精神障害者ホームヘルプサービスに対する教育支援体制の充実化
広島国際大学看護学部 峯岸由紀子、酒井マリア、森 香保美、山下安奈 間 文彦、間裕美子、遠矢福子Ⅰ はじめに
1987(昭和 62)年に「精神保健法」が成立し精神障害者の社会復帰を促進することが提唱さ れて、国および公共団体に社会復帰施設の設置が定められた。1993(平成6)年には「障害者 基本法」が成立して、精神障害者が障害者として法的に位置づけられた。同年、精神保健法が改 正され、グループホームの法定化・精神障害者社会復帰促進センター創設が定められた。このよ うに日本における精神障害者施策は「入院中心医療から地域生活中心へ」という方向に着実に進 行してきた。 それに伴って、精神障害者の地域における生活支援の必要性が叫ばれ、1999(平成 11)年の 「精神保健福祉法」改正で、2002 年(平成 14)年から市町村等が精神保健障害者ホームヘルプ 事業を行うことが定められ、各地域において取り組みが開始されている。 ところで、精神障害者は、「障害」とともに「疾患」を併せ持つ人々であること、また、「障害」 の内容が、精神の機能障害からくる「能力障害(生活のしづらさ)」であり、身体障害や知的障 害とは異なった特性をもっている。その特性が充分に理解されていないと、生活支援を実施する うえで困難が発生することが予想される。 そこでわれわれは、本事業の法定化以前に行われた大規模な実態調査から、ホームヘルプサー ビスの実際におけるメリットや問題点、ヘルパーやコーディネーターが直面した困難やその対処 法を明らかにしようと試みた。また、1999(平成 11)年よりこの試行事業に取り組んだ大阪府 健康福祉部にて、大阪府における法定化以後の実態調査の結果の提供を受け、また担当者から聞 き取りを行った。さらに、呉市保健所西保健センターにても聞き取りを行った。これらの結果を 総合して、呉市における今後の精神障害者ホームヘルプサービスの充実化にとって有効な方策は 何かについて検討を行ったので、ここに報告する。Ⅱ.精神障害者ホームヘルプサービスの必要性と事業の法定化
1.社会的入院者の退院促進に伴う問題点
2002(平成 14)年 12 月の「今後の精神保健医療福祉施策について」(社会保障審議会障害者 部会報告書)によれば、国は 7 万 2 千人という具体的な数字をあげて、主として長期入院患者 の退院促進をうちだしている。これが実現されていくにつれて、大きな社会生活上の困難をかか え、援助の必要な精神障害者の2つのグループ1)が生じる。 ① 長期在院する精神障害者(社会的入院者) ② 社会生活に特別の困難をもつ在宅精神障害者 ①、②とも、単身者は、経済的に困窮して生活保護を受給し、職・住が得られない。しかも 親世代の多くは高齢で、経済的に困難、健康が低下する。この2種の患者に対する解決の手だてが、地域生活を支えるケア付きの「住宅サービス」と、ホームヘルプサービスを中心とした、「対 人個別援助サービス」である。以下は、後者にあたる「精神障害者ホームヘルプサービス」につ いて述べる。
2.精神障害者の「疾患」と「障害」
1)「疾患」と「障害」との共存 多くの精神障害者、とくに統合失調症をもった患者は、症状が軽減して退院した後も 長年月にわたって受診、服薬治療を継続する必要がある。 2)「障害」の特質2) 精神障害からくる行動特性は、情報処理機能の障害、認知・行動の障害と考えられ、これ は障害構造論の「機能障害」に該当する。そこから、日常生活や社会生活を遂行する上で多 くの困難を生じ、これが「能力障害(生活のしづらさ)」にあたる。 疾患 障 害 disease 一次的 二次的 三次的 機能障害 能力障害 社会的不利 impairment disability handicap 図1 WHO による障害の構造(1980 年)3) 3)疾病・障害および社会的支援の相互作用4) 幻聴や妄想などの疾病による精神の「機能障害」から、自宅に閉じこもったり(生活の「能 力障害」)、他者から偏見の目で見られる(「社会的不利」)ことにより、症状が一層悪化する。 反対に、日々の生活の支援や社会的不利の減少が、他の障害を軽減する。ここに、医療面へ の援助が主体となる訪問看護だけではなく、ホームヘルプサービスを実施する必要性と意義 がある。3.精神障害者ホームヘルプサービス(居宅介護事業)の法定化とケアガイドライン
1)精神保健福祉法による精神障害者ホームヘルプサービスの定義 1999(平成 11)年に改正された精神保健福祉法により、市町村が実施する「精神障害者 居宅生活支事業」が制定された。その1つに、「居宅介護等事業」があり、以下のように位 置づけられている。(同法第50条30項) 「精神障害のために日常生活を営むのに支障のある精神障害者につき、その者の居宅にお いて、食事、身体の清潔の保持等の介助、その他の日常生活を営むのに必要な『便宜』であ って、厚生省令で定めるもの(『介護等』という)を供与する事業」である5)。 この『便宜』の内容は、以下の3つに分類されている6)26) 。 ①家事に関すること (基準単価1,530 円) ②身体の介護に関すること (基準単価4,020 円) ③相談および助言に関すること (単価設定なし) 市町村による精神障害者ホームヘルプサービス事業は 2002 年(平成 14)年より実施に 移された。 2)精神障害者ケアガイドラインの作成7) 1995(平成7)年、厚生省(当時)障害保健福祉部に「障害者にかかる介護サービス等 の提供方法および評価に関する検討会」、およびその精神障害者部会が発足し、1998(平成10)年に、「精神障害者ケアガイドライン」が完成した。2000(平成 12)年には、三障害 合同の委員会が開催され、2003(平成 15)年には通常型の障害者ケアマネジメント制度が、 市町村の通常業務に位置づけられた。
