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2018( 平 成 30) 年 度

博士学位論文

日 本 の 高 校 生 の 自 己 観 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 育 成 に 英 語 教 育 が 与 え る 影 響

- 高 校 生 ・ 教 員 の CLIL に 基 づ い た 授 業 へ の 認 識 を 通 し て -

指 導 教 授 : 宮原 哲 教授

文 学 研 究 科 英 文 学 専 攻 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 学 専 修

芳野 弥生

(2)

目 次

第 I章 研 究 背 景 及 び 研 究 目 的

…1

第 II 章 文 献 調 査

…3 第 1 節 グ ロ ー バ ル 化 と 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」

…3

1 . グ ロ ー バ ル 化 (globalization)

2 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」

3 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 に 必 要 な 能 力

第 2 節 日 本 の 英 語 教 育 改 革 政 策

…8 1 . 英 語 力 育 成

2 . 積 極 的 ・ 主 体 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 3 . 異 文 化 理 解 能 力 の 育 成

4 . 学 習 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 揚 5 .「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」

6 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 育 成 に お け る 現 状 で の 課 題

第 3 節 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 概 念

…15

第 4 節 英 語 教 育 が 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 与 え る 影 響

…17 1 . 英 語 教 育 改 革 政 策 文 書 の デ ィ ス コ ー ス 分 析 に よ る 研 究

2 . 日 本 語 と 日 本 の 社 会 ・ 人 間 関 係 と の 密 接 な 関 係 に つ い て の 研 究 3 .「 英 語 支 配 」 の 英 語 観 と“World Englishes”の 英 語 観

第 5 節

The European Union

EU) の 言 語 教 育 政 策

…24 1 . 複 言 語 主 義

2 .Content and Language Integrated Learning(CLIL)

(3)

第 6 節 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 包 含 す る 広 義 の 概 念 、 自 己 (

self)、

自 己 観 (

self-construal)

…33 リ サ ー チ ク エ ス チ ョ ン

第 III 章 CLIL を 経 験 し た 日 本 の 高 校 生 ( 107 人 ) の 認 識

…36 第 1 節 方 法

…36 第 2 節 結 果 …37

1 . 実 際 に 授 業 に ど う 関 わ っ た の か 2 . コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 す る 認 識 3 . 学 び に 対 す る 考 え 方

4 . モ チ ベ ー シ ョ ン

第 IV 章 CLIL を 指 導 し た 教 員 、日 本 の 高 校 の 英 語 教 員 、自 国 の 高 校 で CLIL を 経 験 し た EU 諸 国 か ら の 留 学 生 ( 総 計 25 人 ) の 認 識 、及 び 授 業 参 観 に お け る 筆 者 自 身 の 認 識

…55

第 1 節

CLIL

を 指 導 し た 教 員 ( ア メ リ カ 人 教 員 ・ 日 本 人 生 物 教 員) の 認 識 …56

第 2 節 日 本 の 高 校 の 英 語 教 員 (

ALT

・ 日 本 人 英 語 教 員 ) の 認 識

…68 2

.1 Assistant Language Teacher( ALT

)の 認 識

…71 2

.2

日 本 人 英 語 教 員 の 認 識

…86

第 3 節 自 国 の 高 校 で

CLIL

を 経 験 し た

EU

諸 国 か ら の 留 学 生

の 認 識

…93

第 4 節 授 業 参 観 に お け る 筆 者 自 身 の 認 識 …106

(4)

第 V 章 考 察

…109 第 1 節 日 本 の 生 徒 は 普 段 の 授 業 で は 相 互 依 存 的 な 自 己 へ の 認 識 を

し て い る

111 1 . 日 本 の 生 徒 は 他 の 生 徒 か ら ど う 思 わ れ る か を と て も 気 に か け て い る 2 . 日 本 の 生 徒 は 生 徒 と い う 「 集 団 の 中 の 一 人 」 と し て 自 己 を 認 識 し て

い る

3 . 進 学 校 の 生 徒 や 偏 差 値 の 高 い 生 徒 は 周 囲 の 目 を 気 に す る 傾 向 が よ り 強 い

4 . 日 本 の 生 徒 の 相 互 依 存 的 な 自 己 へ の 認 識 を 変 え る こ と は 難 し い 5 . 日 本 の 生 徒 が 他 の 生 徒 と の 関 係 を 気 に す る 傾 向 は 近 年 強 ま っ て い る

第 2 節 日 本 の 生 徒 の 独 立 的 な 自 己 観 を 育 成 す る こ と は 可 能 で あ る …

115

1 . 生 徒 は

CLIL

に 基 づ く 授 業 で は 他 の 生 徒 か ら ど う 思 わ れ る か を 気 に

し て い な か っ た

2 .

CLIL

に よ る 授 業 で は 生 徒 は「 個 人 」と し て 積 極 的 に 授 業 に 参 加 し た

第 3 節 生 徒 が 独 立 的 自 己 観 の 兆 候 を 示 し た の は 、「 ア メ リ カ 人 教 員 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を し た い と い う モ チ ベ ー シ ョ ン 」が 大 き く 高 ま り 、 実 際 に 行 動 に 移 し た か ら

…118 1 .生 徒 は ア メ リ カ 人 教 員 と の パ ワ ー の 差 が 小 さ い と 感 じ 親 近 感 を 抱 き 、

も っ と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を し た い と 思 っ た

2 . 生 徒 は ア メ リ カ 人 教 員 の 説 明 を も っ と 理 解 し た い と 思 っ た

第 4 節 日 本 の 生 徒 の 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 育 成 に

CLIL

は 有 用 で あ る

121

第 5 節

CLIL

が 生 徒 の 自 己 観 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 育 成 に 与 え る 影 響 は 、

EU

に お い て よ り も 日 本 に お い て の 方 が 大 き い 可 能 性 が あ る

125

1 .

EU

諸 国 の 高 校 生 は 独 立 的 な 自 己 観 の 傾 向 を 持 つ

(5)

2 .

EU

で は 異 言 語 や 異 文 化 に 接 す る 機 会 が 多 い

3 .異 言 語・異 文 化 に 接 す る 機 会 が 多 い

EU

で も 、CLIL で は 生 徒 は 異 文 化 へ の 気 づ き を 認 識 し て い る

4 .

CLIL

の 対 象 言 語 が 母 語 と 似 て い る 場 合 は 異 文 化 へ の 気 づ き は ほ と ん ど 見 ら れ な い

5 .

CLIL

で 学 ぶ こ と で 自 身 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ は 豊 か に な る

第 6 節 考 察 の ま と め …129

第 VI 章 結 論

…132

参 考 文 献 …135

参 考 資 料 …148

(6)

1

第 I 章 研 究 背 景 及 び 研 究 目 的

近 年 グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 に よ っ て 文 化 や 価 値 観 の 異 な る 人 々 と の 交 流 の 機 会 は 増 加 の 一 途 を た ど っ て い る 。 こ の よ う な グ ロ ー バ ル 社 会 で 日 本 人 が 世 界 の 異 文 化 の 人 々 と よ り 良 い 人 間 関 係 を 構 築 し て い く た め に は 、 ど の よ う な コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 が 必 要 と さ れ 、 そ れ ら は ど の よ う に し て 育 成 さ れ 得 る の か に つ い て 理 解 す る こ と は 重 要 で あ る 。

グ ロ ー バ ル 化 と い う 概 念 は 1990 年 代 に 世 界 に 広 ま り (Steager, 2009 櫻 井 他 訳 2013)、文 部 科 学 省 は グ ロ ー バ ル 社 会 で 日 本 人 が 活 躍 で き る よ う 、英 語 力 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 育 成 す る た め の 英 語 教 育 改 革 政 策 を 次 々 と 打 ち 出 し て き た ( 文 部 科 学 省 、2002, 2003, 2008, 2009, 2013, 2014, 2017)。 し か し 同 時 に 英 語 教 育 改 革 文 書 で は 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 を 保 つ こ と の 重 要 性 が 強 調 さ れ て い る ( グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2012; 文 部 科 学 省 、2013, 2014, 2017)。

文 部 科 学 省 の 英 語 教 育 改 革 文 書 が 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 重 視 し た も の に な っ て い る の は 、 英 語 教 育 が 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ へ の 脅 威 と し て 国 民 の 目 に 映 ら な い よ う に 、 工 夫 を し つ つ 提 案 さ れ 実 施 さ れ て き た こ と が 背 景 に あ る( 森 住 、2016; Hashimoto, 2000, 2007, 2013)。Seargeant(2009)

は 、 日 本 政 府 は こ れ ま で 英 語 教 育 改 革 を 行 う 度 に 英 語 教 育 の 重 要 性 に 加 え 日 本 的 価 値 観 や 日 本 人 ら し さ を 保 持 す る こ と の 重 要 性 を 唱 え て い る と 指 摘 し て お り 、 ま た 世 界 50 か 国 以 上 で の 英 語 教 育 へ の 反 応 を 調 査 し た Dearden(2015) も 英 語 教 育 の 文 脈 で 国 民 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 大 き な 問 題 と し て 取 り 上 げ ら れ る 国 の 一 つ と し て 日 本 を 挙 げ て い る( 森 住 、2016)。実 際 、英 語 教 育 の 推 進 は 日 本 語 と 密 接 な 繋 が り を 持 つ 日 本 の 社 会 や 人 間 関 係 に 影 響 を 与 え 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 脅 か す と い う 議 論 が 日 本 に は 多 く 存 在 す る( 榎 本 、2012, 2014; 木 村 、 1972; 鈴 木 、1973; 施 、2015; 津 田 、1990; 土 居 、2007; 浜 口 、1998; 柳 父 、 1993; 和 辻 、2007)。

