論 文 要 約
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 成 に 関 す る 研 究
1 研 究 の 目 的 2 研 究 の 方 法 3 研 究 の 意 義 4 論 文 の 構 成 5 各 章 の 概 要 6 参 考 文 献
福 岡 教 育 大 学
山 元 悦 子
1 研 究 の 目 的
本研究の目的は,言語コミュニケーション能力育成のあり方を追究することにある。本研究では,言語コミュニケ ーション能力を以下のように定義している。
言語を介した他者との協同活動の中で,何かを共有・確認していったり,新しい考えを産み出したりする 行為ができる能力
この能力を育成するために,次のように分割した目的を設定し,段階的に研究を進めていく。まず,言語コミュニ ケーション能力の発達調査によって発達過程を明らかにし,言語コミュニケーション能力の発達モデルを作成する。
これは,言語コミュニケーション能力を育成する上での基点となる枠組を構築するためである。次に,その枠組に依 拠した実践を開発し,効果を検証する。これは,言語コミュニケーション能力を育成するカリキュラムおよび指導の ありかたを実践の姿で明らかにするためである。さらに,言語コミュニケーション能力を評価する指標を設定する。
これは,言語コミュニケーション能力の育ちを見取る確かな指針を創案し教育現場に資する研究を目指すためである。
2 研 究 の 方 法
本研究では,上に掲げた目的に沿って,次のような3つのアプローチをとる。
1つ目は,アンケート調査・実験的調査という手法をとる実証的アプローチ。これは,本研究で定義した言語コミ ュニケーション能力とその伸長過程を捉える枠組の信頼性・妥当性を担保するためである。
2つ目は,実際の教室を継続的に参与観察することによって,教室コミュニケーションの実態を考察する臨床的ア プローチ。これは,教室社会のコミュニケーション文化がどのように成熟していき,そこで必要なコミュニケーショ ンスキルが教師の働きかけ等によってどう習得されていくかを明らかにするためのアプローチである。
3つ目は,研究実践を実施し,その効果を検証していく実践的アプローチ。これは,国語教育実践に資する研究とな るために,教育現場への適用を視野に入れ,研究が具体的提案に帰着することを念頭に置いているためである。
このように,本研究は,実験的な調査を根拠にする実証性,また,臨床的観察による事象を基点として一般化を図 る典型性,さらに,研究実践を試行して効果を検証するという実践適用性を担保しながら,段階的に進めていく。
3 研 究 の 意 義
平成20年版学習指導要領(国語)によって,国語教育の内容領域が,話すこと聞くこと・読むこと・書くこと・
伝統的な言語文化と国語の特質とされ,話すこと聞くことは,話し合うことも含め,読むこと書くことと分離独 立した言語活動として規定された。しかし,言語能力をこれらの言語活動によって規定し,それぞれの能力を要 素分割して指導しても,トータルとしての言語コミュニケーション能力が育つわけでもない。コミュニケーショ ンは状況の中での他者とのやりとりであり,状況を配慮してどういう言語行為をするかを判断するというような トータルな意思決定の力が,分割的な捉えでは漏れ落ちてしまう。このような現状を,コミュニケーション能力と いう概念で統括し,それによって国語教育を照射することは,新たな基軸を提供する可能性を拓くのではなかろうか。
このような考えに立ち,言語コミュニケーションという枠組を設けて話す聞く音声言語指導を捉えることで,学習 指導要領において話す聞く話し合うというように分割的に設定された枠組を,トータルな目的的行為として統合する ことができると考えた。
本研究のアプローチの特長は,言語コミュニケーション能力の育成の道筋を幼児・児童の発達の実態調査から実証的 に立ち上げていること,また,国語教育は実践学であるという思いから,研究の目指すところを教育実践に資する実
践開発・評価指標開発に置いており,実践現場への提案性を重んじていることにある。
総じていえば,本研究の意義は,発達調査によって言語コミュニケーション能力の発達モデルを立ち上げていく実 証性と,発達モデルに基づいた実践および評価指標の開発という実践志向性にある。教育現場を導く確かな枠組と方 向性を与える理論を構築し,その理論を具体的な実践に具現化して提示しようとしている点に本研究の意義がある。
4 論 文 の 構 成
序章 本研究の意義・目的・方法 第1節 コミュニケーション研究の動向 第2節 本研究の意義
第3節 本研究の目的と方法
第1章 言語コミュニケーション能力の考究 第1節 言語コミュニケーション能力の定義 第2節 言語コミュニケーション能力の発達 第2章 言語コミュニケーション能力の発達調査
第1節 幼稚園年長児(5歳児)を対象とした調査Ⅰ
-絵本『はなのみち』をめぐる発話の調査-
第2節 幼稚園年長児(5歳児)を対象とした調査Ⅱ
-絵本『ハリスバーディックの謎』をめぐる発話の調査-
第3節 小学1年生を対象とした調査
-絵本『じいじのさくら山』をめぐる5歳児の発話との比較調査-
第4節 小学2・3・4・5年生を対象とした「課題追究型話し合い」の調査 第5節 発達調査の成果
第3章 発達モデルに基づいた言語コミュニケーション能力を育てる実践開発 第1節 幼稚園年長児(5歳児)の保育実践-絵本の読み聞かせとお話遊び-
第2節 小学校入門期の実践
第3節 小学校低学年の実践-2年生-
第4節 小学校中学年の実践-4年生-
第5節 小学校高学年の実践-6年生-
第6節 中学校の実践-中学3年生-
第 7 節 実践からの知見をふまえた発達モデルの検証および指導の指針 第4章 言語コミュニケーション能力の評価
第1節 言語コミュニケーション能力の特性から導出した評価の枠組 第2節 評価の枠組の有効性-第1次アンケート調査結果の分析-
第3節 アンケート調査に基づいた評価指標の開発
第4節 評価指標の有効性と課題-第2次アンケート調査結果の分析-
第5節 言語コミュニケーション能力の評価指標開発の成果と課題 結章 言語コミュニケーション能力の育成に関する研究の成果と展望
第1節 言語コミュニケーション能力の育成に関する研究の成果 第2節 言語コミュニケーション能力の育成に関する研究の展望 引用・参考文献
(1)高橋俊三編(1999)『音声言語指導大辞典』(明治図書)に音声言語指導の能力表が諸論考を参考にしなが ら整理されている。明治図書,P22
5 各 章 の 概 要
第 1 章 言語コミュニケーション能力の考究
第 1 章 で は , 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 定 義 を 述 べ , そ の 発 達 を ど の よ う な 視 点 か ら 捉 え る か に つ い て 述 べ て い る 。
・言語コミュニケーション能力の定義
言語コミュニケーション能力をいかなるものとして規定するかは,研究を進める上での根本的な土台となる。
本研究では,言語コミュニケーション能力の特性を以下の4点から考察している。
( 1 ) 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 中 核 に は 他 者 へ の 共 感 が 必 要 で あ り , そ れ は 共 同 体 の 中 で 他 者 と 情 動 的 一 体 感 を 持 つ こ と に よ っ て , よ り 育 っ て い く 。
( 2 ) 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 内 実 は 自 己 と 他 者 の 関 係 性 の 問 題 と し て 捉 え ら れ る 。
( 3 ) 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は , 主 体 が 所 属 し て い る 共 同 体 の 有 す る 社 会 的 ふ る ま い や 社 会 文 化 の 内 化 し た も の と し て 蓄 え ら れ , 共 同 体 の 成 熟 と 共 に 成 熟 し て い く 。
( 4 ) 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は , 地 球 規 模 の 共 同 体 社 会 の 意 識 を 持 っ た 市 民 性 の 獲 得 に 帰 着 す る 能 力 で あ る 。
こ の よ う な 特 性 を 持 っ た も の が , 本 研 究 で 目 指 す 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 で あ り , こ れ を ふ ま え て 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 以 下 の よ う に 定 義 し た 。
言語を介した他者との協同活動の中で,何かを共有・確認していったり,新しい考えを産み出したりする行為がで きる能力
・言語コミュニケーション能力の発達
言語 コ ミュ ニ ケー シ ョ ン能 力 の発 達 をい か に捉 え てい く か。 国語教育界において,話す聞く能力の発達は,
