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COP21 がパリ協定を採択
地球温暖化抑止に向けた今後の課題
○ 2015年11月末からフランスで開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)は、2020年 以降の地球温暖化対策の法的枠組みをまとめた「パリ協定」を採択して終了した。 ○ パリ協定の採択は、多数の国の参加による公平性の高まりや温室効果ガス削減量の拡大が見込まれ る点で評価できる。今後は、各国の温暖化対策の実効性を高める仕組みづくりが重要となろう。 ○ COP21の結果を踏まえた日本の課題は、長期エネルギー需給見通しの実現に明確かつ具体的な道筋 をつけることや、環境技術を活かした国際的な貢献を強化することである。1.はじめに
温暖化に伴う異常気象や水害発生などのリスクの高まりが世界中で懸念されているなかで、地球温 暖化対策について世界各国が話し合うことを目的に、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が 開催された。2015年11月30日から12月12日にわたりフランスのパリで開催されたこの会議は、2020年 以降に全ての締約国が二酸化炭素などの温室効果ガス(以下、CO2等)削減に取り組むための法的枠組 みを定めたパリ協定を採択して終了した。本稿では、これまでの地球温暖化対策の交渉経緯を踏まえ たうえで、COP21の結果やそれを受けた今後の日本の課題について論じることとする。2.COP21 までの経緯:新たな地球温暖化対策の法的枠組みづくりに向けた動き
まず、COP21に至るまでの地球温暖化対策の歴史を振り返っておこう。COPとはConference of the Parties(締約国会議)の略称で、1992年に国連(国際連合)で採択された気候変動枠組条約を締約し た国の代表が集まって開催される年に一度の会議のことを指す。同条約は、CO2等の大気中濃度を安定 化させることを目標としており、COPはこの目標達成に向けた対策を議論する場となっている。 これまでのCOPにおける最大の成果は、1997年に京都で開催されたCOP3における「京都議定書」の採 択であるといえよう。京都議定書は、先進国に対してCO2等削減量を割り当て、その達成を義務付けた 法的拘束力を持つ取り決めである。2005年に発効した同議定書に基づき、日本やEU(欧州連合)諸国 などを含む37カ国・地域が、2008年から2012年の第一約束期間内にCO2等排出量合計を1990年比5%削 減するという目標の達成に取り組んだ。 しかし、京都議定書の採択時にCO2等の最大排出国であった米国が自国の議会で承認を得られず、第 一約束期間の開始前に取り決めから離脱したために、同議定書の効果は当初の想定に比べてかなり限 定的なものとなってしまった。一方で、CO2等削減を義務付けられなかった途上国のうち、中国やイン 政策調査部主任研究員 堀 千珠 03-3591-1304 [email protected]政 策
2015 年 12 月 18 日みずほインサイト
2 ドがCO2等排出国の上位を占めるようになり、地球温暖化対策の実効性を高めるうえで、全ての国が参 加する枠組みを構築することの重要性が強まってきた。 そこで、2010年にメキシコのカンクンで開催されたCOP16では「カンクン合意」が採択され、京都議 定書に参加していない先進国や途上国が2020年までのCO2等削減目標・行動を自主的に設定し、国連に 登録する形式をとる枠組みが定められた。この枠組みは、京都議定書とは異なり、法的な拘束力はな い。COP16の結果を受けて、2020年までの地球温暖化対策は、京都議定書に基づく枠組みとカンクン合 意に基づく枠組みの「二本立て」で進められることになった。 こうした状況を見直し、枠組みの一本化を実現しようとする議論が本格化したのが2011年に南アフ リカのダーバンで開催されたCOP17である。同会議では、2013年以降に京都議定書の第二約束期間を設 定することを決定するとともに1、全ての国が参加する2020年以降の新たな法的枠組みの採択を4年後 のCOP21で目指すことが合意された。その後、ロシアや日本が京都議定書の第二約束期間への参加を見 送ったことなどもあり、新たな法的枠組みづくりに向けた気運はさらに高まっていった。 2013年にポーランドのワルシャワで開催されたCOP19では、各国が定める自主的なCO2等削減目標を 積み上げる方式で新たな法的枠組みを構築するとの方針が固まり、各国がCOP21の開催前までに同目標 を明記した約束草案を国連に提出することとなった。これを受けて、2015年11月28日までにCO2等主要 排出国を含む183カ国・地域(条約締約国の94%)が実際に約束草案を提出し(図表1)、COP21での議 論に向けた準備が整った。また、COP21の開催直前に、CO2等の二大排出国でありながら排出削減の義 務を負ってこなかった米国と中国の首脳が二国間で連携して新たな枠組みづくりに取り組む姿勢を示 し、国際的な合意に向けて大きな弾みがついた。
