第 5 章
教育相談事例
学校において個別の教育相談の充実を図るためには,教師がカウンセリングマインドをもって 児童生徒にかかわり,多面的・客観的な児童生徒理解を行うことが大事である。その上で,当該 児童生徒に対する指導・援助の方針を決定し,具体的援助を推進していく必要がある。また,そ の効果をより一層高めていくためにも保護者や関係機関との連携が欠かせない。
このような児童生徒理解や援助方針の決定と具体的援助,家庭・相談機関等との連携などが詳 しく示された事例を次に紹介する。
事例1「ソーシャルスキルの獲得で対人不安を軽減したA男 (小学5年生)」
事例2「関係機関との行動連携による対応で心の安定を取り戻したB子 (中学1年生)」 事例3「いじめへの早期対応で保健室登校を経て教室復帰したC子 (高校2年生)」
* 各事例については,個人情報保護の観点から個人が特定されないように配慮してある。
事例1「ソーシャルスキルの獲得で対人不安を軽減したA男 (小学5年生)」
おとなしく,自分の思っていることをはっきり言えないA男は,いつも友達の言うままに行動する ことが多かった。2学期から月曜日に学校を休むようになり,10月からほとんど登校しなくなった。
これまでも何度か学校を休むことはあったが,長期にわたり休むのは初めてだった。
A男と保護者は,担任の紹介で11月から当センターに来所を始めた。A男は,相談場面でもほとん ど言語的なコミュニケーションができなかったが,ソーシャルスキルを身に付けることができるよう に支援したことで,対人関係の取り方やそれに伴う不安を軽減することができるようになった。
担任は,本人との関係が途切れないように,初めは1週間に1回の割合で家庭訪問をして,話し相 手になった。やがて,1週間に2〜3回家庭訪問をしたり,放課後の学校に誘ったりして,学習の補 充指導も行った。新学年度から再登校ができるように,春休みも友達と一緒に活動できる場を設定し た。A男は6年生になって不安を感じながらも,ほとんど休まず登校するようになった。
児童理解 指導・援助の方針
A男は,学級内のリーダー的存在の児童 ※(セ)は当センター (学)は学校 (家), , をとても気にしており,自分の意見をはっ は家庭での支援・助言を示す。
きり言えないことを残念だと思っていた。 1 担当者との信頼関係を深めることで,対 在籍校で対人関係を改善できない自分自身 人不安を和らげる (セ)。
にいらだちを募らせ,現状打開のためには 2 基本的なソーシャルスキルを習得できる 転校しかないと考えていた。両親もA男の ようにする (セ)。
気持ちを受容し,場合によっては転校も考 3 定期的に担任が家庭訪問をしたり,学校 えた方がいいのかと迷っている状況であっ への誘い出しを行ったりして,教師や学校
た。 に対する不安を軽減する (学)。
A男は,家では大きな声で話したり,家 4 将来の夢をはぐくむために,自分のよさ 事の手伝いをしたり,弟と一緒にゲームを に気付かせる活動を行う。学級への誘い掛 したりすることができた。歌を歌うことが けをする (学)。
大好きで,テレビの歌番組を観て弟と一緒 5 地域の子ども会活動や行事に積極的に参 に歌ったりすることが多いようであった。 加するように促し,異年齢集団での体験活 スポーツにはそれほど自信をもっておら 動を通して,人とかかわることの楽しさに ず 地域の行事等に誘われると参加するが, , 気付かせる (家)。
自ら友達を誘って一緒に運動することは少 ないようであった。
〈指導・援助の経過〉 〈ポイント〉
① 不登校に限らず当センターに来所する児 1 児童理解
A男は,不登校の原因を自ら語ることはほと 童生徒は,言語的なコミュニケーションが んどなかった。学校生活等の状況から保護者が 十分にできないこともあり,情報収集の方 推測した理由が,対人関係上のトラブルではな 法を工夫する必要がある。
*エゴグラム いかということであった。
当センターへの初めての来所時も担当者との 交流分析理論に基づいて開発された性格
。 , ,
会話はほとんどできなかった。担当者は,A男 テストの一種 交流分析では 人の性格は にうなずいたり首を横に振ったりして,質問に これまでにかかわりのあった様々な人の影 答えてもよいことを伝えて,質問をした。 響を受けており,親や養育者から取り入れ その中で同級生とうまくいかないこと,学校 た自我状態(CP,NP ,事実に基づき) には行きたくないこと,転校したいと思ってい 物事を客観的かつ論理的に理解し,判断し ることなどが確認できた。より詳しい内容を把 ようとする自我状態(A ,子どもの頃に) 握していくために,今後の相談で エゴグラムや* 実際に感じたり,行動したりした自我状態 SCTなどを実施することが必要であると考え (FC,AC)に分けて性格を分析する。
