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2. I-35W 橋の構造概要 3. I-35W 橋の崩壊モード I-35W 橋の中央部は3 径間連続の鋼上路トラス橋である. 中央径間長は139.0m, 両側の側径間長 81.0m, 桁下高 19.5m, 幅員 34.5mである. 鋼トラスは対称な2 主構であり, 床組上に14 本の縦桁が等間隔に

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米国ミネアポリス

I-35W 橋の崩壊メカニズムと

格点部の損傷評価

笠野英行

1

・依田照彦

2 1正会員 早稲田大学助手 創造理工学部社会環境工学科(〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1) E-mail:kasano@aoni.waseda.jp 2フェロー会員 早稲田大学教授 創造理工学部社会環境工学科 (〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1) E-mail:yoda1914@waseda.jp 2007年8月1日に起きた米国ミネソタ州ミネアポリス近郊のI-35W橋崩落事故をうけて,複数の崩落原因 が推測され,原因解明のための調査や研究が行われている.本研究はI-35W橋崩落の原因を,有限要素法 の汎用プログラムを用いて解析的に解明したものである.崩壊のメカニズムを解析することによりU10格 点部ガセットプレートの損傷が崩壊の起点であることを特定した.また,事故当時の格点部の構造条件お よび荷重条件のもとでU10格点部が損傷する状態にあったことを明らかにした.さらに,I-35W橋崩落事 故を回避できた可能性についても検討し,その回避方法の一例を示した.

Key Words : collapse mechanism, bridge failure, steel truss, gusset plate, finite element analysis 1. はじめに 2007年8月1日午後6時5分(日本時間2日午前8時5分),米国 ミネソタ州ミネアポリス郊外のミシシッピ川に架かるI-35W橋が崩落した.崩落延長は300mを超え,死者13名, 負傷者約145名という歴史的にもまれな大事故であった. このI-35W橋の点検は1967年の供用開始以来,1992年以 前は2年に1回,1993年以降は毎年行われてきた.2006年 に実施された詳細点検では橋梁評価としては構造的欠陥 あり(Structurally Deficient)とされ,上部構造は0~9までの 10段階評価で4 (Poor)であった.このような低い評点を受 けた原因としては,塗膜が劣化している箇所における鋼 材の腐食,鋼トラスや床組にみられる溶接不良,可動支 承の機能不全,およびトラス横ばりや,取付け橋に存知 された疲労亀裂の補修等が上げられる.2020年~2025年 頃に橋の架け替えが計画されていたため,当面の処置と して補修および補強をすべきとの提言を得ていた1).こ れをうけてMN/DOTは目視によるFCMの溶接ディテール の点検を開始したが,溶接部の亀裂は発見されず,当初 予定されていたFCMのあて板補強を行うには至らなか った. 既往の研究2)-10)を踏まえ,この橋梁が突然崩壊した理 由を解明することは,わが国にも多数存在する老朽化し た橋梁の安全性を検討する上で重要なことである.本研 究では,まずI-35W橋全体の有限要素モデルを用いた解 析により,実際のI-35W橋の崩壊モードから崩壊のメカ ニズムを解明する.次に,崩壊の起点となったと考えら れるガセットプレートの応力状態を評価することにより, 崩壊の原因を明らかにする,さらに,崩落事故を回避で きた可能性についても検討する. 橋脚5 橋脚8 橋脚6 橋脚7 エキスパンションジョイントの位置 U10 U’10 L’11 L11 脆弱なガセットプレートの位置 南側(右岸側) 北側(左岸側) 図-1 I-35W橋の側面図 スタッド配置の位置 1 0 2 3 4 5 6 7 8 9 10 12 13 14

