合わせて管理上の問題点についても検討したので 報告する.

         対象と方法

 卒後追跡調査対象は学校心臓検診で基礎心疾患を認 めない不整脈と診断された症例のうち,在学中に不整 脈に起因した死亡(以下,不整脈死と略記)があった 種類の不整脈患者で,平成2年3月末現在満20歳以上 48歳まで(平均25,4歳)の933例である.その内訳を表

(2)

日小循誌 9(3),1993

表1 高卒後追跡調査対象内訳       (20〜48歳:平均25.4歳)

不整脈の種類 女 計

pvc/E可

   lE禁以上

207 47

183 49

390 96

W・w 霞以上

121

81 69 97

190 178

SVT

4 5 9

VT

7 10 17

SSS 15 6 21

III度AVB 8 12 20

QT延長症候群 4 8 12

計 494 439 933

1に示した.

 調査の第1段階は郵送によるアソケート調査とし,

未回収例には3回まで繰返してアソケートを発送し,

最後に住民登録照会による生死の確認を行った.住所 変更例には住民登録照会を行い,新住所ヘアンケート を再発送した.住民登録照会先は原則として3ヵ所ま でとし,それ以上の転居例は生死不明とした.

 死亡例には家庭,学校,職場,医療機関,必要に応 じて監察医事務所,警察署などを訪問して,生前の生 活実態,管理指導状況,死因などについて聞き取り調 査を行った.

 今回の調査に際し,私達が直接,心電図,その他の 検査を行えた症例は144例であった.

 なお,比較検討に用いた在学中のデータとは,昭和 37年度〜平成元年度の学校心臓検診で当該不整脈と診 断された症例の在学中の追跡例11,256人年から得たも のである.

421−(31)

      結  果

 表2は高卒後の生死の内訳である.生存確認例は824 例(88.3%)で,このうち141例(15.1%)は住民登録 照会による生存確認例である.死亡は12例(1.3%)で あった.生死不明が97例(10.4%)あったが,そのほ

とんどが頻回転居による調査打ち切り例である.

 表3はアンケートを回収できた生存例の調査時点に おける日常生活の程度を示したもので,健康人との比 較による分類である.全体としてみると,ほとんどの 人(94.2%)が健康人と同様の日常生活を送っていた.

不整脈の種類別には日常生活の程度に統計上の有意差 はみられなかった.男女別の集計数値は表には示して いないが,男女間に有意差はみられなかった.

 表4は日常生活の程度を管理区分別にみたものであ る.管理区分が重いものほど健康人と同様が減る傾向 がみられたが,統計上の有意差はなかった.

 表5は不整脈に対する患者の不安感の程度をみたも のである.管理区分が重いものほど「気になる」,「多 少気になる」,「気にしないようにしている」,などが高 率であり,「気にならない」が低率であった.

 表6は高卒後の受診率である.管理区分が重いもの ほど受診率は有意に高かった.しかしD区分で受診し ていない者が31.9%,C区分以上でも16.7%あった.

 表7は今回の調査に際して私達が直接検査を行った 144例の検査結果を,在学最終回の検査結果と比較評価 して示したものである.消失とは安静時,運動負荷後 とも心電図で不整脈を認めなかったもので,かつ WPW症候群,上室性頻拍(SVT),特発性心室性頻拍

(VT),洞不全症候群(SSS)などでは1年以上無投薬 で発作がなかったものである.軽快とは心電図所見お よび自覚症状ともに軽快したもの,増悪とは心電図所

表2 高卒後の生死の内訳

不整脈の種類

生 存No.(%) 死 亡

No.(%)

不 明 No.(%)

  計 No.(%)

・VC

曝肚

351(90.0)88(9L7) 0(一)1(0.3) 38(9、7)8(8.3)

390(100.0)

96(100.0)

W・W 曝肚

165(86.8)154(86.5)

1(0.5)

4(2.2)

24(12.6)

20(11.2)

190(100.0)

178(100.0)

SVT

8(88.9) 0( ) 1(11.1) 9(100.0)

VT

15(88.2) 0(一) 2(11.8) 17(100 0)

SSS 18(85.7) 3(14.3) 0(一) 21(100.0)

nl度AVB 16(80.0) 2(10、0) 2(10.0) 20(100.0)

