第 30 回JHK研修会資料
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絶縁監視装置の基礎知識と課題
目次
1 目的
2 絶縁監視装置の設置目的
3 絶縁監視装置の仕組み
4 新タイプ(LM-100-3G)に関する基礎知識
5 Igr アダプタに関する基礎知識
6 絶縁監視装置に関する質問と考察
7 その他
1)無停電で電圧を取り込む方法について
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1 目的
現在新しい絶縁監視装置に切り替える時期でもあり、この関係での 問い合わせが技術者の方から多くきております。
この問い合わせの内容をベースにその対応策、及び課題について明確 にし、絶縁監視装置に対する疑問点をなくす事を目的とする。
*技術者からの問い合わせ内容については Q で以下記載します。
2 絶縁監視装置の設置目的
1) 電気設備の保守管理に携わる者にとって、低圧電路などの絶縁状態を把握し、
管理していくことは、漏電による感電や火災事故、停電故障など未然に防止す るのに重要な役割となっている。
具体的には低圧回路の漏れ電流は、必ずB種接地線に戻るため、変圧器の B種接地線で漏れ電流を測定し、監視している。
2) 経済産業省告示第249号第4条第8項により、低圧電路の絶縁状態の適確な 監視が可能な装置を有する需要設備の場合、点検頻度を隔月1回以上とするこ とができる。となっている。
3 絶縁監視装置の仕組み
6600V(高圧) 100V(低圧電灯)200V(低圧動力)
Ix キュービクル
開閉器 ブレーカー
(保護装置) iy (漏電、過電流) 負荷
検出1 トランス 検出2 ix+(-iy)= 0
B種接地 Ior Ioc 電力会社 自主保安(電気事業法)
責任分界点
(注)高圧側の絶縁は監視していない。
Ior 抵抗分漏洩電流 絶縁管理で必要な絶縁抵抗劣化が原因となる漏洩電流 Ioc 容量分漏洩電流 ケーブル等の静電容量分による漏洩電流 及び
インバーター機器等による高調波を要因とする 漏洩電流が原因となる。
Io 合成漏洩電流 上記 Ior と Ioc のベクトル合成された漏洩電流
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4 新タイプ(LM-100-3G)に関する基礎知識
1) 旧タイプ(SW150LF)と新タイプの主な相違点
① 旧タイプでは ZCT とサーミスタのコネクタ形状が違っていたが、
新タイプではコネクタ形状が同じ。
② 新タイプでは2バンク分 Ior 測定にも対応しているため、電圧検 出ケーブル接続端子がある。
③ 新タイプではリセットボタンがある。
④ 内部電池の設置場所が変更になった。
2) 新タイプに関する基礎知識
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3) Ior 計測を行う場合の基礎知識
Ior 計測を行う場合、ZCT を接続するコネクタが制限され、Ior 計測 を行うバンクの電圧を取り込む必要がある。
4)Ior測定の基準電圧の取り込み方
Ior測定を行う変圧器が複数ある場合は、基準電圧は下記の とおりIor測定する変圧器の電圧を各々の変圧器から取り込 むこと。同じ電圧だからと1つの変圧器から渡り線で基準電圧 を取り込むと、正しいIor測定が行えません。
○ ×
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5)サーミスタの取付け位置について
① 取付け場所は、変圧器本体の絶縁油面辺りの高さとする。
放熱フィンに取付けても、変圧器本体の温度とはならないため 放熱フィンに取付けないこと。
② 絶縁油面の辺りは、放熱フィンの上部から3~4㎝下辺りになる。
若しくは、放射温度計で測定し、一番温度が高いところとする。
〈モールド変圧器の場合〉
③ モールド変圧器の場合、モールド部分に接近又は接触すると感電 の危険が非常に高いため、B種接地線へのZCTの取り付けは慎 重に行うこと。
④ ZCTの取り付けに当たって変圧器充電部近接作業となる場合は、
年次点検時に取り付けを行い、それまでは毎月点検とすること。
⑤ サーミスタについては、変圧器温度測定のための適切な設置場所 がなく、また法令上も絶縁監視装置での測定義務はないため、取 付は実施しないこととする。
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5 Igr アダプタに関する基礎知識
負荷に高調波を発生・流出させるインバータ等を使用した機器がある場合、
絶縁監視装置で測定している漏れ電流値が影響を受け、真の漏れ電流値
(抵抗成分)より大きい値で測定させる。その結果として、断続的に漏電 警報が発報し、法令に従い点検頻度を毎月点検に変更しなければならない こととなる。また、真の漏れ電流値(抵抗成分)が不明であるため、危険 度が高いかどうかの判定もできない。
絶縁監視装置に Igr アダプタを取り付けることにより、Ior の測定が可能 となります。
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判定基準値 150V以下 0.1MΩ以上 その他の場合 0.2MΩ以上 0.4MΩ以上 300V以下
300Vを超えるもの 電路の使用電圧区分
6 絶縁監視装置に関する質問と考察
Q10 監視装置で50mAを超える警報を受信していますが、Ior 測定にす ると50mA以下に出来ますか?