*
( 。)
た。 研究紀要第92号で詳しく紹介している
*SCT(文章完成テスト)
短い刺激語の後に自分の思っていること 2 かかわりの視点の明確化
エゴグラムを実施した結果,CP(厳格性 ,) を続けて書いていくもので,文章の中に投 A(客観性)がやや低い傾向,AC(順応性) 影された本人の悩みや不安,願望,気持ち が高い傾向にあり,自分の意見を言うよりも他 などを分析する。
の意見に従うことが多いことが予想された。
SCTでも,自分がおとなしいこと,友達か ② 不登校の児童生徒の多くが対人関係の課 ら頼み事をされること,頼まれた事が嫌でもそ 題を抱えている。いじめを受けたり,仲の れを断れないことなどが回答してあり,対人的 良かった友達とけんかをしたりして思って なかかわり方に課題を抱えていることが分かっ いることを言えずに不満が募っていること
た。 がある。対人関係の改善を図るスキルを身
そこで,来所時の活動に ソーシャルスキルト* に付けることによって対人関係上の自己効 レーニングを取り入れ,友達から誘われたり, 力感を高めることにつながる。
*ソーシャルスキルトレーニング 頼まれたりしたときにどのように答えたらいい
のか具体的な ロールプレイングを通して学ばせ* 対人関係を円滑に進める上で必要となる ることが必要であると考えた。 社会的なスキルを意図的,計画的に学習で
また,運動が苦手なA男でも,気軽に取り組 きるようにしたものである。
*ロールプレイング むことができる運動として卓球を取り入れてい
くことにした。 役割演技を通して演じた役割の気持ちを
理解したり,スキルを修得したりするため のカウンセリングの技法の一つである。
3 ソーシャルスキルトレーニングの実際
A男は,担当者との相談場面では,自ら声を ③ ソーシャルスキルトレーニングでは,モ 出して話すことが少なかったので,ロールプレ デルの示す言動が学習者に大きな影響を与 イングでも声を出して役割を演じることができ える。したがって,モデル役は事前にどの るか気掛かりであった。しかし,予想外に積極 ようなことに気を付けて演じればよいか,
的なロールプレイングが見られた。 演じる際のポイントをしっかり把握してお 担当者が,最初にモデルを示し,どのような く必要がある。
話し方をすると相手にしっかり自分の気持ちを 指導者は,モデルの演技の中で,体の向 伝え,しかも相手へも配慮した答え方になるか きや視線,声の大きさ,表情などの態度面 を学習した。その後,A男自身がモデルの示し のポイントや会話の中での気持ちの伝え方 た答え方をまねた。何度か繰り返すうちに声の のポイントなどを具体的に示すことが大事 大きさや内容も明確になった。 である。
「 」, 「 」
ロールプレイングの場面設定を 遊びに誘う モデルを見て 自分もやればできそうだ
「誘いを断る」,「頼み事をする」,「頼まれ事を という自己効力感を高め,自分たちで実際 断る」など様々なパターンで行った。場所も相 に演じてみて,よかったところを相互に認 談室内だけの活動にとどまらず,プレイルーム め合うことで実践意欲を高めていくことが や屋外でも実施したり,担当者以外の所員等と できる。
も行ったりして様々な場面で応用できるように した。
卓球は,ある程度ラリーを続けられるように なってからスマッシュの練習を取り入れた。ス マッシュが入るたびに笑顔が見え始め,ゲーム もできるようになった。そのころから,家族で も休日に体育館で卓球をするようになり,家族 の中で一番上手になったことを自分からうれし そうに話すようになった。
④ 不登校の児童生徒へのかかわりで特に保 護者等が不満をもちやすいのが,学校との 4 担任のかかわり
担任は1週間に2〜3回程度家庭訪問をして 連携が十分に図られないことである。学級 A男と直接話をしたり,学習指導をしたりして 通信や学校便りなどの配布物が届かなかっ いた。A男も担任の訪問を心待ちにしている様 たり,PTA等の行事案内がなかったり,
子であった。担任は,地域のドッジボール大会 電話や家庭訪問などがなかったりすると,