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2. I-35W橋の構造概要 I-35W橋の中央部は3径間連続の鋼上路トラス橋である. 中央径間長は139.0m,両側の側径間長81.0m,桁下高 19.5m,幅員34.5mである.鋼トラスは対称な2主構であ り,床組上に14本の縦桁が等間隔に配置されている. 図-1に側面図を示す.ここで南側および北側の格点から 順番に番号をふる.Uは上弦材を結ぶ格点,Lは下弦材 を結ぶ格点である.左右対称であるため左側は ’を付け て表す.図-1に示す5箇所のエキスパンションジョイン トの位置においてコンクリート床版および縦桁は不連続 である.また,破線で示した区間はスタッドによる床版 と縦桁の合成構造であるが,それ以外の区間においては 非合成構造である.支承は橋脚7上のものが固定支承, その他の支承はローラーによる可動支承となっている. 2008年1 月に米国運輸安全委員会(NTSB)が発表した調査 報告では図-1の4箇所(西側,東側で計8箇所)の格点にお けるガセットプレートの厚さが必要な板厚の半分程度で あったとされている. 3. I-35W橋の崩壊モード 図-2がI-35W橋の崩壊後の状況である.南側の側径間 部は支承が破壊され,東側に大きく変位すると共に北側 へも約6mほど移動していることがわかる.これに対し て,中央径間部はほぼ真下に落下している.また,U10 およびU’10付近上部のコンクリート床版が破壊されている. 北側の側径間部はUの字型に反り上がりコンクリート床 版の損傷は比較的少ない.なお,I-35W橋の崩落当時, 床版の補修工事が行われていたことは特筆すべきことで ある. 4. 崩壊のメカニズム解析 (1) 解析モデル 解析モデルを図-3に示す.解析モデルは実際のI-35W 橋の構造条件をなるべく満足するように作成した.鋼ト ラスおよび床組,縦桁,その他の2次部材は2節点の一般 図-2 崩壊後の写真 (出典:MN/DOT12)) (b) 南側側径間の拡大写真 (a) 全体の写真 東 西 南 北 図-3 解析モデル

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梁要素でモデル化し,コンクリート床版は4節点のシェ ル要素を用いてモデル化した.各部材要素の中心軸は, 実橋での各部材の中立軸の位置と一致するように配置し た.トラスの格点部は実際の結合条件を考え,剛結合と した.また,縦桁とコンクリート床版の結合方法に関し て,非合成構造の区間においては鉛直荷重を主として伝 達できるように,曲げ剛性を極端に小さくした梁要素を 介して結合した.一方,合成構造の区間ではスタッドの せん断剛性と等価なせん断剛性を与えた梁要素を用いて 結合した.荷重条件については,橋梁の自重8051tfに加 え,隣接上部工の荷重280tf (南側),500tf (北側),さら にNTSBの中間報告に従い,表-1に示した工事資材およ び車両の重量(総重量約260tf)を図-4に示す位置に載荷し た. (2) 解析方法 本解析では次のような手順でI-35W橋の崩壊過程の追 跡を試みた. まず始めに,ある1つの部材の欠損が崩壊の起点とな ったと仮定し,その部材を構成する要素を消去する.こ の状態で線形自重解析を行ない,その結果他の部材に生 じる上縁応力σ1および下縁応力σ2が以下の条件式を満た すとき,部材の終局状態とみなす. a) 軸力が引張の場合 σ1σu または σ2σu (1) u σ :引張強度(552N/mm2) このとき部材要素を消去する. b) 軸力が圧縮の場合 y σ σ σ + 2 2 1 (2) y σ :降伏応力(355 N/mm2) このとき部材要素の剛性を1/1000に下げる. 式(1)および式(2)と式(3)から得られる条件を一般的な 軸力と1軸曲げの終局強度相関式11)と比較すると図-5の ようになる.一般的な終局基準に比べて本解析の終局条 件は高く設定してある.これは引張部材の終局状態に関 しては,部材の破断を想定し,また,圧縮部材の終局状 態に関しては,部材の軸力による全断面降伏を想定した ためである.また,通常のトラスの設計では,縦軸に近 い部分に終局限界状態があるように設計されていること にも配慮している. y I M A P σ= ± (3) A:部材断面積 y:部材中立軸からの距離 I:部材断面2次モーメント なお,図-1の脆弱な格点部近傍に関しては応力が引張, 圧縮ともに200N/mm2に達した時点で部材を消去した. この格点での部材消去の基準を200N/mm2としたのは, ガセットプレート部の解析において接合している各主部 材の応力が200N/mm2程度に達するとその部材の接合部 のガセットプレートが破壊に至ることを確認したためで ある.このような部材が欠損または座屈するかの判定法 が正しいことを確認するため,NTSB等から公表されて いる文献や写真等を参照した. 工事資材及び車両名称 重量(tf) Rock 85.3 Sand 92.0 B15 23.8 B16 33.7 D16 22.2 表-1 工事資材および車両の重量 -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 0 . 1 = + p p M M P P 0 . 1 = + p u M M P P a)の条件 b)の条件 p P P p M M 図-5 終局強度相関図 p P :全塑性軸力 p M :全塑性モーメン u P :座屈を考慮した終局強度 U’ 8(西側) U’ 8(東側) U14(西側) U14(東側) Rock Sand 図-4 工事資材および車両の位置 (車両Noは NTSBの中間報告による) D16 B16 B15

