キレ現象に関する実証的研究−自己教示方略と解離の視点から- [ PDF
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(2) られるのは「解離」であろう.というのは,自己教示方. 略と身体的攻撃の関係を再検討した.. 略は非常に意識的に行う認知的方略と考えられるが,解. 仮説 キレそうになりやすく(キレ衝動が高く)キレそ. 離は意識の統合がとれなくなってしまうことだからであ. うになったとき自己教示方略を使えない人は,キレて身. る.. 体的攻撃をしやすいだろう. 被調査者 大学生 472 人.男性 87 人,女性 363 人(22. さらに,解離症状(健忘と記憶障害,非現実感,被影 響/被干渉体験,解離性思考障害など)はキレの制御不. 人は性別未記入) .年齢は M=19.34.. 可能状態や不連続性と類似しており,キレの病理性を説. 質問紙. 明できる可能性があると考えられる.また実際に先行文. キレ衝動尺度(崔,1998) 「自分で抑えきれないほど. 献でもキレとの関連が指摘されている.例えば長谷川. の怒りを感じることが多い. 」などの8項目.1: 「全く. (2001)は,キレは一種の解離性障害であると述べた.. あてはまらない」∼7: 「非常によくあてはまる」の 7. また,解離はストレスを受けたときに起こるといわれて. 件法.α=.92. いるが(Putnam,1997) ,キレも欲求不満という一種の. キレ行動尺度(下坂ら,2000) 下坂ら(2000)では「間. ストレスによって起こると想定される.これだけの関連. 接的攻撃」 , 「直接的攻撃」 , 「パニック状態」 , 「反社会的. 性が指摘できるにも関わらず,キレと解離の関連につい. 行動」の 4 因子で構成されていた.本研究では, 「直接. て実証的に検討されたことはない.. 的攻撃」を身体的攻撃として検討を行う(α=.78).25 項目.1: 「全くない」 ,2: 「たまにある」 ,3: 「しばし. このようなことから,本研究では,自己教示方略と解 離が,キレて身体的攻撃を行ってしまうことについてど. ばある」 ,4: 「頻繁にある」の4件法.. のように関連して影響を与えているかを想定した.その. 自己教示方略. モデルを示したのが Fig.2である.. (Novaco,1979)を参考に, 「『もう少しの辛抱だ』と. 怒り制御に対する自己教示訓練の内容. 自分に言い聞かせた. 」 , 「『落ち着け』と自分に言い聞か せた. 」などの 8 項目を作成.1: 「全くしなかった」∼. 身体的攻撃. キレ衝動. 7: 「非常によくした」の7件法.α=.82. キレるときの. 結果と考察. 解離 解離傾向. −. 2(キレ衝動:高・低)×2(自己教示方略:高・低). −. の被験者間 2 要因分散分析を行った.キレ衝動の主効果 のみが有意だった(F(1,191)=6.77, p<.05) (Fig. 3) .. 自己教示方略. 1.6. *マイナスがついていないパスにはプラスの効果 を想定している.. 直 1.39(.63) 接 ■自己教示方略 1.33(.55) 的 1.4 攻 高群(上位 30%) 撃 1.17(.35) 1.17(.39) ■自己教示方略 平 1.2 均 低群(下位 30%) 得 点 1 N 51 30 47 63 キレ衝動高群(上位 30%) キレ衝動低群(下位 30%). Fig.2:モデル図 このモデルは,解離傾向が高い人はキレると解離を起 こしてしまい,自己教示方略という意識的に行うことが 必要な認知的方略を使えなくなり,身体的攻撃に至って しまうという想定を表している.. Fig. 3 研究1の結果. 以上より,本研究では研究1でこのモデルを想定する もとになった和田・加藤(2002)の示唆について改めて. →仮説は支持されなかった.しかし,これは和田・加藤. 検討し,研究2でモデルの検討を行った.. (2002)での結果が偶然だったことを示すのではなく, キレの中でも自己教示方略を使える人と使えない人の差. 研究1. が現れない場合と現れる場合があり,研究1は前者であ. 問題と目的 和田・加藤(2002)では被調査者数が少な. ったと考えた.というのは,教示における次の2つの操. く, 「キレる」を「怒りが頂点に達する」などと間接的に. 作によって和田・加藤(2002)よりも感情強度が低くな. 表現していた.そこで本研究では被調査者数を増やし,. った可能性が高いからである.. キレ現象を直接的に捉えるために「キレる」という言葉. ・大学生は「キレる」という言葉を弱い不快感情につ. を使って,和田・加藤(2002)で示唆された自己教示方. いて使うこともある. 2.