Ⅲ 法定化前における全家連保健福祉研究所の調査・研究結果より
─全家連保健福祉研究所の調査・研究結果により明らかにされた精神障害者ホーム ヘルプサービスの意義・成果・問題点─1.調査の概要
1)全家連保健福祉研究所とは8) 1991(平成3)年に発足した当事者団体が運営する研究組織である。 1994(平成6)年には「精神保健福祉法」第 51 条2に基づく「精神障害者社会復帰促進 センター」に指定され、精神障害者の社会復帰促進に必要な研究・研修・啓蒙・普及の中 核センターとなっている。 2)調査の時期・対象・内容9) 法定化以前にも、精神障害者に対して、高齢者や通常の障害者援助の枠で、一部でホーム ヘルプサービスが実施されていた。これを調査の対象とした。 全家連保健福祉研究所は、1997(平成9)年に関東関西8都府県の各種ホームヘルプ組 織に対して、また1998(平成 10)年に全国の市町村全数(3,261 市町村)に対して取り組 み状況の実態調査を行った。調査方法は表1を参照のこと。(表1)2.調査より明らかになった精神障害者ホームヘルプサービスの意義
10) 1) 精神障害者本人の福祉の向上 ① 地域生活上のニーズの充足 ② 地域生活の維持 ③ 社会的入院から地域生活への移行の促進 ④ 「生活の質」の向上 2) 家族の福祉の向上 ⑤ 家族の負担軽減、福祉の向上 3) サービス提供者側に対する意義 ⑥ 精神科医療を必要とする人たちへのアプローチのきっかけの提供 ⑦ 精神障害者に関わる多様な人材の形成 ⑧ 新しいリハビリテーションプログラムの発展 4) 一般社会に対する意義 ⑨ 精神障害者についての正しい理解の促進、偏見の是正 ⑩ 障害種別間の福祉サービス格差と市町村間精神障害者施策格差の是正3.調査より明らかになった援助の内容と特徴
1)精神障害者版ケアリストの特徴11) すべての援助項目に関して、①3つの援助領域と、②2つの援助提供方法(関わり方) の2つ観点から明らかにしている。 ⑴ 3つの生活援助領域12) 調査に先立ち、全家連保健福祉研究所では、精神障害者の障害の質をふまえて、3つの表1 法定化前における全家連の調査の概要 (「精神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望」 p.82 より引用) 関東関西調査(1997 年) 全国市町村 調査(1998 年) 二次調査 一次調査 コーディネーター調査 ヘルパー調査 利用者調査 全国の全ての市町 村 対 象 全 て の 市 町 村 ・ 社 協・把握できた非営 利団体 「精神障害者」にサービス提供していた 団体/組織 事 例 調 査 対 象者 対 象 数 498 市町村 498 社協 339 非営利団体 137 団体(65 市町村、33 社協、39 非営 利団体) 137 人 3261 市町村 種 類 自記式 郵送調査 調査員による質問紙を用いた面接調査 自 記 式 を 原 則とする 自記式 郵送調査 調 査 票 団体調査票 対象者リスト 団体票 コ ー デ ィ ネ ー タ ー 個 人票 ヘルパー 個人票 利用者票 団体調査票 対象者リスト 実 施 期 間 1997 年 9 月∼12 月 1997 年 12 月∼1998 年 6 月 1998 年 12 月∼ 1999 年 2 月 回 収 数 402 市町村 366 社協 262 非営利団体 137 票 134 票 47 票 2455 市町村 回 収 率 市町村 80.7% 社協 73.5% 非営利団体 77.3% − − 34.3% 75.3% 表2 精神障害者を持つ人を対象にしたホームヘルプサービス (「精神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望」 p.98 より作成) (a)家事業務 ①[調理] ②[買物] ③[掃除] ④[洗濯] ⑤[衣類・日用品の整理・整頓] ⑥[その他]ゴミ出し (b)パーソナル ケア(個人生活行 動への援助) ⑦[更衣・清潔] ⑧[通院・受療の援助] ⑨[服薬の援助] ⑩[食生活・健 康面の配慮] ⑪[金銭管理] ⑫[役割遂行や日中の過ごし方] <社会性に関する支援>⑬[外出同行] ⑭[日常生活行動・生活の知恵支 援]情報提供・手続きの支援・火の始末への配慮、電話・交通機関の利用 ⑮[社会とのつきあい方などの助言] (c)関係作り ⑯[関係作り] 声かけ、日常会話、信頼関係づくり、安心感づくり、話し 相手