QT延長症候群 9(75.0) 1(8、3) 2(16.7) 12(100.0)

824(88.3) 12(1.3) 97(10.4) 933(100.0)

(3)

422−(32) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第3号

表3 高卒後の日常生活 不整脈の種類別

      (アンケート回収の生存例のみ)

不整脈の種類 健康人と同様

 No.(%)

控えめ No.(%)

療養中No.(%)

その他

No.(%)  計

No.(%)

・V・

ぱ肚

272(95.4)7⑪(94.6)

10(3.5)

4(5.4)

1(0.4)

⑪(一)

2(0.7)

0(一)

285(100.0)

74(10⑪.0)

W・W 曝肚

123(93.9)121(91.7) 3(2.3)9(6,8) 3(2.3)0(一) 2(L5)2(L5) 131(100.0)132(100.0)

SVT

7(87.5) 1(12.5) 0(一) 0(一) 8(100.0)

VT

14(100.⑪) 0(一) 0(一) 0( ) 14(100.0)

SSS 15(93.8) 1(6.2) 0( ) 0(一) 16(100.0)

III度AVB 13(92.9) 1(7.1) 0(一) 0(一) 14(100、0)

QT延長症候群 8(88.9) 0(  ) 1(11.1) 0( ) 9(100.0)

計 643(94.2) 29(4.2) 5(0.7) 6(0.9) 683(100.0)

表4 高卒後の日常生活:管理区分別

      (アンケート回収の生存例のみ)

管理区分 健康人と同様

 No,(%) 控えめ

No.(%)

療養中No.(%)

その他

No.(%)  計

No.(%)

E 可 E 禁  D C以上

401(95.0)

100(952)

132(91.7)

10(83.3)

13(3.1)

5(4.8)

9(6.3)

2(16.7)

4(0.9)

0( ) 1(0、7)

0(一)

4(0.9)

0(一)

2(1.4)

0(一)

422(100.0)

105(100.0)

144(100,0)

12(100.0)

計 643(942) 29(4.2) 5(0.7) 6(0.9) 683(100.0)

表5 高卒後の病気に対する不安度 管理区分別

(アンケート回答例のみ)

管理区分 気になる

No.(%)

多少気になる  No.(%)

気にしない ようにしている  No.(%)

気にならない  No.(%)

その他 No.(%)

 計

No.(%)

E 可 E 禁  D C以上

18(5.0)

7(8.3)

16(13.8)

1(10.0)

106(29.4)

32(38.1)

43(37.1)

 5(50.0)

37(102)

7(8.3)

23(19.8)

3(30.0)

196(54.3)

37(44.1)

33(28.4)

 1(10.0)

4(1.1)

1(1.2)

1(0.9)

0(一)

361(100。0)

84(100.0)

116(100.0)

10(10⑪.0)

計 42(7.4) 186(32.6) 70(12.3) 267(46.8) 6(1.0) 571(100.0)

表6 高卒後の受診の有無:管理区分別          (アンケート回収の生存例のみ)

管理区分 受診あり

No.(%)

受診なし No,(%)

その他・

回答なし No.(%)

 計

No.(%)

E 可 E 禁  D C以上

204(48,3)

47(44.8)

92(63,9)

10(83.3)

183(43,4)

45(42.9)

46(31.9)

 2(16.7)

35(8、3)

13(12.4)

6(4.2)

0(一)

422(100.0)

105(100.0)

144(100.0)

12(100.0)

353(5L7) 276(40.4) 54(7、9) 683(100,0)

見の増悪または不整脈発作の新発生あるいは発作頻度 や発作症状の増悪例のことである.ただし,心室性期

外収縮(PVC)については単なるPVC数の増減は無視 し,連発,多形性,シ・一トランなど質的変化を有意 の変化とした.

 合計でみると,消失が31.9%,軽快が8.3%,不変が 50.0%,増悪が9.7%であった.これを不整脈の種類別 にみると,PVCは他の不整脈に比べて消失例が有意に 多く,WPW症候群は増悪例が有意に多かった.

