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景観政策が地価に与える影響について

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Academic year: 2021

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景観政策が地価に与える影響について

~京都市を事例として~

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16711 林 歓太郎

1 はじめに

景観に対する国民の意識や関心の高まりを背景に 景観法(2004年施行)の制定をはじめとする良好な 景観の形成の促進に資する制度の充実が図られ、全 国各地において景観に係る取組が活発化している。

京都市は、歴史都市・京都の優れた景観を守り、

育て、50年後、100年後の未来へ引き継いでいくた め、それまでの景観政策を抜本的に見直し、「新景 観政策」を2007年(平成19年)9月に実施した。

政策実施にあたっては、大きな市民負担を伴うもの であったことなどから、地価が下がるのではないか 等の懸念の声も多くあった。

本稿では、京都市を事例として、新景観政策、特 に高さ規制の強化が地価に与える影響について、政 策実施から10年目の一定の節目として、経済学的 観点からヘドニック・アプローチにより実証分析を 行うものであり、政策のプラスの効果(便益)とマ イナスの効果(費用)の影響を分けて分析した点、

政策効果の経年変化を明らかにした点が特徴であ る。

2 新景観政策の概要

新景観政策は、50年後、100年後の京都の将来を 見据えた歴史都市・京都の景観づくりであること等 をコンセプトに、①建築物の高さ規制の強化②建築 物等のデザイン基準や規制区域の見直し③眺望景観 借景の保全④屋外広告物対策の強化⑤京町家等の歴 史的建造物の保全の5つの柱で実施された。

高さ規制の強化は、居住環境の維持向上並びに景 観の保全及び形成を目的として、市街化区域全体の 約3割の区域において大幅な見直しが行われた。こ れまで高度地区で定めていた高さの最高限度は、10 m、15m、20m、31m、45mの5段階だったが、見 直しにより45m の最高限度を廃止し、新たに12m、

25m を加えて6段階とし、この6段階の高さ規制をそ れぞれの市街地の特性に応じて配置した。

3 景観政策が地価に与える影響と仮説

3-1 景観政策のプラスの効果とマイナスの効果 景観規制は、建築物の高さ、形態意匠、壁面の位置 等の制限が一般的であるが、こうした規制が導入され ることにより、良好な景観の形成・保全、日照・眺望 の確保や圧迫感の低減、調和のとれた町並みの形成等 に一定の効果が見込まれるが、一方、土地の有効利用 や自由な建築活動に対する制約と捉えられる面もあ り、生活環境や経済活動に対してもプラス(便益)と マイナス(費用)両面の効果を及ぼすこととなる。そ れらの効果による地価の変動で総合的に景観政策を評 価する。図1参照。

図1

また、規制による地価形成は、規制実施によって どのような損得があるか将来価値を含めた現在価値 が、すぐに地価に反映するというのが基本的な考え 方である。しかし、景観規制については、政策実施 直後の時点で、規制が強化されることでどのような 町並みや景観になるのかという将来の姿を思い描く ことが困難であり、その将来価値が認識されにくい ことから、政策実施直後には地価に反映されない側

景観政策(高さ規制の強化)

プラスの効果(便益)

・良好な景観の形成、保全

・借景、眺望の確保

・人口、観光客の増加による 商業収益等の増加

土地需要の増加

↓ 地価の上昇

マイナスの効果(費用)

・利用可能容積の減少

・建築自由度の減少

・建築コストの増加

土地需要の減少

↓ 地価の下落

地価変動により政策を評価

(2)

2 面があると考えられる。よって、規制実施直後だけ でなく、長期的な視点による観察が必要である。

3-2 仮説

高さ規制について、地価ポイント自体の規制強化 とその周辺の規制強化による影響に着目する。地価 ポイント自体が高さ規制強化される影響は、利用可 能容積の減少などの費用負担による地価へのマイナ スの影響と考えられ、また一方で、地価ポイント周 辺で規制が強化される影響は、周辺地域における良 好な景観の保全・形成の期待による地価ポイントの 地価へのプラスの影響と考えられる。以下の仮説を 提起し、実証分析を行う。

仮説1:高さ規制の強化により、地価ポイントにお

いては利用可能容積の減少などの費用負担によるマ イナス効果で地価は下がる。その影響は、住居系地 域よりも商業系地域のほうが大きい。

仮説2:高さ規制の強化により不適格建築物が多数

発生する地域(従来から高い建築物を建築する需要 のある地域)においては、規制強化による費用負担 がより大きいことから、地価は下がる。

仮説3:地価ポイントの周辺が規制強化されること

で、周辺における良好な景観の保全・形成が期待さ れ、そのプラス効果により地価は上がる。

仮説4:地価ポイント周辺において高さ規制が強化

されることによる便益は、建築物の更新によって町 並みが変わり、時間の経過と共に良好な景観保全・

形成が進んでいくことで、政策実施後の時間経過と 共に徐々に大きくなる。

仮説5:周辺規制強化による便益については、周辺の

不適格建築物の状況により影響が異なり、不適格建 築物率が高いほうが、その景観改善の期待から地価 は上がる。

4 実証分析

4-1 分析方法と分析対象

提起した仮説に基づき、土地資本化仮説を前提と したヘドニック・アプローチを用いて地価関数を推 計することにより、景観政策の強化が地価に与える 影響について実証分析する。

