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論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨の公表

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Academic year: 2021

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論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨の公表

学位規則第 8 条に基づき、論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を公表する。

○氏名 藤本 博(ふじもと ひろし)

○学位の種類 博士(国際関係学)

○授与番号 乙 第 531 号

○授与年月日 2015 年 2 月 27 日

○学位授与の要件 本学学位規程第 18 条第 2 項 学位規則第 4 条第 2 項

○学位論文の題名 ヴェトナム戦争研究 「アメリカの戦争」の実相と戦争の克服

○審査委員 (主査)中逵 啓示(立命館大学国際関係学部教授)

本名 純 (立命館大学国際関係学部教授)

松岡 完 (筑波大学大学院人文社会系教授)

<論文の内容の要旨>

標記の博士学位請求論文の研究課題は、冷戦史研究の動向を踏まえ、第一に、アメリカ と「第三世界」との相互関係史の視点から、ヴェトナム民衆に多大な犠牲を与えた「アメ リカの戦争」の実相について考察し、第二に、戦争時の米外交の展開が米国社会をいかに 変容させたのかについての事例研究として、米国内外における「アメリカの戦争犯罪」告 発の取り組みとその遺産並びに帰還米兵によるヴェトナム民衆との「和解・共生」をめざ す活動の検討を通して、戦争中・戦争終結後における「戦争の克服」の諸相を解明するこ とにある。

当該研究は三部構成で、第一部(1, 2章)で、アメリカの戦争の特徴をなす「索敵作戦(search and destroy)」の展開とその帰結である「ソンミ虐殺」の実相について検討している。ソン ミ虐殺は決して孤立した事件ではなく日常的に発生していた出来事の一つにすぎず、それは人種 や文化的に異なるヴェトナム人、敵味方の区別がつかない中で実施された、米軍による索敵 (Search and destroy)作戦が無差別殺害に発展したことによる論理的帰結であると、藤本氏は軍事 作戦と戦争犯罪の関係を説明している。

第二部(3,4,5 章)において、戦争時の「戦争の克服」の試みである「ラッセル法廷」や米 国内での帰還米兵による「アメリカの戦争犯罪」告発の運動は民間人犠牲に着眼すること で「正義の戦争」観に挑戦したことに意義があると指摘し、しかも国際的連携・連関の文 脈でこれらの運動が展開されたことを明らかにした。ここでは、ラッセル法廷や帰還米兵によ る、米軍の戦争犯罪に対する米国内外における告発運動を体系的に調査・記述している。さらに 告発運動に対して米国政府が採った無視、過小評価、戦争の正当化、妨害的対応を詳しく記述し

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ており、戦争遂行上における Public Relations の重要性を米国政府が強く意識していたことを明ら かにした。さらに虐殺事件についても、アメリカ政府がもっぱら真相の秘匿や、悪影響拡大 の阻止に専念していたこと、軍上層部を含む、リンドン・ジョンソン政権~リチャード・

ニクソン政権の対応は、真摯な反省とも、事件再発防止のための努力とも、まして責任を とることとも無縁だったことを指摘している。

ついで第三部(6,7,8, 終章)では、第 6 章にて戦争終結後の米国内での「加害」の視点の 忘却・継承の諸相を検討し、第7章・第8章で、戦争終結後の「戦争の克服」の一例とし て帰還米兵によるヴェトナム民衆との「和解・共生」活動としての「マディソン・クェー カーズ」プロジェクトについて考察している。終章として、「アメリカの戦争犯罪」告発の 今日的遺産並びに「ソンミ虐殺」の記憶の継承とヴェトナム民衆との「和解・共生」創造 活動の可能性について言及した。また終章では、戦争後の米国社会においてヴェトナム戦争が どのように記憶されてきたのかという観点から、戦争直後から 9/11 後の時代までを振り返っている。

大統領にとどまらず米国政府・社会が戦争の記憶を再構成する中で、戦争犯罪の告発運動を忘 れ、ヴェトナム民衆に対する戦争責任を回避する傾向が存在することをいくつもの事例を挙げな がら指摘している。米国社会における加害意識の希薄さも指摘されており、一人日本の経験に留 まらず加害者の側の戦争観に類似性が存在することを意識させられる。

<論文審査の結果の要旨>

繰り返すまでもなくヴェトナム戦争は第二次大戦後の国際関係において最も重要な出来事の一つ と言える。しかしながら従来のヴェトナム戦争研究では、アメリカの政策決定者を中心とする外交史 研究や軍事史研究が中心で、ヴェトナム人被害者の視点から戦争をとらえ直した研究はほとんど なく看過されがちであった。米国でも最近ようやくタースやネルソンによる研究が先駆的に発表され ただけで、被害者の観点からの実証的な研究は日本語では初めてといえる。よって研究テーマは 適切なものであり、その学問的意義は十分に存在している。

先行研究として、本多勝一、陸井三郎、I. F. Stone といった日米のジャーナリストや New Left 学 者による同時代の研究に繰り返し言及しているが、実証面や体系性の面でそれらとは時代を画す る本格的な歴史研究となっている。精力的な一次資料の収集が本研究の主張の重要な下敷きとな っているのである。「ソンミ虐殺」については King’s College の Liddell Center for Military Archives、

「ラッセル法廷」についてはカナダ McMaster University Library、「ラッセル法廷」に対するジョンソ ン政権の対応については米国国立公文書館 II とジョンソン大統領図書館、ヴェトナム帰還兵の反 戦運動に関してはコーネル大学図書館、Wisconsin Historical Society 等々米国を中心に世界各 地で保管されている一次資料を収集・活用している。

