ベトナムの FTA 戦略の展開 とその現状
〜貿易収支からの考察〜
佐 藤 進 † Development of FTA Strategy and Its Current Situations in Vietnam
̶ Some of Consideration from the Viewpoint of Trade Balance ̶
Susumu Sato
Vietnamese government is actively facilitating FTA
ʼs strategy under the policy of international eco- nomic integration which the Communist Party has adopted. So far, Vietnam has taken in effect 10 FTAs.
At first, there have been a lot of participation in ASEAN
+1 FTAs, but recently it has expanded the scope of globally and bilateral FTAs. Participation in the FTA is aimed at expanding externally economic rela- tions and developing the Vietnamese economy. Specifically, it is aiming to increase exports and to attract foreign direct investment, and in short, to facilitate economic development under export oriented indus- trialization policy.
Vietnamese Government is focusing on EU-Vietnam Free Trade Agreement
(EVFTA
)and Trans Pacific Partnership
(TPP
)because competing the pressure with neighboring countries of Asia and ASEAN. The trade balance with EU and United States of the participating countries of TPP is a major trade surplus, then, the aims of these two FTA are further export growth and market expansion for Vietnam. In particular, the rule of origin in TPP is very strict, on the contrary, foreign enterprises will invest in Vietnam and lead to industry development. In addition, TPP is strict rules for Vietnam, such as investment, intellectual property, labor, and state-owned enterprise reform, etc but it is also indispens- able for economic structural reform in Vietnam.
1.
はじめにベトナム政府は,共産党が掲げた国際経済統合という方針のもと,積極的に
FTA
1戦略を展開して いる。ベトナムにおいてFTA
は,これまでに10
協定が発効されており,2010
年まではASEAN
+1
での参加が多かったが,最近ではFTA
の範囲をグローバルに拡大するとともに,二国間での参加に も力を入れている。FTA
への参加は,対外的に経済関係を拡大し,ベトナム経済の発展させること を目的としている。具体的には,輸出を増加させること,またそのためには外国企業を誘致して産業 を育成すること,つまり輸出志向工業化政策の下での経済発展を目指していると言える2。FTA
は,ベトナムと同様に世界でも広がりを見せている。バーバラ・スターリングス,片田さお†ジェトロ・ハノイ事務所所員 JETRO Hanoi Office
1 FTAは,特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃する協定である。加えて,EPAは,FTA を柱に,ヒト,モノ,カネの移動の自由化,円滑化を図り,幅広い経済関係の強化を図る協定である。FTA/EPAにおいて 物品の関税に関しては,締約国は協定発効後,公約したある一定の期間の中で関税の削減,撤廃等をしなければならない。
詳しくは,ジェトロウェブサイト参照のこと(https://www.jetro.go.jp/theme/wto-fta/basic.html, 2017年10月2日)。
2 渡辺利夫『開発経済学入門』東洋経済,2010年,145‒154頁。
りは,世界で展開している
FTA
について,ある国の政府のFTA
採用という政策選択は他国政府の行 動・判断に影響されている「政策拡散理論」のもと行われているという3。政策拡散は,「模倣」と「競 争」という2
つの強力なメカニズムに左右されていると分析する。「模倣」は,社会文化的に類似し た国のFTA
政策を模倣することである。その際,国家を横断するネットワークがFTA
路線の推進に 重要な役割を果たす。「模倣」によって伝播したFTA
は,順番をほとんど考えずにできるだけ多くの パートナーと交渉する「全方位性」と模倣対象国のFTA
に類似した標準ルールをもとに交渉する「同 質性」の特徴を持っている。「競争」は,競争相手国のとったFTA
政策が,①貿易および投資の転換 効果を招く,②ライバル国の相対的影響力を増加させる,および/もしくは③地域統合の代替モデル を広めることから起こる。このため,FTA
政策に関して,相手国の選択,交渉の時期,市場アクセ スなどは競争に有利になるよう計算される「選択的」,それぞれのFTA
に貿易・投資について内容の ことなるパッケージが含まれる「異質性」が特徴となる。現在の各国が締結するFTA
の主な要因は 模倣要素より競争圧力にあるという。特に,小国の場合,地域間協定の関心の源泉は経済競争にあり,地理的な位置は関係なく,大市場と投資資金を有する国との
FTA
を追求すると見ている。その代表 的な例として,チリ,韓国,シンガポールを挙げている。ベトナムの
FTA
戦略を上記の「政策拡散理論」で論じた場合,「模倣」も持ち合わせているものの 徐々に「競争」に移りつつある。ベトナムは,現在10
協定のFTA
を締結発効しており,これまで同 じ地域であるASEAN
のメンバーとしての参加しているFTA
が多かったが,徐々に同地域以外の国 との二国間・多国間というグローバルなFTA
を締結・発効するようになった。さらには,EU
とのFTA
(EVFTA
)や環太平洋パートナーシップ(TPP
)の締結は,ASEAN
の近隣諸国との競争圧力に よるものと思われる。EU
とTPP
の参加国の米国との貿易収支は,大幅な貿易黒字で,これらのFTA
をきっかけにさらなる輸出の増加と市場の拡大を狙っている。特に,TPP
に関しては,FTA
を 利用する際の原産地規則が厳しいが,逆に外国企業がベトナムに投資することによって産業育成につ ながると見ている。加えて,TPP
の投資・知的財産・労働・国営企業改革などベトナムにとって厳 しいルールも経済構造改革にとって必要不可欠と考えている。本稿では,ベトナムの
FTA
戦略が具体的にどのように展開しているか,そして貿易面において発 効されたFTA
がどのように利用されているか,EVFTA
やTPP
が期待されている背景を考察する。まず,
2.
においてベトナムのFTA
戦略と発効・交渉状況について述べる。3.
においてベトナムの貿 易構造,4.
においてFTA
の利用状況について考察する。5.
がベトナムが多い期待をかけていたEU
とのFTA
とTPP
についてベトナム政府の狙いと現状を述べる。6.
おわりには,2017
年1
月に米国 が離脱を表明したTPP
に関して,現在ベトナムはどのようなスタンスであるのかを論じる。2.
