防災科学技術総合研究遼報 第4号 1966年3月
551・311・235:551,515.9:551,517.61(521.82)
}
島根県東部地域がけくずれの気象特性に関する研究
一予 報一
熊 谷 貞 治
1.ま え が き
国立防災科学技術セニ■ターでは,1964年(昭和39年)7月の豪雨で多数のがげくずれが発生した 島根県東部赤川流域を対象として,同年より風化花聞岩地帯に拾けるがけくずれの発生機樽と予知に関する 研究」を総合研究として実施しているが,研究の過程において,この研究をより有効に推進するための資 料として,当該豪雨の降雨条件と,島根県の,あるいは県内東部地域の一般的降雨条件に対する地域特性 とを知ることが望まれたので,表記の題目について行なった現在までの研究の成果と,問題の所在につい て報告するものである.
2.昭和39年7月の山陰。北陸豪雨の気象およぴ災害の概要
今回のがけくずれは大多数が7月18日から19日にかけて発生した.このがけくずれは,これより先 7月7日頃から山陰・北陸地方に停迷していた日本海低気圧がもたらした集中豪雨によるものである.
この時の気圧配置は,北方から南下した冷たい高気圧が7月になっても北海道の北に停帯し,一方小笠 原高気圧は弱いながら日本南岸付近をおおい,両者にはさまれた東北・北陸・山陰地方が低気圧の通路と なった・さらに17日に済州島付近で消滅した台風7号の影響もあって,梅雨前線付近は非常に高温多湿 1)
となり,低気圧の目本海通過にともなって,山套地方に集中豪雨をもたらした.
山陰地方の降雨域は,島根県東部の出雲地方と鳥取県西部との比較的せまい地域に集中しており,中心 2)
部では総雨量が300㎜を越えたが,島根県西郡の浜田市では80InIn前後にすぎなかった.
この集中豪雨による島根県下の被害は島根県警察本部の調査によれぱ,死者108名,負傷者269名,
3)
建物全壊591棟,建物半壊717棟などであった.
ホ T. Kumagai: Stud−y on 七he Charac七eri s tics of Me七eoro logical Fac七〇rs of Land−sユides in 七he Eas七ern Shimane Prefec七ure − PreliIninary N〇七e 一
榊 国立防災科学技術センター才2研究部地表変動防災研究室 一1一
防災科学技術総合研究速報 第4号 1966年3月
今次災害の特長は,降雨による多数のカ坊くずれの発生と,がけくずれによる死者が災害全体の92%
(108名中g9名)も占めているということである.
がけくずれについての調査は,一部の地域では空中写真の撮影,現地踏査などにより行なわれているが,
これらの資料のみでまここで意図した全域についての巨視的な解析のための素材としては不十分であるの で,さらに島根県防災会議でまとめた資料(各市町村が詞査し,行政区分により集計されている)を使用 することとした.
この資料から,島根県東部地域の市町村別にがけくずれ数と降雨量との関係をまとめたのが矛1表であ
4)
り,がけくずれの頻度を図にまとめたのが矛1図である.
才1表 市町村別がけくずれ数と降雨量
N S 雨 量 (Z)
市町村名 がけくずれ
面積
N冶15目 16日 17目 18日
雨量合計箇
か所 2㎞3i7
か所1.8
理口 mIl一 皿皿 皿m 叫回
大田市
5ア0 105 196
211多伎村米 1656
55 30.1佐田村 30 108
0.333 8
31ろ354 掛合町 145 110
1.320 2 156 178 湖陵村 400
22 18.2出雲市 2425 173
14.094
44283 421 大社町 4 42
0.199
50246 395 平田市 320 117
2.7120 46 265
4 31斐川村 287 73
3.9三刀屋町 290
8733
本次町 588 59
10.032 5 251 288 加茂町 789
ろ2 24.7宍道町 219 44
5.0玉湯町 79
25 3.2大東町 1300 152
8.6117
10312 439 仁多町 3
17ア 0.0218 1 112 131 布部村 27
5ア 0.5127 7 243 577 広瀬町 700 147
4.8 8614 202 302 八雲村 35 55
0.6鹿島町 1049 29 362 100
103一303 506 島根村
1437
0.4松江市 604
1ア455 172
70 04309
551.4東出雲町
7432
2.3伯太町 35 96
0.4168 168
安来市 99 94
1.0美保関町
10 50 0.2共印:降雨資料なし
島根県東部地域がけくずれの気象特性に関する研究一熊谷
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3
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防災科学技術総合研究速報 3.島根県下の過去のカiけくずれ
5)
「目本気象災害年表」 によれぱ,1949
年(昭和24年)から1959年(昭和34年)
までの11年間に島根県下に発生したがけくずれ の状況は才2表のごとくであり,これから月別発 生頻度分布を求めたのが才2図である.ここにい う気象件数とはじょう乱数であり,箇所数はがけ くずれ数をいう.図によれぱ,件数・箇所数とも に7月が多くなっているが,今回のがけくずれも
7月に発生していて過去の最多発生月と一致して
いる.