 表8は卒後の年間総死亡率および不整脈死の率を,

在学中のそれと並べて示したものである.全体として みると,高卒後の年間総死亡率は1.90%・,不整脈死の 率は1.58%。であった.これに対して在学中の年間総死

(4)

平成5年10月1日 423−(33)

表7 高卒後の不整脈の経過

(検査実施例のみ)

不整脈の種類 症例数

消 失No.(%) 軽 快No.(%) 不 変No.(%) 増 悪No.(%)

・V・

曝以上

67

9

34(50.7)

5(55.6)

1(L5)

3(33.3)

30(44、8)

1(11.1)

2(3.0)

0(一)

W・W 曝以上

31

24

3(9.7)

3(12.5)

2(6,5)

3(12.5)

20(64.5)

14(58.3)

6(19.4)

4(16.7)

SVT

2 0( ) 1(50.0) 1(50.0) 0( )

VT

2 1(50.0) 0(一) 1(50.0) 0(一)

SSS 4 0(一) 1(25.0) 2(50.0) 1(25.0)

III度AVB 3 0(一) 0(一) 2(66.7) 1(33.3)

QT延長症候群 2 0(一) 1(50.0) 1(50.0) 0(一)

計 144 46(31.9) 12(8,3) 72(50.0) 14(9.7)

表8 不整脈患者の年間致命率

(昭和37年度〜平成元年度)

小・中・高校在学中 高 卒 後

不整脈の種類

追跡数 総死亡 不整脈死 追跡数 総死亡 不整脈死

人 年 No.(%) No.(%) 人 年 No.(%) No.(%)

・VC

曝以上

6,366

 834

2(0.31)

3(3.60)

0(一)

2(2.40)

2,808  566

1(0.36)

0(一)

0(一)

0(一)

W・W 曝以上

1,986

1,279

2(ユ.01)

3(2.35)

2(1.01)

2(1.56)

1β30 1,032

1(0.73)

4(3.88)

1(0.73)

4(3.88)

SVT

158 0(一) 0(一) 42 0(一) 0(一)

VT

98 2(20.41) 1(1020) 93 0(一) 0(一)

SSS 190 2(10,53) 2(10.53) 189 3(15.87) 3(15.87)

III度AVB 200 0(一) 0(一) 174 2(11.49) 1(5.75)

QT延長症候群 145 1(6.90) 1(6.90) 77 1(12.99) 1(12.99)

計 11,256 15(L33) 10(0.89) 6,311 12(1、90) 10(1.58)

亡率は1.33%・,不整脈死の率は0.89%・であった.不整 脈の種類別に,卒前と卒後の不整脈死の率を比較して みると,PVC:E禁以上は在学中の方が高く,WPW:

E禁以上は卒後の方が高かった.

 表9は卒後に不整脈死した症例の一覧表である.体 調不良が10例中7例に認められた.直前の行動をみる

と,夜間睡眼中が5例と半数を占め,運動中は1例の みであった.なお洞不全症候群の3例全例に,家族的 要因として,不整脈死またはそのニアミスの家族歴が みられた.

 表10は在学中に不整脈死した症例の一覧表である.

体調不良が10例中7例に認められた.直前の行動は運 動中が5例で最も多く,睡眠中は1例もなかった.不 整脈関連の家族歴は2例みられた.そのうちWPW症

候群の1例は弟が同じWPW症候群というだけのこ

とであったが,Romano・Ward症候群の1例は姉が突

然死のニアミスともいえる失神発作をたびたび起して

いた.

      考  察

 心臓要管理者の管理区分の判定基準は,近年ほど軽 い区分に判定される方向で徐々に修正されてきた.基 礎心疾患を認めない不整脈の管理区分の判定基準も例 外ではない.このような判定基準の違いによる議論の 混乱を避けるため,今回の調査では個々の症例の管理 区分を1988年に公表された本学会・心電図専門委員会 の改訂基準1)によって再評価した.ただし,再評価に利 用できた検査成績は運動負荷心電図検査と胸部X線 検査までである.ホルター心電図,心エコー検査など はごく一部の特殊例のみに実施されていたにすぎない ことを断っておく.