低圧回路の絶縁状態の的確な監視が出来る条件として、絶縁監視装置が5 分間 継続して漏れ電流が 50mA 以上となった場合、警報を発生する。
A10 Io 測定から Ior 測定にする事で測定値が 50mA 以下に出来るための条件
1)インバータ機器等により漏れ電流値が大きくなっている場合
① 年次点検において、該当バンクの配電用MCCBの全ての回路で 絶縁抵抗値が技術基準を満たしていること。
電技省令 58条
注意:開閉器または過電流遮断器で区切る事の出来る電路ごとに 低圧電路の絶縁抵抗が定められている。
―――技術基準の解釈第 14 条―――
② 該当バンクの低圧負荷にインバータ機器等が接続されていることが 確認できている若しくは機器の稼働状況に応じて絶縁監視装置から 漏電警報が発生、解消することが確認できている。かつ機器の絶縁 抵抗値が技術基準を満たしていること。
2)電路のこう長が長い等静電容量成分が大きくなっている場合
① 年次点検において、当該バンクの配電用MCCBの全ての回路で 絶縁抵抗値が技術基準を満たしていること。
② 明らかに電路のこう長が長いと判断できている若しくは月次点検 及び年次点検において絶縁監視装置のテストボタンによる漏れ電流 の測定結果が常時50mA程度であり、大きな変動がないこと。
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0 10 20 30 40 50 60 70
mA
Io(従来監視状態)
Igrアダプター増設後
Ior 測定で 50mA 以下に出来た事例
クリーニング工場でインバータ制御機器が多くあり、その機器が 稼働している時に絶縁監視装置から 50mA 以上の漏れ電流の警報 が発報していたが Igr アダプタを増設したことで 20mA 以下と なった。
【Igr アダプタ増設前と、後の比較結果】
H レベル(50mA)
工場の勤務時間;8時~17時
誤配線が原因で ZCT にて負荷電流 Ix を検知している例
変圧器 変圧器 T1 T2
N1 L1 L2 N2
負荷機器 誤配線 W2
Ix
負荷機器 WX
Ix 負荷機器 Wx は N1 に接続 負荷機器 すべきが N2 に誤配線した例 W1
ZCT
Ix
I
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『Ior 測定器について』
Ior の値が 50mA 未満になるかどうかの確認には、SANWA 製及びテンパール製 であれば、絶縁監視装置での Ior とほぼ似た値を得る事が出来る。
① SANWA 製(Ior100)
R、T 相の電圧を基準として Io の位相を求め、Io と Ior の関係 から Ior を演算で求めて測定
② テンパール製(RM-1)
R,T 相の電圧位相から Io の位相を求め、逆位相の注入電流を 逆位相の注入電流を流して測定
,
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Q11 設置者に Ior 測定のお奨めの資料はありませんか?
