原著 試作服による簡易標準被服寸法の検討
森 忠繁,明石信爾,松出 難波艶子,小野京子,岡
部,平炉トシコ 悦子,林 佳子
1 は じめに
被服寸法は身体各部の人類学的計測値,体型分類がそのまま用いられるものではなく,下着 などの身体に近い被服の着装状態を考慮に入れた身体計測値によらなければならない。すなわ ち,身体各部の人類学的計測値は,姿勢のわずかな変化でも変化する。また,被服は下着など の下層の着装被服のずれが加わり,姿勢の変化による誤差は更に大きくなる。その結果,誤 差の修正に仮縫がおこなわれなければならなくなる。体型分類や体型をもとにして設定した被 服寸法の報告D〜3)にみられるように,従来からは体型別の被服寸法が多く,簡易化された総合 的な標準化の試みは少ない。多人数を対象とする既製被服の被服寸法を体型分類より決定する には,年齢別体型分類によらなければならないので繁雑であり,簡易標準被服寸法が必要とな
る。
被服寸法の長径の計測値は身長と,周径の計測値は体重と高い相関々係があり,身長および 体重をそれぞれ独立変数とした回帰直線を求め,その直線方程式に身長,体重を代入した値は JIS−L−102の値とよく一致していることを著者らの一人が報告した4)。 これによって得られた 被服寸法9項目の計測値の平均をMン,標準偏差をσシとして,Mシ+σシ, Mシ, Mシー σ翌の値を用いて,大,中,小の試作服を作製して,被服寸法を計測した集団とは別の集団に 着用させ,先に得られた回帰直線の妥当性と標準被服寸法の簡易化の検討を行なった。
2 実験方法
洋服の被服寸法(背丈,袖丈,背肩巾,胸囲,胴囲,腰囲)および和服の被服寸法(ゆき,
袖丈,衿下)のそれぞれのMシ+σシ,Mン, Mシーσシの値で採寸した試作衣服を作製し,
大,中,小とした。被服寸法を計測した集団とは別の19〜20才の女子学生35名に着用させた。
着用させる際に,その平均をMり。,標準差をσκとして,M劣+σりG, Mり。, M劣+σκをそ れぞれ試作服の大,中,小にふりわけて着用させ,試作服と身体との適合を検討した。試作服
と身体との適合は,着用した試作服の被服寸法の士σシと」〔上の回帰直線γのまわりの標準偏 差±》Vッ・エに囲まれた平行四辺形の範囲に,被服寸法計測値が入れば適合しているとし て,試作服の大,中,小それぞれの適合率を求めた。すなわち,試作服大の適合範囲は,Mン
≦翌≦Mシ+2σ7,写一〜/V〃・エ≦翌≦y+ゾVシ・」じの範囲であり,試作服中の適合範 囲は,Mンーσ〃≦〃≦M∬十σ∬,〃一》Vg・」じ≦〃≦9十〉〆V〃・エ,試作服小の適合 範囲は,Mツー2σ〃≦∬≦M9,〃一》V〃・」じ≦9≦〃+》V〃・」 である。試作服の被 服寸法と被服寸法計測値の全体の適合は,被服寸法と身長および体重との回帰直線の標準偏差 にはさまれた範囲,すなわち,9一〜/V,・∬≦〃≦〃+》V〃・」 の二直線の間に被服寸法
計測値が入ることにより求めた。
3 実験成績
身長と洋服寸法の長径である背丈,袖丈および巾径である背肩巾との関係,および試作服の 大,中,小それぞれを着用させたときの試作服と身体とのずれ,すなわち被服寸法計測値を図
1に示している。また表1に示すように,身長のMりじ+σκ,Mκ, Mκ一σκによりそれぞ れ試作服の大,中,小を着用させたときの適合は,背丈の場合の適合率が非常に高く,袖丈の 適合率が60〜77%であり,背肩巾の適合率が50〜92.3%である。小の試作服を着用したときの 背肩巾の適合率が50%と特に低い。
体重と洋服寸法の周径および巾径との関係および試作服の大,中,小それぞれを着用させた ときの試作服と身体とのずれを図2に示した。体重のMκ+σ」〔,Mエ, Mコご一σ」6により試 作服の大,中,小を着用させたときの適合率は,周径の場合60〜90%で,部外の場合は70〜
100%である。体重によって周径を求めたときの適合率は胴囲の場合最も高く,胸囲,腰囲の 場合は同程度である。巾径である背肩巾は身長によって決定した場合より,体重によって決定
した方が適合率が高い。体重を独立変数に使った場合も,中の試作服の適合率は非常に高い。
図3は,身長とゆき,袖丈,衿下などの和服寸法の長径との関係と,大,中,小の試作服を 着用させたときの適合率は,ゆき50〜80%,袖丈60〜90%,衿下70〜100%である。申の試作 服の適合率は高いが,どの大きさの試作服もゆきにおける適合率が低い。
被服寸法と試作服の適合率を一括して示したのが表1である。和服寸法のゆきを除いて,全 般的に適合率が高いと言える。試作服のうち,適合率が高いのは中の試作服で85.2%を示し,
次いで大の72.7%,小71.1%となっている。洋服寸法での適合率は中,大,小の順に適合率が よいが,和服寸法の適合率は中,小,大,のll頂によい。
