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家をもつのは当たり前? -- インドネシアの持家比 率 (特集 世界の住まい・今)

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家をもつのは当たり前? ‑‑ インドネシアの持家比 率 (特集 世界の住まい・今)

著者 濱田 美紀

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 アジ研ワールド・トレンド

巻 191

ページ 23‑25

発行年 2011‑08

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00046105

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  日本人にとって「家」をもつことは人生の大きなイベントである。土地が狭くて高い日本では、「家」は自分の年収の何倍もかけて、何十年もにわたり購入する大きな買い物である。そのため、貧しい人がまだまだ多く住むインドネシアでは、「家」を持たない人は多いのではないか、と想像する。しかし、実はインドネシアの持家率はかなり高い。

  六年前、筆者がインドネシア・中ジャワにある外国から援助を受けたマイクロファイナンス機関を訪れた時のこと。そこは女性を中心に、事業向けの小額な資金を、グループでなく個人に貸出していた。貧困層向けのマイクロファイナンスの典型と思われている無担保の融資は、実はインドネシアでは珍しく、この機関でも担保は必要だった。ただし、担保は何でも いいことになっている。「なんでもいいって⁝」と戸惑っていると「ほんとに何でもいいんだよ。その人が大切にしているものだったら、なんでも。例えば、テレビでも自転車でも」そう担当者は説明した。「じゃあ、何が多いんですか?」「んー⁝なんでもいいんだけど⁝でも、実際はやっぱり家や土地の所有証明書かな」では、と借入れ人のリストを見せてもらうと、確かにほぼ全員といっていいほど、担保は「家・土地の証明書」だった。想像に反して、多くの人が家を所有しているらしい。  しかし、どこのマイクロファイナンスもここと同じというわけではない。西ジャワの昔ながらの市場で小さな店を出す人たちに小額の資金を貸すマイクロファイナンス機関では、担保の多くは預金とそしてテレビだった。本当にテレ ビが担保になるんだ、とはじめは驚いたが、借りているお金は少額なので、その機関にある自分の貯金にテレビを付け足すくらいで担保としては間に合うのだろう。  ところかわって、東ジャワのマイクロファイナンス機関での話。非常に多くのマイクロファイナンスがあるインドネシアであるが、その多くは商業ベースである。そのためインドネシアのマイクロファイナンスは「本来の目的」である貧困削減には役立っていないという批判から、この機関が設立された。貧困層、特に女性の事業を援助するためにグラミン銀行型のグループ貸付を行っている。しかし、そこでも担保は必要で、さらに基本的には家の所有証明書が必要という。「グラミン銀行型だったら、無担保じゃないの?」「担保がないと貸せないわよ!」何バ カなこといっているの、と言わんばかりの返事が返ってきた。さらに「じゃあ、家をもってないとダメなの?」と重ねて聞くと、そこにいたスタッフ全員口をそろえていっせいに「当然よ!」と答えた。「だいたい普通の人なら家をもっている」「家をもっていない人間は信用できない。それか、この土地の者でない」「じゃあ、よそ者はお金を借りられないの?」「そんなことはないよ。でも、ここに何年かいてちゃんと働けば家は買えるはず」と口ぐちに「家」が必要で、「家」をもっていることが安心と信用の基本であり、「家」をもつことが重要で、そして「当

①東ジャワ―瓦・煉瓦・土間の家(撮影:東方孝之)

濱 田 美 紀 家 を も つ の は 当 た り 前 ?

       ︱ イ ン ド ネ シ ア の 持家比率

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たり前」のことだと説明した。そうなのか。インドネシアでは家をもつことは当たり前なことなのか。そうはいいつつ、やはりここも貧困層相手ではないのではないかと少し疑った。その裏付けを取るために、中央統計庁が出す毎年のデータをみてみよう。

  インドネシアの話をする前に、日本の持家比率ははたしてどのくらいか。平成一七年の国勢調査によると、全国の持家比率は六四・三%。昭和六〇年の六一・七%より若干だが増えている。人口が減少するなかで将来家をもつ必要性はなくなるといわれて久しいが、やはり持家神話は根強いらしい。 持家一世帯当たりの住宅の延べ面積の全国平均は平成一七年で一二一・九平方メートル。ちなみに、持家比率が一番高い県は富山県で八三・九%、広さは一七六平方メートル。持家比率が一番低いのは、想像に違わず東京の四七・二%で広さは九四・四平方メートルである。  では他の国と比べるとどうか。

Nat ionMaster .com

というサイトの世界の持家比率(二〇〇〇年)を眺めると、一位はアイルランドで八三%、二位はイタリアの七八%、三位はイギリスで六九%、アメリカが六五%で七位、日本は六〇%で九位、フランス五四%(一一位)、ドイツ四三%(一四位)となっている。世界平均が六三%とあるので、日本は平均的な位置にあるらしい(ただしこのランキングは先進国だけのものと思われる)。

