博士(理学)クレイグ・フィーブリー
学 位 論 文 題 名
Petrological and geochemical study of the Toya ignimbrites and the Toya post‑caldera volcanlsm, SW Hokkaido, Japan :1mplications for island‑arc caldera evolution
( 西 南 北 海 道 , 洞 爺 火 砕 流 と 後 カ ル デ ラ 火 山 の 岩石 学 的 ・地 球化 学的 研究 :島 孤カ ルデ ラの 発達 に関す る考 察)
1. は じ め に
学位論文内容の要旨
本 研 究 で は ,島 弧火 山活 動で のカ ルデ ラ火 山の位 置づ けを 明ら かに する ため に, 西南 北 海 道の 洞爺 カル デラ 火山 を対象 とし て, 岩石学的・地球化学的研究を行った.本研究で明 ら かに なっ たことは次のように要約できる.(1)カルデラ形成時では,複数の独立したマ グ マ溜 まり から 一斉 に噴 火した こと を明 らかにし,カルデラ形成メカニズムとして重要で あ るこ とを 議論 した ,(2)カ ルデ ラ形 成時に存在した珪長質マグマは3種類であり,それ ぞ れが 独立 に下 部地 殻の 部分溶 融で 発生 したことが判り,それとは別にマントル起源の玄 武 岩質 マグ マも存在していたことを明らかにした.(3)後カルデラ期でも,デイサイト〜
流.紋岩質マグマと玄武岩質マグマのバイモーダルなマグマとそれらのマグマ混合プロセス が支配していた.(4)マグマ系のマグマ温度・深度等の活動期毎゛の系統的な変化を明らか に し , カ ル デ ラ 火 山 で も マ ン ト ル ダ イ ア ビ ル モ デ ル で 説 明 で き る こ と を 示 し た . 2.カルデラ形成期における複数マグマ溜まりの一斉噴火
約10万年前の洞爺カルデラを形成した最大の噴火であるTpfl.4では,Si02= 74〜75.5wtYo の 流紋 岩質 軽石 が噴 出し た.ま ず, 斑晶 鉱物の組み合わせ・化学組成から,角閃石を含ま な い斜 方輝 石高シリカ流紋岩(以下,OP¥・HSR),普通角閃石流紋岩(HBE‑R)およびカミ ン グ ト ン 閃 石 高 シ リ カ 流 紋 岩 (CUMM.HSR) に3分 で き る こ と を 明 ら か に し た ,
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主 成 分 ・微 量 成分 化 学 組成 , 希 土類 元 素組 成 お よぴ 鉱 物化 学組成 から,HBE‑Rは 普通角 閃 石 ― ハ イ バ ー シ ン を 斑 晶 と し て 持 つ 流 紋 岩 質 マ グ マ (HBE‑RM) とOPX.HSR質 マグ マ (OPX‑HSRM)が ,CUMM‑HSRはカ ミ ン グト ン 閃石 ― ハ イパ ー シンを斑 晶として 含む流紋 岩 質 マグ マ (CUMM‑HSRM)とOPX.HSRMが ,それぞ れマグマ 混合したこ とによっ て形成さ れた こ と が判 っ た .つ ま り,2種 類 の マグ マ 混合 が 同 時に 起 こっ て い たこ と にな り ,3つ のマ グ マが成層 した1つの マグマ溜 まりから のマグマの 噴出とぃ う従来の モデルで は,噴出 率・
吸 出し 口 の 配置 等 を変 化 さ せた として も,Tpf14に見ら れる2種類 のマグマ 混合の共 存は説 明 でき な い .Tpf14の 噴 火 では ,OPX.HSRMが存在し たマグマ溜 まりの他 に.OPX. HSRMと CUMM‑HSRM, そ し てOPX.HSRMとHBE゛RMと が 密度 成 層 した , 最低3つ の 珪 長質 マ グマ 溜 ま り が 存 在 し , そ れ ら が 同 時 に 別 々 の 火 道 を 通 じ て 噴 火 し た と 考 え な けれ ば なら な い . 上 記 の3種 の流 紋 岩質 マ グ マは . 主成 分 ・ 微量 元 素 およ び 希土類元 素組成か ら,お互 い を 結晶 分 化 作用 等 で生 じ さ せる ことは できず,そ れぞれが 独立に発 生したと 考えられ る.