ベトナムのFTA
戦略と発効・交渉状況2.1
FTA
戦略と経緯ベトナムの
FTA
戦略は,ベトナム共産党の国際経済統合という方針のもと実施されている。国際3 バーバラ・スターリングス,片田さおり「第12章 結論:競争する世界のなかのFTA」ミレヤ・ソリース,バーバラ・ス ターリングス,片田さおり編,片田さおり,浦田秀次郎,岡本次郎訳『アジア太平洋FTA戦争』勁草書房,2010年,292‒ 299頁。
経済統合の役割の一つは,対外経済関係の拡大である4。具体的には,ベトナムで生産された商品を各 国の市場での拡大させること,また各国との貿易・経済関係を強化発展させることである。
ベトナムの著名なエコノミストであるファム・チ・ラン氏は,国際経済統合に関して大きく
3
つの 点が重要であると説明している5。1
つ目は経済構造改革である。他国,特にASEAN
,米国,EU
,日 本と同じような経済システムやビジネス環境に適合させることである。2
つ目はグローバル・サプラ イチェーンに参加することである。例えば,ホンダやトヨタのような多国籍企業がベトナムに進出す れば部材の調達や製品の輸出入などで,ベトナム企業がグローバルサプライチェーンに参入すること ができる。3
つ目はベトナム経済を強化することである。自国で生産した製品,例えば縫製品や靴製 品の輸出で国際的に他国と競争する。競争することで裾野産業も育成され,技術力も向上する。つま り,輸出を拡大させ,そのためには産業を育成していることが大きな目的となる。このような考え方は,ドイモイ路線が始まった
1986
年第6
回ベトナム共産党大会からと言われてい る6。同大会報告書において,「あらゆる国との経済協力関係を拡大する」と明記され,これまで旧社会 主義国であった旧ソ連や東欧諸国との関係だけでなく多様化,かつ多方向化での経済関係を構築する方 針を示している。実際に,国際経済統合という用語が使われるようになったのは,2001
年第9
回ベト ナム共産党大会からで,「内部の力を高度に発揮させる一方で,外部の資源を動員し,持続的で効果の ある迅速な発展のために国際経済統合を主導する」,2006
年第10
回では,「主導的,かつ積極的に国際 経済統合を行う」と明記されている。これら党大会の方針を具体化したのは,2001
年11
月27
日付け 国際統合に関する党政治局決議07-NQ/TW
号である(決議07
号)。決議07
号は,その後の国際経済 統合の推進や2007
年世界貿易機関(WTO
)加盟に大きな意味があった。2011
年第11
回,2016
年第12
回党大会以降は,国際統合という名称が使用されるようになり,具体化したのが2013
年4
月10
日 付け政治局決議22
号となっている。第12
回党大会においては,「国際公約を効果的に実現し,新世代FTA
の交渉,締結を主導的,積極的に行う」とFTA
の取り組みに関して踏み込んだ記載がみられる。2.2
ベトナム発効済FTA
ベトナムの
FTA
戦略に関しては,2012
年8
月9
日付け「2020
年までのベトナムのFTA
加盟戦略」に関する首相決定
1057/QD-TTg
号に規定されている(首相決定1057
号)7。首相決定1057
号におい て,FTA
参加の原則として,①参加国間と自国の経済発展バランスを検討すること,②経済‒社会発 展,特に輸出と外国投資誘致のための新たな機会を創出することを挙げている。つまり,ベトナムのFTA
への参加は,輸出を拡大させるために外国投資を誘致して経済発展させる,いわゆる輸出志向 工業化政策であり,上記の「政策拡散理論」の「競争圧力」にもとづいていると言える。現在,ベトナム
FTA
の発効状況を見た場合,10
協定が発効されている(表1
参照)。これまでベ4 PGS. TS. Đặng Đình Đào- PGS. TS. Hoàng Đức Thân, kinh tế thương mại, (Nhà Xuất bản Đại học Kinh tế Quốc dân, 2014), pp. 231.
5 2017年3月1日ハノイにて,ベトナムエコノミスト ファム・チ・ランへのインタビュー。
6 PGS.TS. Vũ Văn Phúc Hội Nhập Kinh Tế Quốc Tế 30 Năm Nhìn Lại :PGS.TS. Vũ Văn Phúc-PGS.TS. Phạm Minh Chính
(Đồng chủ biên), Hội Nhập Kinh Tế Quốc Tế 30 Năm Nhìn Lại, (Chính trị quốc gia - Sự thật,2015), pp. 9‒23.
7 Trung tâm WTO Hỏi đáp về các Hiệp định Thương mại Tự do (FTA) 2015, 15 July, http://www.trungtamwto.vn/tin-tuc/
hoi-dap-ve-cac-hiep-dinh-thuong-mai-tu-do-fta.