昭和 26 年小学校学習指導要領国語科編(試案)の「国語能力表」を出発点に,主として個体内機能を要素に分割項 目化し,それを段階的に積み上げて表されてきた。(1)つまり,能力を個体内にあるものとして発達を描く見方で ある。しかし,言語コミュニケーション能力は,状況の中で他者とのやりとりという現実の行為として個体間の 関係の中で発揮される能力である。そこで,本研究では,個体内の認知的要因と共に,個体内の思考過程と個体 間の思考の共創過程との往還的な相互作用過程としてコミュニケーション行為の本質を捉え,発達を描いていく。
また,言語コミュニケーション能力は,社会文化によって規定され,生得的な個体の機能発達を伴いながら,
学校や教室環境の中で他者(とりわけ教師)からの働きかけによって後成的に成熟していく能力であると考える。
そこで本研究では,教室という学習共同体のコミュニケーション行為を対象とし,そこで育まれていく教室社会 の文化様式も視野に入れて発達を捉えることとする。
このように,本研究では,学習指導要領に示された分割的な能力観を,言語コミュニケーション能力の観点か ら再構築し,その発達を教室という共同体におけるコミュニケーション文化形成,個体間の関係性の変容,個体 内の認知的成熟という3つの要因の相補的連関として捉えていく。
(2) こ の モ デ ル は , 科 研 共 同 研 究 の 協 議 の 成 果 を 出 発 点 に し て 作 成 し た も の で あ る 。
第2章 言語コミュニケーション能力の発達調査
第2章では,言語コミュニケーション能力の発達調査の結果を示し,その成果を言語コミュニケーション能力の 発達モデルとしてまとめた。(2) 本調査では,自己と他者の関係の伸長を軸に発達を見ようとしているため,小 集団における児童のやりとりに注目することにした。
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 の 内 実 を 明 ら か に す る た め に 行 っ た4つ の 調 査 の う ち ,こ こ で は , 調 査 4 に つ い て 概 略 す る 。
調 査 1 幼 稚 園 年 長 児 (5歳 児 )を 対 象 と し た 調 査 Ⅰ / 調 査 2 幼 稚 園 年 長 児 (5歳 児 )を 対 象 と し た 調 査 Ⅱ 調 査 3 幼 稚 園 年 長 児 (5歳 児 )と 小 学 1 年 生 の 比 較 調 査 / 調 査 4 小 学 2 ・ 3 ・ 4 ・ 5 年 生 を 対 象 と し た 「 課 題 追 究 型 話 し 合 い 」 の 調 査
・調査4 小学2・3・4・5年生を対象とした「課題追究型話し合い」の調査
調査目的と方法
この調査は,課題解決のために小グループ(4.5 人)で話し合う活動において,児童の発話がどのような質 と展開を見せるかについて学年の差異を捉えることを目的としている。
調 査 の 内 容 と手 続 き は ,4.5 人 の小 グ ル ー プ で , こ と わ ざ ・慣 用 句( あ ぶ はち 取 らず ・魚心 あ れば 水 心な ど ) の 意 味 用 法を 暗 示 し て い る 4 コ マ 漫 画を 見 て , 漫 画 の 内 容 か らこ と わ ざ ・慣 用 句の 意 味を 考 える 話 し合 いを 10分間行ったた。発話分析は,マーサ(Neil Mercer)(1996)が提唱した会話の3類型の出現状況と,
山 元 が 作 成 し た発 話 コ ー デ ィ ン グ カ テ ゴ リー を 用 い て 発 話 を ラ ベ リン グ す る 方法 で 行っ た 。こ の 発話 コ ーデ ィングカテゴリーは,「主張」「累積的会話」「探索的会話」「話し合いについてのメタ意識が見られ得る発話」
によって構成されており,それぞれいくつかの下位項目を設け,さらに詳細に発話の機能を捉えた。
調査対象
北九州市の公立小学校の2年(30名)・3年(33名)・4年(33名)・5年(32名)である。担任は同じ人物であ り , ど の 学 年 も同 一 のコ ミ ュ ニケ ー ショ ン 指導 観 に基 づ いて 指 導を 積 み上 げ てい る 。各 学 年と も 1 学期 と 2
・3学期に調査を行った。
調査結果
分析の結果を各学年に見られる発話の特徴として指摘し,各学年に見られる特徴を縦断的に考察した。
2年生5月の調査では,不十分な累積的会話が1例見られたのみで,「話し合う」とは何をすることかを理解 していない状況であった。その後の教師の意識的・継続的な指導により,12 月調査では累積的会話の数は増 加 し,協 同性 が育 ち,「協応」のやりとりが現れて,「出し合ってまとめる」タイプの話し合い展開が見られるよ うになる。しかしその展開は,各自の意見を足し合ったものや,ひとりの意見を代表とするという単純なものが 大半を占めている。
3年生では,お互いの意見を位置付け整理する発話が現れ,2 年生の足し算的な累積的会話が,協応をベー
スにした,より質の高い累積的会話に発展する。
4年生では,出された意見を整理したり,新たな視点を場に提供する事例が増え,他者の発言についての言 及 も 増 加 す る 。疑 問 を 話 し 合 い の 場 に 出 して 考 え 合 う 事 例 も 見 ら れ, 話 し 合 いが 協 同的 探 索の 様 相を 帯 びて くる。
5年生では,累積的会話が中心であり,探索的な展開を見せる会話は少ない。しかし,探索的な会話カテゴ リーである「新たな視点の提供」発話は 4 年時よりさらに増加し,別の例になぞらえて表現したり,反対の 視 点 か ら 考 え よう と し た り , 他 者 の 考 え を引 き 受 け て 話 題 を 展 開 した り す る 「検 討 」の や り取 り が部 分 的に 散見してくる。この調査の結果は,同一の教師による指導の成果として現れたものである。3・4 年生は持ち
上 が り 児 童 で ある た め , 一 貫 し た 方 針 で 行わ れ た 継 続 的 働 きか け の 結果 と 考え ら れる が ,5 年 生 の調 査 は新 し い 児 童 を 引 き受 け て 一 ヶ 月 あ ま り の 時 期の 調 査 で あ っ た 。 そ の ため , 当 該 学級 に おい て 他者 と の関 係 の形 成が弱いという要因が調査結果に反映している可能性がある。
・発達調査の成果
発達調査の知見を元に,言語コミュニケーション能力の発達モデルを作成した。
本研究では,言語コミュニケーション能力は,所属する共同体文化によって育てられ,個体の認知活動との相互作用に よって発達し,学校・学級環境の中で熟達者からの働きかけによって後成的に個体に形成されていく能力であるという 立場を取り,そこから,言語コミュニケーション能力を3つの側面によって捉えてきた。(3頁参照) このうち1・2の 側面を表したモデルが図1である。3の社会文化的側面に関しては,「学校社会におけるコミュニケーション構造モデ ル」(図2)を作成し,教室という社会におけるコミュニケーション文化の質を構造的に捉え,その層的関係を位置づけ る枠組を作成した。これらのモデルを発達調査の成果とし,研究実践の理論的枠組とした。
図 1 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル
他 者 の 他 者 と 他 者 ・ 自 己 と
場 へ 参 加 する 取 り 込 み 累積的関係をもつ 分 離 的 関 係を も つ
低学年
中 学 年自己関与 自己意識の立ち上がり
入門期 低学年
協 同 的 態 度 他者・・自己・状況と
論 理 的 関 係 を 持 つ
社会(学校社会)や教師からの働きかけ メ タ レ ベ ル の 認 知 が 発 達 し ,
諸 視 点 を 持 ち 得 , 同 時 に 配 慮 で き る よ う に な り , 諸 要 素 を 組 織
化 構 造 化 し て 把 握 す る 図 2 学 校 社 会 に お け る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 構 造 モ デ ル
高学年・中学校
Ⅲ コミュニケーションの認知的側面
D 累積的コミュニケーション E 探索的コミュニケーション
(どんどん・つなぐ) (じっくり・まとめる)
拡散的・連鎖的 説明 調整
出し合う 相互啓発 問題解決
思考を深める話し合い 合意形成のための話し合い
共感的共同思考 批判的共同思考
Ⅱ コミュニケーションの情意的側面
C共感的コミュニケーション 関係性・協同性の形成
Ⅰ コミュニケーションの社会文化的側面
B教室コミュニケーション文化(学習規律・公的な言葉のやりとりのきまりごと等)
A 日本社会のコミュニケーション文化(挨拶や敬語を大切にする文化等)
(3) 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン と は , 澤 本 和 子 が 開 発 し , 「授 業 研 究 か ら 見 た 国 語 科 教 師 の 専 門 的 力 量 形 成 - 国 語 科 教 育 の 現 代 的 課 題 と 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン 研 究 に よ る 実 践 知 形 成 - 」(『 国 語 科 教 育 』 第 58 集 , 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 ,2005) に 報 告 さ れ て い る 手 法 を 指 す 。