に学級全員で出場して友達関係の改善の機会に 児童生徒本人や保護者の学校や担任に対す したいと考え,A男と比較的仲の良い子を通し る信頼を損なってしまうことになる。
て参加を促したが,A男はまだ参加できる状況 A男の場合は,担任がA男や保護者の状 にないことを担任に伝えた。 況を把握し,家庭訪問というニーズにしっ このことから,無理に友達と活動させること かり対応していることが大事な点である。
は時期的に早いと考えた担任は,しばらくは担 この際,訪問の頻度等はそれぞれのケース 任中心のかかわりが必要と判断し,放課後の学 によって異なると思われるが,仮に児童生
, 校へA男を誘った。A男は戸惑いを見せながら 徒と会えなくても保護者とだけは会ったり も,同級生のいない学校へ行くことができた。 話をしたりして情報交換を綿密に行うこと それ以後,放課後の教室で数回学習指導を受け が大事である。
ることができた。担任の誠実な取組はA男や保
, 護者の信頼を厚くした。 ⑤ 相談機関等に保護者が相談に行った場合
保護者自身が相談機関等での助言を学校に 伝えることで学校と保護者の相互の連携が 5 学校と当センターの連携
保護者には当センターでの活動等を学校にも 図られ,児童生徒の問題等の改善に効果を 伝えてほしいこと,必要に応じて直接学校から 発揮することが多い。また,保護者の了解 も教育センターに連絡をとることができること を得て,学校と相談機関がプライバシーに を説明し,理解を得た。 配慮しながら直接連携し,児童生徒へのよ 3月に入って校長は当センターを直接訪問し, り適切な対応ができるようにすることも大 当センターにおけるこれまでのA男の状況等に 事である。
ついて確認するとともに,今後の学校の対応方 保護者が,相談機関等に行くことに抵抗 針を説明した。担当者は,A男や保護者のニー がある場合は,学校関係者が相談機関等に ズを十分踏まえた上で,4月からの担任への配 来所または電話による相談をすることも可 慮,学級での人間関係づくりやソーシャルスキ 能である。本事例では,学校と当センター ルトレーニングなどの計画的な実施等が大事で の適切な連携によって,A男の状況に応じ あることを助言した。 た実践が不登校の改善につながったと考え
られる。
A男の変容
1 対人関係上の課題解決の方法として,ソーシャルスキルトレーニングのロールプレイングを 通して自分の思っていることをはっきりと伝えることができるようになった。
2 担任の家庭訪問での指導,放課後の学校での指導などをしっかりと受けることができるよう になった。
3 卓球の技能が向上しただけではなく,休日には家族で卓球を楽しんだりするようになった。
その後の対応
1 担任は,春休み中の対応の重要性を感じ,比較的仲の良い友達にA男を誘って学校に来るよ うに促した。
2 学校は新学年もこれまでの担任がかかわれるように配慮し,学校行事,学級活動など様々な 活動を通して人間関係づくり等の活動を計画的に行った。
3 5月の修学旅行でA男が積極的に活動できるようにグループ編成等の配慮をした。
事例2「関係機関等との行動連携による対応で心の安定を取り戻したB子 (中学1年生)」
B子は,小学6年生の2学期から,友人関係のトラブルをきっかけに登校渋りが見られるようにな り,遅刻や欠席が多くなった。さらに,中学1年生の5月ごろから不登校状態になったため,母親が 学校に相談し,担任がその対応に向け当センターとの連携を開始した。
その後,6月に父親に夜間徘徊のことで注意を受けたB子が家を飛び出し,翌日になっても帰って 来なかったため,母親は担任に連絡するとともに警察に捜索願を出した。このことを受け,学校から 報告を受けた町教育委員会は,教育事務所に報告して助言を受けるとともに,一刻も早い保護に向け 警察と連携を図った。
翌々日の朝,B子は,隣町のコンビニエンスストア駐車場で警察に無事保護された。このことを受 け学校からの要請で,学校,町教育委員会,児童委員(民生委員 ,警察の関係者が集まって今後の) 対応についての協議を行い,B子及び家庭への支援計画を立てた。また,保護者は警察から今回のB 子のケースにおける危険性や家出により派生する様々な事件や事故についての説明を受けた。
その後,町教育委員会は,児童委員と連携し,B子の両親に働き掛け,B子の心の安定に向けての 助言を行った。また,B子と母親は,学校の勧めで7月から当センターに来所を始めた。相談を継続 するうちに,B子に対する母親のかかわり方や家庭環境にも改善が見られ,B子は心の安定を取り戻 し,9月から保健室登校ができるようになった。