トナムで発効された
FTA
の特徴は,2010
年までは,ASEAN
の一員として多国間交渉に参加するこ と,つまりASEAN
プラス1
でのFTA
発効が多く,アジア・オセアニア地域が多かった。つまり,ASEAN
の一員としてほぼ類似した標準ルールでASEAN
プラス1
のFTA
交渉を行うという「同質 性」という「模倣」の部分を持ち合わせていた。しかし,次第にFTA
の範囲をグローバル(EAE- UFTA
)に拡大するとともに,二国間(JVEPA
,VCFTA
,VKFTA
)と積極的に展開しており,「選 択性」や「異質性」と持つ「競争」へと移るようになっている。現在,ASEAN
で発効されているFTA
が多い順として,シンガポール21
,マレーシア13
,タイ12
,フィリピン7
,インドネシア6
と なっており,ベトナムはタイに次ぐ4
番目となる8。表1. ベトナムの発効済
FTA/EPA
No. FTA名称 発効年
1 ASEAN自由貿易地域(AFTA)
2010年5月よりATIGA(ASEAN物品貿易協定) 1996年1月1日
2 ASEAN中国自由貿易地域(ACFTA)物品貿易協定 2005年7月1日
3 ASEAN韓国自由貿易地域(AKFTA)物品貿易協定 2007年6月1日
4 日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)発効 2008年12月1日
5 日越経済連携協定(JVEPA) 2009年10月1日
6 ASEANオーストラリアニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA) 2010年1月1日
7 ASEANインド自由貿易地域(AIFTA)
(ベトナムは2010年7月発効) 2010年1月1日 8 ベトナムチリ自由貿易協定(VCFTA) 2014年1月2日 9 ベトナム韓国自由貿易協定(VKFTA) 2015年12月20日 10 ベトナム・ユーラシア経済連合自由貿易協定(VNA-EAEU FTA) 2016年10月5日 出所:ジェトロハノイ「ベトナム一般概況〜数字で見るベトナム経済〜」(2017年9月),p. 26
ベトナムで締結済・最終合意済の
FTA
は,EVFTA
,TPP
,AHFTA
の2
協定である。交渉中・交 渉開始合意は,EFTA
,RECP
とベトナム・イスラエル自由貿易協定が交渉中となっている。表2. ベトナムの交渉中及び交渉予定の
FTA
No. FTA名称 内容
1 環太平洋パートナーシップ(TPP)
2010年3月 オブザーバー参加 2010年11月 正式参加
12カ国参加 日本は2013年7月参加 2015年10月 大筋合意
2016年2月 正式調印 2 ベトナム・EFTA FTA 2012年5月 交渉開始 3 ベトナム・EUFTA(EVFTA) 2012年6月 交渉開始 2015年8月 大筋合意
2015年12月 最終合意(発効日未定)
4 ASEAN・香港自由貿易協定(AHKFTA) 2017年11月 合意・調印
5 東アジア地域包括的経済連携(RCEP) 2013年5月 交渉開始 6 ベトナム・イスラエルFTA 2015年12月交渉開始 出所:越商工省「ベトナム輸出入報告書2016」商工省輸出入庁,(2017年3月),pp. 151‒152 ジェトロ「ベトナム一般概況」(2017年4月),p. 26
8 ジェトロ『世界と日本のFTA 一覧(2016年12月)』2016年,1‒55頁。
(https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/de4c8426d0f5ef97/20160097.pdf, 2017年9月23日)。
2.3
ベトナムにおけるFTA
の引き下げスケジュール2.3.1
締約国側の輸入関税引き下げスケジュールベトナムが締結される
FTA
の引き下げスケジュールは表3
の通りである。最近発効されたVCFTA
,VKTFA
,VNA-EAEUFTA
を除いては,FTA
の締結している側の引き下げが終わっている か,あと数年で終了する状況となっている。ATIGA
,ACFTA
,AKFTA
,AIFTA
のASEAN
プラス1
の相手国側(カンボジア,ラオス,ミャンマーのCLM
は除く)の輸入関税の引き下げはほとんど 終わっている。また,ベトナム側もあと数年で輸入関税の引き下げが終了することから新たな市場を 求めるためにも,新しいFTA
の交渉,もしくは発効が必要であると考えているものと思われる。2.3.2
ATIGA
引き下げスケジュール現在,ベトナムにおいて注目されるのが,
ATIGA
とACFTA
の輸入関税の引き下げである。ATIGA
以前は,ASEAN
自由貿易地域(AFTA
)呼ばれている。ASEAN6
は,2010
年に輸入関税が 撤廃,カンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナム(CLMV
)が2015
年に撤廃(一部品目は2018
年)される。具体的に,
2015
年は1,715
品目の輸入関税が5
%から0
%に引き下げられ,全品目の90
% の関税が撤廃されたことになる9。また,全品目の7
%にあたる669
品目が2018
年までに撤廃される。品目は,鉄鋼,紙,衣料用織布,完成自動車,自動車部品,設備機械,建設資材,インテリア品等と なっている。完成自動車の輸入関税であるが,
2015
年50
%,2016
年40
%,2017
年30
%,2018
年0
%と毎年徐々に引き下がることになる。全品目のうち3
%が除外品目になり主に5
%の税率を維持 する。具体的には鶏肉,卵,米,玄米,加工肉,砂糖など畜産,農産品が中心となる。2.3.3
ACFTA
引き下げスケジュール次に,
ACFTA
は,ASEAN6
と中国は,2010
年に輸入関税が撤廃 (一部品目は2012
年)され,CLMV
は,2015
年に撤廃(一部品目は2018
年)される。具体的にベトナムでは,2015
〜2017
年ま での平均の関税率が2.3
%,2018
年が1.7
%となる(同上)10。ノーマルトラック品目に関して2015
年 は3,691
品目が0
%となり,全品目(9,491
品目)の84.1
%の関税が撤廃された。センシティブ品目 に関しては2015
年で税率が20
%まで引き下げられる。2015
年に関税が撤廃される具体的な品目は,動植物油,プラスチック,プラスチック原料,インテリア,木工製品,設備機械,パソコン,電子部 品,衣料織布,縫製付属品,縫製品,靴製品に使用される皮,一部鉄鋼製品である。さらに
2018
年 には588
品目が0
%となり,90.3
%が自由化される。表3. ベトナムが発効している
FTA
の関税引き下げスケジュールNo. FTA名 関税引き下げ内容
1 AFTA(ATIGA) ・ASEAN6 2010年撤廃
・CLMV 2015年撤廃(一部品目は2018年)
2 ACFTA ・ASEAN6・中国 2010年撤廃(一部品目は2012年)
・CLMV 2015年撤廃(一部品目は2018年)
*センシティブ・高度センシィブ品目を除く
9 佐藤 進「2018年までにATIGA97%,ACFTA90.3%の品目の関税を撤廃―財政省が関税率引き下げスケジュールを公表―」
『ジェトロ通商弘報』2015年1月20日(https://www.jetro.go.jp/biznews/2015/01/54bc711581268.html, 2017年7月16日)。
10 佐藤,前掲記事。
表3. つづき
3 AJCEP ・日本からの輸入総額の約91%が発効後10年以内に自由化(ASEAN側)
・ASEANからの輸入総額の約93%が発効後10年以内に自由化(日本側)
4 JVEPA
・貿易額の約88%が発効後10年以内に自由化(日本側)
・貿易額ベースの約95%が発効後10年以内に自由化(ベトナム側)
・往復貿易額で92%を10年以内に自由化
5 AKFTA
・韓国 2010年撤廃
・ASEAN6 2010年撤廃(一部品目は2012年)
・ベトナム 2016年撤廃(一部品目は2018年)
・CLM 2018年関税撤廃(一部品目は2020年)
*センシティブ・高度センシィブ品目を除く
6 AIFTA
・インド,ブルネイ,シンガポール,タイ 2013年撤廃(一部品目は2016年)
・フィリピン 2018年撤廃(一部品目は2019年)
・CLMV 2018年撤廃(一部品目は2021年)
*センシティブ・高度センシィブ品目を除く
7 AANZFTA ・ベトナム側 輸入品目の90%が2020年までに撤廃
8 VCFTA ・ベトナム側 輸入品目の87.8%,輸入金額の91.2%が発効後15年で撤廃
・チリ側 輸入金額の99.6%が発効後10年で撤廃
9 VKFTA ・ベトナム側 輸入品目89.2%,輸入金額の92.7%が撤廃
・韓国側 輸入品目の95.4%,輸入金額の97.2%が撤廃
10 VNA-EAEU FTA ・双方とも品目ベース,貿易額ベースの約90%の関税が撤廃
出所:ジェトロハノイ「ベトナム一般概況〜数字で見るベトナム経済〜」(2017年9月),p. 26
3.