第 3 章 発達モデルに基づいた言語コミュニケーション能力を育てる実践開発
第3章では,言語コミュニケーション能力の発達モデルから導出した指導方針と,当該児童の発達状 況の実態調査によって指導課題を定めて実施した研究実践を提案し,結果を分析している。これらの実 践は,幼稚園年長児の保育実践を除き,およそ1年間にわたって行ったものである。
論文の要旨では,このうち,小学1年生入門期の実践を略述し,小学校中学年,中学 3 年実践から得られ た知見に絞って提示する。
・小学1年生入門期の実践
実践の ねら い- 発達モ デル に即 して-
言語コミュニケーション発達モデルでは,小学1年生入門期の発達課題を,「場への参加」に置いている。入門 期は保育園幼稚園から学校へ入学し,児童を取りまく言語コミュニケーション文化が一新される時期である。そ こで,入門期の実践のねらいを,1場へ参加する意識を持たせるために場への安心感を持たせること,2自己意 識を高めること,3他者受容意識を高めること,4協同的態度を形成するために仲間意識を持たせることの4点と し,実践を行った。
実 施 対 象 :北九州市の附属小倉小学校1年生児童24名。平成25年(2013年4月~7月)
この実践は附属小倉小学校松中保明教諭(当時)との共同研究である。
検 証 方 法 - 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン(3)と 児 童 発 話 に よ る 検 証 -
検 証 方 法 と し て ,2 種 の 方 法 を と っ た 。 ひ と つ は 授 業 者 と 観 察 者 に よ る 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン (内 省 的 省 察 )を 行 い , 聞 く こ と 話 す こ と に 関 す る ど の よ う な 学 び が 生 ま れ た か を 取 り 出 し て い く 。2 つ 目 は 児 童 発 言 , 班 で の 話 し 合 い の 発 話 記 録 お よ び 児 童 の 書 い た も の を 資 料 に 学 習 の 成 果 を 分 析 し た 。
考 察 資 料 は ,4月 23日 か ら7月19日 に か け て , 週 一 回 程 度 朝 の 会 か ら 帰 り の 会 ま で を 撮 影 し た 映 像 ・ 音 声 記 録 ( 班 の 話 し 合 い 状 況 等 )・ フ ィ ー ル ド ノ ー ト ・ 児 童 の ノ ー ト と 作 成 物 で あ る 。
実 践 の 概 要 目 標
① 場 へ 参 加 す る 意 識 を 持 た せ る た め に 場 へ の 安 心 感 を 持 た せ る 。 (自 己 関 与 )
② 自 己 意 識 を 立 ち 上 げ る た め , 相 手 の 話 を 聞 い て 自 分 な ら ど う す る と 考 え た り , わ か ら な い と い う 意 思 表 示 を 大 事 に 扱 い , わ か ろ う と し て 相 手 の 話 を 能 動 的 に 聞 く こ と を 促 す 。 (自 己 関 与 ・ 自 己 表 出 )
③ 他 者 受 容 意 識 を 高 め 累 積 的 思 考 を 促 す た め に 自 他 の 関 係 を 強 め る 活 動 ,繋 い で 話 す こ と を 重 視 す る 。 (他 者 受 容 )
④ 協 同 的 態 度 を 形 成 す る た め に , 仲 間 意 識 を 持 た せ る 。 (協 同 性 の 育 成 ) 内 容
学 校 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 に 馴 染 ま せ る 指 導 は , 国 語 科 の 学 習 の み な ら ず , 生 活 全 般 に わ た る 機 会 を 活 か し て 相 補 的 に 行 わ れ て い く こ と が 必 要 に な る 。 そ こ で , 実 践 を 構 想 す る に あ た り , 生 活 と 国 語 学 習 の 相 互 補 完 的 関 係 を 意 識 し な が ら , 適 時 性 の あ る 学 習 を 取 り 立 て 学 習 と し て 位 置 づ け た 。
学習名 ・聞くこと話すことに関する学習内容
●見いだされた指導のポイントと指導指針
①お話遊び「いちねんせ ・友達と話し合って物事を決めるという体験をする。
いになったら」5/1
②お話遊び「しりとりの ・先生と1対1で自分の考えを聞いてもらうことの満足感,自己表出の喜びを味わう。
だいすきなおうさま」5/8
③心の糸をつなぐお話会 ・友達に話したり,聞いたりすることは楽しいことだと実感する。
5/29 ●糸という具体物で言葉のやりとりの繋がりを可視化することが有効であった。
④本とともだちになろう ・1対1で進んで話したり,興味を持って聞いたりすることができる。
6/5-6/11 ●聞き手の反応を促すような言葉,聞き手に働きかける言葉が話し手から自然に出てくる活動 を考案し,その時使う実際の言葉を教えることが必要である。
⑤お話遊び「あいうえお ・四人班で,相手の案を念頭に置きながらそれと繋いで自分の案を作る。
うさま」6/12
⑥お話遊び「おおきなか ・聞き合う話し合いを体験する。
ぶはなぜおもしろいか」 ●わかろうとする心,友達の考えを聞いてみたいと思う気持ちをまず持たせ,聞くときの反応
6/28 を表す態度や,具体的な問いかけの言葉を教えることが必要である。
⑦サイコロトーク 7/1 ・繋いで話す意識を持ち,繋いで話す時の話しだしの言葉を使えるようにする。
⑧作ったものを話します ・想像したことを様子や形を表す言葉を使って順序立てて表現することができる。
7/3-7/10 ・相手の話を興味を持って聞いて感想を伝える。伝えられた側は感想の内容を受けて自分の話 す内容を考え出して話す。
●話す内容ではなく話し方に意識を向けることができるのはまだ数名であることが明らかにな った。
⑨ことわざの意味を班で (小集団の話し合いに関して)・役割を決めて話し合う。二つの意見を聞き比べ,自分の考えを 考えよう 7/10 作る,能動的に聞く姿勢を育てる。
●話し合う力をチーム力(問題を見いだし,分担し合い,共同探究していく力)として捉え,
育てる必要性を感じた。
⑩民話の題をあてよう (小集団の話し合いに関して)・役割がはっきりしていて,何をしていいかがわかり,お互いに
7/12 貢献しあって物事が進んでいく快さを体験する。
⑪「お」と「を」の使い ・役割を意識し,手分けして活動できるようにする。
分けを考えよう 7/18 ●自由な発言が行き交う場づくりと,わからないことに不安を感じない学級集団に育て,尋ね 合える仲間意識を育てていくことが聞く話すことの指導をする上で大切である。
・小学1年入門期実践から得られた知見
( 1 ) 学 級 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 の 形 成 に 関 し て
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 を 形 成 す る た め に 働 き か け た 経 過 の 中 か ら 指 摘 で き る , 入 門 期 の 学 級 集 団 の 特 性 は , 以 下 の よ う な も の で あ る 。
< 集 団 波 及 効 果 が み ら れ る > < 集 団 同 調 作 用 が み ら れ る > < 情 動 的 一 体 感 が 形 成 さ れ や す い >
< 生 活 文 脈 か ら 離 れ た り , 具 体 的 状 況 を 離 れ て 語 る こ と に 未 熟 で , 言 葉 だ け の や り と り に つ い て い く こ と に 慣 れ て い な い た め , 集 団 で の 共 同 思 考 の 場 に 入 っ て い け な い 児 童 が 少 な か ら ず 見 ら れ る >
( 2 ) 言 葉 の 質 的 転 換 を は か り , 個 人 の 認 知 思 考 を 司 る 言 葉 の 獲 得 を う な が す
( 3 ) 個 人 の 特 性 を 活 か し て 学 級 集 団 を 育 て る
こ の 実 践 に お い て , 学 級 集 団 で 学 習 し て い く 中 で , 次 の よ う な 役 割 を 担 う 児 童 が 現 れ た 。
・フ ロア ー ア ド バ イ ザ ー :自 分 の 席 に 座 っ た ま ま で 周 囲 の 児 童 に 今 な す べ き こ と に つ い て 声 を か け , 働 き か け る 児 童 で あ る 。
・先 駆 的 発 言 者 :集 団 で 共 同 思 考 を 進 め る 際 に 新 た な 考 え を 展 開 で き る 児 童 。 教 師 の 発 言 を 受 け て 考 え を 展 開 さ せ , 続 き を 発 言 す る 児 童 で あ る 。 こ の よ う な 児 童 の 発 言 は , 集 団 に よ る 学 び 合 い を 作 っ て い く 上 で キ ー ポ イ ン ト と な る 。 こ れ ら の 発 言 を 他 の 児 童 へ と 繋 い で い く こ と が 肝 要 で あ る 。
( 4 ) 場 ( 空 間 配 置 ) の 設 定 を 工 夫 す る