(7)

2

グ ロ ー バ ル 化 が 進 展 す る 現 代 社 会 に お い て は 第 一 言 語 と し て の 日 本 語 の 中 に 閉 じ こ も っ て い る こ と は で き ず( 日 本 学 術 会 議 、2012)、日 本 の 生 徒 の 英 語 力 を 育 成 す る 必 要 が あ る 。 し か し な が ら 、 日 本 の 生 徒 が 英 語 教 育 を 通 し て ど の よ う に ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 確 立 し 、 あ る い は 英 語 教 育 に よ っ て 「 日 本 人 と し て の 」 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を ど の よ う に 守 る か と い う こ と に つ い て の 実 証 的 な 研 究 は こ れ ま で に 行 わ れ て お ら ず 、 英 語 教 育 改 革 政 策 の 推 進 と ア イ デ ン テ ィ テ ィ 保 持 の 議 論 は 依 然 平 行 線 を た ど っ た ま ま で あ る 。 日 本 で 英 語 教 育 を 推 進 し て い く た め に は 、 英 語 教 育 は 日 本 の 生 徒 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か を 理 解 す る こ と が 避 け て は 通 れ な い 課 題 で あ る 。

一 方 、 多 様 な 文 化 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 尊 重 ・ 擁 護 し つ つ 言 語 学 習 を 行 う た め の 教 育 方 針 が the European Union(EU) で 推 進 さ れ て い る 。EU は 「 多 様 な 言 語 や 文 化 は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 障 害 と し て で は な く 価 値 あ る 共 通 資 源 と し て 保 護 さ れ 発 展 さ せ ら れ る べ き で あ る 。 し か し な が ら 多 様 性 か ら 相 互 の 理 解 と 豊 か さ を 生 み 出 す に は 教 育 が 必 要 で あ る 」と い う 考 え を 示 し( 鳥 飼 、2017; 吉 島 、 大 橋 、2004)、Content and Language Integrated Learning(CLIL) を 推 進 し て い る 。CLIL と は 教 科 を 母 語 以 外 の 言 語 で 学 び 、 異 な る 文 化 や 観 点 を 理 解 す る こ と に よ っ て 教 科 内 容 の 理 解 を 深 め 言 語 学 習 を 行 う こ と を 目 的 と し て い る 教 育 方 針 で あ る (Coyle, Hood, & Marsh, 2010)。

多 様 な 文 化 や 価 値 観 を 持 つ 人 々 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 尊 重 さ れ 擁 護 さ れ た 上 で 言 語 教 育 を 行 う こ の CLIL と い う 教 育 方 針 は 、 日 本 人 が 自 身 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 脅 か さ れ る こ と な く 、 英 語 力 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 育 成 す る た め の 英 語 教 育 を 推 進 す る こ と に 効 果 が 期 待 で き る と 考 え ら れ る 。CLIL は 英 語 教 育 の 新 し い 試 み と し て 近 年 日 本 で も 取 り 入 れ ら れ 始 め て い る 。 し か し な が ら 、 日 本 と EU と で は 言 語 や 文 化 の 違 い な ど の 事 情 が 異 な る 点 も 多 く 、 CILL が 日 本 の 生 徒 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 成 に ど の よ う な 影 響・効 果 を 与 え る の か は こ れ ま で に は 明 ら か に さ れ て い な い 。

ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う こ と ば は 広 く 使 わ れ て い る が 、そ の 定 義 は 研 究 者 に

(8)

3

よ っ て さ ま ざ ま で 一 定 し て お ら ず(Pilarska, 2014)、ア イ デ ン テ ィ テ ィ 概 念 の 提 唱 者 で あ る エ リ ク ソ ン 自 身 も ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う こ と ば が 多 義 的 で あ り 曖 昧 さ が 残 る こ と を 認 め て い る( 西 平 、1993)。し か し な が ら 、Pilarska(2014)

に よ る と「 ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 基 盤 と な る の は そ の 人 の 自 己(self)で あ る 」と い う 点 で は 研 究 者 の 見 解 は 一 致 し て い る 。 自 己 は ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 包 含 す る 広 義 の 概 念 で あ る(Pilarska, 2014)。そ の 自 己 の 概 念 の さ ま ざ ま な 側 面 を 検 証 す る た め に 使 わ れ る 多 く の 理 論 的 枠 組 み の 中 で も 、自 己 観(self-construal)の 概 念 (Markus & Kitayama, 1991) は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 異 文 化 比 較 研 究 で 広 く 採 用 さ れ て い る 。自 己 観(self-construal)と は 、他 者 と の 関 係 に お い て 自 己 を ど の よ う に 見 る の か を 説 明 す る 概 念 で あ る 。 西 洋 文 化 圏 で は 自 己 を 他 者 か ら 独 立 し た 存 在 と 見 な す 傾 向 の あ る 独 立 的 自 己 観 (independent self- construal)、東 洋 文 化 圏 で は 自 己 を 他 者 と の 関 係 に お い て 見 出 す 傾 向 が 多 く 見 ら れ る と い う 相 互 依 存 的 自 己 観 (interdependent self-construal) が 優 勢 で あ る (Markus & Kitayama, 1991) と さ れ て い る 。

本 研 究 は 、ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 一 つ の 捉 え 方 と し て こ の 自 己 観 の 概 念 を 使 っ て 、 日 本 の 生 徒 の 自 己 観 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 育 成 に 英 語 教 育 が ど の よ う な 影 響 を 与 え る の か に つ い て 、 英 語 教 育 の 新 し い 試 み と し て 近 年 日 本 で も 取 り 入 れ ら れ 始 め て い る CLIL に 基 づ い た 授 業 へ の 高 校 生 と 教 員 の 認 識 を 通 し て 探 求 す る こ と を 目 的 と す る 。

第 II 章 文 献 調 査

第 1 節 グ ロ ー バ ル 化 と 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」

グ ロ ー バ ル 化 が 加 速 し て お り 、異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 機 会 は 増 加 し て い る 。本 研 究 を 進 め る に あ た り 、近 年 広 く 使 わ れ て い る グ ロ ー バ ル 化 、及 び「 グ ロ ー バ ル 人 材 」と い う 用 語 の 定 義 と 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 」に 必 要 と 考 え ら れ て い る 能 力 に つ い て 確 認 し て お く 必 要 が あ る 。

(9)

4 1 . グ ロ ー バ ル 化 (

globalization

「 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン 」と い う 用 語 は 、1960 年 代 初 め に ま で 遡 る こ と が で き る が 、 そ れ か ら 四 半 世 紀 が 過 ぎ た 1990 年 代 に 国 際 社 会 に お け る 相 互 依 存 性 の 高 ま り を 表 す 語 と し て 人 々 の 意 識 を 捉 え る よ う に な っ た(Steger, 2009 櫻 井 他 訳 2013)。Steger(2009) は 、 多 く の 研 究 者 に よ る グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 多 様 な 定 義 を 検 証 し そ れ ら に 共 通 す る 四 つ の 明 確 な 特 徴 を 説 明 し て い る 。 第 一 に 、 伝 統 的 な 政 治 的 ・ 経 済 的 ・ 文 化 的 ・ 地 理 的 な 境 界 を 横 断 す る 新 た な 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク の 創 出 、 第 二 に 、 社 会 的 な 関 係 、 行 動 、 相 互 依 存 の 拡 大 と 伸 長 、 第 三 に 、 社 会 的 な 交 流 と 活 動 の 強 化 と 加 速 、 そ し て 第 四 に 、 客 観 的 ・ 物 質 的 な レ ベ ル だ け で は な く 、 人 間 の 意 識 と い う 主 観 的 な 局 面 を 伴 っ て い る 。 こ れ ら の 特 徴 を 凝 縮 す る と 、 グ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン は 「 世 界 時 間 と 世 界 空 間 を 横 断 し た 社 会 関 係 お よ び 意 識 の 拡 大 ・ 強 化 」 と 定 義 す る こ と が で き る (Steger, 2009)。

政 府 の「 グ ロ ー バ ル 化 」に つ い て の 解 釈 は 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 」

( 議 長 : 内 閣 官 房 長 官 、 構 成 員 : 外 務 大 臣 、 文 部 科 学 大 臣 、 厚 生 労 働 大 臣 、 経 済 産 業 大 臣 、 及 び 国 家 戦 略 担 当 大 臣 ) の 「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 審 議 ま と め 」(2012) の 中 で 示 さ れ て い る 。

「 『 グ ロ ー バ ル 化 』 と は 、 今 日 、 様 々 な 場 面 で 多 義 的 に 用 い ら れ る が 、 総 じ て

( 主 に 前 世 紀 末 以 降 の ) 情 報 通 信 ・ 交 通 手 段 等 の 飛 躍 的 な 技 術 革 新 を 背 景 と し て 、 政 治 ・ 経 済 ・ 社 会 等 あ ら ゆ る 分 野 で 『 ヒ ト 』 『 モ ノ 』 『 カ ネ 』 『 情 報 』 が 国 境 を 越 え て 高 速 移 動 し 、 金 融 や 物 流 の 市 場 の み な ら ず 人 口 ・ 環 境 ・ エ ネ ル ギ ー ・ 公 衆 衛 生 等 の 諸 課 題 へ の 対 応 に 至 る ま で 、 全 地 球 的 規 模 で 捉 え る こ と が 不 可 欠 と な っ た 時 代 状 況 を 指 す も の と 理 解 さ れ る 」 。

2 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」

政 府 は 、 グ ロ ー バ ル 化 し た 世 界 の 経 済 ・ 社 会 に お い て 育 成 ・ 活 用 し て い く べ き 人 材 を 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 と 呼 ん で い る 。 「 グ ロ ー バ ル 化 」 は 英 語 の

