河川整備基金助成事業
埋土種子による絶滅危惧水生植物ツツイトモ
（ヒルムシロ属）の再生・保全の研究
報告書
事業名
平成１８年度河川整備基金助成事業（調査・試験・研究部門）
埋土種子による絶滅危惧水生植物ツツイトモ（ヒルムシロ属）の
再生・保全の研究
助成番号
18−1215−8 号
助成事業者
百 原 新 現 職 ： 千 葉 大 学 大 学 院 ・ 園 芸 学 研 究 科 ・ 准 教 授 （ 理 学 博 士 ） 主 な 著 作 ： 百 原 新 ，2004． 3.植 物 相 ． 千 葉 県 史 料 研 究 財 団 編 「 千 葉 県 の 自 然 誌 本 編 ８ ， か わ り ゆ く 千 葉 県 の 自 然 」， 78-106， 千 葉 県 ． 百 原 新 ，2004．海 辺 − す み か の 原 型 ．小 野 佐 和 子・宇 野 求・古 谷 勝 則 編「 海 辺 の 環 境 学 ． 大 都 市 臨 海 部 の 自 然 再 生 」， 33-61， 東 京 大 学 出 版 会 ， 東 京 ．Tanaka, N., Momohara, A., Sakayama, H., and Uehara, K., 2003, Chara
species that emerged from 40-years-old sediments from Lake Teganuma, central Japan. Natural History Research， 7(2)， 101-105.
百 原 新・上 原 浩 一・藤 木 利 之・田 中 法 生 ，2001，千 葉 県 手 賀 沼 湖 底 堆 積 物 中 の 埋 土 種 子 の 分 布 と 保 存 状 態 ． 筑 波 実 験 植 物 園 研 究 報 告 ， 20 号 ， 1-9．
上 原 浩 一
現 職 ： 千 葉 大 学 大 学 院 ・ 園 芸 学 研 究 科 ・ 助 教 （ 農 学 博 士 ）
主 な 著 書 ：Uehara, K., Tanaka, N., Momohara, A., and Zhou, ZK., 2006. Genetic diversity of an endangered aquatic plant, Potamogeton lucens subspecies
目次
要 旨 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ４
１ ． は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ５
２ ． ツ ツ イ ト モ の 形 態 と 分 布 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ６
３ ． 栗 山 川 ツ ツ イ ト モ の 発 見 の 経 緯 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ １ ０
４ ． 予 備 調 査 の 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ １ ３
4.1)ツツイトモの埋土種子調査・・・・・・・・・・・・・・・１３
4.2)埋土種子の最適発芽条件の調査・・・・・・・・・・・・・１４
4.3)アメリカザリガニによる食害状況の調査・・・・・・・・・１４
５ ． 本 年 度 の 助 成 事 業 の 調 査 と そ の 結 果 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ １ ６
5.1)再 生 地 点 で の 埋 土 種 子 の 分 布 調 査 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ １ ７
5.2)ツ ツ イ ト モ 自 生 地 の 環 境 条 件 の 調 査 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ２ ０
5.3)殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 の 調 査 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ２ ３
5.4)ツ ツ イ ト モ 個 体 群 の 遺 伝 子 組 成 調 査 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ２ ８
６ ． 横 芝 町 ツ ツ イ ト モ 集 団 の 恒 久 的 保 存 に む け て の 提 言 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ３ １
引 用 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ３ ２
要 旨 絶 滅 危 惧 Ⅰ Ａ 類 の ヒ ル ム シ ロ 属 ツ ツ イ ト モ （Potamogeton panormitanus） は ， 埋 土 種 子 由 来 の 個 体 群 が 各 地 で 確 認 さ れ た が ，生 態 や 遺 伝 子 特 性 が 明 ら か で な い ま ま ，数 年 で 消 滅 し て い る ．千 葉 県 横 芝 町 栗 山 川 河 川 敷 の 造 成 地 で も ，平 成 １ ３ 年 に ツ ツ イ ト モ 個 体 群 の 発 生 が 確 認 さ れ た が ，２ 年 後 に は 消 滅 し て 発 生 が 見 ら れ な く な っ た ．そ の 後 ，発 生 場 所 と そ の 周 辺 で の 移 植 や 堆 積 物 の 蒔 き だ し な ど の 再 生 の 試 み は 成 功 し て お ら ず ，横 芝 町 と 町 民 ボ ラ ン テ ィ ア に よ っ て 別 の 場 所（ 坂 田 池 公 園 ）で の 培 養 が 継 続 さ れ て い る ．そ こ で ，１ ．再 生 地 点 で の 埋 土 種 子 の 分 布 調 査 ，２ ．ツ ツ イ ト モ 自 生 地 の 環 境 条 件 の 調 査 ，３ 殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 の 調 査 ，４ ．埋 土 種 子 か ら の 再 生 個 体 群 を 含 む ツ ツ イ ト モ 個 体 群 の 遺 伝 子 組 成 調 査 に 基 づ き ，個 体 群 再 生 と 管 理 の 方 法 を 考 察 し ，新 た に 再 生 地 点 近 辺 で 整 備 さ れ る 予 定 の 水 辺 ビ オ ト ー プ で の 恒 久 的 な 個 体 群 維 持 を 行 う こ と を 目 的 と す る 研 究 を 行 っ た ． 栗 山 川 河 川 敷 の 造 成 地 で 重 機 を 用 い て 埋 土 種 子 の 分 布 調 査 を 行 っ た 結 果 ，地 下 の 堆 積 物 の 層 相 は 海 成 の 砂 層 で ，堆 積 物 の 中 に は 埋 土 種 子 が 極 め て 少 な く ，流 水 の 影 響 に よ っ て ツ ツ イ ト モ の 種 子 が 流 さ れ て し ま っ た 可 能 性 が 示 唆 さ れ た ．ボ ー リ ン グ や 広 範 囲 の ト レ ン チ 調 査 等 で ，シ ル ト 層 な ど 植 物 片 を 多 く 含 む 地 層 を 検 出 し た 上 で ， 埋 土 種 子 の 有 無 を 調 査 す る 必 要 が あ る こ と が わ か っ た ．日 本 で 数 か 所 確 認 さ れ て い る ツ ツ イ ト モ の 自 生 地 の う ち ，最 も 個 体 数 の 多 い 青 森 県 小 川 原 湖 と ，宮 城 県 加 瀬 沼 で ツ ツ イ ト モ の 生 育 環 境 の 調 査 を 行 っ た 結 果 ，ツ ツ イ ト モ は 淡 水 域 だ け で は な く 汽 水 域 で も 生 育 す る こ と か ら ，栗 山 川 河 口 部 の 汽 水 環 境 で の 個 体 群 維 持 が 可 能 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た ． 種 子 以 外 の 個 体 群 維 持 方 法 と し て 有 効 な 殖 芽 の 管 理 方 法 を 明 ら か に す る た め に ， 殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 の 実 験 を 行 っ た ．冬 期 の 乾 燥 耐 性 は 比 較 的 高 く ，冬 の 間 に 殖 芽 が 水 中 に 没 し て い な く て も 比 較 的 湿 っ た 地 表 で も 生 き て お り ，春 に 成 長 を 開 始 し た 後 で 水 没 さ せ る こ と で 再 生 が 可 能 で あ る こ と が わ か っ た ．横 芝 町 の 個 体 の 殖 芽 は ， 小 川 原 湖 や 加 瀬 沼 の 個 体 の 殖 芽 よ り も 春 の 成 長 開 始 は 遅 か っ た ．こ れ ま で の 予 備 調 査 か ら ，栗 山 川 の 発 生 場 所 で 発 芽 可 能 な 埋 土 種 子 が 存 在 す る に も か か わ ら ず ，発 生 し な い 原 因 と し て ， ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ っ て 選 択 的 に 食 害 を 受 け や す い こ と や ， 果 実 が 重 い た め 水 た ま り の ヘ ド ロ の 底 に 沈 ん で し ま い ，種 子 の 休 眠 打 破 や 発 芽 後 の 成 長 に 必 要 な 酸 素 や 光 環 境 下 に さ ら さ れ る 機 会 を 失 っ て い る こ と が 考 え ら れ た ．そ こ で ，ツ ツ イ ト モ の 生 育 場 所 を 冬 期 に 水 干 し す る こ と で ，ヘ ド ロ の 分 解 を 促 進 さ せ る と と も に ，ア メ リ カ ザ リ ガ ニ の 個 体 群 調 節 を 行 う こ と も で き ，春 期 に 殖 芽 か ら 成 長 を 開 始 し た 時 に 水 没 さ せ る こ と で ，ツ ツ イ ト モ の 個 体 を 維 持 さ せ る こ と が 可 能 だ と 考 え ら れ た ． マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト マ ー カ ー を 使 っ て 横 芝 町 で 培 養 さ れ て い る 現 在 の ツ ツ イ ト モ 集 団 の 遺 伝 子 組 成 を 他 の 日 本 の 集 団 と 比 較 し た と こ ろ ，青 森 県 小 川 原 湖 な ど ，現 在 の 個 体 数 の 多 い 自 生 集 団 に 比 べ る と ，横 芝 町 の 集 団 の 遺 伝 子 多 様 度 が 極 め て 小 さ い こ と が 明 ら か に な っ た ．さ ら に ，発 生 場 所 で の 埋 土 種 子 か ら の 再 生 を 試 み る と 共 に ， 殖 芽 や 種 子 の 永 久 保 存 が 必 要 だ と 考 え ら れ た ．