こ の 実 践 を 通 し て , 聞 く 話 す 活 動 を 行 う た め に は 場 の 設 定 ( 空 間 配 置 ) が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 例 え ば , お 互 い の 距 離 の 近 さ (4 人 で 輪 に な っ て 座 る 等 ) が 子 ど も た ち 同 士 の 関 わ る 言 葉 を 生 ん だ 。 教 師 の い る 位 置 を 児 童 の 側 に し , 児 童 椅 子 に 座 っ て 寄 り 添 い な が ら 引 く こ と で , 児 童 の 自 主 的 自 律 的 な 助 け 合 い 活 動 ( 例 : 司 会 を す る 児 童 の 登 場 , グ ル ー プ 発 表 の 際 自 分 の 役 割 を 考 え て 動 く , 班 員 へ の ア ド バ イ ス )が 生 ま れ て い っ た 。こ の よ う に 活 動 の 場 の 工 夫 が 学 習 効 果 を 高 め て い く こ と が 明 ら か に な っ た 。
( 5 ) カ リ キ ュ ラ ム 作 成 の あ り 方
カ リ キ ュ ラ ム を 作 成 す る に あ た っ て の 有 効 な 指 針 は 次 の よ う な も の で あ る と 考 え る 。
< 生 活 と 学 習 を 有 機 的 に 関 連 さ せ た カ リ キ ュ ラ ム に す る >
< 授 業 リ フ レ ク シ ョ ン を 元 に 学 び の 連 鎖 と 積 み 上 げ を 図 る 編 み 上 げ 型 カ リ キ ュ ラ ム が 効 果 的 で あ る > 個 人 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は , 教 室 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 の 醸 成 と 共 に 高 ま っ て い く 。 教 室 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 が 醸 成 す る と い う の は , 教 室 に い る こ と へ の 安 心 感 , 教 師 へ の 信 頼 感 , 子 ど も 同 士 の 間 に 築 か れ る 仲 間 意 識 , 教 師 の 教 育 理 念 に 基 づ い た 働 き か け , 先 導 的 に 発 言 す る 児 童 の 言 葉 や ふ る ま い の 伝 播 , 集 団 で 学 ぶ こ と で 生 じ る 相 互 作 用 な ど , 様 々 な 要 因 が 重 層 的 に 絡 み 合 い , 教 室 に 起 こ っ た 出 来 事 を 経 て 独 自 の 変 容 を 遂 げ な が ら 進 ん で い く 力 動 的 な プ ロ セ ス で あ っ た 。
国 語 科 に お け る 意 図 的 と り た て 指 導 ( 実 践 ① ~ ⑪ ) を 学 級 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 の 醸 成 の 中 に 効 果 的 に 埋 め 込 み , 生 活 と 教 科 学 習 を 往 還 し な が ら カ リ キ ュ ラ ム を 編 み 上 げ て い く こ と が , 肌 身 に つ い た コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 育 て る 方 法 と し て 効 果 的 で あ る 事 が 明 ら か に な っ た 。
( 6 ) 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 発 達 モ デ ル に 即 し た 知 見
言語コミュニケーション能力の発達モデルに依拠した目標を,11 の実践によって指導していった。言語コ ミュニケーション能力の発達モデルの中に,実践①~⑪を配置して示したのが以下の図である。
自 己 関 与 他 者 受 容 の 心 他 者 と 累 積 的 関 係 を 持 つ
自 己 を 表 現 し 受 け 止 め て 聞 こ う わ か ろ う と す る 意 識 を 育 て る 繋 い で 話 す 意 識 を 持 た せ る
も ら え る 喜 び を 体 験 す る ④ ⑤ ⑥ ③ ⑦
② 自 然 に 尋 ね 教 え 合 う 聞 く 話 す ⑪
協 同 的 態 度
自 己 意 識 の 立 ち 上 が り 友 達 と 話 し 合 っ て 物 事 を 決 め る 体 験 自 分 だ っ た ら と 考 え る 機 会 を 多 く 持 た せ る ⑥ ①
他 者 の 考 え に 反 応 を 返 す こ と を 習 慣 づ け る ⑧ 役 割 を 持 っ て チ ー ム で 取 り 組 む 学 習
⑨ ⑩
小集団(4人)において他者と累積的な話し合いを行えるかに関しては,個人差がある。「つないで話す」は,
こ の 学 級 の 共 通符 牒 に な っ て は い た 。 し かし 教 師 に 支 え ら れ つ つ 一斉 形 態 で 話し 合 う場 合 には つ ない で 話す こ と が で き る が,4 人 班 で 話 す 場 合 は , 仲 良 く考 え 合 う 協 同 的 話し 合 いは で きる も のの , つな い で話 が でき ることに関しては個人差があり,そのような姿が見られる児童は3割程度にとどまった。
相 手 の 意 見 につ な い で 話 す た め に は , 相手 の 考 え を 聞 き 取 っ た 上で , そ れ にそ っ て自 分 の考 え を作 っ てい か な け れ ば な らな い 。 全 員 で は な い が , 相手 の 考 え を 受 け 入 れ て 発見 や 納 得 をし , 協調 的 な雰 囲 気で 話 し合 い を 進 め る こ とは で き た 。 し か し , 相 手 の考 え に 触 発 さ れ て は い るも の の , そこ か ら関 連 して 思 いつ い た考 えでは,一貫性を欠き,脈絡のないものとなる様相もよく見られた。
協同的態度に関しては,「なかよし」(協同的風土のある学級づくり)が学級目標になっていたことが相乗効 果 を も た ら し ,ス ム ー ズ に 形 成 さ れ て い った 。 そ し て , そ の よ う な言 語 コ ミ ュニ ケ ーシ ョ ン文 化 を育 て てい く 上 で 強 く 作 用す る , 要 と な る も の は , 教師 の 使 う 言 葉 , ふ る ま い, 場 や 立 ち位 置 によ っ て作 り 出さ れ てい く言語環境であることが確認できた。
・
小 学 4 年 生 を 対 象 と し た 実 践 か ら 得 ら れ た 知 見
小 学 4 年 生 は 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル に お け る 「 累 積 的 関 係 」 か ら , 他 者 と 自 己 と 分 離 的 関 係 を 持 つ 段 階 へ 向 け て 進 む こ と が 発 達 課 題 で あ る と 想 定 し , 実 践 を 行 っ た 。 ま た , 発 達 モ デ ル を さ ら に 具 体 的 な 指 導 目 標 や 伸 長 を 見 取 る 尺 度 に 置 き 換 え て い き , モ デ ル か ら 導 出 ・ 設 定 し た 尺 度 (レベ ル1「協同性」,レベル2「自己意識」,レベル3「他者意識」,レベル4「課題追究意識」,レベル5「状況意識」) を 設 け て 当 該 児 童 の 実 態 を 捉 え る こ と に し た 。
お よ そ 1 年 に わ た る 実 践 を 通 し て 実 感 さ せ ら れ た こ と は,言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 指 導 は , あ ら か じ め 用 意 し た 内 容 を ど の 児 童 に も 達 成 さ せ る と い う 発 想 に は な じ ま な い と い う こ と で あ る 。な ぜ な ら , 発 達 状 況 に は 個 人 差 が あ る 。 そ の 個 人 差 を 互 恵 的 に 活 か し な が ら,児 童 間 の 相 互 作 用 を 通 し て 学 級 集 団 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 を 成 熟 さ せ て い く こ と が , 翻 っ て 個 人 を 各 々 必 要 な 方 向 に 伸 ば す こ と に 貢 献 す る と い う , 指 導 の 本 質 的 あ り よ う が 確 認 で き た 。
小 学 4年 生 の 実 践 を 通 し て ,言 語 コ ミ ュ ニケ ー シ ョン の 発達 モ デル を さら に 詳細 な もの に する た めの 示 唆を 得 ること がで きた 。以下 の3点 であ る。
・ 協 同 的 態 度 の 育 成 の 具 体 的 働 き か け は ,他 者 へ の 共 感 的 な 心 ・ 傾 聴 的 態 度 ・ 尋 ね 合 う 関 係 の 形 成 と す る こ と が適切 であ る。
