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Academic year: 2021

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(1)

臨 床 報 告

進行性核上性麻痺,食道癌放射線治療により全量経管栄養管理から

全量経口栄養摂取可能となった一例

A Patient Had Been Fed by Total Tube Feeding Because of a History of Progressive Supranuclear Palsy and Radiotherapy for Esophageal Cancer Was Able to Be Fed by Total Oral Intake

上杉 雄大,伊原 良明,野末 真司

皓太,髙橋 浩二

Yuta Uesugi, Yoshiaki Ihara, Shinji Nozue, Kota Hayashi and Koji Takahashi 抄録:緒言:今回,進行性核上性麻痺(PSP)の既往を有し,食道癌放射線治療後の摂 食嚥下障害によって全量経管栄養管理となった患者が,複合的な嚥下訓練が著効し,全 量経口栄養摂取可能となった症例を経験したので報告する。 症例:患者;76 歳男性。既往歴;PSP。現病歴;2016 年 4 月,胸部食道癌に対し, 陽子線化学療法を実施。2016 年 9 月,胸部食道の狭窄を認め,内視鏡下バルーン拡張 を三度施行するも,食道裂創を認めた。胸部食道の狭窄は残存。以降誤嚥性肺炎を繰り 返したため,嚥下訓練目的より当科紹介受診。現症;体重:52.7 kg,modified Rankin Scale 4,舌振戦あり,栄養摂取状況:藤島の嚥下 Lv1。VF 検査よりかき込み食い,口 腔期の運動障害,上部食道狭窄を認めたが,咽頭期には大きな問題は認められなかっ た。当科診断;食道癌放射線治療後,PSP による摂食嚥下障害。 経過:上記診断の下,口腔衛生指導,頸部ストレッチ,咀嚼訓練と並行し,嚥下調整 食学会分類 2013 の 1j より直接訓練開始した。食事ペースに注意するよう指導し,段階 的に食形態の調整を続け,藤島の嚥下 Lv は 7 まで改善した。 考察:本症例における誤嚥性肺炎の原因として,ペーシング障害,口腔期の運動障 害,上部食道狭窄が原因と考えられる。各原因に対し,複合的な摂食指導・嚥下訓練を 継続したことから,藤島の嚥下 Lv が 1 から 7 まで改善したと考える。 キーワード:高齢者,進行性核上性麻痺,食道癌,嚥下障害 緒 言 進 行 性 核 上 性 麻 痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は,1964 年に Steele らによって報告 され1),起立歩行障害,垂直性眼球運動,寡動,筋 強剛,発話障害や嚥下障害などの仮性球麻痺症状な どを認める2)。PSP の嚥下障害の合併頻度は,疾病 の 初 期 に は 16%程 度 で あ る が,進 行 と と も に 55~83%となることが報告されている3)。PSP によ る嚥下障害の進行に伴い,十分な経口摂取量が確保 できない場合には,経管栄養法の適用について検討 される。 食道狭窄は一般に食道炎の後遺症としてみられる ことが多く,胃食道逆流,感染症や放射線照射によ る食道炎が原因となり良性食道狭窄が引き起こされ ることが知られている4)。過去の報告では,化学放 射線療法後の食道瘢痕拘縮の発生頻度は 10%程度 とされる5)。食道瘢痕拘縮の治療としては,硬性ブ ジーやバルーン拡張術などが適応される6,7)。しか し,治療後も食道狭窄が残存した場合,狭窄部の食 塊通過障害による重度の嚥下障害を引き起こすこと が報告されている4) 今回,われわれは食道癌放射線治療後の食道狭 窄,PSP の既往を有した摂食嚥下障害によって全 昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座口腔リ ハビリテーション医学部門

Division of Oral Rehabilitation Medicine Department of Special Needs Dentistry, School of Dentistry, Showa University