ベトナムの貿易構造3.1
ベトナムの輸出入戦略ベトナム政府は,輸出入戦略を持ち,根拠法は下記の通りである。
‒
2011
年12
月28
日付け「2030
年に向けた,2011
‒2020
年商品輸出入戦略の承認」に関する政府 首相決定2471/QD-TTg
号(首相決定2471
号)‒
2012
年7
月25
日付け「2030
年に向けた,2011
‒2020
年商品輸出入戦略を実施するための行動プ ログラムの施行」に関する政府首相決定950/QD-TTg
号(首相決定950
号)‒
2017
年8
月3
日付け「2030
年に向けた,2020
年までのベトナムの輸出品競争力向上の提案承認」に関する政府首相決定
1137/QD-TTg
号(首相決定1137
号)首相決定
2471
号は,2011
〜2020
年までの全体的な輸出入戦略が規定されており,具体的には,2020
年までに一人当たりのGDP
が2,000
ドル,輸出額が2010
年の3
倍,貿易収支を均衡の状態にするなど の目標が設定されている。首相決定950
号は,上記の目標に対して関係官庁や省・中央直轄都市人民 委員会は具体的な活動方針が規定されている。首相決定1137
号は,ベトナムの輸出品競争力向上ため に具体的な方法を規定している。上記輸出入戦略にそって,実態がどのようになっているか分析したい。3.2
貿易収支ベトナムはこれまで慢性的な貿易赤字で,貿易構造としては,縫製品,原油,靴,水産品などの軽 工業・農水産品を輸出し,機械・機械設備,石油,鉄鋼製品など品目を輸入している状況であった。
このため,以下のグラフの通り,
2007
〜2012
年まで貿易赤字が100
億ドル以上となり,2011
年で180
億2,900
万ドルまで膨れ上がっている11。一方で,2012
年からは,2015
年以外は貿易黒字となり,好転している。首相決定
2471
号によれば,貿易収支が2015
年までに輸出額の10
%以内に,2020
年 までに均衡に,2021
‒2030
年で貿易黒字に達成することが目標となっている。首相決定
2471
号では,2011
‒2020
年までの年間の輸出が平均11
‒12
%増,うち,2011
‒2015
年が年平 均12
%増,2016
‒2020
年が11
%増で,2021
‒2030
年が約10
%増と年間で10
%台増加を目標としている。首相決定
1137
号では,2020
年までが年平均8
%増,2021
‒2030
年が年平均9
‒10
%増,2020
年の輸出 額が2010
年の3
倍増と目標を首相決定2471
号より若干下方修正しているが,右肩上がりの目標となっ ている。輸入は,増加率が輸入の増加率より低くなることを目標としている。具体的には,2010
‒2020
年の輸入増加率が年平均10
‒11
%増,2011
‒2015
年が11
%増以下,2016
‒2020
年が10
%増以下である。グラフ1. ベトナム貿易収支推移
出所:ベトナム税関総局
3.3
品目別ベトナムの貿易を品目別で見ると,
2016
年の輸出額は1,766
億3,200
万ドルである。品目別では,輸出額が多い順で
1
位電話機・同部品343
億1,700
万ドル,2
位縫製品231
億4,100
万ドル,3
位コ ンピュータ電子部品・同部品189
億5,900
万ドル,4
位履物130
億100
万ドル,5
位水産物で101
億4,400
万ドルとなっている。一方で,15
年前の2002
年の品目別は,原油32
億7,000
万ドル,第2
位 縫製品27
億5,200
万ドル,第3
位水産物20
億2,200
万ドル,第4
位履物18
億6,700
万ドル,第5
位米7
億2,600
万ドルとなっている。このように
2002
年と比べた場合,農林水産品や軽工業産品の輸出額が多い。しかし,電話,同部 品,コンピュータ・電子部品や機械・設備部品などの工業製品の輸出も堅調に増加しており,徐々に ではあるが工業化が進んでいると見ることもできる。特に,電話,電話部品の輸出額の増大がめざま しい。これは,韓国電子電気機器メーカーのサムソン電子は2010
年よりベトナム北部のバクニン省 で携帯電話の生産を開始し,世界各国に製品を輸出している。輸出額の増大は同社の影響が大きいと 考えられる。関連の部品製造企業の集積も見られる。また,このように外資企業の輸出への貢献が大 きくなっている。2002
年の外資企業の輸出に占める割合は,27.5
%であったが,2016
年が70.2
%と 大幅に増加している。外資を誘致して産業を育成し,輸出志向型工業政策の下で,貿易赤字から黒字 への転換や産業構造の転換がうまくいっていると言える。11 1995〜2016年までの貿易統計はベトナム税関総局による。
輸出品目に関して,政府は,自国の輸出品の高付加価値化を目指している。首相決定
2471
号によ れば,「付加価値を高めることに留意しながら,規模を拡大し,広範かつ深遠な持続可能で合理的な 成長のモデルに従って輸出を発展させる」と規定している。加えて,「工業化と近代化の方向に沿っ て合理的な方法で商品の輸出を再編し,高付加価値輸出品,高度な加工品の割合を急速に増加させる ことに集中する」と規定し現在の貿易構造を変えようとしている。具体的には,燃料・鉱物が全体比で
2010
年11.2
%から2020
年4.4
%,農林水産が2010
年21.2
% から2020
年13.5
%,工業製品が2010
年40.1
%から2020
年62.9
%,その他品目で2010
年12
%から2020
年19.2
%となっている。つまり,ベトナム政府は,国の政策として工業化を大きく推進してい こうとしていることがわかる。輸入は
2016
年で1,741
億1,100
万ドルである。品目別で見ると1
位機械・設備部品283
億7,200