“globalization”の 訳 で あ る が 、 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 は 日 本 的 な 概 念 で あ り ( 鳥 飼 、2016)、こ の「 グ ロ ー バ ル 人 材 」に 該 当 す る 英 語 は 存 在 し な い( 鳥 飼 、2016;

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5

吉 田 、2014) 。 最 初 に 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 と い う 用 語 が 使 わ れ た の は 、 ト ヨ タ 自 動 車 が 1999 年 に 打 ち 出 し た 独 自 の 人 事 制 度 に 関 す る 日 本 経 済 新 聞 の 記 事 に お い て で あ る ( 加 藤 、 久 木 元 、2016; 吉 田 、2014) 。 ト ヨ タ 自 動 車 は 「 幹 部 育 成 、 世 界 規 模 で 」 と い う 見 出 し で 、 人 材 育 成 に つ い て 次 の よ う に 説 明 し て い る

(1999年 12 月 8 日 朝 刊 12 頁 ) 。

「 全 世 界 で 約 十 一 万 人 い る 従 業 員 を 『 グ ロ ー バ ル 人 材 』 と 『 ロ ー カ ル 人 材 』 に 分 け て 、 幹 部 候 補 を 世 界 的 に 育 成 す る 。 ( 中 略 ) 日 本 在 籍 の 経 営 幹 部 で あ る 室 長 ク ラ ス 以 上 の 約 八 百 人 を 含 む 合 計 約 千 人 を 『 グ ロ ー バ ル 人 材 』 に 選 び 世 界 の ど こ で も 経 営 幹 部 と し て 活 躍 で き る よ う に 教 育 す る 」 。

こ れ に 続 き 2000 年 代 初 頭 に は 、 外 国 人 や 留 学 経 験 者 を 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 と 呼 ん で 積 極 的 に 採 用 す る 企 業 や 、 従 業 員 へ の 給 与 加 算 を 検 討 す る 企 業 な ど も 取 材 さ れ て い る 。こ の よ う に「 グ ロ ー バ ル 人 材 」と い う 語 は 、2000年 代 前 半 に は 、 各 企 業 が 独 自 の 創 意 工 夫 で 「 開 発 」 し た り 「 育 成 」 し た り す る も の を 指 し て い た ( 加 藤 、 久 木 元 、2016) 。

政 府 が グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 と い う 課 題 を 明 ら か に し 、取 り 組 み に 焦 点 を 絞 っ た 議 論 と し て は 、 経 済 産 業 省 と 文 部 科 学 省 に よ る 「 産 学 人 材 育 成 パ ー ト ナ ー シ ッ プ 」(2007 年 11月 )に 設 置 さ れ た「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 委 員 会 」(2009年 11月 ) と そ の 報 告 (2010 年 4 月 ) が 嚆 矢 で あ る ( 徳 永 、 籾 井 、2011) 。2011 年 4 月 に 設 置 さ れ た「 産 学 連 携 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 推 進 会 議 」が 発 表 し た「 産 学 官 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 の た め の 戦 略 」 で は 、 高 等 教 育 と り わ け 学 部 教 育 に 焦 点 を 合 わ せ て 産 学 官 の 役 割 を 提 起 し て い る に す ぎ な か っ た が 、 翌 年 の 2012年 6月 に「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 」が 審 議 の ま と め と し て 発 表 し た

「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 戦 略 」 で は 、 中 ・ 高 等 教 育 機 関 、 企 業 で の グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 の 問 題 で あ る こ と を 認 識 し た 提 案 と な っ て い る ( 高 橋 、2014) 。

3 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 に 必 要 な 能 力

( 1 )「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 の 定 義 で 示 さ れ て い る 能 力

グ ロ ー バ ル 社 会 で 日 本 人 が 活 躍 す る た め に 今 後 育 成 す る べ き 能 力 と 資 質 に つ

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い て 、 す な わ ち 政 府 が 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 必 要 と 考 え る 能 力 に つ い て は 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 の 定 義 の 中 で こ れ ま で 次 の よ う に 示 さ れ て き た 。

「 産 学 人 材 パ ー ト ナ ー シ ッ プ グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 委 員 会 」 の 「 報 告 書 ~ 産 学 官 で グ ロ ー バ ル 人 材 の 育 成 を ~ 」(2010) で は 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 に 求 め ら れ る 能 力 は 、 「 社 会 人 基 礎 力 、 外 国 語 ( 英 語 ) で の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 、 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 」 と 示 さ れ て い る 。 「 異 文 化 理 解 ・ 活 用 力 」 に つ い て は 、 1 ) 多 様 な 文 化 や 歴 史 を 背 景 と す る 価 値 観 や コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 方 法 等 の 差 異

(「 異 文 化 の 差 」)の 存 在 を 認 識 し て 行 動 す る こ と 、2 )「 異 文 化 の 差 」を「 良 い・悪 い 」と 判 断 せ ず 、興 味・理 解 を 示 し 、柔 軟 に 対 応 で き る こ と 、そ れ に 3 )

「 異 文 化 の 差 」 を 持 っ た 多 様 な 人 々 の 「 強 み 」 を 認 識 し 、 そ れ ら を 引 き 出 し て 相 乗 効 果 に よ っ て 新 し い 価 値 を 生 み 出 す こ と 、 で あ る と し て い る 。

ま た 、翌 年 の「 産 学 官 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 の た め の 戦 略 」(2011)で は 、 「 世 界 的 な 競 争 と 共 生 が 進 む 現 代 社 会 に お い て 、 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を も ち な が ら 、広 い 視 野 に 立 っ て 培 わ れ る 教 養 と 専 門 性 、異 な る 言 語 、 文 化 、 価 値 を 乗 り 越 え て 関 係 を 構 築 す る た め の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 と 協 調 性 、 新 し い 価 値 を 創 造 す る 能 力 、 次 世 代 ま で も 視 野 に 入 れ た 社 会 貢 献 の 意 識 を 持 っ た 人 間 」 と 定 義 し 、 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 を 保 持 す る こ と が 含 ま れ て い る 。

2012 年 に は「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 」が「 グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 審 議 ま と め 」 の 中 で 、 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 の 定 義 に つ い て さ ら に 具 体 的 に 次 の よ う に 示 し て い る 。

「 我 が 国 が こ れ か ら の グ ロ ー バ ル 化 し た 世 界 の 経 済 ・ 社 会 の 中 に あ っ て 育 成 ・ 活 用 し て い く べ き 『 グ ロ ー バ ル 人 材 』 の 概 念 を 整 理 す る と 、 概 ね 、 以 下 の よ う な 要 素 が 含 ま れ る も の と 考 え ら れ る 。

要 素 I: 語 学 力 ・ コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力

要 素 II: 主 体 性 ・ 積 極 性 、 チ ャ レ ン ジ 精 神 、 協 調 性 ・ 柔 軟 性 、 責 任 感 ・ 使 命 感 要 素 III: 異 文 化 に 対 す る 理 解 と 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ

さ ら に 、「 グ ロ ー バ ル 人 材 の 概 念 に 包 含 さ れ る 要 素 の 幅 広 さ を 考 え る と 、 本

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7

来 そ の 資 質 ・ 能 力 は 単 一 の 尺 度 で は 測 り 難 い 」 と し た 上 で 、 「 測 定 が 比 較 的 容 易 な 要 素 I(「 道 具 」と し て の 語 学 力・コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 )を 基 軸 と し て

( 他 の 要 素 等 の 「 内 実 」 も こ れ に 伴 う も の を 期 待 し つ つ ) 、 グ ロ ー バ ル 人 材 の 能 力 水 準 の 目 安 を ( 初 歩 か ら 上 級 ま で ) 段 階 的 に 示 す と 、 例 え ば 以 下 の よ う な も の が 考 え ら れ る 。

① 海 外 旅 行 レ ベ ル

② 日 常 会 話 レ ベ ル

③ 業 務 上 の 文 書 ・ 会 話 レ ベ ル

④ 二 者 間 折 衝 ・ 交 渉 レ ベ ル

⑤ 多 数 者 間 折 衝 ・ 交 渉 レ ベ ル

我 が 国 で は 、① ② ③ レ ベ ル の グ ロ ー バ ル 人 材 の 裾 野 の 拡 大 に つ い て は 着 実 に 進 捗 し つ つ あ る 」 、 「 今 後 は 更 に ④ ⑤ レ ベ ル の 人 材 が 継 続 的 に 育 成 さ れ 、 一 定 数 の 『 人 材 層 』 と し て 確 保 さ れ る こ と が 、 国 際 社 会 に お け る 今 後 の 我 が 国 の 経 済 ・ 社 会 の 発 展 に と っ て 極 め て 重 要 と な る 」 と し 、 次 の よ う な 具 体 的 な 数 値 目 標 を 掲 げ て 、グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 に つ い て の 政 府 の 方 針 を 示 し て い る 。「2012 年 時 点 で の グ ロ ー バ ル 人 材 ( 前 述 の 要 素 I の ③ ④ ⑤ レ ベ ル 相 当 ) は 約 168 万 人 程 度 と 推 計 さ れ 、2017 年 時 点 で は 、約 2.4 倍 の 約 411 万 人 程 度 必 要 と な る こ と が 見 込 ま れ る 。18 歳 人 口 は 110~120 万 人 程 度 を 推 移 す る も の と 考 え れ ば そ の 約 10%の 約 11 万 人 程 度 が 、 前 述 の ④ ⑤ レ ベ ル の グ ロ ー バ ル 人 材 の 潜 在 的 候 補 者 と な っ て い る こ と を 目 指 し 、 ③ レ ベ ル の グ ロ ー バ ル 人 材 に つ い て も 相 当 程 度 の 厚 み の あ る 人 材 層 を 形 成 す る こ と が 必 要 と な る 」 こ と を 示 し て い る 。