領域に区分される16項目のケアリストを作成した。(表2) ⑵ 援助提供方法(関わり方)の2つの種類13)(表3) 表3 援助提供方法の2 つの種類 (「ホームヘルプガイドライン基づく精神障害者ホームヘルプの進め方」 p.85-86 より作成) (ア)代行援助 ヘルパーが利用者に代わって行う援助で、主に家事援助で行われる。 (イ)見守り・助言 どのように日常生活をとっているのか目を配りながら、適時にそれに合 わせた言葉をかけたり、また、慣れていない行動に対する利用者の不安 の軽減をはかることである。 2)調査結果14)(表4、図2) 表4 2つの観点から見た援助の特徴 (「精神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望」 p.102 より作成) ①援助領域別 「関係作り・話し相手になる」が9割と最も高く、次に食事の準備・調 理、買い物、清掃、などの家事援助が多くそれぞれ7∼8割を占めてい た。ついでパーソナルケア(個人生活行動への援助)などであり身体介 護はわずかであった。 ②援助提供方法 (関わり方)別 代行援助の方法は、家事援助で多く見られ、見守りや助言は「食生活・ 健康管理に関すること」「役割遂行・日中の過ごし方」「服薬管理」とい ったパーソナルケアにおいて多かった。 図2 各援助項目ごとの関わり方別割合 (「精神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望」 p.102 より作成、n=134) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 食事の準備・調理 買い物 清掃 日用品・衣類の整理・整頓 洗濯 更衣・清潔 食生活・健康管理 通院・受療 服薬 金銭管理 暮らしの知恵の支援 役割遂行・日中の過ごし方 社会との付き合い方 外出・同行 関係作り・話し相手になる その他 % 代行 見守り・助言 (文献14 p.102 より作成、n=134)
4.サービス実施上の困難点と課題
精神障害者へのサービス提供にあたり、サービス従事者が精神障害の特質によってひきおこさ れる困難を抱えていること、研修体制の充実、関係機関との包括的な連携体制などの条件整備が 必要であることが示された。 1)ヘルパーが感じている援助の困難点15)(図3) 「状態の変化や気分の浮き沈みが激しく対応に困る」「関わり方やコミュニケーションの とり方がわからない」「服薬」「通院・受療」など、精神障害の特質に関連して困難を招いて いることがあげられた。 これらは①医療情報の不足、②関係づくりのむずかしさ、の2 点に整理される16)。 従って、これらに関してヘルパーを教育・支援することが必要になってくる。 2)組織内外のコーディネーション技術17) ①援助関係の構築、②サービスコーディネーション、③ヘルパー支援、④他機関との連携 があげられていた。 図3 ヘルパーが感じている援助の困難点 (「精神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望」 p.107 より作成) 26 29 22.4 8.4 46.1 29.8 9.2 24.4 0 10 20 30 40 50 関係 作りに 苦労 する 関わ り方 がわ からな い 細か い方 法ま で指 示し 身に 覚え のな いこと を責 められ る 状態 の変 化が 激しい ので 対応 に困 る 医療 面の 情報 が入 らず 不安 その他 困難 はな い %Ⅳ.法定化後の、大阪府における調査より
1.大阪府健康福祉部が実施した実態調査
1)調査の概要18) 大阪府は、1999 年(平成 11)年より 3 年間、「精神障害者ホームヘルプサービス試行事 業」を行った。大阪府健康福祉部精神保健福祉課では、本格開始後の2003(平成 15)年7 ∼8月に事業所305 か所に郵送調査(第一次調査)、同年 11 月∼2004(平成 16)年 2 月に かけて、事業所60 か所に戸別訪問聞き取り調査を行った(第二次調査)。その結果を「進 め!ほーむへるぷin おおさか」と題して、2004(平成 16)年 3 月に公表した。表5 大阪府健康福祉部による実態調査 (「進め!ほーむへるぷin おおさか」 p.7 より引用) 第一次調査 第二次調査 期間 平成15年7月22日∼8月7日 平成15年11月25日∼16年2月 16日 対象 全ホームヘルプ届出事業所 1244ヶ所中 400ヶ所 (精神ホームヘルプサービス届出事業所 95ヶ所とその他の事業所のうち、運営法 人ごとに層化無作為抽出した 305 ヶ所) 第 1 次調査回収事業所197ヶ所中 聴き取り調査協力表明のあった事業所1 37ヶ所のうち、60ヶ所(全実施事業所 50ヶ所と未実施事業所から抽出した10ヶ 所) 回収数 197 60 調査方法 調査票郵送 個別訪問による聴き取り 内容 事業所母体 規模 派遣状況 派遣の 課題と効果 事業所の工夫 特別研修 受講状況と今後の意向 ホームヘルプサービスを円滑にすすめる ための具体的な工夫についてのヒントを 現場取材から得る 2)調査結果より ⑴ 精神障害者居宅生活支援事業所の現状19) 事業を実施していくうえで何らかの困難を感じているのが85%あり、その内容は「援 助方法や利用者の対応で困難」が51%、「精神障害者を担当できるヘルパーが少ない」が 42%、「費用(採算性の問題)」36%の順であった。(図4) 一方、83%が事業実施のメリットを感じており、「やりがいがある」(48%)「地域の関 係機関との連携が広がった」(37%)「他のサービスにもよい影響がある」(31%)「より 専門性を高めることができた」があげられていた。(図5) 図4 事業を実施していくうえで感じている困難 (「進め!ほーむへるぷin おおさか」 p.12 より引用) ヘルパーが少ない 21% 援助方法や対応 で困難 25% 情報が得にくい 14% 医療・保健・福祉 機関との連携がと れにくい 10% 行政機関との連携 がとれにくい 6% 費用の問題 18% 無回答 6%