生徒理解 指導・援助の方針
B子は,友達が多く社交的なところがあっ ※(セ)は当センター (学)は学校 (警), ,
,( ) ( ),( ) たが,小学6年生時の友人関係のトラブルを は警察 児 は児童委員 民生委員 町 きっかけに自信を失い,学校への忌避感情を は町教育委員会の支援・助言を示す。
もつようになったのではないかと思われる。 1 カウンセリングによりB子の情緒を安定さ また,B子は,両親と過ごす時間が少なく せ,保護者への助言を行うとともに,B子の 愛情不足の中で寂しさを募らせたり,妹への 状態に応じたかかわり方について,コンサル 母親の寛大な態度から妹だけに母親の愛情が テーションを行っている (セ)。
向けられているように感じたりして,日常的 2 学校の要請を受けて警察や児童委員などと にストレスを蓄積していたと思われる。 サポートチームを組織し,連絡・調整を図り このような心理的に不安定な状態の中で, ながら,行政側からB子と保護者への指導・
母親に自分のことを認めてほしい,振り向い 援助をする (町)。
てほしいという思い,また,今の自分は自ら 3 主として保護者に働き掛け,家庭環境の改 望んでいる自分ではないという思いから不登 善に向けて援助する (児)。
校になったととらえられる。しかも,不登校 4 B子の状況に応じて,学校及び町教委と連
, 。( )
となった自分が母親から日常的に責められる 携し 事故の未然防止に向け支援する 警 という状況の中で,次第に追い詰められ,母 5 各関係機関と連携しながら,B子の再登校 親に対しても反抗的な態度をとるようにな に向けたかかわりを継続する (学)。
り,偶発的な父親の叱責を機に,家庭からの 6 養護教諭を窓口に,居場所を確保し、校内 逃避行動に至ったと考えられる。 サポートチームを組織して対応策を検討し,
学級への誘い掛けをする (学)。
〈指導・援助の経過〉 〈ポイント〉
① 当センターは,悩みを抱える児童生徒 1 学校と当センターの行動連携
当初,当センターの担当者は,学校の要請にこ や保護者から相談を受けるだけでなく,
たえ,担任や養護教諭へのコンサルテーションを 様々なケースに直面している学校に対し 行った。また,B子が来所するようになってから てコンサルテーションも行っている。
は,保護者に了解を得て,担当者と担任が連絡を 学校からの相談要請により来所相談が 取り 当センターでの様子や 家庭訪問での様子, , , 始まった事例であっても,基本的には当 B子の心の状態についての情報を交換した。 該児童生徒や保護者が,当センターでの また,母親を中心とした家庭への働き掛けも望 活動や支援内容などについて,学校に直 ましい方向で進み,B子は心の安定を取り戻し, 接話すように促している。事例によって
, ,
2学期からの保健室登校へとつながっていった。 は 児童生徒や保護者の了解を得た上で 当センターが学校と連携を図ることもあ る。
2 B子との信頼関係づくり
友人関係のトラブル及び家庭での親子関係によ
る人間関係への自信喪失という経過を配慮して, ② 不登校になっている児童生徒は,人目 当センターでは,担当者とB子が十分信頼関係で を極端に気にしたり,人と会うことにス 結ばれるよう以下のように配慮した。 トレスを感じたりするなど,対人関係に プレイルームでの活動には,B子自身あまり関 自信を失っていることが多い。そこで,
心を示さなかったが,気軽に取り組める卓球を提 あいさつを交わしたり,質問に答えたり 案して活動を開始した。最初は,動きもぎこちな するような対人場面での成功体験を通し く表情も硬かったが,次第に打ち解け,ラリーが て,自己効力感を実感できるようにさせ 続くようになると,うまく打てたときの喜びやラ ることが大切である。
リーが中断したときの悔しさを表情に表すように B子についても,担当者との活動を通 なってきた。その後,ラリーの回数に目標をもた して,相互の信頼関係が築けたという成 せ,互いに協力して打ち合う中で,自然と信頼関 功体験で対人関係における自己効力感を 係の芽が形づくられていった。 実感させることができた。
3 母親への助言
当センターでは,母親にも個別に面談を行い,
助言を行った。母親は,父親への不満,自らの仕