万ド ル,2
位コンピュータ電子製品・同部品278
億7,400
万ドル,3
位電話機・同部品105
億6,000
万ドル,4
位織布・生地104
億8,200
万ドル,5
位鉄・鉄くず80
億1,600
万ドルである。輸入品目としては,付 加価値の高いもの,もしくは輸出品目の原材料や部品の輸入が多い。例えば,電話機・同部品は,生産 用の部品,縫製品は,織布・生地を主に中国から輸入しており,産業構造としては脆弱であることがわ かる。15
年までの2002
年を比較した場合,1
位機械・設備部品37
億9,300
万ドル,2
位石油製品20
億1,700
万ドル,第3
位繊維・皮原料17
億1,100
万ドル,4
位鉄。鉄くず13
億3,400
万ドル,5
位織布・生地
9
億9,600
万ドルとコンピュータ電子製品・同部品や電話機・同部品を除いては大きな変化はない。また,輸入額に占める外資企業の割合も
2002
年34.0
%に比べ2016
年58.7
%と輸出より増加率が低い。首相決定
2471
号によれば,輸入に関する方向性としては,輸出品に使用される原材料・燃料・副 資材の生産を進め,すそ野産業を発展させ,輸入を奨励しない商品を厳格に管理することで,輸入増 加率を極力抑えるとしている。つまり,生産に使われる材料などは現地調達できるような政策をすす めるとの方針を示している。表4. ベトナム品目別輸出入額(
2016
年ベース)(単位:100万ドル,%)
輸出(FOB) 輸入(CIF)
金額 構成比 伸び率 金額 構成比 伸び率
電話機・同部品 34,317 19.4 13.7 機械設備・同部品 28,372 16.3 2.8
縫製品 23,841 13.5 4.5 コンピュータ電子製品・同部品 27,874 16.0 20.5
コンピュータ電子製品・同部品 18,959 10.7 21.5 電話機・同部品 10,560 6.1 −0.3
履物 13,001 7.4 8.2 織布・生地 10,482 6.0 3.2
機械設備・同部品 10,144 5.7 24.2 鉄・鉄くず 8,016 4.6 7.0
水産物 7,053 4.0 7.3 プラスチック原料 6,257 3.6 5.0
木材・木製品 6,969 3.9 1.0 繊維・皮原材料 5,067 2.9 1.3 輸送機器・同部品 6,058 3.4 3.7 石油製品 4,944 2.8 −7.4
コーヒー 3,336 1.9 24.7 金属類 4,807 2.8 13.5
バッグ,スーツケース,帽子,傘 3,169 1.8 10.1 プラスチック製品 4,397 2.5 16.9 合計(その他含む) 176,632 100.0 9.0 合計(その他含む) 174,111 100.0 5.1
‒国内企業 52,703 29.8 2.3 ‒国内企業 71,825 41.3 5.0
‒外資企業 123,928 70.2 12.1 ‒外資企業 102,286 58.7 5.2 出所:ベトナム統計総局
3.4
国・地域別貿易収支を国・地域別で見ると,輸出は
1
位米国384
億6,400
万ドル,2
位中国219
億7,000
万ド ル,3
位日本107
億8,100
万ドル,4
位韓国47
億1,500
万ドル,5
位ドイツ33
億6,700
万ドル,と なっており,全体的に堅調な伸びを示している。米国とは大きな貿易黒字になっているが,最近は中 国,韓国,オランダ向けの輸出の大幅な増加が目立つ。首相決定
2471
号によれば,政府の方針として輸出する国の多様化を目指している。ベトナムから の輸出が多い市場に対しては,シェアを拡大し,新興市場に対しては開拓できるよう徐々に進めると している。具体的には,2020
年までに輸出全体でアジア46
%,ヨーロッパ20
%,米州25
%,オセ アニア4
%,アフリカ5
%とアジア,ヨーロッパ,米州で約9
割になっている。ベトナムの輸入を国別に見ると,
1
位中国499
億3,000
万ドル,2
位韓国320
億3,400
万ドル,3
位日本150
億3,400
ドル,4
位台湾112
億2,100
万ドル,5
位タイ87
億9,600
万ドルとなり,中国,韓国,日本,台湾,東南アジアからの輸入が多く貿易赤字になっている。特に,東南アジアからの輸 入は,アセアン物品貿易協定(
ATIGA
)において2015
年以降,アセアン諸国から物品を輸入する場 合,関税が0
%になる(一部品目を除く)ことから,家電製品を中心にさらに拡大するものと見られ る。首相決定2741
号において,上記にある国からの貿易赤字改善が目標になっている。表5. ベトナム国別輸出入額
(単位:100万ドル,%)
輸出(FOB)
輸入(CIF)
2016年 2016年
金額 構成比 伸び率 金額 構成比 伸び率
米国 38,464 21.8 14.9 中国 49,930 28.7 0.8
中国 21,970 12.4 28.2 韓国 32,034 18.4 16.0
日本 14,677 8.3 3.8 日本 15,034 8.6 4.6
韓国 11,419 6.5 27.8 台湾 11,221 6.4 2.1
香港 6,091 3.4 −12.5 タイ 8,796 5.1 6.2
オランダ 6,014 3.4 26.3 米国 8,708 5.0 11.7
ドイツ 5,959 3.4 4.5 マレーシア 5,114 2.9 21.7
アラブ首長国連邦 5,000 2.8 −12.2 シンガポール 4,709 2.7 −22.0
英国 4,899 2.8 5.4 インドネシア 2,971 1.7 8.3
タイ 3,693 2.1 16.3 ドイツ 2,828 1.6 −12.0
合計(その他含む) 176,632 100.0 9.0 合計(その他含む) 174,111 100.0 5.1 出所:ベトナム統計総局
4.