政 府 が「 グ ロ ー バ ル 人 材 」に 必 要 な 能 力 は 、英 語 力 に 加 え 、主 体 性 や 積 極 性 、 異 文 化 理 解 、 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 保 持 と 捉 え て い る こ と が 分 か る が 、 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 に は ど の よ う な 要 素 が 必 要 と さ れ て い る の だ ろ う か 。

( 2 ) 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の

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つ の 要 素

Wiseman(2002)に よ る と 、異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 に は 、モ チ ベ ー シ ョ ン(motivation)、知 識(knowledge)、考 え 方(attitudes)、行 動(behaviors)

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と い う 4つ の 基 本 的 な 要 素 が あ る 。 モ チ ベ ー シ ョ ン (motivation) は 、 相 手 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を し た い と 思 う こ と 、 自 身 や 相 手 に つ い て 知 り た い と 思 う こ と で あ る 。 知 識 (knowledge) は 、 自 分 自 身 に つ い て の 知 識 、 ま た 自 分 自 身 の 強 み や 弱 み を 分 か っ て い る こ と(self-knowledge)、異 文 化 の 人 々 の 考 え 方 や 行 動 に つ い て の 知 識 を 持 っ て い る こ と(other-knowledge)、母 語 以 外 の 言 語 の 知 識 を 持 っ て い る こ と や 母 語 以 外 の 言 語 を 習 得 す る こ と の 難 し さ が 分 か っ て い る こ と(linguistic knowledge)で あ る 。考 え 方(attitudes)に は 、相 手 が 自 分 が 分 か ら な い よ う な 行 動 や 考 え を 示 し て も そ れ は そ れ と し て そ の ま ま 受 け 止 め る こ と (tolerance for ambiguity)、 相 手 の 立 場 に 立 っ て 考 え ら れ る こ と

(empathy)、 自 分 の 文 化 の 概 念 に 基 づ い て 相 手 の 文 化 を 評 価 し な い こ と

(nonjudgementalism)が 含 ま れ る 。そ し て 、こ れ ら を 実 際 に 行 動(behaviors)

に 移 す こ と が で き る こ と が 異 文 化 間 で よ り 良 い 人 間 関 係 を 築 い て い く 上 で 重 要 で あ る 。し か し な が ら 、こ れ ら の 能 力 を 備 え て い て も 、相 手 の こ と が 知 り た い 、 相 手 と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を し た い と い う モ チ ベ ー シ ョ ン が な け れ ば そ の 能 力 は 役 に は 立 た な い た め 、こ れ ら 4 つ の 要 素 の 中 で 最 も 重 要 と 考 え ら れ る の は モ チ ベ ー シ ョ ン (motivation) で あ る (Martin & Nakayama, 2013)。 言 語 教 育 を 効 果 的 に 行 う に は 、 学 習 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン を ど う 高 め る か を 工 夫 す る こ と が 必 要 で あ る (Berard & Deardorff, 2012)。

第 2 節 日 本 の 英 語 教 育 改 革 政 策

文 部 科 学 省 は 、2000 年 に 入 り グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 す る た め の 英 語 教 育 改 革 政 策 を 次 々 と 打 ち 出 し て き た( 文 部 科 学 省 、2002, 2003, 2008.6, 2008.7, 2008.8, 2009, 2013, 2014, 2017)。 英 語 教 育 を 通 し て 、 英 語 力 の 育 成 の み な ら ず 、 積 極 的 ・ 主 体 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 、 異 文 化 理 解 能 力 の 育 成 、 学 習 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 揚 を 目 指 し て い る が 、 英 語 教 育 改 革 政 策 文 書 で は 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 保 持 の 重 要 性 に つ い て も 必 ず 言 及 さ れ て い る 。

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9 1 . 英 語 力 育 成

英 語 教 育 改 革 政 策 で は 、 日 本 の 生 徒 の 英 語 力 育 成 の た め 、 従 来 の 文 法 訳 読 中 心 の 指 導 や 、 教 員 か ら 生 徒 へ の 一 方 向 的 な 授 業 で は な く 、 授 業 の 中 で 生 徒 が 実 際 に 英 語 で コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン で き る よ う に す る こ と が 重 要 と い う 考 え が 示 さ れ て い る 。

さ ら に 、 「 英 語 の 授 業 を 英 語 で 行 う 」 こ と で 、 生 徒 が 英 語 に 触 れ る 機 会 を 与 え 授 業 を 実 際 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 場 面 と す る こ と を 新 た な 英 語 教 育 の あ り 方 と し て 示 し て い る 。

2002年 の「『 英 語 が 使 え る 日 本 人 』の 育 成 の た め の 戦 略 構 想 の 策 定 に つ い て 」 で は 、 グ ロ ー バ ル 化 が 進 展 す る 社 会 で 、 子 ど も 達 が 21 世 紀 を 生 き 抜 く た め に は 、 国 際 的 共 通 語 と な っ て い る 英 語 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 身 に 付 け る こ と が 必 要 で あ り 、 非 常 に 重 要 な 課 題 で あ る と い う 認 識 を 示 し て い る 。

2003 年 の「『 英 語 が 使 え る 日 本 人 』の 育 成 の た め の 行 動 計 画 」で は 、「『 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 手 段 』と し て の 英 語 」と い う 観 点 を 示 し 、「 英 語 が 使 え る 」 よ う に な る た め に は 、 文 法 や 語 彙 の 知 識 だ け で な く 、 実 際 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 目 的 と し て 英 語 を 運 用 す る 能 力 が 必 要 と い う 見 解 を 示 し て い る 。 文 法 訳 読 中 心 の 指 導 や 教 員 の 一 方 的 な 授 業 で は な く 、 英 語 を コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 手 段 と し て 使 用 し コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 成 を 図 る よ う に 工 夫 す る こ と 、 ま た 主 に 英 語 で 授 業 を 展 開 し 生 徒 が 英 語 で コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 行 う 場 面 を 多 く 設 定 す る こ と が 重 要 と し て い る 。

2013 年 の「 グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 し た 英 語 教 育 改 革 実 施 計 画 」に お い て 、中 学 校 で は 授 業 を 英 語 で 行 う こ と を 基 本 と し 、 高 等 学 校 で は 授 業 は 英 語 で 行 う と と も に 発 表 や 討 論 、 交 渉 等 な ど を 取 り 入 れ 言 語 活 動 を 高 度 化 す る こ と を 新 た な 英 語 教 育 の 在 り 方 と し て 示 し て い る 。授 業 を 英 語 で 行 う こ と を 基 本 と す る 趣 旨 は 、 中 学 校 ・ 高 等 学 校 と も に 、 「 生 徒 が 英 語 に 触 れ る 機 会 を 充 実 す る と と も に 、 授 業 を 実 際 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 場 面 と す る た め 」 と い う 考 え を 示 し て い る 。 ま た 、2020 年 度 か ら は 現 行 の 大 学 入 試 セ ン タ ー 試 験 に 代 え て「 大 学 入 学 共 通 テ ス ト 」 が 導 入 さ れ る ( 文 部 科 学 省 、2017) 。 文 部 科 学 省 (2017) は 、「 グ ロ ー バ ル 化 が 急 速 に 進 展 す る 中 、 英 語 に よ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 向 上 が 課

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題 で あ り 、大 学 入 学 者 選 抜 に お い て も 英 語 の 4 技 能( 読 む 、書 く 、話 す 、聞 く ) を 適 切 に 評 価 す る 必 要 が あ る 」 と し て お り 、 民 間 事 業 者 等 に よ る 資 格 ・ 検 定 試 験 を 活 用 し て 評 価 し 英 語 4技 能 評 価 を 推 進 す る と し て い る 。

2 . 積 極 的 ・ 主 体 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 さ ら に 、 政 府 は 日 本 の 生 徒 が 積 極 的 ・ 主 体 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン し よ う と す る 態 度 を 育 成 す る た め に も 、 文 法 や 訳 読 に 偏 ら ず 授 業 で 実 際 に 英 語 を 使 う 言 語 活 動 を 重 視 す る べ き だ と い う 考 え を 示 し て い る 。

2003 年 の「『 英 語 が 使 え る 日 本 人 』の 育 成 の た め の 行 動 計 画 」で は 、「 外 国 語 ( 外 国 語 は 英 語 が 原 則 ) を 通 じ て 、 積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 も 重 視 す る 」こ と を 示 し た 。2008 年 の 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 -外 国 語 活 動 編 、中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説-外 国 語 編 、2009年 の 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説-外 国 語 編・英 語 編 で も 、「 積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 を 図 る 」 こ と が 目 標 と し て 掲 げ ら れ て い る 。 こ の 「 積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 の 育 成 」 と い う 表 現 は 、 外 国 語 編 ( 英 語 編 ) の 学 習 指 導 要 領 解 説 の み に 示 さ れ て お り 、 国 語 編 の 学 習 指 導 要 領 解 説 ( 文 部 科 学 省 、2008.6, 2010) で は 言 及 さ れ て い な い 。