事の辛さなど 苦しい胸の内を語っているうちに, , ③ 児童生徒の不登校を頭では理解してい 心も次第に整理され,B子の今置かれている状況 ても,それを受け入れられない保護者は や心情へと目が向くようになってきた。そのこと 多い。そのため,登校を強要したり,厳 を共感的に受け入れながら,今後どのようにB子 しく叱責したりすることで,ますます親 と家庭で接し,支えていけばよいのかを考えるよ 子関係が崩れることもある。
う促した。 また,保護者は,学校からの登校に向
その後,母親は夜勤中心の仕事から昼間の仕事 けた家庭へのアプローチや地域の目など に転職し,学校から帰宅したB子を「お帰りなさ から,大きなストレスを感じていること い 」と迎えられるようになった。。 が多く,子どものことを自分自身のスト レスとして抱え込み,処理しきれないで いる場合もある。B子の母親も担当者が 4 母親との関係の改善
B子は担当者との信頼関係が深まってくると, カウンセリングを行うことにより,よう 徐々に,両親に対する不満を漏らし始めた。母親 やくB子の内面に目を向け始め,落ち着 に対しては 「お母さんは,いつもがみがみ怒っ, きを取り戻していった。
ているばかりで私の気持ちなんか何も分かってく
れない」,「妹には,いつも優しくて家の仕事も ④ 第三者が,児童生徒の親に対する不満 私だけに押しつける」など,これまで言えなかっ をありのままに聴くことで,児童生徒は たことを言い始めた また 父親に対しても。 , ,「私 冷静に親子関係を見つめられる場合があ がこんなに苦しんでいるのに,何も助けてくれな る。
い」,「その時の気分で態度が変わるし,信頼で 本ケースでは,担当者がB子の話を否 きない」などと話し,家庭での孤立感を訴えた。 定せずに受け入れながら聴くことで,B 担当者は,B子の思いを共感的態度で聴き,感 子も感情を吐露させ,ストレスの発散を 情をすべて出させるとともに,家族との楽しかっ 促すことができたと考えられる。
た思い出を想起させるように促した。B子は,次 このような過程の中で,B子が心理的 第に家族とのプラスイメージを膨らませ,母親の に安定したことが,この後の母親との関 苦しみにも目を向け始めた。 係改善につながっていった。ただし,こ のような心理的安定が,すぐに児童生徒 の再登校へとつながるわけではないこと を十分理解しておくことが大事である。
⑤ 不登校の状況は様々であり,学校だけ 5 その他の関係機関等との行動連携
(1) 市町村教育委員会の役割 では対応できない場合や関係機関等と連 各関係機関が行動連携を行う場合には,それ 携が必要な場合も多い。
ぞれの役割分担や情報交換の在り方についての その際,関係機関等の業務内容,連携 共通理解が必要である。しかし,行動連携の必 方法などを校長,教頭,担任などが理解 要性を認識していても,実際には動きにくいと していることが重要である。ただし,B いう現状がある。 子のケースにおいては,学校の要請に応 今回のケースは学校の要請により,市町村教 じ,町教育委員会がコーディネーター役 育委員会がコーディネーターとして,積極的に としてサポート体制を整えていた。した 警察をはじめとする各関係機関に働き掛け,サ たがって,学校と行政の日ごろからの連 ポート体制を整えたことで早期対応ができた。 携が,危機管理の上から重要な意味をも
(2) 児童委員との連携 つといえる。
児童委員は,地域とのつながりが強く,家庭 ⑥ 学校が,関係機関等と連携する場合,
へのかかわりにおいて,学校とは違った方向か 児童生徒の現在の状況や環境,対応の経 らの支援を期待できる。また,児童委員は公民 過などを具体的に把握し,適切なアセス 館長,PTA会長,市町村福祉行政関係とのつ メント(見立て)が必要である。このア ながりもあるため,状況に応じた行動連携も期 セスメントに基づいた具体的な対応方法 待できる。今回のケースでは,児童委員が日ご により,児童生徒や保護者に対するより ろから家庭訪問するなど信頼関係を築いていた 適切な支援が可能となる。
ため,父親に対して有効な支援を行うことがで ⑦ 行動連携の中で,学校は関係機関等に きた。また,母親の転職に際しても,相談役と 一方的に依存せず,常に情報交換をしな して支援を行った。 がら,関係機関と一緒になって児童生徒 (3) 警察との連携 や保護者を支援する必要がある。