ベトナムのFTA
の利用について4.1
ベトナムのFTA
締結国の貿易首相決定
2471
号によれば,ベトナムが締結したFTA
で自国の商品の輸出を促進し,効果的に増加 させるために,開放されている外国の市場や輸入関税の引き下げスケジュールを十分に利用すると規 定している。ベトナムのFTA
締結国の貿易収支を2016
年ベースで見た場合,貿易収支全体は25
億2,100
万ドルの黒字となっている。その一方で,ベトナムの対FTA
締結国の貿易収支は,478
億9,800
万ドルと大幅な赤字となっている12。貿易赤字幅の大きい順として,対中国275
億2,800
万ドル,対 韓国162
億1,200
万ドル,対ASEAN 64
億2,500
万ドルとなっている。貿易黒字は,対オーストラ リア・ニュージーランド8
億2,500
万ドル,対EAEU 6
億7,800
万ドル,対チリ5
億1,500
万ドル,対日本
3
億1,600
万ドル,対インド3,200
万ドルであるが,黒字幅が小さい。FTA
貿易カバー率(当該国の全貿易総額に占めるFTA
発効相手国との貿易額の割合)で見た場合 も,ベトナムは往復貿易56.3
%・輸出44.8
%・輸入67.8
%と輸入の割合が大きい13。ASEAN
主要な 国と比較した場合,①シンガポール:78.1
%・73.7
%・80.5
%,②マレーシア:63.0
%・62.3
%・63.7
%,③タイ:60.4
%・56.1
%・65.0
%,④60.4
%・60.0
%・69.3
%となっており,ベトナムは往 復貿易と輸出で低いことがわかる。特に,輸出に関しては,ASEAN
の主要な国より大きく差をあけ られている。では,貿易赤字が大きい締約国を品目別で見た場合,対中国14は,輸出がコンピュータ・電子製品・
同部品,野菜,機械設備・同部品,原油,木材製品,輸入が機械設備・同部品,コンピュータ・電子 製品・同部品,織物・生地,鉄鋼となっている。ベトナムが最大の貿易赤字を計上している国は中国 であり,さらに拡大傾向にある。対中国の貿易赤字は特に
2007
年以降大きく拡大している。インフ ラ整備やビル建設用,また生産用に使われる機械設備・部品と鉄鋼,織布・生地の輸入が多いのが主 な要因である。首都ハノイから中国との国境が車で3
時間と近いことから,多くのベトナム行商人が 日用品の買付けを目的に中国南部の南寧や広州へ陸路国境を超え往来している。まさに中国からの輸 入品は,日常生活や経済活動に不可欠な商品となっている。輸入品目はその他にも電子・二輪部品,繊維,履物,プラスティック,果物,日用品,生産原料と多岐にわたる。コンピュータ・電子製品・
同部品のベトナムから中国への輸出が多くなっており,ベトナムに進出している韓国企業と言われて いる。
対韓国15は,輸出が電話・同部品,縫製品,電子製品・同部品,機械設備・同部品,水産品,木材・
同製品である。輸出が,パソコン・電子製品・同部品(
87
億ドル),機械設備・同部品(58
億ドル),電話・同部品(
36
億ドル),織物・生地(20
億ドル)となっている。輸入は,韓国電子メーカーで あるサムスン電子が,ベトナム北部において2011
年以降携帯電話を生産し,海外に輸出している。このため,サムスン電子の関連のサプライヤーも含めベトナムに進出が多くなっており,生産・加工 用ために輸入しているものと見られる。
対
ASEAN
16は,輸出が農産品,水産物,鉱物,縫製品,靴製品などとなっている。工業製品はワイヤーハーネス,玩具,自転車・同部品を輸出しているがごく少額である。輸入に関しては,家電製 品・同部品,機械設備・同部品,自動車部品,自動車,石油製品などと付加価値の高い品目となって いる。
12 Bộ Công Thương Việt Nam Báo cáo xuất nhập khẩu Việt Nam 2016 March 2017, pp. 213‒215.
13 ジェトロ「第Ⅱ章世界の貿易ルール形成の動向」『ジェトロ世界貿易投資報告2017年版』49‒50頁。
(https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/gtir/2017/dai1_2.pdf, 2017年9月30日)
14 Bộ Công Thương Việt Nam, op, cit., pp. 60‒61.
15 ibid., p. 64.
16 ibid., pp. 64‒65.
上記の貿易赤字は,締約国に対して,工業製品の輸出が大きくなっているものの,農産品,縫製品,
水産品,木材製品など付加価値の低い品目も依然として多くある。その一方で,工業製品や生産用の 設備・原材料・部品などの付加価値の高い品目が,それらの締約国から輸入していることがわかる。
ベトナムは積極的に
FTA
戦略を展開しているが,通商の面では今のところ大きな効果があると言え ない。表6. ベトナム
FTA/EPA
締結国の貿易収支(2016
年ベース)単位:百万ドル 輸出額 全体比 輸入額 全体比 貿易収支
1 中国 ACFTA 21,970.5 12.4% 49,498.7 28.4% (27,528.2)
2 ASEAN ATIGA(AFTA) 17,473.0 9.9% 23,897.8 13.7% (6,424.8)
3 韓国 AKFTA・VKFTA 11,418.7 6.5% 27,631.1 15.9% (16,212.4)
4 日本 AJCEP・JVEPA 14,676.7 8.3% 14,360.4 8.2% 316.3
5 インド AIFTA 2,687.9 1.5% 2,656.4 1.5% 31.5
6 オーストリア・ニュージーランド AANZFTA 3,225.4 1.8% 2,400.1 1.4% 825.3
7 チリ VCFTA 805.4 0.5% 290.5 0.2% 514.9
8 EAEU VEAEUFTA 1,616.4 0.9% 936.6 0.5% 679.8
FTA/EPA締結国総額 73,874.0 41.8% 121,671.5 69.9% (47,797.55)
全体総額 176,631.8 100.0% 174,110.9 100.0% 2,520.87
出所:越商工省(2017年3月)「ベトナム輸出入報告書2016」商工省輸出入庁,pp. 213‒215.