分析対象は、地価公示及び都道府県地価調査価格 とした。京都市全域における各地価のうち、政策実 施前の2006年から直近の2016年までの11年間で 観測ポイントが移動していない288ポイントをサン プルとし、商業系地域は101ポイント、住居系地域 は187ポイントである。高さ規制強化地点は、商業 系101のうち84、住居系で187のうち50であり、

規制強化率はそれぞれ83%、27%である。

4-2 分析モデル

被説明変数を地価(円/㎡)の対数値とし、2006 年から2016年までの各年度で構成されたパネルデ ータを用いて、次式の固定効果モデルにより推計を 行う。パネルデータは、複数のサンプルを、複数時 点にわたって追跡、観察し続けたデータであり、個 体の異質性をコントロールでき、時間を通じた変化 を評価できる等のメリットがある。

なお、地価ポイントから100mバッファ内におけ る高さの不適格建築物(便宜的に階数3mとして住 宅地図上で判定)の面積割合を説明変数「周辺の不 適格建築物率」とし、地価ポイントから300mバッ ファ内における高さの規制強化面積の割合を説明変 数「周辺の規制強化面積率」としている。分析モデ ルは、以下の通りである。なお、α0は定数項、εは 誤差項とする。

Ln(地価)=α0+α1(年度ダミー)

+α2(地価ポイントの高さ規制強化後ダミー) +α3(地価ポイントの高さ規制強化後ダミー

×周辺の不適格建築物面積率) +α4(地価ポイントの高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率) +α5(地価ポイントの高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率×経過年数)

+α6(地価ポイントの高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率

×周辺の不適格建築物面積率)

+α7(美観地区ダミー)+α8(美観形成地区ダミー) +α9(風致地区ダミー)+α10(眺望景観規制ダミー) +α11(眺望空間保全ダミー)+α12(中心地区ダミー) +α13(郊外地区ダミー)+ε

※α9は住居系のみ、α12は商業系のみ

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3 4-3 分析結果

分析結果は、表1、2の通りである。

表1 商業系地域

変数名 係数 標準偏差

高さ規制強化後ダミー -0.037

* 0.021

高さ規制強化後ダミー

×周辺の不適格建築物面積率

0.006

** 0.003 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率 0.016 0.032 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率

×経過年数

0.007

*** 0.002 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率

×周辺の不適格建築物面積率

-0.005 0.003

表2 住居系地域

変数名 係数 標準偏差

高さ規制強化後ダミー -0.017

* 0.010

高さ規制強化後ダミー

×周辺の不適格建築物面積率

0.016

*** 0.003 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率 0.015 0.016 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率

×経過年数

0.009

*** 0.001 高さ規制強化後ダミー

×周辺の高さ規制強化面積率

×周辺の不適格建築物面積率

-0.021

*** 0.004

***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を示す。

4-4 考察

4-4-1 高さ規制強化が地価に与える影響

高さ規制が強化された地点が、未強化地点に比べ 商業系で3.7%、住居系で1.7%地価が低くなるとい う結果が統計的有意に示された。利用可能容積の減 少など高さ規制強化による費用負担が住居系よりも 商業系の方が大きいことから、地価へのマイナスの 影響も商業系の方が大きい結果になったと考えられ る。

4-4-2 周辺の高さ規制強化が地価に与える影響

地価ポイント自体ではなく、その周辺で高さ規制 が強化された場合、商業系で1.6%、住居で1.5%地 価が高くなることが示された。住居系地域において は統計的有意ではないものの、商業系、住居系共に 同様のプラス傾向が示された。また、周辺規制強化 の経年変化については、年々、商業系で0.7%、住居

系で0.9%地価が高くなるという結果が統計的有意

に示された。

周辺規制によるプラスの効果は、将来価値の期待 による政策実施直後の影響と併せて、実際の周辺の 景観形成や町並みの変化、その景観価値の認識と共 に徐々に表れると考えられる。