2014 年 の「 今 後 の 英 語 教 育 の 改 善・充 実 方 策 に つ い て 」で は 、日 本 で は 日 常 生 活 で 英 語 を 使 用 す る 機 会 は 限 ら れ て い る と し た 上 で 、 「 学 習 の 過 程 で は 、 発 音・表 現・文 法 等 が あ や ふ や に な っ た り 間 違 っ た り す る の は 当 然 の こ と で あ る 。 そ う し た 失 敗 を 恐 れ ず 、積 極 的 に 英 語 を 使 お う と す る 態 度 を 育 成 す る た め に も 、 授 業 に お い て 実 際 に 英 語 を 使 う 言 語 活 動 を よ り 一 層 重 視 す る 必 要 が あ る 」 と し て い る 。 文 法 や 訳 読 に 偏 る こ と な く 、 英 語 の 教 科 書 の 本 文 や 題 材 を 生 徒 が 関 心 を 持 て る よ う に 指 導 す る こ と や 、他 教 科 と の 関 連 付 け を 行 う こ と を 示 し て い る 。 ま た 外 国 語 の 目 標 の 一 つ と し て 、 積 極 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 を 育 成 し 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 養 う こ と を 挙 げ て お り 、 英 語 教 育 を 通 し て 積 極 性 を 養 う こ と を 目 指 し て い る 。

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11 3 . 異 文 化 理 解 能 力 の 育 成

英 語 教 育 を 通 し て 、言 語 や 文 化 に 対 す る 理 解 を 深 め る と い う と い う 目 標 が 小 学 校 、 中 学 校 、 及 び 高 等 学 校 の 学 習 指 導 要 領 に 掲 げ ら れ て い る ( 文 部 科 学 省 、 2003, 2008.7, 2008.8, 2009) 。

2009 年 の 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説-外 国 語 編 ・ 英 語 編 で は 、 異 文 化 理 解 は 自 文 化 と の 相 対 的 関 係 に お い て 理 解 す る も の で あ る と し 、 異 文 化 と 対 峙 す る こ と に よ り 自 文 化 や 異 文 化 を よ り 良 く 理 解 で き る と い う 見 方 を 示 し て い る 。 英 語 授 業 で 取 り 扱 う 内 容 に つ い て は 「 必 要 に 応 じ て 、 我 が 国 の 事 情 や 文 化 な ど を 取 り 上 げ 、 外 国 の 事 情 や 文 化 と の 類 似 点 や 相 違 点 に つ い て 考 え さ せ る と と も に 、 他 の 教 科 等 と の 関 連 に も 配 慮 す る も の と す る 」 と し て い る 。

2017 年 の 小 学 校 及 び 中 学 校 の 学 習 指 導 要 領 で は 、「 外 国 語 に よ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お け る 見 方 ・ 考 え 方 を 働 か せ 、 外 国 語 の 背 景 に あ る 文 化 に 対 す る 理 解 を 深 め 、 相 手 ( 中 学 校 の 学 習 指 導 要 領 で は 、 聞 き 手 、 読 み 手 、 話 し 手 、 書 き 手 )に 配 慮 し な が ら 、主 体 的 に コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 図 ろ う と す る 態 度 を 養 う 」 こ と を 目 標 と し て 示 し て い る 。

4 . 学 習 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 揚

文 部 科 学 省 は 、 学 習 者 の モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 揚 を 図 る た め 、 留 学 生 と の 交 流 活 動 等 を 通 し て 外 国 人 と ふ れ あ う 機 会 を 作 る こ と 、 ま た 高 校 生 や 大 学 生 の 留 学 を 促 進 し 、 英 語 を 使 う 機 会 を 拡 充 す る と い う 方 針 を 示 し て い る ( 文 部 科 学 省 、 2002) 。

2003 年 の「『 英 語 が 使 え る 日 本 人 』の 育 成 の た め の 行 動 計 画 」で は 、「 学 習 者 が 、 自 分 を 表 現 し 、 相 手 を 理 解 す る こ と が で き た 成 就 感 や 学 ぶ 楽 し さ を 味 わ う こ と が で き 、 さ ら に 、 英 語 が で き る こ と の 意 義 、 必 要 性 や 、 そ の こ と に よ っ て 広 が る 世 界 や 可 能 性 に 興 味 や 関 心 を 持 つ こ と が で き る よ う に 指 導 を 工 夫 す る こ と も 大 切 で あ る 」と し 、モ チ ベ ー シ ョ ン の 高 揚 の た め 毎 年 10,000 人 の 高 校 生 が 海 外 留 学 を す る こ と な ど を 5 年 後 の 平 成 20 年 度 ま で の 目 標 と し て 掲 げ て い る 。

し か し な が ら 、実 際 の 英 語 授 業 の 中 で 具 体 的 に は ど の よ う に す れ ば 生 徒 の モ

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チ ベ ー シ ョ ン を 高 め る こ と が で き る の か に つ い て は 、 明 確 な 方 針 は 示 さ れ て い な い 。

5 . 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」

グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 (2012) は 、「 産 業 ・ 経 済 の 急 速 な 高 度 化 ・ グ ロ ー バ ル 化 の 中 で 、 あ ら た め て 海 外 に 目 を 向 け て 『 世 界 の 中 の 日 本 』 を 明 確 に 意 識 す る と と も に 、 自 ら の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 見 つ め 直 す こ と が 不 可 欠 」 だ と い う 見 解 を 示 し て い る 。

2013 年 に 閣 議 決 定 さ れ た 教 育 振 興 基 本 計 画 で は 、「 グ ロ ー バ ル 化 が 加 速 す る 中 で 、 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ や 日 本 の 文 化 に 対 す る 深 い 理 解 を 前 提 と し て 」 グ ロ ー バ ル 人 材 を 育 成 す る こ と が 重 要 で あ る と の 指 摘 が な さ れ て い る

( 文 部 科 学 省 、2014) 。

「 グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 し た 英 語 教 育 改 革 実 施 計 画 」( 文 部 科 学 省 、2013)で は 、 「 グ ロ ー バ ル 化 が 進 む 中 、 国 際 社 会 に 生 き る 日 本 人 と し て の 自 覚 を 育 む た め 、 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 育 成 す る た め の 教 育 の 在 り 方 に つ い て 検 討 し 、 そ の 成 果 を 次 期 学 習 指 導 要 領 改 訂 に 反 映 さ せ る 」 と し て い る 。 ま た 、

「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 関 す る 教 育 の 充 実 に つ い て 」 と し て 、 日 本 の 歴 史 、 伝 統 文 化 、 国 語 に 関 す る 教 育 を 推 進 す る こ と を 示 し て い る 。

具 体 的 に は 、 歴 史 学 習 に つ い て は 、 小 学 校 で は 文 化 遺 産 の 学 習 を 新 設 し 、 中 学 校 で は 授 業 時 数 を 25 時 間 増 や し て 130 時 間 と す る 、 中 ・ 高 等 学 校 で 近 現 代 史 を 重 視 す る と し て い る 。伝 統 文 化 に 関 す る 学 習 内 容 と し て 、そ ろ ば ん 、和 装 、 和 楽 器 、美 術 文 化 等 の 充 実 、武 道 を 必 修 化 す る 。国 語 教 育 で は 、小 学 校 で 計 84 時 間 、中 学 校 で 計 35 時 間 の 授 業 時 数 の 増 加 、小 学 校 の 低・中 学 年 で 古 典 の 内 容 を 新 設 、 中 学 校 で 文 学 教 材 の 充 実 の た め 近 代 以 降 の 代 表 的 な 作 家 の 作 品 を 取 り 上 げ る 、小・中・高 等 学 校 を 通 じ て 、国 語 科 を は じ め 全 教 科 等 で 、説 明 、論 述 、 討 論 等 の 言 語 活 動 を 充 実 す る と し て い る 。

2017年 3 月 に 改 訂 さ れ た 小・中 学 校 の 新 学 習 指 導 要 領 に お い て も 、「 グ ロ ー バ ル 化 す る な か で 世 界 と 向 き 合 う こ と が 求 め ら れ て い る 我 が 国 に お い て は 、 日 本 人 と し て の 美 徳 や よ さ を 備 え つ つ グ ロ ー バ ル な 視 野 で 活 躍 す る た め に 必 要 な 資 質 ・ 能 力 の 養 成 」 を 目 指 す と い う 考 え を 示 し て い る 。

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6 .「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 育 成 に お け る 現 状 で の 課 題

政 府 は 「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 を 育 成 す る に あ た っ て 、 日 本 人 の 英 語 力 不 足 と 若 者 の 「 内 向 き 志 向 」 を 課 題 と し て 指 摘 し て い る 。 さ ら に 急 速 な グ ロ ー バ ル 化 の 進 展 を 背 景 に 、 日 本 の 生 徒 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 育 成 の 重 要 性 を 強 調 し て い る 。

英 語 力 不 足

グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 に は 英 語 力 育 成 が 急 務 と さ れ て い る が 、日 本 人 の 英 語 力 不 足 が 問 題 と し て 取 り 上 げ ら れ て い る ( 産 学 連 携 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2011; グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2012; 文 部 科 学 省 、2012) 。

実 際 に 客 観 的 デ ー タ を 見 て も 、ア メ リ カ に 拠 点 を 置 く テ ス ト プ ロ グ ラ ム 開 発 機 関 ETS(Educational Testing Service) に よ る 2016 年 の TOEFL の 成 績 の 国 別 ラ ン キ ン グ で は 、 日 本 は 170 か 国 中 145 位 、 ア ジ ア 30 か 国 中 で は 26 位 と 低 迷 し て い る 。 ま た 、 ス イ ス の 研 究 教 育 機 関 IMD(International Institute for Management Development) の 2017 年 世 界 競 争 力 ラ ン キ ン グ の 「 外 国 語 の ス キ ル 」 指 標 で は 、 日 本 は 63 か 国 中 59位 と な っ て い る 。