次に月別頻度分布について全国(北海道を除く,
以下同じ)的な傾向,中国地方の他県の傾向と比 較する (全国的な傾向を才3図,中国地方の他 県の傾向を才4図から才7図に示す).全国的傾 向についてみると発生頻度は9月が最も高く,ま
第4号 1966年3月
% 100
40
20
OO
島根県
口気象件数
・… 箇所数 . l1 ll ハ ll 〔 〔 I l 1 1 1 l I I l 1 l − 1 1 1 1 I
1 1 ノ
1 1 ^、、
! 、 1 2 3 4
才2図 56789101112月
月別がけくずれ頻度分布図
オ2表 島根県山(がけ)くずれ史(1949〜1959)
年 月 目 誘 因 くずれ箇所数山(がけ) の死者数災害全体
1949.
0
1950. 5.19〜21 低気圧 1 0
6 9〜14
不連続線 1 0
913〜15 台風(キジア)
20 0
1951, 717〜17
梅雨前線2 1
10,1ト15
台風ρレース及ぴフェーノ)55 1
1952, 629〜73
梅雨前線32 0
727〜30 不連続線
21 0
1953. 6,4ト 8
台風2号・梅雨前線 411
6.23〜30 低気圧・梅雨前線
10 0
7 3〜9 梅雨前線
881 3
716〜25 低気圧・梅雨前線
85 1
922〜26 台風13号(テス)
9 0
1954. 7 4〜6
梅雨前線76 0
729〜31 不連続線
237 0
910〜14
台風12号 7 1
924〜27 台風15号(洞爺丸)
25 3
島根県東部地域がけくずれの気象特性に関する研究一熊谷
年 月 日 誘 因
くずれ箇所数山(がけ) の死老数災害全体1955. 4.14〜18 不連続線 4 1
9.29〜10.1
台風22号 5 0
1956, 626〜 71 梅雨前線
11 0
97〜10 台風12号 1 0
1957, 627〜28
台風5号・梅雨前線7 0
Z2〜8 不連続線 85 0
1958. 4,21〜23 低気圧 6 0
723〜29
不連続線
110
12.25〜27 低気圧
2 1
1959. 4.4〜6
低気圧・不連続線1 1
7113〜15 梅雨前線
27 0
8.7〜9 台風6号
15 0
8.22〜28
不連続線
1114
926〜27 台風15号(伊勢湾)
8 0
% 1oo
80
40
日本全国(北海道をのぞく) %
100
80
40
20
oo
123456789101112
山口県
一気象件数
一… がけくずれ数
!
〃
^
ハ 〔
〔
、 、 、
一
1 1
、■才3図
月別がけくずれ頻度分布図1 2 3 4 5 6 7
才4図
89101112
月別がけくずれ頻度分布図
一5一
一防災科学技術総合研究速報
第4号 1966年3月
%
100 広島県
気象件籔
・一・■がけくずれ数 80
^ ^
60 〔
〔 1l
・・ 〔
〔
1 1 1 −20 1 1 11 1
〃 1 1oo
− 23 4 5 6 78 9101112月
才5図 月別がけくずれ頻度分布図
% 100
80
20
鳥取県
一気象件数
・・一一がけくずれ数
oo 1 2
才6図
%
^ 1l ハ 〔 〔
〔
l l
l l l l l
《 l 1ハl 1
1 , 1 、 1
1 ,1 1
/ 1
345678910
月別がけくずれ頻度分布図 岡山県11 12月
100
た梅雨期(6,7月)と台風期(8,9,10月)に ほぽ同程度数のくずれが発生している.島根県で は7月にがけくずれ数が最も多いのでこの点,全 80 国的な傾向と異なっている.中国地方の各県では 図に示されたように,岡山,広島,鳥取の3県で 60
島根県と同じ傾向がみられるが,山口県ではその 傾向がかなりちがったものとなっている・
次に目本全国と島根県の年別のがけくずれの状 40 況を才8図,オ9図に示す.これによれば全国的 にがけくずれの多かった195ろ年には島根県に 20
も一つのピークを見ることができる.