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この状態で再び線形自重解析を行い,その結果をもと に上記と同様の欠損判定を行う.本来であれば,非線形 解析により崩壊のプロセスを追及するのが最も適切であ ると考えられる.しかしながら,汎用のFEMプログラム において,破壊のような非線形性の強い挙動の解を求め ることは非常に困難である.よって本解析では,割線剛 性を用いた一連の線形解析により橋梁の剛性を低下させ 崩壊のプロセスを追跡した.この方法により筆者らは既 報13),14)において実際のI-35W橋の崩壊モードと一致する崩 壊パターンを求め,その結果,崩壊の起点である可能性 が高いと考えられる部材はL9-U10の圧縮部材であること を特定した.L9-U10斜材が崩壊の起点であると判断した 理由は,図-2の写真に見られる崩壊モードの特徴の一つ として,P8橋脚上の支点L8が橋梁中央方向に大きく移 動しており,解析においても同様に支点L8が橋梁中央 方向へ変位する崩壊モード(図-6)はL9-U10斜材を最初に 消去した場合のみであったからである.よって,本論文 ではL9-U10斜材が初めに欠損した場合の崩壊のメカニズ ムを示す.ただし,本解析では衝撃を含む動的作用は考 慮していない. (3) 崩壊のメカニズム 図-7 に本解析による I-35W 橋の崩壊メカニズムを示 す.崩壊の起点として西側の L9-U10 斜材を欠損させる と西側 U10 格点部付近の部材に続いて東側 U10 格点部 付近の部材が終局状態に達する.これにより中央径間部 南側がたわみ始めたのがStep-1 である.終局状態に達し た部材の逐次消去により橋梁の剛性が低下し,このたわ みが進行すると,北側の U’10 付近の部材も終局状態に 達し,中央径間部全体がStep-2 のように落下し始める. Step-3 では中央径間部が落下すると南側側径間が中央に 向かって変位し,橋脚 6 上の支点部の変位量が沓座の 1/2 の長さを超えるため,可動支承が沓座からはずれる. ことになる.これにより下弦材L7-L8 が橋脚 6 上に乗る ことになり,東側の下弦材L7-L8 が終局状態に至ったた め, バランスを失った南側側径間が大きく東側に倒れ 始めたのがStep-4 である.最後に一連の動作により大き な曲げモーメントを受けた北側側径間の部材が終局状態 に達する.また,橋脚8 上の支点部がいったん上方へ変 位するため,支承が沓座からはずれ,落下することにな りStep-5のような崩壊モードとなる. このように,解析によって示した崩壊モードが実際の 崩壊映像や崩壊後の写真とほぼ一致していることから, Step-2 (中央径間北側の崩落開始) (中央径間南側の崩落開始) Step-1 東 西 南 北 CL 図-6 支点の変位方向 南側(右岸側) L8 L9 U10 図-7 I-35W橋崩壊のメカニズム