 今回の調査によると,高卒後は大多数の患者が表面 的には健康人と同様の日常生活を送っていた.しかし,

(5)

日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第3号 424−(34)

                     

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425−(35)

平成5年10月1日

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(7)

426−(36)

その内情をみると,管理区分が重いものほど不整脈に 対して不安感を持っているものが多いことが分かっ た.また,不整脈に対する不安感や自覚症状があって も診療を受けていない者が少なくないことも分かっ

た.

 高卒後の死亡例は12例(1.3%)であった.生死不明 が97例(10.4%)あったが,そのほとんどが頻回転居 による調査打切り例であった.この場合の生死不明例 は転居先不明による生死不明とは異なり,もし徹底的 に調査をすれば生存確認がとれる確率が極めて高いも のである.このことはこの種の調査を繰返し行ってき た私達が経験的に知り得たことである.したがって,

これを分母に算入して死亡率を算出すると,年間総死 亡率は1.90%。となる.この値は同年代,同年齢の一般 人の死亡率の約3倍である.

 これに対して,在学中の年間総死亡率は1.33%。であ り,同年代,同年齢の一般人よ死亡率の3〜4倍であ る.すなわち,同年代,同年齢の一般人の死亡率との 比でみると,在学中と高卒後で有意差はみられなかっ たことになる.

 次に,不整脈の種類別に長期予後および管理の問題 について考察する.

 PVC散発例は一般に予後良好と考えられている3)

が,今回の調査成績もそれを裏づけるものであった.

 PVC頻発例に関する松島らの報告4)によると,運動 負荷テストおよびホルター心電図検査でLown分類 3度以上の所見が約1/3の症例にみられ,しかも両検査 の結果が一致しない症例が少なくなかったという.し がしながら私達はPVC頻発例に対して処理能力の制 約上,ホルター心電図検査はほとんど実施しておらず,

運動負荷テストの結果を中心に判定している.すなわ ち,安静時および運動負荷テストでLown分類3度以 上の所見がみられず,かつ不整脈による失神発作の既 往やめまいなどの重篤な症状がなければ,PVC頻発例 でもホルター心電図検査を実施せずにE可と判定し ており,そのような症例がPVC・E可の約20%を占め ている.これらの症例のその後の経過をみると,在学 中においても,卒後においても,検査のたびにそれぞ

れ3〜5%程度の症例にLown分類3度以上の所見

を認めている.しかし,その大部分は一過性のもので あり,基礎心疾患が潜んでいる可能性は極めて低いと 考えられる.ともかく,運動負荷テストの結果を中心 にした判定でPVC;E可とされた症例からは,これま でのところ不整脈死は1例も出ていない.

日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第3号

 この事実は文献上いろいろ異なった評価があるなか で,基礎心疾患がない場合はLown分類3度以上の所 見がみられても予後は悪くないとの報告5)6)を支持す

るものである.

 PVC;E禁以上,すなわち安静時または運動負荷心

電図でLown分類3度以上の所見が頻繁にみられた

症例では,在学中に2例(年間2.40%・)の不整脈死が あった.ただし,その2例は基礎心疾患が潜んでいた か,その可能性が強かった症例である.もう少し詳細 に述べると,そのうちの1例(表10の症例1)は多形 性で,ショートランが混在し,かつ運動負荷で所見の 増悪がみられたものであり,管理区分はDであった.

本症例は剖検でリウマチ性心筋炎が発見されたので厳 密には今回の検討対象外の症例であるが,生前の臨床 検査ではそれを発見できなかったため,基礎心疾患を 認めない症例とみなして今回の検討対象に含めたもの である.他の症例(表10の症例2)は,0.3秒以下の短 い間隔のPVC連発例で, R on T型,かつQRS幅が 広く(0.16sec),多相性であり,器質的心疾患が隠れて いることが多いといわれている特徴7)を備えていたた め,集検での管理区分はC〜Bとしていた.しかし,専 門病院における精密検査で不整脈以外に異常なしと診 断されたため今回の検討例に含めたものである.なお,

本症例は専門病院で無治療のまま経過観察中に突然死 したのであるが,不整脈によると推定される短かい失 神発作をたびたび起こしており,積極的な治療を行う べき症例であったと考えられる.

 PVCのシ・一トランはVTとの線引きがむずかし

いが,ここではPVC混ってみられる数拍のショート ランはPVCの範疇に含めた.

