建設コンサルタント業務等における総合評価落札方式の実施状況について
国土交通省国土技術政策総合研究所 正 会 員 笛田 俊治*1 国土交通省国土技術政策総合研究所 正 会 員 服部 司*2 株式会社 建設技術研究所 正 会 員 ○毛利 淳二*3 財団法人 国土技術研究センター 法人会員 野口 浩*4
1.はじめに
公共工事に係る建設コンサルタント業務等については、主としてプロポーザル方式と価格競争入札方式の2つの 調達方式で実施してきたところであるが、平成 19 年度から総合評価落札方式の導入に向けた 23 件の総合評価落札 方式の試行が開始された。平成 20 年 5 月 9 日に「公共工事に関する調査及び設計に関する入札に係る総合評価落札 方式について」により財務省との包括協議が整ったことにより、総合評価落札方式が本格導入され、平成 20 年 11 月末現在で 184 件と大幅に拡大された。
このような背景のもと、本稿では、建設コンサルタント業務等の総合評価落札方式による調達の実施状況等につ いて紹介する。
2.総合評価落札方式の導入
従来、国土交通省直轄事業の建設コンサルタント業務等で多く用いられてきた入札・契約方式は、技術を除く価 格の比較により評価する「価格競争入札方式」と、価格を除く技術提案の優劣で評価する「プロポーザル方式」で ある。「価格競争入札方式」は、一定の要件に基づいて競争参加者を選定することにより、どの競争参加者が落札者 となっても一定の品質が確保可能であるとの前提のもとに、最低価格入札者を落札者とする方式である。一方「プ ロポーザル方式」は、「高い知識又は構想力・応用力が必要とされる業務」を対象に、発注者が業務概要と概算金額 を示した上で、建設コンサルタント等に技術提案書の提出を求め、技術的に最適な者を特定し、契約を行う方式で ある。
「総合評価落札方式」は、これら2つの入札・契約方式の中間に位置づけられる入札・契約方式であり、価格と 技術のバランスに優れた方式ということができる。基本的には、従来、価格競争入札方式で行っていた業務のうち、
「高い知識又は構想力・応用力を評価することで質の高い成果が得られる可能性」がある業務を対象として導入さ れている。総合評価落札方式を導入することにより、価格に加え技術力の評価がなされることになり、技術力が低 い者が落札し難く、より高い技術力を有する者が有利になることで成果品の品質向上が期待できる。総合評価落札 方式は、技術的課題の難易度に応じて、評価テーマを設定する標準型と設定しない簡易型に分けられる。
3.総合評価の方法
建設コンサルタント業務等の総合評価落札方式は、加算方式が採用されている(直轄工事の総合評価方式の場合 は、除算方式が採用されている)。具体的には、以下の算出方法によって総合評価値が最も高い競争参加者を落札者 としている。
・総合評価値=価格評価点+技術評価点
・価格評価点=価格評価点の配分点×(1-入札価格/予定価格)
・技術評価点:技術者評価、業務実施方針、評価テーマ 等
・価格評価点と技術評価点の配分=1:1~1:3(技術評価点 60 点満点:価格評価点 20~60 点)
4. 総合評価落札方式の分析
(1)落札者の状況等
技術評価点の最高得点者(最低価格者以外)が落札した割合は 94 件(51.1%)であり、過半数を占めている。また、
最低価格者を含めた、技術評価点の最高得点者が落札した割合は 131 件(71.2%)であり(図-1)、落札者の技術評 価点順位も1位と2位で9割以上を占めていることから、技術評価点による競争が優位な結果となっていることが わかる(図-2)。
*1 総合技術政策研究センター建設マネジメント技術研究室長 029-864-4239
*2 総合技術政策研究センター建設マネジメント技術研究室主任研究官 029-864-4239
*3 東京本社マネジメント技術部(前建設マネジメント技術研究室部外研究員) 03-3668-0451
*4 研究第二部 03-4519-5005
キーワード:入札・契約制度、総合評価落札方式、建設コンサルタント、地質調査、測量 土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)
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(2)評価項目毎の採用状況 総合評価落札方式の評価項目の 採用率と平均配点率では、全体の傾 向としては評価テーマに関する提 案、実施方針についての評価項目に 重点が置かれている。これ以外に土 木分野では予定管理技術者、測量分 野では予定主任技術者、地質調査分 野では予定管理技術者と予定主任 技術者の両方の評価項目に重点が 置かれている傾向がある。参考とし て、土木分野における評価項目毎の 採用状況を図-3に示す。