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今回の解析方法で実施した崩壊メカニズムの解析は概ね 実際のI-35W橋の崩壊過程を追跡している.また,L9-U10斜材以外の部材を最初に欠損させても実際の崩壊モ ードとは一致しないため,L9-U10斜材が初めに欠損した ことがI-35W橋の崩壊の引き金になった可能性が高い. 5. U10格点部の応力状態の評価 (1) U10格点部の解析モデル L9-U10斜材が崩壊の起点であるとしても,健全な斜材 自体に突然損傷が生じる可能性は低い.このL9-U10斜材 が脆弱なガセットプレートを有する格点U10に接合され ていることを考えれば,U10格点部のガセットプレート との接合部に初期の損傷が生じたことが推測できる.そ こで,図-8に示すようなU10格点部の有限要素モデル15),16) を作成し,この部分モデルをI-35W橋全体の有限要素全 体モデルの対応する格点部に取り付ける.このようにし て,I-35W橋の全体挙動の中でのU10格点部の応力状態 を把握した.格点のモデル化において,ガセットプレー トでは4節点の曲面シェル要素を用いた.また,リベッ トの結合条件に関しては,リベットの軸剛性,せん断剛 図-7 I-35W橋崩壊のメカニズム (つづき) (南側側径間の東側への倒壊) Step-4 (最終的な崩壊モード) Step-5 実際の崩壊写真(出典:NTSB12)) (南側側径間の中央径間方向への変位) Step-3

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性および曲げ剛性を並進バネ要素および回転バネ要素を 用いて近似した. (2) 解析条件 U10格点部はガセットプレートの厚さが必要な板厚の 半分以下である1.27cm (0.5インチ)であったことに加え, ガセットプレートが図-9に示すように,面外方向に最大 で約1.27cm (0.5インチ)変位していたことも確認されてい る.これらの事実がU10 格点部の構造的な脆弱性にどの 程度寄与していたかを確認するため,表-2に示すCASE-1からCASE-3の3パターンのモデルを主な解析の対象と した. 前述のとおり,I-35W橋が崩落した当時,U10格点部 の上方において床版の補修工事が行われていた.このた め,工事車両および工事資材等の重量を合わせた総重量 約260tfの荷重が床版に乗っていたことになる.この荷重 がU10格点部に及ぼす影響は非常に大きいと考えられる ため,解析においてもこれを考慮し,自重に加え260tfの 工事荷重を載荷した.なお,この工事荷重の影響の大き さを確認するため,工事荷重を載荷しない場合の解析も CASE-4として行った. 鋼材の応力-ひずみ関係にはNTSBより公表されている 引張試験の結果17)を用いて1次剛性を2×105 N/mm2とし, 2次剛性を図-10のように,降伏応力を355N/mm2,塑性ひ ずみ20%のときの引張強度を552N/mm2とするバイリニ ア型を用いた.非線形解析はvon Misesの降伏条件,関連 流れ則,等方硬化則を用いた. (3) 解析結果 図-11 に最も大きなひずみが生じたU10 格点部西側の ガセットプレート表面の相当塑性ひずみ分布図を示す. また,表-3 に同ひずみの最大値を示す.CASE-1 が実際 の条件下でのモデルであるが,L9-U10 斜材の接合部付 近のガセットプレートが塑性域に達していることが確認 できる.また,図-12 に示すように L9-U10 斜材が西側 のガセットプレートを面外に押し出すような変形を観察 することができる.面外変形の生じていないガセットプ レート(CASE-2)でも比較的大きな塑性ひずみが生じてい るが,その最大値はCASE-1 の 1/3 程度である.ガセッ トプレートの板厚が 2.54cm (1 インチ)確保されている場 合(CASE-3)に関しては,わずかに塑性化する部位が見ら れるものの,その最大値は 0.39%であり,ほぼ弾性域内 にあるといえる.一方,工事荷重を載荷しない場合 (CASE-4)でも,一部塑性域に達しているが,値は小さい. 以上より,ガセットプレートの板厚が過小であったこ と,またガセットプレートが面外に変形していたことが U10格点部の構造的な脆弱性に大きく影響していたこと が確認できた.さらに,工事車両および工事資材の重量 が,L9-U10斜材の接合部付近のガセットプレートの降伏 を加速させたことも確認できた. 図-8 U10 格点部のモデル 表-2 U10 格点部の解析ケース ガセットプレート の板厚 面外変形 工事荷重 CASE-1 1.27cm (0.5 インチ) あり あり CASE-2 1.27cm (0.5 インチ) なし あり CASE-3 2.54cm (1.0 インチ) あり あり CASE-4 1.27cm (0.5インチ) あり なし 図-9 U10ガセットプレートの面外変形(出典:NTSB18)) 20% 355 552 塑性ひずみ 応力 (N/mm 2 )) 図-10 鋼材の応力-塑性ひずみ関係 0