A11 下記、参考にして下さい。
[絶縁監視装置における漏れ電流発報対応について]
1 絶縁監視装置の設置目的について
貴工場には絶縁監視装置がすでに設置されております。
其の目的は、低圧電路などの絶縁状態を把握し、漏電による感電や火災事故、
停電故障などを未然に防止することを目的としております。
また、経済産業省告示第 249 号により、低圧電路の絶縁状態の適確な監視が
可能な装置を有する需要設備の場合、点検頻度を隔月1回以上とする事が出来る。
となっており貴工場は隔月点検としております。
2 貴工場の漏れ電流の警報発報状況について
絶縁監視装置は、漏れ電流値が 50mA 以上を5分間継続した場合、漏れ電流の警報 が発報しますが、貴工場では、ほぼ毎日 50mA 強の漏電警報を受信しております。
3 貴工場の漏れ電流の警報発報の原因について 貴工場の漏電箇所の調査結果下記内容でした。
① 〇月〇日に停電年次点検を実施し、該当バンクの配電用 MCCB の全ての回路で絶縁 抵抗値が技術基準を満たしていることを確認しました。
結論として絶縁の悪い箇所はありませんでした。
②現状の漏れ電流測定方式は Io 方式で。Io=Ioc + Ior となります。
Io 方式は漏れ電流の値をそのまま測定している方式です。
貴工場の Io 値の内容を調査しました結果 Ioc の値である容量分漏洩電流が多く含 まれている(約60%)ことが判明しました。
Ioc とはケーブル等の静電容量分による漏洩電流及びインバータ機器等による 高調波を要因とする漏洩電流となります。
この Ioc 自体は漏電による感電や火災事故、停電故障には関係しないものです。
従って、絶縁管理に必要な絶縁抵抗値は Ior となり、貴工場の Ior 値は 20mA 以下でした。
以上から、貴工場では設備状況が良好にもかかわらず漏れ電流の警報が発報して いる事が判明いたしました。
4 漏れ電流発報対策について
漏れ電流発報に対する対策としては下記が考えられます。
①貴工場のインバータ機器等からの高調波分削減対策を実施する。
(各機器での調査、対策にはかなりの費用が想定されます。)
② 隔月点検から毎月点検へ移行する。
③ Io 測定から Ior 測定に移行する。
以上から③Ior 測定方式を採用することで、貴工場の漏れ電流の警報発報をなくす 方法をお奨めします。
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Q12 自家用電気工作物の点検頻度を隔月点検にすることが可能な事業所で、
変圧器のB種接地工事の接地線に流れる漏洩電流値が50mAを常時 超過していたため、隔月点検にできませんでした。なぜ毎月点検になるの でしょうか?
A12 点検頻度の条件に定めている「経済産業省告示第 249 号」第 4 項第 8 号 に信頼性の高い設備であって、低圧電路の絶縁状態の適確な監視が可 能を有する需要設備であれば隔月 1 回以上と定められており、この条 文には50mAの条件はありません。
しかしながら、「主任技術者制度の解釈及び運用(内規)」4(5)
⑤に警報発生時(警報動作電流(設定の上限値は50mAとする。)
以上の漏洩電流が発生している旨の警報(以下「漏洩警報」という。)
を連続して5分以上受信した場合又は5分未満の漏洩警報を繰り返し 受信した場合をいう。)との記載があるため50mAの基準はここか らきています。
これらを踏まえた上で、漏洩電流が50mAを常時超過している場合は、
絶縁監視装置を設置したとしても漏洩警報 が発生しない状態であるた め、低圧電路の絶縁状態の適確な監視ができず、「経済産業省告示第 249 号」第 4 項第 8 号の条件を満たさなくなるため毎月点検となります。
また、絶縁監視装置を設置したときは漏洩電流値が50mA未満であっ たが、常時50mAを超えるようになった場合は 、前述のとおり点検 頻度を隔月から毎月へ変更しなければなりません
Q13 電波強度が弱いときはどうすれば良いですか?
A13 外部アンテナを接続して下さい。
外部アンテナを使う場合は、絶縁監視装置本体に外部アンテナを接続 するだけではなく、スイッチの変更も必要と なります。外部アンテナ を接続したら、下記のとおりスイッチを正しく設定して下さい。
<注> 現在の通信網はNTTドコモFOMA網であり、これは 2020 年半ば に終了するとの計画があります。
NTTドコモを4G通信対応装置等に変更する事を現在検討中です。
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Q14 キュービクルに漏電火災警報器が設置されている場合がありますが、
絶縁監視装置との違いはなんですか?
A14 漏電火災警報器は、消防法施行令第22条で定められている設置基準に 基づき設置されているものであり、建築物の屋内電気配線に係る火災を 有効に感知することができるように設置されるものです。
漏電火災警報器の点検は、消防法に基づき消防設備士あるいは消防設備 点検資格者が行うこととなっています。そのため、電気主任技術者は漏 電火災警報器に電源が供給されているかをランプで確認し、動作した形 跡がないかを確認するのみでしかできません。なお、動作した形跡があ る場合は漏電箇所について慎重に調査しなければなりません。
漏電火災警報器と絶縁監視装置は設置の基となる法令が異なっているこ とを認識しなければなりません。また、動作にも違いがあり、漏電火災 警報器は設定値の約50%以上の漏れ電流値を検出したら直ちに警報が 発生します。一方、絶縁監視装置は漏れ電流値が50mA以上を5分以 上継続して初めて警報が発生します。そのため、漏電火災警報器が警報 を発するものの絶縁監視装置では漏洩警報が発生しないことがあります。
漏電火災警報器 絶縁監視装置
根拠法令 消防法 電気事業法
警報検出値 設定値の50%以上 50mA以上
警報発生時間 検出後随時 検出後5分以上継続
Q15絶縁監視装置への供給電源として 115V を供給しても問題ありませんか?