4.2
FTA
の利用金額と利用率に関してベトナムでの
FTA
の利用率17は,輸出のみ商工省が刊行した「ベトナム輸出入報告2016
」におい て,2016
年のみ正式に公表されているが,輸入に関しては統計がない18。同報告書によるとFTA
の利 用金額が266
億ドルで,輸出額に占める利用率が36.2
%と約3
割強となっている(2016
年10
月5
日に発効されたVEAEUFTA
は除く)。2016
年のFTA/EPA
の原産地証明書(C/O
)発給件数は,62
17 ベトナムにおける原産地証明書(C/O)の発給は,商工省輸出入庁の所管となっている。C/Oの発給は,大きく三つに分け られる。一つ目は,同庁直轄の各地区輸出入管理課である。具体的には,ハノイ,ホーチミン,ハイフォンなど全国で20ヵ 所になる。発給されるC/Oは,ベトナムが発効しているFTA/EPAの全ての協定とラオス向けC/OフォームS,カンボジア 向けC/OフォームX,靴製品のみで一般特恵関税(GSP)C/OフォームAとなっている。
二つ目は,工業団地に進出している企業を管轄している工業団地管理局(工業団地,輸出加工区,経済区)である。工業団 地管理局のC/O発給は,商工省より発給業務を委託されている。発給業務を委託されている工業団地管理局は,全国で 38ヵ所になり,うち,37ヵ所がATIGA C/OフォームD,1ヵ所がACFTA C/OフォームEのみの発給になる。
三つ目は,ベトナム商工会議所(VCCI)で,商工省からC/O発給の委託を受けており,全国で12箇所発給機関がある。
具体的には,ハノイ,ハイフォン,タインホア,ゲアン,ダナン,クイニョン,ニャチャン,ホーチミン,ビンズオン,ド ンナイ,カント,ブンタウの12ヵ所のVCCIの地方事務所となっている。C/Oの発給であるが,主に①一般特恵関税制度
(GSP)フォームA,②フォームB(輸入国において特恵関税を受けないがC/Oが必要である場合),③フォームDA59(南 アフリカ輸出でいくつかの品目で必要な場合),④フォームICO(コーヒー輸出の場合),⑤フォームベネズエラ(ベネズエ ラ向け輸出の場合),⑥フォームM(メキシコ向けの繊維製品と靴製品の場合)と6種類となる。
ベトナムで,FTA/EPAに関するC/Oを発給しているのは一つ目と二つ目となる。
18 Bộ Công Thương Việt Nam, op, cit., p. 155.
万
3,484
部と前年比の21
%増となっている。では,
FTA
の利用金額は,1
位ACFTA
(67
億9,900
万ドル),2
位ATIGA
(53
億2,100
万ドル),3
位AKFTA
(45
億6,200
万ドル),4
位AJCEP
(40
億9,700
万ドル),5
位VKFTA
(17
億9,700
万 ドル)などとなっており,輸出金額が多いと利用金額も多くなっている。また,韓国の2
協定(AKTA
とVKFTA
)2
協定と日本の2
協定(AJCEP
とJVEPA
)を足した場合,韓国(63
億5,900
万ドル)が
ACFTA
についで多く,日本(51
億6,200
ドル)がATIGA
次いで金額が多いことになる。次に輸 出 額に占め る利 用 率は,
1
位VCFTA
(63.9
%),2
位AIFTA
(43.4
%),3
位AANZFTA
(
33.7
%),4
位ACFTA
(30.9
%),5
位ATIGA
(30.5
%)などとなっている。また,韓国と日本向け の場合,韓国向け(AKFTA
とVKFTA
)が55.7
%とVCFTA
に次いで多く,日本向け(AJCEP
とJVEPA
)が35.2
%とAIFTA
に次いで多い。「ベトナム輸出入報告書
2016
」によれば,ASEAN
プラス1
のFTA
に関しては,この数年利用率の 変化がないという19。その理由として,締約国側の輸入品目においてMFN
税率(WTO
税率)が0
%などと
FTA/EPA
を利用する必要がなく,また,すでに引き下げスケジュールが完了,もしくはほぼ完了したこともある。
表7. ベトナム
FTA
利用状況単位:百万ドル
No. 協定名 C/O
フォーム
2016年
利用金額 輸出額 利用率
1 ACFTA E 6,799.2 21,970.5 30.9%
2 ATIGA(AFTA) D 5,320.7 17,473.0 30.5%
3 AKFTA AK 4,562.2 11,418.7 40.0%
4 AJCEP AJ 4,097.1 14,676.7 27.9%
5 VKFTA VK 1,796.7 11,418.7 15.7%
6 AIFTA AI 1,165.6 2,687.9 43.4%
7 AANZFTA AANZ 1,085.5 3,225.4 33.7%
8 JVEPA VJ 1,065.3 14,676.7 7.3%
9 VCFTA VC 514.5 805.4 63.9%
10 VEAEUFTA* EAV 92.6 1,616.4 5.7%
出所:越商工省(2017年3月)「ベトナム輸出入報告書2016」商工省輸出入庁
*VEAEUFTAは,2016年10月5日発効。
FTA
の利用品目は,下記の通りとなっており,農水産品と軽工業品がほとんどとなっている20。①
ACFTA
…靴製品,ゴム・同製品,縫製品,米②
ATIGA
(AFTA
)…チェー,木材・同製品,鋼鉄・同製品③
AKFTA
・VKFTA
…水産品,胡椒,コーヒー,野菜,木材・同部品,靴製品,縫製品④
AJCEP
・JVEPA
…縫製品,野菜・果物,水産品,プラスティック・同部品,靴製品⑤
AIFTA
…靴製品,木材・同製品,プラスティック・同製品19 ibid, p. 156.
20 ibid, pp. 156‒158.
⑥
AANZFTA
…木材・同製品,靴製品,電線ケーブル,縫製品,プラスティック・同製品,農産品 農水産品(HS01-24
)の利用が多い理由として,C/O
を取得するための原産地規則の要件は,生産 が一つの国のみという完全生産品(WO
)となり容易である21。一方で,工業製品となるとFTA
以外 の国から原材料と部品を輸入した場合,原産地規則は,非原産材料と見なされ付加価値基準や関税番 号変更基準などWO
と比べても様々なルールが複雑になる。例えば,自社の製品の原産地規則が付 加価値基準の場合,FTA
の締約国以外から原材料や部品を多く輸入すると要件を満たさず,C/O
の 発給を受けることができない。こうしたことから,ベトナム企業は,締約している国から原材料や部 品を調達して輸出するなどの生産ネットワークがうまく活用できてない可能性もある。また,輸出品 目の工業製品が多くなっているが,輸出する国・地域にFTA
が利用できていない,もしくは発効さ れてないことも考えられる。5.