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量経管栄養管理となった患者が,複合的な嚥下訓練 により全量経口栄養摂取可能となった症例を経験し たので報告する。 症 例 本症例報告は,患者本人および家族に十分なイン フォームドコンセントを行い,口頭により同意を得 たうえで行った。 患 者:76 歳,男性。 初 診:2016 年 9 月。 主 訴:口から食事がしたい。 家族歴:特記事項なし。 既往歴:2009 年頃より歩行時のふらつきを自覚。 2012 年 5 月に PSP の診断を受ける。2013 年頃,す くみ足に対しシンメトレル®100 mg の内服と,転 倒防止のため歩行器の使用を開始した。2014 年よ り言葉が出にくくなり小声が目立つようになり,す くみ足の程度,頻度も徐々に増悪を認めた。嚥下機 能に関しては,徐々に咀嚼が困難となり,舌の送り 込み不全が認められたものの,全量経口摂取可能で あった。 現病歴:2015 年 10 月に胸部食道癌の診断を受け る。この頃より,食道狭窄による嚥下困難感が出現 した。2016 年 4 月に胸部食道癌(cT3N1M0 Stage Ⅲ)に対し胃瘻を造設し,経管栄養に移行して,陽 子線化学療法を開始した(50Gy/25Fr)。CT・内視 鏡上で complete response が得られている。2016 年 9 月に上部胸部食道部の狭窄を認め,内視鏡下バ ルーン拡張術を三度施行し,三度目のバルーン拡張 術施行時に,食道裂創を認めた。食道裂創について は経過良好であったが,バルーン拡張術は追加実施 していない。その後,嚥下障害が悪化し,誤嚥性肺 炎を発症した。以降全量経管栄養管理となり,経口 摂取希望にて当科紹介受診となった。

口 腔 外 所 見:BMI 20 kg/m2,modified Rankin

Scale 4,認知機能良好,頸部可動域低下あり,安 静時に頻回の咳を認めた。藤島の摂食状況のレベ ル8)は Lv1 であった。 口腔内所見:Eichner 分類;A1,口腔衛生状態 不十分(OHAT;6 点),開口量 48 mm,軟口蓋挙 上不十分(偏位なし),舌運動不十分,舌振戦あり, 口唇閉鎖力低下あり(平均 9.1N:基準値 11N),湿 性嗄声を認めた(図 1)。呼吸状態は良好ではあっ たが,排出力は不十分であった。 嚥下造影検査(VF)所見:水分嚥下時は,舌送 り込み動作に大きな問題を認めず,嚥下反射の遅延 と嚥下後の少量の咽頭貯留は認めたものの,顕著な 喉頭侵入および誤嚥は認められなかった(図 2a)。 嚥下調整食 4 を用いた場合では準備期の延長と嚥下 反射遅延,かき込み食いを認めたが,顕著な嚥下後 の咽頭貯留,喉頭侵入および誤嚥は認められなかっ た(図 2b)。正面像より上部食道に食塊の通過障害 を認めた(図 2c)。 初診時臨床診断:食道狭窄および PSP による嚥 下障害,藤島の摂食・嚥下能力のグレード8)(Gr)5。 経過:初診時臨床診断として Gr5 と判断し,間 接訓練として咀嚼力の増強および食品を使用した巧 図⚑ 初診時嚥下機能評価

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緻性の向上を目的とした咀嚼訓練,頸部ストレッチ の実施と誤嚥性肺炎予防のための口腔衛生指導を 行った。咀嚼訓練においては,一般的に使用される ガム咀嚼では窒息のリスクが高いと考え,スルメイ カの一端を手指で把持したまま,もう一端を咀嚼す るよう指導した。バルーン拡張術施行時に,食道裂 創を認めた既往より,食道狭窄部の食塊の通過障害 に対して,バルーンカテーテルによる食道狭窄部の 拡大はリスクが高いと判断したため,食道狭窄部を 拡張することを目的とした訓練は今回実施しなかっ た。経口摂取を開始する際,食道狭窄部に食塊が多 量に停滞しないよう,VF 結果にて食道狭窄部に貯 留しにくい食品として嚥下調整食 1j を選択した。 間接訓練と併行して,1 日 1 回の嚥下調整食 1j を 使用した直接訓練を開始した(Lv3)。また初診時 の VF 結果から嚥下反射の遅延が認められたため, かかりつけの神経内科医と対診を行い,咽頭感覚の 賦活を目的として神経内科からの指示でシンメトレ ル®100 mg から 200 mg への増量を開始したが,精 神障害が疑われ,100 mg へ再度減量した。体重の 減少や熱発を認めず,直接訓練による全身状態の変 化を認めなかったため,訓練開始 1 カ月後に嚥下調 整食 1j を使用した直接訓練の回数を 1 日 3 回に変 更した(Lv6)。訓練開始 2 カ月後に食道癌の再発 疑いのため,消化器内科担当医より再度禁食指示と なった(Lv1)。しかし,検査結果にて再発所見は 認められなかったため,消化器内科担当医との相談 の下,訓練開始 3 カ月後に 1 日 1 回の嚥下調整食 1j を使用した直接訓練を再開した(Lv3)。訓練再 開後も熱発を認めなかったため,訓練開始 4 カ月後 に直接訓練回数を 1 日 1 回から 1 日 3 回,食形態を 嚥下調整食 1j から嚥下調整食 2-1 に変更した。こ の頃より経口摂取量増加に伴い,経口摂取による栄 養摂取量に合わせて経管栄養量を徐々に減少させ た。訓練開始 7 カ月後に VF 実施し,嚥下調整食 2-1 においては,顕著な喉頭侵入,誤嚥や食道狭窄 部での食塊貯留を認めなかったため,嚥下調整食 2-1 にて全量経口摂取を開始した(Lv7)。訓練開始 10 カ月後に咀嚼不全は認められるものの,リズミ カルな咀嚼運動が認められたため,食形態を嚥下調 整食 2-1 と嚥下調整食 4 を併用するよう変更し,消 化器内科担当医との相談の下,栄養状態および全身 状態を考慮して胃瘻抜去となった。経口摂取再開か らこのときまで体重の増減は認めなかった。しかし 訓練開始 15 カ月後に食道狭窄部に食品を詰まらせ, 他院にて食道に停滞した食品を内視鏡下で除去する ため救急対応となった。当院外来通院再開後,再度 a:側面像,水分嚥下後,白線内部は嚥下後 の少量の咽頭貯留を示す。 b:側面像,嚥下調整食 4 嚥下後。 c:正面像,嚥下調整食 4 嚥下後,白線内部 は食道狭窄部位を示す。 図⚒ VF 画像