１ ． は じ め に 池 沼 や 河 川 の 水 辺 に 生 育 す る 水 生 植 物 は ，魚 や 水 生 昆 虫 ，さ ら に そ れ ら を 捕 食 す る 鳥 や 小 動 物 な ど 多 様 な 生 物 の 生 育 場 所 を 提 供 す る と と も に ，水 辺 の 環 境 を 維 持 す る 働 き を 担 う が ，近 年 ，護 岸 工 事 や 水 質 汚 染 に よ っ て 多 く の 水 生 植 物 が 絶 滅 に 瀕 す る よ う に な っ た ．絶 滅 が 危 惧 さ れ て い る 水 生 植 物 の う ち ，ヒ ル ム シ ロ 科 ヒ ル ム シ ロ 属 の 沈 水 植 物 ツ ツ イ ト モ （Potamogeton panormitanus） は ， 最 も 絶 滅 の 危 険 度 の 高 い レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク で は 絶 滅 危 惧 IA 類 （ CR） に 分 類 さ れ て い る （ 環 境 庁 自 然 保 護 局 野 生 生 物 課 ， 2000）． こ の 植 物 は ， 淡 水 域 か ら 汽 水 域 に か け て の 流 水 ・ 止 水 域 に 生 育 す る 小 型 の 多 年 草 で ，繊 細 な 線 形 の 葉 を も つ ．同 属 の イ ト モ（P.pusillus） と の 判 別 が 困 難 で あ る た め ， 分 布 は 正 確 に 把 握 さ れ て い な い （ 角 野 ， 1994）． ツ ツ イ ト モ は 主 に 種 子 と 殖 芽 と よ ば れ る 栄 養 繁 殖 体 に よ り 増 殖・越 冬 を 行 う が ，そ の 生 態 や 生 活 史 に 関 す る 研 究 は ほ と ん ど 行 わ れ て い な い ． 千 葉 県 山 武 郡 横 芝 光 町 で は 二 級 河 川 栗 山 川 左 岸 の 河 川 敷 を 掘 削 し て で き た 池 に ， 2001 年 に ツ ツ イ ト モ が 発 生 し て 繁 茂 し て い る こ と が 確 認 さ れ た ． し か し な が ら ， 2002 に は 生 育 地 の 面 積 は 減 少 し ， 2003 年 以 降 に 発 生 が 見 ら れ な く な っ た ． 2003 年 以 降 ，発 生 地 の 保 全 が 行 わ れ た り ，横 芝 町 坂 田 ヶ 池 の ビ オ ト ー プ で 継 続 培 養 し て い た 個 体 を 発 生 場 所 を 含 む 数 地 点 に 移 植 す る 作 業 が 行 わ れ た が ，成 功 し な か っ た ．そ こ で ， 助 成 事 業 者 ら は 2005 年 以 降 ， 発 生 し た 場 所 の 表 土 の 埋 土 種 子 の 状 況 や ， 生 育 環 境 ， 種 子 や 殖 芽 か ら の 発 芽 再 生 な ど の 調 査 を 行 っ て き た ． 本 年 度 の 助 成 研 究 で は ，2005 年 度 の 調 査 結 果 を ふ ま え た 上 で ，１ ．再 生 地 点 で の 埋 土 種 子 の 分 布 調 査 ，２ ．ツ ツ イ ト モ 自 生 地 の 環 境 条 件 の 調 査 ，３ 殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 の 調 査 ，４ ．埋 土 種 子 か ら の 再 生 個 体 群 を 含 む ツ ツ イ ト モ 個 体 群 の 遺 伝 子 組 成 調 査 に 基 づ き ，個 体 群 再 生 と 管 理 の 方 法 を 考 察 し ，新 た に 再 生 地 点 近 辺 で 整 備 さ れ る 予 定 の 水 辺 ビ オ ト ー プ で の 恒 久 的 な 個 体 群 維 持 を 行 う こ と を 目 的 と す る 研 究 を 行 っ た ．本 報 告 書 で は ，2005 年 度 ま で の 研 究 の 経 緯 を 予 備 調 査 の 結 果 と し て 記 載 し た 上 で ， 本 年 度 助 成 研 究 の 成 果 を 報 告 す る ．
２ ． ツ ツ イ ト モ の 形 態 と 分 布
ツ ツ イ ト モ Potamogeton panormitanus Biv.（ 図 １ ）は ，ヒ ル ム シ ロ 属 の 沈 水 植 物 で 湖 沼 ，河 川 ，水 路 な ど に 分 布 し ，海 に 近 い 湖 沼 か ら の 採 集 例 が 多 い ．世 界 中 に 広 く 分 布 す る が ， 日 本 か ら は 九 州 北 部 か ら 北 海 道 東 部 ま で 分 布 す る （ 図 ２ ． 角 野 ， 1994）．葉 は 無 柄 ，線 形 で 長 さ ２ ∼ ５ ｃ ｍ ，幅 0.5∼ １ mm，鋭 頭 で イ ト モ P. pusillus L.に 似 る ．イ ト モ と は 托 葉 の 両 側 が 合 着 し て 筒 状 に な る こ と で ，区 別 さ れ る ．花 茎 の 長 さ は 1.5∼ 2cm， 花 穂 の 長 さ 5∼ 7mm， 花 が 上 下 ２ 段 に 分 か れ て つ く 特 徴 が あ り （ 角 野 ，1994）． 花 や 果 実 が ２ 段 に 分 か れ ず に か た ま っ て つ く イ ト モ と 区 別 で き る ．イ ト モ の 果 実 は 長 さ 2∼ 2.5mm で あ る の に 対 し ，ツ ツ イ ト モ の 果 実 は イ ト モ よ り も ひ と ま わ り 小 さ く ，長 さ 1.2∼ 2mm，幅 1∼ 1.5mm で あ る ．果 実 の 内 果 皮 は 硬 く な り ，核 と な っ て 腐 り に く い ．ツ ツ イ ト モ の 核 は 他 の ヒ ル ム シ ロ 属 に 比 べ る と 緻 密 で き わ め て 硬 い ．殖 芽 は ご く 細 く 長 さ 1.5∼ ２ cm で ，秋 に 形 成 さ れ る ．短 く な っ た シ ュ ー ト が 筒 状 の 托 葉 に 被 わ れ る 形 を し て お り ，葉 腋 に １ つ ず つ 形 成 さ れ る（ 図 ３ ）． 繁 殖 方 法 は 種 子 や 殖 芽 に よ る ．ヒ ル ム シ ロ 属 は 多 年 草 と 考 え ら れ て い る が ，ツ ツ イ ト モ の 地 下 茎 が そ の ま ま 越 冬 し て そ こ か ら 発 芽 す る か ど う か は ，確 認 さ れ て い な い ．殖 芽 は 成 熟 す る と 茎 に つ い た 状 態 で 節 ご と に 分 か れ て 散 布 さ れ る ．種 子 は 硬 い 内 果 皮 に つ つ ま れ て お り ， 発 芽 時 に は 内 果 皮 の 一 部 の 発 芽 弁 が は ず れ て 発 芽 す る （ 図 ４ ）．夏 か ら 初 秋 に か け て 数 10ｃ ｍ 以 上 の 枝 を 水 面 ま で 伸 ば し ，水 面 で 花 を つ け て 受 粉 が 行 わ れ る ． ヒ ル ム シ ロ 属 は 世 界 に 100 種 あ り ， 日 本 に は 約 20 種 が 分 布 す る ほ か ， 種 間 雑 種 が 多 く ，日 本 か ら は 10 種 類 ほ ど が 報 告 さ れ て い る ．線 形 の 葉 と 小 型 の 果 実 を 持 ち ， 形 態 が 類 似 す る 種 類 に イ ト モ の ほ か ，イ ヌ イ ト モ P. obtus folius Mert. et Koch.と ， セ ン ニ ン モ P. maackianus A.Benn.， エ ゾ ヤ ナ ギ モ P. compressus L.が あ る ． ホ ソ バ ミ ズ ヒ キ モ P. octandrus Poir.も 浮 葉 が つ い て い な い 個 体 は ツ ツ イ ト モ や イ ト モ に 極 め て よ く 似 て い る ． こ の ほ か ， ア イ ノ コ イ ト モ P. orientalis Hagstr.も 類 似 し て い る が ， ヤ ナ ギ モ と イ ト モ の 雑 種 と さ れ て い る ．
i
日 本 の ヒ ル ム シ ロ 属 の う ち ， ツ ツ イ ト モ ， イ ヌ イ ト モ ， ガ シ ャ モ ク P. dentatus Hagstr.が 絶 滅 危 惧 IA 類 ， コ バ ノ ヒ ル ム シ ロ P. cristatus Regel et Maack， オ オ ミ
モ P. praelongus Wulf が 絶 滅 危 惧 Ⅰ B 類 ，ホ ソ バ ヒ ル ム シ ロ P. alpinus Balbis，リ ュ ウ ノ ヒ ゲ モ P. pectinatus L.が 絶 滅 危 惧 Ⅱ 類 に 区 分 さ れ て い る （ 環 境 庁 自 然 保 護 局 野 生 生 物 課 ，2000）．ツ ツ イ ト モ は ，絶 滅 危 惧 IA 類（ CR），す な わ ち ，１ ０ 年 後 ， ま た は ３ 世 代 の 長 い 方 の 期 間 に お い て 絶 滅 確 率 が 50％ と ， 絶 滅 確 率 の 計 算 （ E 基 準 ）に も と づ い て ，判 定 さ れ て い る ．池 沼・河 川 の 改 修 や 水 質 汚 濁 な ど に よ り 激 減 し て お り ， レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク 現 地 調 査 に よ っ て 情 報 が 得 ら れ た 12 メ ッ シ ュ の う ち 現 存 が 確 認 で き た の は ６ メ ッ シ ュ で ， う ち ２ メ ッ シ ュ で は 個 体 数 が 不 明 で あ る ． １ メ ッ シ ュ で は 絶 滅 し ，残 る ５ メ ッ シ ュ で も 絶 滅 し た 可 能 性 が 高 い（ 環 境 庁 自 然 保 護 局 野 生 生 物 課 ， 2000）． 絶 滅 の 危 険 性 の 主 要 因 の 上 位 ３ 項 目 の 件 数 は ， 河 川 開 発 ２ ， 水 質 汚 濁 ２ ， 自 然 遷 移 １ で あ っ た ． 都 道 府 県 別 分 布 状 況 で は ， 北 海 道 ， 青 森 ， 宮 城 ，見 え ，徳 島 ，福 岡 で 生 育 ，新 潟 ，長 野 ，鹿 児 島 で は 現 状 不 明 ま た は 文 献 の み の 情 報 ， 秋 田 か ら は 絶 滅 と な っ て い る ． 図 １ ． ツ ツ イ ト モ の 形 態 （ 三 木 ，1937）