児童生徒が,家出等の問題行動を起こした場 ⑧ 関係機関等との行動連携が機動的・実 合 警察の協力を得ることは非常に大切である, 。 効的に機能するためには,サポートチー 今回のケースについても,B子を保護した際 ムが,日ごろから児童生徒の健全育成や のかかわりによる効果は大きく,また保護者へ 不登校の状況について,緊密な情報交換 の対応も適切であり,今後のB子への支援につ や連携・交流を積極的に行っていること いても大きな役割を担っている。また,警察に が大事である。
は少年サポートセンターが設置されており,気 また,その日常的なつながりや交流が 軽に青少年の非行等の問題を相談できるので, 地域のネットワークとなる。児童生徒の 学校の重要な連携機関となっている。 育ちを社会全体の問題としてとらえ,そ れぞれの機関が自らの役割を果たしつつ 一体となって取り組む「行動連携」が必 要である。
B子の変容
1 最初の来所では,帰る時に母親を残し,自分だけ先を歩いていく様子が見られたが,来所回 数を重ねるにしたがって,母親を待ち二人肩を並べて帰るようになった。
2 来所も終わりの段階に近づくと,面接の際の話題が,次第に家庭から学校へと移り,意識が 学校に向き出した。
3 母親が,車で学校に送ることで,保健室登校を始めることができた。教室での学習は,まだ できなかったが,学校行事には,養護教諭に付き添われながら参加できるようになった。
その後の対応
1 B子への対応については,全職員の共通理解を継続的にもち,校内支援体制を整えた。
2 保健室登校については,当センターの担当者と担任及び養護教諭が連携し,B子の状態と学 級の状態を確認しながら,教室復帰に向けての適切な時期について十分検討した。
3 保健室では,他の生徒が入室するとB子が気を使うことがあったため,保健室以外のB子の 居場所について,校内の空いたスペースを探し,環境を整えて対応した。
4 当センターは,継続的に母親との電話相談を行うとともに,父親との来所相談も行った。
事例3「いじめへの早期対応で保健室登校を経て教室復帰したC子 (高校2年生)」
成績が良く,部活動や生徒会活動など,何事にも頑張り屋のC子は,高校入学後から2年生の9月 までは,友達グループの3人と仲良く過ごしていた。
10月下旬の文化祭のころから元気を無くしたC子は,11月になり学校を休むようになった。担任が 家庭訪問や電話連絡を通して,C子の休みの理由を確認したところ,友達から無視されたり,悪口を 言われたりして学校に行くことが辛い状況であることが分かった。そこで,担任はC子を含め関係者 を一堂に集めて事実関係を確認して指導したが,その後もC子は欠席を続けた。
担任は,現状打開のために当センターでの相談を母親に勧めた。本人と母親は,来所相談を数回継 続するうちに 心の内を担当の相談員に少しずつ話すようになった C子は 文化祭の準備の際, 。 , ,「自 分がしっかりやらねば 」という思いが強すぎ,クラスメイトに練習や準備をもっと真剣にするよう。 に言い過ぎてしまった。友達は,C子に反感をもつようになり,それ以降,学校の休み時間や昼食時 間にC子を避けたり,無視したりするようになった。時には,友達から「いい子ぶりっ子」,「バカ」
などの言葉によるいじめを受けるようになった。
また,C子は,病気がちな母親の代わりに家事を手伝い,勉強と家事で疲れ気味だった。
このことから,家庭と学校(担任,養護教諭 ,当センターが連携を図りながら,C子への支援,) いじめ解消のための取組を進めた。その結果,3週間の欠席,約1か月間の保健室登校を経て教室で 授業が受けられるようになった。
生徒理解 指導・援助の方針
C子は,活発で,成績も良く,課題等も ※(セ)は当センター (学)は学校 (家), , 提出期限をきちんと守る学習意欲のある生 は家庭の支援・助言を示す。
徒であった。また,学校行事や生徒会活動 1 C子の内面の理解を深めるため,自由に何 などでもリーダーシップを発揮するなど, でも話せる関係づくりが必要と考え,受容・
教師からの信頼も厚かった。将来は,デザ 共感的なかかわりに努めた (セ)。
イン関係の仕事に就きたいという目標を立 2 C子の不安やストレス軽減のためには家庭 てていた。C子は,強い自尊感情や責任感 との協力が必要であった。そのため,母親の をもっている反面,友達の自分に対する言 C子への言葉掛けやかかわり方などについて 葉や自分への評価などに敏感に反応したり, 具体的に母親にアドバイスした (セ)。 非難されると感情的に反論したりする一面 3 母親のC子への優しい言葉掛けや弟の協力