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VF を実施した。VF 所見からは指導していた食形 態について準備期の延長が認められたものの,咽頭 期,食道期には大きな問題は認められなかった。 VF 結果を患者と患者家族に説明し,当時の摂食状 況について詳細な問診を行った結果,他院での救急 対応時には自己判断よりローストビーフなどの常食 を摂取していたことが判明した。患者および患者家 族と相談をし,食形態を嚥下調整食 3 に変更した (Lv7)。2019 年 5 月の外来通院時まで同様の食形態 となっていた(図 3)。その後,食道狭窄の進行を 認め,誤嚥性肺炎を発症し,他院にて入院加療と なった。1 週間程度の入院加療にて肺炎症状の安定 を認めたが,退院後,体重減少,ADL 低下,嚥下 機能低下により,主治医の判断の下,再び胃瘻を造 設した。ADL 低下に伴い,当科外来通院も困難と なったため,現在外来での経過観察は行っていな い。患者本人,患者家族からは,当科での治療によ り一時的にでも全量経口摂取が可能となったことに 対して満足しているとのことであった。本症例で は,放射線治療による食道狭窄,PSP による運動 機能の低下という 2 つの異なる要因に起因する摂食 嚥下障害患者に対して,医科との連携および食形態 の調整や摂食嚥下訓練を行うことで,全量経管栄養 管理の患者が一時的ではあっても全量経口摂取を行 うことが可能となった。 考 察 PSP における摂食嚥下障害では,口腔期障害と して舌の運動不良および協調不全に起因する食塊形 成不全や口腔残留,咽頭期障害として喉頭侵入や誤 嚥などが嚥下造影検査により認められることが藤島 らにより報告されている3)。また,放射線治療に起 因する食道狭窄は良性食道狭窄に分類され,食道の 内腔が狭くなることにより,固形の食物に対する嚥 下障害を引き起こすとされている4)。本症例では咀 嚼障害による準備期の延長,胸部における上部食道 狭窄を認めた。また,本症例では口腔清掃状態も不 良であったことが当科初診前に誤嚥性肺炎を発症す る要因となったと考えられる。 PSP による口腔期における咀嚼障害に対しては, 味や食感の刺激が内的リズム障害によるすくみの改 善に効果的であることが報告されている4)。本症例 ではスルメイカを用いて咀嚼訓練を行ったことが咀 嚼障害に対する直接訓練の効果を向上させる要因と なったと考えられる。 PSP 患者における国立病院機構での調査にて, PSP 患者の 9%でかき込み食いを認めることが報告 されている9)。それに加え,食道狭窄においては食 道の通過障害が起こる。そのため,本症例において は食道狭窄部における食塊の停滞のリスクは高いと いうことが想定された。食道通過障害に対しては食 形態の変更が有効であることが報告されており10) 本症例では咀嚼障害も認めたため,咀嚼訓練の指導 に加え,直接訓練の開始にあたっては食塊の停滞の リスクを減らすため,軟らかく,食塊形成が容易な 嚥下調整食が適応であると判断をした。VF 所見か 10 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 初診時 訓練開始時 訓練開始 1M後 訓練開始 2M後 訓練開始 3M後 訓練開始 4M後 訓練開始 7M後 訓練開始 10M後 訓練開始 15M後 訓練開始 34M後 訓練開始 35M後 経口摂取量 ︵ % ︶ Gr・ Lv 経口摂取量 Gr Lv 図⚓ 摂食嚥下状態の経過(経口摂取量・Gr・Lv の推移)