3.COP21 の結果:2020 年以降の法的枠組みを定めたパリ協定を採択
COP21では、先進国と途上国が果たすべき責任の度合いの差異化や、途上国の温暖化対策への資金支 援などを巡って交渉が難航した。しかし、最終的には、全ての締約国によるCO2等削減への取り組みを 前提とする2020年以降の法的枠組みを定めたパリ協定が採択された。同協定で決定した法的枠組みの 図表 1 主要排出国の約束草案で示された CO2等削減目標 (資料)各国の国連提出資料、国際エネルギー機関統計データベースより、みずほ総合研究所作成 区 分 国・ 地域 削減目標 C O2等排出量 シ ェア(2 0 1 0 年) 米国 2025年に2005年比26~28%削減 14% EU 2030年までに1990年比少なくとも40%削減 10% ロシア 2030年までに1990年比25~30%削減 5% 日本 2030年までに2013年比26%削減 3% 中国 2030年までにGDP(国内総生産)当たり2005 年比60~65%削減 (排出量は2030年頃がピーク) 22% インド 2030年までにGDP当たり2005年比33~35% 削減 6% 60% 先 進 国 途 上 国 【参考:上記の国・地域の排出量シェア合計】3 主なポイントをまとめると、以下のとおりである(図表2)。 第一に、この枠組みは、産業革命前からの気温上昇を2.0度未満に抑えるとともに、1.5度未満に収 まるよう努力することを目的とする。これまでの国際的なコンセンサスである2.0 度目標から一歩踏 み込んだ1.5度目標にも言及することで、各国の積極的な取り組みを喚起する。また、上記目的の達成 に向け、出来るだけ早い時期に世界のCO2等排出量の増加を止め、今世紀後半には実質的にゼロとする ことを目指す2。 第二に、CO2等削減目標を国連に報告することや、目標を達成するための国内対策に取り組むことを 各国に義務付ける。ただし、京都議定書とは異なり、削減目標の達成自体は法的に義務付けられない。 先進国には総量ベースの削減目標を求める一方、途上国には他の指標(例:国内総生産当たり排出量) に基づく目標設定を認めつつ、総量ベースの設定を推奨する。目標は5年ごとに見直す必要があり、運 用中の目標に比べて可能な限り難易度の高い目標を新たに設定することが求められる。さらに、各国 の取り組みを踏まえた世界全体の排出量の削減状況が、2023年以降5年ごとに検証される。 第三に、途上国支援について、先進国に努力義務を課すほか、先進国以外の国にも自発的な資金の 拠出を奨励する。途上国の間では、先進国に対して2020年までの目標年額1,000億ドルを上回る資金支 援を2020年以降に義務づけるよう求める声が少なからずあった。しかし、最終的には、法的拘束力を 伴わない協定外の合意という形で、2025年までに先進国が1,000億ドルを下限とする新しい拠出額の目 標を設定することとなった。一方、先進国以外の国にも拠出を奨励する規定の記載は先進国の要望を 受け入れたもので、途上国のなかでも経済規模が大きい中国、インド、ブラジル、南アフリカといっ た新興国による拠出が想定されている。 第四に、この枠組みは、温暖化への適応力を高めるための世界全体の目標を新たに設定する。この 決定は、一部の地域で温暖化が原因とみられる異常気象などによる被害が深刻化しつつあるなかで、 被害を軽減するための適応的な取り組みを強化する必要があるとの認識に基づくものである。この目 標設定に伴い、各国は適宜、被害の軽減策をまとめた行動計画を国連に提出することとされた。 図表 2 パリ協定の主なポイント ・目的:産業革命前からの気温上昇を 2.0 度未満に抑制。1.5 度未満に収まるよう努力。 -この目的達成に向け、今世紀後半には実質的な CO2等排出量をゼロとすることを目指す。 ・CO2等排出削減に向けた対策:各国に CO2等削減目標の報告や、目標達成に向けた国内対策の実施を義務 付け。(※ただし、削減目標の達成自体は義務付けられない) -先進国には総量ベースの削減目標の設定を求め、途上国には同目標の設定を推奨。 -目標は 5 年ごとに見直し。可能な限り、より難易度の高い目標設定が求められる。 -2023 年以降、5 年ごとに世界全体の排出削減状況を検証。 ・途上国支援:先進国に努力義務を課すほか、先進国以外の国にも自発的な拠出を奨励。 (cf.協定外の合意:先進国は 2025 年までに 1,000 億ドルを下限とする拠出額の目標値を設定) ・温暖化への適応に向けた対策:世界全体の目標を新たに設定。