も見られた。 などにより,家庭内でC子の心理的,肉体的
C子は,だれとでも話はするが,3人の 負担が軽減されるよう努めた (家)。
友達以外には深くつきあう友達がいなかっ 4 学級への復帰のための保健室の利用及び養 た。そのため,3人の友達から無視される 護教諭のかかわり方などについて,職員に説 ようになったC子は,自尊心を深く傷つけ 明を行い,C子への支援について共通理解を られ,人を信じることができなくなってし 図った (学)。
まったと考えられる。 5 いじめにかかわっていた生徒への指導,ま さらに,病気がちの母親には 「心配を, た,学級内の他の生徒に対してもいじめにつ させたくない」と無理をしてでも家事をき いて考えさせた。また,C子を受け入れる環 ちんとこなすことに努め,学校では 「弱, 境整備といじめの根絶に向けて,学級では構 い自分を知られたくない」との思いから, 成的グループエンカウンター等を取り入れた 担任にも悩みを打ち明けることができず, 人間関係づくりの取組を行った (学)。 不登校になってしまったと思われる。
〈指導・援助の経過〉 〈ポイント〉
① いじめによる不登校に限らず,課題を抱 1 信頼関係の確立
担任からの相談依頼を受けた当センターの担 えた児童生徒を支援していくには,その課 当者は,友達からのいじめにより,自信をなく 題に対する正しい事実や本人の考え,認識 している経過を配慮し,C子との十分な信頼関 を明らかにすることが必要である。そのた 係を築く努力をした。 めには,まず相談者との信頼関係を築くこ 面談の最初の段階で友達からのいじめの内容 とが大切である。その信頼関係の中で,自 を聞くことはせず,小学校時代の自分,中学校 分の素直な気持ちを正直に語れるようにな 時代の自分を振り返らせることで,話しやすい る。
雰囲気づくりを心掛けた。C子は,担当者との ここでは,C子の小学校時,中学校時の 信頼関係が深まるにつれ,次第に本音を語るよ 話を受容的,共感的に受け入れることで,
うになった。クラスの中で無視し続けられたこ 来所相談に対する不安や抵抗の軽減を図っ とや陰口を聞く度に,耐えられない寂しさ,悔 ている。
しさを感じ,この現実が受け入れられなかった
ことを話した。 ② いじめの指導においては,早期解決を図 また,学校での指導の中でいじめた友達と一 るために様々な取組が行われるが,いじめ 緒に指導されたことで,自分の本当の気持ちを を受けている児童生徒といじめている児童 話せなかったこと,表面的に和解した形で指導 生徒を一堂に集めて,その場で和解を図る が終了したために,先生が見ていない場面でい ような指導が行われがちである。
, ,
じめが続いたことなどを素直に話した。 しかし いじめを受けている児童生徒は さらに,学校から疲れて帰って家事や勉強を いじめている児童生徒がいる場面では本当 するのは辛いことが多いと感じたが,病気がち のことを言えず,真相を解明できないこと の母親に心の内を話すことができなかったこと が多い。また,そのことによっていじめが
も話した。 エスカレートする場合もあるため,多面的
に事実を確認し,内容に矛盾がないかを慎 重に検討することが大事である。
2 学校と当センター,職員間の連携
(1) 学校との連携 ③ 相談の内容によっては,学校と連携を図 1回目の来所相談を終えた後,母親は担任 りながら対応しなければならない事例が多 に相談の内容や経過等を連絡した。 い。相談内容の守秘義務もあるが,本事例 当センターは,母親やC子から学校への連 では,いじめの早期解決のために,保護者 絡の許可を得ていたため,学校に連絡し,C に了解を得た上で,当センターと学校が連 子の心の状態,いじめの実態などを伝え,い 携して対応することにした。
じめを繰り返す友達への対応,養護教諭のか かわり方などについて助言した。
(2) 担任のかかわり
担任は,C子へのいじめに中心的に関係した
3人から別々に事情を聞いた。担任は,いじめ ④ 本事例では,いじめに中心的に関係した を絶対に許さないという毅然とした態度と同時 3人だけでなく,観衆や傍観者となってい に,いじめをするようになった背景についても た周囲の女子生徒や男子生徒についてもい じっくりと聴く姿勢で臨んだ。 じめについての認識の改善を図っている点
D子は,以前からC子の態度に不満をもって が重要である。