ベトナムで期待される新しいFTA 5.1
EVFTA
に関してベトナムにとって今後期待している
FTA
として,EVFTA
とTPP
がある。2
つのFTA
への大きな 期待が発効によるEU
や米国市場への輸出を増加させることである。では具体的にTPP
とEVFTA
に何か期待しているのか考察したい。EVFTA
は2012
年6
月に交渉開始が宣言され,14
回の会合が行われてきた。同交渉では物品貿易,非関税障壁,サービス貿易,投資,知的財産,政府調達などが話し合われた。
EU
のASEAN
加盟国 とのFTA
交渉は,シンガポールとマレーシアに続いてベトナムが3
ヵ国目になる。EVFTA
が発効さ れると,ASEAN
ではシンガポールに次いで2
ヵ国目になる22。尚,マレーシアは2010
年に交渉を開 始し,2012
年までに7
回交渉している。EVFTA
に関してベトナム側は2
つの狙いがある。一つは輸出金額の拡大である。ベトナムからEU
への輸出は増加傾向で2016
年の輸出額は340
億ドル(前年比9.9
%増)と国・地域別では米国に 次いで2
番目となった(ベトナム統計総局)。特に,電話機・同部品,靴,縫製品,コーヒー,水産 品などベトナムにとって主力輸出産品が多い。また,貿易黒字額も229
億4,400
万ドル(前年比11.9
%増)と米国に次いで2
番目に大きい金額となっている。このように,ベトナムにとってEU
は 重要な輸出市場の一つと言える。2015
年12
月にEVFTA
が大筋合意し,ベトナム・EU
双方で全品 目の99
%の関税が撤廃される。ベトナム政府も「双方の輸出品目は競合しあうことがない」としてEU
への輸出拡大に期待を寄せる。もう一つは市場経済国認定である23。政府は交渉入りの際,
EU
に対してベトナムの市場経済国認定 を求めていた。市場経済国に認定されない場合,アンチダンピング(AD
)手続きにおいてベトナム 側に不利となるためだ。例えば,EU
はベトナムの革靴製品に対して,2006
年10
月から10
%のAD
関税を適用していた(同措置は2011
年4
月に撤廃)が,こうした措置が適用された場合,EVFTA
が発効されたとしてもEU
側で低い関税率が享受できず,輸出に影響する可能性もある。21 ibid, p. 155.
22 佐藤 進「EU・ベトナムFTAの交渉終了,2018年初めの発効目指す」『ジェトロ通商弘報』2015年12月25日。
23 佐藤 進「EUとのFTA交渉大筋合意で輸出拡大に期待高まる」『ジェトロ通商弘報』2015年8月9日。
5.2
TPP
に関して5.2.1
TPP
の交渉過程TPP
24は,シンガポール,ニュージーランド,ブルネイ,チリ,米国,オーストラリア,ペルー,ベトナム,マレーシア,カナダ,メキシコ,日本の
12
ヵ国が交渉に参加している。TPP
交渉参加12
ヵ国の経済規模は3,100
兆円で,世界全体の4
割を占め,市場規模は8
億人(人口の合計)で世界 全体の1
割を占める。TPP
は,もともと2006
年にAPEC
加盟国のシンガポール,ニュージーランド,チリ,ブルネイの4
ヵ国(通称P4
)が貿易自由化を目指すための協定であった。しかし,2008
年には米国がTPP
に全 面的に交渉参加することを決定し,2010
年3
月には8
カ国(シンガポール,ニュージーランド,チリ,ブルネイ,米国,オーストラリア,ペルー,ベトナム)が政府間交渉を開始し,
10
月にはマレーシア,2012
年11
月にメキシコ,カナダ,2013
年7
月に日本が交渉に正式参加している。2015
年10
月に 米国アトランタでのTPP
貿易大臣会合で大筋合意し,2016
年2
月のニュージーランドで正式署名し ている。TPP
の交渉は21
分野で,協定書は30
章と幅広い。また,同時に関税率の撤廃も,日本以外のTPP
参加11
ヵ国は,即時撤廃率が品目数ベースで86.9
%,貿易額ベースで76.6
%,関税撤廃が関税 撤廃率で品目数ベース99.9
%,貿易額ベースで99.9
%となる。また,日本側は,即時撤廃率が品目 数ベースで95.3
%,貿易額ベースで99.1
%,関税撤廃率の品目数ベースが100
%,貿易額ベースで100
%と原則100
%撤廃することになる。つまり,TPP
は,ベトナムがこれまで発効したFTA
と違い 高度になっている。5.3
TPP
によるメリットEVFTA
とTPP
の中でも,TPP
に関して,注目が高く,また,TPP
参加国の中でも米国との貿易 が重要であると考えている。その背景には,米国とは,輸出が384
億6,400
万ドル(同14.9
%増),貿易収支が
297
億5,600
万ドル(同15.9
%増)と黒字と国・地域別で最大であることが挙げられ る25。また,今まで締結しているFTA
の中でも貿易黒字幅が大きいことから更なる輸出の増加と経済 発展が見込まれる。米国向け輸出が拡大したのは米越通商協定(
BTA: the US
‒Vietnam Bilateral Trade Agreement
)の 締結以降である26。同協定は,1995
年に国交正常化した両国が,経済面でも通常の通商関係を築いて いくために締結された協定である。1998
年にAPEC
に加盟し,翌1999
年よりBTA
の交渉が開始さ れ,クリントン元米国大統領,ファン・ヴァン・カイ元首相により,2000
年に調印(2001
年発効)された。いままでベトナムは,敵対国ということで米国側から高い関税を課せられていたが,同協定 により通常貿易関係(
NTR
)を供与され,ベトナム製品に対する米国の輸入関税が大幅に引き下げ られた。BTA
により世界最大規模の米国市場で諸外国と対等な条件で競争できることになった。特24 経 済 産 業 省『TPPに つ い て』2016年2月,2‒6頁(http://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade/downloadfiles/
tpp/1606tppnitsuite_koshin.pdf, 2016年2月)。
25 ベトナム税関総局 2016年12月統計。
26 2016年4月30日ハノイにて,著者がボー・チ・タイン前中央管理経済研究所副所長へのインタビュー。