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4.COP21 に対する評価と課題:地球温暖化対策における歴史的な一歩
COP21でのパリ協定の採択は、地球温暖化対策において歴史的な一歩であり、COP3での京都議定書の 採択に並ぶ大きな成果として評価できる。京都議定書の下ではCO2等削減に向けた取り組みが一部の先 進国に限られていたのに対し、パリ協定の下では約束草案を提出した他の先進国や途上国の多くもこ の取り組みに新たに加わると見込まれる。これにより、地球温暖化対策の公平性が高まるほか、CO2 等削減量が拡大すると予想される。また、途上国に対し、総量ベースの削減目標の設定や他の途上国 に対する自発的な資金支援が奨励される形となったことで、新興国の地球温暖化対策への取り組みの 拡大も期待される。 ただし、協定が発効せずに終わってしまえば、新たな法的枠組みは「画に描いた餅」となってしま う。パリ協定は、世界のCO2等排出量の55%以上を占める55カ国以上の批准が発効要件とされており、 実質的には米国と中国の参加を前提としている。このうち米国は、民主党のオバマ大統領が議会の承 認を経ずに当協定の批准を決定できるとみられるものの、温暖化対策に懐疑的な共和党の候補が来年 の大統領選で勝利した場合には協定から離脱するリスクがあり、今後の行方が注目される。 また、パリ協定には先送りされた課題も少なくない。このうち最も重要とみられる課題が、各国の 温暖化対策の実効性を高める仕組みづくりである。国際エネルギー機関(IEA)は、各国が約束草案の CO2等削減目標を達成したとしても、地球の気温は2100年までに約2.7度上昇すると予測しており、パ リ協定が掲げた1.5~2.0度目標の実現は容易ではない。また、法的な義務付けがないなかでは、各国 の目標達成自体も懸念される。同協定には、5年ごとにCO2等削減目標をより難易度を高める方向に見 直したり、世界の排出削減状況を検証したりする規定が設けられたが、これらの規定は温暖化対策の 実効性を高める仕組みの骨格部分にすぎず、その肉付けは次回以降のCOPでの議論に委ねられる。今後 は、各国の取り組みの公平性や積極性を高める方向で、この仕組みの具体的な運用方法を定めていく ことが求められよう。運用方法の決定に向けては、途上国支援を行う国が支援対象先の途上国におけ るCO2等削減分を市場メカニズムを用いて自国の削減実績に算入する手法などをどう見直していくか も、検討すべき課題といえる3。 温暖化対策の実効性を高めるための仕組みづくりや市場メカニズムを用いた手法の見直しに際して は、締約国間で激しい対立が生じる可能性もあり、調整の難航が予想される。パリ協定の採択はそれ 自体で評価に値するものの、同協定の真価が試されるのはむしろこれからであろう。なお、次回の気 候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)は、2016年11月にモロッコのマラケシュで開催される予定 である。5.日本の課題:CO
2等削減目標の達成や国際的貢献に向けた取り組みの強化
COP21の結果を踏まえ、最後に日本が今後取り組むべき課題について触れたい(次頁、図表3)。 第一の課題は、日本が提出した約束草案におけるCO2等削減目標の根拠となっている長期エネルギー 需給見通し(いわゆるエネルギーミックス)の実現に向けて、明確かつ具体的な道筋をつけていくこ とである。2015年7月に政府が決定した同見通しでは、①2013年度に1%まで低下した原子力の電源構 成比を2030年度に20~22%程度まで引き上げること、②2013年度に11%であった再生可能エネルギー5 の同構成比を2030年度に22~24%程度まで引き上げること、③徹底した省エネルギーによって2030年 度の電力需要をほぼ2013年度並みに抑制すること、などが示された。①・②は、CO2等排出量が大きい 火力の電源構成比の引き下げを意味し、③とともにCO2等の削減につながる。