図5 事業をすることによるメリットの具体的内容 (「進め!ほーむへるぷin おおさか」 p.15 より引用) 0 5 10 15 20 25 30 やり がいが ある 地域 の関 係機関 との 連... 専門性 を高め るこ とが できた よい 影響 が現 れて いる その 他 件 ⑵ 援助における困難と問題点 予想以上に大変だったこと20)は、「関係作り」(24%)、「本人・病気の理解」(22%)、 「電話への対応」(6%)「行政との関係」(4%)(図6) 苦情・トラブルの具体的な内容21)(複数回答)は「キャンセル」(15 件)、「病状悪 化時の対応」(11 件)、「障害との付き合い方がむずかしい」(8 件)、「事業所にかかって くる頻回、長時間の電話」(6 件)「サービス時間の超過」(5 件)「ヘルパーへのセクハラ」 (5 件)「へルパーの交代」(2 件)「口調」(2 件)(図7) 図6 予想以上に大変だったこと (「進め!ほーむへるぷin おおさか」 p.29 より引用) 関係作り 24% 本人への理解 22% 特になし 8% 電話への対応 6% 行政との関係 4% その他 28% 不明 8%
図7 苦情、トラブルの具体的な内容 (「進め!ほーむへるぷin おおさか」 p.41 より引用) 0 5 10 15 20 ドタキ ャン 、キ ャン セル 病状 悪化 セク ハラ 頻回 ・長 時間の 電話 時間 オー バー ヘルパー 交代 つき あい 方が むずか しい 関係作 り 件 ⑶ 未参入事業所へのアドバイス22) 「まず始めてみよう」(14%)「日常の関係機関との連携が大切」(14%)「事前の情報 が大切」(10%)「力量のあるヘルパーを」(10%)「精神障害者への理解をしておく」 (8%)「ヘルパーへの支援体制を」(4%) ⑷ 教育・研修の充実に対する強い要望 ① ヘルパー向けのミーティング23) 「事業所主催での研修・学習会を行っている」(30%)「ミーティング・会議で対応」 (26%) ② コーディネーターが望むサポート24) 「他の機関との連携や関係機関で構成される地域の会議」(30%)「サポートとし て研修や交流を希望する」(24%)「カンファレンスや事例検討会への希望」(14%) 「専門的な相談先からのサポート」(12%) ③ 上乗せ研修への希望25) 「内容の充実」(34%)〔現場での実習や同行訪問 14 件、フォローアップ・スキ ルアップ研修12 件〕 「受講の機会を増やしてほしい」(15%)「広報の徹底」(4%) ⑸ 調査結果のまとめ 大阪府の調査では、上述の内容のほかに、事業実施のなかでおこった困難にどのように 対処しているかについての設問がなされていた。種々の困難に対しては、さまざまな工夫 しながら一つ一つ実践を積み重ね、その経験から支援や対応の仕方を普遍化させ、利用者 の好転の様子をみながらやりがいを感じているヘルパーやコーディネーターの姿を彷彿 とさせる結果であった。
2.大阪府
健康福祉部 障害保健福祉室から提供された説明・資料より
1)調査の概要 ⑴ 調査対象および実施時期 大阪府健康福祉部障害保健福祉室精神保健福祉課主査、2004(平成 16)年 12 月 14 日⑵ 調査方法および内容 2003(平成 15)年 4 月から 2004(平成 16)年 3 月までの大阪府における精神障害 者ホームヘルプサービスの実施状況に関して、半構成的面接を行った。 2)精神障害者の実態 大阪府の精神障害者数(政令指定都市の大阪市は除く)は、推計 85,550 人で、精神障害 者保健福祉手帳受給者数は18,115 人、なお、精神による障害者年金受給者数は不明である。 また、通院医療費公費負担受給者数は70,329 人である。 3)精神障害者ホームヘルプサービスの概要 ⑴ ホームヘルプサービス指定事業所数・利用状況 福祉法人、NPO、医療法人、財団法人を含む 103 ヶ所・1,208 人である。 平成15 年度、精神障害者ホームヘルプサービス利用実績は、利用者数 876 人、 ヘルパー常勤者361 人、非常勤 667 人であった。 ⑵ 提供されたホームヘルプサービスの内容・特徴 ① 訪問回数と時間 訪問回数延べ 38,776 回、延べ時間 64,059 時間 ② サービスの内容と特徴 身体介護 46,120 時間、家事援助 14,985 時間(利用者数 876 人) 家事援助に比較して身体介護が多い理由として、利用者と一緒に買い物に行く、料 理をする援助は、身体介護に分類している。 ⑶ サービスにおける困難点と配慮点 市町村対象に行われた調査を参照のこと。 ⑷ バックアップ体制について 本事業開始と同時に3年間、大阪府全保健所の専門職員(PSW)を市町村(各保健所) に派遣し技術支援を行っている。 4)精神障害者ホームヘルパーの養成 研修時間 国は9 時間と定めているが、大阪府は 12 時間行っている。 表6 研修内容(カリキュラム) ① 精神障害者の人権と期待されるヘルパー像 ② 精神障害者への施策 ③ 精神医学の基礎知識 ④ 統合失調症・人格障害 ⑤ 精神障害者が利用できる社会資源・制度 ⑥ 精神障害者ホームヘルプの実際 5)精神障害者ホームヘルプサービスの評価の方法と成果 特定の方式による組織的・系統的な評価は特に行われていない。 6)今後の課題と方向性 システム化、カリキュラム・研修のフォローアップの制度化、全国的な連携 7)精神障害者ピア・ヘルパー養成事業26) ⑴ ピア・ヘルパー事業を受け入れた理由 1999(平成 11)年に開始された試行的事業は、①ホームヘルパーの派遣、②精神障害 ホームヘルパーの養成、③評価検討委員会の3事業からなっていた。評価検討委員会のな かで、当事者団体を代表する委員から、「過緊張と予期不安タイプが多い精神障害者が安 心して利用できるホームヘルプ事業は何か」との問題提起がなされた。それに対し当事者 が対等な立場(ピア・Peer)性で支援をすることが提案され、2002(平成 14)年よりピ