図 ２ ． ツ ツ イ ト モ の 分 布 （ 角 野 ，1994 を も と に 作 成 ）．
● ： 採 集 記 録 の あ る 地 点 ， ★ ： 最 近 の 自 生 が 確 認 さ れ た 地 点
図 ４ ツ ツ イ ト モ の 果 実 と 発 芽 個 体 （ 藤 原 健 人 氏 撮 影 ）
上 左 ： 発 芽 弁 の は ず れ た 核 ，上 右 ： 発 芽 直 後 の 個 体 ，下 左 ： 実 生 ，下 右： 実 生 個 体 の 葉 腋 の 円 筒 状 の 托 葉
３ ． 栗 山 川 ツ ツ イ ト モ の 発 見 の 経 緯 栗 山 川 の ツ ツ イ ト モ 集 団 は ， 左 岸 の 横 芝 町 横 芝 地 先 の 河 川 敷 で ，2001 年 ５ 月 に 横 芝 町 役 場 職 員 の 市 原 通 雄 氏 に よ り 発 見 さ れ た ．発 見 当 時 の ツ ツ イ ト モ 集 団 は ，栗 山 川 堤 防 と 北 側 の コ ン ク リ ー ト 工 場 の 間 の 河 川 調 整 区 域 を 掘 削 し て で き た 水 た ま り に 繁 茂 し て い た ．2001 年 度 に は 水 た ま り の 全 域 に 分 布 が 広 が り ， 開 花 ・ 結 実 が 確 認 さ れ た が ，翌 年 の 2002 年 に は 分 布 域 が 限 ら れ て し ま い ，2003 年 に は 発 生 が 見 ら れ な く な っ た ．発 生 し た ツ ツ イ ト モ の 由 来 は 不 明 で ，埋 土 種 子 由 来 な の か ，鳥 な ど に よ っ て 運 ば れ て も た ら さ れ た も の な の か も 不 明 で あ っ た ． 2004 年 に は ，2001 年 の 生 育 場 所 の 一 部 に 池 が 造 成 さ れ ，そ こ で の 埋 土 種 子 か ら の 再 生 が 試 み ら れ た が ， 発 生 が 確 認 さ れ な か っ た ．2001 年 に 採 取 さ れ た 個 体 が ， 市 原 氏 に よ り 坂 田 池 公 園 の 水 辺 ビ オ ト ー プ に 移 植 さ れ ，現 在 ま で 継 続 培 養 さ れ て い る ．し か し ，坂 田 池 で 培 養 さ れ た 個 体 を ，発 生 場 所 に 新 に 掘 削 し て 造 成 さ れ た 池 に 移 植 さ れ た が ，定 着 し な か っ た ．ま た ，栗 山 川 の 下 流 や ，横 芝 町 の 他 の 水 辺 ビ オ ト ー プ に も 移 植 が 試 み ら れ た が ， 成 功 し な か っ た ． 地 点 １ 地 点 ２ 図 ５ ．ツ ツ イ ト モ の 発 生 地 点（ 地 点 １ ）と ，坂 田 池 公 園 の 現 在 培 養 が 行 わ れ て い る 水 辺 ビ オ ト ー プ （ 地 点 ２ ）
2002 年分布域
掘 削 調 査 地 点 調 査 地 点 １ 図 ６ ．2001 年 の ツ ツ イ ト モ 分 布 域 （ 緑 ） と 2002 年 の 分 布 域 （ 斜 線 ） と ， 埋 土 種 子 の 保 存 状 態 の 調 査 地 点 （ 地 点 １ ）， 地 層 掘 削 調 査 地 点 の 位 置 図 ７ ． ツ ツ イ ト モ が 発 生 し た 栗 山 川 左 岸 の 造 成 地図 ８ ． ２ 年 目 （2002 年 ） の 発 生 が 確 認 さ れ た 池
４ ． 予 備 調 査 の 結 果 助 成 事 業 者 は ，発 生 し た ツ ツ イ ト モ の 由 来 を 明 ら か に す る こ と と ，ツ ツ イ ト モ の 再 生 を 目 的 に ，（ 株 ） 日 本 技 術 開 発 の 落 合 直 文 ， 根 本 勝 両 氏 ， 千 葉 県 立 中 央 博 物 館 宮 田 昌 彦 博 士 と 共 同 で 2005 年 春 に 調 査 を 開 始 し た ． 予 備 調 査 と し て ， １ ） ツ ツ イ ト モ の 埋 土 種 子 シ ー ド バ ン ク の 保 存 状 況 と 分 布 の 調 査 ，２ ）最 適 発 芽 条 件 の 調 査 ， ３ ） ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ る 食 害 状 況 の 調 査 を 行 っ た ． 4.1） ツ ツ イ ト モ の 埋 土 種 子 調 査 2002 年 に も 発 生 が 確 認 さ れ た 池 の ３ 地 点 で 堆 積 物 を 採 取 し て 含 ま れ る 埋 土 種 子 を 調 べ た ．地 点 １ で は 水 際 か ら 池 の 外 側 に か け て の 表 土 ，冬 に は 水 面 よ り も 上 位 に あ る が ，春 か ら 秋 に か け て 水 没 す る 場 所 ，地 点 ２ で は 池 の 岸 か ら １ ｍ は な れ た 池 底 の 表 層 の 粘 土 質 で 有 機 物 に 富 む 泥 ，地 点 ３ で は 池 の 中 央 付 近 の 湖 底 の 泥 の 下 層 を 採 取 し た ． こ の 池 に は ， ガ マ が 繁 茂 し て い た ． 7000 ∼ 13400cm３を ス コ ッ プ を 用 い て 採 取 し て 研 究 室 に 持 ち 帰 り ， そ こ か ら 5000ｃ ｍ３を 取 り 出 し ，0.25mmの 篩 を 用 い て 水 洗 篩 分 を 行 っ た ． 篩 上 の 残 査 を ペ ト リ 皿 に 取 り 分 け ，実 体 顕 微 鏡 下 で 種 子・果 実 を 拾 い 出 し ，分 類 群 ご と に 個 数 を 数 え た ． 各 試 料 か ら 5000ｃ ｍ３を 取 り 出 し た 後 の 試 料 に つ い て は 0.7mm篩 で 水 洗 篩 分 を 行 い ， 篩 上 の 残 査 を 検 鏡 し て ツ ツ イ ト モ 果 実 だ け を 拾 い 上 げ ， 個 数 を 数 え た ． 図 １ ０ ． 埋 土 種 子 調 査 の 試 料 採 取 地 点 の 位 置 と ， 堆 積 物 2000cm3 あ た り に含 ま れ て い た ツ ツ イ ト モ 種 子 の 個 数
そ の 結 果 ， ３ 試 料 と も ツ ツ イ ト モ 果 実 が 2000cm3あ た り 2∼ 31 個 が 含 ま れ て い た が ，ガ マ 属 や ス ゲ 属 と い っ た 試 料 採 取 地 点 で 優 占 す る 湿 性 植 物 や ，ヒ メ ム カ シ ヨ モ ギ 類 な ど の 陸 生 草 本 の 種 子 ・ 果 実 も 2000cm3あ た り 数 10∼ 数 100 個 と 大 量 に 含 ま れ て い た ．ツ ツ イ ト モ は 池 の 中 央 の 試 料 ３ で 最 も 多 く ，池 の 縁 に い く に つ れ て 産 出 個 数 が 減 少 し た ．な お ，拾 い 上 げ た ツ ツ イ ト モ 果 実 の う ち ，地 点 ２ で 採 取 し た １ ４ 個 の 果 実 の う ち ５ 個 体 が 発 芽 ， 再 生 し た ． ツ ツ イ ト モ は ， 現 地 で 採 取 し た 堆 積 物 を ビ ニ ー ル 袋 に い れ て 持 ち 帰 っ た と こ ろ ， 果 実 の 多 く が 堆 積 物 の 底 に 沈 ん で い た こ と が 明 ら か に な っ た ．堆 積 物 粒 子 か ら 植 物 片 を 洗 い 出 す 作 業 の 過 程 で も ，ツ ツ イ ト モ の 果 実 が 他 の 植 物 の 種 子 よ り も 緻 密 で 堅 く ，比 重 が 重 い こ と が 明 ら か に な っ た ．ツ ツ イ ト モ 果 実 は ，池 の 中 央 部 の 土 壌 の 比 較 的 深 い 位 置 の 堆 積 物 中 に 最 も 多 く 含 ま れ て い た が ，ツ ツ イ ト モ 果 実 の 比 重 が 重 い た め に ，池 の 縁 よ り も 池 の 底 に 堆 積 し や す く ，堆 積 後 も 生 物 に よ る 表 層 の 擾 乱 過 程 で 堆 積 物 の 底 に 沈 み や す い と 考 え ら れ た ． 現 在 の 発 生 地 は ， ツ ツ イ ト モ の 発 生 が 確 認 さ れ た 2001 年 よ り も ガ マ や ヨ シ が 繁 茂 し ， そ れ ら が 腐 っ て 池 の 底 に ヘ ド ロ 状 に な っ て 数 10cm の 厚 さ で 堆 積 し て い た ． 堆 積 物 か ら 取 り 出 し た 果 実 は 発 芽 し た の で ，2003 年 以 降 に ツ ツ イ ト モ 個 体 が 発 生 し な か っ た 原 因 と し て ，果 実 が 嫌 気 的 で 光 が あ た ら な い 環 境 に な っ て い る ヘ ド ロ 状 の 泥 の 下 に 沈 ん だ た め に ， 果 実 が 発 芽 し な か っ た と 考 え ら れ た ． 4.2） 埋 土 種 子 の 最 適 発 芽 条 件 の 調 査 （ 株 ） 大 成 建 設 の 秋 吉 美 穂 氏 と 共 同 で ，2001∼ 2002 年 に 発 生 し た 個 体 由 来 の 埋 土 種 子 の 発 芽 条 件 の 調 査 を 行 っ た ．人 工 気 象 器 を 用 い た 実 験 で ，低 温 処 理 や 明 る い 環 境 下 で 発 芽 率 が 高 い こ と な ど が 明 ら か に な っ た ．発 芽 実 験 の 詳 細 に つ い て は ，論 文 発 表 予 定 で あ る ． 4.3）ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ る 食 害 状 況 の 調 査 ツ ツ イ ト モ を 継 続 培 養 し て い る 坂 田 池 の 水 辺 ビ オ ト ー プ で は ， ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ っ て 培 養 さ れ て い る 水 生 植 物 が し ば し ば 食 害 さ れ て 減 少 し て い る ． ま た ， 栗 山 川 岸 の ツ ツ イ ト モ 発 生 場 所 に も ア メ リ カ ザ リ ガ ニ は 多 く 見 ら れ ，2002 年 以 降 に 発 生 し た と し て も ， す ぐ に 食 害 を 受 け て し ま っ た 可 能 性 も あ る ． 坂 田 池 ビ オ ト ー プ で 培