・ 自 他 の 関 係 性を ,累 積 的 関 係 →分 離 的 関 係 と 変 容 さ せ るた め に は ,他 者を 意 識し て 自己 表 現す る 機会 を 頻繁 に 設 け る と 共 に ,そ こ で 働 く 思 考 活 動 に 関 し て の 指 導 が 必 要 に な る 。 思 考 活 動 に 関 し て こ の 時 期 に 働 き か け る 適 時 性 の あ る発 達 課 題 は ,生 活論 理 を 基 盤 と し た 思 考 を,観 点 を 立 て て比 べ るよ う な抽 象 的思 考 へと 進 めて い く こ と で あ る 。 こ れ に つ い て ,児 童 の 発 達 状 況 を 大 ま か に 指 摘 す れ ば ,教 師 に 導 か れ れ ば で き る が ,児 童 間 で は で き る か ど う か に 個 人 差 が あ る 。 こ の 思 考 活 動 の 質 的 変 容 は ,こ の 時 期 に 迎 え る タ ー ニ ン グ ポ イ ン ト で あ ると考 えら れる 。
・ レ ベ ル 4・ 5(課 題 追 究 意 識 ・ 状 況 意識 )の 発 達 に 向 けて は ,4年 時 の 発 達課 題 にす る には 時 期尚 早 であ り ,4年 時 後半を スタ ート として 高学 年に つな ぎ,継 続的 に指 導し ていく 項目 であ ると考 えら れる 。
・中学3年生を対象とした実践から得られた知見
中 学 校 で は , 小 学 校 高 学 年 と 引 き 続 い て 「 他 者 ・ 自 己 ・ 状 況 と 論 理 的 関 係 を 持 つ 」 段 階 に 到 達 す る こ と を 目 指 し た 。 本 実 践 を 通 し て 生 徒 が 気 づ い て い っ た , 話 し 合 い で 大 切 な こ と は , 9つ の カ テ ゴ リ ー に 分 け ら れ た 。 そ れ を 言語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力の 発 達 モ デ ル の 各 モ ジ ュー ル に 集 約し て 示す と 次の よ うに な る。
・ 協同 的態 度が詳 細化 され て意 識され てい るも の(例 :皆 が納得 する 。揚 げ足と りを しな い。)
・ 他 者 の 取 り 込 み に 関 す る 意 識 ( 例 : 相 手 の 意 見 を 全 否 定 せ ず に そ れ を 含 め た 柔 軟 な 意 見 を 出 す 。)
・ メタ レベ ルの認 知を 示し てい るもの (例 :話 をま とめな がら 進め る。観 点を 立て て比 較する。)
・ 経験 的知 識(例 :広 い視 野を 持つ。)
実 践 を 通 し て 生 徒 が 自 覚 し て い っ た こ れ ら の 内 容 は, 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン の 発 達 モ デ ル の う ち , 他者
・ 自 己 ・ 状 況 (話 題 や 目 的 )を 同 時 に 意 識 し な がら 論 理 的 に 探 究 し て い く段 階 の言 語 コミ ュ ニケ ー ショ ン 能力 を 伸 長 さ せ る 上で の 実 質 的 ポ イ ン ト と な る。 こ れ ら は 実 践 か ら 帰 納的 に 導 出 され た ,発 達 を促 す 具体 的 な手 が か り を 示 し てい る と い え よ う 。 こ の 自 覚内 容 を , 実 行 で き る 態 度や ス キ ル とし て 定着 さ せる こ とが , 指導 へ の指針 とな る。
ま た , こ の 実 践 を 通 し て , 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル 中 に あ る 「 諸 要 素 を 組 織 化 構 造 化 し て 把 握 す る 」 意 識 に 関 し て は , 生 徒 間 に 協 同 的 関 係 が あ る 場 合 , 学 習 の 自 由 さ と , 生 徒 に よ る 工 夫 の 余 地 が あ り , 自 律 性 を 頼 み に 信 頼 し て 任 せ る と い う 指 導 に よ っ て 高 ま り が も た ら さ れ る の で は な い か と い う 示 唆 を 得 た 。
・実践をふまえた発達モデルの検証および指導の指針
( 1 )「 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 発 達 モ デ ル 」 の 検 証
発 達 調 査 か ら 導 出 し た 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル に , 実 践 研 究 を 通 し て 解 明 さ れ た 知 見 に よ る 検 証 を 加 え , さ ら に 精 緻 化 し た モ デ ル を 作 成 し た 。
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル (改 訂 版 )
他 者 の 他 者 と 他 者 ・ 自 己 と
場 へ 参 加 する 取 り 込 み 累積的関係をもつ 累積的関係の 分 離 的 関 係を も つ
安 心 感 ・ 仲 間 意 識 他 者 受 容 意 識 質 変 容 自 己 意 識 ・ 他 者 意 識 の 高 ま り
自己関与 自己意識の立ち上がり 低学年 中学年
入門期 低学年 認 知 ・ 思 考 の 質 変 容
(生 活 論 理 か ら 科 学 論 理 ・ 抽 象 的 思 考 へ )
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 の 質 転 換 他 者 ・ 自 己 と
論 理 的 関 係 を も つ
メ タ 意 識 の 高 ま り ( 自 己 意 識 ・ 他 者
メ 意 識 ・ 課 題 意 識 ・ 状 況 意 識 )
タ 高 学 年
意 識
協 同 的 態 度
他 者 へ の 共 感 的 理 解 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 の 質 転 換
傾 聴 的 態 度
尋 ね 合 う 関 係 の 形 成 他者・自己・状況と
論 理 的 関 係 を も つ
メ タ レ ベ ル の 認 知 が 発 達 し, 諸 視 点 を 持 ち 得 , 同 時 に 配 慮 で き る
社 会 (学 校 社 会 )や教 師 か ら の 働 き か け よ う に な り , 諸 要 素 を 組 織 化 構 造 化 し て 把 握 す る 中学校 こ の 改 訂 モ デ ル で は 以 下 の 要 素 を 加 え て い る 。
・ 低 学 年 か ら 中 学 年 に か け て み ら れ る 累 積 的 関 係 の 質 的 変 容
・ 中 学 年 か ら の 促 す こ と が で き る 発 達 課 題 で あ る 認 知 ・ 思 考 の 質 的 変 容
・ 中 学 年 か ら 高 学 年 に か け て 発 達 課 題 と し て そ の 必 要 性 が 指 摘 で き る メ タ 意 識 ( 他 者 と 自 己 意 識 , 課 題 意 識 , 状 況 意 識 ) の 高 ま り
累 積 的 関 係 の 質 的 変 容 と は , 会 話 同 士 が 表 面 的 な 言 葉 で つ な が っ て は い る も の の 内 容 に 一 貫 性 が 欠 け て い る も の か ら , イ メ ー ジ を 共 有 し て つ な い で い た り , 経 験 か ら 思 い 出 し て 関 連 さ せ て つ な い だ り す る よ う な も の へ と 変 化 す る こ と を 指 し て い る 。 こ の よ う な 自 他 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 が よ り 一 貫 性 を 持 っ た も の と な る 質 的 変 容 が も た ら さ れ る の は ,認 知 ・ 思 考 活 動 の 成 熟 が 要 因 と な る と 考 え ら れ る 。 こ れ ら は 相 互 に 作 用 し あ い , 発 達 を も た ら す の で あ ろ う 。
ま た , こ れ ら モ ジ ュ ー ル の 発 達 的 変 容 を 推 進 す る 要 因 に メ タ 意 識 が あ る こ と も 実 践 を 通 し て 明 ら か に な っ た こ と で あ る 。 メ タ 意 識 を 高 め る と と も に 意 識 の 向 け ら れ る 方 向 の 広 が り を 保 障 す る こ と が 発 達 を 推 進 す る の で は な い か と 考 え ら れ る 。
さ ら に , こ の モ デ ル で は , 協 同 的 態 度 の 形 成 が 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 育 て る 上 で の 基 盤 を 作 る こ と を い っ そ う 協 調 し て い る 。
話 し 合 い 活 動 に 例 を 取 っ て 説 明 し て み た い 。 話 し 合 い 活 動 を 個 人 の 意 識 の 面 か ら 説 明 す る な ら ば , 話
(4) S . E ギ ャ ザ コ ー ル ・ T . P ア ロ ウ エ イ / 湯 澤 正 道.湯 澤 美 紀 訳 (2009)『 ワ ー キ ン グ メ モ リ と 学 習 指 導