ア・ヘルパーの養成事業が開始された。 この養成事業は、(1)精神障害者の利用しやすいホームヘルプ事業とする、(2)精 神障害者のエンパワーメントとリカバリーをはかる、の2つの目的をもっている。 ⑵ ピア・ヘルパー講習会の期間と講習内容 ホームヘルパー2 級課程 132 時間に精神障害者ホームヘルパーとしての特別研修 12 時 間(国の規定では9 時間)、合計 144 時間を約半年間かけて養成した。 運営にあたっては当事者の複数意見を入れ、精神疾患の特性をふまえた「ゆっくり 講習会」を実施した。また、当事者と支援者のペア受講とした。研修内容としてメンバ ーが何について学びたいかを聴いた上でカリキュラムを作成している。 ⑶ 精神障害者就労施策としてのピア・ヘルパー 病院や施設から障害者を紹介(推薦)してもらい、研修終了し資格を取得後は、紹介 者や施設に雇用を考えてもらっており、現在13 名が雇用されている。 ⑷ ピア・ヘルパー導入の効果と今後の課題 ピア・ヘルパーが生き生きと仕事をし、利用者が自覚を高めている。一方で、家事のや り方や時間の使い方が下手であるなどの問題点も指摘されている。フォローアップ研修の 実施、内容について検討が必要である。 8)その他 社会的入院解消事業、自立支援促進事業、アドボカシー制度など
Ⅴ 呉市の精神障害者ホームヘルプサービスの現状調査報告
1.調査の概要
1)調査対象および実施時期 呉市保健所西保健センターの精神保健担当保健師、2004(平成 16)年 12 月 24 日 2)調査方法および内容 2003(平成 15)年 10 月から 2004(平成 16)年 12 月までの呉市における精神障害者居 宅生活支援事業(ホームヘルプ)の実施状況についての半構成的面接調査を行った。2.調査結果
1)精神障害者の実態 呉市在住の精神障害者の実数は明らかではないが、「精神障害者保健福祉手帳受給者数」 は891 名(1 級 105 名、2 級 665 名、3 級 121 名)ある。「通院医療費公費負担受給者数」 は 1.573 名で「精神障害者保健福祉手帳」と「通院医療費公費負担」の両方受給者は 779 名であり、「精神による障害者年金」申請者は350 名であった。 2)精神障害者居宅生活支援事業所について 呉市の精神障害者居宅生活支援事業(ホームヘルプ)の指定事業所は 6 事業所であり、 設置主体は「社会福祉法人」が1 件、「特別非営利活動法人」が1 件、「医療法人」が1 件、 「社団法人」が1件、「医療法人社団」が2 件であった。 指定事業所6 か所のヘルパー数は 53 名であり全員女性であった。 3)精神障害者ホームヘルプサービス事業内容 2003 年 10 月∼2004 年 12 月までの利用者数は、延べ 10 名(実人員 7 名)であった。 診断名はうつ病2 名、躁鬱 2 名、統合失調症 1 名、躁鬱・人格障害 1 名、うつ病・人格 障害1 名であり、世帯構成をみると単独世帯が 5 人であり、2 人は家族と同居している。ホームヘルパーの派遣回数と派遣時間は明確ではないが、初回の訪問は地域精神保健福祉 相談員(保健師)とヘルパーが一緒に訪問する。2 回目以降は、基本的にヘルパーだけが訪 問するが一月に一度は保健師が訪問している。しかし、月一回の保健師訪問の実施は困難で ある。 サービス内容は、家事援助(調理、整理整頓、掃除)であり、身体介護の利用は無い。 2∼3 ヶ月でモニタリングを実施するが、ホームヘルプサービス実施評価会議は行なってい ない。 4)精神障害者ホームヘルプサービス事業運営上の困難点と配慮点 ⑴ 利用者が、契約されたサービス内容以外のサービスを望む場合など たとえば、部屋の模様替えなど、日常的には行わない事の要求や、掃除(本来の契約内 容)は自分ですませたので買い物についてきて欲しいなどである。ホームヘルプサービス は自立支援が目的であり、利用者の自立がどのような状態であるかについて悩むことが多 い。また、6か月という期間内で達成可能な目標を具体的に設定しておかないとサービス の終了・継続の判断が難しくなる。 ⑵ 身体疾患の合併症がある場合 その種類や症状によってはホームヘルプサービスよりも訪問看護の利用が適切と判断 できるケースがある。現在は、ケアアセスメント票(精神障害者ケアガイドラインによる) を用いて主に保健師がアセスメントを行っているが、他職種が関わっているケースはケア 会議の日程調整・根回しなど細かい調整に時間がかかる。 アセスメント、ケア計画、ケア会議と手続きが煩雑であるが、今後は効率的な実施を目 指している。また、市町村合併を考慮しスムースなシステムを作る必要がある。 ⑶ 利用者が人格障害である場合 利用者との援助者との人間関係の成立や支援のあり方が困難である。 ⑷ 利用者のニーズのアセスメント アセスメント票を用いて保健師が行い、その結果は保健師が利用者と面接または電話 で伝え確認を行っている。訪問看護等の他職種の関わりがある場合はアセスメントの時 点で話し合う場を設けている。また、ヘルパーは担当制としているが継続サービスの場 合に利用者から指名されるケースもある。このような利用者の希望に関し可能な限り対 応するようにしている。 5)精神障害者ホームヘルパー養成特別研修について 「精神障害者ホームヘルパー養成特別研修事業実施要綱」に基づき精神障害者居宅介護等 事業に従事しようとするホームヘルパーに対し、必要な知識、技能を修得することを目的と し、大学教員と精神病院勤務精神保健福祉士を講師に招き2日間の研修(9時間)を行って いる。
3.呉市の精神障害者ホームヘルプサービスの問題点
1)ホームヘルプサービス利用数が少ないことについて 呉市に在住する精神障害者の全数を把握するのは困難であり、精神障害者保健福祉手帳の 受給と精神疾患による障害年金の受給を重複して受けている者の数が明確ではない。従って、 ホームヘルプサービスの利用を申請できる精神障害者の数は特定できない。しかし、精神障 害者の数はおおよそ 2,000 人弱ではないかと推察される。サービスの提供を開始して 1 年 余りの期間にホームヘルプサービスを利用したものが10 名であるというのはかなり少ない のではないかと思われる。 その理由として以下のような点が考えられる。① 対象者への周知の不足 市が実施している精神障害者居宅生活支援事業のホームヘルプサービスの存在およ びサービス内容の周知度、利用申請手続きの手間、精神障害の受容、精神障害者に対す る周囲の偏見などが関与しているのではないか。 ② 既存の各施設によりすでにサービスニードが充足されている可能性 呉市には精神科の病院・医院が7か所あり、そのうち訪問介護事業を実施し精神障害 者ホームヘルプサービスの指定事業所になっているところが6施設ある。精神保健福祉 法の改正に伴い市町村が精神障害者のホームヘルプサービスを行うことが法定化され る以前からホームヘルプサービスの需要がありそれを提供していたことから考えると、 あえて市のサービスの利用申請を行うことに必要性を感じていない精神障害者が多い のではないかと思われる。 ③ 利用者の資格の問題 市のサービスは利用申請するには条件(3 項)があり(表7)、さらに介護保険の対 象者は該当しないことや、同居している家族が介助・介護を行っているのではないかと いう理由も考えられる。 表7 呉市における精神障害者ホームヘルプサービスを申請できる条件 <利用できる方>次の項目のいずれにも該当し、精神障害のために日常生活を営むのに支 障があり、食事および身体の清潔保持等の介助等のサービスを必要とする方 (1)呉市に住所がある方 (2)精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方または精神障害を支給事由とする障害年金 の給付を現在受けている方 (3)定期的に通院し、病状が安定していると主治医によって判断された方 しかし、実際に精神障害者を対象として市のホームヘルプサービスの利用希望について調 査を行っていないので利用者数が少ない理由について明言することはできない。調査により この点を明らかにし、ケアニーズを掘り起こす必要があると考えられる。
Ⅵ 考 察
1.法定化前・法定化後の調査結果からみるサービス支援の必要性
1)法定化前の全家連による調査の今日的意義 この調査が行われたのは1997、1998 年である。すでに現在まで7∼8年を経過しており、 その間、精神障害者ホームヘルプサービスの試行事業を経て、2002 年からは市町村におけ る本格実施も開始された。従って、現在は当時の調査結果とはかなり異なっている可能性が ある。にもかかわらず、以下の点において依然高い価値をもっている。 ① 精神障害者ホームヘルプサービスの効果と意義を明らかにした。 ② 精神障害者の「障害の特質」から引き起こされるケアニーズと、当時実際に行わ れていた援助の特徴を明らかにした。 ③ 精神障害者ホームヘルプサービス実施上の困難と問題点を明らかにした。 ①と③については、大阪府の調査でも類似の結果が示された。 2)精神障害者ホームヘルプサービス実施における困難と問題点 いずれの調査においても、困難の第1は、「ヘルパーの利用者に対する援助の方法」に関 するもので、続いて、「組織内外のコーディネーション」の問題があげられた。従って、この事業を進展させていくうえで、特に、精神障害者への「援助技術・方法」の 問題の改善は不可欠である。 3)精神障害者への「援助技術」の向上のために ⑴ ケアニーズのアセスメントと実施評価 全家連の調査は「障害の特質」から引き起こされるケアニーズと、実際に行われていた 援助の特徴を明らかにした。また、精神障害者ケアガイドラインとアセスメント用具も開 発されている。けれども、実施されたケアの評価方法は確立されていない。 大阪府の調査では、ケアの評価は、事業所で行う事例検討やカンファレンスでとりあげ られているが、評価表を用いての系統的な評価は未実施であることが示された。 ⑵ ケアの分類・内容の曖昧さの解消 全家連が調査時に、精神障害者の「障害の特質」から「(a)家事業務、(b)パーソナル ケア、(c)関係作り」を設定したのは画期的であったと考えられる。 けれども、法的な基準ではこの考え方が活かされていない。厚生労働省の示す事業実施 要綱では、精神障害者居宅介護事業で提供できるサービス内容は「①家事援助、②身体介 護、③相談・助言」となっている。しかもそれぞれの具体的内容は明確に規定されていな い26)。そのため、ヘルパーが当事者と一緒にする炊事や清掃など家事や外出の見守りは、 身体介護中心業務であり、家事援助中心業務ではないとされる。また、家事援助と身体介 護の利用比率が、大阪府と呉市では逆転しており、これは現実を反映しているというより、 法文のあいまいな規定に起因すると思われる。 さらに、相談・助言については、とくにピア・ヘルパーに期待される援助であるが、単 価設定すらされていない。 公的な拘束力をもつ事業実施要綱におけるケアの分類が、「障害の特質」に基づいて 明確に規定されなければ、ニードに適合したケアを事業として行うのは難しいと考えられ る。 従って、精神障害者への援助技術を高めるためには、まず、①ケアニーズのアセスメン ト、②疾患や障害の特質に適合した具体的な援助方法、③行ったケアに対する評価方法を、 一貫性のある体系に立脚して確立していくことが、法的またはそれに準じたレベルで要請 される。 4)ホームヘルパーに対する教育支援 いずれの調査でも、知識・技術の指導が不足しており、そのためヘルパーが不安をもって いること、より継続的な教育支援を希望する声があがっていることが示されている。3)で あげた内容、特に、疾患や障害の特質に適合した具体的な援助方法は、サービスの現場で必 須の知識・技術であり、ヘルパーに対して、これらを指導していくことが不可欠である。
2.法定化後の大阪府の調査、および呉市の調査からみたサービス支援の必要性
1)「疾患・障害」の特質の変化への対応 2つの調査はいずれも最近の結果であり、近年現われてきた「疾患・障害」の特質による 援助における困難さが表面化している。 それは、「身体疾患合併症」の対応、および「人格障害者」への対応である。これは病棟 で常時治療・看護に携わっている医療者にとっても難しい問題であり、在宅でホームヘルパ ーが直面した場合、いっそうで困難であることは容易に推察できる。 これらを含む「疾患」とそれに伴う「障害」の特質の理解には、専門的な知識を必要とす る。ヘルパーだけでなくコーディネーターにとっても、継続的な症例検討を行って、医学的 知識を充実しそれに基づいた援助技術を高めていく教育が必須であると考える。3.呉市におけるより効果的なホームヘルプサービス実施に向けて
1)現状における問題点と対策 ⑴ 利用者からの声 現在、市が実施している精神障害者に対するホームヘルプサービスについて利用者 からの苦情や問題は挙げられていない。このことは、ヘルパー、保健師の利用者に対 する関わり方がよいからだと思われる。一方、苦情を言うことによりサービスの提供 が打ち切られるかもしれないという不安があることも考えられる。 ⑵ サービスを提供する側の困難な点 契約以外のサービスを求められること、人格障害者や、身体疾患を合併しているケース への対応、自立支援の視点からの目標設定の難しさなどが挙げられている。 これらの問題に関しては、担当者がカンファレンスを行うなどその都度問題の解決を 図っている。 2)ホームヘルプサービスの「評価」の必要性 その都度の事例検討だけでは解決できない問題もある。 また今後、市町村合併により精神障害者の数は増加し、合併以前の各町村のサービス提 供状況と合併後のサービス提供状況が異なることも予測される。従って、実施されたホーム ヘルプサービスの組織的・系統的な評価を行う必要がある。 ただし、組織的・系統的な評価方法が確立するまでには、その前段階として、多数の事例 に関して、詳細な検討を繰り返し行っていく必要がある。その事例検討においては、ヘルパ ーやコーディネーターだけでなく、医師、病棟勤務の看護師、看護学部教員、保健師、PSW など関係職種が緊密な協働をするのが望ましい。 3)ホームヘルパーへの教育支援の必要性 より効果的なホームヘルプサービスの実施に向けて、さらに、ホームヘルパーへの教育支 援が必要である。継続的な教育を支援していくためには、まず、どのような内容を支援して いくのか、どのような方法で支援を行うか、誰が支援を行うかについても検討を必要とする。 明らかになっている問題を解決していくためにはヘルパーの教育支援は必要不可欠である。4.まとめ
ホームヘルプサービス事業の法定化以前・以後の実態調査、および大阪府・呉市における聞き 取り調査を総合して、以下のような課題が導かれた。 1)個別の援助関係・援助技術に関して ① 日常生活援助ニーズ(ケアニーズ)の明確化と顕在化 ② ニーズに合致した援助方法・援助技術方法、および評価方法の確立と発展 2)直接援助技術を提供するヘルパーへの教育・支援の必要性 統合失調症・躁状態・人格障害者への関わりがむずかしいこと、また、糖尿病など身体疾 患合併症への対応が困難である実態が強く示唆された。これらに関しては、ヘルパーやコー ディネーターを対象に、医師・看護師・保健師・PSWが協同して、疾患理解や事例検討な どの継続的な研修を実施してゆく必要がある。 3)システムとしての援助 ① サービス提供組織内のケア・コーディネーション体制の確立 ② 保健や医療との連携・協働 4)制度としての確立 第一に、明確化されたケアニーズの分類に対応した、支援事業(日常生活援助)の適切な分類と基準単価の設定がなされることが望ましい。