 特発性VTの卒後追跡例17例の発生源別内訳は,右 室起源が12例(うち,流出路9例,右脚本幹近辺3例),

左室起源が4例,多形性が1例で,他の報告8)9)とほぼ 同じであった,ただし,非特続型が多かった点は集検 症例の特徴と思われる.特に右室流出路起源では9例 中8例までが非持続型で,うち2例は運動誘発性で あった.右脚本幹近辺起源の3例はいわゆるslow VT であった.左室起源の4例では,2例が左室心尖部起 源で,持続型であった.

 特発性VTのうち,非持続型VT(運動誘発性を除 く)およびslow VTは一般に予後良好と考えられてい るが8)9),今回のデータもそれを支持するものであっ た.ただし,特発性と診断するには基礎心疾患を否定 する必要があり,その完壁を期すことは容易でない点

(8)

平成5年10月1日

が問題点として残る.

 SVTについては,特に注目すべき成績は得られな かったが,学童期から若年成人期にかけての生命予後 は良好と考えられる.

WPW症候群は,基礎心疾患がなければ生命予後は 良好と長らく考えられていたが,成人では心房細動に

伴う偽性VTから突然死に至ることがあるとの指

摘1°)によって,本症の臨床的意義が注目されるように なった.そして,危険例の鑑別診断の研究が進み,現 在では電気生理学的検査が最も有力な鑑別法とされて いる.しかし,電気生理学的検査は観血的な検査法で あり,かつ高額の費用がかかること,しかも心臓ペー シングによって心房細動,心室性頻拍,さらには心室 粗細動が誘発されて致死的となる可能性を否定できな い,などの短所がある11).そのため,手軽な鑑別法とし て,頻拍発作の既往の有無と発作時の症状の重さが臨 床上重要視されている.

WPW症候群の頻拍発作の出現率を文献でみると,

小児科領域からの報告では10〜20%とするものが多 い12)13).これに対して成人患者では40〜80%といわれ ている14).この差が生じる原因の1つとして頻拍発作 の引き金となる期外収縮や心房細動などの発生率の加 齢による上昇があげられる.そのほかに,持続の短か い発作の正確な把握が小児では想像以上にむずかしい ことも一因と考えられる.因みに,運動負荷テスト中 にたまたま短い頻拍発作を認めた時に,被検者に自覚 症状や既往歴についてたずね直すと,普段の運動で同 様のどうきを感ずることがあると答える者が多い.し かし,それは誰にでもあることと思っていたというも のである.WPW症候群は,それまで頻拍発作がなく ても発作を起こす可能性があること,発作時の症状に は個人差があること,万一発作と思われる場合は必ず 受診すべきであることを,患者,家族,学校保健関係 者などに説明しておくべきであろう.在学中に突然死 した1例(表10の症例5)は,しんどいと訴えた時す でに発作が起こっていたものと思われる.少なくとも 胸が苦しくなった時点で受診していたならぽ,死を免 れた可能性が大きかった症例である.

 初回発作で突然死した症例は私達の調査によると,

在学中にはこの1例を含めて2例あり,卒後にも1例 あった.もっとも,これらの症例の死亡時の発作が本 当に初回発作であったという確証はないが,それ以前 に発作があったという記録が,検診データにも,健康 手帳にも,保護者の記憶にもなかったものである.

427−(37)

 WPW症候群で頻拍発作の既往があるもの,特に発 作時の症状が重い者では突然死の危険性が高い.この 場合の突然死の機序として,短絡路の不応期が短い症 例において心房細動時に偽性VTから突然死に至る ことがあげられているユ5).心房細動は年齢とともに発 生率が高くなるが,WPW症候群では特に高く,成人 WPW患者の30%以上にみられるという14)15).

 初回発作による突然死を含めてWPW症候群の不

整脈死を予防するには,WPW症候群の全例に電気生 理学的検査を行い,危険性が高い症例には副伝導路切 断術を含めて積極的な対処が望ましいという考えがあ る.しかし,電気生理学的検査には前述のような短所 があるため,集団検診で発見された無症状のWPW患 者全例に電気生理学的検査を勤めることは,現時点で は必ずしも得策とはいえない.今後,このような症例 の事後措置のあり方について各方面から十分な検討が 必要である.とりあえずは,発作時に失神や狭心痛が みられる症例には是非とも積極的な検査,治療を推奨 すべきであろう.WPW症候群;E禁以上の卒後追跡 例178例中3例が副伝導路切断術を受けたが,そのうち の1例は,今回の追跡調査をきっかけに切断術を受け たものである.