(5)

ら直接訓練開始時の適切な嚥下調整食品を選択し, 全身状態の変化や熱発がないことを確認しながら, 段階的に食形態を変更した。さらに適宜 VF 検査を 実施することで,食道狭窄部の通過障害を含めた, 嚥下機能の変化を評価した。しかし,患者および患 者家族に対する食形態の指導が不十分であったた め,外来と自宅での食形態の統一が図れておらず, 自宅での食道の停滞の発生が起こってしまったと考 えられた。その後再度患者および患者家族に対して 口腔清掃の方法,病態,食形態の統一の必要性を繰 り返し指導し,アドヒアランスの向上を図った。患 者および患者家族のアドヒアランスの向上を確認 し,段階的に経口摂取量の増加と食形態の変更を 行った。その結果,誤嚥性肺炎など体調に著変を認 めることなく全量経口摂取が可能となり,胃瘻の抜 去につながった。 注意すべき点として,PSP は進行性の神経変性 疾患であり疾患の重症度と嚥下障害の重症度が相関 することが報告されている11)。さらに,放射線治療 後の食道通過障害は経時的に悪化することが報告さ れている12)。本症例においては全量経口摂取再開 後,食道狭窄の進行から食道通過障害の悪化を認 め,再び経口摂取困難となり,胃瘻を造設した。良 好な治療成果を得た後も,慎重な経過確認が必要で あると考える。 結 論 今回われわれは PSP の既往を有し,食道癌放射 線治療後の摂食嚥下障害によって全量経管栄養管理 となった患者に対し,複合的な嚥下訓練を指導し, 全量経口栄養摂取可能となった症例を経験したので 報告した。 本論文に関して,開示すべき利益相反はない。 文 献

⚑)Steele,J. C., Richardson, J. C. and Olszewski, J.: Progressive supranuclear palsy. A heterogeneous degeneration involving the brain stem, basal ganglia and cerebellum with vertical gaze and pseudobulbar palsy, nuchal dystonia and dementia, Arch. Neurol., 10:333~359, 1964. ⚒)水野美邦:標準神経病学,第 2 版,p.277~278,医 学書院,東京,2012. ⚓)藤 島 一 郎:疾 患 別 に 診 る 嚥 下 障 害,第 1 版, p.186~191,医歯薬出版,東京,2012. ⚔)藤島一郎:嚥下障害―その病態とリハビリテー ショ ン ―,第 3 版,p.91~96,医 歯 薬 出 版,東 京, 1998.

⚕)Newaishy, G.A., Read, G.A., Duncan, W. and Kerr, G. R.:Results of radical radiotherapy of squamous cell carcinoma of the oesophagus, Clin. Radiol., 33: 347~352, 1982. ⚖)岡本浩一,二宮 致,丸銭祥吾,斎藤裕人,牧野 勇,中村慶史,尾山勝信,北川裕久,藤村 隆,太 田哲生:食道癌術後難治性吻合部狭窄に対して回収 可能な食道ステント留置を行った 3 例,Gastroenter-ol. Endosc.,56:3792~3797,2014. ⚗)日 本 消 化 器 病 学 会:消 化 器 病 診 療,第 2 版, p.323~325,医学書院,東京,2014. ⚘)才藤栄一,植田耕一郎:摂食嚥下リハビリテー ション,第 3 版,p.180~181,医歯薬出版,2016. ⚙)市原典子:進行性核上性麻痺患者における嚥下障 害の特徴と対策,医療,59:491~496,2005. 10)Groher, M.E. and Crary, M.A.:Groher & Crary の

嚥下障害の臨床マネジメント,第 1 版,p.126~131, 医学書院,東京,2011.

11)Warnecke, T., Oelenberg, S., Teismann, I., Hamacher, C., Lohmann, H., Ringelstein, E. B. and Dziewas, R.:Endoscopic characteristics and levodo-pa responsiveness of swallowing function in progres-sive supranuclear palsy, Mov. Disord., 25 : 1239~1245, 2010.

12)Yano, T., Yoda, Y., Satake, H., Kojima, T., Yagishita, A., Oono, Y., Ikematsu, H. and Kaneko, K.:Radial incision and cutting method for refractory stricture after nonsurgical treatment of esophageal cancer, Endoscopy, 45:316~319, 2013.

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