Ⅶ おわりに
全家連の調査、大阪府の調査、呉市における調査から、精神障害者の地域における生活支援 の一つの方法として、ホームヘルプサービス事業の重要性が認められ、多数のヘルパーやコーデ ィネーターが、困難を感じながらもさまざまな工夫・努力によって乗り越えようとしている実情 が明確に示された。 この事業の法定化以前に、大規模な調査を敢行し、制度発足を促した「全家連保健福祉研究所」 の母体となっているのは、当事者の家族会から構成される連合組織「(財)全国精神障害者家族 会連合会」である。 また、大阪府では、当事者がより事業を利用しやすくすることと、当事者自身のエンパワーメ ントとリカバリーを目的としてピア・ヘルパー養成事業が行われ、実際に就労して一定の評価を 得ている。 これらのことから、精神障害者ホームヘルプ事業の推進には、当事者自身の力が大きくかかわ っていること、社会的偏見などさまざまな障碍に立ち向かって非常な努力をされた結果の賜物で あることを見逃してはならないと考える。 ところで、2004(平成 16)年 11 月 14 日付けの中国新聞記事によれば、厚生労働省が、11 月13 日に、介護現場で働くための資格要件を国家資格の介護福祉士に一本化する方針を固めた という。介護福祉士の資格をもたずに介護職についているホームヘルパーなど 23 万 7 千人や、 新たに介護の仕事をめざす人について、2006(平成 18)年度から介護福祉士の資格取得に向け た研修を実施する。ただし、完全移行には相当の年月がかかると予測されている。 移行期間にあって、ホームヘルパー、とくにピア・ヘルパーが就労し、その経験をもとに精神 障害者への日常生活援助技術を向上させていくことは、今、まさに強く要請されている課題であ る。現場での個々の体験が、事例検討の積み上げを経ることによって、確かな「臨床知」へと姿 を変え、しだいに多くの援助者に共有されることが期待される。それは次代の介護福祉士にも確 実に受け継がれていくであろう。そのために、現在、ホームヘルプサービスに対する教育支援体 制の充実が求められていると考える。 <文 献> 1)大島 巌:日本の精神障害者の概況とホームヘルプサービスの必要性、ホームヘルプガイド ラインに基づく精神障害者ホームヘルプの進め方、全家連保健福祉研究所(編)、p.19、 2000 年、精神障害者社会復帰促進センター 2)前掲 1)p.3 3)前掲 1)p.4 4)前掲 1)p.63 5)大島 巌:新しい「個別対人ケアサービス」の登場と重い精神障害をもつ人たちの地域生活 支援、ACT・ケアマネジメント・ホームヘルプサービス−精神障害者地域生活支援の 新デザイン、大島 巌(編著)、p.28、2004 年、精神看護出版 6) 前掲 5)p.1397) 大島 巌:精神障害者ケアマネジメントの進め方−ケアガイドラインに基づく展開−、 ACT・ケアマネジメント・ホームヘルプサービス−精神障害者地域生活支援の新デザ イン、大島 巌(編著)、p.54、2004 年、精神看護出版 8) 全家連保健福祉研究所:http://www.zenkaren.or.jp/kenkyujo/gaiyo/gaiyou.htm、 2005 年 2 月 9 日 9) 平 直子、大島 巌:精神障害者ホームヘルプサービスの取り組み状況、精神障害者のホ ームヘルプサービス−そのニーズと展望、p.82、2001 年、中央法規出版 10)大島 巌:ホームヘルプサービスの意義と課題:精神科看護、Vol.29 No.3 p.68、2003 年 11)平 直子、大島 巌:精神障害者ホームヘルプサービスで提供されている援助の特徴、精 神障害者のホームヘルプサービス−そのニーズと展望、p.97、2001 年、中央法規出版 12)前掲 11)p.98 13)丸山由香、三田優子、大島 巌:ヘルパーの援助技術・援助方法─精神障害者のニーズに 合わせたヘルパーのかかわり、ホームヘルプガイドラインに基づく精神障害者ホームヘ ルプの進め方、全家連保健福祉研究所(編)、p.82、2000 年、精神障害者社会復帰促進 センター 14)前掲 11)p.102 15)前掲 11)p.107 16)丸山由香:ホームヘルプサービスで提供されるケアサービスとは、精神科看護、Vol.29 No.5 p.77、2003 年 17)大島 巌:まとめと提言、精神障害者ホームヘルプサービスの現況と課題‘98−よりよい 制度の創設に向けて、ぜんかれん保健福祉研究所モノグラフNo.24、p.145-147、1999 年、(財)全国精神障害者家族会連合会 18)大阪府健康福祉部精神保健福祉課:進め!ほーむへるぷ in おおさか、平成 15 年度大阪府 精神障害者ホームヘルパー派遣事業所実態調査報告・「事業推進マニュアル」、p.7、2004 年3 月 19)前掲 18)p.12-15 20)前掲 18)p.29 21)前掲 18)p.41 22)前掲 18)p.31 23)前掲 18)p.47 24)前掲 18)p.48 25)前掲 18)p.50 26)殿村寿敏、野田哲朗:実践報告 精神障害者ピア・ホームヘルパーの意義と課題、精神医 療、Vol.35 p.43-51、2004 年、批評社 以 上