A15 本監視装置の電源電圧仕様は AC100V±10%(10VA)であり、
115V>110V となり、仕様外となります。
<参考>電気事業法第 26 条(電圧および周波数)
一般送配電事業者は、その供給する電気の電圧および周波数の値を 経済産業省令で定める値に維持するように努めなければならない。
標準電圧 維持すべき値
100V 101V±6V 200V 202V±20V
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Q16 ZCT は 4m のケーブル付きですが、延長出来ますか?
また、設置方向はありますか?
A16 ①オプションとして、延長ケーブルは 4m を準備しております。
従って、延長は(ZCT 付属 4m ケーブル)+(延長ケーブル 4m)=8m まで可能です。
② ZCT にはⓀとⓁの表示はありますが、一般的にはⓀ→Ⓛの方向に 設置しますが、この装置では絶対値処理なので方向は関係ありませ ん。
Q17 温度センサーの延長は可能ですか?
A17 延長は精度が落ちるので基本的に不可です。
本機の温度センサーは NTC サーミスタです。
「サーミスタとは、温度変化に対して大きな抵抗変化を示す素子」
「NTC サーミスタは温度が上がると抵抗値が下がる」
サーミスタは負の温度特性で銅導線は正の温度特性であるため延長 する場合は精度が落ちます。
<参考>
産業界で最も多く使われている温度センサーに熱電対があります。
「熱電対」は2種類の異なる金属線を先端で接合した温度センサーで 接合した温度センサーで、両端の温度差に応じて発生する微弱な電圧
(熱起電力)を利用しています。
<ゼーベック効果> 熱電対 K(C,A)等 ―――【JISC1602】
※熱電対の延長には熱電対とほぼ同等の熱起電力特性をもっている 補償導線を使用することで可能です。
抵 抗
温 度 負の温度特性
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Q18 動力回路だけが停電した場合は停電警報がきますか?
A18 絶縁監視装置への電源供給 100V が低下したのを監視しており、
電源供給トランス以外での停電は監視していませんので、動力 回路のみの停電は警報が来ません。
因みに供給電源(100V)は 55V 以下で 1 秒以上検知している場合に 停電警報を出します。
Q19 電池の電圧低下のお知らせがくるのは何 V 以下ですか?
A19 3.7V 以下になると電圧低下のお知らせをします。
これは 1 か月に 1 回定期的にチェックしています。
Q20 監視装置でのテストボタンを押した後に受信した漏れ電流値が 毎回同じ数値になりますがその理由は何ですか?
A20 本監視装置の漏電入力範囲の仕様は 20~1000mAとなっており、
20mA以下は仕様外となります。
その時の数値は SW150LF(旧型)では、0 の場合は 0.86mAでその後 1.17 ずつ増える内容です。
従って数値は、下記固定値になります。
0.86→2.03→3.20→4.37→5.54→6.71→7.88
LM-100-3G(新型)は、0 の時は 0mAでその後は 0.1 ずつ増えるよう改善 されています。
<注> 絶縁監視装置本体には演算エラーを示す LED 表示はありません。
ZCTの不具合時は 0.86 と表示されますので注意が必要です。
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Q21 監視装置のテストボタンは点検開始後いつ押すべきですか?
A21 テストボタンを押す時間は特に限定しておりませんが、電波状況等で 受信に時間を要する場合がありますので点検開始時に押すのが合理的 です。
<注> 停電での年次点検開始前には必ずテストボタンを押すよう 徹底願います。
Q22 入出力端子の使用は出来ますか?
A22イベント入力8点デジタル出力4点が標準ですが、基本的に使用不可で す。
入力回路
<注> SW150LF(旧型)は VCC=5V
LM-100-3G(新型)は VCC=8.5V です。
VCC
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7 その他
1)無停電で電圧を取り込む方法について
1)電線接続器 HLP について
Ior の計測で電圧を取り込む際、停電しないと不可能な場合が 多くあります。この場合、電線接続器 HLP を使用する事で、
無停電で電圧を取り込む事が可能となります。
以下、その内容について説明します。
<取扱方法>
① キャッチャーとボックスを分離します。
② ロックリングとハンドルを緩めて通電軸を上げ、キャッチャー部分 を電圧取得線にあてがい、ボックスを固定します。
③ ハンドルを回し通電軸を電圧取得線にねじ込みます。
<取り付けた状態>
2)HLP 保護内容(ヒューズ)
電 源 ブレーカ
(20A)
HLP ヒューズ
(1.5A)
絶縁監視装置 ヒューズ(1A)
10VA 以内