当該研究は、米軍による索敵作戦はソンミに代表される虐殺の構造的原因であったと指摘して おり、その日常化がジェノサイドに繋がったと結論付けている。軍事作戦が虐待・虐殺をもたらすと いう構造は、ヴェトナム戦争に留まらず、その後の他の戦争同様、アフガン、イラク戦争等おいても 見られるという指摘は傾聴に値する独創的視点といえよう。イラクのファルージャ虐待とソンミ虐殺 が著者の視点を通じて繋がっていくのである。

本論文が着目した独自なテーマの今一つのものとして、アメリカ国外の反戦運動が、国

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内の反戦運動に及ぼした影響や遺産、とりわけ両者の連携が挙げられる。たとえば、いわ ゆるラッセル法廷がアメリカ国内の反戦運動に大きな刺激を与えたことが指摘されてい る。戦中であれ戦後であれ、アメリカの反戦運動に対する外からの影響や、双方向の影響 のメカニズムは、従来ヴェトナム戦争史研究の中でも十分明らかにされてこなかったテー マであり、本論文の貢献は非常に大きい。またヴェトナム戦争の帰還兵の告発が、現在の「アフ ガン・イラクの冬の兵士」公聴会に影響を及ぼしているという反戦運動側のつながりのもう一つの指 摘も大変興味深い。

ヴェトナム戦争終結以降に残された負の記憶について、歴代アメリカ政府が、記憶の封 印と克服をめざす内向きの努力を進めてきたことが指摘されており、その結果、アメリカ 国民が抱いた加害者たる意識は時を追って希薄化した。彼らはもっぱら自分たちの癒しを 求めた。国家レベルでヴェトナムの記憶が再構築された。元兵士は英雄に祭り上げられた。

強く正しいアメリカ像の復活と歩調を合わせて、国民も愛国心を取り戻していった。そうし た著者の視点からはカーターもオバマもヴェトナム戦争の責任を回避しようとしており、共和党・民 主党にかかわらず権力者としての大統領の限界についての言及も大いに興味深い。

当該研究は被害者・弱者の視点からの戦争研究という点でその視点は一貫している。ヴェトナム 戦争を冷戦の熱戦化というよりもむしろ民族解放戦争として説明しており、ヴェトナム民族の解放と いうゴールは、同様に抑圧された弱者としての米国社会における黒人に対する平等性の回復とい う目的と類似性をもつと述べている。その意味では米兵も戦闘行動の中で非人間化された被害者 の立場を持つと本研究は主張しており、被害者としての立場の共有は両者の和解の契機となりうる と語っている。

歴史理論の観点からは本研究の性格は外交史というよりも、ひとつには軍事作戦と戦争犯罪の 関係に関するもので、外国史・軍事史と平和研究の橋渡しを構成している。さらに戦争の告発に関 する第二部は社会運動史・平和運動史研究となっている。戦争に関する集団的記憶や歴史認識 の共有に関する第三部は集団・社会が共有する思想の研究という性格を帯びており、非常にユニ ークな歴史研究となっている。

理論的な観点から見て本論文が持つ拡がりの第一は、時間的な発展性、すなわち今日性で ある。たとえば、アフガニスタンでもイラクでも、ヴェトナムを彷彿とさせるような事象 が生じている。民間人への無差別攻撃、捕虜虐待などの発生、帰還兵の会・冬の兵士公聴 会といった組織による反戦の動きなどである。とくにラッセル法廷およびその遺産・継承 に脚光を当てた本論文は、研究上でも現実社会への影響という点でも、大きな貢献が認め られる。1990 年代の旧ユーゴスラヴィア内戦やルワンダなどでも、アフガニスタンやイラ クなどでも、ラッセル法廷をモデルとした国際民衆法廷の試みが展開されているからであ る。

本論文が持つ拡がりの第二は、空間的な発展性、すなわち普遍性である。本論文は、ア メリカにとってのヴェトナム戦争、ヴェトナムにとってのヴェトナム戦争、その両者を明 らかにすることによって、いわば二国間にまたがる歴史を再構成するものである。戦後の ヴェトナム戦争像についても、本論文は、負の記憶の継承・断絶のさまざまな試み、たと

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えばマディソン・クエーカーズ・プロジェクトを取り上げ、そこにヴェトナム人の死者も アメリカ人の死者も同じであるという意識の創成を見る。戦争の克服にせよ、和解・共生 の創生にせよ、相手とすべきは世界中で蔓延している暴力とそれを生み出す無知であり、

現代戦争そのものの本質に由来する問題である。本論文はアメリカ=ヴェトナム関係を超 えた、グローバルな普遍性を持つ研究といえる。

最後に当該論文の分量は 34 万字に届かんとする大部なもので、書式は一貫しており、注記や 文献リストも適切に備わっており、学術論文としての形式要件を十分に満たしている。

<試験または学力確認の結果の要旨>

本論文の公開審査は、2015 年 1 月 14 日(水)10 時~11 時 30 分まで洋洋館 977 号教室にて 行われた。

当審査委員会は、藤本博氏の学位請求論文の内容、公開審査会における報告および質疑 応答、そして藤本教授のこれまでの研究業績と経歴等に基づき、十分な専門性と豊かな学 識を有すること、また、本研究で用いられた広範囲の外国語文献・資料などから外国語能 力においても十分な力量を有していることを確認した。したがって、本学学位規程第25 条第1項により、これに関わる試験の全部を免除した。

以上のように、論文審査および学力確認の結果、当審査委員会は、立命館大学学位規程 第 18 条第 2 項に基づき、藤本博氏に「博士(国際関係学 立命館大学)」の学位を授与す ることが適当であると判断した。

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