4-4-3 不適格建築物率により周辺の高さ規制強化が

地価に与える影響

地価ポイント周辺の不適格建築物率による周辺規 制強化率の影響については、商業系で0.5%、住居系

で2.1%地価が下がるという結果が示された。不適格

建築物は、建替え時には高さを低くして適格建築物 にする必要があり、その費用負担から更新のインセ ンティブが低くなってしまう。よって、既に景観が 壊されていてある意味手遅れ状態である不適格建築 物が多い地域では、建物更新が進みにくく、規制強 化による便益が見込みにくいことなどから開発が抑 制され、地価へマイナスの影響があるのではないか と考えられる。

4-4-4 不適格建築物率が地価に与える影響

地価ポイント周辺の高さの不適格建築物率による 高さ規制の影響については、当初想定していた結果 と異なり、商業系で0.6%、住居系で1.6%地価が高 くなるという結果が、それぞれ5%,10%水準で統計 的有意に示された。元々、不適格建築物が多い地域 は地価が元々上昇傾向にあるなど、内生性の問題を 十分にコントロールできていない可能性がある。

4-5 地価の推移

以上の考察を踏まえ、実例の商業系地域の地価ポ イントA,B,Cの地価推移を図2示す。地価への影響 は、各地価ポイントの規制強化の有無、周辺の不適格 建築物率及び周辺の規制強化面積率により異なる。B、

C のように地価ポイント自体が規制強化されること で、政策実施直後に地価は下落する。また、A、Bの ように周辺の大部分で規制が強化された場合には、

徐々にその便益を受けるが、Cのようにほぼ規制強化 されない場合には、プラスの影響はほぼない。つまり、

規制強化による費用負担で地価ポイント自体にはマ イナスの影響があるものの、面的な規制強化により

(4)

4 便益をお互いに享受しあうことで、時間の経過と共 に全体の価値が向上する。

表3

項目 A B C

行政区 上京区 中京区 西京区

用途地域 近商 商業 近商

高さ規制強化 20m

(強化無) 31→20m 20→15m 周辺の高さ

不適格建築物率 0% 20% 5%

周辺の高さ

規制強化率 85% 100% 9%

図2 地価推移のイメージ(政策実施前2006年を100とする)

5 まとめ

5-1 政策提言

適正な高さ規制は、一時的には費用負担によるマ イナス効果があるものの、長期的にはプラス効果と して地価を上昇させる。都市の付加価値を高め、都 市の活力と魅力を向上させるために、適正な政策は 実施すべきである。

また、周辺で高さ規制が強化されることによる地 価へのプラスの効果を考慮すると、規制強化によっ て費用のみを負担するのではなく、規制により便益 を享受し合うことでお互いの価値向上が可能となる よう、虫食い状態での規制ではなく、一定の面的規 制の実施がより公平な規制となる。

さらに、不適格建築物が多い地域においては、周 辺で規制が強化された場合の影響がマイナスである ことから、不適格建築物が多数発生する前の景観が 保全されている段階で対策を講じるべきである。

最後に、高さ規制の強化による景観政策のプラス の効果(便益)は、規制による良好な景観の保全・形 成、その景観価値の認識、景観や規制に対する市民

意識の向上によって時間の経過と共に徐々に表れ、

地価を上昇させる。よって、景観政策の実施にあた っては、短期的な影響だけではなく将来を見据えた 長期的視点が必要である。

5-2 おわりに

本稿では、景観政策が地価に与える影響について 京都市を事例として分析したものであり、主に高さ 規制の強化のプラスの影響(便益)とマイナスの影 響(費用)による地価への影響と、その効果の経年 変化を明らかにした。

本稿では、高さ規制の強化による地価への影響に 焦点をあてたが、景観政策を総合的に評価するため には、高さ規制以外の規制(景観地区等の指定、屋 外広告物規制、容積率、地区計画など)も含め検証 することが今後の課題である。

また、本稿では、ヘドニック・アプローチによる 分析を行ったが、景観の評価には地価には表れにく い要素も多く含まれる側面があり、地価による評価 だけでは言い表すことが困難である。多角的な方法 による分析によって、より精度の高い評価手法を確 立することも併せて今後の課題とする。

さらに、本稿では京都市を事例としたが、政策効 果は、地域特性によるところも大きいと考えられ、

他都市でも同様の効果を及ぼしているとは判断でき ない。地域特性の異なる他都市における分析により 地域特性とその効果の違いを明らかにすることも意 義深いことだと考える。

京都市においても、適正な景観規制は、京都の都 市の魅力や価値を高めることは間違いない。唯一無 二の歴史都市の付加価値を高め、将来に渡り引き継 いでいくためにも、その政策効果を検証しながら、

時代や都市活動、まちの変化に合わせ、景観政策を さらに進化させつづけていくことが求められる。

本稿が、京都市における景観政策の進化のみな らず国内の様々な都市で実施される景観政策の充実 の一助となれば幸いである。

95 100 105 110 115

2006 2007 2011 2016 将来 A

B

C 高さ規制の強化

参照

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