しかし、電力供給につい てみると、原発の運転期間延長や新設がなければ上記の原子力の電源構成比は達成できない一方で、 発電コストが相対的に低い石炭火力発電所の増設計画が相次いでいる。また、需要サイドをみても、 省エネルギーの目標達成が見込みがたいとの批判が専門家から出ており、長期エネルギー需給見通し の実現は容易ではない。政府は事態の改善に向けて、石炭火力発電所の新設に対する規制を見直す案 を既に固めたと報道されているが4、これに加え、再生可能エネルギーの普及促進や、CO 2等排出量の 削減余地が大きいとみられる家庭部門での電力消費の抑制などに関わる追加策も、年度内のとりまと めを予定している地球温暖化対策計画において示す必要があろう。 第二の課題は、これまで以上に日本の環境技術を途上国支援に活かすとともに、環境・エネルギー 分野でのイノベーションを促進することにより、温暖化対策における国際的な貢献を強化することで ある。政府は2015年11月に、日本の得意分野である地熱発電、都市鉄道、防災インフラ、水確保を中 心として途上国支援に取り組むこと、水素の製造・貯蔵・輸送や次世代蓄電池といった革新的技術の 開発を強化することなどをまとめた「美しい星への行動2.0」を決定した5。また、安倍首相はCOP21首 脳会合の場で、途上国支援のための官民合わせた年間投資額を2020年に1兆3,000億円(現状の1.3倍) へと引き上げる意向も表明しており、国際的な貢献の当面の方向性や規模はある程度固まったといえ る。今後は、政府が市場メカニズムを用いたCO2等削減手法への取り組みを通じて構築してきた途上国 政府との協力関係を活かすなどして、日本企業の環境技術の国際的な普及を支援する役割を積極的に 果たすことが求められよう。 海外に目を向けると、温暖化対策を新たなビジネスチャンスにつなげようとする動きが広がりつつ ある。EUでは、複数の大手石油企業が石油掘削技術を応用したCO2の回収・貯留(Carbon dioxide capture and storage、略称CCS)技術の商業化を進めており、政府とも連携しつつ事業機会の拡大に取り組ん でいる。また、2015年9月には中国が途上国の温暖化対策を支援するための基金を独自で設立すると表 図表 3 COP21 の結果を踏まえて日本が取り組むべき課題 (資料)みずほ総合研究所作成 (1)約束草案の根拠となる長期エネルギー需給見通しの実現に向けて、明確かつ具体的 な道筋をつける <主なポイント> ・石炭火力発電所の新設に対する規制の見直し ・再生可能エネルギーの普及促進 ・CO2等排出量の削減余地が大きいとみられる家庭部門での電力消費の抑制 (2)日本の環境技術を活かした途上国支援やイノベーションの促進 <主なポイント> ・政府間の協力関係などを活かした日本企業の環境技術の国際的な普及促進 ・水素の製造・貯蔵・輸送や次世代蓄電池といった革新的技術の開発
6 明しており、その背景には「自らの技術を他国に導入したい、との思惑」があるものとみられている6。 日本もパリ協定の採択を契機に、官民一体となって温暖化対策につながる製品・サービスの開発や輸 出を強化し、地球温暖化抑止への貢献と経済成長の両立を図っていくことが求められる。 1 第二約束期間の終了時は COP17 では決定せず、後に 2020 年までとなった。 2 CO 2等排出量を実質的にゼロにするということは、CO2等排出量が森や海などの自然が吸収できる範囲内にとどまるこ とを意味し、CO2回収・貯留技術などの活用による実現が想定されている。 3 市場メカニズムを用いた CO 2等削減の手法は京都議定書において導入され、パリ協定の法的枠組みにおいても利用さ れることとなった。しかし、パリ協定のもとでは途上国も CO2等の削減目標を設定するため、市場メカニズムの利用に よる削減分を関係する先進国と途上国の間でどのように配分するかなどについてルールを定める必要がある。 4 日本経済新聞、2015 年 12 月 16 日。 5 首相官邸・地球温暖化対策推進本部(第 31 回)2015 年 11 月 26 日会議資料(下記 URL)参照。 [https://www.kantei.go.jp/jp/singi/ondanka/kaisai/dai31/siryou1.pdf]。 6 朝日新聞、2015 年 12 月 2 日。 ●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに 基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。