(3)落札者と総合評価値2位・3位の技術評価点 土木分野における落札者(総合評価値
1位)と総合評価値が2位、3位の技術 評価点を比較すると、平均点はそれぞれ 48.3 点、45.4 点、43.3 点となっている。
落札者と2位との差が 2.9 点、落札者と 3位との差が 5.0 点となっており、技術 評価点 60 点満点のうち 1 割程度の中で上 位 3 者の競争が行われている(図-4)。
また、標準偏差をみると、測量(6.51)
や地質調査(6.62)に比べて 5.77 と小さ く、技術評価点の分布が狭い範囲に留ま っていることがわかる(図-5)。
5.おわりに
総合評価落札方式は今年度から更に件数拡大の予定であるが、業務特性に応じた適切な調達方式の考え方につい て、どのような業務を総合評価落札方式で調達するか、プロポーザル方式で調達する業務はどのようなものかをよ り具体的に整理する必要がある。また、総合評価落札方式においては、実施方針及び評価テーマを求める標準型と 実施方針のみを求める簡易型の2タイプがあるが、それぞれ、どのような業務に適用するか、併せて、価格評価点 と技術評価点の配分比率の選定方針についても運用上明確にする必要がある。
参考文献
・ 設計コンサルタント業務等成果の向上に関する懇談会 中間取りまとめ(H19.3)
・ 設計コンサルタント業務等成果の向上に関する懇談会 第 8 回資料(H19.2)
・ 建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン(暫定版)(H20.8)
最低価格者
最低価格者以外
技術評価点の 最高得点者以外
技術評価点の 最高得点者 20.1%
51.1%
12.5% 16.3%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
落札者の内訳(全業務) 184件 94件
37件
23件 30件
1位 131件 71.2%
2位 36件 19.6%
5位以下 5件 2.7%
4位 6件 3位 3.3%
6件 3.3%
1位と2位の合計167件(90.8%)
落札者の技術評価点順位(3業種全体)
図-1 落札者の状況 図-2 落札者の技術評価点順位
評価項目採用率の状況(土木 )
19% 11% 1% 10% 2% 11% 10% 1% 9% 7% 18% 2% 98% 2% 11% 97% 94% 6%
73%
89%
88% 46%54% 1% 17% 10% 98% 34% 24%
0%
20%
40%
60%
80%
100%
資
格 要 件 情報収集力 同種・類似業務実績 業
務 成 績平均点 当
該 分 野従事期間 優
良 表 彰・高得点業務 手
持 ち 業務量 継
続 教 育(CPD) 資
格 要 件 情報収集力 同種・類似業務実績 業
務 成 績平均点 当
該 分 野従事期間 優
良 表 彰・高得点業務 手
持 ち 業務量 資
格 要 件 情報収集力 同種・類似業務実績 業
務 成 績平均点 優
良 表 彰・高得点業務 業
務 理 解度 実
施 方 針の妥当性 実
施 手
順 有
益 な
代
替 え
案 業
務 実 施体制の妥当性 各テーマ間の整合性 妥
当 性
・的確性 独 創 性
・実現性 キーワードの網羅
予定管理 技術者
予定主任 技術者
予定照査 技術者
実施方針 評価テーマに
対する提案
採 用 率(
%)
0%
5%
10%
15%
20%
25% 採 用 率
× 平 均 配 点 率(
%) 評価項目採用率
採用率×平均配点率
図-3 評価項目の採用状況(土木分野)
36.9 41.9 40.6
41.1
6.51
6.62
5.77
6.04
34 36 38 40 42 44
土木 測量 地質調査 3業種全体
技 術 評 価 点 の 平 均 値
5.0 5.4 5.8 6.2 6.6 7.0
標 準 偏 差 の 平 均 値
技術評価点の平均値 標準偏差の平均値
図-5 技術評価点と標準偏差 図-4 総合評価値1~3位の技術評価点の分布
1
5 12
54
28
1
19
41
13 13
33
24
5 3
43
1
18
4
34 52
3 7
38 40
0 10 20 30 40 50 60
0~5点 5~10点 10~15点 15~20点 20~25点 25~30点 30~35点 35~40点 40~45点 45~50点 50~55点 55~60点
技術評価点 件
数
評価値1位 評価値2位 評価値3位
平均43.3 45.4 48.3
土木学会第64回年次学術講演会(平成21年9月)