日 本 に は 何 年 学 ん で も 「 英 語 が 話 せ な い 」 と い う 不 満 が あ り 、 そ の 原 因 に つ い て は 、 日 本 語 と 英 語 が 構 造 的 に 大 き く 異 な る こ と 、 英 語 の 授 業 が 文 法 ・ 読 解 中 心 で あ る こ と 、 英 語 を 使 う 機 会 が 少 な い こ と な ど が 挙 げ ら れ て い る こ と が 多 い( 江 利 川 、2013; 大 津 、2009; 小 宮 、2014; 斎 藤 、2009, 2013, 2014)。日 本 の 小・中 学 校 で イ マ ー ジ ョ ン 教 育 を 行 っ て き た Bostwick(2001)は 、こ れ ま で 多 く の 言 語 学 者 が 提 唱 し て き た よ う に 日 本 語 と 英 語 で は 、音 声 学 的 、意 味 論 的 、 統 語 論 的 な 違 い が 存 在 す る と 主 張 す る 。高 野 (1990)は 、 日 本 人 が 英 語 を 話 せ な い の は 、 日 本 語 と 英 語 で は 構 造 の 差 が 大 き く 習 得 す る の は 難 し い こ と に 加 え て 、 文 法 的 に 正 し い 英 語 に こ だ わ り 過 ぎ る こ と に 問 題 が あ る の で は な い か と 指 摘 す る 。ま た 倉 橋(2014)は 、日 本 人 は 英 語 を 母 語 と し な い 人 と 話 す 時 よ り も 英 語 の 母 語 話 者 と 話 す 時 の 方 が 緊 張 し や す い と い う こ と を 示 し た 。 英 語 に 対 す る 自 信 の な さ が 緊 張 感 に 影 響 を 与 え て い る こ と が 表 れ て い る と 説 明 し て い る 。 土 屋(2016)も 、日 本 で は 生 徒 は 間 違 う こ と を 恐 れ て 、 他 の 生 徒 や 教 員 の 前 で 英 語 を 話 す こ と に と て も 抵 抗 が あ る と い う 。 内 永(2011)は 、グ ロ ー バ ル 社 会

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で は 英 語 人 口 の 約 7 割 は 英 語 を 母 語 と し な い 人 が 占 め て い る こ と か ら 、 た と え 発 音 や イ ン ト ネ ー シ ョ ン が 違 っ て い て も 日 本 語 な ま り の 英 語 で あ っ て も 臆 す る こ と な く 、 自 信 を 持 っ て 積 極 的 に 堂 々 と 話 す べ き だ と 主 張 し て い る 。

若 者 の 「 内 向 き 志 向 」

現 状 の 問 題 点 と し て 、 海 外 留 学 す る 日 本 人 学 生 が 2004 年 以 降 減 少 に 転 じ て い る こ と( グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2012)、海 外 勤 務 を 望 ま な い 若 手 社 員 が 2001 年 に は 3 割 程 度 だ っ た が 2010 年 に は 5 割 程 度 ま で 増 加 す る な ど ( 産 学 連 携 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2011)、日 本 の 若 者 の い わ ゆ る「 内 向 き 志 向 」 が 見 ら れ る こ と が 懸 念 さ れ て い る ( 産 学 連 携 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2011; グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2012)。そ し て こ れ ら は 必 ず し も 若 者 の 志 向 に 起 因 す る も の で は な く 、 若 者 の 興 味 や 関 心 を 海 外 に 向 け さ せ る 工 夫 を す る こ と や 、 こ れ ら を 生 み 出 し て い る 諸 要 因 を 取 り 除 く こ と が 、 グ ロ ー バ ル 人 材 を 育 成 す る た め の 日 本 社 会 の 責 務 と い う 考 え を 示 し て い る ( 産 学 連 携 に よ る グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2011)。

諸 外 国 の 中 で 経 済 成 長 の 著 し い 中 国 や イ ン ド が 海 外 留 学 者 数 を 大 き く 増 加 さ せ 、 人 口 規 模 が 日 本 の 約 半 分 で あ る 韓 国 も 海 外 留 学 者 の 実 数 で は 日 本 を 抜 い て お り し か も そ の 差 は 拡 大 傾 向 に あ る( グ ロ ー バ ル 人 材 育 成 推 進 会 議 、2012)。

シ ョ ー(2014)は 、日 本 人 が グ ロ ー バ ル 社 会 で 活 躍 す る た め に は 積 極 的 に 外 に 出 て い く こ と 、 外 か ら 来 た 人 と 交 流 す る こ と に 対 し て 躊 躇 し な い こ と が 必 要 だ と 指 摘 し て い る 。

日 本 の 生 徒 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 育 成

文 部 科 学 省 は 、 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 育 成 の た め に 、 日 本 の 歴 史 、 文 化 、 言 語 に 関 す る 学 習 を さ ら に 充 実 さ せ る と い う 考 え を 示 し て い る 。 し か し な が ら 、鑪(1990)は 、こ れ ま で 伝 統 社 会 と し て の 日 本 は 新 し い 経 験 や 異 質 の 文 化 に 抵 抗 を 示 す 傾 向 が 強 か っ た が 、 人 は 異 質 な も の に 接 し て い く 時 に 自 分 の 本 質 を 明 ら か に し て い く こ と が で き る た め 、 異 な る 言 語 や 文 化 に 触 れ る こ と は 自 己 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 明 確 に し て い く 上 で 、 そ し て 日 本 人 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 明 確 に し て い く 上 で 重 要 な 経 験 で あ る と 主 張 す る 。 母 語 は 人 々 の ア

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イ デ ン テ ィ テ ィ と 密 接 な 関 わ り を 持 っ て い る ( 太 田 、2003) が 、 神 谷 (2008) は 、 日 本 で は 大 多 数 の 国 民 が 日 本 語 と い う 共 通 し た 言 語 を 使 っ て お り 、 こ と ば は 民 族 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ で あ る と い う 感 覚 を 本 当 の 意 味 で 理 解 す る の は 難 し い と い う 。 庄 司(2005)は 、こ と ば は そ れ ぞ れ 言 語 構 造 や 語 法 に 特 徴 を 持 っ て お り 、 特 に 異 言 語 話 者 と 接 触 す る 時 に 、 そ の 特 徴 を 意 識 し 、 自 己 の 言 語 に 強 い 帰 属 意 識 ( ア イ デ ン テ ィ テ ィ ) を 感 じ る と 主 張 し て い る 。 ま た 、 星 野 (1994) も 、 異 文 化 を 経 験 す る こ と で 、 柔 軟 で あ り な が ら し っ か り し た 自 我 ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 確 立 で き る と す る 。 平 畑 (2014) は 、JICA(Japan International Cooperation Agency: 国 際 協 力 機 構 ) の 青 年 海 外 協 力 隊 日 本 語 教 員 26 人 に 海 外 で の 経 験 を ど う 捉 え 、 日 本 社 会 に お け る 自 身 の 位 置 づ け を ど の よ う に 考 え て い る の か に つ い て 、 個 別 に イ ン タ ビ ュ ー 調 査 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 そ の ほ と ん ど が 海 外 で 協 力 隊 と し て 活 動 す る こ と に よ っ て 日 本 に 対 す る 意 識 の 変 化 、 愛 情 の 高 ま り が 生 じ た こ と に つ い て 明 言 し 、 一 部 は 日 本 に 対 す る 貢 献 へ の 意 欲 、 ま さ し く 「 日 本 人 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 と 呼 び 得 る も の が 生 ま れ た こ と に 言 及 し た こ と を 示 し て い る 。 自 身 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 認 識 す る た め に は 、 異 文 化 を 体 験 す る こ と が 重 要 で あ る と い う こ と が 実 証 さ れ て い る 。

「 グ ロ ー バ ル 人 材 」 育 成 に 関 す る 文 部 科 学 省 の 文 書 で は 「 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 」 と い う 用 語 が グ ロ ー バ ル 人 材 に 不 可 欠 な 資 質 と し て 挙 げ ら れ て い る が 、 自 明 の 了 解 事 項 で あ る か の よ う に 、 こ の 用 語 に つ い て の 説 明 は な さ れ て い な い ( 石 井 、2016) 。

第 3 節 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 概 念

ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う 概 念 は 、 精 神 分 析 学 の 大 家 で あ る エ リ ク ソ ン

(Erikson, E. H.)の 論 文 集「 幼 児 期 と 社 会(“Childhood and society”)」(1950)

の 発 達 論 の 中 で 、 青 年 期 に 関 す る 独 特 の 考 え と し て 提 唱 さ れ た ( 鑪 、1990) 。 鑪(1990)に よ る と 、人 間 生 涯 全 体 を 見 通 し て 考 察 さ れ た 精 神 発 達 観 を 示 し 乳 児 期 か ら 老 年 期 ま で の 心 理 ・ 社 会 的 な 自 我 の 性 質 を 心 理 力 動 的 な 観 点 か ら 捉 え た エ リ ク ソ ン に よ る「 個 体 発 達 分 化 の 図 式(Epigenetic scheme)」に 示 さ れ る

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よ う に 、 思 春 期 ・ 青 年 期 の 主 題 と し て ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 出 て く る と い う こ と で あ る 。 そ れ ま で 他 の 人 の 考 え や 行 動 を 受 け 入 れ 同 一 化 し 取 り 入 れ て い た こ と に 対 し て 、 思 春 期 ・ 青 年 期 の 他 人 の 影 響 か ら 少 し ず つ 離 れ 自 分 で 自 分 を つ く っ て い こ う と す る 心 の 動 き を エ リ ク ソ ン は「 同 一 化(identification)」か ら「 同 一 性(identity)」へ の プ ロ セ ス と 言 っ て い る( 鑪 、1990)。こ の 独 特 な 概 念 は 現 在 で は 青 年 期 に 関 す る 研 究 に と ど ま ら ず 、 人 間 存 在 の 基 本 構 造 を 表 現 し 、 解 明 す る 用 語 と し て 使 用 さ れ て い る ( 鑪 、1990) 。