養 さ れ て い る 水 生 植 物 の 観 察 で は ， ヨ シ や ガ マ な ど の 抽 水 植 物 や タ ヌ キ モ や ホ ザ キ ノ フ サ モ と い っ た 一 部 の 水 生 植 物 は 被 害 を 受 け ず ， サ サ バ モ や ツ ツ イ ト モ と い っ た 沈 水 植 物 が 選 択 的 に 食 害 さ れ た り ， 茎 や 葉 を 切 ら れ た り す る こ と が 観 察 さ れ た ． そ こ で ， ア メ リ カ ザ リ ガ ニ を 入 れ た 水 槽 に ， 同 時 に ， 坂 田 池 で 培 養 さ れ て い る ８ 種 類 の 水 生 植 物 を 組 み 合 わ せ を 変 え て 投 入 し ， 投 入 後 の 各 種 類 の 水 草 の 残 存 率 （ 投 入 時 の シ ュ ー ト 長 に 対 す る シ ュ ー ト の 長 さ の 減 少 率 ） を 測 定 し た ． そ の 結 果 ， 水 草 の 組 み 合 わ せ に よ っ て ， 早 く 減 少 す る も の か ら 最 後 ま で 食 べ ら れ ず に 残 る も の ま で ， 残 存 率 の 時 間 経 過 は 異 な っ て い た ． ト チ カ ガ ミ に つ い て は タ ヌ キ モ や ホ ザ キ ノ フ サ モ な ど と 同 時 に 投 入 し た 場 合 は ， １ 日 目 に 食 害 を 受 け て ， そ の 後 も 減 少 し て い っ た が ， サ サ バ モ ， シ ャ ジ ク モ ， ツ ツ イ ト モ と 同 時 に 投 入 し た 場 合 は ， ツ ツ イ ト モ や シ ャ ジ ク モ ， サ サ バ モ の 順 で 食 い 尽 く さ れ た 後 で 初 め て 食 害 を 受 け た （ 図 11）． こ れ は ， 水 草 に よ っ て ア メ リ カ ザ リ ガ ニ の 嗜 好 性 が 異 な り ， 複 数 の 水 草 が 混 じ っ て 生 え て い た 場 合 ， ツ ツ イ ト モ や シ ャ ジ ク モ と い っ た 沈 水 植 物 が 最 初 に 食 害 を 受 け ， 次 に サ サ バ モ ， そ の 次 に ト チ カ カ ガ ミ ， ガ ガ ブ タ ， ア サ ザ が 食 害 さ れ ， 最 後 ま で タ ヌ キ モ と ホ ザ キ ノ フ サ モ が 食 べ ら れ ず に 残 る こ と を 意 味 す る ． し た が っ て ， ア メ リ カ ザ リ ガ ニ の 個 体 数 が 少 な く て も ， ツ ツ イ ト モ が 最 初 に 集 中 的 に 食 害 を 受 け て し ま う 可 能 性 が 考 え ら れ ， ツ ツ イ ト モ の 保 全 に は ア メ リ カ ザ リ ガ ニ を 徹 底 的 に 排 除 す る 必 要 が 考 え ら れ た ． 図 11． ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ る 水 生 植 物 の 食 害 実 験 の 結 果
５ ． 本 年 度 の 助 成 事 業 の 調 査 と そ の 結 果 予 備 調 査 の 結 果 か ら ，栗 山 川 の 2001 年 ,2002 年 の 発 生 地 点 で は 窪 地 の 水 た ま り の 底 に 発 芽 可 能 な 埋 土 種 子 が 保 存 さ れ て い る に も か か わ ら ず ，そ の 後 の 発 生 が 見 ら れ な い 原 因 と し て ， 次 の ２ つ の 原 因 が 考 え ら れ た ． す な わ ち ，ツ ツ イ ト モ の 果 実 が 重 い た め ，生 育 地 に 繁 茂 す る ガ マ や ヨ シ な ど が 腐 敗 し て で き た 軟 泥 の 底 に 沈 ん で し ま い ，嫌 気 的 で 光 が 当 た ら な い だ け で は な く ，冬 期 に 十 分 に 休 眠 打 破 に 必 要 な 低 温 環 境 に さ ら さ れ ず ，し か も ，夏 期 に 発 芽 に 必 要 な 高 温 条 件 に も さ ら さ れ な い 可 能 性 が あ る こ と ．さ ら に ，他 の 植 物 よ り も ア メ リ カ ザ リ ガ ニ が 好 む た め ， 発 芽 し た と し て も す ぐ に 食 害 を 受 け て し ま う こ と で あ る ． こ れ ら の 対 策 と し て 最 も 有 効 な の は ，ガ マ や ヨ シ を 定 期 的 に 刈 り 込 む こ と で ，軟 泥 の 発 生 を 抑 え る と と も に ，冬 か ら 春 に か け て 水 干 し し て 軟 泥 に 含 ま れ る 有 機 物 の 分 解 を 促 進 さ せ る こ と で あ る ．水 干 し に よ っ て 軟 泥 が 少 な く な る こ と で ，光 条 件 や 好 気 的 環 境 が 維 持 さ れ ，休 眠 打 破 に 必 要 な 温 度 条 件 が 整 い ，発 芽 後 の 成 長 の た め の 環 境 も 整 う ．さ ら に ，乾 燥 と 低 温 に さ ら さ れ る た め ，ツ ツ イ ト モ を 食 害 す る ア メ リ カ ザ リ ガ ニ な ど の 動 物 の 冬 越 し が 困 難 に な る と と も に ，サ ギ な ど の 天 敵 に 見 つ か り や す く な っ て ，個 体 数 の 減 少 が 期 待 で き る ．し か し な が ら ，ツ ツ イ ト モ が ど れ だ け 冬 期 の 乾 燥 に 耐 え う る の か が 不 明 で あ り ，特 に 殖 芽 で の 越 冬 が 困 難 に な る こ と が 予 想 さ れ る ．そ こ で ，殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 を 調 査 す る 必 要 が 生 じ た た め ，冬 期 の 殖 芽 の 生 存 環 境 を 明 ら か に す る た め に ，水 分 条 件 を 変 え て 春 期 の 生 存 状 況 を 調 査 し た ． ま た ，ツ ツ イ ト モ は 小 川 原 湖 の よ う な 汽 水 湖 に も 生 育 す る こ と が 確 認 さ れ て い る （ 浜 端 ，1999）の で ，ア メ リ カ ザ リ ガ ニ が 生 育 で き な い と 考 え ら れ る 栗 山 川 下 流 域 で 継 続 培 養 を 試 み る こ と も 考 え ら れ る ．そ こ で ，現 在 の 自 生 地 の 生 育 環 境 を 明 ら か に す る 必 要 が あ っ た ．そ こ で ，現 在 ，生 育 が 確 認 さ れ て い る 自 生 地 の 情 報 を 収 集 す る と と も に ， 青 森 県 小 川 原 湖 と 宮 城 県 加 瀬 沼 の 現 存 集 団 の 自 生 環 境 を 調 査 し た ． 栗 山 川 で 発 生 し た ツ ツ イ ト モ が ，埋 土 種 子 由 来 な の か ，他 の 生 育 地 か ら 運 ば れ て き た の か が 明 ら か で は な い の で ，発 生 地 点 を 重 機 で 掘 削 し て 地 下 の 堆 積 物 の 様 子 や 埋 土 種 子 が 含 ま れ て い る か ど う か を 観 察 し た ．ま た ，栗 山 川 の 個 体 と ，日 本 各 地 の ツ ツ イ ト モ 個 体 の Ｄ Ｎ Ａ の マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト 領 域 の サ イ ズ を 比 較 す る こ と で ，遺 伝 的 関 係 を 明 ら か に す る ．こ の 調 査 は ，そ れ ぞ れ の 地 域 集 団 が ，今 後 の 環 境 変 化 に