 洞不全症候群は検査所見の変動幅が大きく,検査の タイミングによっては異常所見をまったく把握できな いことが少なくない16).今回の検討対象例でも在学中 に不整脈死をとげた2例は,いずれも学校心臓検診で 本症と診断された後,地域の医療機関あるいは専門病 院にて異常なしと診断され,学校心臓検診の結果が生 かされなかった症例であった.本症の病態のこのよう な特徴に対する関係者の認識を深める必要がある.

 本症の治療について確立された基準はないが,ペー

スメーカーによる治療については1984年の米国

ACC・joint committeeのガイドラインがある17).今回 の調査例についてみると,在学中および卒後の死亡5 例中2例は失神発作に対してペースメーカー植え込み の必要性が認められながら,ためらって経過観察中に 突然死したものであった.残りの3例中2例も失神に は至らなかったものの,徐脈に伴うショック様症状が みられたものであり,前述のガイドラインに照してみ ると,ペースメーカー治療の適応例であったと考えら

れる.

 なお,若年者の洞不全症候群について家族発症例が 多いという報告16) 8)がみられるが,今回の調査でも卒 後に不整脈死した3例はいずれも家族的要因が強い症

(9)

428−(38)

例であった.

 基礎心疾患を認めないIII度房室ブロックには先天性 のものと後天性のものがあるが,いずれにしても運動 負荷時の心室拍動数の増加が良好で,PVCなどがみら れないものは一般的に予後良好と考えられている.こ れに対して,睡眠中に長い心停止がみられるもの19},運

動負荷でLown分類3度以上のPVCやVTが誘発さ

れるもの2°),などは突然死に至る危険性が高いと報告 されている.

 今回の卒後追跡例についてみると,夜間睡眠中の突 然死が1例あった.この症例が長い心停止による死亡 か,あるいはVTによる死亡かは不明であるが,スト レスと睡眠不足が死亡の遠因であったと考えられる.

 QT延長症候群,特に遺伝性QT延長症候群には突 然死が多いことが知られている21)22).今回の調査例で

も在学中および卒後に1例ずつRomano−Ward症候

群の突然死がみられた.本症による突然死の予防に,

β遮断剤の継続投与あるいは左星状神経節切除術が著 効を奏することが知られている21}22).集団検診で発見 された無症状のものにこれらの治療を勧めても,その 実行はなかなか困難であるが,失神発作の既往がある ものや突然死の家族歴があるものには是非ともこのよ うな治療を行うべきである.

 最後に,在学中および卒後に不整脈死した20例の生 前の受療.管理状況を簡単にまとめておきたい.

 在学中の不整脈死例(表10)の10例中7例は検診後 に専門医を受診し,その指示に従っていたもの,残り の3例は検診の判定を根拠に管理,指導を受けていた ものであった.専門医受診の7例中,要治療と診断さ れ服薬中のものが2例(症例1,3),無投薬で経過観 察中のものが2例(症例2,10)で,他の3例(症例

7〜9)は専門医に治療も運動規制も不必要と診断さ れたが,皮肉にも学校管理下で運動中に急死したもの

である.

 学校心臓検診の判定により管理・指導を受けていた 3例(症例4〜6)の急死例は頻拍発作の既往の認め られないWPWで,従来予後良好と考えられていたも のである.そのうちの1例は学校で体育中に急死した.

 卒後の不整脈例(表9)の10例中4例は卒後も専門 医または地域の中核病院を受診しており,そのうちの

1例(症例9)は服薬中,1例は(症例4)は中止勧 告を無視して参加した団体旅行中,2例(症例6,7)

は人工ペースメーカ植込み適応例と診断されながら,

患者の決心がつかず経過観察中の急死であった.

