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能登半島における祭のスポーツ人類学的研究

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Academic year: 2022

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早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学)

概要書

身体運動文化としての「山・鉾・屋台行事」:

能登半島における祭のスポーツ人類学的研究

"Yama, Hoko, Yatai,"float festivals as physical arts:

Sports anthropological study of festival in Noto Peninsula

2018 年1月

早稲田大学大学院スポーツ科学研究科 大森 重宜

Shigenori Ohmori

研究指導教員:作野誠一 教授

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身体運動文化としての「山・鉾・屋台行事」

能登半島における祭のスポーツ人類学的研究

早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科 大森重宜 研究指導員 作野誠一 教授

【問題の所在と研究の目的】

2016年、ユネスコ無形文化遺産に登録さ れた「山・鉾・屋台行事」の「青柏祭の曳山 行事:でか山」、2015年、日本遺産に認定さ れた「キリコ祭り」などの祭りを身体運動文 化(Physical Arts)と捉え、その神聖性、

遊戯性また身体性を明らかとすることを目 的とする。身体運動文化とは、スポーツ、武 道、舞踊、芸能、祭りなど人々にとって精神 的拠りどころ、また古代から生活に密着し てきた身体、身体技能の文化を指すもので ある。日本には日常と非日常の二つの身体 の方法が結合した文化の伝統が受け継がれ てきた。日常の身体は労働(ケ)の身体であ り、非日常の身体は祭り(ハレ)の身体であ る。祭りにおける身体は日常の身体に立脚 した鍛練・稽古の継続が必要であり、独自の 修練方法、身体技法が習得され表現されて きた。そしてその身体には民族的独自の心 性が宿ると考えることができよう。祭りを スポーツ人類学の視点から研究する意義は この身体性にあると考える。山・鉾・屋台行 事は、祭の祭神が神輿で渡御するのに対し、

祭りに去来する神々が山・鉾・屋台を神の依 代とする移動式神座である。能登半島でこ の依代が華美化、巨大化する過程、曳行技 法、身体技法を経年的にフィールドワーク、

文献調査、聞き取り、質問紙などにより調査 分析した。

【各章の概要】

《第1章》

山・鉾・屋台行事の起源と折口信夫の「依 代論」から能登半島への伝播と変化につい て検討した。特に京都祇園祭で風流(ふりゅ う)の中の作り物が山・鉾・桙に変化し、車 輪の付いた大型の鉾の原型であると考えら れ、笠鉾はいわゆる山車という趣向を凝ら す造形物へと変化する。そして祇園祭の山 鉾、青柏祭のでか山に伝播して華美化、日本 最大へと巨大化する。能登の山車は、青柏祭 の「作り山」、石崎奉燈の「キリコ」、お熊甲 祭の「枠旗」がその代表的ものである。作り 山はでか山その象徴的なものであるが、片 面のみが見せ場の舞台であることが特徴的 である。キリコはこの能登の山車祭が独自 に伝播、発展したものである。枠旗は鉾の典 型的な作りであり、その頂上には笠型がつ く巨大笠鉾である。また、ユネスコ無形文化 遺産、日本遺産の内容と記載、登録について 記し検討した。

《第2章》

「青柏祭の曳山行事」の縁起、神事、青柏 祭の伝説、曳行技法を記述し、民族誌とし た。特に青柏祭の祝詞および曳山行事の祝 詞を解釈することによりこの祭りの本質を 分析した。また、日本最大の山車に変化した 理由と曳行技法について調査し、特に梃子 衆と木遣り衆の内容の詳細を検討してその 専門性の高さを示した。更に祭りの組織と その変遷について調査分析し、歴史、社会的

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背景を検討することにより青柏祭の曳山行 事の神聖性と遊戯性、身体性に言及した。

《第3章》

キリコ祭りの起源と分布、概観、歴史、起 源、構造、神事、祝詞、内容、特性等につい て調査して能登の民族的身体運動文化「キ リコ祭り」の民族誌とした。「あばれ祭り」、

「七尾祇園祭」、「石崎奉燈祭」、「能登島向 田の火祭り」、「堀松綱引き祭り」を事例とし た。キリコは、神々を導く標、神輿を照らす 松明、行燈、大提灯としての目的と機能を持 つ。しかしその形態的構造(御幣、榊の設置)

から依代としての役割を持つモノである。

人々は神事としてのキリコを意識すること なく、祭りの形式から神は神輿で渡御し、キ リコは神輿の神々を照らし、その威勢を披 露する「神人公交会」により神威を高めるた めの装置として捉えられている。本来、風流 としての性格を持ち、キリコ担ぎを中断・消 滅させることに躊躇がない場合も多い。キ リコ担ぎ以外の祭りの本質的諸行事(神輿 のあばれ、巨大松明の火炎、綱引き等)が重 要視される。またキリコ祭りの祝詞を解釈 し、キリコと神事の関係を考察した。

《第4章》

能登半島の祭りの象徴的行事は、作り山

(でか山)、キリコである。その特徴は、巨 大な山鉾(作り山、キリコ)を担ぎ、舁き、

曳行することで神々を移動、運搬する身体 運動文化にある。このでか山、キリコ祭に対 してお熊甲祭の枠旗祭を調査、比較した。枠 旗祭は、枠旗の島田くずしなどの独特の専 門技法が用いられる。しかし広く行なわれ てきた枠旗祭のほとんどは、昭和の初期に 忽然と姿を消すが、理由は明確ではない。

能登の人々は労働、余暇ともに生活の背

景に身体活動が盛んに行われてきた歴史が ある。勤労を尊び、各自競技的に労役に耐え ることを誇りとし、115時間もの勤労を 競い合う風土があった。寄合い相撲、俵・大 石の番持ちが行われ人々は嬉々としてこれ に参加した。この労働、遊びの風土により培 われた強靭な身体は、ハレの祭りで巨大な 祭具(山車、キリコ、旗竿等)を担ぎ出す。

また、能登には労働の互酬「結:エー」があ り、祭りにもこの制度は対応して祭りを盛 り上げる。更に、手伝いを含めたボランティ アアソシエーションが祭礼文化圏の構築に 及ぼす影響について検討した。

《結章》

能登の祭りは少子高齢化、過疎化により 急激に変容している。本論文では、日常のケ の労働により作られた身体により非日常の 祭りが行われてきたことに着目した。「祭り

(ハレ)の身体」を失いつつある現代人は、

身体運動文化としての祭りへの適応が困難 となり、神輿やキリコが担ぐ身体を失う。そ して祭りを楽しみと捉えられなくなりつつ あると推察される。今後の研究課題の一つ はこの「失われた祭りの身体」にある。社会 的・文化的につくられる身体がその心性に 影響を及ぼすならば、失われた祭りの身体 の心性が如何に変化するのかについての検 討、分析が必要となろう。

また、限界集落における不活宗教法人の 増加は、地域のシンボル、季節の記憶として の祭りの縮小と集落の消滅を意味する。そ の現状を追跡記録することが今後の課題と して残されるが、風流を維持する祭りも多 数存在し、この状況調査を継続することは 究極的限界集落化の対応、地方創生のため の基礎データとすることが期待できる。

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