5.1） 再 生 地 点 で の 埋 土 種 子 の 分 布 調 査 調 査 は 2001 年 ツ ツ イ ト モ 生 育 地 の 南 西 隅 で 行 っ た（ 図 ６ ）．こ の 場 所 は 平 成 １ ３ 年 に 最 初 に 発 生 が 確 認 さ れ た 場 所 の ひ と つ で あ る ．横 芝 光 町 と 千 葉 県 山 武 地 域 整 備 セ ン タ ー ，日 本 技 術 開 発（ 株 ）の 調 査 の 一 環 と し て ，現 場 に 隣 接 す る 場 所 の 道 路 工 事 の 際 に 使 用 さ れ て い た 重 機 を 用 い ，現 生 植 物 の 種 子 が 混 入 し な い よ う に 最 初 に 植 生 と 表 土 を 剥 い だ 上 で 掘 削 を 開 始 し た (図 12)．表 層 か ら 掘 削 を 行 い な が ら ，露 出 し た 地 層 を 観 察 し た ．地 表 下 170cm ま で の 堆 積 物 を 確 認 し ，観 察 し た 上 で 試 料 の 採 取 を 行 っ た ． 地 表 下 の 堆 積 物 の 層 相 （ 図 13） は ， 地 表 下 − 10cm ま で は ヨ シ や ガ マ な ど の 植 生 の 生 育 基 盤 と な っ て い る 有 機 質 を 含 む シ ル ト 質 の 黒 色 泥 層 で あ っ た ．地 表 下 − 10cm か ら − 40cm ま で は 砂 ， 礫 ま じ り 盛 り 土 層 で 構 成 さ れ て い た ． 地 表 下 − 40cm よ り 下 は ，貝 殻 を 含 む 砂 層 で ，粒 子 の 淘 汰 が 比 較 的 よ い こ と か ら ，海 や 汽 水 域 で 自 然 に 堆 積 し た 地 層 と 考 え ら れ た ． 地 表 下 − 40cm か ら − 70cm ま で は 中 粒 砂 層 で ， 地 表 か ら こ の 層 ま で 現 生 の ヨ シ や ガ マ な ど の 根 が 到 達 し て い た ． 地 表 下 − 70cm か ら − 120cm は 粗 粒 砂 層 で 含 ま れ る 貝 殻 の 割 合 が 最 も 多 か っ た (図 14)． 地 表 下 − 120cm か ら − 150cm は 粗 粒 砂 層 で 観 察 し た 地 層 の な か で は 最 も 粗 粒 で あ る ． 地 表 下 − 150cm か ら − 170cm は 中 粒 砂 層 で 水 流 に よ っ て 形 成 さ れ る 葉 理 構 造 が な く 塊 状 で あ っ た ． 試 料 は ，地 表 下 -40cmか ら -170cmま で の ５ 試 料 を 採 取 し（ 図 13），現 地 で ビ ニ ー ル 袋 に い れ て 持 ち 帰 っ た ． 各 試 料 の 堆 積 は 10000cm3∼ 12000cm3で あ る ． 試 料 は 水 中 で 篩 い 分 け を 行 っ た ．2mm 目 の 篩 を 用 い て 貝 殻 等 を 除 去 し た 後 ，0.5mm 目 の 篩 に か け ， 0.5mm 以 下 の 粒 子 を 除 去 し た ． 0.5mm 目 の 篩 の 残 査 を 1.4mm， 1mm， 0.7mm，0.5mm の 篩 を 用 い て さ ら に 水 中 で 篩 分 け し た ．そ れ ぞ れ の 篩 の 上 に 残 っ た 粒 子 を 少 し ず つ シ ャ ー レ に 広 げ ， 実 体 顕 微 鏡 下 で 種 子 を 探 し 出 し た ． 全 試 料 は ほ と ん ど 砂 と 貝 殻 か ら 構 成 さ れ ，若 干 の 植 物 片 が 含 ま れ て い る も の の 種 子 は ご く わ ず か し か 含 ま れ て い な か っ た ．５ 試 料 の う ち ，植 物 片 が 含 ま れ て い る 試 料 は 試 料 ２ だ け で あ っ た ．試 料 ２ 中 に は ス ゲ 属 果 実 ２ 個 ，カ ヤ ツ リ グ サ 属 果 実 １ 個 ， ア カ ザ 科 種 子 １ 個 が 含 ま れ て い た ．こ れ ら の 種 子 や 果 実 を 割 っ て 内 部 を 観 察 し た と こ ろ ，胚 乳 等 は 保 存 さ れ て い な か っ た ．全 試 料 か ら は ツ ツ イ ト モ 果 実 は 全 く 検 出 さ れ な か っ た ． ツ ツ イ ト モ 発 生 地 点 の 盛 り 土 の 下 は 海 や 汽 水 の 環 境 で 自 然 に 堆 積 し た 砂 で 構 成
さ れ て い た ．そ こ に は ツ ツ イ ト モ 以 外 の 埋 土 種 子 が ご く わ ず か に 含 ま れ て い た だ け で あ っ た が ，こ れ は 堆 積 物 が 中 粒 砂 な い し 粗 粒 砂 と 流 れ の あ る 環 境 で 堆 積 し た 堆 積 物 で あ る こ と か ら ，種 子 や 果 実 と い っ た 軽 い 粒 子 の ほ と ん ど は 流 れ 去 っ て 堆 積 し な い 環 境 だ っ た た め と 考 え ら れ る ．細 粒 砂 や シ ル ト か ら 構 成 さ れ る 層 が 今 回 は 見 つ か ら な か っ た が ，こ れ ら の 水 流 が よ ど ん だ 場 所 で 堆 積 し た 細 粒 の 堆 積 層 が 付 近 に 分 布 す る 可 能 性 は 高 く ， そ こ に は 多 く の 種 子 や 果 実 遺 体 が 含 ま れ て い る と 考 え ら れ る ． 九 十 九 里 浜 を 構 成 す る 砂 質 の 堆 積 物 は ， 縄 文 海 進 後 半 の 約 5000 年 以 降 に 堆 積 し た と 考 え ら れ て い る が ，砂 堤 間 の 低 地 は 大 規 模 な 干 拓 が 行 わ れ る ま で は 潟 湖 の 環 境 が 続 き ，海 か ら 海 水 が 流 れ 込 ん だ り ，栗 山 川 の 氾 濫 に よ っ て 運 搬 さ れ た 砂 が 堆 積 す る 環 境 が 継 続 し た と 考 え ら れ る ．ツ ツ イ ト モ は 汽 水 域 に も 生 育 す る の で ，発 生 地 地 下 の 砂 質 堆 積 物 に ツ ツ イ ト モ の 埋 土 種 子 が 含 ま れ て い る 可 能 性 は あ る ．し か も ，盛 り 土 層 は 厚 さ 数 10cm と 比 較 的 薄 い の で ， 掘 削 に よ り 容 易 に 自 然 堆 積 層 を 露 出 さ せ る こ と が 可 能 で あ る ．し か し な が ら ，１ 地 点 で の 小 規 模 な 掘 削 で は 埋 土 種 子 を 含 む 層 に あ た る 可 能 性 は 低 い の で ，河 川 改 修 等 で 広 域 に 地 層 断 面 が 露 出 し た 時 に ，さ ら に 調 査 を 行 い ， 埋 土 種 子 の 検 出 を 行 う こ と も 必 要 で あ ろ う ．
図 13． ツ ツ イ ト モ 発 生 地 点 の 地 下 の 地 質 の 様 子 と ， 埋 土 種 子 分 析 試 料 採 取 層 準
5.2） ツ ツ イ ト モ 自 生 地 の 環 境 条 件 の 調 査 ツ ツ イ ト モ の 発 生 な い し 自 生 が こ れ ま で 確 認 さ れ て い る 場 所 で ，生 育 環 境 に 関 す る 情 報 が あ る の は ， 栗 山 川 以 外 に 次 の ９ カ 所 が あ る ． １ ． 青 森 県 小 川 原 湖 ２ ． 宮 城 県 加 瀬 沼 ３ ． 千 葉 県 印 旛 沼 の 養 魚 場 ４ ． 静 岡 県 静 岡 市 内 の 遊 水 池 ５ ． 三 重 県 四 日 市 市 の コ ス モ 石 油 発 電 所 計 画 地 内 ６ ． 兵 庫 県 神 戸 市 の 六 甲 ア イ ラ ン ド 内 の 人 工 池 ７ ． 兵 庫 県 伊 丹 市 の 公 園 内 の 水 路 ８ ． 鳥 取 県 米 子 市 の 中 海 の 彦 名 処 理 地 ９ ． 愛 媛 県 西 条 市 内 の 水 路 こ れ ら の 地 点 の う ち ，地 点 １ ，２ ，３ は 助 成 事 業 者 が 本 年 度 ，現 地 を 訪 れ て 自 生 環 境 を 調 査 し た ．ま た ，地 点 ８ と ９ は 助 成 事 業 者 と 共 同 研 究 を 行 っ て い る 東 京 大 学 大 学 院 藤 原 健 人 氏 が 現 地 で 遺 伝 子 調 査 用 試 料 を 採 取 し た ．地 点 ４ ∼ ７ の 情 報 は 日 本 技 術 開 発 の 落 合 ， 根 本 両 氏 に 提 供 い た だ い た ． こ の う ち ，地 点 １ ，６ ，８ ，９ は 汽 水 域 で ，地 点 ２ ，３ ，４ ，７ は 淡 水 域 ，地 点 ５ は 不 明 で あ る ．地 点 ４ と ６ は 遊 水 池 な ど ，人 工 的 に 造 成 さ れ た 池 に 造 成 直 後 に 発 生 が 確 認 さ れ た ．地 点 ３ の 印 旛 沼 の 養 魚 場 は ，水 深 １ ｍ 程 度 の フ ナ の 養 殖 池 の 一 カ 所 で 2003 年 と 2004 年 に 生 育 が 確 認 さ れ た ．養 魚 池 は フ ナ の 出 荷 後 ，水 が 抜 か れ る 環 境 に あ っ た ． 2005 年 に は 生 育 が 見 ら れ な か っ た ． 青 森 県 小 川 原 湖 と 宮 城 県 加 瀬 沼 へ は 2006 年 9 月 １ ∼ ３ 日 に 現 地 を 調 査 し ，電 気 伝 導 度 と pH， 共 存 す る 水 生 植 物 を 調 査 す る と と も に ， 殖 芽 の 乾 燥 耐 性 用 試 料 と 遺 伝 子 調 査 用 試 料 を 採 取 し た ． 青 森 県 小 川 原 湖 は 現 在 自 生 が 確 認 さ れ て い る ツ ツ イ ト モ 自 生 地 と し て は 最 も 大 き く ，湖 全 体 に 個 体 群 が 分 布 し ，分 布 量 が 極 め て 多 い ．図 16 の １ ３ 地 点 で 調 査 を 行 っ た と こ ろ ， 湖 岸 か ら の 観 察 で は 水 深 30∼ 100 ㎝ の 水 域 に 生 育 す る ツ ツ イ ト モ 個 体 群 が き わ め て 多 く 確 認 さ れ た ．P.pectinatus（ リ ュ ウ ノ ヒ ゲ モ ） や P.perfoliattus（ ヒ ロ ハ ノ エ ビ モ ），Vallisneria asyayica（ セ キ シ ョ ウ モ ） な ど と 同 時 に 出 現 す る こ と が 多 か っ た が ， 汽 水 性 沈 水 植 物 の コ ア マ モ と と も に 生 育 し て い た