(3) ・教示において「キレそうになったときでもキレてし. キレたときの解離状態(以下,キレ解離と呼ぶ). まって行動を起こすときとそうでないときがある」と. キレ行動尺度(下坂ら, 2000)のパニック状態因子の. 前置きし,「キレてしまわない場合」という項の中で. 中から「頭が真っ白になった」など2項目を採用した.. 自己教示方略を使うかについて質問していた.このこ. 次に,先行文献と 17 歳∼23 歳までの数人に対するキレ. とで「 『キレそうになったけれどもキレなかったとき』. た経験についてのインタビューから「何をしたか憶えて. に自己教示方略を使ったか」という質問に受け取られ. いなかった. 」など 3 項目を作成した.その他に,解離. た可能性がある.. 体験尺度を参考に被干渉感や離人感などを表した項目を. →もしもこの解釈が正しければ,この結果から,キレの. 5項目作成した.攻撃行動1項目以上について 2 以上と. 中でも強度の違いがあり,強度が低いキレでは自己教示. 評定した人(270 人)を対象に,その行動の際の状態を. 方略が使えるかどうかの個人差が現れず強度が高いキレ. 質問した.10 項目.1: 「全くあてはまらない」∼7: 「非. では現れる,という仮説が考えられる.研究2ではこの. 常によくあてはまる」の 7 件法.. 仮説が妥当かどうかを検討し,そのうえで解離を含めた. 結果と考察. モデルを検証した.. 攻撃行動とキレ解離について因子分析を行った(最小2 乗法・プロマックス回転) .. 研究2. , 「間接的攻撃」 , 「その他」 攻撃行動 「身体的攻撃」. 目的 自己教示方略と身体的攻撃との関係について,①. の3因子に分かれた(説明率=48.86%).「身体的攻. 研究1(強度が低いキレ)と②強度が高いキレの場合で. 撃(α=.87) 」のみ使用.. 検証する.そのうえで,③解離を含めたモデルの検証を. 」 (例:一瞬,自分が キレ解離 「時間喪失(α=.86). 行う.. 何をやっているのかわからなかった・何をしたか憶え. →①で研究1の結果が再現され,②で和田・加藤(2002). ていなかった) , 「非現実感(α=.77) 」 (例:頭が真っ. の結果が再現されれば, 「『キレる』の中でも強度の違い. 白になった・まわりが霧のかかったようにぼんやりと. があり, 強度が低い場合では自己教示方略の差が現れず,. みえた)の2因子に分かれた(説明率=51.92%) .. 高い場合では現れる」という仮説が確かめられると考え. ①2(キレ衝動:高・低)×2(自己教示方略:高・低). る.. の被験者間 2 要因分散分析を行った.キレ衝動の主効果. 被調査者 大学生 370 人.男性 74 人,女性 295 人(1. のみが有意だった(F(1,152)=13.58, p<.01) .キレ衝. 人は性別未記入) .年齢は M=19.14.. 動高群の数値が多少異なっていたが,研究1の結果が再. 質問紙. 現された(Fig. 4) .. キレ衝動尺度 研究1と同じ.α=.92.. 1.8. 攻撃行動 キレ行動尺度の直接的攻撃項目に,社会的規. 身 1.62(.77) 体 的 1.6 攻 1.44(.61) 撃 平 1.4 均 得 点 1.2. 範を逸脱している攻撃項目を作成して加えた.被調査者 の負担を考慮して,研究2では身体的攻撃項目(13 項目) と社会的規範を逸脱した少数の間接的攻撃項目(4 項目) のみを実施した.教示は研究1の「キレてしまったとき」 を「本気でキレたとき(マジギレしたとき) 」に改めた. . 自己教示方略 研究1と同じ教示で実施した(α=.86). 1.18(.45) 1.20(.43). ■自己教示方 略高群(上位 30%) ■自己教示方 略低群(下位 30%). 1. N. 自己教示方略(本気) 教示を研究1の「キレそうにな. 40. 31. 36. 45. キレ衝動高群(上位 30%) キレ衝動低群(下位 30%). ったけれどもキレなかったときに自己教示方略を使った. Fig. 4 キレたときの身体的攻撃. か」から「本気でキレそうになったとき自己教示方略を 使ったか」に改めた(α=.86) .. ②2(キレ衝動:高・低)×2(自己教示方略:高・低). 解離傾向 解離体験尺度(田辺, 1994)の 28 項目のうち. の被験者間 2 要因分散分析を行った.キレ衝動の主効果. 10 項目を選んで実施した(項目例:したという記憶はな. (F(1,155)=20.55, p<.01) ,自己教示方略の主効果(F. いのに何かをしていたということがある) .0: 「全く経. (1,155)=9.64, p<.01) ,交互作用(F(1,155)=7.92,. 験しない」∼10: 「非常によく経験する」の 11 件法.α. p<.01)が有意だった(Fig. 5).想定どおり,和田・. =.86.. 加藤(2002)の再分析結果が再現された. 3.