-教師のための実践ガイド-』,北大路書房
し 合 い 活 動 と は , 話 し 合 う こ と や 他 者 と の 関 係 に 関 す る メ タ 認 知 を 働 か せ つ つ , 課 題 に つ い て の 記 憶 や 知 識 を 引 き 出 し な が ら 考 え を 産 出 し , 他 者 を 意 識 し な が ら 表 現 し て い く 活 動 で あ る 。 で あ る か ら , そ れ ぞ れ の 意 識 の 確 か さ と , こ れ ら を 同 時 に 処 理 し て い く ワ ー キ ン グ メ モ リ の 容 量 の 増 加 が 個 人 の 能 力 に お い て 必 要 に な る 。 し か し 個 人 の 持 つ 容 量 に は 限 り が あ る 。 個 人 差 も あ る 。 容 量 に 限 界 を 持 ち な が ら 個 人 の 能 力 が 高 ま る の は , 処 理 の 効 率 性 の 高 ま り に 起 因 す る 変 化 だ と さ れ て い る 。(4)
こ の 考 え 方 は 個 人 の 能 力 の 発 達 を 個 の 閉 じ た 認 知 世 界 で 説 明 し よ う と し た も の で あ る 。 し か し , 話 し 合 い と い う 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 場 合 , 個 人 間 の 相 補 的 か か わ り 合 い に よ っ て 個 々 人 の 容 量 限 界 を 超 え た 協 同 的 な 補 い 合 う 認 知 活 動 が そ の 場 で 展 開 す る こ と も あ る 。相 補 的 な 助 け 合 い に よ る 成 長 で あ る 。 お 互 い が 助 け 合 っ て 到 達 し た よ り 高 度 な ス テ ー ジ が 足 場 と な っ て 個 人 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 伸 長 が は か ら れ る と い う 構 造 に な っ て い る の で は な か ろ う か 。 他 者 と の 協 調 的 関 係 の 中 で , 個 々 人 の 力 が 高 ま る わ け で あ る 。
そ れ ゆ え , 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 の 核 に 協 同 的 態 度 の 形 成 が あ る こ と を い っ そ う 強 調 し て 位 置 づ け る こ と に し た 。 モ デ ル で は , 特 に 学 習 生 活 の 変 化 に 伴 い 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 が 変 わ る 小 学 校 入 門 期 と 中 学 校 入 学 時 に お い て 重 要 性 を 増 す こ と を 矢 印 の 太 さ で 表 し て い る 。
さ ら に こ の モ デ ル で は , 教 師 か ら の 働 き か け が 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 伸 長 さ せ る 上 で 重 要 な 意 味 を 持 つ こ と を 示 そ う と し て い る 。 教 師 か ら の 働 き か け が 教 室 に 社 会 文 化 と し て の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 様 式 , つ ま り 対 人 的 態 度 で あ る ふ る ま い や 言 語 行 為 に 関 す る し き た り を 産 み 出 し , 共 有 化 が は か ら れ , 定 着 し , そ れ が 児 童 に 内 化 し て い く こ と が 入 門 期 の 実 践 を 通 し て 指 摘 で き た 。 こ れ ら を 促 す 教 師 の 指 導 性 が 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 を 発 達 さ せ る 要 諦 と な る こ と を 指 摘 し て お き た い 。
(2)言語コミュニケーション能力指導の指針
以上の研究実践に通底して明らかになった指導のポイントは,次のようなものである。
① 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 成 長 を 社 会 文 化 的 視 点 か ら 促 す 編 み 上 げ 型 カ リ キ ュ ラ ム
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は , 教 室 で 形 成 さ れ て い く し き た り や ふ る ま い を 反 映 し た , 社 会 文 化 的 に 形 成 さ れ る 能 力 で も あ る 。 文 化 が 個 人 の 資 質 を つ く り , 具 体 的 な ス キ ル と な っ て 個 人 に 定 着 し , そ れ が ま た 集 団 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の あ り よ う を 形 成 し て い く 。 そ の た め , 教 室 と い う 社 会 の 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 を 教 室 の 出 来 事 か ら 徐 々 に 形 成 し て い く 視 点 を も つ こ と が 欠 か せ な い 。
小 学 校 の 場 合, 目 指 す 言 語 コ ミ ュニ ケ ーシ ョ ン 文化 の 指標 を 「学 級 目標 」 のよ う な形 で 共有 し ,そ れ を指 標にして指導を進め,そこに,国語科学習(話すこと聞くことに関する取り立て指導と活用学習)や必要性の 高 ま る 機 会 を 捉え て 投 げ 込 む 取 り 立 て 学 習, お よ び 他 教 科 や 学 級 活動 で そ れ を活 か して い く指 導 を相 互 補完 的に進めていく複層的なカリキュラムレイアウトが有効である。
こ の よ う に ,言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能力 の 指 導 を 行 う 場 合 , 児童 生 徒 の 実態 に 寄り 添 い, 教 室の 出 来事 こ そ 成 長 の 契 機と 考 え て カ リ キ ュ ラ ム を 設計 し て い く 発 想 に 立 つ こと が 要 点 とし て あげ ら れる 。 この よ うな 理 念 を 持 つ カ リ キ ュ ラ ム を 編 み 上 げ 型 カ リ キ ュ ラ ム と 称 し て い る 。 編 み 上 げ 型 カ リ キ ュ ラ ム は , 学 習 生 活 の 中 で 現 れ た 成 長 の 契 機 を 活 か し , 積 み 上 げ な が ら 展 開 さ せ て い く カ リ キ ュ ラ ム で あ る 。 発 達 モ デ ル と い う 羅 針 盤 を も ち な が ら 指 導 内 容 が 選 択 さ れ , 結 果 と し て 具 現 化 さ れ た カ リ キ ュ ラ ム で あ り , 国 語 科 の 学 習 単 元 や 取 り 立 て 指 導 は , そ の 基 本 ル ー ト の 中 に 横 糸 の よ う に 差 し 込 ま れ て い く カ リ キ ュ ラ ム な の で あ る 。
② 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 を 促 す 学 習 指 導
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 に 効 果 を 与 え る 学 習 活 動 に は ,次 の よ う な ポ イ ン ト が 指 摘 で き る 。
・ 媒 材 や 問 題 の 出 来 事 性
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 は , い ま こ の 場 で 問 題 に な っ て い る こ と , つ ま り 場 か ら わ き 出 た 疑 問 で
あ っ た り , 未 知 の こ と が ら で あ っ た り , 切 迫 性 が あ る 状 況 の 中 で 産 み 出 さ れ る こ と に よ っ て , 生 き 生 き と 発 動 し て い く 。 こ の よ う な 出 来 事 性 や 即 興 性 を 重 ん じ た 学 習 活 動 で あ る こ と が 一 つ の 要 件 と な る 。 教 師 は い ま こ の 場 で 営 ま れ て い る 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 こ そ が 有 効 な 媒 材 で あ る と い う 意 識 を 持 ち , 学 習 活 動 を 即 興 的 判 断 を 下 し な が ら 進 め て い く べ き で あ る 。 そ れ に よ っ て 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 為 は , 場 の 状 況 の 中 で 納 得 を 伴 う 実 践 力 と し て 体 得 さ れ て い く と 考 え ら れ る 。