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6. リベットホールを考慮したガセットプレート の応力解析 (1) リベットホールのモデル化の必要性について 前章の解析によってL9-U10斜材の接合部のガセットプ レートが実際の条件下で降伏することを示した.しかし ながら降伏後の相当塑性ひずみの値は最大で9.1%であり, 一般的にこの程度の値で鋼材が破断する可能性は小さい. これは解析に用いたガセットプレートのモデルではリベ ットホールをモデル化していなかったため,ガセットプ レートに生じる応力がある程度緩和されていたためと考 えられる.つまり,リベットホールをモデル化した場合, ガセットプレートの有効断面積の減少による応力の増加 や応力集中が見込まれるため,より大きなひずみが生じ ることが予想される.そこでリベットホールをモデル化 したガセットプレートの有限要素モデルを作成し,ガセ ットプレートの損傷の程度の違いを検討する. (2) 解析モデルの妥当性 リベットホールをモデル化するためには,1要素の寸 法を非常に小さくしなければならないため,前章と同様 にU10格点部全体をモデル化する場合,数十万要素を必 CASE-1 (実際の条件) CASE-2 (面外変形なし) CASE-3 (板厚 2倍) CASE-4 (工事荷重なし) 図-11 相当塑性ひずみ分布図 図-12 ガセットプレートの変形(5倍) 表-3 相当塑性ひずみの最大値(西側表面のひずみ)

CASE-1 CASE-2 CASE-3 CASE-4 相当塑性

ひずみ(%) 9.1 3.1 0.39 0.68

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要とする.このためモデル化するガセットプレートの範 囲を図-13の(a)に示すL9-U10斜材の接合部付近のみとし た.図-14の(a)に示すように,斜材を梁要素でモデル化 し,その下端に外力を加えた.外力は5章の解析で得ら れた斜材の軸力と面内曲げモーメント(偶力)の和であ る.また,境界条件は青の破線で示した部分の変位およ び回転を拘束した.斜材からガセットプレートへの力の 伝達に関しては,図-14(b)に示すように中心の節点から, 16本のばね要素を配し,これらのばね要素にリベットの 軸剛性およびせん断剛性をばね定数として与えた19). また,図-13の(b)に示すガセットプレートのL9-U10斜 材の接合部のみを対象としたリベットホール付き部分モ デルがU10格点部全体のモデルと力学的に等価であるこ とを示すために,予備解析を行った.U10 格点部全体の モデルがL9-U10斜材から受ける力と等価な外力をリベッ トホール付き部分モデルに入力し,その解析結果の妥当 性を検討する.本論文を通して,ひずみ量により損傷の 評価を行っているため,両モデルの等価性の判定は予備 解析の解析結果から得られる,ひずみのコンター図を比 較して行った.これを図-15に示す.図-15の(a)および(b) の両者を比較すると,ひずみの分布状態は多少の差異は あるものの,ほぼ一致した結果であることが確認できる. よって,このリベットホール付き部分モデルが全体のモ デルの代替として利用できるものとみなし以降の解析を 行う. (3) 解析条件 解析条件は,前章の解析におけるCASE-1,CASE-2, CASE-3,CASE-4に対応するものを,それぞれCASE-1’, CASE-2’, CASE-3’,CASE-4’とした,構成則は図-10と同 様とし,von Misesの降伏条件,関連流れ則,等方硬化則 を用いて非線形解析を行った. (4) 解析結果 図-16 に相当塑性ひずみの分布図を示す.また表-4 に 各CASE で生じた最大ひずみの値を示す.全ての CASE において,リベットホール付き部分モデルの方が U10 格点部全体のモデルよりも大きな相当塑性ひずみを生じ させる結果となった.特に最上段のリベットホールの周 辺の塑性ひずみが大きな値を示すことが確認できた. 実際の条件を用いて解析したCASE-1’では,全載荷荷 重の 85%の荷重を載荷した時点で相当塑性ひずみが 20.9%となり,それ以降の荷重の増分に対しては,急激 なひずみの増加により計算が収束せず解を得ることがで きなかった.このことは実際の挙動においては,ガセッ トプレートが破断に至ることを意味すると考えられる. 一方,CASE-2’ ~CASE-4’においては CASE-2 ~CASE-4 と比較して大きな相当塑性ひずみを生じる結果となった が,ガセットプレートが破断に至る可能性は小さいと考 えられる. 図-13 解析対象 (a) 対象部分 (b) リベットホール付き 部分モデル (a) U10 格点部全体の モデル 図-15 相当塑性ひずみの分布状状態の比較 (b) リベットホール付き 部分モデル 表-4 相当塑性ひずみの最大値