打 ち 上 げ ら れ て い る の が 確 認 さ れ ， ツ ツ イ ト モ は こ こ で も 多 く 確 認 さ れ た ． す で に 結 実 し て お り ，殖 芽 の 形 成 も み ら れ た ．殖 芽 の 多 く は ，茶 変 し 親 個 体 か ら 分 離 し て い た ． ツ ツ イ ト モ 群 落 の 湖 水 の 電 気 伝 導 度 を 測 定 し た と こ ろ ，高 瀬 川 を 通 じ て 太 平 洋 か ら の 海 水 が 流 入 す る 湖 北 部 の う ち 地 点 ５ で 2.57ｍ ･s/㎝ と 伝 導 度 が 最 も 高 く ， 流 入 河 川 の 影 響 が 強 い 湖 南 部 の 地 点 １ ２ で 1.5ｍ ･s/㎝ と 伝 導 度 が 最 も 高 か っ た（ 表 １ ）． 同 じ 測 定 器 で 横 芝 光 町 の 生 育 地 で 同 時 期 に PH と 電 気 伝 導 度 を 測 定 し た と こ ろ ， 坂 田 池 湿 性 植 物 園 の 池 は PH9.04， 電 気 伝 導 度 0.247ｍ ･s/㎝ で ， 栗 山 川 河 岸 の ツ ツ イ ト モ 発 生 池 で は PH 7.4， 電 気 伝 導 度 0.4497ｍ ･s/㎝ で あ り ， 生 育 地 の 電 気 伝 導 度 は 小 川 原 湖 の 生 育 地 の ほ う が 高 か っ た ． ま た ， 宮 城 県 加 瀬 沼 で は 小 川 原 湖 の よ う に 千 切 れ た 水 草 は 確 認 さ れ な か っ た が ， 水 深 30 ㎝ 程 度 の 地 点 か ら ツ ツ イ ト モ ， ク ロ モ （Hydrilla verticillata）， シ ャ ジ ク モ （Chara spp.） な ど の 生 育 が み ら れ た ． 加 瀬 沼 の 底 質 は 泥 性 で 夏 季 は ウ キ ク サ に 水 面 が 半 分 以 上 覆 わ れ る ．ツ ツ イ ト モ 個 体 は 結 果・殖 芽 形 成 が み ら れ ，す で に 茶 変 し 親 個 体 か ら 分 離 し て い る 殖 芽 が 多 か っ た ． 加 瀬 沼 の 東 端 の pH は 7.45， 電 気 伝 導 度 は 0.255ｍ ･s /cm と ,電 気 伝 導 度 の 値 は 坂 田 池 湿 性 植 物 園 内 の 池 と 同 程 度 で ， 全 体 的 に 小 川 原 湖 よ り 低 か っ た ． 図 15．小 川 原 湖 の ツ ツ イ ト モ 生 育 地（ 地 点 11．切 れ 藻 が 湖 岸 に 打 上 げ ら れ て い る ）
図 16． 小 川 原 湖 の 調 査 地 点 図 17． 小 川 原 湖 の ツ ツ イ ト モ の 生 育 環 境 地 点 ５ ， 水 深 50cm
5.3)殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 の 調 査 2006 年 １ 月 ∼ ６ 月 に か け て と ， 2007 年 1 月 ∼ ５ 月 に か け て 殖 芽 の 乾 燥 耐 性 と ， 春 期 の 発 芽 状 況 の 調 査 を 行 っ た ．2006 年 １ 月 ∼ ６ 月 の 調 査 で は 坂 田 池 ビ オ ト ー プ で 培 養 さ れ て い る ツ ツ イ ト モ の 殖 芽 の 冬 期 の 乾 燥 耐 性 を 明 ら か に す る た め ，水 分 条 件 の 異 な っ た 環 境 で 冬 越 し さ せ て ，春 季 の 発 芽 率 や ，生 存 率 の 推 移 を 調 査 し た ．ま た ， 2007 年 1∼ ５ 月 の 調 査 で は ，坂 田 池 と 小 川 原 湖 を 同 時 に 同 条 件 で 殖 芽 を 培 養 し ，春 期 の 発 芽 状 況 を 比 較 し た ． 5.3-1 冬 期 の 乾 燥 耐 性 横 芝 光 町 の 坂 田 池 ビ オ ト ー プ で 2005 年 11 月 に 採 取 し た 殖 芽 を ，常 温 で 保 存 し た 後 ，2006 年 1 月 18 日 に ガ ラ ス の ビ ー カ ー（ 500ml）計 ５ つ に ，川 砂 を 5 ㎝ 程 度 の 深 さ に 敷 き ， 各 ２ 4 個 の 殖 芽 を ラ ン ダ ム に 選 ん で 入 れ た ． ビ ー カ ー ５ つ は そ れ ぞ れ 異 な る 水 分 条 件 を 設 定 し ， 2006 年 ５ 月 か ら 6 月 に か け て ， 含 水 率 を 炉 乾 法 （ 100℃ 20 時 間 ） で 測 定 し た ． こ の あ と ， ビ ー カ ー Ａ ： 水 深 4∼ 5 ㎝ 程 度 ， ビ ー カ ー Ｂ ： 水 位 と 底 砂 表 面 が ほ ぼ 一 致 ，ビ ー カ ー C：含 水 率 30％ 程 度 ，ビ ー カ ー Ｄ：含 水 率 15％ 程 度 ，ビ ー カ ー Ｅ：含 水 率 10％ 程 度 ，と い う ５ つ の 条 件 を 設 定 し ，そ こ に 殖 芽 を 入 れ た ．そ れ ぞ れ の ビ ー カ ー は ，雨 水 や 外 部 か ら の 種 子 等 の 混 入 を 防 ぐ た め に ポ リ 袋 で 覆 い ， 千 葉 大 学 園 芸 学 部 屋 上 に 置 い た ． そ の 結 果 ，水 分 の 多 い 条 件 で も っ と も 発 芽 時 期 が 早 く ，発 芽 率 が 最 も 高 か っ た（ 図 18）． 砂 の 表 面 が 冠 水 し て い る ビ ー カ ー Ａ と ビ ー カ ー Ｂ の 発 芽 時 期 が 最 も 早 く ， ３ 月 10∼ 15 日 に 発 芽 し 始 め ， そ の 後 の 発 芽 率 の 推 移 も ２ 条 件 で あ ま り 変 わ ら な か っ た ． 一 方 ， 含 水 率 30％ （ ビ ー カ ー Ｃ ） と 含 水 率 15％ （ ビ ー カ ー Ｄ ） で は ， 冠 水 し た 条 件 よ り も ，発 芽 し 始 め る 時 期 が ２ ０ 日 前 後 遅 く な っ た ．含 水 率 30%と 15％ で は 発 芽 開 始 後 の 発 芽 率 の 経 時 変 化 は ，含 水 率 15％ の 条 件 が や や 発 芽 率 の 上 昇 が 遅 い が ， 同 じ よ う に 発 芽 率 が 上 昇 し ， 最 終 的 に は 発 芽 率 50％ 以 上 と 比 較 的 高 い 値 を 示 し た ． 含 水 率 10％ の ビ ー カ ー Ｂ で は 4 月 13 日 の 時 点 で は 発 芽 し た 殖 芽 は な か っ た が ， 褐 色 に 変 色 し て 枯 死 し た と 考 え ら れ る 殖 芽 は な か っ た ．そ こ で ，４ 月 １ ３ 日 に ，含 水 率 10％ 区 の 殖 芽 の 半 分 に つ い て は ，同 じ 条 件 で 実 験 を 継 続 し ，残 り の 半 分 は 含 水 率 30％ の 条 件 に 移 し 替 え た ． そ の 結 果 ， ４ 日 後 の ４ 月 １ ８ 日 に は 40％ の 殖 芽 が 発 芽 し た （ 図 19）． 一 方 で ， 同 じ 条 件 を 継 続 し た も の は 発 芽 し な か っ た ．
図 18. ビ ー カ ー 内 で の 水 分 条 件 別 発 芽 率 の 推 移 A： 水 深 4∼ 5 ㎝ 程 度 ,B： 水 位 と 底 砂 表 面 が ほ ぼ 一 致 ,C： 含 水 率 30％ 程 度 , D： 含 水 率 15％ 程 度 ,E： 含 水 率 10％ 程 度 図 19． 4 月 13 日 以 降 水 分 条 件 を 変 化 さ せ た 実 験 区 Ｅ の 発 芽 率 の 推 移 E（ 続 行 ）： 乾 燥 条 件 （ 含 水 率 １ ０ %程 度 ） の ま ま E（ 湛 水 ）：含 水 率 30％（ ビ ー カ ー Ｃ の 条 件 と 同 程 度 ）に 4/13 以 降 変 化 さ せ た も の な お ，発 芽 後 の 実 験 区 を 同 じ 条 件 で 継 続 し た 培 養 し た と こ ろ（ 図 20），含 水 率 15％ の 実 験 区 と ，4 月 13 日 ま で 含 水 率 10%程 度 に お き ，4 月 13 日 以 降 含 水 率 30%に し た 実 験 区 で は 最 初 に シ ュ ー ト が ひ か ら び て 枯 死 し た ．一 方 ，水 位 と 底 砂 表 面 が ほ ぼ 一 致 さ せ た 実 験 区 と 含 水 率 30％ 程 度 の 実 験 区 で は ，空 中 に シ ュ ー ト を 成 長 さ せ て い き ， ６ 月 初 旬 ま で ，２ ヶ 月 間 成 長 が 続 い た が ，や が て 枯 死 し た ．水 深 ４ ∼ ５ ｃ ｍ 程 度 の 実 験 区 で は 春 季 の 成 長 は 順 調 だ っ た が ６ 月 １ ８ 日 に カ ビ が 発 生 し て 枯 死 し た ．
図 20． 4 月 17 日 以 降 の シ ュ ー ト 生 存 率 の 推 移 A：水 深 4∼ 5 ㎝ 程 度 ，B：水 位 と 底 砂 表 面 が ほ ぼ 一 致 ，C：含 水 率 30％ 程 度 ，D：含 水 率 15％ 程 度 、 E： 4 月 13 日 ま で 含 水 率 10%程 度 で 4 月 13 日 以 降 含 水 率 30%程 度 に 変 更 含 水 率 の 変 化 に よ る 殖 芽 の 発 芽 率 の 比 較 実 験 か ら ，ツ ツ イ ト モ の 殖 芽 は 水 中 だ け で は な く ， 干 上 が っ て い て も 湿 っ た 条 件 で は ， 枯 死 す る こ と な く 春 ま で 生 き 続 け ， 含 水 率 15％ 以 上 地 表 が 湿 っ た 状 態 に な る と 発 芽 す る こ と が 明 ら か に な っ た ．発 芽 後 は 冠 水 状 態 に な く て も 成 長 を 続 け て い た が ， 水 深 の な い ビ ー カ ー A 以 外 の 条 件 区 の 個 体 は 干 上 が っ て 枯 死 し た ．し た が っ て ，春 ま で は 干 上 が っ た 状 態 で も 生 存 し 続 け る が ，発 芽 後 に 生 育 地 が 水 没 し な い 場 所 の 個 体 は 生 存 し 続 け る こ と が で き な い と い え る ．冠 水 個 体 も や が て は カ ビ が 生 え て 腐 っ て し ま っ た が ，ビ ー カ ー 内 で 実 験 を 継 続 し た た め ， 気 温 が 上 昇 し て し ま っ た の が 原 因 と 考 え ら れ る ． ツ ツ イ ト モ の 保 全 の た め に 殖 芽 を 保 存 す る 際 に は ，必 ず し も 冠 水 状 態 で 保 管 す る 必 要 は な く ，低 温 で 湿 ら せ た 状 態 で 保 管 す る こ と も 可 能 だ と 考 え ら れ る ．果 実 が 形 成 さ れ な く な っ た り 発 芽 率 が 低 下 し た り し た 場 合 に 備 え て ，殖 芽 を 恒 久 的 に 保 存 し て お く 必 要 が あ る 場 合 ， 冷 蔵 庫 等 で の 保 管 も 可 能 と 考 え ら れ る ． 5.3-2 冬 期 の 乾 燥 耐 性 と 発 芽 時 期 の 地 域 差 横 芝 町 か ら 採 取 し た 個 体 と ，小 川 原 湖 ，加 瀬 沼 で 採 取 し た 個 体 に 冬 期 の 乾 燥 耐 性 や ，春 期 の 発 芽 時 期 に 差 が あ る か ど う か を 確 認 す る た め ，2006 年 に 行 っ た の と 同 様 の 方 法 で ， 2006 年 ９ 月 に 各 地 点 で 採 取 し た 殖 芽 を ， 水 深 ４ ∼ ５ cm に 維 持 し た 実 験 区 ， 水 の 表 面 と 砂 の 表 面 が 同 じ 場 所 に な る よ う に （ 水 深 ０ ｃ ｍ ） 維 持 し た 実 験 区 ，