  では改めてインドネシアはどうか。中央統計庁のデータによると、二〇一〇年の全国平均は実に七八・〇%。二位のイタリアと並ぶ。日本より高い。家をもつのは当たり前、というのもあながちまちがいではないらしい。州別にみると一位は中ジャワの八七・九%で、 二番目は東ジャワの八七・一%だった。首都ジャカルタは、四五・二%と全国で一番低く、大都会で家を持ちにくいのはどこの国でも同じことらしい。それはインドネシア国内でもいえるようで、都市と地方と比べると、いわゆる田舎の方が持家比率は圧倒的に高い。田舎の全国平均は八八・三%で都市部の六七・六%をはるかに上回っている。ジョクジャカルタ特別州の田舎に至っては九四・八%が家をもっている(都市部は六五・一%)。

  一方、広さに関しては、所得格差が大きいためか、日本のような単純平均はなく、一九平方メートル以 下、二〇〜四九平方メートル、五〇〜九九平方メートル、一〇〇〜一四九平方メートル、一五〇平方メートル以上という五段階に分けてその割合を出している。三三ある州のうち一九の州で、もっとも割合の高いのは二〇〜四九平方

100.0 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0

0.0 ナングロ・アチェD 北スマトラ 西スマトラ リアウ リアウ群島 ジャンビ 南スマトラ バンカ・ブリトゥン群島 ベンクル ランプン ジャカルタ首都特別 西ジャワ バンテン 中ジャワ ジョグジャカルタ特別 東ジャワ バリ 西ヌサトゥンガラ 東ヌサトゥンガラ 西カリマンタン 中カリマンタン 南カリマンタン 東カリマンタン 北スラウェシ ゴロンタロ 中スラウェシ 南スラウェシ 西スラウェシ 東南スラウェシ マルク 北マルク パプア 西パプア

150m2〜 100-149m2 50-99m2 20-49m2

〜19m2 持家比率トイレ無し

(%)

図 州別インドネシアの住まい(広さ・持家比率・トイレ)

(出所) インドネシア中央統計庁。

②東ジャワ―土間(撮影:東方孝之)

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メートルで、狭い家に慣れている日本人から見ても家族が住むには決して広いとはいえない。(図参照)さらにジャカルタは、一九平方メートル以下に二三・九%の世帯が住んでいて、やっぱり都会は高くて狭いということがわかる。

  ついでながら、インドネシアではどんな家に住んでいるかについても統計が出されている。主な質問は、「屋根は棕櫚(

iju k

)葺き(日本でいうところの藁葺き)でないか?」「壁は竹でないか?」「床は土でないか?」である。この「でないか?」という質問が、昔は棕櫚葺きの屋根に竹の壁で土間の家が普通であったのだろ うと思わせる。

  二〇一〇年の統計結果は、棕櫚葺きの屋根ではない 4444家は九六・六%。一九九三年ですでに九〇・三%だったことを考えると、この質問自体が過去のものになっている感もあるが、パプア州では二〇一〇年でも四二・三%が棕櫚葺きである。これはパプア州が比較的貧しいからでは、と思いがちだが、持ち家比率は八一%ある。さらに、安価な住宅を中低所得者向けに提供する国営企業

Perumnas

社の一戸当たりの平均価格はパプア州で一億ルピア(約九四万円)。ジャカルタの一億一九〇〇万ルピア(約一一二万円)に次ぐ高さである。全国平均が六六〇〇万ルピア(約六二万円)、安いところは五五〇〇万ルピア(五二万円)なので、遠隔地ゆえに資材が高いのかもしれないし、また東西に広いインドネシアは気候も文化も大きく異なるため、もしかするとパプアでは「自然素材」が土地の風土に合っているのかもしれない。つぎに「壁は竹製でないか?」という質問には二〇一〇年には九〇%が「竹製でない」となっている。一九九三年の七四・五%からずいぶん変化している。もうひとつ、「床は土 でないか」という質問に、二〇一〇年は八八・一%が「土でない」と答えている。これも一九九三年の七二・九%から高くなっている。しかし、印象としては地方の民家に行けば土間の家もまだ多く見かけるような気がする。写真①は、東ジャワの民家である。棕櫚葺き屋根でなく竹の壁でもないが土間の家である。インドネシアの民家はたいてい玄関がそのまま応接間になっているような作りで、そこで客に応対する。最も簡素な土間の場合、写真②のように敷物を敷く。またはラタンや竹製の椅子を置く(写真③)。高価な素材は分厚い大理石であるが、写真のようなタイルが一般的かもしれない(写真④)。屋根と壁と床。床にタイルを敷くのが、一番お金がかかるのだろうか?  家をもっているかどうかも重要だが、国が豊かになるにつれ、どのような家に住むかが重要になってくる。現在G

世帯は六三・九%に止まり、一三・ 一〇年)では自宅にトイレがある であるが、統計庁のデータ(二〇 ると気を吐いているインドネシア 二五年には世界一〇大経済国にな あり、好調な経済を背景に、二〇

20

のメンバーでも のだろうか。 に関する質問項目も変わっている りする必要がなくなって、住まい は、トイレの有無について聞いた シアが一〇大経済国になる頃に にトイレがない。将来、インドネ 四%が共同で、一八・八%の世帯

まだ  みき/アジア経済研究所 金融・財政研究グループ)

③東ジャワ―敷物と家具(撮影:筆者)

④東ジャワータイルの家(撮影:東方孝之)

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家をもつのは当たり前?―インドネシアの持家比率

参照

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