CASE-1’ CASE-2’ CASE-3’ CASE-4’ 相当塑性 ひずみ(%) 20.9以上 4.5 1.7 9.6 外力F 図-14 解析モデル (a) 解析条件 (b) リベットホール部 拡大図 ばね要素

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(5) 破断曲線 図-17に示すように,CASE-1’において,ガセットプレ ートに見られる相当塑性ひずみの最大値の分布形状と, 実際に破断したがセットプレートの破断曲線の形状がよ く一致している.このことから,この部分モデルによっ て比較的高い精度で解析が行われたことが確認できる. (6) 終局基準の検討 崩壊のメカニズム解析において,脆弱な格点部の終局 基準を部材の応力が圧縮,引張ともに200N/mm2に達し た時点であると定めた.この基準についての検討を CASE-2’の条件のもとで行った.斜材の軸力を徐々に増 加させていった場合の応力(軸力を斜材の断面積で除し た)とガセットプレートに生じる相当塑性ひずみの関係 を図-18に示す.圧縮,引張ともに応力が概ね200N/mm2 に近づくにつれてひずみの値が発散していく結果となっ た. 7. ガセットプレートの耐荷力向上の可能性について (1) 補剛材の取り付けによる耐荷力向上 AASHTOではガセットプレートの自由辺長Lを式(4) により制限している11).式(4)にU10ガセットプレートの 自由辺長L=69cm,板厚t=1.27cmを代入するとL/t=54.3 となり,この式を満たしていないことになる. y σ t L50 355 (4) σ :降伏応力(355 N/mm2) そこで今回のような事故を未然に防止する方策の一つ として,なるべく簡便な補強方法を検討する.U10ガセ ットプレートの破壊は図-12に示したようにL9-U10斜材 CASE-1’ (実際の条件) CASE-2’ (面外変形なし) CASE-3’ (板厚 2倍) CASE-4’ (工事荷重なし) 図-16 相当塑性ひずみ分布図 (a) CASE-1’ひずみ分布図 (実際の破断曲線を黒線で図示) (b) 実際の破断曲線 (出典:NTSB17)) 図-17 破断曲線 図-18 斜材の応力とガセットプレートの 相当塑性ひずみの関係 -200 -150 -100 -50 0 50 100 150 200 -100 相当塑性ひずみ 100 応力 (N/mm 2 )