砂 の 表 面 が 湿 る 程 度 に 週 ３ 回 程 度 霧 吹 き で 水 を か け る 処 理 を 行 っ た 実 験 区 に ，そ れ ぞ れ 殖 芽 30 個 体 を い れ ， 発 芽 率 の 経 過 を 調 べ た ． そ の 結 果 ，ど の 集 団 で も 水 深 ４ ∼ ５ cm に 維 持 し た 実 験 区 が 最 も 発 芽 が 早 く ，発 芽 率 も 高 か っ た ．横 芝 の 集 団 で は 水 深 ０ ｃ ｍ の 条 件 区 と 湿 ら せ た 条 件 区 に 差 は な か っ た が ，小 川 原 湖 と 加 瀬 沼 の 集 団 で は 水 深 ０ ｃ ｍ の 条 件 区 の ほ う が ，発 芽 率 が 高 く な っ た (図 21-23)． 殖 芽 の 発 芽 時 期 は ，小 川 原 湖 と 加 瀬 沼 で は ２ 月 ２ ７ 日 に 発 芽 を 開 始 し た の に 対 し ， ３ 月 １ ２ 日 と ２ 週 間 近 く 発 芽 開 始 が 遅 れ た ．こ の 原 因 と し て ，小 河 原 湖 と 加 瀬 沼 の 個 体 は ，横 芝 町 よ り も 春 期 に 寒 冷 な 環 境 に 生 育 す る た め ，低 温 に 適 応 し て い る 可 能 性 が あ る ．ま た ，生 理 的 だ け で は な く 遺 伝 的 に 異 な る 集 団 で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ る ． 0 20 40 60 80 100 2007 /2/20 2007 /2/2 7 2007 /3/6 2007 /3/1 3 2007/ 3/20 2007 /3/2 7 2007 /4/3 2007 /4/1 0 2007 /4/17 日付
発芽率
図 21． 小 川 原 湖 産 殖 芽 の 発 芽 曲 線 ◆ ： 水 深 4∼ ５ cm を 維 持 ， ▲ ： 水 深 0cm 維 持 ， ■ ： 表 面 が 湿 る 程 度 に 乾 燥0 20 40 60 80 100 2007 /2/2 0 2007 /2/2 7 2007 /3/ 6 2007 /3/1 3 2007 /3/2 0 2007 /3/2 7 2007 /4/3 2007 /4/1 0 2007 /4/1 7 日付 発芽率 図 22． 加 瀬 沼 産 殖 芽 の 発 芽 曲 線 ◆ ： 水 深 4∼ ５ cm を 維 持 ， ▲ ： 水 深 0cm 維 持 ， ■ ： 表 面 が 湿 る 程 度 に 乾 燥 0 20 40 60 80 100 2007 /2/2 0 2007 /2/2 7 2007 /3/6 2007 /3/1 3 2007 /3/2 0 2007 /3/2 7 2007 /4/3 2007 /4/1 0 2007 /4/1 7 日付 発芽 率 図 23： 横 芝 産 殖 芽 の 発 芽 曲 線 ◆ ： 水 深 4∼ ５ cm を 維 持 ， ▲ ： 水 深 0cm 維 持 ， ■ ： 表 面 が 湿 る 程 度 に 乾 燥
5.4） ツ ツ イ ト モ 個 体 群 の 遺 伝 子 組 成 調 査 横 芝 町 坂 田 池 ， 小 川 原 湖 （ ３ 地 点 ， サ ン プ ル ① ： 図 16 の 地 点 11， ③ ： 地 点 ４ ， ⑤ ： 地 点 12）， 加 瀬 沼 ， 西 条 市 ， 米 子 市 の ツ ツ イ ト モ 集 団 の Ｄ Ｎ Ａ マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト に よ る 集 団 遺 伝 解 析 を 行 っ た ．マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト と は ，塩 基 配 列 上 に 散 在 す る (CA)や (CTC)な ど の 2 か ら 7 塩 基 が ひ と つ の 単 位 と な っ て 繰 り 返 し て い る 配 列 の こ と で あ る ．こ の 繰 り 返 し の 数 は 突 然 変 異 に よ っ て 世 代 か ら 世 代 へ 移 行 す る と き に 変 化 す る こ と が あ る ．さ ら に ，こ の 突 然 変 異 は 中 立 突 然 変 異 で あ る の で 適 応 度 に 影 響 を 与 え る こ と は な い ．そ こ で ，マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト 領 域 を 増 幅 さ せ る プ ラ イ マ ー を 設 計 し て PCR で こ の 領 域 の み を 増 幅 し ，そ の 産 物 を 電 気 泳 動 に か け る こ と に よ っ て 反 復 数 の 違 い を バ ン ド の 大 き さ の 違 い に よ っ て 検 出 す る こ と が で き る ． マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト に よ る 多 様 性 解 析 は ，遺 伝 子 座 あ た り の 対 立 遺 伝 子 の 数 が 古 く か ら 遺 伝 的 多 様 性 解 析 に 用 い ら れ て き た 手 法 で あ る RAPDs 等 よ り も 多 い (P.Jarne & P.J.L.Lagoda,1996) の で ， よ り 精 度 の 高 い 多 様 性 解 析 が 期 待 で き る ． 現 在 ，さ ま ざ ま な 植 物 で マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト マ ー カ ー の 開 発 が 行 わ れ て い る ．ツ ツ イ ト モ と 同 属 の 植 物 で は リ ュ ウ ノ ヒ ゲ モ (P.pectinatus) の 例 が あ る (G.Nies & T.B.H.Reusch,2004)．
ま ず ，千 葉 県 横 芝 町 よ り 採 取 し た サ ン プ ル よ り Sekino（ 2004）と Takahashi et al. （ 1996）の 方 法 を 参 考 に し て マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト 領 域 の 単 離 を 行 っ た ．大 ま か な 流 れ と し て は ， DNA の 抽 出 ， タ ン パ ク 質 の 除 去 ， DNA の フ ラ グ メ ン ト 化 ， フ ラ グ メ ン ト の 平 滑 末 端 化 ， フ ラ グ メ ン ト の 5'末 端 リ ン 酸 化 ， プ ラ ス ミ ド ベ ク タ ー の 開 環 と 5'末 端 脱 リ ン 酸 化 ，ラ イ ゲ ー シ ョ ン ，ト ラ ン ス フ ォ ー メ ー シ ョ ン ，ヘ ル パ ー フ ァ ー ジ の 感 染 と そ の 培 養 ，一 本 鎖 DNA の 回 収 ，プ ラ イ マ ー エ ク ス テ ン シ ョ ン ，ニ ッ ク 修 正 ，不 要 な 一 本 鎖 プ ラ ス ミ ド DNA の 除 去 ，ト ラ ン ス フ ォ ー メ ー シ ョ ン ，コ ロ ニ ー PCR， ExoSAP-IT 処 理 の 順 で 作 業 を 行 い ， 各 ク ロ ー ン を PCR に か け て ABI3100 （ Applied Biosystems） を 使 用 し て 塩 基 配 列 を 読 ん だ
ト ラ ン ス フ ォ ー メ ー シ ョ ン の 結 果 培 地 に 生 え て き た コ ロ ニ ー の う ち ， 181 サ ン プ ル を に つ い て 塩 基 配 列 の 解 読 を 行 っ た と こ ろ ，15 サ ン プ ル に マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト 配 列 を 含 む も の が あ っ た ． こ れ ら に つ い て は 逆 方 向 か ら も 塩 基 配 列 を 読 ん だ 後 ， GENETYX-WIN version4.0 を 用 い て プ ラ イ マ ー の 設 計 を 試 み た と こ ろ 9 つ の プ ラ イ マ
で あ る ． 尚 ， プ ラ イ マ ー 設 計 の 際 に は CG 含 量 が 50%前 後 に な る こ と ， Tm 値 が 56∼ 60℃ に な る よ う に 気 を つ け た ． 設 計 し た プ ラ イ マ ー が 目 的 領 域 を 増 幅 す る も の で あ る か を 確 認 す る た め に ，ま ず ， 横 芝 3 サ ン プ ル ，米 子 2 サ ン プ ル ，東 出 雲 2 サ ン プ ル（ イ ト モ ），宮 城 1 サ ン プ ル ， 船 橋 2 サ ン プ ル （ イ ト モ ）， 西 条 1 サ ン プ ル の 計 11 サ ン プ ル を PCR 反 応 に か け た ． こ の と き に 使 用 し た DNA 溶 液 は CTAB 法 に よ っ て 抽 出 を 行 い ，フ ェ ノ ー ル /ク ロ ロ ホ ル ム 処 理 を 行 い タ ン パ ク 質 の 除 去 を 行 っ た 後 に 20ng/μ l に な る よ う に 調 整 し た も の で あ る ．