宮 下 (2014) は 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ は 欧 米 で 生 ま れ た 概 念 で あ り 、 「 自 己 」 や 「 個 」 が 中 心 に 据 え ら れ て い る こ と か ら 、 集 団 主 義 が 優 勢 な 日 本 で は こ の 概 念 自 体 が 日 本 人 に は 適 合 し な い と 考 え ら れ て き た 可 能 性 が 考 え ら れ る と し て い る 。 し か し な が ら 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ は 個 人 主 義 や 集 団 主 義 な ど の 文 化 に 依 存 す る の で は な く 、 人 間 が 社 会 ( 人 間 関 係 ) へ の 適 応 の た め に 行 う 機 能 の 総 称 を 意 味 す る と 考 え る べ き だ と 主 張 す る 。

エ リ ク ソ ン は そ の 複 数 の 著 作 で ア イ デ ン テ ィ テ ィ 概 念 に つ い て「 内 的 な 斉 一 性 (sameness) と 連 続 性 (continuity) を 維 持 す る 個 人 の 能 力 が 、 他 者 に 対 す る 自 己 の 斉 一 性 と 連 続 性 と 合 致 す る と い う 確 信 」で あ る と 説 明 し て い る( 大 野 、 2014; 鈴 木 、2014; 鑪 、 山 下 、1999) 。 斉 一 性 と は 、 自 分 は ほ か の 誰 と も 違 う 自 分 で 私 は 一 人 し か い な い と い う 感 覚 で あ り 、 連 続 性 と は 、 過 去 の 自 分 も 、 現 在 の 自 分 も 、 将 来 の 自 分 も 自 分 自 身 で あ る と い う 感 覚 で あ る ( 大 野 、2014) 。 し か し な が ら 、西 平 (1993)は 、エ リ ク ソ ン 自 身 も ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う 言 葉 は 多 義 的 で あ り 曖 昧 さ が 残 る こ と を 認 め て お り 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ と い う 言 葉 は 、 そ の つ ど 生 き た 場 面 に 深 く 根 差 し た も の で あ り 、 具 体 的 な 生 き た 場 面 で 語 ら れ る こ と に よ っ て は じ め て 意 味 を 受 け 取 り 、 個 々 の 場 面 に お い て 、 そ の つ ど 定 義 を 受 け 取 っ て い く と し て い る 。

ア イ デ ン テ ィ テ ィ は 、 心 理 学 、 社 会 学 、 文 化 人 類 学 な ど の さ ま ざ ま な 学 問 分 野 で 研 究 が 行 わ れ て い る が 、 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 学 で は 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ と コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 密 接 な 繋 が り に 基 づ い て ア イ デ ン テ ィ テ ィ 研 究 を 発 展 さ せ て い る 。ア イ デ ン テ ィ テ ィ は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 過 程 の 中 で か た ち 作 ら れ 、 維 持 さ れ 、 修 正 さ れ 、 そ れ ら は ま た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 反 映 さ れ る も の で あ

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り (e.g. Martin & Nakayama, 2014; Ting-Toomey & Chung, 2012) 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 表 現 さ れ 、 相 手 と や り 取 り さ れ る 、 つ ま り ア イ デ ン テ ィ テ ィ は コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に よ っ て 外 在 化 さ れ る も の で あ る (Hecht, Warren, Jung, & Krieger, 2005) 。 自 分 が 考 え て い る 自 分 と 他 者 が 考 え る 自 分 に 食 い 違 い が あ る 時 に 、 対 立 が 起 こ る 可 能 性 が あ る た め 、 ア イ デ ン テ ィ テ ィ は 、 特 に 異 文 化 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に お い て 重 要 な 概 念 と し て 認 識 さ れ て い る (Martin & Nakayama, 2014) 。

Norton(2013)に よ る と 、世 界 的 に は 言 語 教 育 の コ ン テ キ ス ト に お け る ア イ デ ン テ ィ 研 究 は 近 年 増 加 の 傾 向 が 見 ら れ る と い う こ と だ が 、 日 本 で の ア イ デ ン テ ィ テ ィ 研 究 は 少 な く( 鑪 、山 本 、宮 下 、1984; 鑪 、宮 下 、岡 本 、1995、1997、

2002; 宮 下 、2014)、鑪 、山 本 、宮 下(1984)、鑪 、宮 下 、岡 本(1995、1997)、

及 び 、鑪 、岡 本 、宮 下(2002)に よ る 、1950 年 か ら 1996年 ま で に 世 界 で 行 わ れ た ア イ デ ン テ ィ テ ィ 研 究 を 調 査 し た「 ア イ デ ン テ ィ テ ィ 文 献 一 覧 」に よ る と 、 日 本 の 英 語 教 育 の コ ン テ キ ス ト に お け る ア イ デ ン テ ィ テ ィ に つ い て の 実 証 的 な 研 究 は 1996 年 ま で に は 行 わ れ て お ら ず 、 以 後 も 調 べ 得 る 限 り で は 見 受 け ら れ な い 。

第 4 節 英 語 教 育 が 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ に 与 え る 影 響

文 部 科 学 省 は グ ロ ー バ ル 社 会 で 日 本 人 が 活 躍 す る た め に 必 要 と さ れ て い る 英 語 力 と 異 文 化 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 育 成 す る た め の 英 語 教 育 改 革 政 策 を 推 進 し て い る 。 一 方 で 日 本 に は 、 英 語 教 育 の 推 進 は 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 脅 か す と い う 議 論 も 多 く 存 在 す る 。

1 . 英 語 教 育 改 革 政 策 文 書 の デ ィ ス コ ー ス 分 析 に よ る 研 究

日 本 で は 従 来 、英 語 教 育 の 推 進 と 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ の 育 成 は 、 二 項 対 立 と し て 認 識 さ れ て き た 。 こ の こ と は 、 英 語 教 育 が 日 本 人 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ へ の 脅 威 と し て 国 民 の 目 に 映 ら な い よ う に( 森 住 、2016)、文 部 科 学 省 の 英 語 教 育 改 革 に 関 す る 文 書 が 日 本 人 と し て の ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 重 視 し た も の

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に な っ て い る ( 森 住 、2016; Hashimoto, 2000, 2007, 2013) こ と か ら も 窺 い 知 る こ と が で き る( 森 住 、2016)。Simpson(2007)は 、日 本 で は 、英 語 は 学 ぶ が 、 他 の 言 語 を 学 ぶ こ と に よ っ て 得 ら れ る 異 な る 価 値 観 は 受 け 入 れ ら れ な い と 考 え て い る と も 受 け 取 ら れ か ね な い と 指 摘 す る 。 世 界 50 か 国 以 上 で の 英 語 教 育 へ の 反 応 を 調 査 し た Dearden(2015)も 英 語 教 育 の 文 脈 で 国 民 の ア イ デ ン テ ィ テ ィ が 大 き な 問 題 と し て 取 り 上 げ ら れ る 国 の 一 つ と し て 日 本 を 挙 げ て お り( 森 住 、 2016)、 日 本 政 府 は こ れ ま で 英 語 教 育 改 革 を 行 う 度 に 英 語 教 育 の 重 要 性 に 加 え 日 本 的 価 値 観 や 日 本 人 ら し さ を 保 持 す る こ と の 重 要 性 を 唱 え て い る

(Seargeant, 2009)。

2 . 日 本 語 と 日 本 の 社 会 ・ 人 間 関 係 と の 密 接 な 関 係 に つ い て の 研 究

言 語 学 者 の Edward Sapirと Benjamin Lee Whorf が 示 す よ う に 、 言 語 と 文 化 は 互 い に 影 響 を 与 え 合 い 、 言 語 に は そ の 文 化 の 考 え 方 や 価 値 観 、 行 動 の 規 範 が 反 映 さ れ て い る (Lane, 2010; Martin & Nakayama, 2014; Ting -Toomey &

Chung, 2012)。日 本 で も 多 く の 学 者 が 、日 本 語 が 日 本 人 の 考 え 方 や 価 値 観 、行 動 の 規 範 に 影 響 を 与 え て い る こ と を 示 し て い る 。

日 本 語 が 日 本 の 人 間 関 係 に 与 え る 影 響 に つ い て 、 精 神 病 理 学 者 の 木 村 敏

(1972)は そ の 著 書「 人 と 人 と の 間 」で 、「 日 本 語 に お い て は 、そ し て 日 本 的 な も の の 見 方 、 考 え 方 に お い て は 、 自 分 が 『 誰 』 で あ る の か 、 相 手 が 『 誰 』 で あ る の か は 、自 分 と 相 手 と の 間 の 人 間 的 関 係 の 側 か ら 決 定 さ れ て く る 」「 自 分 が 現 在 の 自 分 で あ る と い う こ と は 、 け っ し て 自 分 自 身 の 『 内 部 』 に お い て 決 定 さ れ る こ と で は な く 、 つ ね に 自 分 自 身 の 『 外 部 』 に お い て 、 つ ま り 人 と 人 の 『 間 』 に お い て 決 定 さ れ る 」 と 主 張 す る 。 ま た 、 人 称 代 名 詞 は 自 己 お よ び 特 定 の 他 者 に つ い て そ の 個 体 的 な ア イ デ ン テ ィ テ ィ を 代 表 し 、 そ れ を 言 語 的 に 表 出 す る 機 能 を 持 ち 、 日 本 人 と 西 洋 人 と の も の の 見 方 、 考 え 方 の 相 違 は こ の よ う な 自 己 お よ び 他 者 の 主 体 性 の あ り か た の 相 違 に 基 づ い て い る と 考 え ら れ る た め 、 日 本 語 の 中 で も 特 に 人 称 代 名 詞 の 用 法 が 重 要 で あ る と 説 明 し て い る 。 人 称 代 名 詞 の 用 法 に つ い て は 、言 語 社 会 学 者 の 鈴 木 孝 夫(1973)も 同 様 に 、相 手 が 誰 で あ ろ う と ま ず 自 己 を 話 し 手 と し て 規 定 す る 英 語 を 含 む イ ン ド ・ ヨ ー ロ ッ パ 語 な ど の 絶