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の上端が,ガセットプレートを面外に押し出すようにし て生じた.このときのガセットプレートの面外変形を拘 束するために,図-19に示すような鉛直補剛材をガセッ トプレートの内側に取り付けることにする.これを図-20のようにCASE-1’のモデルを用いてモデル化し,ガセ ットプレートに生じる相当塑性ひずみが低減されること を前章と同様の解析を行い確認する. (2) 解析結果 補剛材を取り付けることにより面外方向の剛性を向上 させた結果,解析によって生じた相当塑性ひずみの最大 値は7.4%にとどまった.図-21に示した相当塑性ひずみ の分布状態が工事荷重の載荷されていない場合である 図-16のCASE-4’の塑性ひずみの分布状態に近いことから も示されるように,ガセットプレートの変形は補剛材に より抑制され,ガセットプレートの応力状態は工事荷重 が載荷される以前の状態にまで低減される.つまり補剛 材を適切に取り付けることにより U10 格点部の耐荷力 を向上させることが可能である. 8. I-35W橋崩壊原因の考察および崩壊回避の可能 性について I-35W橋全体を対象にした梁要素モデルを用いた崩壊 のメカニズム解析により,崩壊の起点がU10格点部付近 であることを特定した.U10格点部のガセットプレート の板厚が必要な板厚の半分以下であったこと,またガセ ットプレートが面外変形を起こしていたこと,そして U10格点部の上方に約260tfの工事資材等の荷重が載荷さ れていたことの3つの条件を考慮し,U10格点部の解析 を行った.その結果,U10格点部のガセットプレートが L9-U10斜材から西側へ面外方向の力を受けることにより 変形し,降伏することを確認した.さらにリベットホー ルをモデル化したガセットプレートモデルを用いて解析 することによって最上段のリベットホール周辺に,極め て大きな相当塑性ひずみが生じることを確認した.この 相当塑性ひずみはガセットプレートを破断させるために 十分な大きさであった.つまり,応力の集中するリベット ホール周辺を起点として破断が生じ,それがガセットプ レート全体に広がったと推測される.したがって,I-35W橋はU10格点部のガセットプレートが破断すること によりL9-U10斜材が格点部からはずれ,崩壊のメカニズ ム解析で示した過程で橋梁全体の崩壊に至ったと考えら れる. また,今回の解析ではU10格点部の脆弱性に関連する と考えられる上記の3つの条件を場合分けして行ったが, 3つの条件うち,いずれか1つの条件が回避できると仮定 した場合(CASE-2 ~CASE-4)では,ガセットプレート の破断は起きない結果となった.すなわち, I-35W橋の崩 壊は3つの条件が全て重なったため引き起こされたもの と考えられる. 一方,崩壊回避の可能性については,崩壊以前にU10 格点部のガセットプレートに補剛材を取り付けることを 想定して,補剛材を取り付けた場合,解析によってガセ ットプレートに生じる相当塑性ひずみの分布状態は,工 事荷重を載荷していない場合のひずみの分布状態とよく 一致していた.さらに,相当塑性ひずみの最大値は工事 荷重を載荷していない場合の値より小さい.この結果と 実際に工事荷重が載荷される以前はガセットプレートは 破断していなかったという事実から,補剛材を取り付け ていればU10格点部のガセットプレートは破断していな かったと推察される.つまり,事前にこのような補強が 実施されていれば,I-35W橋の崩壊は回避できた可能性 があると言える. 補剛材 図-19 補剛材の取り付け位置 図-20 補剛材付き解析モデル 20cm 69cm 2.54cm 補剛材 図-21 相当塑性ひずみ図

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9. 結論 I-35W橋の崩壊メカニズム解析とU10格点部の損傷を 定量的に評価することにより以下のような知見が得られ た. (1) 本論文で示した I-35W橋の崩壊メカニズム解析は実 際の崩壊挙動を比較的よく再現している.ただし, 有限要素モデルの構築にあたっては,できるだけ 現状を反映させる必要がある. (2) 有限要素解析によってガセットプレートの詳細な 損傷評価を行う際には,リベットホールをモデル 化する必要がある.これにより有効断面の減少や 応力集中の影響を考慮することができ,より正確 な損傷状態を把握することができる. (3) 解析から得られる相当塑性ひずみの分布図におい て,ひずみの値の大きい箇所と実際の破断曲線の 位置が符合していることが確認できた. (4) 次の3つの要因全てが重複することによってU10格点 部が破壊され,I-35W橋は崩壊に至ったと判断でき る. 1)U10格点部のガッセトプレートの板厚が必要な板 厚の半分以下であったこと. 2)ガセットプレートが面外変形を起こしていたこと. 3)U10格点部の上方に約260tfの工事資材等の荷重が 載荷されていたこと. (5) U10格点部のガセットプレートに補剛材を取り付け ることで,ガセットプレートの面外変形が拘束さ れ,U10格点部の耐荷力が向上する.よって,事前に このような補強を実施することによりI-35W橋の崩 壊は回避できた可能性がある. 参考文献 1) 依田照彦,笠野英行:米国ミネソタ州高速道路(I-35W)の崩落について,土木施工 Journal for Civil Engi-neers 1,Vol.50,No.1,pp.30-33,2009.

2) Astaneh-Asl, A. : Progressive collapse of steel truss bridge, the case of I-35W collapse, 7th International Conference on

Steel Bridges, I84-I94, 2008.