いたが,C子のそつのない行動になかなか不満 「いじめ対策必携 (鹿児島県教育委員」 を言うことができず,これまでずっと我慢して 会)には,いじめた児童生徒や保護者,い いたと話した。ただ,文化祭の準備期間中にみ じめられた児童生徒や保護者への対応など んなには準備や練習をしっかりするように言っ が詳しく示してあるので,参考にして対応 ていたC子本人が,用事で早く帰ったことに納 することが大事である。
得せず,E子,F子らとC子の悪口を言い始め たとのことだった。
E子,F子は,D子の気持ちがよく分かり,
最初のうちはC子をかわいそうだと思ったが,
やがて,C子の身勝手さを非難するようになっ C子 た。そして,無視や悪口を言うとそれを気にし 無視 言葉の
てC子が不安そうにする姿を見ることが楽しく いじめ
なりいじめを続けたと正直に話した。これらの E子 D子 F子 ことを受け,まずはクラスの女子生徒全員の個
別相談を行い,いじめへの認識やC子の苦しみ 他の生徒 や悩みへの理解を求めた。
図40 本事例における人間関係相関図 D子,E子,F子は,C子の悩みや家庭の状
況(家事手伝い等)を初めて聞き,驚きと反省
の言葉を次第に出すようになった。 ⑤ 養護教諭は,これまでも保健委員である C子の相談に乗ったことがあり,C子の苦 (3) 担任との連携を生かした養護教諭のかかわり しい胸の内を共感的に理解することができ C子はやがて保健室登校ができるようになっ る存在であった。その関係性を生かして,
た。C子は,養護教諭にこれまでの経過や自分 対応の初期においては養護教諭がキーパー の心の内を素直に話した。養護教諭は,担任と ソンとなった。そして,担任,教育相談係 連携を図り,相互に情報交換をしてC子の理解 などと相談しながら保健室でのC子への対 を深めるようにした。そして,C子が保健室で 応を進めたことが,よい結果につながって 安心して過ごせるようにC子の思いを共感的に いる。サポートチームで活動する意味を共 受け入れた。また,落ち着きや意欲が現れ始め 通理解し,当面誰が対応の中心であるべき た後半は,担任と協力して友達との接し方や言 か,事例に応じて柔軟に対応することが大 葉の掛け方,交流の在り方などについて,C子 事である。
のソーシャルスキルを高める支援を行った。
⑥ C子の母親が,子どもの悩みに気付かな かった自分自身を責めているように,児童 3 母親への協力依頼
母親との面談の中でC子の思いを母親に伝え 生徒の不登校や問題行動の原因を自分の子 た。母親は,これまで接してきた中で,C子が 育ての失敗であると感じる保護者は多い。
これほど肉体的,精神的に疲れていたことに気 したがって,保護者の苦しい状況を理解 が付かなかったこと,また,その余裕がなかっ して共感的に受け止めることは,保護者と たことを反省し,涙を流しながら悔やんだ。 の連携を図るための第一歩である。保護者 担当者は,母親の苦しい状況等を理解し,共 を支援することで,保護者の子どもへのか 感的に受け止めながら,今後のC子との接し方 かわり方の変容を促し,ひいては児童生徒 で,優しい言葉掛けやあまり無理をさせないこ の変容につながっていくことも多い。
と,学校と十分連携しながらかかわっていくこ 学校と保護者が十分に連携を図りながら となどをアドバイスした。 対応するためには,まず,学校での生活の 様子を保護者に丁寧に連絡することが大事 である。そうすることで,保護者からも家 庭での生活の状況等をこまめに学校に報告 してもらえるようになり,効果的な連携が できるようになる。
C子の変容
1 学校を休んでいる間は,生活のリズムを崩さないよう注意しながら,体を休めることを目標 に家でゆっくりと過ごすことで,学校への意欲も出始め,3週間後には保健室への登校ができ るようになった。
2 保健室登校の間,養護教諭のかかわりや教師の声掛け,友達との交流の回復などにより徐々 に元気が出始め,表情にも明るさが戻ってきた。この様なかかわりを続け保健室登校1か月で 教室に戻ることができた。
3 教室に戻った後は,友達とも以前と変わりなく過ごすことができた。
その後の対応
1 C子の学校での生活状況について,担任や教科担任,養護教諭などが特に注意しながら観察 し,不安な点がみられたら,担任に情報が集められる体制を確立した。
2 家庭とは担任を通じて,C子の学校や家庭での様子について定期的に情報交換を(週に1回 程度)行い,C子の変化に気を付けるようにした。