・ 自 律 で 進 む 学 習 活 動
協 同 性 に 支 え ら れ て 進 む 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 為 は , ま た , 場 に 参 加 す る 者 達 の 自 律 的 な 判 断 と 決 定 で 進 む 言 語 活 動 で あ る こ と が 肝 要 で あ る 。 教 師 に 支 え ら れ つ つ も , 参 加 者 の 主 体 性 が 発 揮 さ れ る 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 で あ っ て こ そ , 肌 身 に つ い た 能 力 が 形 成 さ れ て い く 。
・ 対 話 活 動 に よ る 自 己 内 表 象 の 言 語 化
対 話 活 動 は 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 基 本 単 位 で あ る が , そ の 意 味 は , 他 者 に 対 し て 自 分 の 思 い を 伝 え る と い う 対 話 活 動 が , 表 象 (イ メ ー ジ )を 線 (論 理 展 開 )に 変 え て 立 ち 上 が ら せ る 点 に も 見 い だ さ れ る 。 自 己 の 内 面 の 表 象 (イ メ ー ジ )や 漠 想 が , 語 り 出 す 必 然 的 な 場 を 得 て 筋 を 持 っ た 思 考 と な る 。 そ し て そ れ は 思 考 に 筋 を つ け る こ と を 促 す 言 語 (と い う こ と は , つ ま り , 自 分 だ っ た ら 等 )の 獲 得 に よ っ て 進 め ら れ る 。 こ の よ う な 意 味 や 価 値 を 持 っ た 対 話 活 動 が 学 習 活 動 に は 必 要 で あ る 。
・ 省 察 と 自 己 沈 静 を は か る 学 習 活 動
言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 は , コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動 を 経 験 す る こ と を 通 し て 育 成 さ れ る こ と は い う ま で も な い 。 そ の 過 程 で 経 験 の 意 味 や 値 う ち を つ か み と り , 言 語 化 し て 自 覚 す る こ と が 学 習 効 果 を も た ら す 。 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 為 の 可 視 化 や , 使 う と よ い 言 葉 ・ 表 現 の 自 覚 化 を は か り , 省 察 や ノ ー ト に 自 分 の 考 え を 書 く こ と に よ る 自 己 沈 静 に よ っ て 学 び の 意 味 を つ か ん で い く 学 習 活 動 は 効 果 を 発 揮 す る 。 言 語 に よ っ て 行 動 が 明 言 化 さ れ る こ と で 行 動 様 式 の 取 り 込 み が 確 か な も の に な る の で あ る 。
・ 集 団 に お け る 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン で 体 験 し た 探 究 的 な 思 考 活 動 は , 個 人 の 内 面 で 進 め ら れ る 探 究 的 な 思 考 活 動 に 内 化 し て い く 。
そ の た め ,ク ラ ス サ イ ズ や グ ル ー プ サ イ ズ で の 協 同 的 な 論 理 的 探 究 活 動 (話 し 合 い )を 往 還 的 に 導 入 し , 教 師 の リ ー ド に よ る 質 の 高 い 探 究 活 動 を 体 験 さ せ る こ と が 個 人 の 内 面 の 思 考 活 動 を 高 め て い く 学 習 効 果 を も た ら す 。 集 団 で 行 う 論 理 的 探 究 活 動 が 個 人 の 内 の 探 究 的 な 思 考 力 と し て 内 化 さ れ , そ れ が ま た 集 団 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 質 を 高 め て い く 相 乗 効 果 を 生 む の で あ る 。
③ 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 行 為 を 促 進 す る ツ ー ル
児 童 生 徒 の 言語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 活 動を 促 進 す る 要 因 の 一 つ に諸 々 の 物 的な ツ ール が ある 。 目に は 見え な い 音 声 に よ る言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を確 か な も の に す る 上 で ,思 考 を 促 すツ ー ルが 有 効に 働 くこ と が確 認できた。次のようなものである。
低 学 年 で は ,言 葉 の 身 体 性 が 発 揮 で き る, < 広 場 の あ る 教 室 空 間作 り > , 言語 コ ミュ ニ ケー シ ョン 活 動を 可視化するための,<心の糸(毛糸玉)>,<言葉ボード>は有効であった。
中学年では,具体的な事象・事物から考える素朴生活理論による思考活動から,抽象概念を用いた思考活動 へ高めるため,<並べて比べる表>を使った話し合い活動を行った。
高 学 年 で は ,< 他 者 と の 関 係 を 作 る 鉛 筆対 談 > , < 考 え を 共 創 する マ ッ ピ ング > ,自 分 たち の 言語 コ ミュ ニケーション行為を対象化し,メタ認知意識を高める<話し合いの文字起こし記録>を実施した。
中学校(3年生)では,小グループの話し合い活動において論理的探究を助ける<観点を立て比較する表>
, メ タ 認 知 活 動 を促 進 す る < 金 魚 鉢 方 式 で 行う 話 し 合 い 活 動 を観 察 記録 す るノ ー ト> < 自己 目 標の 設 定と 自 己 評 価 チ ェ ック 表 > を 創 案 し て い る 。 児童 生 徒 の 認 知 面 で の 発 達状 況 を 勘 案し た これ ら のツ ー ルが , 言語 コミュニケーション活動を活性化させたり言語コミュニケーション能力の発動を促進する効果が見て取れた。
④教 師 の 指 導 性
言語 コミュニ ケーション 能力を育成する上で看過できないのは,教師の存在である。本 研 究 で は こ れ を 教
(5)グランドルールとは,ニール・マーサーのいう「言語の使用者がある種の話し合いを行うために採用して いるも の」(Mercer 2000)である 。ここでは 特に教室に おいて言語の使用者(児童)達が話し合いを行うた めに採用・共有しているルールと定義しておく。
師 の 指 導 性 と い う 概 念 で 取 り 出 し , 明 ら か に し て い る 。 教 師 の 指導性とは,児童の言語コミュニケーション 行為を産み出し,支え,育てていくために教師が行う働きかけ全般およびその背後にある教育理念を指す。教 師の 指 導 性 は , 場 に 参 加 す る 児 童 生 徒 の 自 己 内 対 話 と 全 体 で の や り と り の 組 織 化 を 図 る < オ ー ガ ナ イ ザ ー 役
> , 児 童 生 徒 の 自 律 的 学 習 活 動 を 見 守 り 判 断 し 方 向 付 け て い く < モ ニ タ ー 役 > , 学 習 活 動 の 価 値 を 示 す
< 教 授 者 役 > の よ う に 整 理 で き る 。 本研究では,この指導性を下記のような手法で明らかにしている。
・考察の方法
考 察 の 対 象 を, 教 師 の 発 話 の み な ら ず ,所 作 や 立 ち 位 置 も 含 め た行 為 全 般 にお い て析 し てい く 。具 体 的に いえば,この指導性を明らかにするために,一人の教諭が小学校1年生を対象に4月から7月にかけて行った実践を 観察し,出来事(エピソード)を経時的に拾い上げながら捉えていく。それに加え,当該教師へのインタビューと, 観察者と教師がDVDを見ながら授業リフレクションを行い,教師の発する発話のみならず,所作や立ち位置も含めた 指導行為全般とそのときの教師の判断を対象として指導性を捉える方法をとっている。
・考察の対象と手続き
対象学級 福岡県内の小学校1年生1学級児童24名(男児12名,女児12名)を対象に4月11日入学式から7 月19日終業式までの期間,週 1回程度の参与観察を行った。担任教諭 Mは40歳代の男性(教員歴 23年)。
手続き 担任教諭と参与観察者とで,目指すコミュニケーション能力像と指導方針を確認した。そして教諭が 実践し,観察者がそれをビデオカメラ,IC レコーダー,フィールドノートに記録した。これらを元に,観察 日終業後教諭と観察者がその日の出来事に関して成果と課題を出し合い,次からの指導に関して方針を決め,