日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第3号

 卒後,検診も個別診療も受けていなかったものが6 例あり,そのうちの2例(症例3,10)は卒後受診し なくなり,服薬を中止したもの,1例(症例8)は家 族が受診を勧めたが本人が拒否したもの,他の3例(症

例1,2,5)は頻拍発作の既往のないWPWで予後

良好とされていたため,卒後は受診していなかったも のである.

 以上のように,学校心臓検診で臨床上重要な不整脈 が多見されても,その後の対応の不備により不整脈死 をとげたものが少なくない.その改善を促すため,現 行の小児不整脈管理基準に次のような注意事項を盛り 込むことが望まれる.

 1.〔1〕基礎疾患を認めない不整脈という大項目の 前書きの冒頭に「不整脈の多くは出没するのが常であ り,検査のタイミングによっては検出できないことが 少なくない.したがって,臨床上重要な不整脈が疑わ れた場合は,それまでの検査情報等を十分に考慮して,

特に慎重に診断すべきである.」を補足する.

 2.WPW症候群の項目の注意事項の最後に,「な お,頻拍発生率は年長児ほど高くなり,まれに初回発 作による急死例もみられるので,発作の既往がない者 にも発作が出る可能性があることおよび発作時の対応 について説明しておくべきである.」を補足する.

      結  語

 基礎心疾患を認めない不整脈の長期予後に関する調 査結果は要旨で述べたとおりである.今回の調査で判 明した衝撃的な事実は,学校心臓検診で臨床上重要な 不整脈が発見されても,その確定診断の不備や不適切 な管理,治療により不整脈死した症例が少なくなかっ たことである.このような不幸な症例をなくすには,

まず正しい確定診断が不可欠であり,そのためには,

学校,検診機関,専門医療機関の相互信頼と密接な連 繋が必要であることを再認識させられた.また,卒後 は管理,治療が一層不徹底になりがちであり,そのた めに不整脈死した症例も少なくなかった,そのような ことがないように,卒業時に健康相談を行い注意を喚 起しておくべきであろう.

 なお,今回の調査で得た教訓を生かすため,現行の 小児不整脈基準に前述のような注意事項を盛り込むべ

きであると思われる.

      文  献

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(11)

430−(40) 日本小児循環器学会雑誌 第9巻 第3号

Long−Term Follow−up in Patients with Arrhythmia but without Underlying Cardiac Disease

      Mitsuo Kitada1), Setsuko Nakajima1}, Tadashi Nakagawa2),

       Hisakazu Sugimoto2} and Makoto Takeuchi2)

1)Department of Epidemiology and Mass Examination for Cardiovascular Diseases,

      The Center for Adult Diseases, Osaka

        2)Division of Cardiology, Children s Medical Center of Osaka

   Patients with arrhythmia but without any underlying cardiac disease were followed up after their graduation from senior high school until the age of from 20 to 48 years(mean:25.4 years). The data from these patients(6,311patient・years)were compared with the data from patients with arrhythmia who were still in elementary, junior or senior high school(11,256 patient−years). The following results were obtained:

   1.The annual death rate for patients with common types of arrhythmias averaged 1.330roo during the school years and 1.90960 after graduation from senior high school. Both the death rate of arrhythmia patients during school and the rate after graduation were 3−4 times the death rate of the general population for the corresponding ages examined in the corresponding years.

   2.The annual death rate was particularly high for the following types of arrhythmias:sick sinus syndrome(10.530roo during school,15.87%o after graduation), QT prolongation syndrome(6.90%o during school,12.99%o after graduation), ventricular tachycardia(10.20%o during school,0%o after gradua−

tion), and third degree A−V block(OOroo during school,5、75960 after graduation).

   3.In patients with WPW syndrome, the incidence of deaths from the first attack of tachycardia was not as low as had previously been expected. It was 1.01%o during school and O.73%o after graduation.

   4.As long as no underlying cardiac disease is present, the risk of death from premature ventricular contraction appears to be very low even when the grade of this arrhythmia is 30r higher according to Lown s classification.

   5.During school, exercise was the principal factor which precipitated the death of arrhythmia patients. After graduation, this factor decreased its importance because of the decrease in exercise level. The importance of poor physical condition as a remote cause for death from arrhythmia remained unchanged during school and after graduation.

参照

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