PCR 反 応 液 は 10×Reaction buffer0.9μ l・2.5mM dNTP Mix 0.72μ l・milli-Q 6.48 μ l・ Forward primer(10pmol/μ l) 0.45μ l・ Revers primer(10pmol/μ l) 0.45μ l・ Taq DNA polymerase(Bionner)0.045μ l を 混 和 し た も の で あ る ． こ の 反 応 溶 液 に DNA 溶 液 を 1μ l 加 え ，94℃ 1 分・｛ 94℃ 30 秒・各 々 の ア ニ ー リ ン グ 温 度 30 秒・72℃ 1 分 ｝ ×35 サ イ ク ル ・ 72℃ 1 分 の プ ロ ト コ ー ル で 反 応 に か け た ． PCR 産 物 全 量 を 3%NUSIEVE GTG・ 1%SEAKEM GTG Gel で 電 気 泳 動 に か け て エ チ ジ ウ ム ブ ロ マ イ ド で 染 色 し ，バ ン ド の 検 出 を お こ な っ た と こ ろ ， 5 種 類 の プ ラ イ マ ー セ ッ ト は 目 的 と す る 領 域 の 増 幅 を す る こ と の 確 認 が で き た ．
こ れ ら に つ い て 蛍 光 プ ラ イ マ ー を 使 い ， PCR を か け て シ ー ケ ン サ ー で 正 確 な 断 片 長 の 長 さ を 見 る こ と で 更 な る 有 用 性 の 確 認 を 行 っ た ．こ の と き の PCR 反 応 液 の 組 成 は 2×QIAGEN Mutiplex PCR Master MIX 5μ l・ PPCT-01-F primer (蛍 光 )(2pmol/ μ l) 1μ l・ PPCT-01-R primer (2pmol/μ l) 1μ l・ RNase free water 2μ l・ DNA 溶 液 (20ng/μ l) 1μ l を 混 和 し た も の で あ る ． こ の 反 応 溶 液 を 95℃ 15 分 ・｛ 94℃ 30 秒・56℃ 90 秒・72℃ 1 分 ｝×25 サ イ ク ル・60℃ 30min の プ ロ ト コ ー ル で 反 応 さ せ た ． そ の 結 果 ，５ 種 類 の う ち １ つ の プ ラ イ マ ー は 目 的 領 域 を 正 確 に 増 幅 し ，あ る 程 度 の 多 型 を 確 認 す る こ と が で き た の で ，ツ ツ イ ト モ 各 集 団 の 多 様 性 の 解 析 に 用 い る こ と に し た ． 以 下 に 解 析 結 果 と そ こ か ら 得 る こ と の で き た 考 察 ， 今 後 の 展 望 を 示 す ． 尚 ，PCR 反 応 液 の 組 成 は 2×QIAGEN Mutiplex PCR Master MIX 5μ l・PPCT-01-F primer (蛍 光 )(2pmol/μ l) 1μ l・ PPCT-01-R primer (2pmol/μ l) 1μ l・ RNase free water 2μ l・ DNA 溶 液 (20ng/μ l) 1μ l を 混 和 し た も の で あ る ． こ の 反 応 溶 液 を 95℃ 15 分・｛ 94℃ 30 秒・56℃ 90 秒・72℃ 1 分 ｝×25 サ イ ク ル・60℃ 30min の プ ロ ト コ ー
ル で 反 応 さ せ た ． 西 条 16 サ ン プ ル ・ 彦 名 22 サ ン プ ル ・ 加 瀬 沼 16 サ ン プ ル ・ 小 川 原 湖 ① 19 サ ン プ ル・小 川 原 湖 ③ 9 サ ン プ ル・小 川 原 湖 ⑤ 2 サ ン プ ル・横 芝 町 16 サ ン プ ル の 計 101 サ ン プ ル を 材 料 に し て 解 析 を 行 っ た ．解 析 の 結 果 97bp・99bp・101bp・107bp・111bp・ 113bp・ 115bp・ 117bp と い う ８ つ の 対 立 遺 伝 子 が 確 認 さ れ た ． 各 集 団 に お け る そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 型 の 割 合 を 表 3 に 示 し た ．こ の 結 果 よ り こ の プ ラ イ マ ー の ヘ テ ロ 接 合 度 を 出 し た と こ ろ He=0.5214 と な っ た ．各 集 団 に お い て 加 瀬 沼 で あ れ ば 101/101 の ホ モ ， 小 河 原 湖 ① で あ れ ば 99/101 の ヘ テ ロ と い っ た よ う に 大 多 数 を 占 め る 遺 伝 子 型 が 存 在 す る こ と が 確 認 で き た ．ま た ，横 芝 町 で 継 続 培 養 さ れ て い る 集 団 は ，99/99 の ホ モ だ け か ら 構 成 さ れ ，個 体 数 の 多 い 自 生 集 団 を 構 成 す る 小 川 原 湖 や 加 瀬 沼 に 比 べ る と 遺 伝 子 多 様 度 が 低 く ， ク ロ ー ン に よ る 増 殖 が お こ っ て い る 可 能 性 が あ る ． 残 念 な が ら ，今 回 設 計 す る こ と に 成 功 し た １ つ の プ ラ イ マ ー セ ッ ト だ け で は 詳 細 な 集 団 遺 伝 解 析 を 行 う こ と は で き な か っ た ．今 後 ，よ り 多 く の プ ラ イ マ ー を 開 発 し 解 析 を 進 め て 行 く こ と に よ り ，各 集 団 の 近 縁 度 な ど 詳 細 な 集 団 遺 伝 解 析 を 行 う こ と が で き る だ ろ う ．
６ ． 横 芝 町 ツ ツ イ ト モ 集 団 の 恒 久 的 保 存 に む け て の 提 言 本 研 究 の 結 果 ，栗 山 川 河 川 敷 の よ う に ツ ツ イ ト モ が 一 度 大 発 生 し た 場 所 で も ，池 の 底 で の ヘ ド ロ の 堆 積 や ア メ リ カ ザ リ ガ ニ の 発 生 に よ っ て ，種 子 発 芽 や そ の 後 の 定 着 が 阻 害 さ れ や す い こ と が 明 ら か に な っ た ．そ れ を 防 ぐ た め に ，生 育 地 の 池 を 冬 期 に 水 干 し す る こ と で ヘ ド ロ の 分 解 を 促 進 さ せ て ，ア メ リ カ ザ リ ガ ニ の 個 体 数 を 減 少 さ せ る こ と が も っ と も 有 効 な 対 策 と 考 え ら れ る ． 殖 芽 に は 乾 燥 耐 性 が あ る た め に ， 春 期 の 発 芽 直 後 に 水 没 さ せ れ ば 翌 年 の 再 生 が 期 待 で き る こ と も 明 ら か に な っ た ．平 成 19 年 度 以 降 に 整 備 が 開 始 さ せ る 予 定 の ビ オ ト ー プ で の 管 理 に ， こ の 結 果 を 応 用 す る よ う に 提 案 す る 予 定 で あ る ．ま た ，汽 水 域 で も 生 育 可 能 な の で ，栗 山 川 下 流 域 の 汽 水 域 に も 移 植 を 試 み る よ う ， 提 案 を 行 う ． 遺 伝 子 解 析 の 結 果 で は 現 在 ，継 続 培 養 さ れ て い る 集 団 は ク ロ ー ン で あ る 可 能 性 が 高 い こ と が わ か っ た ．遺 伝 子 多 様 度 が 高 い ほ ど 今 後 の 環 境 変 化 に よ る 絶 滅 を 回 避 さ せ る 可 能 性 が 高 く な る の で ，発 生 場 所 の 地 下 か ら 埋 土 種 子 集 団 の 発 掘 を 再 度 試 み る ほ か ，発 生 場 所 で 埋 土 種 子 と し て 保 存 さ れ て い る 果 実 か ら の 再 生 固 体 に つ い て も 遺 伝 子 解 析 を 今 後 行 う 予 定 で あ る ． 本 助 成 事 業 を 遂 行 す る に あ た り ，栗 山 川 の 河 川 管 理 者 で あ る 千 葉 県 山 武 地 域 整 備 セ ン タ ー に は 調 査 面 で の ご 協 力 を い た だ い た ． 株 式 会 社 日 本 技 術 開 発 の 落 合 直 文 ， 根 本 勝 両 氏 に は ，現 地 で の 調 査 を 共 同 で 行 う と 共 に ，千 葉 県 や 横 芝 光 町 と の 交 渉 に ご 尽 力 い た だ い た ．市 原 道 雄 氏 な ら び に 横 芝 光 町 役 場 の 方 々 に は ，現 地 調 査 で 多 大 な 便 宜 を 計 っ て い た だ い た ．宮 城 県 立 盲 学 校 の 滝 口 政 彦 氏 に は ，宮 城 県 宮 城 郡 加 瀬 沼 の ツ ツ イ ト モ 自 生 地 を ご 案 内 い た だ い た ．千 葉 県 立 中 央 博 物 館 宮 田 昌 彦 博 士 に は ，有 益 な ご 助 言 を い た だ い た ．予 備 調 査 で あ る ツ ツ イ ト モ の 発 芽 実 験 は ，大 成 建 設（ 株 ）秋 吉 美 穂 氏 と の 共 同 研 究 に よ り 行 わ れ た ．本 報 告 書 の 成 果 の う ち ，ア メ リ カ ザ リ ガ ニ に よ る 食 害 調 査 は 上 松 未 来 氏 ，ツ ツ イ ト モ の 殖 芽 の 乾 燥 耐 性 の 調 査 は 北 畠 華 氏（ 現 千 葉 大 学 大 学 院 ），遺 伝 子 組 成 調 査 は 藤 原 健 人 氏（ 現 東 京 大 学 大 学 院 ） に よ っ て ， 事 業 助 成 者 の 指 導 の も と に 千 葉 大 学 卒 業 研 究 と し て 行 わ れ た ． 以 上 の 方 々 に 深 く 感 謝 い た し ま す ．
引 用 文 献 浜 端 悦 治（ 1999）小 川 原 湖 に お け る 沈 水 植 物 群 落 の 種 組 成 と 分 布 ．植 生 学 会 誌 ，16， 69-82． 角 野 康 郎 （ 1994） 日 本 水 草 図 鑑 ． 178pp.文 一 総 合 出 版 ， 東 京 ． 環 境 庁 自 然 保 護 局 野 生 生 物 課（ 2000）改 訂・日 本 の 絶 滅 の お そ れ の あ る 野 生 生 物 − レ ッ ド デ ー タ ブ ッ ク ８ 植 物 Ⅰ （ 維 管 束 植 物 ）， 660pp.財 団 法 人 自 然 環 境 研 究 セ ン タ ー ， 東 京 ． 三 木 茂（ 1937）山 城 水 草 誌 ．「 京 都 府 名 跡 名 勝 天 然 記 念 物 調 査 報 告 17 冊 」，127pp， 図 版 ４ ．