カリキュラムを作っていった。また,教師の教育理念を尋ねるインタビューおよび,1学期終了後,映像・音 声 ・ フ ィ ー ル ドノ ー ト 記 録 を 元 に , 授 業 中の 教 師 の 働 き か け の 意 図と 効 果 に つい て M教 諭 と観 察 者で カ ンフ ァ レ ン ス ( 省 察) を 行 い , エ ピ ソ ー ド 分 析の 手 法 で 担 任 教 諭 と 観 察者 が 教 授 行為 の 意図 と 効果 を 協議 し た。
・考察の結果-教師の指導性を形作るもの-
教師の指導性について,以下の点を指摘している。
ア 教 師 に 根 本 理 念 と し て あ る も の
イ 教 師 は い か に し て 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化 を 形 成 し て い く か 1基盤となる土壌を作る。
2学級のグランドルール(5)を築いていく。
3具体的スタイルや言葉を教える。
4児童間の聞く話すやりとりそのものに直接的に働きかけコーディネートする。
これには直接説明・直接指示・話し手発言の示範・聞き手の思考示範・言葉による暗示的方向付け・身体サ インによる暗示・音声サインによる暗示リボイス・教室での立ち位置の工夫等多様なものがあり,これらは 即興的判断によって瞬時に選ばれ,施されていく。こ れ ら の 働 き か け に よ っ て,児 童 の 話 し 合 い が 進 み,方 向 付 け ら れ , 焦 点 化 さ れ て い く の で あ る 。 こ の コ ー デ ィ ネ ー ト 型 の 指 導 は ,M 教 諭 の 指 導 性 の 中 で も 注目 に値 する特 徴だ とい える 。
ウ 教 師 の 資 質
結 論 M教諭の場合,入門期においては,自分がそこにいることの安心感をもたせ,教師との信頼関係をつくり,
仲間意識を育むことをスタートに教室のコミュニケーション文化作りが始まっている。そして,自分の言葉を自 由に発することができ,それを受けとめつないでいく学習者相互の関係を築いていくことを基底にしながら,徐 々に学級のグラウンドルールを積み上げ,場に表れたコミュニケーション状況から具体的な発言スタイルやふるま いを学ばせていく階梯が見いだせた。言語コミュニケーション能力の指導は,このような教師の指導性によって育 まれた信頼関係・受容的関係・仲間意識を土壌にして始まる。この土壌の上に,話すこと聞くことの国語科学習 指導を積み上げていくことが,言語コミュニケーション能力を育成する上での要諦となると結論づけた。
第 4 章 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 評 価
第 4 章 で は , ま ず , 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 育 ち を 評 価 す る た め の 枠 組 を 明 確 に し , 次 に 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 発 達 モ デ ル を 具 体 的 な 話 す 聞 く 態 度 に し て 示 し た 項 目 を 作 成 し , そ れ に よ っ て 発 達 を 描 け る か ど う か を 問 う 調 査 を 行 っ た 結 果 に つ い て 述 べ る 。 そ し て , 調 査 項 目 を 評 価 項 目 と し て 再 編 し た も の を 作 成 し , こ れ を 用 い て 実 際 に 教 師 に 評 価 を 実 施 し て も ら っ た 結 果 の ア ン ケ ー ト を 分 析 す る 。こ れ ら 一 連 の 調 査 に よ っ て 実 効 性 の あ る 評 価 方 法 を 開 発 し よ う と し た 成 果 を 述 べ て い る 。
・ 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 特 性 か ら 導 出 し た 評 価 の 枠 組
本 研 究 で 意 図 し て い る評価の 目的は, 児 童 生 徒 の 成 長を 促 す た め の 指 針 と な る こと に 足 場を 置 いた 評 価で あ る 。 教 育 評 価の 目 的 は , 子 ど も を 格 付 けし た り 選 別 し た り す る ので は な く ,教 師 や子 ど もに 対 して 自 らの 活 動 を 改 善 す る情 報 を 与 え る こ と に あ る と考 え る 。 評 価 は 児 童 生 徒の 成 長 を 促す た めの も ので あ り, 成 長の 方 向 を 見 定 め るた め の 教 育 的 営 為 で あ る 。評 価 は , 教 師 が 自 分 の 指導 の 方 向 性を 判 断す る 際の 寄 り所 と なる 尺度によってなされ,児童生徒を次なるステップへと導く指針となるものでなければならない。そこで,本研 究では,評価にあたっては,言語コミュニケーション能力を診断する際の指標(物事の基準になる目印)を設け,
その指標の枠組によって児童の言語活動の成長を時々に捉え,位置づけることのできるものを目指した。
本研究で主として開発しようとしている評価の方法は,評価指標を用いた継続的観察による評価である。
評価の枠組を設定する方針は言語コミュニケーション能力の特性に鑑みて以下のように定めた。
① 言 語 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン 能 力 は , 自 己 と他 者 の や り と り に お い て発 揮 さ れ る力 で ある た め, 個 の中 で 閉じ た 能 力 で は な く自 他 の 関 係 の 中 で 相 互 作 用的 に 高 ま っ て い く 能 力 であ る 。 そ こで , 評価 の 枠は , 自己 と 他者 の 関 係 性 の 変 化と 精 緻 化 の 過 程 を 基 軸 と して 設 け る 。 そ し て , そ こに 状 況 認 識が 立 ち上 が り, 意 識の 向 けら れる方向が多様かつ自在になる様相を描くものとする。
② 言 語 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン 能 力 は , あ る 出来 事 に 際 し て 現 れ た 偶 発的 ふ る ま いと し て発 揮 され る とい う ,出 来 事 性 と 状 況 依存 性 の あ る 能 力 で あ る 。 そこ で , 1 単 元 や 1 単 位 時間 で 目 指 した 意 図的 な 行為 の 発現 を 評価 するという発想のみではなく,教室の中で起こった出来事の中で発動された行為にも注目していく。
③ 言 語 コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン 能 力 は , 教 室 のコ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 文 化が 醸 成 さ れ, そ の文 化 様式 が 個人 内 へ取 り 込ま れ てい く こと に よ って 育 って い く性 質 があ る 。そ こ で,言語コミュニケーション能力を評価する際の対 象は,国語科の授業のみならず,教室の中で集団のふるまいとして成熟していく様相をも視野に入れていく。
④言語コミュニケーション能力はコミュニケーションスキルの獲得によって成長する側面を持つ。そこで,評価 の指標は,具体的な言語表現事例を用いてあらわし,事例の発現状況をもってチェックできるものとする。
・ 評 価 指 標 の 作 成 - 話 し 合 う 力 を 見 取 る 評 価 指 標 -
以上のような目的と方針によって,次表のような評価指標を作成した。こ の 指 標 は , 話 し 合 う 力 を 15 項 目 に し た リ ス ト を 作 成 し , こ れ ら の 項 目 が 学 級 児 童 の 実 態 把 握 に 役 立 つ か ど う か 尋 ね る ア ン ケ ー ト の 結 果 を ふ ま え て 作 成 し た も の で あ る 。 調 査 地 域 は , 近 畿 5校 , 中 国 4校 , 福 岡 の 公 立 小 学 校 11校 。 各 学 校 の 全 教 諭 に 回 答 を 依 頼 し , 調 査 時 期 は,2012年2月 ~ 3月 。 回 答 回 収 枚 数 は282枚 。
こ の「 話 し 合 う 力 を 見 取 る 評 価 指 標 」は ,調 査 で 導 出 さ れ た 話 し 合 う 力 を 見 取 る3つ の 因 子 を 基 軸 に , 評 価 項 目 を , 1 協 同 性 , 2 自 己 表 出 , 3 他 者 受 容 (自 他 の メ タ 認 知 ), 4 課 題 の メ タ 認 知 , 5 状 況 の メ タ 認 知 と い う 項 目 に 再 整 理 し , そ れ ぞ れ の 指 標 と な る 言 語 行 為 を 具 体 的 な 発 言 例 に よ っ て 示 し た も の で あ る 。 こ の 評 価 指 標 は ,4人 程 度 の 小 集 団 の 話 し 合 い 活 動 と い う 状 況 を 想 定 し て 作 成 し て い る 。
ま た , こ の 評 価 指 標 は 義 務 教 育 9 年 間 で 使 用 す る こ と を 念 頭 に 置 い て い る 。 そ の た め , ど の 学 年 で 現