3つ の マ グ マ のSrお よ びNd同 位 体 比か ら は, そ れ ぞれ が 類似 し た 起源 物 質( 下 部 地殻 ) に 由来 し た と推 定 でき る が ,La/Yb比 およ びEu負 異 常 の有 無に よって,OPX.HSRMおよび HBE‑RMが角 閃 石 ・斜 長 石が 残 留 固相 と して 存 在 する よ うな 角 閃 岩あ る い はハ ン レイ 岩 が 起 源物 質 で ある の に対 し て ,CじMh HSRMは 斜 長石 を 欠 きザ クロ石 が存在す るエクロ ジャ イ ト質 で あ った と 考え ら れ る, さらに 噴火時の珪 長質マグ マの,マ グマ溜ま りの深度 ・マ グマ温 度・含水 量を,地 質温度‐ .圧力計 および高温 高圧実験 による相平衡関係をもとに求 め た . そ の 結 果 ,OPX.HSRMは 約950度 ・ 約12kmで 水 不 飽 和 な 状 態 ,CUMM HSRMは 約 780度 ・水 飽 和 ,HBE.RMは 約870度 ・ 水飽 和 で 深度 が そ れぞ れ5km前 後 に 存在 し てい た . 以 上 の 結果 か ら,TPfI4の 活 動 直前 に ,浅 所 に 存在 し たCUMM.HSRMとHBE・RMの2つの独 立 した マ グ マ溜 ま りに , 深 所か らOPX・HSRMが そ れぞ れ 注入 され 成層マグ マ溜まり が形成 さ れ た. そ し て2種 類 の 成層 マ グ マ溜 ま りか ら の 噴火 , およ びOPX.HSRMが 単 独で 噴 出 す る こと に よ って 洞 爺カ ル デ ラは 形成さ れた.さら に同時期 に玄武岩 質マグマ も深所に 存在 し てい た . この 複 数マ グ マ 溜ま りの同 時噴火は洞 爺カルデ ラでの特 殊な例で はなく, たと えばクレーターレイク(Bacon, 1988)やアチッランカルデラ(Rose et al.,1987)など,他のカ ル デ ラで も 認 めら れ ,大 型 カ ルデ ラ 形成 の た めの 重 要な プ ロ セス で あ る可 能 性が 高 い .
3. 後 カル デ ラ期: 洞爺巾烏 火山と有 珠火山
後 カ ルデ ラ 火山 で は ,洞 爺 中島 火 山 でfまSi02 ̄55・65%で安 山岩が卓越 し,有珠 火山で は50・54%および65・70%でパイ モーダjレ とぃう特 徴を有す る,顕微鏡観察・主成分・微
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量成分・希土類元素組成および鉱物組成の解析から,洞爺中島火山の岩石はデイサイト質 マグマと玄武岩質マグマとのマグマ混合によって生じたことがわかった(Ci‑aig, 1992).
有珠火山は上記のとうルバイモーダルな化学組成で特徴づけられ,中島火山も含め玄武岩 質マグマとデイサイト質マグマの間には親子関係はない.
4.洞爺火山のマグマ系進化モデルと島弧火山活動での意義
洞爺火山の全活動における,マグマ系の解析を通じて明らかになったことは,(1)活動 期を通じて,玄武岩質マグマ(BM)とデイサイト〜流紋岩質マグマ(DRM)が共存していた.
(2)共存したこれらのマグマには親子関係はない.(3)DRMは活動期毎に独立して発生して いる.(4)最大の噴火であるTpf14の時期に,DRMの温度は最高,マグマ溜まりの深度は最 も浅くなり,後カルデラ.期を通じて,DRMの温度低下,マグマ溜まりの深化が認められる.
これらの制約条件から,洞爺火山の活動開始から現在まで,深部からの熱源の上昇・下部 地殻の融解によるDRMの発生が繰り返され,後カルデラ期になっての熱源の冷却とぃう進 化モデルが構築される.深部の熱i慝はマントルでのBMの発生に求めるのが妥当である.
このモデルは島弧の成層火山で想定されているダイアピル毛デル(例えば,Sakuyama. 1983; Takahashi,1986)と調和的であり,成層火山になるか大規模カルデラ火山が生じる かは, 大量のDRMが生じるような下部地殻であるか否か,あるいは大型のマグマ溜まり が形成されるような応力場であるかどうかによると考えられる,
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 宇 井 忠 英 副 査 教 授 石 原 舜 三 副 査 助 教 授 岡 田 弘
副 査 教 授 荒 牧 重雄 ( 日本 大 学 大学 院 理工 学 研 究科 )
Petrology and Geochemstry of the Toya Ignimbrites & Postcaldera Volcanism, Toya Caldera, SW Hokkaido, Japan‑Implications for Island‑Arc Caldera Evolution‑
( 西 南 北 海 道 , 洞 爺 火 砕 流 と 後 カ ル デ ラ 火 山 の 岩石 学 的 ・地 球 化 学的 研 究一 島 孤 カル デラの 発達に関 する考察 ―)
近年,カルデラ形成機構の研究およびカルデラ火山マグマ系の研究が盛んにおこなわれている.