一気象件数
一一・・がけくずれ数
「 一■ 一 一 、 、 、 一 、 、 一
〃へ
〃 、 1 2 3 4
才7図
5 6 7 8 9 10 11 12月
月別がけくずれ頻度分布図
島根県東部地域がげくずれの気象特性に関する研究一熊谷
19;950 51 52 53 54 55 56 57 58 59
オ8図 全国年別がけくずれ数司 (北海道はのぞく)
4 降水口とがけくずれ
島根県下の雨量饒測点密度は,約49k㎡(ただし
1000
1000
1OO
10
1
島根県
1948 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 9 60 61 62 63 64
才9図 島根県年別がけくずれ数3)
同地域に何点か集中しているものもある)に1か
L舳∫1 ・、 莇荷 、 、帖 ㌧叶一、 イ ・一●帖嵩 \鮪町 し・ }、、:簑鰍□∫
い榊咀 州町、ノ 1 1川 ; ^{{、一 ■ 9
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・ ㍗ 榊て 六邊。、㌧蜘1ソ舳、.. ㍍
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舳/∵∴し∵㌧1!
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) 汕町 1・一丁 舳oπ l1州 ユ「
、凸舳㌧て 、①⑬ ぱ ε吊.、舳 い叫 才10図 雨量観測点分布図(島根県東部地区)
一7一
2010 争
防災科学技術総合研究速報
18−10^
5u
第4号 1966年3月
18−13^
18−i1^
1015 10 2α 18^14・ l02030 18・17・
1ら10
18−12^
.0 101
18−15^
1510
0
10 10 ,4
ρム
0 2018 18^
・。彫
10.
o
o
矛11−1図
250皿m 出雲市 ◎1松江帝
%
150皿弄OO 大ほ怖 100m皿
降雨強度推移図
1964年7月18目10時〜19目03時
「大阪管区異常気象報告特別3号」より
N
30001964卓三7 月 l000 18−gL19^9^
250㎜
200m1肥 ○ 米升市 鳥取萌00m
淳山 0 50皿m 30㎜
100
50㎜
○庄原
才12図
30㎜
日雨量分布図
1964年7月18日9時〜19目9時
「大阪管区異常気象報告特別 3号」より
10
■
●
● ■
〆 、〆
. ______ ______一一一 O 1O0 200 300 Ra
日雨量 才13図 市町村別がけくずれ数と降水量
島根県東部地域カミけくずれの気象特性に関する研究一熊谷
・〃 W 、。一。。、 30 用∴lW
18−20『 1l:
18』!1 ■ lo
才11−2図
所の割合である.6)これらの観測点の観測値が観 測点の所在する各市町村を代表する降水量である かどうかは疑問であるが,一応市町村別に集計さ れたがけくずれ数と降水量との関係についてみる.
才13図は市町村別がけくずれ数と降水量との関 係を,才14図は同じくがげくずれ頻度と降水量 との関係をプロヅトしたものである.これによる と目降水量100㎜を越えないとがけくずれは発 生していない.これは従来いわれてきた西日本で は目雨量100㎜程度以上からがけくずれが始ま
るということを実証する一例と考えられる.
次に降雨強度とがけくずれの関係についてのべ る.この場合の降雨強度は1時間降水量をいう一 降雨強度とがけくずれの関係を拍査する際に間題
となるのはがけくずれの発生時亥ゆ確認である.