洋服寸法の背肩巾の適合率は,独立変数が身長の場合77.1%,体重の場合88.6%で体重を用 いた方が適合率がよい。
4 考 察
コじ上の回帰直線写のまわりの標準偏差の間(〃+ゾV〃・」じ≧〃≧〃一ゾV9・」6)に,和服 寸法のゆきを除いたそれぞれの被服寸法の計測値の74%以上が含まれ,回帰直線は有効である
ことがわかる。和服寸法のゆきの計測値の63.3%が〃±v/V〃・」じの二直線間に含まれ,これ を正規分布の誤差範囲内と考えれば,この回帰直線も有効であると考えられる。また,被服寸 法の長径の指数として身長を,周径の指数として体重を用いてあらわすことができる。
洋服寸法の巾径として背肩巾は,指数を身長で示したときより体重で示したときの方が適合 率が大きい。このことは和服のゆきの場合,身長を指数として示したときに適合率が小さいこ
とでも理解される。すなわち,ゆき≒%×背肩巾+袖丈と近似すると,袖丈は身長を指数とし てあらわした方がよいから,身長のみの指数で示すと適合率が小さくなると思われる。
どの被服寸法の計測値も試作服の中への適合率が最も高い。洋服の試作服の場合の適合率は 小より大の方がよく,和服の場合は大より小の方が適合率がよい。すなわち,洋服の場合身体 より被服の方が小さいときより,被服の方が大きいときの方が融通がきくと言える。和服の場 合は,逆に身体より被服の方が小さいときの方が融通がきくと言える。
身長と体重を指数として,最も簡単な被服寸法の標準化を考えるならば,身長と体重のそれ ぞれのM」じ+σエ,Mエ, M」じ一σコ〔の組合の9種類となる。この身長と体重の組合せがあれ
図1 身長と洋服寸法の長径幅径との関係及び試作服の適合
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図3 身長と和服寸法の長径との関係及び試作服の適合
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170
表1
衣服寸法と試作服の適合率
洋
服
寸
法
和 服 寸 法
身
長
体
重
身
長
試 作 服
背 丈 袖 丈 背肩 巾
平 均
胸
囲胴 囲 腰 囲
背 肩 巾
平 均
ゆ 袖 衿
き
丈 下
平 均
全 平 均
大
91.7%
66.7 75.0
77.8
75.0%
83。3 58.3 91.7
77.1
60.0%
60.0 70.0
63.3
72.7%
中
92.3%
76.9 92.3
87.2
76.9%
92.3 84.6 100.0
88.5
5α0%
90.0
】00.0
80.0
85.2%
小
100.0%
60.0 50.0
70.0
60.0%
90.0 60.6
700
70.0
8α0%
60.0 80.0
73.3
71.1%
全
94.3%
74.3 77.1
81.9
74.3%
94。3
74.3 88.6
82.9
63.3%
73.3 86.7
74.4
79.3%
ば最大公約数的なものが得られ,平均すれば80%の適合率を得ることになる。身長,体重の区 分をもっと細分し,その組合せで被服寸法を標準化すれば,適合率はもっと大になるであろ
う。
5 結 論
さきに19〜20才の女子学生95名について求めた被服寸法9項目の平均をM〃,標準偏差を σ〃として,M〃+σ〃, M〃, M〃一σ〃の3種の大きさの試作服を作成した。その試作服を 別の集団の19〜20才の女子学生35名に着用させて,身体と被服との適合率を求め,身長,体重 をそれぞれ独立変数Jじとしたときの被服寸法を示す回帰直線〃の妥当性および標準被服寸法の 簡易化を検討して,次の結果を得た。
1) 回帰直線は,回帰直線を求めた集団とは別の同性,同年齢の集団にも理論的に適合し,
被服寸法の長径に身長を,周径に体重を指数として用いることができる。
2)洋服寸法の背肩巾は,身長を指数としたときより,体重を指数としたときの方が適合率 が大きい。
3)和服寸法のゆきは身長を指数とする部分と体重を指数とする部分とがあり,どちらか一 方のみであらわすとすれば適合率が悪くなる。
4) どの被服寸法の計測値の適合率は中の試作服が最も大である。
5)身長と体重を被服寸法の指数として,最も簡単な被服寸法の標準化を考えるならば,身 長と体重のそれぞれのMコじ+σコ〔,Mエ, Mコ6一σエの組合の9種類で,適合率は80%である。
文 献
1)柳沢澄子:日本婦人に適する衣服の寸法基準に関する研究,第1報,家政学雑誌:21〜27,3
(3), 19520
2)柳沢澄子:日本婦人に適する衣服の寸法基準に関する研究,第2報,家政学雑談:11〜16,5
(1}, 19530
3)柳沢澄子:日本直入に適する衣服の寸法基準に関する研究,第3報,家政学詠出:109〜115,
8(3), 19550
4)岡 悦子:衣服寸法の簡略化の試みについて,中国短期大学紀要,第4号,13〜16,1973。