3) 松谷秀樹,明石直光,松田岳憲,安田昌宏,石井博 典,宮森雅之,小幡泰博,平山博,奥井義昭:鋼ト ラス橋のリダンダンシー評価手法の検討(その 1),土 木学会第63 回年次学術講演会, 2008. 4) 松谷秀樹,明石直光,松田岳憲,安田昌宏,石井博 典,宮森雅之,小幡泰博,平山博,奥井義昭:鋼ト ラス橋のリダンダンシー評価手法の検討(その 2),土 木学会第63 回年次学術講演会, 2008. 5) 松谷秀樹,明石直光,松田岳憲,安田昌宏,石井博 典,宮森雅之,小幡泰博,平山博,奥井義昭:鋼ト ラス橋のリダンダンシー評価手法の検討(その 3),土 木学会第63 回年次学術講演会, 2008. 6) 松谷秀樹,明石直光,松田岳憲,安田昌宏,石井博 典,宮森雅之,小幡泰博,平山博,奥井義昭:我国 の鋼トラス橋を対象としたリダンダンシー解析の検 討,土木学会論文集 A,Vol.65,No.2,pp.410-425, 2009. 7) 鋼橋技術研究会特別検討チーム:なぜ日本の橋は落 ちていないのか?-リダンダンシーが橋をすくう-, 鋼橋技術研究会緊急企画“トークイン日本の橋を考 える”予稿集,pp.95-116,2007. 8) 金治英貞,鈴木直人,香川敬生,渡邊英一:長大ト ラス橋の耐震性向上における設計入力地震動と損傷 制御構造,土木学会論文集,No.787/I-71,pp.1-19, 2003. 9) 吉岡勉,原田政彦,山口宏樹,伊藤信:斜材の実損 傷による鋼トラス橋の振動特性変化に関する一検討, 構造工学論文集,Vol.54A,pp.199-208,2008. 10) 野上邦栄,山本一之,成田信之:鋼骨組構造物の簡 易耐荷力算出法の提案,構造工学論文集,Vol.42A, pp.83-90,1996. 11) 座屈設計ガイドライン改定小委員会:座屈設計ガイ ドライン,改定第2 版,土木学会,2005.

12) Minnesota Department of Transportation, Interstate 35W Bridge Photos, http://www.dot.state.mn.us/i35wbridge/ photos/ 13) 山本塁,笠野英行,古川貴之,依田照彦:鋼トラス 橋のリダンダンシーに関する考察,土木学会第 35 回 関東支部技術研究発表会, 2008. 14) 古川貴之,笠野英行,山本塁,依田照彦:鋼トラス 橋のリダンダンシーに関する研究,土木学会第 63 回 年次学術講演会, 2008. 15) 保坂鐡矢,堀地紀行,磯江暁:トラス格点部合理化 構 造 の 検 討 , 構 造 工 学 論 文 集 ,Vol.46A, pp.1353-1364,2000. 16) 保坂鐡矢,増田陳紀,磯江暁:トラス格点合理化構 造の強度に関する一検討,構造工学論文集,Vol.47A, pp.1177-1184,2001.

17) NTSB: Structural and Local Failure Study of Gusset Plate in Minneapolis Bridge Collapse, Interim Report, February 14, 2008.

18) NTSB: Highway Accident Report: Collapse of I-35W Highway bridge Minneapolis, Minnesota August 1, 2007, November 14, 2008.

19) 日本鋼構造協会 接合小委員会:鋼構造接合資料集成, 技報堂出版,pp.173-175, 1977.

(12)

COLLAPSE MECHANISM OF I-35W BRIDGE IN MINNEAPOLIS AND

EVALUATIION OF GUSSET PLATE ADEQUACY

Hideyuki KASANO and Teruhiko YODA

On August 1, 2007 at 6:05 PM, I-35W steel deck truss bridge over Mississippi River in Minneapolis catastrophically failed into the river resulting in the 13 people dead and more than 100 people injured. Determining the cause of the collapse is required to prevent bridge failures from similar causes. This pa-per attempted to reveal the cause of the I-35W bridge collapse using a finite element model. Firstly, an analysis of the bridge collapse mechanism specified that the failure of U10 gusset plate initially occurred and led to the collapse of entire span. Secondly, the result of calculating the stress in U10 gusset plate in-dicated that the gusset plate was likely to fracture under the loading and the structural conditions at the time of accident. Finally, an example of the method of preventing the bridge collapse was proposed.

参照

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