(4) **. **. 2. 身 体 的 攻 撃 平 均 得 点. 1.8. り出せていなかったことによるものと考えられる.そこ で今後は,本気でキレて攻撃行動をしたときとしなかっ. 1.78(.76) **. **. ■自己教示方略 (本気)高群 (上位 30%) ■自己教示方略 (本気)低群 (下位 30%). 1.6 1.4. 1.29(.49) 1.15(.34)1.18(.41). 1.2 1. N. 41. 29. 41. たときに分けて自己教示方略と解離の関係を検討する必 要があると考えられる. 総合的考察 限界点と今後の課題 ・本研究は質問紙法による回顧的な相関研究である.そ. 44. **p<.01. のため,本研究で検討した要因が時系列的にモデルのよ. キレ衝動高群(上位 30%) キレ衝動低群(下位 30%). うに関連しているかどうかは,他の方法でも確認するこ. Fig. 5 本気でキレたときの身体的攻撃. とが必要であると考えられる.. →仮説は支持された.このことで,キレには強度の違い. ・キレたときの制御不可能状態や不連続性はこれまでに. があり,研究1ではキレの強度の低さによって自己教示. 詳しく調べられていない.そのため,実際解離とどの程. 方略使用の差が現れなかったことがわかった.また,強. 度類似性があるかについてキレの具体的事例の分析が必. 度が高い場合に自己教示方略が身体的攻撃を抑制する可. 要であると考えられる.. 能性は確かにあることがわかった.. ・本研究では,結果的に相手にどの程度の被害を及ぼし. ③モデルについてパス解析を行った(キレ解離に回答し. たかなどの,身体的攻撃の程度については考慮されてい. た者のみを対象に実施) . キレ解離は2因子のうち身体的. ない.. 攻撃との相関係数が大きかった時間喪失を使用した.. まとめ 本研究では,キレそうになりやすい人がキレたとき身. .21** キレ衝動 .27** 解離傾向. 体的攻撃をすることについて,キレの強度が低いときに. 身体的攻撃. .15*. .25**. は自己教示方略使用の差が現れないが,高いときにはそ れが現れ,自己教示方略を使うことによって身体的攻撃. キレ解離 .31**. .16**. を制御できる可能性のあることが確かめられた.. −.15*. また本研究では,解離傾向がキレたときの解離を通し てキレたときの身体的攻撃を促進することを示した.こ. 自己教示方略(本気). れは,キレの極端な制御不可能状態や不連続性が解離に. *p<.05 **p<.01. よるものであることを示唆していると考えられる.. Fig. 6 モデルの検証 →χ2 =6.78,自由度は3,確率水準は.08 であり,5%よ. 主要引用文献. り大きかった.また適合度指標のうち CFI は.998,PCFI. 崔京姫 1998 キレ衝動尺度作成の試み 筑波大学発達. は.200,RMSEA は.068,AIC は 40.784 であった.想. 臨床心理学研究, 9・10, 55‐58.. 定したパスは全て有意だった.キレたときの解離状態か. 下坂 剛・西田裕紀子・齊藤誠一・伊藤崇達・神藤貴昭・. ら自己教示方略のパスの係数はプラスであり想定と異な. 柳原利佳子・鶴田弘子・久木山健一・西田紀子・西村. っていた.キレたときに解離状態は自己教示方略を促進. 亜希子・榎本千春・坂本由佳・前川雅子 2000 現代. していた.. 青少年の「キレる」ということに関する心理学的研究. →本研究で想定したモデルは,本気でキレたとき社会的. (1)―キレ行動尺度作成および SCT による記述の分. 規範に沿わない攻撃行動をする人において,自己教示方. 析― 神戸大学発達科学部研究紀要, 7, 1-8.. 略とキレたときの解離状態との関係を除き,ある強度適. 田辺 肇 1994 解離性体験と心的外傷体験との関連―. 合していると考えられる.. 日本版 DES(Dissociative Experience Scale)の構. →自己教示方略と解離との関係は想定と反対の結果にな. 成概念妥当性の検討― 催眠学研究,39,1-10.. った.これは,本研究では本気でキレそうになったとき .. に自己教示方略を使う傾向を質問しており,本気でキレ. 和田志麻・加藤和生 2002 大学生のキレとキレ制御方 略との関連 日本教育心理学会第 44 回大会発表論文 集, 149.. て攻撃行動をしたそのときに使っていたかを直接的に取 4.
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