しかしその多くは大陸地域のカルデラ火山に限られ,またカルデラ形成期から後カルデラ火山活 動までのマグマ系およぴその変化を議論したものはほとんどない,
本論文は,島弧カルデラ火山として嗣爺カルデラをとりあげ,特にカルデラ形成直前のマグマ 書留まりの構造および噴火機構,カルデラ形成期から後カルデラ火山活動期を通じてのマグマ系進 化の 解明を目 的として ,高密度 サンブリン グにもとづく岩石学・地球化学的研究を行った.
カルデラ形成時の洞爺火砕流では.噴出物の軽石を鉱物組み合わせおよび鉱物化学組成から,
斜方輝石高シリカ流紋岩(OPX.HSR),カミングトン閃石高シリカ流紋岩(CUMM・IISR)および普通 角閃石流紋岩(HBE.R)に区分し,カルデラ形成期の最大の火砕流ではこの3種の軽石が共存するこ とを明らかにした.さらにこれらの主成分・微量元素・希土類元素化学組成,鉱物化学組成の解 析から,CUMM.HSRとHBE・Rはマグマ混合の産物であることを示した.その混合端成分マグマは 両者で異なり,カミングトン閃石を含んだ流紋岩質マグマ(CUMM.RM)と普通角閃石を含んだデイ サイ ト質マグ マ(HBE.DM)がそれぞれOPX.HSRマグマと混合したと議論した,それとは別に HBE.Rでは玄武岩質マグマの混入も認められることを示した.そして鉱物温度・圧力計や溶融実 験等の結果から,それぞれの端成分マグマの温度・圧力・含水貴を見積もり,OPX.HSRは870℃ 以上で3.5kb以深で水に不飽和,他の2種のマグマは水に飽和.2kbの深度で,HBE.DMが870℃,
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CUMM.RMが780℃であることを示した.さらに地球化学的性質から,3つのマグマは親子関係が なく独立に,CUMM.RMがエクロジャイト質,他の2っが角閃岩やハンレイ岩質な下部地殻を起源 物質とすると推定した.
カルデラ形成時に2つのマグマ混合が同時に起こっていることを説明するために,いくつかの成 層マグマ溜まり系を検討した結果,少なくとも3つの独立したマグマ溜まりから,別々の火道を通 じての一斉噴火が起こったと結論した.さらに文献調査から,いくっかのカルデラ火山でも洞爺 カルデラと同様の複数マグマ溜まりの一斉噴火が起こっている可能性を指摘し,これが普遍的な 噴火様式の1っであることを初めて指摘した.
後カルデラ火山活動期のマグマ系は次のようである,中島火山群では,全岩化学組成,鉱物化 学組成およぴその累帯構造の解析から,岩石の組成多様性はデイサイト質マグマと玄武岩質マグ マとの混合によって生じており,パイモーダルなマグマ系であったことをことを明らかにした.
端成分マグマを推定した結果,玄武岩質マグマはSr同位体比の異なる2種類が存在し,デイサイト 質マグマはl‑2kbの深度で880℃であろことを明らかにした.さらにデイサイト質マグマは,玄武 岩質マグマとは成因関係なく,独立に下部地殻の溶融によって生じた.有珠火山でも玄武岩質マ グマと流紋岩質マグマのバイモーダルなマグマが活動している,有珠火山のマグマは中島火山の マ グ マ と は 全 く 異 な っ て お り , そ れ ぞ れ の 火 山 で 独 立 に 発 生 し た と 考 え ら れ る . カルデラ形成期から後カルデラ期まで,それぞれの活動期で玄武岩質マグマと珪長質マグマが 共存していたこと,共存したこれらのマグマには親子関係はないこと,共存する2種のマグマはそ れぞれ活動期毎に独立して発生していることを明らかにした.珪長質マグマの深度・温度の時間 変化に着目すると,カルデラ形成時に温度は最高,マグマ溜まりの深度は最も浅くなり,後カル デラ期を通じて,温度低下,マグマ溜まりの深化が認められる.これらの制約条件から,洞爺火 山の活動開始から現在まで,深部からの熱源の上昇・下部地殻の融解による珪長質マグマの発生 が繰り返され,後カルデラ期になっての熱源の冷却とぃう進化モデルが構築される,深部の熱源 はマントルでの玄武岩質マグマに求めるのが妥当である.このモデルは島弧の成層火山で想定さ れているダイアピルモデルと調和的であり,成層火山になるか大規模カルデラ火山が生じるかは,
大量の珪長質マグマが生じ得るような下部地殻であるか否か,あるいは大型のマグマ溜まりが形 成されるような応力場であるかどうかによると結論づけた.
これを要するに,著者はカルデラ形成期から後カルデラ期までのマグマ系の進化および大規模 噴火様式に関する新知見を得たものであり,火山学・岩石学の分野に対して貢献するところ大な るものがある.よって著者は,北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認め る,
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