今次のがけくずれは大部分が夜半に発生したこと
降雨強度推移図一2
VKml
30
20
1C
鹿島町
■出引11
片、、k町
.大東囲」
孤 広潮町
嚇■ 大11」市 .{一一1,1、 ■松」{
、・サ榔 伯太毒布舳.大牡1].州
100 200 300皿而
州4図 市町村別斜ナくすれ頻度と降水;;1(18一)
一9一
防災科学技術総合研究速報 第4号 1966年3月
もあり時刻あ判明したものは少なかった.この確認のためには,島根県警察本部でまとめた「39718 豪雨災害警備誌」に記載された警察官の出動状況,がけくずれのため倒壊した家屋により圧死した人々の Rt皿
300 大田市 降雨強度とがけくずれ
200
N
、、1猟た
18
Rt1oo
(
、
、 、 ! 、
㌧ /
トRh
1\
\4 、 、 、
、
ノ \、
9 10 11
18−
1964.7
Rt 300
12 13 14 15 16 17
R t:積算雨量 Rh:1時間雨量
木次町
18 19 20 21 22 23 24 1
1学 才 1 5 図
降雨強度とがけくずれ
2 3 4 5 6 7h
Rt
200
Rh N時刻の判明した
1。。㎜nがけくず峨
1oo
/
^ 、 1、 戸一 1 、 ■ 、、、 ■ 、 、! 、、
へ f 、 、
1 \Rh
、 ! \
、 、 3 、 、 11、
ノ ㌧ 9 10 11
18d 1964.
12131415・i61718192021222324
1印 Rt:積算雨i
Rh 1時間雨量
1 2 3 4 5 6 7h
才 1 6 図
島根県東部地域がけくずれの気象特性に関する研究一熊谷 死亡推定時刻などを参考にして行なった.
才15図より才18図にその数例をあげたが崩壊時刻が判明したがけくずれ数が少ないので,これらの 図から降雨強度とがけくずれ発生時刻の対応を分析することができなかった。
Rt 降雨強度とがけくずれ m
Rt 300 松江市
200 Rh
100
N馴の棚した
n州く榊
100 50
! 、 !、
VV
一 ノ 、
! 、
■、^
、 、 、
八 ! ! 、Rh l \
1 、 、、2
1 1 叱
ソ 、一・__ 山
Rt 300
9 10 11
18d 1964,7
121蔓、1415 Rt:積算雨i Rh:1時間雨量
出婁市
16 17 18 19 20 21 22 23 24 1
1ヅ 才 1 7 図
降雨強度とがけくずれ・
Rt
2 3 4 5 6 7h
200
Rh
loo
0寺貞」の字j明したN
がけくすれ教
100 50 ^
ハ 、
、 、 ^ へ 1 ハ 1,
14 1、 、 、
、 l11
1, l 11 \ L一\1 ) \
へRh
l l
1
1 ,10 1 、
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1 ,11〈
\
9 10 11
1即 19弘.7
12 13 14 15
Rt:棚算雨三 Rh:一一時間雨量
16 17 18 19 20 21
才
22 23 24 1 2 3 4 5
1γ
1 8 図
一11一6 7ト
防災科学技術総合研究速報 第4号 1966年3月
5.問題の所在
1.今回の豪雨時に島根県東部地域でがけくずれの発生した市町村は,目雨量が100.一脆越す地区に限 られていたことが明らかになった.しかしオ13図,オ14図によってみると,がけくずれ頻度と目雨 量との間には必ずしも明確在相関関係が認められない・このことは第1図と第12図とを比較しても明 らかである.
2.がけくずれ発生時の降雨強度とがけくずれとの関係については,資料も少なく,ここでうんぬんする ことはできないが,降雨強度の小さい時点で崩壊している例が松江市,出雲市にみられることは,がけ くずれが地下水あるいは浸姦水の地中での挙動と関係をもつという立場からは注目すべき事実である.
現在までの予察の段階で,明らかになったのはムU二の2点であるが,今後は,次のように発展させる 考えである.
① 今回とりあげた地域内のがけくずれ資料をさらに収集し,日雨量とがけくずれとの関係,降雨強度 とがけくずれとの関係を解析して,降雨条件に対する地域特性を明らかにする.
②降雨条件の1要素である地下に浸透してからの水の挙動に着目し,①で得られた地衰特性との関連 においてこれを検討し,「風化花筒岩地帯に拾けるがけくずれの発生機樽と予知に関する研究」に資 料を提供するとともに,がけくずれの一般的予知についても検討を加える.
参 考 文 献
1)根山芳晴(1964): 昭和39年7月の山陰地方の豪雨.天気,Vo■.1l,叱・12,
2)大阪管区気象台(1964): 昭和39年7月山陰北陸豪雨(主としてア月18日一19日)、
大阪管区異常気象報告特別3号.
3)島根県警察本部(1964): 39718豪雨災害警備誌..
4)島根県防災会議(1964): 昭和39年7月豪雨災害状況書.
5)気象庁(1960): 日本気象災害年表.気象協会発行.
6)経済企画庁総合開発局国土調査課(1960):全国降水量観測所台帳,V,中国編
一12一