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対 的 自 己 規 定 と 比 べ る と 、 日 本 人 の 日 本 語 に よ る 自 己 規 定 は 相 対 的 で 対 象 依 存 的 な 性 格 を 持 っ て い る と 主 張 す る 。 こ の た め 、 日 本 人 の 自 己 は 、 相 手 と 自 分 と の 関 係 が 決 定 で き な い 間 は 不 安 定 な 状 態 に あ る と 考 え ら れ る ( 鈴 木 、1973)。

日 本 語 で は 日 常 会 話 で 主 語 が 省 略 さ れ る こ と に 関 し て 、 心 理 学 者 の 榎 本

(2014)は 、一 定 し て 不 変 の“I”で 自 己 主 張 を す る 文 化 圏 と は 異 な り 、日 本 に は そ の よ う な 意 味 で の“I”は 存 在 せ ず 、他 者 か ら 切 り 離 さ れ た「 個 」と し て 生 き て い る の で は な く 、 相 手 と の 「 関 係 性 」 を 大 切 に し て 生 き て い る と 主 張 す る 。 榎 本(2012、2014)は 、日 本 人 は 意 見 と 発 話 者 を 分 離 し て 考 え る の が 苦 手 で 、そ の 人 の 意 見 を 否 定 す る こ と は そ の 人 の 否 定 に つ な が る と 考 え る た め 、 相 手 と の 関 係 を 崩 し た く な い か ら 自 己 主 張 を し た く な い と い う 気 持 ち が あ る と 説 明 し て い る 。

日 本 で は 「 人 間 」 と 「 人 」 と い う こ と ば が 同 じ 意 味 で 使 わ れ て い る 。 こ の こ と に つ い て 、哲 学 者 の 和 辻 哲 郎(2007)は 、「 人 間 」と い う こ と ば は も と も と「 世 の 中 」「 人 間 関 係 」 を 意 味 す る こ と ば で あ っ た が 、「 人 」 と 同 じ 意 味 で 使 わ れ る よ う に な っ た も の で 、 他 の 言 語 で は こ の よ う な 混 同 は 見 ら れ な い と い う 。 こ の 混 同 は 、 日 本 で は 人 は 人 間 関 係 に お い て の み 人 で あ り 、 人 間 が 社 会 で あ る と と も に ま た 個 人 で あ る と い う こ と で 説 明 す る こ と が で き 理 解 が 可 能 に な る と い う 。 社 会 心 理 学 者 の 浜 口 恵 俊(1998)も ま た 、日 本 語 で は 人 と 人 の 間 を 意 味 す る「 人 間( じ ん か ん )」と い う 表 現 で「 に ん げ ん 」と い う 存 在 を 捉 え て い る の は 、日 本 人 に お い て 、 人 は 関 係 を 離 れ て は 存 在 し 得 な い と い う 認 識 が あ る か ら だ と 主 張 す る 。「 人 間 関 係 」 と い う こ と ば は 、 第 二 次 世 界 大 戦 後 に“human relations”の 訳 語 と し て ア メ リ カ か ら も た ら さ れ た こ と ば で あ り 、「 人 間 関 係 」と 言 わ な く て も 、「 人 間 」だ け で そ の 人 自 身 と そ の 人 の 他 の 人 と の 関 係 を 表 現 で き る 。日 本 語 で は 、「 人 そ の も の 」 と 「 人 と 人 の 間 」 は 一 つ の も の と 考 え ら れ て い た ( 浜 口 、 1996)。浜 口(1982)は 、日 本 人 は 欧 米 人 と 同 じ よ う な「 個 人(the individual)」

と い う 「 人 間 観 」 は 持 た ず 、 人 は 他 の 人 と の 何 ら か の 関 係 の 中 で 自 ら の 存 在 意 識 を 見 出 す と い う 「 間 人 ( か ん じ ん )(the contextual)」 で あ る と す る 。

個 人 主 義 と 間 人 主 義 が 話 し こ と ば の 文 法 に 与 え る 影 響 に つ い て 、柳 父(1993)

は 言 語 文 化 論 の 立 場 か ら 説 明 し て い る 。 文 (sentence) と い う 言 語 構 造 の 単 位

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は 個 人 と い う 人 間 観 に 対 応 し て お り 、 必 ず 主 語 と 述 語 が あ り 、 独 立 し 完 結 し た 意 味 の 単 位 で あ り 、 独 立 し 完 結 し た 意 味 に 責 任 を 負 う 「 個 人 」 が 作 り 出 す 、 ま た 逆 に 個 人 と い う 思 想 が 文 (sentence) を 作 り 出 す 。 一 方 、 間 人 主 義 の 日 本 語 の 話 し 言 葉 で は 、 文 を 前 提 と し な い 。 一 つ の 発 言 と そ の 応 答 と は 、 互 い に 独 立 し た 意 味 を 表 現 し て い る の で は な く 、相 互 に 従 属 し て い る 。例 え ば 、「 行 き た い ん で す が….」は 、行 き た い と い う 意 思 を 示 す が 、か つ 行 け な い と い う こ と を は っ き り と は 言 わ な い ま ま 相 手 に 理 解 し て も ら お う と す る ( 柳 父 、1993)。 柳 父

(1993)は 、自 身 が 日 本 語 か ら 人 間 へ と 考 え 及 ん で き た 結 論 は 、浜 口 恵 俊 の「 間 人 主 義 」 と 共 通 す る と こ ろ が き わ め て 多 い と 主 張 す る 。

土 居 健 郎(2007)は 、精 神 科 医 と し て 日 本 人 の「 甘 え 」概 念 を 研 究 し て い く 過 程 で 、言 語 の 特 徴 は 国 民 の 精 神 的 特 徴 と 深 く 関 わ っ て い る と 確 信 し た と い う 。

「 内 」 と い う 日 本 語 は 、 身 内 と か 仲 間 内 の よ う な 主 と し て 個 人 の 属 す る 集 団 を 指 し 、 英 語 の プ ラ イ ベ ー ト の よ う に 、 個 人 自 体 を 指 す こ と が な い 。 日 本 で は 、 集 団 か ら 独 立 し た 個 人 の プ ラ イ ベ ー ト な 領 域 の 価 値 が 認 め ら れ て い な い こ と が 、 西 洋 的 自 由 の 観 念 が 容 易 に 根 付 か な い こ と と 関 係 が あ る と す る 。

こ の よ う に 、 日 本 語 が 日 本 の 社 会 や 人 間 関 係 に 与 え る 影 響 に つ い て は 、 日 本 の さ ま ざ ま な 学 問 分 野 の 研 究 者 が 同 様 の 見 解 を 示 し て い る 。 ま た 、 日 本 語 と 日 本 の 人 間 関 係 の 密 接 な 関 わ り 合 い に つ い て の 研 究 は こ れ ま で に 多 く な さ れ て き た(e.g., 大 江 、河 合 、谷 川 、1998; 大 橋 、近 藤 、秦 、堀 江 、横 田 、1992; 大 橋 、 ロ ン グ 、2011; 柏 崎 、1992; カ ノ ッ ク ワ ン 、1995, 2012; 金 田 一 、1975, 2002;

笹 川 、1996; 文 化 庁 文 化 部 国 語 科 、2014; 堀 江 、1996; Yoshino, 2018)。

政 治 学 者 の 施(2015)は 、言 語 は そ の 使 い 手 の 自 我 の あ り 方( 自 己 認 識 )に 影 響 を 与 え る も の で あ り 、 日 本 社 会 の 英 語 化 の 推 進 は 日 本 語 が 作 っ て き た 日 本 ら し さ や 日 本 の 良 さ を 破 壊 す る 危 険 を は ら ん で お り 、 日 本 社 会 に 与 え る ダ メ ー ジ は 大 き い と い う 考 え を 示 し て い る 。榎 本 (2014)も ま た 、言 語 と い う の は 単 な る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 道 具 で は な く 、 そ れ を 使 う 人 々 の 心 の 在 り 方 を 大 き く 規 定 す る 力 が あ る た め 、 グ ロ ー バ ル 化 に 対 応 す る た め に 欧 米 流 の 自 己 主 張 の 思 想 を 取 り 入 れ る 動 き が 加 速 し て い る こ と は 危 機 的 な こ と だ と 主 張 す る 。

表 3 -1 日 本 の 英 語 授 業 で の 生 徒 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン に 関 す る 認 識 コ ー ド 回 答 人 数 各 コ ー ド で 使 わ れ て い た 表 現 の 例 他 の 生 徒 か ら ど う 思 わ れ る
表 3 -2 英 語 圏 の 授 業 で の 生 徒 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 傾 向
表 3 -4 日 本 の 高 校 の 授 業 の 特 徴
表 3 -5 英 語 を 教 え る 際 に 難 し い と 感 じ て い る こ と
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